第一章
死神の逆鱗 〜そして再会へ〜
エオニアからの情報で判明したネオ・ヴァル・ファスクの主力艦隊 メベト大艦隊の居場所へと向かう事にしたタクト・・・その目的はミルフィーユの意識不明の原因を知っていると思われる死神のメシアの元を訪れる事にあった。
医務室で遭遇した死神のメシアは自らこの宙域にいると宣言して接近してくれば今度は撃墜するとタクトに警告をするが、もはやミルフィーユを見守るアプリコットや他のメンバーの表情を見てられないタクトは遂に死神のメシアとの直接対決へと向かうのだった・・・
一方、先回りをしている死神のメシアの母艦 ノアでは死神のメシアが獲物を待ち受ける蜘蛛のようにタクト達がドライブ・アウトしてくるのをまっていた。
(言った筈だがな・・・“強くなってから来い”とな・・・)
その後ろではメシア隊の接近戦担当のシリウスと遠距離担当のエオニアが静かに雑談していた。
「エオニア・・・今日の隊長は何か殺気立っているな・・・」
「あぁ、今日は隊長一人で相手をするらしい・・・」
「一人で?だがタクトの七番機は意外とタフだぞ・・・」
「あの方がその気になれば5分もしないうちにかたがつくさ・・・」
「という事は今回は徹底的にやるということか・・・。」
「恐らくな・・・出る杭は打たれるだ、奴らも今回ばかりは生きた心地がしなくなるだろう・・・シリウス、もしかしてタクトを倒されるのが嫌なのか?」
「まぁ、獲物を取られるのは気分悪いが俺のゼックイでは不利だ・・・倒されたらそのときはそのときだ。」
「そろそろでるぞ。俺が出撃し奴らが現れたら先制攻撃で“アレ”を使うからその前にクロノ・ドライブに入り、待機しろ・・・いいな・・・?」
「はっ!!」
(タクト・・・今回ばかりは逃げられないぜ・・・)
(タクト・・・何故出てきたのだ・・・)
「メシア・・・アルフェシオン・・・出るぞ・・・!!」
死神が悪魔を引き連れて母艦から飛びだしていった。
氷点下の暗闇の中を黒い彗星が静かに駆け抜けていった。
「マイヤーズ司令、もうすぐドライブ・アウトします。」
「あぁ、みんな紋章機についてる。ドライブアウト後すぐに出撃だ。死神のメシアの主力艦隊が待っている。皆、激戦になるが頑張ってくれ!」
「タクトさん、今までのご迷惑をこの戦いで償います。」
「そんな考えはやめるんだ・・・あまり無理はするなよ・・・」
しかし、ちとせも回復がやけに早いような気もするが・・・医務室にあいつがいた・・・まさか・・・?いや・・・あいつがそんなに可愛い奴なものか・・・!
「は、はい・・・すいません・・・」
ちとせはそう言うと新しいタッチパネルをあたり始めた・・・
幸いにも操作だけは覚えているようだ・・・
「タクトさん、お姉ちゃん・・・大丈夫でしょうか・・・。」
「うん絶対に大丈夫。戦闘が終わればまた元気になるさ。」
確信はなかったが、今のタクトは義妹を放っていく訳にはいかなかった。
次の瞬間、エルシオールが激しく揺れた。
「きゃあぁぁぁーー!」
「うおぉぉっ!?」
「ぐ・・!レスター、どうした!?」
「タクト、敵襲だ!副砲を一発やられた!!」
「馬鹿な!クロノドライブ中なんだぞ!」
「しかし、ダメージを受けたのは確かだ!」
(まさか・・・あいつのフライヤーか!?)
「宙域に出ます!!」
(ち・・・!さっさと出て来いよ・・・お望み通り真面目に相手をしてやるからよぉ・・・)
ドライブ・アウトした先にはメシアの母艦だけが待ち構えていた。
「あれはノア!?どういう事だ!他の敵機は!」
「レーダーにはあの母艦一機だけです!」
「しまった!連中にはこちらの動きが読まれていたのか!」
「!敵の母艦ドライブ・アウトしていきます。」
「逃げたのか・・・?」
「気味が悪いねぇ、待ち伏せておきながら即時撤退かい?」
そんな生易しい連中じゃない。連中は今までの敵とは違い俺の作戦を全て逆手に取ってきた。きっと何かがある!!
来たか・・・ならばそろそろやるか・・・
すでにマスターからの使用許可はおりている・・・そして既にこの宙域には半径10万までASフィールドを展開している・・・もはやコレを使えない理由は無い・・・
でしゃばりすぎたクソガキ共を制裁するのにはもってこいの兵器だ・・・
いいかアルフェシオン・・・あっちにはあいつやリコやカズヤがいる。
威力は最小限に抑えるぞ。戦艦がシールドを失い戦闘不能になればいい・・・
メシアは隠しトリガーを引いた・・・。
「最終安全装置・・・解除・・・目標誤差修正・・・」
今まさに地獄が始まろうとしていた・・・。
・・・連中はなぜドライブ・アウトをしたんだ・・・
「・・・っ!?」
俺は馬鹿だ!!巻き添えをくらうのを避ける為じゃないか!それ程の広範囲の兵器を使うからこそ他の敵を下がらせたんじゃないか!これじゃ惑星ロームの時と同じだ!!まずい!こちらも逃げないと・・・!!
