第一章

シャイニング・サン

 

僕とリコが死神のメシアのところへ連れてこられて二週間目の昼頃、メシアさんから格納庫へ呼ばれた。

格納庫にはカスタムされた二機のゼックイとあのアルフェシオンが搭載されていた。特にアルフェシオンは悠然と二機のゼックイにはさまれて静かに眠っていた。何故だろうか・・・このアルフェシオンには不思議と恐怖を感じないんだ・・・戦闘の時は間違いなく最強最悪の悪魔と化すというのに・・・

「カズヤさん・・・この子って本当は優しい子かもしれないですね・・・」

「え?」

突然のリコの指摘に僕は驚いて振り返った。

「この子はただ単にパイロットの命令を忠実にこなしているだけなんじゃないのかなぁ・・・って思ったんです。」

それは僕も薄々感じていた。アルフェシオンにはもう何回も乗っているけど恐怖は一切感じなかった。僕やリコが操縦を代わっても動いてくれたし・・・

「二人共よく来てくれた・・・」

「きゃ!」

「うわ!?」

いつの間にかメシアさんが背後まで来ていた・・・び、びっくりした〜・・・

「わ、悪い・・・驚かせちまったか・・・?」

「い、いえ・・・少しびっくりしただけですから・・・」

「すまんな・・・どうも気配を消すのが習慣になってしまってるらしい・・・」

「メシアさん、ところで用って何ですか?」

リコも随分とメシアさんに慣れたな・・・まぁ・・・メシアさんの正体を考えれば当然の事なんだろうけど・・・

「勝手にいじらせてもらって悪いが、クロス・キャリバーとブレイブ・ハートに本来のスペックを持たせる為に装甲素材の換装に・・・操縦系統の変更・・・そして二機の武装の追加及び改造を施しておいた。すまんな何分、パーツの搬入に手間取ってな・・・」

メシアさんの正体を考えればそれも容易な事だろう・・・紋章機のパーツはメシアさんが製造開発をしているんだから・・・白き月で今だに・・・

「そこでだ、この機体の起動テスト及び実戦訓練をしたいと思うんだけどいいか?」

「あの・・・メシアさん?」

「何だ?リコ。」

「どうしてあなたはここまでしてくれるんですか?」

メシアさんも困るだろう。本来の目的をまだ言う訳にはいかないんだから・・・

「リコ・・・俺は君達とは方法は違うが、EDENを守りたいと思っているだけなんだ。」

「なら、どうしてメベトに従っているんですか・・・?」

「こっちにも言えない事情があるんだ・・・今はそれしか言えない・・でもお前には信じて欲しい・・・俺は敵じゃ無いと・・・」

僕はメシアさんのフォローに回った。

「リコ、この人を信じてあげようよ。もう同じ釜の飯を食べた仲じゃないか。」

「カ、カズヤさん・・・まるでお父さんみたいな事を言いますね・・・」

リコが驚いた表情でこっちを見ている・・・そしてメシアさんもだ。

(いや、本当にそうだな・・・)

「少し、少しおじさんくさかったかな・・・?」

「い、いえ!そういう意味じゃありません!!ごめんなさい!!」

平謝りするリコ・・・しかし、本当に桜葉家の人は謝る癖があるよな・・・

「い、いや、別に気にしなくてもいいよ。」

「あ〜・・・コホン!」

メシアさんが気まずそうに咳払いをしたので僕達の注意はメシアさんに向いた。

「それでは二人共、紋章機に乗ってもらえないかな?」

「はい!お願いします!!」

こうして僕達は改造された紋章機に乗る事になったんだけど・・・

「こ、これって・・・」

僕のブレイブ・ハートの操縦席は全て入れ替わっていた。

いや、このコクピットはアルフェシオンのものと同じだ・・・

「カズヤ、新しい操縦席で戸惑っているかもしれないが、すぐに慣れる・・・」

メシアさんがアルフェシオンから通信を通して話しかけている。

「え、ええ・・・」

本当に僕にできるのだろうか・・・

僕がそんな不安そうな顔をしているとメシアさんはまた心を読んでいたらしく・・・

「大丈夫さ、イメージするだけでいいんだ。」

「メ、メシアさん・・・テレパスは止めてください・・・」

「え?いや・・・お前の顔で大体の予想がついただけなんだけど?」

「え・・・?あの〜そんなに僕って思っている事が顔に出ていますか?」

「ああ・・・」

・・・なるほど・・・気をつけよう・・・

「メシアさん、メシアさん。」

リコから通信が入ってきた。

「ん?何だ、リコ?」

「私の紋章機、操縦席はあまり代わってないように見えるんですけど?」

「そうだ。クロス・キャリバーの方は装甲やアフターバーナーそしてエンジン部分しか改造は加えてないんだ。下手に弄くるとせっかくの機動性が台無しになるからな。」

「そうですか・・・」

「でも、スペック的にはかなり改造を施してあるぞ・・・ハイパー・ブラスターの出力も向上してあるし、ビーム・マシンガン(機銃)の出力も上げてあるからな。」

「あ、ありがとうございます・・・駄目ですよね、贅沢を言っちゃぁ・・・」

「・・・・・・」

(リコ・・・俺は本当はお前に紋章機に乗ってほしくは無いんだ・・・)

なんて身勝手な事を思いながら俺はそろそろ訓練兼起動テストを始める事にした。

「カズヤ、リコ。そろそろ外に出るぞ・・・?」

「はい!」

遂に新しい僕達の紋章機が動くんだ。

「あ、言い忘れていたけど今度からは二機が合体した場合はリコがガンナーになってカズヤ君がメインを担当する事になる。」

「え、えぇーーーーー!?」

「そ、そんな急に言われても!」

僕もリコと同じ事を言いたい。

「驚くとは思っていたけど、これはカズヤの能力を引き出す為に必要な事なんだ。」

「そ、そんな僕にそこまでの能力なんて!」

「いや・・・君にはそれだけの能力がある筈だ・・・それに君は男でリコの彼氏じゃないか・・・守ってやれよ・・・な?」

「う・・・そう言われると返す言葉も無いです・・・」

「カ、カズヤさん・・・お願いしますね・・・」

お互いに何か気まずい・・・いや、恥ずかしい・・・メシアさんが守ってやれよなんて言うから・・・些細な言葉が僕とリコの間では些細な言葉では無くなっているんだ・・・

「いいか?二人共・・・アフターバーナの性能も格段にアップしているからいつもと同じ感覚でいくと大変な目にあう。一応コクピットは対G仕様だが、速度が最高水準を上回るとどうなるかはわからないから気をつけるんだぞ。」

