第一章

ブラウド財閥(後編)

 

「エンジェル隊はエルシオールの周りを警戒してくれ、こちらに向かってきた敵だけを撃墜するんだ。決してあっちの艦隊には手を出さないように気をつけてくれ!」

『了解!』

(僕は僕の長所を活かしてあの死神を押さえつける!)

カズヤはヘルメットを着用しながら意気込んだ。

「レスター、俺も出る。ゼックイタイプの相手に紋章機じゃ不利だ。」

「ああ、任せておけ!」

タクトは七番機へと急いだ。

 

「隊長、いかがでしたか・・・」

「・・・予定変更だ・・・ゼイバー・ブラウドを倒す。」

「・・・了解・・・敵の艦隊は・・・?」

「もう手遅れだ・・・魂が無い・・・」

「・・・なんという事を・・・」

「・・・いくぞ・・・俺達はステルスでギリギリまでゼイバーに近づく事だ。」

「ノアは、クロノスペースに残したままですが?」

「シリウスが目覚めると厄介だからあのままでいい・・・」

「了解・・・そう言えば今の所敵の数は200機あまりですが・・・」

「いや、倒せば永遠と援軍が現われるだけだ・・・」

「・・・とんだ化け物ですね・・・ゼイバー・ブラウドは・・・」

「だから頭のゼイバーを叩けば操り人形達は消滅する・・・」

「了解・・・では私はエンジェル隊の相手をします。」

「頼んだぞ・・・よし戦闘開始だ!」

死神のメシアは一斉に攻撃を開始した。

艦隊同士の砲撃戦が始まった。

 

「・・・な、何て砲撃戦だ!!」

「す、すげぇ・・・これが奴等の戦いなのかよ・・・!」

アニスの目は見開いたままだ。

「・・・こんな規模の艦隊戦なんかあたしですら見た事がないよ・・・」

僕達はエルシオールの周囲を徘徊しながら

その戦闘の凄まじさを見せ付けられていた。

次々と両軍の戦艦が沈んでいくが、ゼイバーさんの方は戦艦がドライブ・アウトしてきて、敵の方は後方より援軍が現われている。

しかし、敵の方にはゼックイが配備されている為若干有利だ。でも僕達はここから離れてはいけない。あんな砲撃戦の中に飛び込めば即座に撃破されてしまうからだ。

「・・・ミルフィー・・・ちとせ・・・今度こそ守ってみせるから・・・」

これ以上負けられない!!あいつ(死神のメシア)は必ず来る!

 

一方、ブラウド財閥の旗艦 ラスト・ジャッジメントではゼイバー総帥が楽しそうに戦況の様子を見ていた・・・

「ルシラフェルめ・・・ゼックイを上手く活用しているな・・・」

この旗艦の乗組員は何も反応はしない。

「ふっふっふっ!そんな少数部隊でそこまで奮戦させるとはさすがは完全の体現者よ・・・!!ふはははは!!」

いや、反応する訳がない・・・乗組員は既に人では無いのだから・・・

「・・・来たな・・・ルシラフェル・・・

ラスト・ジャッジメントに接近した機体がある。

「・・・ステルスをかけるだけ無駄か・・・」

死神のメシアはブラック・アウトを解除してASフィールドに出力をまわした。

 

当然、タクト達もそれに気が付いた!

「メシア!?」

エンジェル隊達が死神のメシアに近づこうとすると

エオニアのゼックイと量産機のゼックイが20機ドライブ・アウトしてきた。

「エオニア・・・!?」

「まったく、いいタイミングでおいでらっしゃる方ですわね!」

「隊長の邪魔はさせん!」

「エオニア・・・」

「しかし、タクト・・・お前と戦いたい・・・受けるかこの勝負・・・?」

「・・・・・・」

これは戦争だ・・・しかし、この男の思っている事と俺の思っている事は同じだ。

「みんな・・・エオニアは俺が引き受ける・・・いいか?」

「いいも何も無いでしょ!早く倒してよね!」

「ありがとう、ランファ・・・みんなもこれは戦争だ。もし異論のある者は俺を止めてもかまわない・・・」

・・・しかし、誰も、タクトに異論を唱える者はいなかった。

「・・・みんな、ありがとう・・・」

こんな自分勝手な事を許してくれて・・・

「エオニア!一対一での勝負、受けて立つ!!」

「・・・お前達と戦える事を光栄に思う・・・付いて来い!!」

エオニアのゼックイがゼイバーの旗艦の前方のエルシオールの方まで進んでいきタクトも後に続いた。

「みんな!ゼックイを止めるぞ!何としてでもゼイバーさんを守るんだ!」

『了解!!』

カズヤの指揮の元、エンジェル隊とゼックイ達も交戦に入った。

 

