第一章 

親子の絆 偽り

 

烏丸 ちとせが消息を絶ってからはや3週間・・・幸いにもシャープシューターが撃墜信号は出ていない・・・・メシア隊の追撃もなくエルシオールは先の戦闘でのダメージを修復し、シャトヤーン救出の任に戻った。冷酷のようだが行方のわからないちとせを捜索するのは命取りになりかねないのだ。

先の戦闘の敵、死神のメシアは桁違いの強敵だったのだ。復旧作業をする中で、信じられない事があった。それは各紋章機の被弾箇所だった。

メシアのフライヤーは、ピンポイントに紋章機の動力タービン系統を機体を爆散させないように一ミリの誤差もなく正確に撃ち抜いていたのだ。司令室でタクトはベットに寝そべっていた。眠いわけではない、強力な自己嫌悪に襲われていたのだ・・・

「俺は・・・情け無い奴だ・・・」

先のメシア隊との戦いでタクト達は完膚なきまでに叩きのめされた・・・

たった一人の敵に・・・死神のメシアに・・・

タクトもどことなく分かっていた。死神メシアが手加減して事を・・・タクト達はメシアに遊ばれていたのだ・・・とは言え、メシアの紋章機アルフェシオンの性能は常軌を逸していた・・・まずその攻撃力の高さ、射程が長く、単体でステルス機能を搭載し、威力の高い高性能なフライヤーにあのサーベルとあの巨大なエネルギー砲。もしこちらが大艦隊ならば被害は計り知れなかっただろう・・・

次にクロノ・ブレイク・キャノンを直撃で受けてもかすり傷一つつかない程の装甲・・・クロノ・ブレイク・キャノンを上回る武器はこちらにはない。また光のような機動性と高性能なステルス機能、弾速を上回る速度に、変形後の格闘攻撃に向いた旋回速度。

あのステルスを発動された時点で全く成す術が無かった。通常のステルスならこちらは強制解除させる事ができる・・・・しかし、あの機体には通用しなかった。今度使用されれば勝ち目は無い。

最後にあのパイロット技量の高さ。アレだけの数のフライヤーを自由自在に操り、こちらの裏をかき、戦い方もこちらとはレベルが違っていた。被弾箇所を見るとメシアの命中精度の凄さがよく分かった。メシアに撃墜された紋章機も動力タービンを正確に撃ち抜き、爆発をさせないようにしてあったのだ。

彼が紋章機の開発者であの紋章機がオリジナルであるという事を嫌でも認めざるを得ない。

あの死神のメシアは遊んでいた。メシアの言う通り、いつでもエルシオールを落とす事ができたのだ。なのにあえてしなかった・・・それどころか自分の機体の性能を見せ付けていた。俺たちを追い詰めながら・・・

今までの敵とは何もかもが桁違いだった・・・

勝機がまるで見えてこない・・・

ラッキースターはパイロットが意識不明、シャープシューターはパイロットと共に行方不明・・・皇国軍が建前でもメベトに降伏した為に、補給可能な基地はほとんどない。

「しかも、俺はちとせを見捨てたんだ・・・」

タクトは目頭が熱くなるのを感じていた。

「俺の・・・俺のせいなのにぃ・・・!」

タクトの頭に死神のメシアの言葉が蘇る。

「そういえばお前ってだらしないが優しくて正義感が強いとか言われていたな?」

(優しい?俺が?そんなわけあるもんか・・・!)

「お前は守ろうとする意思はありますがその為の努力はありません。って奴だろう?世の中、何でも気持ちだけでどうにかなるのなら世の中はお前みたいな夢想家で溢れかえっちまうぜ・・・・」

(その通りだ・・・俺はいつも気持ちだけだったような気がする・・・)

「お前の努力など努力の域にまで達していねぇんだよ。」

(そうだ・・・今まで俺のしてきた努力なんて一瞬のもののようだった気がする。)

「いいか?男の価値てやつは己の限界地点でどれだけの底力を発揮できるか、つまりは根性の領域で決まる。強い根性の前では正義感や理屈などは紙切れ以下の価値しか無い・・・口で解決しようなんていうのは自分の実力に自信がない弱者の逃げ道だ。」

(努力もしないで自信だけがあるなんて確かに情け無い・・・)

タクトの自己嫌悪は止まらない、改めて自分を見直すとどれだけ自分が矮小な男だったかを思い知らされた。

人は、男は勝負に負けた時に自分の限界を知った時に自分の弱さに気が付くものなのだ。

タクトは近くに置いてあった酒瓶を一気に飲み干した。

 

一方メシア隊の母艦ノアのブリッジではメシア隊のメンバーが次の作戦の打ち合わせを終えていたところだった。

「では隊長の言われた通りに遂行します。」

「ああ・・・」

シリウスに隊長と呼ばれた男こそが死神のメシアである。

メシアは背中半分まで伸びた銀色の髪に白い肌、全体的に整った容姿をしているが目元は真っ赤なバイザーで覆い隠されていた。

「それでは作戦を実行します。」

 シリウスはブリッジを出て出撃の準備に向かった。

「隊長・・・本当に今回の作戦を実行するおつもりですか?」

「そうだが・・・何か言いたそうだな?」

「はい、無礼を承知で申し上げますが今回の作戦はシリウスが提案者です。隊長は良いのですか?シリウスは・・・」

「分かっているさ・・・その為にアルフェシオンを貸したのだ。無論、監視役でな・・・」

「それだけではありません、今回の作戦は戦士としてあるまじき行為です!」

「俺だって今作戦はあまり乗り気ではない。だがな・・・“俺達には”そんなプライドをもてるほど“時間”に余裕があるわけではない。」

「そ、それは、そうですが・・・」

「それになタクトがあまりにも弱かったから、今作戦が奴に対して荒療治になるのではないかと期待しているんだよ・・・」

「荒療治ですか・・・・?」

「ああ、これでもタクトに成長が見られなければ“処分して”カズヤが主役になるだけだ。アルフェシオンにもそうインプットしてある。悪いが時間だ・・・シリウスがエルシオールと接触したらまた起きる・・・」

死神のメシアはそう言うと深い眠りへと入った。

 

俺は夢を見ている、連れ去られてから同じ夢ばかりをみている

夢では俺が俺と向かい合っているだけの夢・・・

しかし、もう一人の俺はいつも同じ事を俺に言い続ける・・・

「もうすぐだ・・・!もうすぐ殺してやるからな!!」

俺は何故俺を狙っているんだと問いかけるともう一人の俺は同じ返事を返してくる。

「お前が俺の全てを奪っていったからだ・・・!」

俺が自分自身から何を奪ったっていうんだ!?と俺が言い返して夢は終わるのだ。

「・・・っ!?」

目覚めた理由が少し違った。部屋が激しく揺れたのだ。この衝撃は被弾した時と同じ衝撃だ。

俺が急いでパイロットスーツを着ていると・・・

「タクトッ!敵襲だ!!敵機の反応は無い!また奴等だろう!急いで出撃してくれ!」

「死神のメシア・・・」

タクトを加えた紋章機のパイロット達も衝撃と同時に出撃準備に入っていたらしく、全員が急いで自分の紋章機に乗り込んでいた。ちなみに、先のメシア隊との戦闘での教訓を得て全員がパイロットスーツを着用していた。