「は、はい・・・」

「本当に大丈夫か・・・?出力は20%ぐらいがベストだろう・・・スロットルは左右とも開度40%から始めるんだ。いいな?」

「はい!」

「では、行こう・・・エオニア、ハッチ解放だ。」

三機の紋章機のエンジンが一斉に始動を開始した。

 

「了解、ハッチ開けます。」

「・・・・・・」

ブリッジではエオニアが真面目に職務にはげんでいるのに対してシリウスは至って不真面目だ・・・ブリッジで退屈そうに胡坐をかいている。

「メシア、計三機出るぞ・・・!」

三機が宙域に出た後でシリウスが下らなそうにつぶやいた。

「ったく、見ちゃられないぜ・・・あの天下の隊長様が仲良しごっこかよ・・・」

「シリウス・・・何もそこまで言う事はないだろう・・・」

「へ!虫唾が走るぜ・・・!!」

(まったく・・・ただの嫉妬だろうに・・・)

シリウスは立ち上がり、ブリッジの出口へと向かった。

「おい、どこへ行くつもりだ。」

「自分の部屋だよ。これ以上、子供の茶番劇なんて見てられっかよ!」

そう言うとシリウスは出て行った。

「やれやれ・・・子供はお前だ・・・」

エオニアはため息をついて艦の周囲の索敵を続けた。

それはいつ、の襲撃を受けるか分からないからだ・・・

そして、敵の狙いはカズヤとアプリコットだからだ。

それ故に死神のメシアは二人をここへ連れてきたのだ。

タクトがそこそこ強ければこんな事にはならなかったのだが・・・

結果的にはカズヤ達の訓練が可能となったのでよしとするべきか・・・この改造は本来、本当の戦争が始まった時に施される筈だったのだから・・・

 

「うわーーー!」

「カ、カズヤさん!速度を落としてーー!!」

「や、やっているよーーー!!」

俺の目の前でカズヤ達の紋章機が自由自在に宙域を暴れている・・・

何とも愉快な光景だな・・・

「カズヤ・・・停止しろと頭の中で叫んでみろ。」

俺は笑いを堪えながらカズヤにアドバイスをした。

「は、はいーーー!!」

僕が頭の中で止まれーーー!と叫ぶと機体はすぐさまに止まった。

無論、慣性の法則に基づきもの凄いGがかかる筈なのだけどメシアさんの言う通り

このコクピットには対Gが施されていてショックは受けない・・・

「はぁ・・・はぁ・・・リコ・・・だい・・じょう・・・ぶ?」

僕は自分のせいだという事を棚に上げて無責任な事をリコに聞いた。

「は、はい〜何とか〜・・・」

リコの声はまさに“はらひろはれ〜”だ。

堪えろ俺・・・笑っちゃ・・・駄目だ・・・く、くく・・・

「カズヤ・・・慣れない内はさっきみたいに命令を出すようにすればいい・・・」

「は、はい・・・」

それから一時間ぐらいカズヤはぎこちなく機体を操作していたが、やがてカズヤは操縦のコツを掴んだらしく、上手く操り始めた。

「す、凄い・・・乗りやすい!急反転にもすぐに対応できる・・・!!」

(これ本当にカズヤさんが操縦しているの!?)

リコが驚くのも無理は無い、限りなく旋回の隙を殺したノーマルターンとスネークターン・・・そして細かに変化させているスロットルの開閉の抜群なコントロール・・・

(やはり、カズヤには天性の才があるか・・・)

俺は少しカズヤの限界領域の力が見てみたいと思い、カズヤにある提案を出してみる事にした。

「なぁ、カズヤ。俺と紋章機の操縦テクニックで勝負してみないか?」

「え?」

「なぁに・・・俺の機体にそちらの機体の一部が触れれば君の勝ちってのはどうだ?」

前の僕なら恐怖でこんな無謀な勝負は受けなかっただろう・・・でも・・・今はこの人と勝負がしてみたいと思っている・・・伝説の紋章機のパイロットにどこまで付いていけるのかを試してみたい・・・僕がこれからの激闘でリコ達を守り抜けれるのかを確かめたい・・・!!

「リコ・・・僕は自分の力を試してみたい・・・いいかな?」

「わかりました・・・カズヤさんファイトですよ!」

「うん!」

よし、リコからのエールでテンションが上がってきた!とは言っても僕のブレイブ・ハートは紋章機なんかじゃ無いんだけどな・・・

(まさか・・・そのブレイブ・ハートこそ唯一このアルフェシオンすら凌ぐ最強の戦闘機さ・・・紋章機で無いのは紋章機というレベルから超越しているからさ・・・

カズヤは気付いていないだろうが、俺はその機体の底力を見てみたいのだ・・・

アルフェシオンエクストリームの原型となったその機体の底力をな・・・

「ではカズヤ・・・俺に触れられるかな?さっきも言ったが機体の一部でも触れられれば君の勝ちだ・・・特別に武器の使用を許可しよう。俺が被弾しても君達の勝ちだ。」

アルフェシオンが加速して僕達の背後に逃げ込んでグングン離れていく。

「いくよ!リコ!!」

「はい!」

僕は機体を反転させてメシアさんの後を追いかけた。

(カズヤ・・・見て盗め・・・そして強くなれ・・・!)