一方この宙域でEDEN最強の男NEUE最強の男

壮絶な戦いを繰り広げていた。

「ゼイバー・ブラウド・・・死んでもらう!!」

死神のメシアは無数に広がるフライヤーで旗艦を総攻撃する。

タクト達の時とは違い、本気で攻撃をしているのだ。

しかし、旗艦のバリアがフライヤーのビームを全て弾いてしまった。

「ち・・・こいつは、あのフィールドか・・・!」

「ふん・・・このフィールドを破りたければこのアレしかないぞ?」

「・・・・・・」

「もっともカズヤとリコを巻き添えになるがな・・・できるかな?お前に・・・」

「貴様・・・」

ゼイバーの旗艦からもフライヤーが展開された。その数は40機にものぼる。

無論、これらを操っているのはゼイバー・ブラウドだ。

ゼイバーのフライヤーが一斉に死神のメシアに襲い掛かる。

「ふふ・・・本気になれないお前など恐るるに足らん・・・」

「・・・なめるな・・・」

死神はフライヤーで応戦し直して旗艦の周りを周回し始めた。死神はゼイバーのフライヤーを逆利用するつもりなのだ。

「・・・お前こそ舐めるな。」

ゼイバーのビームも結局、旗艦のバリアに弾かれてしまった。

「・・・・・・」

突如、死神は右手を自分の顔の前まで持ってきた。

「・・・っ!まずい・・・そいつを使う気か・・・」

「見せてやる・・・俺の必殺技を・・・」

死神はラスト・ジャッジメントの構成図を0.4秒でスキャンして頭の中で縮退化プログラムの立ち上げを計算し始めた。到底、人には真似できない・・・神業である。

因果へのアクセスだと・・・まさか・・・ヘル・バイスか!?」

ゼイバーが苛だしげに死神を睨みつけるが死神はそんな事を気にもしなかった。

その時だった・・・死神は接近してくる敵機を感知した。

「カズヤ!?・・・リコも!?」

死神は慌てて必殺技を解除した。

「やらせない!!」

アプリコットが死神を機銃で死神を牽制しながら死神の背後まで突き抜けてた。

「ち・・・!こんな時に・・・!!」

クロスキャリバーが旋回してこちらに戻ってこようとしている。いつもの死神なら迷わず旋回中に撃墜していただろうが今回はできなかった・・・

「メシア!ゼイバーさんはやらせない!」

「・・・この・・・!」

死神は一時ゼイバーの旗艦から離れてカズヤ達の方に向き直った。

「邪魔をするな!!」

「・・・!?その声は・・・?」

まずい・・・変声機を使わなければ・・・俺は急いで、変声機を入れた。

「あなた・・・今の声は・・・」

「何の事だ・・・?それよりも俺の邪魔をするな・・・」

「ふざけるな!こっちはゼイバーさんを守っているんだ!!」

ゼイバーめ・・・これを待っていたのか・・・!相変わらずの卑劣さだな・・・

「なるほど・・・ではお前達を倒せばいいのか?」

変声機ごしにでも死神の声に殺気がこもったのを感じ取れた。

「・・・今回はこちらもマジなんでな・・・」

アルフェシオンが一瞬の間で飛行形態へと化して消えた。

 

ブラック・アウト

 

「ステルス!?」

タクトさん達が手も足も出なかった死神の切り札だ。

「どこにいるの・・・?」

アプリコットも辺りを見渡すが、どこにもその姿は見受けられない。

「・・・こういう時は・・・」

僕はリコのお父さんからのアドバイスを思い出していた。

死神のメシアの弱点は無いが、お前の長所を活かせばくいついていけるだろう・・・

僕の長所・・・いや・・・死神に通用する程の長所は・・・・・・ん!?

そうか・・・何も機体と操縦テクニックだけの話ではない・・・そうだ!それは戦況の長所だ!敵はこちらの本陣にいるんだ!そしてこっちにも背中を隠せる場所がある筈だ。僕はリコに機体をゼイバーさんの艦に密着させるように言った。

「着きました!」

よし・・・これで背中の死角は消えた・・・これで背中からきたらもう手は無い・・・

(カズヤ・・・考えたな・・・しかし、今回は遊んでいる時間は無い!)

「きゃあぁぁーーーー!」

次の瞬間、クロスキャリバーが何かに捕まえられた。

文字通りのホールドアップである。

「な、何だ!?」

(やはり・・・リコが操者では限界か・・・)

クロスキャリバーを抱きかかえたアルフェシオンはエルシオールに向かおうとした。

しかし、その時・・・ゼイバーは・・・

「チャ〜ンス・・・全員まとめて死にな・・・」

ゼイバーは旗艦の真ん中に装備されている主砲の砲身をアルフェシオンに向けた。

「・・・あいつ!?リコとカズヤを・・・!!」

死神はすぐさまクロスキャリバーを解放してリフレクターを展開しようとするがゼイバーの方が僅かに速い。

「くそ!こうなったらフィールドで・・・!」

死神がASフィールドの出力を上げる・・・その時、旗艦の主砲が桜色の巨砲に撃ち抜かれた!

「・・・ッ!?」

「何!?」

「これは・・・ハイパー・キャノン・・・!?」

死神とゼイバーはハイパーキャノンが放たれた方角に目を向けた。

そこにはラッキースターの姿があった・・・

「お姉ちゃん・・・お姉ちゃんなの・・・?」

お姉ちゃんが目を覚ましたの・・・?

 

「タクト!!」

「エオニアッ!」

進行方向の最先端のエルシオールから

更に50000距離離れた場所で二人は命を懸けて戦っていた。

タクトはショルダーキャノンで牽制し

エオニアはメガ・ビームキャノンでタクトを狙い打ちしていく。

「む・・・?」

エオニアはメガ・ビームキャノンのEN残量がわずかな事に気がついた。

「ち・・・!」

エオニアは邪魔な荷物を捨ててサイドスカートから(溶断)ビームサーベルを抜き出した。

「・・・」

タクトも七番機の手に粒子を集約させてサーベルの形に形成させた。

「・・・タクトよ・・・私はこの戦いが楽しくてしょうがない・・・お前はどうだ?」

「・・・俺は戦争をやっているんだ・・・そんな感情は無いと言いたいけど今のお前とは不思議と気が合いそうだとは思う・・・」

「惜しいな・・・私が皇族ではなければお前とは別の会い方をしていただろうにな・・・」

「なぁ、エオニア・・・ひとつ教えてくれ・・・お前は何故、メベトに従っているんだ?」

「私はメベトに従っているのでは無い、隊長に従っているのだ。」

「なら何でメシアに従うんだ?」

「そこまでは言えないが、私は皇国を救う為に従っている・・・」

「・・・そんな馬鹿な事が・・・」

「お前の言いたい事も分かるが、今はこうするしか無い・・・事態は宇宙全体の存続に関わる・・・いいか、お前達が相手にしようとしているのは神であって神ではない。」

「・・・?それはメベトの事か・・・?」

「違う・・・お前達の真の敵は運命・・・神をすらも創造した・・・全ての起源そのものだ。人が常に従いあるいは抗うもの・・・それが運命だ・・・または因果律とも呼ぶ・・・人の知を超越した存在ゆえにそうとしか呼べないのだ・・・

「な!?何だって・・・!?」

一体・・・何の事を言っているんだ・・・?

「いいか・・・よく聞け・・・シリウスは・・・お前の・・

ち!・・・あの小僧・・・余計な事を・・・!

 

「くっそぉーーーっ!!」

ゼイバーは隣にいた秘書の人形の首を引きちぎった。

無論、八つ当たり・・・等価行動である・・・。

ゼイバーの旗艦とゼイバーの部隊がドライブ・アウトして退散していった。

「そんな!まだ、こっちが戦っているのに・・・!」

ゼイバーさん・・・どうして・・・?

「ち・・・あの野郎・・・余計な真似を・・・」

死神は今、ラッキースターに乗っているのが誰かが分かった・・・

「お姉ちゃん・・・?お姉ちゃんなの!?」

私は何度も呼びかけるが返答は無い。

それどころかラッキースターは勝手にドライブ・アウトしてしまった。

「おねえぇちゃぁぁーん!?」

冷や汗を背中に感じながら私は叫んだけど、もう、ラッキースターの姿は無い。

アプリコットの悲痛な叫びに触発され死神はミスを犯した。

「落ち着け!馬鹿女はまだ医務室だ!!」

「え・・・?」

(し、しまった!!)