「タクトさん今回は僕達も出れます!」

カズヤから頼もしい報告にタクトは少し勇気付けられた。

「ああ、頼りにしてるよ。カズヤ、リコ・・・」

タクトは気持ちを切り替え、顔を指揮官のものに変えた。

「全機、出撃するぞ!」

「了解!」

タクト達の紋章機が絶対零度の暗闇の宙(そら)に出撃した。

戦場の舞台はレナミス星系の暗礁区域・・・

様々なデブレが飛び交う難所である。

「全機、聞こえるか?先程エルシオールの副砲が何者かに撃ち抜かれた。狙いは正確だった・・・敵はかなりの狙撃手か、あの死神のメシアかもしれん!」

死神のメシア・・・最強の敵の名に各パイロットに戦慄が走る。

「各機、気を抜くなよ、敵はこちらを正確に捕らえている筈だ。」

次の瞬間、タクトの横を目にも止まらぬ光の線が走り抜けた。

ドォン!とエルシオールから被弾の音が聞こえる。

「な、何だ!今のは!?」

「速すぎて見えません!」

同時にうろたえたレスターからの通信が入ってきた。

「前方からだ!間違いなくエルシオールを狙っている!今ので二つ目の副砲がやられた!敵の攻撃は正確で高威力だが一発だけで発射準備にかなり時間をがいるらしい。一発目との時間の間は約5分だ!」

「ヴァニラとナノはエルシオールの修理にあたってくれ!それ以外の紋章機は前方へ向かい、敵機を見つけ次第に撃破する!」

「タクト!ならばいくつかに分かれて前方を捜索しようじゃないか。」

フォルテがタクトに助言した、もし敵が死神のメシアならば確かに全機が固まっていくのはあまり得策ではない。

「分かった!だが、俺は一足先に一人で行ってくる!!皆は少し時間を置いて援護要員としてついて来てくれ!敵は間違いなく前方にいる!弾速が鬼のように速いから飛行形態では回避しにくい・・・!」

「わかったわ・・・頼んだわよ、タクト!」

日頃は強気なランファも敵の弾速の速さを目の前で見せつけられた為、大人しく言う通りにした。敵が前方からしか攻撃できないというのなら直線タイプの飛行形態の紋章機では直撃を受ける危険があると思ったからだ。

「ああ、俺に任せてれ!!」

(いざとなればこの身を盾にしても皆を守って見せるさ!)

「皆、エルシオールにあてさせない為にラインをエルシオールの前からずらして向かってくれ!」

七番機はスロットルを全開にして真っ直ぐ突っ込んでいく。敵が自分を認知しているのならば横に逃げるだけ時間をロスすると考えたからだった。暗闇の中を白い七番機が光を発しながら直線に駆けていく。

この宙域は本当に闇だった。

光を発する物が何一つとして無かった・・・タクトの心臓がバクバクと振動を早める。

それは恐怖の為か・・・敵の攻撃はかわせるような代物ではない・・・また貫通能力に優れた攻撃である。

急所の当たればジ・エンドだ。

しかし、タクトはその恐怖と真正面から戦う事にした。

下手に進路を曲げるよりも一直線に向かった方が相手に早く接近できるからだ。

死神のメシアに対する恐怖を打ち払うかのように猛然と突き進む。

自分のプライドの最終防衛線を守る為に・・・

これ以上仲間を傷付けさせない為に・・・

自分にはまだ実力がない、ならばせめて気持ちだけは強く持とうと・・・それがどんなに情けない事でも・・・・あきらめて放り出すよりかはマシな筈だから・・・七番機はすでにエルシオールから約5万の距離を離れているが、いまだに敵機の姿は確認できていない・・・

「・・・っ!!」

その時、タクトは前方が青白く光るのを見て、機体を横にずらした。次の瞬間、青い光の線がさっきまでタクトのい宙域をかけていった。

「速い・・・!」

その弾速は一瞬しか目に入らないほどの速さだった。

「タクト!今の見た!!」

「タクトさん!大丈夫ですか!?」

通信に響いてくるカズヤとランファの声。

「あ、ああ・・・そっちこそ大丈夫か!?」

「ああ、こっちはなんともね・・・走行ラインをエルシオールからずらしておいて良かったよ・・・」

フォルテは手の甲で冷や汗を拭いながら答えた。

「どうやら敵はターゲットを向かって来る俺達に変更したらしい。」

そう、今の一撃は一番先頭を走行してい自分に放たれたものだった・・・すなわち自分の進路方向が正解という風に考える事もできる・・・

「みんな、前方に青い光が見えたら今いる位置から横に逃げるんだ!敵の攻撃は確実に命中させてくるように撃ってくる!しかし、一度放ったら軌道を修正する事はできないらしい。つまり敵は俺達いる所に狙いを絞っているから今いる位置から逃げればまず当たらないだろう・・・」

「なんか、まるで弓のようですね・・・」

エンジェル隊全員が同じ顔を連想してしまう。烏丸 ちとせである。彼女は弓道をたしなんでいたし、その集中力と命中精度の高さはよく知られていた。

「タクト・・・これはあくまであたしの推測なんだが、敵は・・・」

「・・・俺も同じ事を考えていたよ、フォルテ・・・」

「いえ、みなさん同じ事を考えていらっしゃいますわよ・・・」

「もしかしたら敵はちとせかもしれない、何せ俺と七番機を連れ去り君達と戦わせた奴等だからね・・・・それぐらいの事は朝飯前だろう。おまけに死神のメシアが本当に

紋章機の生みの親だというのならこの七番機みたいに何らかしらの改造が施されている筈だ・・・」

「タクト・・・私はちとせを助けたいわ・・・どんなリスクをおかしてもね・・・」

「ああ、俺の考えも同じだランファ。みんな任務を烏丸ちとせの救出に変更してもいいか?」

「野暮な事を聞きなさんな、そんなの当たり前だよ。」

タクト達はすでにエルシオールから約7万離れている。

そこでタクト達はようやく敵の姿を発見した。

「・・・ちとせ・・・」

敵の姿はシャープシューターの面影を少し残していた。カラーリングが黒くされている為にあまりよくは見えないが、紋章機の顔と少し仰々しくなった長い砲身がシャープシューターである事を証明したいた。

「ちとせ、応答して!」

「ちとせさん!!」

その機体からの返答は無い・・・先のタクトの時と同じだった。

「くそ!あいつ等め!性懲りも無く!!」

そしてその機体唯一の砲身が自分に向けられている事に気付いた。

「みんな!敵機の砲身から目を離さずに、常に敵機を囲むように、旋回し続けるんだ!いいか、絶対に立ち止まるんじゃないぞ!ちとせは俺が何とかする!」

タクトがその機体に接近していくとその機体の砲身に光の弓弦が現われる。

「皆!くるぞ!!」

やがて砲身の先端に青い光の粒子が集結していき、塊ができていき、静かにそれをタクトの方に向かって発射した。

「く・・・っ!!」

タクトはあらかじめ旋回していた為に、攻撃を喰らわずに済んだが、その弾が駆け抜けていった所にあった隕石に直径100ミリぐらいの綺麗な丸い穴が開いていた。

「やはり、貫通タイプの攻撃か・・・急所にもらえば只ではすまない・・・」

その時、各紋章機のモニターに敵の機体のデーターらしきものが映しだされた。

「だ、誰だ?こんなものをおくってきたのは!?」

全員、敵機の砲身の向きに注意しながらそのデーターを読み上げた。

機体名 GAー006 イグザクト・スナイパー

パイロット 烏丸 雅人

機動性、旋回性は紋章機中最低クラスだが、その攻撃力、防御力は紋章機中最強クラスの性能を有する。武器はメイン火器一つだけだがそのメイン火器“アルテミス”最大射程距離30万をを誇る最強の狙撃兵器である。

集中力を高める為に、オリジナルたるGRA−000アルフェシオンやGRA−001エクストリームと同じく、訓練用のH・A・L・Oとクロノ・ストリング・エンジンを取り外して

実戦用ライフ・オブ・エピオン・システム通称 L・Eシステムと連動型専用エンジンアンフィニ(∞)を搭載している為、理論上無限大のエネルギーを取り入れられる。

その結果、ASフィールドを展開させる事ができる唯一の量産機である。

ただしGRA-000 アルフェシオンを大破させたGRA−001エクストリームと同じく、脳波の感知が敏感すぎる為、操縦者が集中力を乱すと著しく出力効率が下がってしまうのが欠点である。