「マイヤーズ司令、出撃予定時間です。」
「駄目だ!!早くドライブ・アウトに入ってにげるんだーーー!!」
「アルフェシオン、ASフィールド形成、発射準備完了・・・
天使共、自分の愚かさと甘さを悔やむがいい・・・!」
アルフェシオンがASフィールド形成の為、ステルスを解く。
「メシア!!」
「反物質弾発射。」
地獄の始めは紫色の発光だった。そして物凄い轟音と共に爆発が起き、エルシオールを直撃した。
「ぐぁぁぁーーっ!な、なんだこの衝撃は!?今までの比じゃないぞ!」
「対消滅による圧倒的な爆発エネルギーがエルシオールを襲っています!!」
「ぐぅぅぅーーー!!」
「おいおい!こんなのありかよ!」
「アニス!喋るな舌を噛むぞ!!」
格納庫のエンジェル隊達も機体の中で激しく揺さぶられていた。
「これ以上はシールドが持ちません!!!」
「ちぃっ!加減てものを知らないのか!!」
やがて、永遠に続くかと思われた。爆発は治まった。
「だ、大丈夫か?ココ、アルモ!」
「は、はい何とか!」
レスターは安堵のため息を吐きタクト達の格納庫につなぐ。
「タクトそっちは大丈夫か!?」
「あぁこっちは全機無事だ。それより被害の状況は!?」
「耐えられたの奇跡的だ!モニターは完全に終わってる。エルシオールはもう動けない!」
今までの攻撃とは明らかに違う!まるで加減が無い・・・!無理矢理戦場に引きずり出すような連携攻撃だった・・・
「く・・・メシアの奴!レスター出撃するぞ!このままじゃとどめを刺されるだけだ!」
「わかった!しかし、ハッチの駆動系が完全にいかれてるみたいで手動でも開かないからこじ開けて行ってくれ!!」
「わかった!皆!出撃だ!!」
「了解!」
「あ、あれ・・・?そんな嘘・・・!?タ、タクトさん!」
「どうした!?リコ!!」
「クロス・キャリバーが全く動いてくれません!」
「何だって!?」
「僕もです。エンジンは掛っているのにまったくこっちの指示を受けてくれないんです!!」
おそらくあいつの仕業だ・・・く!
「分かった!カズヤはそのまま待機だ!いいかい?絶対に紋章機から外に出るんじゃないぞ!!」
今回のあいつは明らかに違う・・・容赦が無い・・・まったく動けない戦艦は安全では無い・・・恰好の的にだろう・・・
「・・・すいません!!」
くそ・・・!こんな時にどうして動いてくれないんだよ!!
死神が獲物の到着にシビレを聞かせ始めた時タクト達が次々とエルシオールから出撃してきた。
・・・ようやく出てきやがったか・・・どうせ結果は変わらないのにあいかわらずのろまな奴らだ。これほど頭にきたのは久しぶりだ・・・俺の忠告を無視してノコノコと出てきやがって・・・!俺は自分を抑えながらわざと生かしたエルシオールの回線と紋章機の回線に割り込む。
「挨拶代わりの一発はどうだったかな手加減してやったからいい湯加減だっただろう?」
「メシア!!」
「タクト・マイヤーズ・・・言った筈だぞ・・・今度こちらから攻める時は殺すってな・・・」
リコとカズヤはエルシオールの中だ・・・遠慮なく攻撃できるというものだ・・・
「お前はどうして俺をそこまで目の敵にするんだ!?」
「馬鹿だなお前、そんなのお前の事が大嫌いだからに決まってるじゃねぇか。」
「・・・よぉくわかったよメシア。今日こそ決着をつけてやる!」
「こっちもだ、お前ら・・・面倒くさいから一気にまとめてかかってこい。」
「言ってくれるね・・・!タクト仕掛けるよ!!」
・・・本当に馬鹿な連中だ・・・これでは今までなんの為にアルフェシオンの力を見せ付けてやったのかわからないな。
今回ばかりは徹底的に叩きのめしてやらなければならないな。まずはあの偽中華から始末するか・・・アルフェシオンがエンジェル隊の火線を軽々と潜り抜けカンフーファイターのバックをとる。
「後ろをとられた!?」
「・・・お〜お〜お尻が丸見えだぜ。」
「この!」
ランファがスロットルを全開にしてアルフェシオンを振り切ろうとする。
単純な奴だ・・・慣性だけで動くのは素人のやる事だ・・・
「ほぉ、この俺から逃げようとするか、だが味方のいないところに逃げたのはどうかと思うぞ。」
もちろんあの偽中華がそこにしか逃げれないように俺が意図的に張り付いたのだが、こいつも軍人としては素人だ。俺もカンフーファイターの速度にあわせ追跡する。
「まずい!ランファーっ!!」
案の定、他の奴らの援護攻撃の射程外でこの俺から逃げるのが精一杯だ。
「く・・・振り切れない!この化け物ぉっ!!」
「ならお前は“馬鹿者”だ。飛行形態にならなくても楽に追いつけるぞ。」
振り切れない相手に距離を縮められるのはこの上ない恐怖だろう奴もこのアルフェシオンの攻撃力はそろそろ分かっている筈だ・・・俺はスロットルの開閉を加減しながらプレッシャーを与えていく。
「お前らの紋章機にはどうしても解消できない致命的な弱点がある、それは飛行形態ゆえに旋回中が無防備だと言う事だ。したがって・・・」
「やだ・・・こないで・・・」
奴は恐怖におびえ、俺への反撃を忘れている、ならばこれ以上追い詰める必要は無い、俺はスロットルを上げていった。俺は奴の上に旋回する、人間が接近時に無防備になるのは上からの攻撃だ、奴には俺が消えたように思えるだろう。俺のブラック・アウトはレーダーで見破る事は出来ないが、使用しては奴等の為にならない・・・
俺もつくづく甘いな・・・
「消えた!」
俺はカンフーファイターの真正面に現われ剣を振り上げる。
「ひっ!」
「ドッグファイトの基本は後ろを取らせない事と常に反撃の機会をうかがう事だ・・・
覚えとけ、二流パイロット・・・」
俺は撃墜しないように手加減して斬りつける。そしてエルシオールの方角へ蹴り飛ばした。これでもう戦えはしまい・・・
「きゃぁぁぁぁーーーー!!」
「ランファさん!」
本当に仲間思いの奴らだ。自分達の心配をしたらどうだ?と言いたくなるな。
「よくもランファを!みんな!波状攻撃で奴を追い詰めるぞ!」
おまけに自信家と見える。連中の弾やビームが容赦なく俺に向かってくるが俺はそれを避けるのではなく振り切った。こいつの機動性に叶うものなど何処にも存在しないというのに・・・まさに無知は罪なりだな・・・
「くそ!レーダーが捕らえきれない!」
フォルテは素っ頓狂な声を上げながら打ち続ける。
こいつらがレーダーに頼っている時点で、俺の勝ちは決まった・・・
追跡してきたチビのフライヤー五機も俺のフライヤーで即座に撃ち落す。
「フ、フライヤーが全部やられたのですか!?」
「当たり前だ、オリジナルを舐めるなよ。チビが・・・お前ごときの攻撃パターンなどお見通しだ。」
そう言い捨てるとメシアは機体を反転させあえて敵の火線に突撃していく。
避けるのも面倒くさいというより避けるタイムロスが惜しかったし、このASフィールドを貫通できる武器が奴らにはない。その上貫通されてもこのアルフェシオンの装甲はこいつ等の攻撃でどうにかなるほどヤワでは無い・・・言い方を変えれば最初から俺の勝ちだったのだ。だが今回は徹底的にこいつらに限界領域での戦いの本当の恐ろしさを教えてやらなければならない・・・
「弾幕を休まずに打ち込むんだ!」
馬鹿共があきらめずに打ち込んでくる。あれ程、無駄弾や無駄なエネルギーは使うなと言った筈なんだがな・・・
「・・・・・・馬鹿が!」
俺はエルシオールの隣から襲ってきたアルテミスをアルフェシオン専用の粒子状型サーベル”ダインスレイブ”で叩き斬った。
ダインスレイブはアルテミスよりも上に位置する最強の聖剣 エクスカリバーと対をなす、究極の魔剣だ。無の力により切断する為、この世に斬れないものなど存在しない
「な、何てやつだ・・・あの見えない一撃を・・・」
そして、ASフィールドすら切断する事が出来る。
俺はアルフェシオンの右腕をイグザクト・スナイパーの懐に“相転移”(ワープ)させてダインスレイブで砲身とブーズター部分を切断した。
「あぁ!?」
「ち、ちとせ・・・!!」
(雅人・・・ち・・・!)