「・・・なんでお前がそんな事を知っているんだ・・・?」

「・・・・・・」

「そうです・・・どうしてあなたがお姉ちゃんが医務室にいるって・・・」

「・・・・・・」

死神は量産機達に停止命令と帰還命令を出した。

「うわ!?」

僕がモニターを見るとMASTER CODE INPUTと表示されていた。

「紋章機が勝手に・・・!お願い言う事を聞いて!」

死神はエンジェル隊達の紋章機がエルシオールに引き上げるのを見届けて自分の部隊も引き上げさせた・・・。しかし、エオニアとタクトはまだ戦闘の最中だ・・・

(嫌な予感がする・・・あいつがこの程度で引き上げるとは思えん・・・

死神はエオニアの元へと急いだ。

 

「シリウスはお前の・・・

その時、七番機とE.ゼックイの間に何者かが乱入してきた。

「お前の先は何だ〜・・・エオニアアァァァァーーーーーーー!!」

乱入してきた歪な人型戦闘機は瞬く間にエオニアに襲い掛かった。

「ぐあっ!!」

エオニアのゼックイの手足が一瞬の間に切断された。

「エオニア!?」

「ふしゅるるるる・・・!さっきは何て言おうとしたのかなぁ・・・エオニアくん・・・?」

「う、うぅ・・・」

その人型戦闘機がその歪な五本の爪を構えた時に俺はそいつに近づいていた。

「うおぉぉぉーーーー!!」

「邪魔だぁ!オラァッ!!」

「うわぁぁーーー!」

「タクト・・・!?」

七番機が弾き飛ばされた。何かが七番機を殴ったようだ・・・

「ん?ああ・・・タクトじゃねぇか・・・そうだそうだ・・・動ける奴から仕留めないと・・・」

そいつはどうやら標的を俺に変えたらしい・・・

「お、お前は・・・一体だ・・・」

「冷たいなぁ・・・俺が誰だかわからないのか・・・?」

モニターに見慣れない・・・いやどこかで見た青年が映っていた。

「俺だよ・・・俺・・・」

そのにやつく顔には正気が感じられない・・・こいつは狂っている・・・そして、俺には心当たりがある。

「・・・お、お前、まさかシリウスなのか・・・?」

「ふはははは!!その通り・・・!!」

「馬鹿な!シリウスはまだ10代の子供だぞ!?」

シリウスの外見年齢は明らかに20才だ。

「馬鹿なも何も本人がそう言うんだから仕方無いだろう・・・く、くっくっくっ・・・!」

お前は誰だ・・・?

だよ・・・タクト・・・」

シリウスは人の心まで読める奴じゃない・・・

「あはは!そりゃそうさ!何故なら俺はなぁ・・・人間じゃ無いんだからなぁ・・・」

だろうな・・・人間ならばそこまで狂えない・・・

「何故、エオニアを襲った・・・仲間じゃ無かったのか?」

「キジも鳴かずば撃たれまい・・・それだけさ・・・」

「・・・お前って奴は・・・」

こいつはもう人間なんかじゃ無い・・・まるであの男と同じだ・・・人を殺す事に躊躇いすら感じない・・・

「おいおい・・・随分な言い草だな・・・」

シリウスは愉快そうに言った。シリウスにはもはやタクトなど眼中に無かった。いつでも好きな時に殺せると思っているのだ。

七番機が体勢を立て直してシリウスの戦闘機と向かい合う。

タクトはビームサーベルをシリウスは愛用の爪 デスクローを構える。

「殺す・・・愛する・・・殺し愛する・・・く、くくく・・・はっはっはっはっ・・・!」

シリウスはもはや人の道から外れた殺人鬼と化していた。

「さぁ!殺し愛といこうぜぇーーーっ!!」

シリウスの機体が残像を残しながら一気に距離を詰めてきた。アフターバーナの性能が格段に上がった為、爆発的な加速力を得たのだ・・・

「・・・・・・」

しかし、タクトもそれぐらいでは動じない・・・タクトは後手で攻めに転じた。

「せやぁ!」

「チ!」

ガキンと嫌な音がする。今度のデスクローは溶断する事が出来そうに無い。

「こ、これは・・・ゼックイの時の・・・」

そう、シリウスのゼックイは恐ろしいまでの進化を遂げていたのだ。

「機械の筈なのに・・・明らかにこいつは進化している・・・!?」

「死ね!」

今度はS,ゼックイのフライヤーが次々と襲い掛かってきた。その数は何と20機!

「ちぃ!」

俺は一機一機の攻撃を的確に回避して次々と撃破いていく。シリウスの狙いは丸見えだから大方の予想がつく・・・それさえできれば大した攻撃ではない。

「いい気になるな!」

シリウスはあきらめずにフライヤーを次々に撃ち出してくるが、あの死神のフライヤーに比べれば稚技に等しい。

俺は次々と回避しながらシリウスのフライヤーを撃ち落した。

「くそぉぉーっ!何であたらねぇんだぁ!?ふざけんなよ!!ヤッロォォォーーー!」

シリウスは何を思ったか俺から距離をとった。

「・・・?」

「こうなったら見せてやるぜ・・・!」

S,ゼックイから紫色のオーラがたち込めたかと思うと何と俺の体の自由が利かなくなった!

「くっ・・・な、何だ?これは・・・!?」

「くーくっくっくっ!無駄だ無駄だ。俺は貴様の動作という因果を消したのだからな。」

「い、因果を消した・・・だと?」

因果・・・?何を言っているんだ・・・?

「あぁ・・・感謝しろよ?頭には何もしてないんだからよ・・・」

「ふ、ふざける・・な・・・!」

「ふん・・・なぁ、タクトォ・・・お前は全ての起源というものが何であるか知っているか?」

シリウスは気持ち悪いぐらいの猫なで声で話しかけてきた。

「そんな事に・・・興味は無・・・い・・・」

「オイオイ・・・そんな事を隊長が聞いたら本当に殺されちまうぜ?まぁ、もうすぐ俺が八つ裂きにしてやるんだけどな♪エオニアとの交戦中に相討ちとなって戦死したと隊長には報告しておこう・・・」

「く・・・」

何て奴だ・・・動きたいけど依然として体の自由は利かない・・・

「んでさっきの続きなんだけどよ。全ての起源というものは実のところ俺にもわからねぇ・・・

だ、EDENとNEUEの起源についてなら俺は知っている・・・

「何・・・?」

「EDENとNEUEの起源・・・創始者は三人の運命の女神達だ・・・」

な、何だ・・・?体の脈が上がっている・・・

「過去のウィルド、現在のクロノ、未来のフェイト・・・そうだクロノはデザイアというべきかな・・・?」

クロノ・・・デザイア・・・?な、何だ?俺はこの名前に何かを感じているのか・・・?