俺は機体の走行ラインをスネーク(蛇足)しながらカズヤの視覚に揺さぶりをかけた。

メシアさんとのアドバンテージは約8000だ・・・

「本当に攻撃してもいいんでしょうか?」

「大丈夫だよあの機体なら・・・」

クロノ・ブレイク・キャノンでもビクともしなかったんだから・・・

「なら、いきます!」

リコが出力が向上したホーミングレーザーとビームマシンガンで攻撃を開始した。

「・・・来たな・・・!」

メシアさんはラインを崩してビームマシンガンを回避して、ホーミングレーザーはひきつけてホーミング性を殺した後で旋回して逃げた。

「回避されたの!?」

やはりこの人の操縦テクニックは凄い・・・こちらの武器を知り尽くしているとはいえあそこまでできるものだろうか・・・

僕は速度を上げて逃げていくアルフェシオンに追いつく為に徐々にスロットルの開度をあげていく。辺りの風景は今までとは明らかに違う、こちらの速度が上がっているんだ・・・!!

「見えた・・・!」

遂に僕はメシアさんに追いついた。

「ここからが本番だぞ?」

僕の前を直進していたアルフェシオンが急反転して僕の背後をとろうとしてきた。

「く・・・!またこれか!」

僕も負けじと機体を急反転させる。

僕とメシアさんは円を描くように回り続けた。

「あたって!」

リコも必死に攻撃してくれているけどこの状態で攻撃を当てるのは難しい・・・

確実に当てるには互いにバックを取るしか無い!!

「ふ・・・まだまだ、甘いな・・・」

しかし、メシアさんもそれがわかっているらしくて旋回をやめない。

この勝負は旋回の弧が小さい方が勝つんだ。つまりは旋回力とスロットルの使い方が勝敗を握っているんだ・・・!

僕達は今、反時計周りに回っている。つまり、左のブースターのスロットルをギリギリまで閉じて、右をギリギリまで開けばより小さい弧を描ける・・・!

でも問題はやりすぎるとただ単に回転してしまうという事だ・・・

でも、僕はこの改造されたブレイブ・ハートの性能をよく知らない・・・だから少しづつ近づけていこう・・・

僕の描いた旋回の弧が少しづつメシアさんの弧より小さくなっていく、メシアさんはかなり弧を大きくとっていたようだ・・・やはり、手加減してくれているのか・・・

(カズヤ・・・本当に才能に恵まれた男だ・・・スロットルの開閉を限界近くまで近づけていっている・・・俺も少し本気を出さないとな・・・)

・・・!?メシアさんの弧がどんどん小さくなっていく!?このままじゃ追い抜かれる!

僕も負けじと限界まで弧を小さくしていく・・・

「う、カ、カズヤさん・・・」

「ど、どうしたの!?リコ!」

「私・・・目が回っちゃいました・・・・」

「・・・ブッ!!」

死神はカズヤ達にばれないようにふき出した。

う〜ん・・・これは仕方ないな・・・

「メシアさん!リコが目を回しっちゃって・・・」

「・・・く・・・くくく・・・」

「・・・?メシアさん?」

「い、いや!き、聞こえているよ・・・」

メシアさんの声がどうもぎこちない・・・あ!まさか・・・!

「メシアさん・・・笑ってましたね?」

「い、いや!?滅相も無い!」

その反応はかえって怪しすぎますから・・・

「ひ、酷いです・・・笑うなんて・・・」

リコの言うとおりだ。

「・・・はは・・・すいません・・・」

メシアさんは頭をぽりぽり掻きながら謝った。

結局僕は目を回してダウンしたリコとドッキングを解除して一機になった・・・

リコは先に帰還してしまった・・・大丈夫かなぁ・・・一応敵の艦だし・・・

「心配はするな・・・エオニアがついている・・・それよりここからが重要な訓練だ。」

「はい。」

「実は君の機体にはナノマシン製のフライヤーを取り付けている。」

「そのフ、フライヤーって!まさかアルフェシオンと同じもの・・・」

「そうだ・・・君になら使いこなせるさ・・・使い方もイメージするだけでいい。」

・・・そんなに簡単なものなんですか?

「いいかい・・・一機のフライヤーをイメージしてごらん・・・好きな形状でいい・・・」

なら・・・メシアさんのフライヤーをイメージしてみよう・・・

あの鋭利な形状は独特だ・・・コウモリのようなフライヤー・・・

するとブレイブ・ハートの後方部に新たに増設されていたコンパクトな射出口から一機のフライヤーが飛び出してきた。

「こ、これはさっきイメージしたのと同じだ・・・」

「そうだ・・・君は一機のフライヤーをイメージし、L,Eシステムがそれを感知してナノマシン達に号令を発して瞬時に形成されるんだ・・・このシステムを俗にナノマシン形成と言ってね・・・アルフェシオンの変形機能を実現させている優れものなんだ・・・」

「これも・・・レイさんが・・・?」

「まぁ・・・そうなるな・・・」

この人のIQて一体いくらなんだろう・・・?

「次は操作だが、これもフライヤーが飛び交う姿をイメージすればその通りに動いてくれる・・・敵をイメージして攻撃したり、宙域を飛び交う姿を連想して飛ばしてもいいんだ・・・このフライヤーには精神周波数は存在しないから、君だけが操れるんだよ。」

それから30分ぐらい一機のフライヤーを操った。そして本当に簡単だった・・・

「今度はぶっつけ本番といこう。今度は一機では無く、複数のフライヤーをイメージしなくてはならない・・・射出するフライヤーの数の大体の目安は四機が妥当だろう・・・それでいいな?」

「はい!お願いします!」

僕は頭の中で四機のフライヤーをイメージする。

フライヤーすぐに形成された。

そしてメシアさんもフライヤーをニ機出してきた。

何か本当の戦闘みたいで緊張するな・・・この人がフライヤーを使おうとしているのを見ると特に・・・

「いくぞ!」

「はい!」

メシアさんのニ機のフライヤーが螺旋のように交差しながら迫ってきた。実はこのフライヤーの有効射程はかなり広範囲なのだが、接近させた方が相手にとってのプレッシャーになるからだとメシアさんはアドバイスをくれた。