何故か死神はそれ以上ちとせに攻撃をしようとはしなかった・・・
「ふん、このアルフェシオンは紋章機の監視者だ。すなわち全紋章機の天敵なんだよ・・・お前等は自分達が何に挑んでいるのか分かっているのか・・・?」
「何を・・・」
そろそろ、終わらせるか・・・
俺はアルフェシオンの腕からある物を発射させ、同時にフライヤー達も射出させた。
無論、フライヤーが囮だ。
「フライヤー!?」
タクト達は俺のフライヤーに警戒心を抱いている為、全意識がフライヤーに向いている。そう、この為に今までこいつらをフライヤーで撃墜してきたのだ。俺は本命の武器をに当てないように振り回した。狙いは奴等の火器とブースターを殺す事である。フォルテの砲身やテキーラのブースター等を次々とその武器で切断していく、本命のタクト以外の紋章機を・・・
「覚えておきな、戦いは量よりも質だってな・・・」
倒した紋章機達に向かって死神は冷徹に言い捨てた。
「み、みんな!!」
まぁ、リコやカズヤが悲しむだろうから
こいつらは殺しはしない・・・だが・・・この馬鹿は今日、殺す・・・!!
俺が使った武器の名は高速粒子ワイヤーカッター・・・
ナノマシンで形勢したこの光の鞭に触れたものを溶断するだけでなく、捕獲する事も可能な万能武器である。有効射程距離は最大で8万、そして、線は細く、高速なのでまず見切れない。片手5本、両手で10本放つ事ができる。扱い方はかなり厳しいが俺には関係ない。
「はぁ・・・」
俺が、先のアルテミス作戦を実行したのは奴等の動体視力を養う為だったのだがこれでは意味がなかった・・・。俺はタクトに狙いを定めた。
「言っただろう?今度は殺すってな・・・」
「まだだ!」
「まだ抗う気か・・・?馬鹿な奴だ・・・」
「・・・あきらめてたまるか!!」
「己の技量も計れぬ馬鹿に俺の相手が務まるものか!」
俺はステルスを発動させフライヤー20機を飛ばす。
「なめるな!!」
タクトは20機のフライヤーの包囲網を避わしていく。
タクトはステルスで消えたアルフェシオンの位置を直感でつかんでいる・・・だから回避は上手い。少しは進歩したという事か・・・?
だがそれで限界なのだろう。あいつは反撃してこれない。俺はため息をつくしかなかった。俺はステルスを解除し奴の得意分野である接近戦を挑んだ。
「言った筈だな?“今度は本気で殺す”ってなぁ・・・」
「馬鹿にするな!!」
俺は挑発してきた死神に剣で立ち向かい。そして、死神も剣で応えてきた。二つの剣が幾度と無くぶつかり合う。
「・・・馬鹿にしてるのはお前だろう?この前からさほど実力が上がって無いじゃねぇか・・・」
「ちぃっ!!」
俺は距離を開けずに斬りかかり続けた。距離を開けた瞬間にやられる気がしたからだ。だが死神の剣戟は人間レベルでは無い、こちらの剣筋を全て見切っている!