「ひっひっひっ!やっぱりクロノに反応したか・・・だろうな・・・何せクロノは・・ぐあああぁぁぁーーーーー!?」

その時だった。シリウスのゼックイが十数ヵ所に渡るビーム砲が被弾したのだ。

「何せクロノは・・の続きは何だ?」

何かがドライブ・アウトしてきた。クロノスペースからのフライヤーの攻撃・・・こんな芸当が出来る者は俺には一人しか心当たりは無い。

「メ、メシア・・・」

「た、隊長・・・」

シリウスを攻撃したのはあの死神のメシアだったのだ。死神のメシアは俺とエオニアを庇うかのようにシリウスに立ちはばかった。

「・・・テメェ・・・何しやがる・・・」

シリウスがアルフェシオンの方を呪い殺すかのような眼で睨み返した。

俺の通信が切れたメシアとシリウスは何を話しているんだろうか・・・

まさかこの短期間でここまで成長するとは・・・こいつはとんだ化け物だ・・・)

「言った筈だ。これは俺の獲物だと・・・」

「ふざけんな!倒せたらそれでいいとお前も言ったではないか!?」

「確かに・・・しかし、エオニアを攻撃したのが我慢できなくてな・・・」

「野郎・・・殺すぞ・・・?」

「ガキがいきがってんじゃねぇぞ・・・」

二機は対峙する。

「何故、タクトを助けた?」

あいつは俺の獲物だ・・・ただそれだけの事だ・・・」

「ふん、詭弁を並べやがって・・・!」

「エオニア・・・大丈夫か?」

「は、はい・・・何とか・・・」

「お前はタクトと共に帰還しろ。」

「・・・メシア・・・」

「タクト・・・エオニアを頼めるか?」

「・・・ああ・・・」

「・・・すまない・・・タクト・・・」

「いいさ・・・それよりメシア・・・俺はお前と馴れ合うつもりは無いからな・・・」

それはこっちの台詞だ・・・エオニア、船はエルシオールの5時の方角に隠してある。近くまで行けばオートパイロットが働いてくれる筈だ・・・行け・・・」

「ふざけんなよ・・・せっかくの獲物を逃がすと思うか!?」

シリウスはフライヤーを展開しながら言い放った。

「行け!タクト・・・!!」

タクトがエオニアのゼックイを牽引するのと同時に死神もフライヤーを展開してシリウス目掛けて飛ばした。

「ふん!逃がすかぁ!!」

シリウスがタクトに向けて放ったフライヤーは全て死神が瞬時に撃破した。

「チ・・・!」

「・・・お前の相手はこの俺だ・・・かかって来いよクソガキ・・・

「野郎!!」

シリウスは標的を死神のメシアに切り替えた。しかし、死神はタクトとは違い、シリウスの得意な接近戦に持ち込ませないように遠距離をキープする。

「・・・遠距離ならば只のでくの坊だ・・・墜ちろ・・・」

死神はフライヤーにシリウスのゼックイの手足を狙えと指示を出し、使い魔達(フライヤー)達が一斉にシリウスに襲い掛かった。しかし・・・フライヤーのビームはゼックイに張られたバリアに弾かれてしまった。

「む・・・」

「あっはっはっは!あーはっはっはっはっはっ!!」

(シリウスめ・・・幾らなんでも成長が早すぎるな・・・)

シリウスのオーラが紫から赤紫へと変色していき、機体には紫電が走り始めた・・・

(まずいな・・・こいつは・・・この宙域と同化し始めている・・・迷っている暇は無い・・・アレしかあるまい・・・

死神は短い言葉を詠唱した。

我が名の下にその扉を開け・・・ディ・・・ヴァロ・・・・エンジャ(GATE OPEN)・・・

・・・タルタロス

辺りに充満した黒い闇がシリウスのゼックイとアルフェシオンを飲み込んだ。

死神がつづったのは神族の文字・・・タルタロス・・・地獄・・・地下の世界・・・

またの名を偉大なる神々の暗闇 ____クとも呼ぶ場合がある・・・

「な、き、貴様正気か!?タルタロスを召還するなど!」

「正気さ・・・」

「!今のお前にどこにそんな余力がある・・・!?死ぬ気か!?」

「・・・俺には守らなければならないがある・・・その為なら命など惜しくも無い・・・!」

死神は苦しそうに息をしながら、続けた・・・

「そして、シリウスは返してもらうぞ・・・__・・・」

「・・・き、貴様・・・まさか・・・アレを使う気か!?」

シリウスの姿をした何者かは死神が何をしようとしているのかに心当たりがあった。

「・・・アルフェシオン・・・リミッター解除・・・出力セーフティモード解除・・・L,Eシステム

・・・シークレットモードへ移行・・・インフィニ・・・フルドライブ・・・

インフィニ・・・アンフィニのオリジナルのエンジン・・・その出力は人間界でも神界でも紛れも無く最強である・・・何故ならそのエネルギーは混沌の海よち吸い上げられている為に無限大なのだ。そしてインフィニはアルフェシオンの性能の高さを支えている心臓とも言える究極のエンジンだ。

アルフェシオンの背中に六枚の赤紫色の粒子状の翼が展開される・・・

ルシャーティでさえその存在を知らないかのライブラリの最深度情報にのみ記されている最古の伝承にこうある・・・かつて愚かな愚神達の世界を塵一つ残さず無に帰した十二枚の終末の翼・・・その破壊神は全宇宙を消滅させた後で天使悪魔の二体に別れたと残されている・・・

そうこのアルフェシオンこそその片割れの悪魔である・・・その起源は神をも超越するところにある・・・彼は神々の制裁者なのだ。

「・・・おい・・・嘘だろ・・・本気でアレを使う気なのか!?」

死神がバイザーを外してシリウスを睨みつけた・・・獲物を確保したという合図でもあり、死神の死刑宣告でもある。

「ひ、ひひひ・・・う、嘘だ!こんなの嘘だ・・・!!」

その伝承を知っているシリウスの姿をした何かは足がすくみあがるのを感じた。

死神は本気で禁断の魔法を使う気なのだ・・・その禁断の魔法の前では神ですら消滅は免れない・・・

「これだけ言っておく、人を傷つける者ほど、自分の痛みには耐え切れない。何故ならその痛みを知らないからだ。そしてそれを知った時にそういう奴は他の者を傷つけられなくなるものだ・・・俺とお前の違いはそこにある・・・俺はその痛みを乗り越えてきた・・・その上で敵を殲滅するのだ・・・そして今まさにタクトとカズヤもその難所を登っている最中なのだ・・・いずれは俺と同じところまでくるだろう・・・人間もあながち捨てたものでは無い・・・」