「いけ!!」

僕も四機のフライヤーがメシアさんのフライヤーを撃ち落す光景をイメージした。

しかし・・・メシアさんのフライヤーは僕のフライヤーのビーム砲をあっさりとかわしてしまった・・・やはりそう簡単にはいかないのか・・・

(・・・凄いな・・・俺がカウンターを入れられなかったとはな・・・)

俺は今、カズヤのフライヤーをカウンターで撃ち落とせと命じたのだが、カズヤは無意識の内に俺のフライヤーの死角地点にフライヤーを配備していたのだ・・・その為、回避する事しかできなかったのだ・・・

(間違いない・・・カズヤは本物の天才なんだ・・・)

こうして僕はメシアさんとの訓練の日々を過していった・・・

 

 

「ったく・・・派手に壊しやがって・・・!」

「仕方あるまい・・・ブースター部分は無事だ・・・さすがによく計算しているな・・・」

「何だよ?弟子の自慢か・・・?」

「お前こそ・・・自慢か?」

「殴るぞ・・・テメェ・・・」

リョウと相方は大破したエルシオールの回収作業にきていたのだ・・・

「しかし、これだけ大きいものを相転移させるとなると骨が折れるな・・・」

「いいからやれ・・・もうすぐルクシオールはメベトと交戦に入るんだからよ・・・」

「あ、言い忘れていた。あいつからの定期報告でタクトがもうすぐ無事に帰還してくると報告がきていた。」

「マジか!?そうかそうか・・・!」

リョウはこの上無く喜んでいる・・・

「やれやれ・・・」

「という事はタクトは強くなれたんだな・・・」

「ああ・・・タクトは無事に神皇を討伐したとの報告だ・・・」

「そうか・・・」

何故かリョウの目はどこか寂しげだった・・・

 

一方、ノアに旗艦したアプリコットは気分が悪いので自室兼姉が眠っている部屋で眠ろうと急いだ・・・

しかし、姉の部屋には先客がいて、アプリコットはその先客を見て凍りついた。

その先客は姉・・・ミルフィーユの手を大事そうに握って看病をしているからだ。

そして、その目にはうっすらと涙がこぼれている・・・

しかし、アプリコットが凍りついたのはその先客があのシリウスだからだ。

 

何て悲しい目をしているんだろう・・・見ている私まで悲しくなるような目・・・

救いたい人を救えない自分を責めているような目・・・

タクトさんや私みたいな・・・

シリウス・・・その名前はお姉ちゃんから聞いた事がある。お姉ちゃんがタクトさんと出会って間もない頃に立ち寄った惑星リウスという所の皇子だ・・・

惑星リウスは時空震後の外からの救助が受けられず、代々よそ者を受け入れなかった星だ・・・そんな惑星でお姉ちゃんとシリウス君は出会ったと聞いている・・・

お姉ちゃんが言うにはとっても素直でいい子だって言っていたけど、戦闘の時はとっても怖い子にしか見えなかった・・・でも今のこの子はとっても脆く見えてしまう・・・

「ミルフィー・・・いい夢を見ているのか?」

そして今の彼の言葉にはいつものような毒が入っていない・・・

その喋り方はまるで恋人に話しかけているような優しい声だった・・・

「ごめんよ・・・俺が・・・俺が弱いばっかりに・・・

え?

君を・・・守れなか・・・ッ!!!!」

次の瞬間シリウス君がハッと驚きこちらを振り返った!

「わ、私・・・そんなつもりじゃ・・・」

シリウス君の目にいつもの毒々が宿った。

怖い・・・物凄い憎悪の目が私を睨んでいる。

「お、お前・・・今のを見ていたのか・・・?」

「は、はい・・・ごめんなさい・・・」

シリウス君が近づいてくる。

「ご、ごめんなさい!」

私はもう泣きだしたかった・・・いやもうすでに泣いていた。

そしてシリウス君が遂に私の目の前に来た。

年齢的に背丈はほとんど私と変わらない。

「気持ち悪いから泣くな・・・いつまでも甘ったれてんじゃねぇよ・・・」

そう言うとシリウス君は桜色のハンカチで私の顔を拭いてくれた。

「え?あ、あの・・・」

シリウス君は表情を変えずに桜色のハンカチを仕舞い

「・・・・・・この事は絶対に誰にも言うなよ・・・」

部屋の出口に向かいながら言った。

「待って!」

私は何故かシリウス君が他人のように見えなかった・・・

「・・・・・・」

シリウス君は足を止めてくれた。話を聞いてくれるという事なのかな・・・?

「シリウス君はどうしてここに入っているの?」

私はその理由を知っているのにも関わらず聞いてしまった。

「決まっている!タクトを殺せるからだ・・・」

「・・・でもそんな事をしてもリウスの人達が悲しむだけだよ・・・」

私はタクトさんを憎む理由は何なんては言わなかった・・・それは聞いてはならない事だからだ・・・

「悲しむ?・・・誰がだよ・・・?」

「え?それはお母さんとか・・・」

死んだ者達がどうやって悲しむんだよ?」

「え?今・・」

「死んだって言ったんだよ・・・リウスはとうに死の星だ・・・生き残ったのはこの俺だけだ・・・

そう言うとシリウス君は今度こそ部屋を出て行った。

「そんな・・・リウスがそんな事になっていたなんて・・・」

どうして皇国はそんな大事な事を隠していたんだろう?