“烏丸雅人を襲ったブラウド財閥”に強奪され、アルテミスを取り外されマイナーチェンジにしGA-006シャープシューターとして運用される。この機体はブラウド財閥の共謀者であり、烏丸雅人を襲撃した実行犯ジーダマイヤーの手により白き月の奥深くに隠された。ヴァル・ファスクとの戦闘の際に雅人の娘、ちとせが機体を運用する事になった。そして現在、再び真の姿に復元し、烏丸ちとせにより運用中・・・

 

その頃、死神のメシアは・・・

「エオニア、あの機体のデーター奴らにちゃんと発信できたか?」

「はい、間違いなく・・・・タクト達も受信できたそうです。」

「そうか・・・ありがとう・・・」

(カズヤ・・・気付けよ・・・この世界の矛盾点に・・・)

「しかし、よろしいのですか?シリウスの事も言っておかなくても・・・シリウスは・・・

「よせ、ここでの会話は“奴に”丸聞こえかもしれん・・・」

「はっ・・・失礼しました・・・」

エオニアは死神のメシアに向かい敬礼した。

ブラウド財閥の存在を知らしめる為とは言え、しゃべりすぎたか・・・?ふ、俺もまだ甘いところがある。よほどカズヤが気に入ったらしい・・・さて、お前の底力を見せてもらうぞ・・・タクト・・・)

 

タクト達は敵機の情報を全て読み終わっていた。

「皆・・・今はちとせを取り戻す事だけを考えよう。」

「了解・・・」

カズヤは死神のメシアの言葉とさっきのデーターの記述を照らし合わせてある事に気付いていた。

『この零番機とその一番機には因縁があってね・・・』

アルフェシオンを大破させたGA-001エクストリーム

(ラッキースターはアルフェシオンを倒した・・・それは・・・)

オリジナルたるGRA−000アルフェシオンやGRA−001エクストリーム・・・

(二機がプロト・タイプだから・・・ならばエクストリームとはラッキースターの事なのか・・・?)

カズヤの頬を冷や汗が伝って落ちていった。

(この紋章機は味方なのかそれとも・・・?)

カズヤがラッキースターを疑ったのはミルフィーユが意識を失ったのがラッキースターの中だったからだ。

「ラッキースターはアルフェシオンと同じぐらいの性能があるということなのか・・・?」

いや、違う!どうしてNEUEのブラウド財閥が交流の無いEDENで約10年前の烏丸大尉のお父さんを襲撃できたんだ・・・!?それともこの情報はデマなのか・・・

 

一方、タクト達はイグザクト・スナイパーの砲身を潰そうとしていた。アルテミスの使用不可と弱点である集中力のかく乱を狙っているからだ。しかし、タクト達の攻撃は全て砲身に届く前に消滅していった。

「駄目だ!あの機体はバリアを展開していやがる!!ビーム兵器は分かるが実弾も効かないなんてありかよ!」

レリックレイダーのパイロットアニスは忌々しげに舌打ちをした。

「これがさっきのデーターあったASフィールドって奴か!?」

タクトは死神のメシアの言葉を思い出す。

「同じものがあの黒い紋章機に装備されているのなら・・・このバリアは容易な事ではない・・・!だけど・・・」

タクトの頭に死神に受けた悪夢が蘇るが、タクトはそれを取っ払う。

(もう、これ以上負けてたまるかよ!)

 

ちとせはイグザクト・スナイパーのコクピットの中にいた。

今のちとせはアルテミスの発射準備の為に集中力を高めている。

ちとせがターゲットの急所だけに目と耳と意識を集中させる。

それ故に、仲間の事の気付かない・・・

そして、ちとせのテンションを最大限に発揮する者がちとせにささやき続ける。

『ちとせ・・・父さんを助けておくれ・・・ちとせを・・・父さんを・・・助けておくれ・・・ちとせ・・・父さんを助けておくれ・・・』

壊れたCDのように延々と繰り返される呪いの言葉・・・

この言葉は紛れもなく“生きている”烏丸 雅人から発せられているものだ。

「任せて・・・父さま・・・父さまに危害を加える者は全て私が倒します・・・

・・・だからもうどこにも行かないで下さい。」

偽りの親子の絆がちとせのテンションと集中力を最大限に引き出し、L,Eシステムが検出してアンフィニの回転数を上げる・・・やがてイグザクト・スナイパーの砲身にアルテミス発射の為に、蒼い粒子状のエネルギーが充填されていく。

『まずい!皆、アルテミスがエネルギーを充填し始めたよ!!」

タクト達に緊張が走る・・・敵の攻撃はまさに一撃必殺・・・喰らえば只ではすまない。

「目標位置誤差修正・・・」

イグザクト・スナイパーに光の弓の弦が現われる。

まるできりきりと弦を引き絞る侍のように・・・・

「ちとせええぇぇぇぇーーーー!!!」

必死に名前を叫ぶタクトの声すらも今のちとせには届かない。

「・・・アルテミス・・・発射」

無の境地にいるちとせは冷徹にトリガーを引いた。

ターゲットは七番機。

タクトは砲身の先端がこっちを向く“少し前”にイグザクト・スナイパーの正面から離れる。タッチの差でタクトの横をアルテミスの矢が通り過ぎた。

(あの距離でアルテミスを回避したのかよ・・・ち!つまらねぇ・・・こうなったら・・・“もっと・・・盛り上げてやる”ぜ・・・!)

 

「隊長、私はシリウスが作戦通りに実行するとは思えないのですが・・・」

「・・・それも考慮して奴に行かせた・・・シリウスはタクトを成長させるだろう・・・シリウスが__だというのなら確実にあいつは作戦通りには動きまい・・・おそらくはあいつの“悪い癖”が出る。しかし、それがタクトの荒療治となる・・・」

「そうですが・・・何か心配です・・・シリウスのゼックイは実は___なのでしょう?下手にあいつゼックイを刺激すればあれのL・Eシステムが防衛反応を起こし、万が一にも__が目覚めたら取り返しのつかない事がおきますよ。」

「その為にアルフェシオンを貸しているんだよ・・・最悪の場合は“アレ”を使うしかない・・・」

「・・・!本気ですか!?“アレ”を使えばこの世界は消えてしまいますよ!?」

「だが__が生き残る世界よりはマシだ・・・故にタクトにはここで戦士になってもらわねばならない。カズヤに__の相手は厳しいだろうしな・・・」

 

タクト達はあきらめずにイグザクト・スナイパーの砲身を壊そうと攻撃を続けていた。

「く!このバリア、ちっとも弱まらない・・・!」

タクト達は必殺技を何度も砲身にぶつけるがイグザクト・スナイパーのバリアは一向に破れずにいた。

「!タクトさん危ない!」

次の瞬間、タクトの機体に5機のフライヤーが襲い掛かってきた。

「このフライヤーは・・・!」

カズヤはタクトを狙っていたフライヤーを全て打ち落とした。

襲ってきたフライヤーは紛れも無く、アルフェシオンのフライヤーだった。

「あいつがきているのか?」

タクトが辺りをを注意深く見渡すとそこにはシリウスのゼックイがあった。

「よう・・・タクト、三週間ぶりだな・・・」

「シリウス!」

「どうだ?真の六番機の性能は、なかなか凄いものだろう。」

「ちとせをさらったのはお前かい・・・!」

「おいおい、人聞きの悪い事を言うなよ・・・その女は自分から父さんなんて言いながらノコノコついてきたんだぜ?」

「ノコノコだと・・・お前、ちとせに何をした・・・!?」

「なぁに・・・ちとせが望んだ事を叶えてやっただけさぁ・・・くっくっくっ!!」

「望んだ事だと・・・?」

「ああ♪」

シリウスはニヤニヤと笑いながら言った。

「父親に会いたいという願いさ、だから叶えてやったんだよ。嘘だと思うなら、見てみろよ。ちとせは幸せそうだぜぇ?」

シリウスの言う通りに各紋章機が六番機と交信をすると今度はあっさりと繋がった・・・そしてタクト達が見たものは・・・

「父さんを助けてくれ・・・父さんを助けてくれ・・・父さ・・・」

「父さま・・・私が守るから・・・私を見てて下さい・・・父さま・・・私が守るから・・・私を見てて下さい・・・父さま・・・私が・・・」

「ありがとう・・・ちとせ・・・頑張れ・・・ちとせ・・・ありがとう・・・ちとせ・・・頑張れ・・・ちとせ・・・ありがとう・・・ちとせ・・・頑張れ・・・ちとせ・・ありがとう・・・ちとせ・・・頑張れ・・・ちとせ・・・」