アルフェシオンにオーラが立ち込める・・・黒いオーラが・・・

「さぁ・・・裁きを受けるがいい・・・愚者よ・・・」

段々と拡大していく・・・そして・・・

「オメガ・ブレイク」

オメガ・ブレイク・・・それは最終的な破壊・・・

黒いオーラは爆発的にこの閉鎖空間全域を外から呑み込んでいき、消滅させていく・・・全ての光が闇に飲み込まれ、全ての有が無へと帰していく・・・

シリウスも必死に逃げようとするが闇はこの空間を外から呑み込んでくる為にその闇から逃げる術は無い・・・

「うわわ・・・!うぎゃあああAAAAAAAAA−−−−−−−−−−−−!!」

そして、シリウスもあっという間に飲み込まれていった・・・

「・・・安心しろ・・・まだ消滅はさせん・・・少し、前に戻ってもらうだけだ・・・

そして、死神も闇に呑まれていった・・・

 

「ここでいい・・・後は自力で何とかしよう・・・」

エオニアのゼックイが七番機から離れた。

「エオニア・・・俺はもうお前とは戦いたく無い・・・出来ればメシア隊から足を払って欲しいと思っている・・・」

「・・・タクト、私はすでに死んだ身だ・・・シェリー達を傷つけた大罪人・・・ならばせめてこのEDENを命を懸けて守りたい・・・だからその要求には答えられない・・・」

「・・・エオニア・・・ならば次に会う時は敵だな・・・」

「ああ・・・恨みっこは無しだ・・・」

エオニアのゼックイが七番機から遠ざかっていく・・・

「そうだ・・・一つ警告しておく・・・」

「警告・・・?何だ?」

警告という事葉にタクトの顔に緊張が走った。

「隊長は次ぎに会った時はおそらく本気で仕掛けてくるだろう・・・だから力をつけるまで詮索はやめておけ・・・力がついたと思ったのならここから本星の方に戻れ・・・そうすればメベトの主力艦隊と遭遇できるだろう・・・」

「・・・エオニア、どうして・・・」

「忘れないでくれ・・・私もただEDENを守りたいだけなのだ・・・」

そう言ってエオニアのゼックイがドライブ・アウトした。

「・・・メベトの主力艦隊・・・」

タクトは七番機をエルシオールの方へと向けた。

 

一方ラッキースターは白き月へと到着していた。

「やれやれ・・・こんな大きなもんをこんなところへ隠しやがって・・・」

男はラッキースターのエンジン部分の解体に入っていた。

もちろん、エンジンの点検と調査であるのだが・・・

「やれやれ・・・ミルフィーの奴ももう少し大事に使えよな・・・あ!この弁体、硬化してやがる・・・こいつは交換だな・・・ったく・・・面倒くせぇなぁ・・・」

男は直径30cmの弁体を手際よく交換していく・・・

「・・・ってここだけは8mmのビス(ネジ)かよ・・・こりゃぁ後でタップで新しいネジ山を作ってやらなきゃあならねぇな・・・8.5mmのタップなんかあったかなぁ・・・」

そして、最終的に男はラッキースターの心臓部とも言えるエンジンのところまできた。

クロノ・ストリング・エンジンは結晶体であるのだが・・・

「おいおい・・・こいつはクロノ・ストリングなんかじゃねぇな・・・上手く偽装していやがるが・・・だとしたらこいつは迂闊にばらせないな・・・」

(下手をしたらEDENは消えてなくなるしな・・・)

ちなみにラッキースターは一つのエンジンで動かしている・・・

男は通信機で相方を呼び出した。

「どうした?何か分かったのか?」

「どうしたもこうしたもねぇよ。ちょっとすぐに来い。ポートは開けておくからよ。」

「・・・わかったわかった・・・」

相方は文字通り相転移(ワープ)してすぐに駆けつけてきた。

「なんだ・・・?」

「これを見てみな・・・」

相方は男の指差すクロノ・ストリング・エンジンに偽装した何かを見て目つきが険しくなった。

「こ、これはインフィニではないか・・・!」

「ああ・・・アンフィニにしては偽装と出力制御が厳重にされている・・・間違いなくこいつはインフィニだ・・・俺がこいつを組み上げた時にはこんな構造では無かった・・・

少なくともミルフィーが受理した時にはクロノ・ストリング・エンジンだったぜ・・・」

どういう事だ?現存するインフィニ零番機七番機と“あの機体”の三つだけだぞ・・・インフィニは三つしか存在しない・・・インフィニはアンフィニと違って量産など出来ない筈だ・・・その法則が破られたらこの世界の存在も無いからな・・・

「だが、実際に七番機にはインフィニを搭載されている。そうで無ければアレだけの機動性は確保できないだろう。という事は結論は一つだ・・・インフィニは4つあるっていう事だ・・・」「馬鹿、大元の起源は過去と現代そして未来の三つしか存在しないだろうが・・・」

「最後まで聞けって・・・後、次に馬鹿って言ったら殴り合いの開始だからな・・・」

「面白い・・・久しぶりにお前を殴るのも一興だ・・・

二人は半ば本気で睨みあう・・・

「・・・っとそんな事をしてる場合じゃねぇ・・・」

「そうだな・・・」

二人は頭をぽりぽりとかいた。

 

「結論は一つ常識をかなぐり捨てて考えれば答えは簡単だ。インフィニが分裂したんだ・・・約10年前のアルフェシオンエクストリームの戦いでな・・・

「・・・絶対領域でのアレか・・・」

「あの時は二つのインフィニが正面からぶつかり合ったからな・・・常識を覆すような事態が起こっても不思議では無い・・・」

「・・・なるほど・・・あの時ルシファーがをタクトを呼び寄せ交わった・・・そしてその機体も操者と同じように分け与えたというのか・・・」

「・・・その呼び方はやめろ・・・ルシファーじゃねぇよ・・・」

「あぁ・・・悪かったな・・・」

相方もこの話題だけは滅多に口にしない、いつもちゃらんぽらんなこの男が真面目になる話題だからだ・・・

「・・・まさに奇跡だな・・・おそらくあいつもこの事には気付いている筈だ。」

男は胸ポケットから煙草を取り出した。

「おい、家族達と禁煙の約束をしたんじゃないのか?しかも今度で三度目だ・・・さすがの家族達もも本気で怒るだろうなぁ・・・」

「テメェ・・・チ、チクる気か・・・?」

男は慌てて

「お前の出方次第だな・・・」

「きょ、脅迫かよ・・・」

「ばらしたラッキースターを今日中に組み立てろ。」

「ぐあ・・・マジかよ・・・タップもたてなきゃならねぇってのによぉ・・・」

「頑張れ・・・」

「マジでお前を殴りたくなってきた・・・」

「ああ・・・可哀想だよなぁ・・・特にリコが悲しむだろうな・・・」

「ぐ!じょ、上等だ・・・やってやる!やればいいんだろう!?チクショーーーーー!」

 