「く・・・!」
「どうした?こんなものか・・・?」
「まだだぁーっ!!」
これ以上付き合う必要が無いので俺はアルフェシオンの必殺技でとどめをさすことにした。俺は頭のなかで七番機の構成図を描き縮退化の設定を開始する。もはやこの七番機は邪魔なのだ。
「司令官が全ての責任を取るのは常識だ・・・だからそろそろ死ね・・・」
「なんだと!」
そしてアルフェシオンの手の中に七番機のイメージが現われる、そしてアルフェシオンの手の中に七番機のイメージが現れる。そして俺は・・・
「へル・バイス!」
握り潰せとアルフェシオンに命令する。
「くっ!!」
奴が直感的に距離を離すが、無駄な事だ。ヘル・バイスは相手をイメージした瞬間に標的の時間を一時的に止め、縮退化を始める回避不可能の兵器なのだ。
俺が七番機をイメージした瞬間に勝負は決まっていたのだ。
アルフェシオンが握り潰すと同時に、七番機が縮退化を開始する。装甲は次々と失われていく。
「ぐぁぁぁぁぁーーーー!!」
「タクト!!」
レスターは装甲が次々と砕けていく七番機を見て立ち上がった。
「あああーーー・・!うあぁぁぁーーーー!!」
その頃白き月では・・・
「・・・!?お、おい!どこに行くんだよ!?」
整備を終えて休憩をしていたリョウ・桜葉は急にエンジンを始動させたラッキースターに驚いた。
「おいおい・・・まさかとは思うが・・・」
そして、そんなリョウを他所にラッキースターはクロノ・ドライブをして消えてしまった・・・
「またかよ!?ああ−!もう!!相変わらずのじゃじゃ馬め・・・!」
リョウは急いで相方にラッキースター消失の報告をした。
俺は七番機を消すつもりで撃ったのだが、縮退化はコクピットだけ残し終了した。思いのほか七番機はタフなようだが・・・タクトの意識は他のパイロット同様無い。つくづく気絶が好きな奴らだ。
やはりこれ以上こいつ等にリコ達を預けてはおけない。
「タクト!応答しろ!!タクト!」
俺はこの予定外の事態をプラス思考に考え、奴等に本来の目的を伝える事にした。
「聞こえるか・・・パイロット達はまだ生かしてある・・・こちらの要求を受け入れるのなら殺しはしない・・・」
(もっともタクトはもうすぐ死ぬがな・・・)
「く・・・!要求はなんだ・・・」
「なぁに、簡単な事だ・・・リコ、カズヤ、ミルフィーの三名とクロスキャリバーをブレイブハートごと引き渡してもらおう・・・あの二機の紋章機へのプロテクトは解除しておいた・・・」
「なっ!!そんな要求がきけるか!!」
「なら全員死ぬか?自分達の立場を考えろよ・・・要求に従えばそちらの機体を修復できるナノマシン・ユニットを提供しよう・・・」
「馬鹿な!そんな事を我々の独断で決められるか!!」
「じゃあ死ぬか?言っておくが俺は交渉しているのではない。勝者が敗者に命か財産をかと要求しているだけだぞ。」
「く・・・く・・そぉ・・!!」
レスターが歯軋りしながらメシアを睨めつける。
「さぁ、どちらかを選択してもらう。まぁ、要求を呑まないなら力づくで奪い取りお前らには死んでもらうだけなんだが?」
「待ってください!私行きます!」
「桜葉!?よせ!」
「僕も行きます!」
「・・・では、レスター・・・こちらの要求は受け入れてもらえるということでいいか?」
「ぐ・・・ぐぐ・・・」
レスターは拳を握り締めて殴れない相手をモニター越しに睨みつけた。
「レスターさん・・・僕たちの事なら心配しないでください!」
「カズヤ・・・リコ・・・二人ともすまない・・・・」
「いいんです、皆さんをお願いします。」
「ではリコ、君の機体にミルフィーを乗せてここまで来てくれ。」
今、一番機と俺が対面すれば面倒なことになるからな・・・
「はい・・・」
リコから絶望感と俺に対する怒りが伝わってくる。恨まれるとは覚悟していたがいざそうなると堪えるな・・・やれやれ・・・“悪役”のつらいところだ・・・
そしてミルフィーユを載せたクロスキャリバーとブレイブハートがメシアの元へきた。
「君たちに絶対に危害は加えない。だから心配しないでくれ。」
「な、なにを今さら・・・!」
「カズヤ・・・俺を信じてはくれないか?」
「馬鹿な事を言うな!!」
「一体あなたは何がしたいんですか!?」
リコ・・・俺にだって事情があるんだよ・・・
リコとカズヤはこの敵の事が分からなくなっていた。戦闘の時はあれ程冷徹に事を進めていくのに今では紳士なのだ。
その時アルモがレスターに慌てて報告した。
「レスター副指令!!何かがドライブ・アウトしてきます!!」
「何だと!?敵の増援は!?」
「こ、これは・・・ラッキースターです!」
「そんな馬鹿な!!」
「H・E・L・Oの反応がありませんラッキースターは無人で動いています!破壊されたハッチから発進していきました!!」
「また勝手に動いているのか・・・一体、何がおきているんだ・・・!?」
レスターは冷や汗をながしながらつぶやいた。
「・・・っ!?」
その時、俺は三時の方向から巨大なエネルギー反応を感知し、迫ってきた巨大なビームを避けた。
「ぐっ!!」
完全には避けきれず、ASフィールドを貫通された右腕を持っていかれた。俺を狙ったのは一番機だった。
その時その場にいた全員が光の翼を開いたラッキースターに注目していた。何故ならラッキースターがうなり声を上げていたからだ・・・
俺は一番機に止まれと命令を出すがその命令を無視するかのようにうなり声を出し続けている・・・そう、一番機や七番機が他の紋章機と違うのはアルフェシオンの命令に従わないということなのだ。
この一番機はアルフェシオンの妹に当たる筈なのだが・・・
「一番機が自らの意思でこの俺を撃つと言うのか!?」
そして、一番機は再びエネルギーをチャージする。本気で俺を倒す気なのだ。今近くにはリコがいるので万が一にも巻き添えにしてはならない。
俺は反撃の命令を待っていたアルフェシオンにデス・ブラスター・キャノンで打ち合えと命令し最大出力でエネルギーを充填させていく・・・ASフィールドを強引に貫通しこのアルフェシオンにダメージを与えた今の一番機には本気で掛からないとこちらが消え去る事になるからだ。
「全員その場を動かず目をとじておけ!直視したら目が焼けるぞ!」
俺はエルシオールを含めた全機に伝え、一番機がハイパー・キャノンが撃つのに合わせて誤差軸を計算して打ち合うラインで最大出力でデス・ブラスター・キャノンを撃つ!
桜色の巨砲と漆黒色の巨砲がぶつかり合い、周囲に物凄い衝撃波と轟音を発生させる。宇宙空間であるのに衝撃波は地震のように周辺の機体を揺さぶり、音は近くに落ちてきた稲妻のように轟音を響かせる!
「うわあぁぁーーーー!!」
「きゃぁぁーー!」
「ぐぅぅぅぅーー・・・!!」
互いのパワーはほぼ互角、腕をやられたアルフェシオンも怒りながら本気で撃っているのだ。惑星を4つぐらい消し飛ばせるぐらいの威力で・・・
そして、5分間による撃ち合いは引き分けで終わる。
いや、一番機がやめてくれたのだろう。
しかし、今だに威嚇を続けている。そんなに 達を連れて行くのが許せないのだろうか?