 

「新しいルクシオールか・・・」

レスターは改造されたルクシオールでエルシオールから搬入した荷物の収納におわれていた・・・

ちなみにレスターは今、司令室でタクトの荷物を整理していた。

「タクトは必ず帰ってくる・・・」

そう念仏のように唱え続けながら・・・

一方エンジェル隊達も荷物の搬入に追われていた。

「ふぅ〜ミルフィーって本当に荷物が多いんだから・・・少しはこっちの身にもなれっつぅのよ・・・」

ごめんねランファ〜という声がしてこない・・・

ランファは親友がいないとわかっていても敢えて言ったのだ。

「ミルフィ〜・・・目を覚ましたら一発ぶん殴ってやるんだから・・・」

ランファはそういいながらミルフィーが愛用していたエプロンを取り出していた。

「あたしも料理しようっかな〜・・・」

 

「まったく世話が妬ける子ね〜」

「そ、そうですに〜・・・」

そして、リコの部屋ではテキーラとミモレットが荷物の整理をやっていた。

「本当にあの子はトラブルに巻き込まれる子よね〜」

「そ、そうですに〜・・・」

ミモレットはわかっていたテキーラがとても落ち込んでいるのを・・・

何故ならアプリコットは一番最初にテキーラと打ち解けた仲間だからだ。

おそらくはテキーラにとっては最も信頼の置けていた仲間では無いだろうか・・・

「そしてカズヤも・・・」

「そ、そうですに〜・・・」

「・・・・・・」

テキーラは荷物を置いてムスっとした顔でミモレットを見下ろした。

「ど、どうしたですに・・・?」

「ミモレット・・・あんたねぇ〜・・・」

ミモレットは直感的にテキーラの怒りを感じて逃げ出そうとするが

「ムギャ!」

ガシと捕まえられた。そして、テキーラはドアに向かって大きく振りかぶって・・・

「さっきからそうですに〜としか言ってないじゃないのよーーーー!!」

思いきっし投げ飛ばした。

「そうですに〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

カズヤの部屋ではアニスとナノナノが荷物の整理をしていた。

「カズヤの奴・・・あまり手持ちの荷物が無いんだな・・・」

アニスはカズヤのもの欲の無さに少し感心して大きく呆れていた。

「親分・・・カズヤは帰ってくるのだ?リコたんも・・・」

「ナノ・・・」

二週間前死神のメシアに壊滅させられて以来ナノナノの様子はずっとこんな感じだ。

母親代わりのヴァニラがいても一向に笑わない・・・

「タクトも・・・リコたんのお姉たんも・・・帰ってくるのだ?」

「・・・よぉく聞けよナノ・・・」

アニスは荷物を地面に置いてナノナノの両肩を掴んで正面に振り向かせた。

「お、親分!肩が痛いのだ!!」

「いいからよく聞け!」

アニスの大きい声にナノナノはビクっとなって固まり、大人しくなった。

「ナノ・・・お前は誰の子分だ?」

「お、親分なのだ。」

そう言ってナノナノは不思議そうにアニスを見ていた。

「それじゃあ次だ。そのお前の親分は何の仕事をしている?」

「ん〜?紋章機のパイロットなのだ!」

「違う!って違わないか・・ってそうじゃなくってもう一つあるだろう?俺の本当の職業が・・・」

「んん〜〜〜?・・・っ!?分かったのだ〜!!」

「それは何だ?ナノナノ・・・」

アニスの表情は自信に満ちていた。

「泥棒さんなのだ!!」

その速さはまさに0.6秒の世界だ。

アニスの両手がナノナノの頬を掴んで・・・

グイグイ!と引っ張った。

「い、痛いのだ〜〜〜!!」

「い・い・か・ら・よ・く・き・け・お・れ・は・ト・レ・ジャー・ハ・ン・ター・だ!!って・な・ん・べ・ん・い・わ・せ・れ・ば・わ・か・る・ん・だ!!!」

「わ、わかったのだ!親分はトレジャーハンターなのだ!」

わかったから離してほしいのだ!と声にならない声で必死に謝るナノナノ・・・

「そうだ・・・俺はトレジャーハンターだ・・・」

コホンと咳払いをしてナノナノを解放して腕を組むアニス。

・・・・・・今更、威厳を保とうとしても、もう手遅れだろうに・・・

「ふぅ〜ふぅ〜・・・痛かったのだ〜!」

涙目で頬を擦っているナノに対してアニスは堂々と宣言した。

とは言ってももはや威厳などありはしないが・・・

「いいか・・・ナノ・・・トレジャーハンターってのは待つんじゃねぇ・・・探しに行くもんなんだよ・・・帰ってこないのなら迎えに行けばいいんだよ・・・」

「・・・そうなのだ・・・親分の言うと通り、迎えに行けばいいのだ・・・!」

ナノナノにいつもの調子が戻ってきたようだ・・・

「親分さっすがなのだ〜!カッコいいのだ!!」

「そうだろう・・・そうだろう・・・!」

人から褒められる事に弱い女アニス・・・

アニスも少しは親分としての威厳がたもたれたであろうか・・・

 

「本当に派手に壊してくれたよ・・・あの死神さんは・・・」

「でもフォルテさん・・・あの人の残したナノマシンユニットでここまで復旧ができました・・・」

ヴァニラはカタカタとパネルを操作盤にプログラムを打ち込んでいく・・・

「まぁねぇ・・・」

残りのエンジェル隊達は紋章機に乗り込んでシステムのチェックをしていた。

「それが妙ですわね・・・」

「まぁ、確かにミントの言う通りだね・・・あいつはいつでも私達を殺せた筈なのにそれを敢えてしなかった・・・そして撤退する時の言い分があまりにも取り繕っていたような感じだったしね・・・」

「敢えてしなかったというよりも出来なかったのかもしれませんわね・・・

「・・・?どういう事だい?」

「ほら・・・今までは短期間で襲撃してきましたけどミルフィーさん達を連れって行って以来、何も仕掛けてきませんでしょ?」

「言われてみればそうだな・・・」

「あら、リリィさん来ていらしたの?」

「ああ、ちとせ大尉の手伝いをな・・・」

「ちとせはまだ、必死に新しい紋章機と格闘中かい?」

「はい、何でも使い勝手が違うとかで今はシステムを最初から構築しています・・・火力、装甲面は大幅に向上したものの機動性においては致命的に下がりましたから・・・」

「でも言い方を変えれば優秀な母艦援護機って事にならないかい?」

「確かにそうですね・・・おそらく現状ではちとせさんの紋章機がもっとも火力が高いと言っても良いでしょう・・・」

「何だか寂しいねぇ・・・火力で負けるってのは・・・」

「まぁまぁ・・・フォルテさん戦艦も新しくなった事ですし、今度はこちらから仕掛ける番ではありませんか・・・」

「だね・・・あのクソ陰険野郎からカズヤ、リコ、そしてミルフィーを取り戻すよ・・・みんな今度は絶対に負けるんじゃないよ!!」

フォルテのその言葉に他のメンバー達も力強く頷いた。

 