「た、隊長!?」

ノアの格納庫ではアルフェシオンとシリウスのゼックイが帰還していた。

そして、その下ではシリウスと死神のメシアが倒れていたのだ。

エオニアは急いで死神の元へ駆け寄った。

「隊長!!」

「エオニア・・・シリウスを部屋に運んでやってくれ・・・」

「シリウス・・・!?こ、これは一体・・・」

シリウスの姿は元相応の子供の姿へと戻っていたのだ。

(まずい・・・オメガ・ブレイクで消費しすぎたな・・・)

「・・・俺は・・少し眠る・・・後は頼んだ・・・」

死神はそのままアルフェシオンに背中を預けて眠りに入った。

「隊長・・・」

エオニアは死神の衰弱が予定以上に激しい事が心配でならなかった・・・

 

「タクト・・・エルシオールの修理及び改造は終わった・・・」

「そうか・・・ありがとう・・・」

タクトは司令室で椅子でくつろいでいた。改修作業の終了まで司令官のタクトは休む事は許されないのだ・・・

「主な改造面は装甲の強化だ。死神のメシアとの戦闘でブリッジのフロントガラスはやはりあまりにも無防備だと思い知らされてな・・・ルフト先生に無理を言って急遽間に合わせで取り寄せた装甲だ。ビームの直撃にも耐えられる優れものだ。」

「要は特殊金属のシャッターか・・・」

「・・・・・・そうとも言うな・・・」

「そうとしか・・言わないだろう・・・」

もう、眠りたいな・・・

「・・・タクト・・・お前、大丈夫か?」

「・・・そんなに酷い顔しているかな?俺・・・」

「ああ・・・」

レスターの目は真剣だ。まったくこいつは・・・

「・・・大丈夫、大丈夫・・・少し寝たら回復してエンジェル隊とのコミュニケーションに励むからさ・・・」

タクトはそのまま眠りに入った・・・

「・・・タクト・・・」

ミルフィーユはこいつに支えられて来た。逆に言えばこいつがミルフィーユに支えられて来たのだ・・・ましてやそんな中で最強の敵死神のメシアの襲来・・・その上身内に巣くう最凶の敵ブラウド財閥のゼイバー総帥の存在・・・自分がこいつの立場なら今でも戦い続けられるだろうか?

本当にタフな奴だ・・・タクト・マイヤーズって男は・・・

 

俺はおぼつかない足取りでリコの部屋へ忍び込んだ。早めに補給しないと俺は消滅する・・・いや、本物の悪魔になるの間違いだな・・・

「・・・・・・」

リコはすやすやと眠っているようだ・・・これから俺がする事に罪悪感を持ってしまうな・・・俺はリコの血がなければ生きていけないのだ・・・

そう、俺はリコの血を採取に来たのだ・・・リコはこの世でただ一人の同じ血を持つ者だ。もう一人の馬鹿女は転生する前にあの男と体液の交換をしたのであいつの血はもう俺には何の役にも立ちはしないのだ・・・

リコの血はまだ純粋と言ったらさすがにあの馬鹿女も哀れだが、創始者がそう決めたのだから仕方無い・・・それに俺も役目を果たすまで死ぬ事は許されないのだ・・・

俺はリコの肌を傷つけないように糸のように細い注射器を除菌パックから取り出し、リコの細い腕の静脈に刺した。もちろん動脈の方が断然いいのだが、それはあまりにも厚かましい・・・だからせめて廃棄される血から頂くのだ。

ちなみに俺の家系は全員O型だ。O型は一番最初の構成タイプの人間だ。もっとも俺が俺の血の形に合わせただけなのだがな・・・

もっとも俺は普通に生まれた人間では無い・・・そういう意味ではリコとは血が繋がってないとも言えるかもしれない・・・俺は血を採取した後、すぐさまにリコの腕の傷を治癒する。

嫁入り前の体に傷を付けたらリコもカズヤにも合わせる顔がますます無くなるし・・・ましてやせめてもの罪滅ぼしなどとすらも言えた立場じゃないだろうがな・・・

そして俺はその注射器を自分の動脈に刺してリコの血を流し込む・・・俺はリコから定期的に血を採取させてもらっているのだ・・・俺を蝕む__の血が緩和されていくのが分かる・・・体が軽くなっていく・・・

「すまん・・・リコ・・・」

そして俺はいつもの謝罪の言葉を言うと相転移して部屋の外へと出た。

「ふぅ・・・まったく・・・こんな体をいつまでも引きずっていてはな・・・」

いずれリコもカズヤと交わる・・・それが全ての起源の因果ゆえに絶対・・・つまりは定められた運命なのだ・・・その時までに俺は目標を成し遂げなければならないのだ・・・つまり運命の輪とはあの馬鹿と馬鹿女のカップルとカズヤとリコが交わらない限りまわり続けるのだ・・・呪われた終局を迎えるだけの運命の中を永遠に彷徨うのだ・・・この俺のように・・・

もっともこの運命の輪を維持したがっているのはデザイアにとり憑かれた化け物だけだろうがな・・・デザイアは目標や願いともいいまたは欲望とも言うのだ・・・

すべての生命体が欲望を持っているのと同じ様にその化け物にも俺達を永遠に苦しめ続けるという本能に基づいた欲望があるからだ。

だから俺はこの欲望というものが嫌いだった・・・欲望は意味の無い行為をさせる毒だからだ・・・この俺も所詮はこの欲望の世界で踊っているに過ぎない・・・

もっともそのデザイアはそんな俺の心境も知らずにのうのうと生きているけどな・・・

俺はエルシオールの中を歩き続けた。おそらくここに来るのはこれで最後になるだろうし・・・約十数年ぶりに歩くエルシオールの中は建造時の時より広くなっていた。前艦のルクシオールは後に始まる本当の戦いに向けてマスターが改造中らしい・・・今回俺があのタイミングで攻撃を仕掛けたのもそれを視野にいれての事だった・・・なんてここの乗組員が知ったら笑い話ではすまないだろうがな・・・

とうとう俺は銀河公園に着いた・・・

「懐かしいな・・・ここも・・・」

ここは元々予定には無い施設だった・・・ところがあのクソ親父が馬鹿女の為だとか言い出して遂に作ってしまったのだ・・・

まぁ・・・もっともあのバカップルをくっ付けるのには大いに役立ったがな・・・思えば俺があの馬鹿女の中にいた時はここであのバカップルの行いを見せられてきたっけな・・・馬鹿女の奴・・・あの馬鹿が好きなのを悟られまいと必死だったな・・・あいつはリコと同じで本当の気持ちを言わずに隠してしまう悪い癖がある・・・それが時にはトラブルの原因になった事もあったな・・・

「ふ、ふふふ・・・」

それにしてもこの俺が感傷に浸るとはな・・・随分と人間臭くなったものだな・・・この俺も・・・俺は最後にあの馬鹿女のところへと向かう事にした。

まったく・・・この俺もどうかしている・・・

 

「ごめんなさい・・・!ごめんなさい・・・!あぅ!」

ここは牢獄のような荒れ果てた納屋だ。そこでは必死に謝っている女の子を誰かが殴っている・・・何て酷い奴だ・・・!