「何故だ!!そんなに許せないのか!?」
俺は珍しく本気で感傷的に声をあらげた。ラッキースターからの返答は無い・・・・いやまさかとは思うが・・・・。
「タクトか!?タクトを殺したのがそんなに許せないのか!?」
一番機は翼を閉じ、まるでそうだと言わんばかりに帰艦していった。
「くそ・・・!!」
俺は理不尽で頭がいっぱいだった。
俺は「一体誰の為だと思っているんだ」と一番機に訴え続けながら、俺はエルシオールに修理用のナノマシンユニットを渡してリコ達を俺の母艦に連れていった。
メシア隊の旗艦黒き巡洋艦 ノア 主力艦隊の旗艦メベト艦に火力や耐久性は劣るがそれでもネオ・ヴァル・ファスク一の機動性を性能を有する名鑑である。
その中心部にある俺の指令室に馬鹿女(ミルフィーユ)を寝かせ、リコとカズヤを隣の来賓室に案内した。捕虜にされると思っていた二人は不思議そうな顔をして俺を見ていた。もしく何かをされると思っていたのだろうか?
「なにぶん戦艦なのでな君達の戦艦程有意義ではないが必要とされる物は用意した。足りないものがあれば俺にいうといい。」
「どういうつもりなんですか?」
「どういうつもりとは?」
俺は分かっていながらあえてとぼける、予想通りにリコは俺を睨め付けながら声を荒げる。
「どうしてこんな扱いをするんですか・・・!?それにお姉ちゃんをどうする気なんですか!?彼等みたいにまた利用する気なんですか!?」
「ならばどういう扱いならいいんだ?拷問にでもかけろと?」
彼等とは以前リコ達ルーンエンジェル隊が戦ってきた奴等の事だろう。
正確にはブラウド財閥の事なんだが・・・
「それにあの馬鹿女の力など俺には必要無い・・・俺もゲートキーパーだからな・・・」
(そしてリコ・・・お前もゲートキーパーの一人なんだよ・・・)
「な、なんだって!?」
「君達も最初はゲートキーパーを探していたんだろう?だが無駄な事だ・・・本物は俺とあそこで眠っている馬鹿女だけだ・・・」
「どうして言い切れるんですか!?」
「・・・それはその力は俺から馬鹿女が引き継いだからだ・・・」
「えっ・・・・。」
「いや・・・正確に言おう、あの力は俺から遺伝したものだ。」
「遺伝て・・・」
おしゃべりが過ぎたみたいだ・・・やはり俺もこいつ等に対しては甘いみたいだ。
「いずれ知る事になる・・・それにゲートを操るなど我らには過ぎた大罪だ・・・」
「我らだって!?違う!僕達はあなたみたいに軍事利用はしてない!!」
「俺達だってしてないよ・・・それに君達だって軍事利用してないと言えるのか?いくらあの馬鹿女が望んで協力したとはいえ皇国軍が利用したのは事実だ。NEUEへの干渉も他所の勢力から見れば立派な軍の勢力拡大だ。仲良しごっことはいえ立派な軍事利用だ。いずれEDENとNEUEも争う事になるだろう・・・」
「そんな事は無い!僕達はそれでここまで豊かになれたんだから!!リコ達ともあえたんだから!!」
「カズヤさん・・・」
「それはどうかな?それに答えになっていないよカズヤ・・・豊かにはなったが君達は皇国軍のさんかに下った・・・君達の敵はそうとしか受け取らないだろう。」
「そ、それは・・・」
カズヤは言い返せなかった。目の前にいる敵のNo,2がそういっているのだから・・・
「でも敵の人達とも仲良くなれます!!」
「甘いな・・・リコ、君の好きなケーキより甘いぞ、では聞くが、敵の全員がそうなれるか?ゲルンのクソ爺は聞きもしなかったし、我々も和平を望まぬ者達だ。現にエオニアやシリウスも俺の味方だ。」
「何故そうまでして争うんですか・・・?どうして!?」
「少なくともメベトは自分の思うように動けないからだろう、俺達に生活を合わせると色々な制限がつくからな・・・」
俺達?僕は妙な違和感を感じていたヴァル・ファスクの元老院の人達はみんな創造神のメベトを異常なぐらい尊敬し、恐れている・・・なのに目の前にいる敵のNo,2はその神を呼び捨てにした。まるで自分達の敵のように・・・・これではまるで・・・・。
「そうだよ、カズヤ。俺もリコと同じEDENの出身いや正確には、馬鹿女やリコの同じところの出身だ。」
「!?」
「驚かせて申し訳ない俺は相手の心を読めるんだよ、今はもうテレパスを遮断したからな。」
「違います!どういう事ですか?私達と同じ出身というのは?」
「どういう事も何もなぁ・・・そのままの意味なんだが・・・あそこは桜が綺麗だった。君の実家の庭にも両親が大切にしている大きな桜の木があっただろう?」
「ど、どうしてあなたがそこまで知っているんですか!?」
「それは秘密だが、あの馬鹿女の作文をカミュに渡したのはやりすぎたとおもっているよ・・・はっはっはっ・・・」
メシアは笑いながら言う。
カミュ・O・ラフロイグ・・・・お姉ちゃんから聞いたエオニア戦役で戦った相手、ヘル・ハウンズ隊の隊長だった人あまり公には知らされてはいない・・・・・非業の最後を迎えた人だから。この人はあまりにも私達の事を知り尽くしている!