それはまさに親子の絆だった・・・偽りの親子の絆・・・

「ほら♪ちとせの奴を見てみろよ・・・とっても幸せそうだろう?長い年月を経て離れ離れになった親子がようやく再会したんだ・・・・あっはっはっ!見ろよ!感動的な親子の再会だぜ!?オイ!?」

タクト達はシリウスの言葉を無視して6番機との通信を切った。

「くっくっくっ!どうだ?俺の慈悲深さに感動したか?」

タクト達は頭の中が熱くなっていくのがわかった。

「感動しただと・・・ふざけるなよ・・・この屑が・・・!」

「あたしは、あんた程、腐った奴は見た事がないよ・・・」

「酷いです・・・」

「あんただけは容赦しないわよ・・・!」

他の紋章機が全てシリウスの方に戦闘体勢をとる。

「おぉ?一機の相手に集団リンチか♪あっはっはっはっはっ!実に天使らしいな!!群れないと戦えないところがな!!ぎゃーはっはっはっはっはっはっ!!」

「タクト!はやくこんな奴やっつけてちとせを助けるわよ!!」

「ああ!!」

「おお、怖〜!あははは!!」

「こいつは・・・!!」

「悪いが、俺は抜けさせてもらうぜ♪」

シリウスは機体を反転させ離脱しようとする。

「シリウスは俺が倒す!皆ちとせがエルシオールを狙撃しないように注意をひきつけてくれ・・・!」

タクトはそう言うと逃げるシリウスを追尾していった。

「こら!一人で深追いしてどうすんだい!!」

(そうだ、一人でこい・・・“俺の標的はお前”だ・・・)

シリウスを追尾していくとタクトは仲間達から離れた箇所まできた。

「待てぇぇーーー!!」

「いいぜ・・・!しゃあぁぁーーーー!!」

シリウスのゼックイが急反転しタクトに愛爪のデスクローで襲いかかる!七番機のサーベルがそれを受け止める。

「何をそんなに怒っているんだよ〜♪俺はちとせの願いを叶えてやっただけだぜ?」

「ふざけるな!ただの洗脳じゃないか!!」

「まぁ、そうとも言うかもな♪」

「このぉっ!!」

「が!?」

タクトはゼックイを蹴りはがした。

「ふん!何を今更!いい子ぶるなよ!」

「何だと!?」

「お前等こそちとせを見捨てただろうが!」

「そ、それは・・・!」

「はん!隊長の強さを見せ付けられてすくみ上がっちまっただけだろうが!そんな余裕がありませんって言い訳しながらなぁ・・・」

違うと今の俺に言う資格があるのか?

ちとせの捜索を後回しにしたのは確かに全員の意見だったとはいえ決定権は俺にあった筈だ。シリウスはただ単に俺が見ようとしてないところをついているだけだ・・・

「は!英雄さんがこんな臆病者だったはな・・・!」

それを否定する事が俺に許されるのか?そう、俺は死神のメシアが怖かっただけだ・・・ならば俺はこの罪を償わなければならない・・・

「さっさと死ね!偽善者めぇっ!!」

シリウスのデスクローが迫ってくるのが分かった・・・

俺は甘んじてそれを受けて死んで詫びようと思っていたが、無意識にサーベルで受け止めていた。

「ち!」

死ぬのが怖かったからか・・・それだけか?

シリウスがフライヤーを発射したのが見えていた。

そうだ・・・ここで死ぬなど俺の甘え・・・いや、逃避行動にすぎないじゃないか!ならば、俺はちとせを何としても救出しなければならないんじゃないか!!

俺ってやつは本当に馬鹿な男だ!!

「いけ!!」

だからまだ死ぬ事は許されない!

シリウスのフライヤー10機が俺の視界を錯乱させながら除々にビームの射程内に入ってくる・・・

そうだ、錯乱された視界はもはや必要ではない・・・目を閉じてフライヤーを感じようとする!感じられなければこれから先は生き残れない!俺が強くなるしかないんだ!

・・・見えた・・・ここか!?

「ち!」

俺の読みは6個当たり、残りの内1発を喰らってしまった。それでも確かな成果は出ていた・・・もうこいつのフライヤーは怖くない・・・!!

「この・・・クソがぁぁぁぁーー!!」

ゼックイが無防備に爪で斬りかかってきたので俺はその左腕を切断した。

こいつ・・・まるで戦術というものが無い・・・まるで子供そのものだ・・・

「ギャアアァァァァーーーー!!」

その叫び声に思わずシリウスとの距離をあけてしまった。

「じょ、上等だぁ!!コクピットから引きずりだしてバラバラに切り刻んでこの宙域にばら撒いてやるぅーー!う、うぅぅぅぅーーーーー!!!!!!!」

シリウスの常軌を逸した奇声を上げた途端、なんと切断した筈のS.ゼックイの左腕が元通りにくっついた。S.ゼックイからは不吉な紫色のオーラが現われる。

「な、なんだ・・・この息苦しさは・・・!」

 

メシア隊の母艦 ノアのブリッジではアルフェシオンの視線で戦いの様子を見ていた死神のメシアが舌打ちをした。

「まずいな・・・シリウスめ予想以上の化け物だったか・・・」

「隊長!どうするおつもりで!?」

「“先が見えた。”俺が予備のゼックイでアルフェシオンと共に連れ戻す!このままでは“一番機を刺激”しかねん!」

「ならば、私のゼックイを・・・」

「悪いが、時間が無い!お前のゼックイじゃ間に合わん!」

そう言い残して死神のメシアはブリッジから出て行った。

「確かに・・・」

 

その頃、カズヤ達は援軍で現われたゼックイの掃討にあたっていた。

「くそ・・・!こいつら・・・!」

リリィは二機のゼックイにマーキングされていた。

ゼックイは全部でたったの三機・・・しかし、その三機は普通のゼックイではない。

「・・・妙な奴等ね・・・ここまで頭のきれるロボットだったからしら・・・」

「・・・カズヤさん・・・何か感じませんか?」

「あ、あぁ・・・ざわざわと背筋が凍りつくような感じだ・・・」

僕はこのゼックイ達が怖くてしょうがなかった・・・リコも同じらしい・・・このゼックイ達には近づきたくない・・・そう思った。

「二人とも何をやっているのだ!攻撃するのだ!!」

「あ、ああ・・・ごめん・・・!」

いけない・・・気持ちを切り替えなきゃ・・・!

「いっけぇーーー!」

四連ホーミングビームが一機のゼックイに直撃してゼックイは大破した。

残るはリリィさんに張り付いている二機のゼックイだ。

フェイト・・・お前・・・を・・・

「え?」

今、誰かが頭の中に!?