しかし、まるで自分の視線がその暴力を振るっている男の視線なのは何故だろうか?それに俺の手はこんなに小さくは無い。この腕はまるで子供の手だ・・・年に直すと14〜16才ぐらいの手だ・・・ではこいつは少年という事か・・・?

「あ〜?今更お前が謝ったってあいつはもう戻ってこないんだよ!!お前とヴァインのせいでなぁ!!」

バキィ!

その少年が女の子の顔を思いっきし殴った。手加減の無い一撃・・・な、なんて奴だ!!口の中が切れたのか女の子の口元から血が零れていた。

俺はやめろ!と叫ぶがこの子供には何も聞こえないらしい・・・

そして俺は女の子の顔を見て驚愕した!何と女の子はルシャーティだったのだ。顔には様々な痣の跡があって涙は止まっていない・・・しかし、彼女は恐怖などではなくもの凄く悲しい顔をしてこちらを見ている。

「ごめんなさい・・・わたしのせいで・・・」

「謝るなって言ってんだよ!!」

ドゴォッ!!

少年がルシャーティの鳩尾を蹴り上げた。体をくの字に曲げてうずくまるルシャーティ・・・彼女はまったく抵抗をしようとしない・・・体は一切拘束されていないのに・・・

「ぅ・・・ぅぅ・・・」

「蹲ってないで何か喋れよ!オラァ!!」

バキィッ!ドゴォ!

少年はいやこのガキは謝るなと言いながらも何かを喋れとルシャーティに要求している。何て我侭なガキなんだ・・・

「私を好きにしてください・・・」

「あん?」

「あなたの悲しみがそれで晴れるのなら・・・私を好きにしてください・・・」

「・・・くっくっくっ!お前言っている意味がわかっているのか?何をしても良いんだな?」

「はい・・・」

「言っておくが、今の俺はもう女の体になんか興味がねぇんだ・・・ならば俺が望む事はただ一つ・・・お前をバラバラに解体する事だけなんだぞ?」

「・・・っ・・・!」

ルシャーティの顔が一瞬強ばるがルシャーティはうつむいたままかすれる声ではいと答えた・・・

「ふふ・・・お前もヴァインと同じところへ連れて行ってやるよ・・・

同じところ・・・?何でお前はヴァインの事まで知っているんだ・・・?

まずい!この少年は間違いなくルシャーティを殺すつもりだ!そして、ルシャーティもそれを甘んじて受け入れるつもりだ!!

ヤメロォォォォーーーーーー!!!!聞こえないのかこのガキ!!

聞こえているよ。タクト・・・

・・・っ!?

待っていろ・・・お前もこうしてやる・・・!!

グシャ!!

その光景だけは見てられなかった・・・

ただ最後にルシャーティがごめんなさいタクトさんと言ったような気がする・・・

「晴れねぇ・・・晴れねぇよ・・・!!こんな屑の命だけでは足りぬ・・・!もっとだ!もっと!!もっと殺さないと気がすまねぇ!!」

待っていろ!!お前も殺してやる・・・!!お前達全員!!銀河の天使共も!!

殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しつくしてやっるうぅぅー・・・うあぁぁーーー!!!!!

何ておぞましい呪いの言葉・・・人間に発しきれるような言葉ではない。

まさに悪魔・・・いや、死神の咆哮だ・・・

献身したルシャーティの死でさえもこいつを静める事はできない・・・

俺は泣いていた・・・そして、このガキを同じ目にあわせてやりたいと思った・・・

俺の頭の中はこのガキに対する憎しみではちきれそうだった・・・

・・・悪い夢であってくれ・・・これは悪い夢に違いない・・・

こんな酷い事がある訳が無い・・・

 

タクトさん・・・起きてください・・・

この声は・・・

タクトさん・・・起きてください・・・

ミルフィー・・・・・・ッ!?

俺は慌てて跳ね起きた。いつの間にか寝てしまったようだ・・・

「・・・喉がカラカラだ・・・」

俺は軽く水を飲んで喉を潤した。自分がさっきまでどんな夢を見ていたのかがわからない・・・

(そうやって嫌な事から目を背け続けるのか?)

「ミルフィーに助けられた気がする・・・」

(お前は、ミルフィーを守れなかったのに・・・)

俺は今だに一度もミルフィーの所へ行ってない・・・ちとせには会いに行っているのだが、ミルフィーにだけは会いたくなかったのだ。

何故なら俺に勇気が無かった事と俺が泣いてしまうのが目に見えていたからだ・・・

「馬鹿だ・・・俺は・・・」

だからって様子を見にもいかないなんて、彼女の旦那として失格だ・・・

彼女はを選んでくれたんだ・・・勇気が無いなんて俺の甘えだ・・・

(そうだ!お前が選ばれて、俺は選ばれなかったんだよ!!ふざけんじゃねぇ!)

・・・?今、何か聞こえたような・・・

俺は妙な胸騒ぎを覚えてミルフィーの元へと急いだ。

 

死神は医務室の中まで来ていた。手前にはちとせが眠っている・・

(すまんな・・・雅人・・・お前の娘を俺のせいで巻き込んじまった・・・お前と同じ様に・・・もし、今度会ったら俺を殴ってくれ・・・)

死神はちとせの腕にアンプルを投与していた。

(目を覚ますのは三日後ぐらいでいいだろう・・・なぁ、雅人・・・)

死神は奥へと進んでいくとそこにはミルフィーユが眠っていた。

(本当にいいご身分をしているよ・・・お前は・・・)

死神には見慣れた寝顔だ・・・約10年間もの間見慣れた_の寝顔だ・・・

(何かムカツクな・・・俺は満足に眠れないというのに・・・昔っからお前のせいで俺はロクに眠れていないんだぞ・・・コラ?)

死神は柔らかいミルフィーユの頬をつねってみた。しかし、ミルフィーユは一向に目を覚まさない・・・

(リコも本当は学校に行って普通の女としての人生があったんだろうにな・・・この馬鹿女に触発されて・・・いや・・・この馬鹿女を軍に入れたのは俺達だったな・・・少し無責任だったな・・・)

死神は_の頭を撫でている・・・

戦いは俺達男の役目だ・・・その為に男と女という概念が誕生したのだからな・・・

男は女を守る為に誕生したのだ・・・女より戦いに長けた者として男は女から進化したのだからな・・・なのにこんなガキ共達に紋章機を与えて戦わせている自分達が情けないと思う・・・

死神は頭をぽりぽりとかいた。

(やれやれ・・・これではあの馬鹿の事をとやかく言えた義理では無いな・・・)

コッコッ・・・

「・・・!?」

(何て事だ・・・ここまであの馬鹿の接近に気付かなかったとは・・・そこまで弱体化しているのか・・・それともこの馬鹿女にかまけていたせいか・・・どちらにしろ俺のミスだ・・・本当にこの俺も地に堕ちたものだな・・・)

 

俺は医務室の前まで来ていた。ロックは掛ったままだ・・・誰もいないらしい・・・

「・・・っ!?」

な、何だ・・・この奥に・・・誰かを感じる・・・この感覚は前の戦いでも・・・?