「しかし、あいつの願書を仕官学校にだして正解だったよ・・・あんな万年能天気馬鹿が教師になったら生徒が悲惨だったろうからなぁ、まぁ少し悪い事をしたと思うが、それで今のあいつがいるんだからなぁ。」
「・・・あ、あなたは一体だれなんですか・・・?」
「すまない少し話が脱線してしまったな。悪いがそれは今は言えない。だがこれだけは言える、俺は君達二人の敵にはならないよ。」
「そんな事信じられません!あなたが今までした酷い事は許せません!」
「確かにな・・・だがそれに対して許しを請おうとは思わん・・・俺も己の信念に沿って動いているのだから罪悪感などは全く無い・・・しかし君達に信用してもらう為に・・・」
メシアはフォルテが使ってそうな火薬式の銃を取り出すと地面に向けて一発撃ち、アプリコットに手渡した。驚愕する二人を差し置いて銃を握らせたアプリコットの手を握り自分のバイザーの上のおでこに銃口を突きつけさせる。銃口の熱さが伝わってくるがメシアは無視した。
「あ、危ないです!!一体、何を・・・!?」
「どうしても信用できないなら俺を殺せばいい。君達が俺を殺しても脱出できるようにアルフェシオンに頼んである。」
「あ・・・あぁ・・・」
アプリコットの手が震えるがメシアがそれをおさえる。窮地にある筈のメシアの手には震えはかけらも無い。
「信用できるのなら戦争が終わるまでここにいてくれ、お前や馬鹿女やカズヤも俺が責任をもって保護する。だが、それでも信用できないなら俺を殺してアルフェシオンに乗り馬鹿女とカズヤと一緒に戦争のない静かな所で幸せに暮らしてくれ・・・頼む。」
シャトヤーンやシヴァの事はあの二人に任せてあるからな・・・
まただ・・・この人は戦闘の時とはまるで別人だリコや僕の前では誠実な人間になる。
この人は演技ではなく本気で言っているんだ。
「わ、私は・・・」
「リコ・・・決めてくれ・・・俺の命だけでは信用できないか・・・?」
アプリコットは首を振り泣きながら小さな声で撃てませんと言った。
「・・・ありがとう、リコ。」
メシアは指でアプリコットの涙をぬぐってやり、抱きしめながらよしよしと頭を撫でてやった。
「えっ・・・?」
きょとんとするリコを俺は撫で続ける。
「すまねぇ・・・泣かせてしまって・・・」
アプリコットは不思議な感覚に襲われていた。
どうして私、男の人に触られても何も起きないの?
それにこの感じどこかで・・・どこかで感じた事がある・・・この人と私はどこかで会っていたの?
メシアはアプリコットが泣き止むまで抱きしめまがら頭をなで続けた。
その日はリコの希望で彼女はミルフィーさんの元で寝る事になってそしてメシアは僕と寝る事になった。
「カズヤ・・・ありがとうなリコを選んでくれて・・・」
「えっ?」
僕は唐突な言葉に少し混乱した。
「リコは出来た子だがその分脆い所がある、君にならあの子を任せられる。」
「・・・・・・どうしてあなたはそこまで僕達に関わってくるんですか?」
「・・・・・・」
「戦闘時のあなたは間違い無く最強最悪の敵でした・・・でも今のあなたはまるで・・・まるで・・・」
「まるで家族のようか?」
「・・・・・・」
僕は無言でそれが肯定の意味だと答える。
「君が秘密に出来るのなら、俺の意識がある内に君にだけ俺の正体を知らせよう。リコを任せるんだからな。」
「意識がある内に?」
「・・・秘密にできると誓うかい?」
「・・・分かりました。ただし、リコが泣きついて教えてくれと頼まれた場合は保証できません。」
「ん!?あっはっはっ!はーはっはっはっ!」
「え?」
何とこの死神のメシアが僕の目の前で本気で無邪気に笑っているのだ・・・
「いや・・・!!悪い!悪い!君は正直だな!く、くっくっ!いいだろう!その時は教えてもかまわないさ。」
「・・・そしてあなたが紋章機の開発者だと言うのなら、開発した理由を教えてください。」
「・・・いいだろう、正体を明かせばその理由も明らかだからな。」
メシアがベットから身を起こし僕のベットまで来た。
「君になら問題はないが、俺の眼はいわく付きだからなあまり直視しないほうがいい。」
そう言ってメシアはバイザーに手をかけ・・・
「よぉく俺の顔を見てくれ・・・そうすれば大体見当がつくだろう・・・」
そしてメシアがバイザーを取り外した。僕は頭の中が真っ白になった銀色の髪に整いすぎててとてもこの世のものとは思えない美術品のような顔だちだった。
彼の言っていた眼はあの人と同じ色をしていた・・・いやそうではない!
この顔の雰囲気があまりにもあの人と似すぎている!
「あ、あなた・・・は・・・そ、そんなまさか。」
ありえない!!こ、こんな事が・・・!!
「残念だが君の予想通りだ・・・・今はあいつと同じ色の眼だがある時には鮮血のような眼になる。」
こんな事リコに泣きつかれても絶対に言えない!!
「ど、どうして!どうしてあなたが!?」
「それは紋章機の開発と同じさ・・・君は知らないだろう。俺達の創造主であり、真の天敵でもある神皇の存在を・・・」
「神皇・・・?」
「我等人間の天敵・・・混沌を司る創造主 神皇。
そして俺が引き起こしてしまった真の時空震を・・・」
「真の時空震・・・?」
「俺は許されざる大罪人なんだよ・・・」
一方メシアの部屋ではアプリコットが眠り続ける姉の横で添い寝していた。
「聞いてお姉ちゃん・・・今日不思議な人にあったの・・・私、知らない人の筈なのにどこかであった気がするの・・・私7歳の時の事からしか覚えてないから・・・お姉ちゃん・・・なら誰だかわから・・ない・・・かなぁ?・・・」
涙が出てきて上手くしゃべれない・・・駄目だなぁ私は・・・昔から泣いてばかりで・・・
「早く目を覚まして・・・お姉ちゃん・・・」
その頃エルシオールではメシアの置いていったナノマシンユニットが次々と機体を修理していったのだが、最後にタクトを七番機と共にまゆのようなものに包んでしまったのだ。
「くそ!どうなってやがるんだ!?このままじゃ・・・タクトが・・・!」
レスターはまゆに包まれた七番機を見ていても立ってもいられなくて悩み続けた。その時そばにいたクロミエがレスターの肩を叩く。