「リコ!どうしたの!?」

「い、いえ・・・」

気のせいかな・・・

「かの者に裁きを!!」

テキーラはヘキサクロスブレイクを詠唱して一機のゼックイを撃破した。

「よし!」

リリィはそのまま機体を旋回させてゼックイの背後に逃げ込んで、ゼックイも反転し

てリリィの追撃に入ろうとするが・・・

「俺を忘れんなってんだーーーー!」

アニスのジェノサイド・ボンバーが炸裂して最後のゼックイも塵と化した。

「おい、アニス少尉。今のは少し危なかったぞ・・・」

「あん?そんな小さい事を気にすんなよ。」

「まったく・・・」

「みんなはエルシオールの守備に回ってくれ!敵の増援があるかもしれない!僕とリコはタクトさん達の増援にいってくる!!」

「了解!」

他のみんながエルシオールに帰還していくのを見届けて僕達もタクトさんのところへと急いだ・・・

カズヤ達が去った後、一機のゼックイが塵から再生した事に気付いた者はいなかった・・・

NEUEの騎士とフェイト肉眼で確認・・・と。」

再生したゼックイはドライブ・アウトして消えていった。

 

シリウスのゼックイからは依然不気味な紫色のオーラが出ていた。

「ぶっ殺してやるあぁーーーっ!!・・・・・・チッ!」

シリウスが動こうとした瞬間、アンカークローが飛んできてシリウスがそれを爪で切り払った。

「もう、一人で突っ走ってどうすんのよ!」

「まったく、しょうがないひとですわね・・・タクトさんは・・・」

「ランファ!?ミントも!?」

「あたしもいるよ」

「フォルテ!?ちとせはどうしたんだ!?」

「カズヤがリコ達を使って上手くやっているよ・・・そんなことよりも・・・あたし等はチームで戦っているんだ・・・あんまり、単独行動ばっかするんじゃないよ・・・」

「そうよ!紋章機のパイロットならタクトより私達の方が先輩なんだからね!!」

「とは言え指揮官はタクトさんですわ、戦闘の指示を下さいまし・・・」

「み、みんな・・・分かった・・・あのゼックイには再生能力があるらしい、集中攻撃して一気に倒すぞ!!」

「ち!相変わらず群れてばかりかよ!ならば・・・!!」

次の瞬間、S,ゼックイの後ろに黒い紋章機がドライブ・アウトしてきた。

「ちょ、ちょっとあれってまさか!?」

「アルフェシオン!こんな時に・・・!!」

「は!こんな時からだこそだ!!」

「あれ・・・?」

俺が妙な違和感を感じていたのは、目の前のアルフェシオンからはまるで敵意が感じられなかったからだ・・・

(まるで・・・人形だ・・・)

「ああ、紹介しよう。アルフェシオンのパイロットこと死神のメシア・烏丸 雅人様だ!」

「!ちとせの親父さんか!?」

「まぁ、倒せはしないが、倒さなければちとせは元にはもどらないぜ?く・・・あーはっはっはっはっはっはっはっ!!」

「この腐れ外道が・・・」

「おやぁ・・・フォルテ様様からそんな台詞を聞けるとは思わなかったですねぇ・・・・褒め言葉として受け取っておきましょう・・・くっくっくっくっ!!」

「いつまでも舐めてんじゃないよ!」

フォルテの言葉を火切りにしてタクトはシリウスに攻撃をフォルテ達はアルフェシンへ攻撃を開始した。

「援護攻撃をおねがいしますよ?“烏丸隊長”。」

アルフェシオンから例のフライヤーが10機発射され、ステルスを発動させ暗闇の中に消えていった。

シリウスはタクトに狙いを定めて斬りかかる。

「ちぃ!」

タクトはそれを受け止め、後方に回り込んできたアルフェシオンのフライヤーを感知し、上に逃げた。

「マジかよ!?」

(今、確かにフライヤーを感知できた!)

そして、フライヤーからの発射されたビームがシリウスを襲い、シリウスは間一髪でそれを避けた。

「ち!この!どこ狙ってやがるんだ!!このボケェッ!!!」

シリウスが視線をフォルテ達と交戦しているアルフェシオンに向けるう。

(今だ!!)

「!?」

タクトはその隙に一気に接近してS.ゼックイの両手を切断した。

「ギ!!!!」

続いて両足を切断し、蹴り飛ばした。

「もう、二度と姿を現すな!リウスに帰るんだ!!」

シリウスの機体が回転しながら無様にも戦域から離れていく。

「ぐおぉぉーー!?タクトォォォーーー!・・・貴様あぁぁーーーー!!」

タクトはS,ゼックイの姿が見えなくなるまで見届けた。

「!タクトさん!!」

ミントの声が聞こえたかと思うと、切断したS,ゼックイの二本の爪がタクト目がけて飛んできた。

「な!?」

ミントのフライヤーが二本の腕を集中攻撃して爆散させた。

「しっかりしてくださいまし!まだ戦闘中ですわよ!?」

「ご、ごめん・・・・助かったよ、ミント。」

タクトは今度はアルフェシオンに攻撃を仕掛ける。パイロットが違ってもその機動性は健在でまばらにフライヤーを飛ばしてくる。

「どうしたらいいのよ!こんな化け物紋章機!!」

ランファはラッキースターと酷似したアルフェシオンのブースター部分にアンカークローを撃ち込むが、ちとせのイグザクト・スナイパーと同じように装甲まで届かず、弾きかえされてしまう。

「やはりこいつにもあのバリアがあるのか・・・」

「くそ・・・どうすりゃいいんだい!!」

その時、アルフェシオンの真正面に何かがドライブ・アウトしてきた。

「な!?」

それは光の翼を展開させたラッキースターだった。

「タクト!聞こえるか!?大変だ!ラッキースターがドライブ・アウトして消えてしまった!!」

「いや・・・ラッキースターはこっちに来ている。」

「何だと!?」

「ラッキースター!応答しろ!誰が操縦しているんだ!ミルフィーなのか!?ミルフィーなら応答してくれ!!」

「タクト、よく聞け!ラッキースターには“誰も乗っていない”んだ!」

「な!そんな馬鹿な!!」

「生体反応が無いんだよ!ミルフィーユは医務室にいる!!」

「じゃ、じゃあ今のラッキースターは無人ということですの・・・」

零番機アルフェシオンと一番機ラッキースターが不気味に静止したまま睨みあう・・・タクト達には聞こえない小さな唸り声を上げて。

「な、何が始まるの・・・!?」

それまで大人しかったアルフェシオンいきなりが漆黒のオーラを発するとそれに対抗するかの如くラッキースターも桜色のオーラを発した。

「・・・・うわ!?」

次の瞬間、ラッキースターに引き寄せられるかのように七番機が近づいていく。

「タクト!どうしたんだい!?」

「わ、わからない!七番機が勝手に・・・・!」

やがて七番機はラッキースターの隣に並び、アルフェシオンを威嚇し始め白いオーラを発した。

「な、なんなんだ!?」

七番機のモニターには

GA−000LUCILAFELとGRA−001LUCIFERと表示されていた。

ルシラフェルとルシファー・・・?」

「一番機と七番機があの紋章機を威嚇しているの・・・?」

「な、何なんだい!こっちの紋章機のコントロールも利かないよ!?」

今この宙域でまさに史上最大の惨劇が始まろうとしていた。

「頼む!七番機よ落ち着いてくれーーー!!」

その時、一機の量産型ゼックイがドライブ・アウトしてきた。

「ゼックイ!?」

 

(ち!馬鹿が・・・!)