俺はロックを解除して中に入った。手前にはちとせのベットが・・・

そして奥のベット・・・の前には誰かがいた。

「ミルフィー?」

その後姿を見て俺は思わずそう呼んでしまった。だが、髪の毛の色も背丈も彼女とは違う、髪の毛は桜色では無く銀色だ。背丈は俺と同じぐらいだ・・・

「・・・お前は誰だ・・・?」

ロックも解除しないでどうやって入り込んだんだ・・・?少なくともこいつが只者ではないのは確かだ・・・

男がこちらに振り返った・・・俺は少し驚いた。整った顔立ちをしているがその目は真っ赤な仮面で隠されているからだ・・・それよりこいつは誰かに似ているような・・・

「俺が誰なのかわからないのか?」

「・・・っ!?そ、その声は・・・!?」

この声は・・・俺がこの世でもっとも嫌いで最も恐れている奴の声だ・・・!!ならばこいつは・・・

「お、お前が・・・死神のメシアなのか?」

「その呼び方になるともう一人の該当者がいるんだが、その呼び方でも間違いではないな・・・」

「・・・もう一人の該当者・・・?」

「まぁ、いいさ・・・俺はお前を完膚無きまでに叩きのめした死神のメシアだ。

「・・・っ!?お前が・・・」

俺は死神と対峙していた。今度は機体ごしでは無く直接に・・・

「ミルフィーに何をしにきたんだ・・・」

俺はジリジリと奴との距離を縮めていくが、奴はその場所から動かない・・・

「お前はまだ俺の事を思い出せないのか?」

「何?」

「お前にチェスを教えてやった事も忘れてしまったか・・・」

「俺はお前なんか知らない!!」

「お前と俺はお前が4才の時に何度か会っているんだがな・・・」

「知らないって言っているだろう!」

「ふ・・・人間は嫌な事から目を背けたがる・・・嫌な事はすぐに忘れたがる・・・お前は何度やっても俺に負けていたもんな・・・お前は気付いていないだろうが、お前はいっつもポーンの使い方が下手くそだったからな・・・ふ、ふふふ・・・」

「いい加減に・・・!」

俺が死神の掴みかかろうとした瞬間鳩尾に突き上げるような激痛が走り、俺は倒れ込んだ。正直に言うと息が出来ない・・・俺はこのまま死ぬのかとまで思った。

「安心しろそのくらいで死にはしない・・・死ぬ前に気絶するだけだ・・・」

どうやら俺は死神の一撃を喰らったようだ・・・なんて無様・・・

「気絶する前によく聞けよ。前も言ったが、お前はまだ弱い・・・だから力をつけるまでメベト様に挑もうなんて思うなよ・・・もし、そのまま向かってきた時は殺すからな・・・

俺が聞き取れたのはそこまでだった・・・

 

「ご苦労だったな・・・ルシラフェル・・・」

「いえ・・・ブラウドを仕留めそこないました・・・」

「気にするな、万が一奴がその気になれば今頃はEDENは消えていただろうからな・・・」

「マスター・・・私は掟を破りオメガ・ブレイクを使ってしまいました・・・」

「知っているさ・・・こちらの時計も全て逆戻りしたのだからな・・・元に戻すのにはさすがに苦労したがな・・・」

「すいません・・・」

「謝る必要など無い・・・お前に頼らなければ俺達は生きていけないのだ・・・これからもEDENとNEUEの為に俺に協力してくれ・・・」

「は!」

「時にルシラフェルよ・・・」

「はい。」

「もうすぐ決戦の時が近づいている・・・そろそろクロミエに本来の役割を果たすように命じて欲しいのだがな・・・頼めるか?ライブラリの最深部情報へのパスコードはお前しか知らないのでな・・・」

「・・・よろしいのですか・・・タクトにエクスカリバーを渡しても・・・」

「あいつはそろそろいいだろうと言っているがな・・・しかし、これはお前の判断に任せる・・・頃合を見計らってライブラリまで導いてやれ。皇居の中のライブラリへな・・・

「わかりました・・・皇居の方でよろしいのですね?あちらには神界戦争のデーターが残っておりますが・・・」

「かまわん・・・どうせ最後には我々はあの化け物と戦うのだ。あの映像に腰を抜かすのならばこの先は生き残れん・・・」

「了解しました・・・それではタクトの成長の具合を見計らって行動に映します。」

「頼んだぞ・・・」

 

「・・・んん・・・」

目を覚ますと俺は何故か自分の部屋にいた。しかし、昨夜の事は明確に覚えている。俺は昨夜死神のメシアと遭遇した。そしてあいつが言うには俺とあいつが昔に出会っている事だ・・・ところで何で俺はここで寝ていたんだ・・・俺は確かに医務室に・・

「・・・あ!」

まずいミルフィーとちとせの事を忘れていた!俺は医務室へと駆け出した。

幸い医務室ではミルフィーとちとせが何事も無く寝ていた。

なら、あいつはここに何をしに来たんだ?そう言えばあいつはミルフィーの傍にいた・・・あいつとミルフィーには何か関係があるという事なのか?

「あれ?タクトさん・・・?」

「リコ?」

 

「・・・お姉ちゃんのお見舞いですか?」

リコの表情は曇っている・・・そうか・・・リコも辛いよな・・・

「うん、まぁね・・・」

「・・・・・・タクトさん。」

「何だい?」

「・・・お姉ちゃんなら大丈夫です!お姉ちゃんは・・・いつかきっときっと目を覚ましますよ!だからそんなに落ち込んでいたらお姉ちゃんだって悲しくなっちゃいます!」

「リコ・・・うん・・・そうだな・・・」

リコが俺を励まそうとしてくれてるのがよく分かる・・・リコの方が辛いだろうに・・・

その時俺はある事を考えついた。

七番機を使いこなして死神のメシアを倒せば何か聞き出せるかもしれないと・・・

そして烏丸 ちとせが目を覚ましたとの連絡を受けた・・・これで迷う事は何も無い・・・何としてでもミルフィーを助けてあげたい・・・

だからこそ次こそ決着をつけるぞ・・・メシア・・・!!

タクトはレスターに次の強襲作戦の説明をする為にブリッジへと向かった。

その作戦が死神の逆鱗に触れるとも知らずに・・・

 

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