「大丈夫ですよタクトさんは無事に帰ってきます。」
「・・・だといいがな・・・」
その時、レスターにアルモから連絡が入ってきた。
連絡は皇国軍から改修したルクシオールがもうすぐそちらに着くと言う内容だった。
「今更・・・来たところで・・・!」
レスターは自分の指揮能力の無さに自己嫌悪を抱いていた為、喜ぶ事など出来なかった・・・
「タクト・・・はやく戻って来てくれ・・・」
レスターは懇願すつような声を出しながら繭に包まれた七番機を見上げていた。
その日の夜、僕、カズヤ・シラナミは眠れなかった・・・死神のメシアの正体を知ってしまったからだ・・・なぜなら彼がリコ達の____だったのだから・・・彼の正体を知ってしまった以上、僕はこの人と戦いたくはなかった。しかし、彼は僕達、皇国軍と戦う気でいる・・・ならば、彼とはいずれかまた戦わなければならないだろう・・・
それは彼が“望んでいる事”だから
「ぐ・・・!ぐぐぐ・・・!」
その時だった。隣で寝ていた彼、メシアさんが急に苦しみ出したのだ。彼はベットから転げ落ちたのだ。
「メ、メシアさん!?」
僕は近寄ろうとして体の動きを止めてしまった。いや、違う・・・
体の自由を奪われたのだ。
そして僕はつい見てしまった!メシアさん変貌した真紅の眼を・・・
鮮血の如く赤い赤い真紅の綺麗な不吉な呪われた眼
「がはっ!!」
次の瞬間、僕は急に息ができなくなり体を急激な気だるさが襲ってきた。
頭で何かが暴れまわっているように頭痛がする。
間違いなくこのままでは僕は殺されてしまうだろう。
メシアさんは呆然とした表情で僕の姿を凝視している。
これが、彼の言っていたリコから離れた理由なのだろう。
「ぐ・・・・は・・・!・・・メ・・・メ・・・シ・ア・・・さ・・ん・・・」
僕は必死の思いでメシアさんに呼びかける。
「・・・カ・・ズ・・・ヤ・・・?」
メシアさんの目が赤から、青へと戻っていく・・・
同時に、呼吸がもどり、体の自由が戻ってきた。
「ゴホ!・・・う・・・ゴホ!」
僕は呼吸が戻ると同時に肺に急いで酸素を送り込んだ。
「しまった!大丈夫か、カズヤ!?」
「あ、はい・・・・もう大丈夫です。」
「すまん!やはりエルシオールに・・・」
「ま、待って下さい!メシアさんがここに連れてきたのは“奴”から僕達を守ってくれる為なんでしょう?」
「カ、カズヤ・・・しかし・・・」
「いえ、むしろここから出たら危ないんでしょう?僕やリコは?」
そう、メシアさんは気まぐれでここに連れてきたわけではないのだ。“奴”が僕達の命を、魂を狙っているからだ。
「・・・本当にすまん・・・!!」
メシアさんは僕に肩を貸しながらひたすら謝っていた。
あはは・・・こういう所は似ているな・・・あの二人に・・・
「いえ、メシアさんが結界をはっている所以外は奴が現われる危険があるんでしょう?だから気にしないで下さい。」
どうやら本当に“その時”へ近づいているらしい・・・
次の日ノアの来賓室ではメシアの希望によりアプリコットが朝食を作る事になっていた。
「カズヤさんもうすぐできますから・・それに・・・メ、メシアさんも・・・」
「あぁ、すまない・・・」
「あ、あぁ、ありがとう。」
昨夜の一件の事で僕は戸惑っていた。リコとメシアさんの関係を知っている僕はリコにその事を伝えたくて仕方なかった。
このまま彼女がメシアさんの正体を知らなかったらあまりにもメシアさんが可哀想だと思ったからだ。しかし、メシアさんには同情はいらないから彼女が知りたがるまで内緒にしててくれと頼まれているから、うかつにしゃべる訳にはいかなかった。
「できました!」
リコの作ったのは炊き込みご飯とわかめと大根のお味噌汁と玉子焼きの和食だった食材と調理器具が豊富に用意されていた為、かなり凝って作られている。
「お、お口にあえばいいですけど・・・。」
と言いながら俺を上目遣いに見てくる。や、やべ・・・!ころっとしそうになった。
「ははは!気にするな、作ってくれただけでありがたいさ。」
俺は玉子焼きを食べてみる。
「ほう・・・玉子焼きには山芋を使ってあるんだな食感がふわふわとしてて上手く仕上がっているな。」
「えっ、メシアさん判るんですか!?」
「そりゃあ・・・ってリコ・・・俺が料理に無頓着だと思ってるんだな・・・?はぁ〜・・・。」
メシアさんが落ち込んだように頭をがっくりと下げる。
「え!えっ!違います!」
「いいんだ、いいんだ・・・どうせ紋章機に乗って暴れている化け物にしか見えないんだろうからさ・・・」
「ご、ごめんなさい、私そんなつもりで言ったんじゃあ・・・・。」
「そうだよなぁ〜こんな化け物が料理が得意だったらキモいよなぁ・・・はぁ〜・・・」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
あっ!やべぇ!!リコが半泣きだ、やりすぎた・・・
「・・・メシアさん・・・」
カズヤの視線が痛い・・・。
「あぁ!嘘!嘘だから悪かったからさ泣かないでくれ!」
「・・・・嘘つくなんて・・・酷いです・・・」
リコがヒックヒックしながら俺を睨んでくるまずいな・・・
「あはは・・・すいません・・・旨い朝食の代わりにデザート作りますから!勘弁して下さい!!」
早速おれはミルフィーユを作る事にした。何せバリエーションに富んでいるし、リコはこいつが好きだった・・・ミルフィーユはパイの生地の柔らかさと適度な硬さの食感が鍵だからな・・・味は生クリームとストロベリーにしようリコが好きな味だ。そして、すでにパイ生地は準備して冷蔵庫の中だ・・・パイ生地は溶けやすいのが面倒だ・・・
僕とリコは鮮やかなメシアさんの腕に驚いている。パティシェの僕から見ても彼の手際には無駄が無い。
(まぁ・・・洋菓子なんて何年もしてなかったからなぁ・・・)
そうは言うけど彼の腕は少しもなまってるようには見えないこれでなまっているというのなら彼は料理の神様だ。
「さぁ、お待たせしたな生クリームとストロベリーのミルフィーユだ。」
「うわぁ・・・」
リコも僕もメシアさんのケーキの出来に感嘆している。
このケーキをデザートコンテストで出したら間違いなく優勝するなこれは・・・