「タクトが戻ってきます・・・従って予定通りに計画を最終段階に移します・・・」

「メベトか?」

「はい・・・奴はこの時の為に生かしてありましたから・・・」

「なるほど・・・旧十二傑集の一人を生かしておいたのはこの為か・・・」

「残酷などとは私は思いません、私はこの計画を成功させる為ならば手段を選びません・・・できなければ我々はただ死ぬだけですから・・・」

「それがお前と神皇の違いだな・・・神皇はお前と違い、他者を犠牲にするぐらいなら自らが死ぬ事こそが真理だと信じている・・・ある意味で奴の言っている事も正しい事ではあるのだがな・・・もっとも神皇の言う他者とは人間以外の存在全てだけどな・・・きっと人間100人の命より、一匹の蟻の命の方が大事なんだろうな・・・

「我々は人間ですから汚れているのは当たり前なんです・・・それが創造主という立場にいる神皇には我慢できないのでしょう・・・虫に刺されたかゆみのように・・・」

「なるほど・・・やはり創造主ゆえに我々のような人間中心の考え方では無いか・・・」

「俺と成長したタクトの戦いが始めればあいつの性格と今までの言動からして乱入してくるのは間違いありません・・・それからはタクトの役目です・・・果たしてタクトがルシファーにどれくらい愛されているのかどうか・・・」

俺がタクトと戦った時はタクトはルシファーとのDNAレベルまでの体液の交換を済ませていた。だからこそタクトは転生に成功しEDENの騎士として認められたんだ。そして、だからこそあいつはエクスカリバーを授かったんだ・・・

EDENの騎士ですか・・・」

「騎士・・・やはりその名は引っ掛かるか・・・」

「はい・・・俺も騎士を目指していましたからね・・・」

「・・・俺もさ・・・」

「・・・ですが、俺にはもうその資格はありません・・・ならば戦士となって戦い続けるだけです・・・守る為に壊すのが俺の役目ですから・・・

「そうだな・・・しかし、お前はいいのかそれで?」

「俺にはもうたくさん愛が注がれました・・・シャトヤーンやエオニアを傷つけた悪魔である筈のこの俺に・・・愛なんて注がれる価値の無い俺に・・・ですから十分です、悔いはありません・・・ただし・・・今回で神皇が倒れてくれるのならですが・・・

・・・・・・ゼイバーが現存する以上難しいだろうな・・・

「はい・・・」

「そして、もう一人の死神のメシアが目覚める条件を一つクリアしてしまった・・・タクトがルシファーと愛し合ってしまった為に一つ目の条件を満たしてしまった・・・そしてカズヤとフェイトが交わった時にそいつはEDENに姿を現すだろう・・・

「かと言ってあの二人の仲を引き裂く事など不可能ですし、する気もありません。これは俺の我侭ですが・・・最後まで貫き通します・・・

「ははは!わかっている・・・リョウもカズヤならば異論は無いらしい・・・あの親馬鹿があそこまで入れ込むとは珍しい事もあるものだ・・・」

あいつはルクシオールでずっとカズヤを見ている間に決断したのでしょう・・・俺もカズヤはまだ大人にはなりきれてはいないと思いますが、騎士としての資格はあります・・・」

NEUEの騎士か・・・」

「それは違います・・・NEUEの騎士とはあいつ望んでいるEDENへの復讐鬼の事です・・・何せあいつはEDENに虐げられてきた者達の救世主ですから・・・

「なるほど・・・死神のメシアか・・・」

「俺は・・・カズヤをリコの騎士だと思っています・・・NEUEからもリコを守り通す・・・正義よりもリコを守る騎士だと・・・」

「そのNEUEの民は本当に過酷な運命を背負っているな・・・そしてその代表たるルーンエンジェル隊・・・運命の天使か・・・その運命があいつが定めた呪われた運命だとも知らずに・・・

・・・確かに過酷ですがそれが運命ならその過酷な運命の中で生きていくしか無いのです・・・人は常に運命と戦い続けるのですから・・・時には救われ、時には突き放され、時には翻弄され、時には導かれる・・・それが人と運命の戦い方です・・・

「なるほど・・・最強最後の敵・・・それは運命か・・・」

「その為にカズヤには強くなってもらわないとならないのです・・・月の天使に負けないぐらいに・・・

「ルシラフェルよ・・・もし、あの計画 オペレーション・ラグナロクが最終段階に入った時はお前EDENの敵となるのか・・・?」

「それはありません・・・最終段階に入る時はあいつがこの世に実体化した時です。

そして奴が条件を満たす時は俺はもういません・・・

「・・・・・・本当にそれでいいのか?お前の人生は・・・

「かまいません・・・カズヤとリコが結ばれる・・・それ以上の喜びがありましょうか?」

「ミルフィーの方はもういいのか?」

「あっちは最初から分かりきっていましたから、あの馬鹿女は間違いなくタクトと結ばれると・・・」

「根拠は?」

シリウスが実体化している事が根拠です。タクト達がリウスに向かい、そこで馬鹿女とシリウスが再会した時点ですでにあのバカップルが結ばれるなんてのは目に見えてましたから・・・」