ゼックイはあっという間にアルフェシオンに張り付いた。

ゼックイのパイロット死神のメシアは威嚇しあっている三機の紋章機の通信周波数に合わせ三機に呼びかけた。タクト達に傍受させない為である。

「止めろ!まだ“その時”ではない!それに“我等の敵は今はまだ同じ筈だ”!!」

「あのゼックイは何をしているの・・・?」

「ここで我等が潰し合えばがこの世界を根絶やしに喰らい尽くすだけだぞ!」

「この感じ・・・あいつなのか・・・?」

(あのアルフェシオンに貼り付けるものなどそうはいない筈だ。)

「今は退けっ!“ルシファーとロキ”よ!!」

死神のメシアがそう言い放つとラッキースターはドライブ・アウトし七番機はオーラを消しフォルテ達の紋章機はコントロールが可能になった。

「お前も帰艦しろ。」

アルフェシオンもドライブ・アウトしていった。

「お前は・・・・死神のメシアか?」

「ああ、ちとせの洗脳は解いた。三日後には目を覚ますだろう・・・あの機体共々好きにするがいい・・・俺もこれで引き上げる・・・」

「ふざけるなよ・・・お前みたいな奴はここで倒しておく!!」

「お、おいおい・・・こちらはゼックイ一機なんだぜ?」

七番機がサーベルを取り出す。

「・・・手厳しいな、見逃してくれないのか?」

死神は言葉とは裏腹に口元が緩んでいる・・・

「アルフェシオンに乗っていない今しかチャンスはない。」

「ふ、この前の大敗は機体の性能の差だと思っているのか?」

「・・・俺達は戦争をしているんだ!」

「なるほど・・・戦争ねぇ・・・く・・くっくっくっ!」

「何がおかしい!?」

「いや別に・・・他の三人も答えは同じか?」

「当たり前でしょ!今回の作戦だけは許せないわ・・・!」

「あんたみたいなのは倒せる時に倒しておかないと第二の烏丸親子を生み出す・・・だからここで決着をつけるよ・・・」

「私も皆さんと同感ですわ・・・私は皇国軍ですから・・・」

「・・・あっはっはっはっ!了解、了解・・・確かにお前等のその考えは確かに正義を重んじる天使の考えだよ!」

死神のメシアはゼックイのサーベルを取り出した。

「そこまで俺と戦争したいなら戦争をしてやるよ・・・あ、ちょっと待て・・・お前等にとって戦争とは何だ?敵を“殺す”のが戦争か?それとも敵を“倒す”のが戦争か?」

「・・・敵を倒すのが戦争だ!」

「・・・了解した・・・ならかかってこいよ。」

死神のメシアがゼックイの指でかかって来いのジェスチャーをした。

「いくぞ!あのゼックイを倒すぞ!」

「了解!!」

タクト達がゼックイに集中砲火を浴びせる。

(・・・本当の馬鹿だな・・・こいつら・・・)

死神のメシアはゼックイでその集中砲火の間をくぐり抜けてタクト達との距離を詰めた。

「メシアーーー!!」

タクトが死神のメシアにサーベルで斬りかかり

「見え見えなんだよ。」

死神のメシアはそれを避けてタクトを蹴って距離を離した。

「ぐあ!?」

「そうそう、さっきお前、シリウスにとどめを刺さず逃がしただろう?一つ忠告しておくが、そんな甘い覚悟ではいつかあいつに殺されるぞ?

「な、何を・・・」

「まぁ、いい・・・ほら、もっと撃ってこいよ。」

死神のメシアは近くの小隕石達をゼックイのショルダーキャノンで粉々に撃ち砕いていく。

「ち!ストライク・バースト!!」

多数の追尾性の火線が死神のメシアを襲ってきた。

“予定通り”だぜ・・・その行動もな・・・)

死神のメシアはあろう事か砕いていた小隕石の中に潜り込んだ。その結果小隕石が盾となりストライク・バーストの弾丸を防いでいく、実弾の誘爆が実弾を連鎖して消えていった。

死神のメシアは暗礁区域の中で残ったビームをかわしてやり過ごした。

「どうだ?これは直線一筋の飛行形態には真似できないだろう?そこで、お前の出番だぜ?タクト・・・?」

「く、俺だって・・・!!」

タクトがゼックイの潜り込んでいる暗礁区域の中に入っていく。

「おいおい、無理はしないほうがいいぜ?」

死神のメシアがショルダーキャノンでタクトを牽制する。

「そうは行きませんわよ!!」

ミントがフライヤーを死神のメシアに向けて飛ばした。

「あ行きなさい!フライヤーダンス!!」

「あ、俺にフライヤーは使わない方がいいぞ・・・」

「強がりはお止めなさいまし!」

「ジャンクよぉ・・・お前はもっと普通に喋れよ・・・」

死神のメシアはタクトを残して、暗礁区域から脱出して、フォルテとランファの方に向かっていく。

「!ぶっ飛べ!アンカークロー!!」

「偽中華よ・・・やっぱりお前って馬鹿だよな・・・」

死神のメシアはつまらなそうにアンカークローを切断する。

「あのな・・・俺が紋章機の開発者だって事、忘れたのかよ?」

「あたしを忘れるんじゃないよ!って・・・どうしたんだい!?」

フォルテがレールガンを撃とうとするが一向に弾が発射されない・・・

「あのよ・・・お前も軍人だろう?俺は士官学校なんか行った事ないが、レールガンが陽電子砲だってことは知っているぞ。少し、磁場を弄くってやれば電子てのは発生できないんだよ・・・俺が無意味に隕石を砕いていたと思っていたのか?」

死神のメシアは肩をすくめて言った。

例によってタクト達にはサウンド・オンリーで通信をしているのでタクト達にはその様子は分からない・・・

それは彼の容姿はタクト達には絶対に見せてはならないからである・・・

「舐めんじゃないよ・・・あたしは叩き上げさね・・・!」

「あ、そ・・・でも勝てなきゃキャリアなんて紙屑同然だぜ?それに軍人としてのキャリアならお前より俺の方が上だ。お前なんか俺から見ればまだまだド素人だぜ・・・」

「減らず口はそこまでになさいまし!」

「だから普通に喋ればってよ・・・」

(それに減らず口はお前等の方だろうが・・・)

死神のメシアは後方から襲ってきたフライヤーを全て軽々と回避した。

「メシアーーー!!」

「暑苦しいやつだな、お前は・・・」

すかさず斬りかかって来たタクトの斬撃を避わして、二撃目を放とうとした七番機を蹴り剥がした。

「お前等さ・・・一つ教えとくけどロックオンの通りに射撃していたら絶対に俺にはあてられねぇぜ?万が一にもな・・・そうだ、もし一発でも当てれたら自爆してやってもいいぞ?」

「馬鹿にしやがって・・・!!」

「そんなのやってみなけりゃわからないでしょ!?」

「俺は“その言葉が何より嫌いなんだよ・・・”後、偽中華・・・お前って本当に馬鹿だよな・・・」

死神がやれやれと肩をすくめる。

「偽中華言うな!!」

「・・・お前等はお遊びではなく、戦争をしているんだろう?だったら無駄弾や無駄な時間、無駄なエネルギーを使ってんじゃねぇよ・・・」

死神のメシアの声が一瞬、冷徹なものに戻った。

「タクト以外の奴、自分の紋章機のエネルギー残量を見てみろよ?もう残量が少ないだろうが・・・」

その言葉でランファ、ミント、フォルテの三人は自機のエネルギー残量がわずかになっている事に気が付いた。

「H・A・L・Oは訓練用だから、エネルギーは有限なんだよ・・・」

「・・・・!待て!あのデーターを送ったのはお前か!?」

「さぁ?・・・ちなみに七番機の動力機構はアルフェシオンと同じL・Eシステムだ。H・A・L・Oよりも制限無く、機体がイメージ通りに動いてくれる筈だぜ?機体がパイロットのイメージ通りに動くんだ。まぁ、それを使いこなせなければ宝の持ち腐れだ・・・分かるか?お前の七番機もアルフェシオンと戦えるスペックは持っているんだって言ってるんだよ。」

「下手くそで悪かったな・・・!」

「ああ、まったくだぜ・・・それよりもこれは戦争だから容赦なく撃墜させてもらうぜ?