「見てくれるのも嬉しいが、味わってくれた方が嬉しいなぁ・・・」
とメシアさんが紅茶をいれながら僕達に食べるように進めてくる。
「ではいただきます。」
僕達は未知のミルフィーユの味に期待しながら柔らかい生地にフォークを入れて口にする。「!!!」
そして言葉を失う。旨いだけで片付けるのはこの料理に対する冒涜だろう・・・柔らかながらパリパリ感のある生地に少し粘度の高いこの上ない上品な甘さのクリームがミルフィーユによくあっている。
「すご・・くおいしいです!」
リコの顔に笑いが戻る。あぁ・・・やはりこのケーキが好きだったか・・・
「お姉ちゃんのケーキと同じぐらいおいしいです!!」
「い゛っ!?」
あの馬鹿女と一緒にされるのは心外だがリコとカズヤが無我夢中で食べている姿を見てチャラにした。
僕達はする事がなかった洗濯とお風呂を一緒に済ませてしまう何とも便利なロスト・テクノロジーのおかげで時間が有り余っていた。メシアさんが言うには面倒くさくなくていいとの事だ・・・
「暇ですね・・・カズヤさん・・・」
「そうだね・・・タクトさん達今頃どうしているかなぁ・・・」
「私あの人の事が分かりません。敵の時はあんなに冷徹な人なのにここに来てからのあの人はまるで別人です・・・」
「そうだね・・・」
彼から真相を聞かされた僕は相槌を打つので精一杯だった。
「本当にあの人があの紋章機のパイロットなんでしょうか?」
「それは間違いないと思うよ。」
あの黒い紋章機は僕達の敵にもなり、味方にもなる兵器なのだ。
それはあの人も同じだ。僕達には敵意は無くてもあの人はタクトさんの敵であり続ける。それは僕達の敵ということになる。その時、メシアさんが部屋に戻ってきた。この人には軍服しかないらしい。
「すまない退屈だろう?このブロックは自由に使ってくれてかまわないよ。この船は俺の好きなように改造しているから君達の退屈しのぎにはなる筈だ。」
「いいんですか?」
「そうだ、よければアルフェシオンに乗ってみないか?加速力が凄いから驚くぜ。」
こうして僕達はあの紋章機に乗る事になった。
「窮屈にならないように少しスペースを作っといたから狭くないだろう?シートにしっかりとつかまっていてくれよ。」
アルフェシオンの操縦席は僕達のとは違い操作系統のスイッチなどがなくタッチパネルのみのスマートなつくりだった。
「こいつは七番機と同じ動力機構でね・・・基本的に自分でイメージしたことを紋章機がやってくれるんだ。さて・・・」
メシアさんが急に声のトーンを下げ、ブリッジに呼びかける。
「メシアだ。アルフェシオン出るぞ。」
この声は間違いなく戦闘時のものだ。
「了解・・・ハッチを開放します。」
「頼む・・・」
ハッチが開き、アルフェシオンがスロットルを開けて出撃する。
「・・・静かだ・・・」
アルフェシオンの出だしはスピードに反して静かだった。Gがまるでかからないのだ。
「こいつは乗り心地が良くてなぁ、ただ100%で動くと目が気持ち悪くなるだろうから今日は20%で行くな・・・」
「こ、この速度で20%なんですか!?」
リコが驚くのも無理はない、今この機体はランファさんのカンフーファイター以上の速度を出しているのだから。流れていく景色を見れば一目瞭然だ・・・!
「じゃあ飛び回るとするか!」
それから僕達はこの人の技量とマシンの性能の高さを再認識させられる羽目になった。
「にしても三回にも渡るラッキースターの暴走か・・・ったく・・・あの馬鹿がやり過ぎなんだよ・・・少しは手加減しろって・・・」
「手加減はしていただろう・・・周囲にも結界をかけていたし、反物質弾にも制御剤を限りなく入れていたし・・・」
「だからって言ってヘル・バイスまで使うか?タクトの奴は確実に死んだぞ・・・」
「まぁ・・・あれは少しやり過ぎたが結果的には予定通りにいった・・・後はタクト次第だな・・・死後の世界より帰ってこられるか・・・」
(しかし、最後はルシファーとルシラフェルが決める事か・・・)
リョウと相方の二人は白き月の格納庫でパーツの点検をしていた。
「まぁ・・・リコが誘拐された時に比べればまだマシだろう・・・今回はまだ本気などでは無かっただろう・・・何せエンジェル隊は全員生きているんだからな・・・」
「・・・・・・まぁな・・・」
「あいつがかつて本気になった時は約68個もの宇宙を消滅させているんだ・・・本気になればこんなものではすまないだろう・・・まだまだ、タクト達にかけているのさ・・・」
「そうかぁ?ラッキースターの奴もタクトの危機を感知して駆けつけたんだろう?」
「ああ、ラッキースターは全部、タクトの危機に反応して動いている・・・」
「そしてタクトはあちらの世界へ旅立っているんだな・・・」
リョウはどこか懐かしい目をして煙草をふかした。
ちなみに彼は自宅では一切煙草は吸わない・・・いや、吸えないのだ・・・
(タクト・・・必ず強くなって帰って来いよ・・・ミルフィーの為にもな・・・)
リョウが何やら深刻そうに考えていると相方が何かを思い出したかのようにリョウに話しかけた。
「そうだ、あいつからも今回の暴走事故についての苦情が来たぞ?メンテぐらいちゃんとしろこのクソ馬鹿ってな・・・」
「あの野郎・・・って“クソ馬鹿”ってお前が付け加えたのか?」
「いや、俺なら直接言う・・・バーカってな・・・」
「・・・上等だ・・・この野郎・・・」
「タクト、お前を殺してやる・・・!」
俺の夢の中にいつもの声が響く、憎悪すら振り切った鬼のような殺意がはっきりと分かる男の声が・・・毎日のように聞こえてくるのでこれが夢だと分かっていたのだが何故、同じ夢ばかり見るのかが分からなかった。
そう・・・俺が七番機に乗ってからずっと見ている悪夢だ・・・
「お前を殺してやる!必ず殺してやる!全ての地獄をみせて最大限の苦痛を与えて殺してやる!その偽善じみた魂も完全に食い潰してやる!」
俺は何故そうまでして俺を殺したいと思うんだ!?と返すと。男は狂ったように笑い出して・・・
「お前が俺の全てを奪っていったからに決まっているだろう!」
「俺が一体何をしたというんだ!?」
と言い返して夢はいつもここで覚めるのだ。