「なるほど・・・それで色々な小細工を仕掛けてタクトを試してみた訳か・・・

「まぁ・・・そんなところです・・・俺が最初に見たかったのはあの莫迦(タクト)の人間性と決断力です。ギリギリでしたが、タクトは合格にしました・・・」

「なるほど・・・それで七番機の改造か・・・そういえばルシャーティはどうした?」

「はい、無事に保護しております。」

「そうか・・・良かった・・・」

「ええ・・・まさかあいつがあれほどあの二人を憎悪しているとは思いませんでした。

ダミーにはあいつ喜びそうな台詞をインプットしていたんんですけどあそこまでやるとは思いませんでした・・・」

「あいつも神皇にいいように利用されているだけなのにな・・・

「ええ・・・神皇が何らかしらの暗示をかけているのでしょうがさすがの私にも分からないほどの暗示です。色んな解呪を試してみましたけど効果はありませんでした・・・」

「そうか・・・しかし・・・俺も衰えたものだな・・・頭のキレが鈍っている・・・」

「まさか・・・シヴァとシャトヤーンを守ってくれているではありませんか・・・」

お前が守っているものに比べればどうという事もないだろう・・・

二人は軽く笑い合った・・・しかし、もう時間が無い・・・

「・・・それではマスター・・・タクトが戻ってくる20分前にメベトを起動させます・・・

「わかった・・・こちらもノアと共に無人機の用意をしておこう・・・」

「手加減はしませんよ・・・マスター・・・」

「俺もだルシラフェル・・・」

 

は今、毎日桜の花が舞い続けるこの森でルシファーと最後の別れをしていた。

別れを惜しむようにお互いを強く抱きとめていた。

彼女の背後にあるのは黄金の戦闘機・・・

そして、俺の背後にあるのは生まれ変わった七番機だ。

ルシファールシラフェルはこれより神皇との戦いに赴く・・・

これから神界戦争が始まるのだ。

周りがじわりじわりと闇に侵食されていく・・・

それは偉大なる神々の暗闇だ。

全ての終焉・・・そしてその後に新生が待っている・・・

その為に彼女は戦うのだ。神皇 タイラントと。

神皇は人間の味方などでは無い。

神皇は全ての神々を統べる者であり全ての創造主ではあっても、神皇が愛するのは人間以外の創造物だけなのだ。そして人間にとっては神皇は最凶の天敵である。

全てのものには因果がある・・・

神皇が人間の天敵になった事にも因果が存在する。

それはロキから教えてもらった言葉である。

別れの時が来た。俺達はどちらからとでもなく離れた。

俺はもう泣かない・・・泣く事は許されない・・・

ロキとの約束を守らなければならない・・・

ミルフィーユ・桜葉を取り返さなければならない・・・

そして、俺が七番機に乗り込もうとしたその時、ルシファーが俺の手を掴んだ。

「ル、ルシファー・・・?・・・ん!?」

ルシファーの口と俺の口が重なる・・・

柔らかくくすぐったくて暖かい感触・・・そして、頬に伝わってくる冷たい感触・・・

彼女は泣いていた。

「・・・タクトさん・・・私が生まれ変わっても私の事を忘れないでください・・・」

それが彼女の最初で最後のお願いだった・・・

「当たり前だ・・・忘れてたまるか・・・俺は君を助ける為に帰るんだから・・・」

(は!よく言う!守りきれなかった貴様が!!)

「私も絶対にタクトさんの事を忘れませんから・・・!」

その言葉から彼女の必死な様子が伝わってくる・・・

そして彼女は一目散に黄金の紋章機へと走っていった。

こちらを振り返らずに・・・

彼女には俺と違って記憶は残らない・・・

新しくミルフィーユ・桜葉として転生するルシファーには今までの記憶は引き継がれないのだ・・・

この神界から選ばれたのは俺だけだ・・・

生き返る事を許されたのは俺だけなんだ・・・

神界を終焉させるルシファーはその役目を果たした後で深い眠りにつく・・・

ルシファーの魂だけが・・・眠りにつくのだ・・・

そして、その体は__の_のルシラフェルが受け継いで

終焉後の世界を新たに開拓するのだ。

それがEDENの創世の始まりだから・・・

彼女はその役目を果たさなければならない・・・

その背後にある

 黄金の紋章機 ラグナロク 

にて

この神界を終焉させなければならない。

神皇の一部であるこの神界を・・・

やがて彼女は最後に一度だけこちら未練そうに振り返ると紋章機に乗り込んだ。

紋章機に乗り込んだ瞬間に彼女は天使から悪魔と化す・・・

これより最初の天使ルシファー最初の悪魔 ルシラフェルと化すのだ。

 

「もうそろそろか・・・」

レスターは皇国へと急いでいた。

現在ルクシオールはクロノスペースを巡航中だ。

皇国から帰還命令がでたからである。

ルフトの話によれば白き月の居場所が判明したとの事で、密かに進めていた皇国軍の再軍備が順調との事でルクシオールが到着次第、ネオ・ヴァル・ファスクのメベト艦隊と交戦に入るとの事だ・・・

そしてルクシオールが通常空間へとドライブ・アウトした。

しかし、そこはトランスバールでは無かった。

「な、何だ!?これは・・・アルモ!どういう事だ!?」

「わかりません!ドライブ・アウトは正常に行われたと出ています!」

「そ、そんな馬鹿な事が・・・!」

前方に広がるのは一面の大艦隊・・・

その数は検討もつかない・・・

「ま、まさか・・・この艦隊が・・・」

レスターの脳裏に最悪の状況が予想された・・・

「メベト艦隊なのか・・・」

「あ!レスター副指令!敵旗艦より、通信です。」

(話ができるのは怪我の功名か・・・)

「余はヴァル・ファスクの創世神 メベト・ヴァル・ファスクである・・・」

「こ、こいつがメベト・・・な、何てでかさだ・・・」

メベトの背景とメベト本人を見比べればその差は明らかだ・・・

「汝らに告げる・・・余は先の愚かなる謀反者ゲルンとは違い、汝等を有効利用してやろうと言うのだ・・・」

(なめやがって・・・)

その言葉はかつて、ネフューリアが言っていた事と同じだ・・・

「したがってここで余に忠誠を誓え・・・」

「・・・・・・」

しかし、今この状況だけ奴等に下るフリをして皇国まで逃げるという手もある・・・

姑息な手段だが、まともにぶつかって勝てるような相手では無い。

「どうした?早く忠誠を誓うがいい・・・」

その時、回線が割り込んできた。割り込んだのは紋章機からだった。

「おいおい・・・レスター!あたし達は奴等に下ったりなんてする気は無いよ!」

(カズヤ達を取り返さなければならないからね・・・)