ああ、後ジャンク・・・」

「ミントですわ・・・」

「俺は省エネ主義者だから“お前のフライヤーを借りるぜ。”

「え?」

次の瞬間、ミントのフライヤーがタクト達に襲いかかり、タクト以外の紋章機のブースト部分を貫いた。それはまさに一瞬の出来事だった・・・

「はい、三機撃墜と・・・だから言っただろう?俺にフライヤーは使わない方がいいぞって・・・俺は精神周波数を合わせる事ができるんだよ。バーカ・・・」

死神のメシアは三機との通信をきった。

「く・・・!」

「これで一対一だな、タクト・・・嬉しいか?」

「・・・舐めるなよ、今度はお前には負けない!」

「ふ、だと良いな・・・」

(カズヤとリコがこっちに向かってくるまで後3分か・・・)

「でやあぁぁーーーー!」

タクトが死神のメシアに斬り込んでいった。

「ここからが本番だぜ。」

死神のメシアはミントのフライヤーをタクトに向けて飛ばし牽制する

(きた!)

タクトは左右に一機ずつのフライヤーを感じ、上へ逃げた。

(・・・まぁ、ぎりぎり合格か・・・)

「どうだ!もう、お前の攻撃なんてくらわないぞ!」

「ガキの喧嘩じゃねぇんだよ、バーカ。」

「何!?」

今度はフライヤー全4機をタクトに向けて飛ばした。

「見えた!」

タクトは左からの一撃を回避し、次に上からの一撃を回避して・・・次に右からの一撃を回避しようと下に逃げたのだが・・・右のフライヤーはビームを発射してこない・・・

「・・・っ!フェイントか!?」

そして、タクトが下から来た一撃を回避した。

ディレイだ、馬鹿。」

そして時間差で撃たれた右に配置してあったフライヤーの一撃をサーベルを持っていた右腕に直撃で喰らってしまった。

「うわあぁーーー!!」

もはや七番機に残された武器はスカート部分のショルダーキャノンのみとなった。

「直感を磨けとは言ったが、その程度の頭ではな・・・」

「ぐ・・・な、何を・・・」

「分からんか?お前は直感で先を予測して実行に移した。お前もさっきのちとせと同じだ・・・一度撃った矢が戻せぬようにお前は一度感じた慣性に逆らえず、何も疑わずにあのフライヤーから注意をそらした。お前が読んだ通りに、あれは確かに最初はフェイントだったよ・・・しかし、お前が下からの一撃だけに意識を集中していたのを俺は読んでフェイントからディレイに切り替えたのさ・・・」

「く・・・」

「いくら直感に優れていようと、戦場は常に臨機応変・・・戦いは常に、敵との読み合いだ・・・馬鹿の一つ覚えじゃつまらない・・・それに出来なければお前が死ぬだけなんだぜ?出来ないじゃ済まされない世界なんだよ・・・」

タクトは残ったショルダーキャノンでゼックイを狙おうとしたが、死神のメシアはフライヤーでショルダーキャノンを潰した。

「ぐわぁっ!!」

「こんな風に、相手の動きを先読みするんだよ。てか、今のは俺でなくても読めたと思うが・・・」

死神のメシアはゼックイのサーベルを再び取り出し、撃墜したフォルテ達の紋章機三機に近づいていて、再び通信を繋げた。

「はい、こんにちは・・・この勝負は俺の勝ちだな?これは戦争なんだよな?ならば、ここで俺が止めを刺してもいいよな・・・?」

ゼックイがサーベルを振り回しながら問いかけた。

「ヤメロォォォォーーー!!」

「おいおい・・・仕掛けてきたのはお前達で戦争と言ったのもお前達だろう?」

「頼む!!殺すのなら指揮官の俺を殺せ!だが、彼女達は見逃してやってくれ!」

「はぁ・・・?お前、これが戦争だと言っただろうが、“この俺を倒せる内に倒すんだ”と・・・」

「俺をどんなにけなしてもいい!だから・・・彼女達は・・・」

「だったら!軽々しく戦争なんて言うんじゃねぇっ!!」

死神のメシアが初めて怒りをあらわにした。

「前回あれ程、徹底的に叩きのめされていたのになんの訓練もせず、ひよっこパイロットの分際の上更にまだろくな情報も無い敵に仕掛けてきやがって!!その上、自分達が負ければ命乞いか!?そんな覚悟なら、最初から避けれる戦闘は避けろってんだ!自分達の愚かさを恥じろ!!この大馬鹿共がっ!!」

「・・・・・・」

タクト達は驚いていた。死神のメシアが人間らしく怒っているからだ。

「ち・・・!」

その時、死神のメシアはちとせのいた宙域から46秒後にカズヤ達が飛んでくるのを感知した。

死神のメシアがタクトに近づき、七番機のコクピットにサーベルを突きつけた。

「いいかよく聞けよ、小僧・・・今度、ろくな実力もついてない状態で俺の所に来たらなぁ・・・カズヤとリコを連れてきたらなぁ・・・“今度こそ本気で殺すからな”・・・」

タクトは死神のメシアからシリウスとは比べ物にならない威圧感を感じた。これは本物の殺気である・・・死神のメシアはそう言うとサーベルをしまった。

「?」

「お前等の戦争とは戦いなんだろう?だから今回は見逃してやる・・・しかし、言っておく・・・・俺の戦争とは殺し合いだ・・・俺から仕掛ける時は殺し合いという事だからな・・・お遊びは今回までだ・・・次からは殺すつもりで仕掛けるからな・・・」

「タ、タクトさん!?大丈夫ですか!?」

カズヤ達がこっちに接近してくるのが見えた。

(今回、接触するのはやめておいた方がいいな・・・)

「ち!いいか?さっき言った事を絶対に忘れるなよ?

実戦は結果こそが全て・・・できなければ殺されるだけだ・・・」

そう言うと死神のメシアはドライブ・アウトして消えていった。

「くそ・・・メシアめ・・・」

 

その後、烏丸ちとせは無事救出され、イグザクト・スナイパーはシャープシューターと互換性があったらしく、運用上全く影響はなかった。ちとせも今回の事件をおぼろげに覚えていたみたいだった。

幸い死神のメシアに撃墜されたGA002〜004の損傷は軽微なものであり、修理も一日で終わった。

被害は微々だったが・・・パイロット達の頭の中にはあの死神への恐怖が焼きついていた。

 

一方メシア隊の母艦ノアでは・・・

ここはブッリジへ続いている通路・・・そこでは死神のメシアとシリウスが対峙していた・・・二人の雰囲気は非常に異様な緊張感を出していた。

「何か用ですか?隊長。」

「・・・今回、お前は作戦を遂行できなかったな・・・」

「はい。申し訳ありません・・・」

「それはいいが、何故、アルフェシオンのステルスをわざと解いた?」

「はぁ〜?」

シリウスは明らかに死神を舐めている・・・が死神はそんな事を気にせずに続けた。

「回りくどい言い方は止めよう、お前はアルフェシオンとあの二機をわざとぶつけようとしただろう?

「はてはて?おっしゃっている意味がよく分かりませんが?」

「俺はシリウスでは無く“お前に”聞いているんだよ・・・」

次の瞬間、シリウスの顔に狂気が現われた。

「・・・くっくっくっ!何だよ、気付いていたのかルシラフェル?」

「・・・お前こそとっくの昔に気付いていただろうが・・・」

「くっくっくっ!それで、“俺”に言いたい事ってのはそれだか?」

「いや・・・順番で言えば俺が先の筈だろう?

「あん?」

「何故、シリウスについているんだ。

「決まってるじゃねぇか、こいつがタクトを殺したがっているからだ・・・」

「アレは“俺の獲物”だ。横取りする気か?」

「は!良く言うぜ、お前こそブラウドの名前を出しやがって・・・」

「・・・言っておく、俺の獲物に手を出したら“制裁”するぞ・・・」

「誰に向かって口をきいていやがる?ルシラフェルの分際で・・・」

「・・・それとも・・・“もう一度、本気の俺”と戦いたいのか?」

「は!!“本気を出したくても出せない”くせによく言うぜ。」

「なら、今すぐこの場所で試してみるか?」

死神のメシアはそう言うとバイザーを外し、その眼をシリウスだけに見せた。どんな眼をしているのかはわからない・・・

「人間の体なら一秒もいらん・・・ここで始めるか?“ラグナロク”を・・・」

ラグナロク・・・その言葉にシリウスの顔をした何者かは顔をしかめる・・・

「・・・フン・・・奴等にちょっかいを出さなければいいんだろう?」

「違う・・・カズヤとリコに手を出すなと言っているんだ・・・」

「オイオイ・・・」

シリウスの顔をした何者かは呆れた感じで肩をすくめたが、死神のメシアは特に気にせずに続けた。

あの二人とあの二機の紋章機無くしてラグナロクはありえない・・・それはお前の望みを捨てる事にもなるぞ・・・」

「俺がそんな馬鹿な事をすると思うか?それではこの世を創世した意味が無くなるではないか・・・」

「お前だからこそ思うんだよ・・・」

「たかだか神のいっぱしが・・・この俺を誰だと思っているんだ?何なら今すぐこの世界の因果を消してやってもいいんだぜ?空気を猛毒に変えてやる事など朝飯前だ。」

「その時は俺も本気になるまでだ・・・お前みたいに最低限の道徳観念をも持たない奴にかける情けは無い。」

死神のメシアと死神が正面から睨み合う・・・

___よ、シリウスの狙いは間違いなくタクトだけだろうが、お前の狙いは間違いなくカズヤとリコだろう・・・

「・・・ふん・・・いいいだろう・・・ただし、タクトは好きにさせてもらうぞ?」

「かまわん・・・お前に負けるようであれば、俺には必要ない・・・」

シリウスの顔が幾分柔らかくなった。

「あれ?隊長どうしました?」

「お前はシリウスか?」

「はい、そうですが?」

「・・・そうか・・・」

「???」

怪訝な表情を浮かべるシリウスを残して死神のメシアは自室へと帰っていった。

「ふっふっふっふ・・・そうやって見ているがいい・・・ルシラフェル・・・この“俺の復讐劇”をな・・・」

シリウスは意識をタクトに集中させる・・・彼にはタクトが現在何処にいるのかが分かってしまうのだ・・・死神のメシアがこの能力に目をつけたのかどうかは分からないが・・・タクトにとって脅威な能力であるのには変わりない・・・

(奴等はレナミスで待機したままか・・・)

 

ここはヴァルファスクに占拠された白き月のシャトヤーンの寝室・・・

月の聖母の自室はいたってシンプルなものだ・・・

ベット・・・鏡・・・シャワー室・・・そして台所だけがある・・・この部屋には余計なものが一切置かれていないのだ。

ここはかつて一つの悲劇を生み出した部屋でもある。

その部屋でシャトヤーンは眠りに入ろうとしていた。

コンコン・・・

軽くドアをノックする音が聞こえてきた。

「はい・・・どなたですか・・・?」

シャトヤーンの呼びかけに扉の向こうの訪問者は何も答えない・・・

コンココン・・・コンココン・・・コンココン・・・

叩く音が微妙に変化する・・・

「あ・・・!」

だが、それはシャトヤーンには聞きなれた音だ・・・

シャトヤーンは急いでドアを開け放ちにいく・・・

来訪者を呼び込んだのは自分なのだから・・・

そして・・・扉が開け放たれた。

「あ・・・あぁ・・・」

「お、おい・・・!」

シャトヤーンは何も言わずに来訪者に抱きついた。まるで10年ぶりの再会を喜ぶかのように・・・

「・・・そろそろ放してくれないか・・・」

「嫌です・・・離しません。離せばあなたはまたどこかへ行ってしまう。」

(まぁ・・・あながち嘘ではないので言い返せないな・・・)

「・・・はぁ・・・仕方の無い奴だ・・・」

来訪者はシャトヤーンをベットまで抱えるとベットに寝かせた。

「どこにも行かないから・・・」

「本当ですか?」

「ああ・・・本当だ・・・」

「嬉しいです・・・よく来てくれました。」

「ああ・・・眠ろうと部屋に帰ったらお前からの受信を確認したんでな・・・ここまで一気に相転移してきたって訳だ・・・」

「うふふ・・・ありがとうございます。」

「うふふ・・・じゃねぇよ・・・ったく・・・」

来訪者は面倒臭そうに頭をボリボリとかいた。心なしか顔が少し赤くなっている・・・

「そうでした。シヴァからワインを頂いたのですがあなたも飲みませんか?あなたもお好きだったでしょう?

「ああ・・・大好きだ・・・しかし、月の聖母にワインとは・・・突拍子の無い所は相変わらずだな・・・」

「あら?あなたに似たんですよきっと・・・

「・・・それは褒め言葉か?」

「はい♪」

「・・・本当かよ・・・」

来訪者は上着を脱ぎ捨てた・・・

「・・・何か俺にして欲しい事はあるか?おもてなしをされるというのはどうも俺の性には合わん・・・」

「そうですね・・・あなたの料理が食べたいですね・・・」

「・・・わかった・・・ただし洋物は仕込みが面倒くさい・・・ごく一般の煮物系統でいいか?」

「あなたらしいですね・・・ふふ・・・」

「悪かったな・・・面倒くさがりで・・・

それから来訪者はシャトヤーンからの何気無い会話に付き合っていた。来訪者は酒には強いようだが、シャトヤーンはそこまでの耐性が無いらしくだいぶ酔いつぶれていた。

「・・・ったく・・・式典の時にも言ったが無理に飲むなって・・・酒に弱い体質と酒に強い体質ってのがあるのに・・・」

俺はシャトヤーンをベットに寝かせて言い聞かせた。

「あなたは相変わらず強いですね・・・」

「・・・血筋だろうな・・・俺の家系は男は酒に強い・・・しかし、女は極端に酒に弱い。昔、あの馬鹿女に料理を教えている時に調味用の酒を飲ませたらとんでもない目にあった・・・」

「・・・馬鹿女・・・あの子の事ですか?

「あぁ・・・クソ親父と揃って__家の面汚しだ・・・

「うふふふ・・・」

「な、何だよ・・・?」

「ごめんなさい・・・あなたが本当に嫌そうな顔をするものだからつい可笑しくて・・・うふふふ・・・」

「フン・・・早く寝ろ・・・この酔っ払い・・・」

来訪者はバツが悪そうに顔を背けた。

それがシャトヤーンにはさらに可笑しく思えたらしく、ひたすら笑い続けた・・・月の聖母がここまで気を許すのは自分の娘ですら無い・・・

「さてと・・・」

来訪者が上着を着ようとするとシャトヤーンがそれを制した。

「何だ?」

「今晩は一緒にいてくれるんでしょう?」

シャトヤーンの目が来訪者の目を捉えて離さない・・・その目は来訪者にすがりつくような目をしていた・・・

(・・・確か、俺もどこにも行かないと言ったな・・・)

「最初からこのつもりだったのか・・・お前は・・・」

「はい。」

「はぁ・・・わかったよ・・・」

来訪者は大人しくシャトヤーンの言う事に従う事にした。

「ありがとうございます・・・あなた

 

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