この時、フォルテがこの事を口に出して入いれば今後の展開が少し変わっていただろう・・・

「フォ、フォルテ・・・」

「ほう・・・誰かと思えば天使共か・・・しかし、天使とは本来、神に仕える者だ・・・なのに神である余に歯向かうか?」

「誰があんたなんかを神だって認めたのよ!」

ランファはメベトを指差して言い放った。

「汝等の意思などは関係ない・・・汝等の仕えるべき者は余が決めるのだ。」

「ふざけるな!悪党!私が忠誠を誓うのは我が王のみだ。」

「無礼な侍女よ・・・それに人間如きの王がどれほどのものか・・・」

「少なくともあんたみたいな傲慢なおっさんよりはマシよ〜」

テキーラはミモレットを撫でながら挑発した。

「誰かと思えば魔女とやらか・・・自信家なのは褒めてやるが人間の魔力と神の魔力では桁が違うと知れ・・・」

「それはあんたが本物の神様ならの話でしょ〜う?それに・・」

アニスがテキーラに続いて言った。

「自信家なのはお前だろうがよぉ!オッサン!」

「・・・貴様・・・神をも敬わなないその態度・・・万死に値するぞ・・・」

メベトの口調が険しくなる・・・

そして、エンジェル隊に後押しされたレスターの決心はもう固まっていた。

「メベト・・・こちらはお前の要求には従えない・・・」

「ならば神罰を受けるがいい・・・」

そう言うとメベトは通信をきった。

レスターは既にアルモに再度のドライブ・アウトの準備をさせている。

「エンジェル隊いいか・・・ルクシオールは後退しながらドライブ・アウトに入る。」

「そうこなくっちゃね〜」

「フォルテさん悪乗りしすぎないで下さいませ・・・」

「ドライブ・アウトの座標をスキャンするまでの30分間このルクシオールを守り続けてくれ、敵は数こそは多いがほとんどがノロマな重戦艦だ。近づいてくる敵のみを撃破すればいい・・・エンジェル隊出撃だ!!」

『了解!!』

 

一方、メシア隊の旗艦 ノアのブリッジでは・・・

「・・・シリウスがいないな・・・」

「はい、二時間前まではいたのですが、ゼックイ数機と共に勝手に出撃したようですね・・・シリウスのゼックイにオートパイロットをかけますか?」

「いや、かけても無駄だ・・・それにこうなるとは思っていた。」

「?では何故・・・」

「なに・・・帰ってくるライバルの実力を見たいのさ・・・」

「ライバル・・・?隊長にライバルがいたのですか・・・」

「それはこれから決めるが、帰ってくるという事はそれなりに強くなっている筈だ・・・」

「はぁ・・・?」

エオニアが首を傾げるが、無理も無い・・・この事に関してはエオニアには教えていないのだ・・・

(さぁ・・・お前の力を俺に見せてみろ・・・メベトを倒して見せろ・・・

 

紋章機達はメベトの艦隊と交戦状態に入ろうとしていた。

敵の一番先頭にいる重戦艦との距離は約9万だ・・・

「いいかい?・・・敵は重戦艦が主体だ・・・だから一機ずつ集中攻撃で倒すよ!!」

『了解!!』

紋章機達が先頭の重戦艦に向かっていく・・・

メベトが率いる敵の大艦隊は旗艦 ゴリアテを含めて総数70万機・・・

それに対し、レスター率いているのは紋章機とルクシオールのみ・・・

戦況はどちらが有利などとはあまりにも馬鹿げた質問である。

「・・・そこ!」

ちとせのイグザクト・スナイパーが一撃必殺の矢を撃ち放った。

矢は一直線にこの宙域を駆けていき、敵の重戦艦を次々と打ち抜いていき、計、数十機にも及ぶ艦隊が誘爆を連鎖していった。

「なに!?」

メベトは初めてその玉座から立ち上がった。

「あれはアルテミスの矢・・・何故、人間如きが我々の神具をもっているのだ!!メシアの報告にはこんな情報などなかったぞ・・・!?どういうつもりだ!?メシア!!」

 

「今頃はメベトの奴もてんてこ舞いだろうな・・・」

死神のメシアはブリッジの椅子で足を組んでちとせが次々とアルテミスを放って敵機を撃墜していく様を悠然と見ていた。

「メベト・・・覚えておきな・・・ノロマな戦艦をいっぺんに固めて使うのは馬鹿のする事だという事をな・・・」

「隊長・・・戦況はエンジェル隊の方が有利だと・・・?」

「そうだ・・・言っただろう・・・戦いは量より質だと・・・

そういい終わると死神は頭をぽりぽりと掻いて続けた。

「まぁ・・・あのガキが乱入したら事態は急変するだろうけどな・・・」

 

「いいぞ・・・!エンジェル隊もちとせの援護射撃で士気が高まっている!」

レスターは思わぬエンジェル隊の奮戦ぶりに感動していた。

メベト艦隊の被害はまだ200隻あまりだがこのまま行けばドライブ・アウトして逃げ切る事ができる・・・

「もう少しだ・・・もう少しだけ頑張ってくれ!」

レスターはモニターごしからエンジェル隊の奮闘を見守っていた・・・

 

「ぶっとべぇーー!アンカークローーーッ!!」

カンフーファイターのアンカークローが三隻の巡洋艦を貫いて撃沈した。

「さっすが!姉さんだぜ!よっし!俺もいっくぜぇぇえーーー!!」

アニスはあえて12隻の重戦艦が固まっているところへと飛び込んでいく。

重戦艦らしく火線も強力だが、ハイテンションなアニスはそんなものをもろともせずに回避していく・・・そして・・・!

「ジェノサイド・ボンバー!!」

一つの小さい玉が重戦艦の群れの中心へ吸い込まれていき・・・

「たーーまやーーー!!」

アニスが脱出すると同時に吸い込まれた爆弾が大爆発を起こし重戦艦達を塵と化した。

「二人共、いい調子だねぇ・・・」

戦い慣れたフォルテは自分も派手に暴れたいのを我慢して通常弾やホーミングレーザーで敵の砲台を潰していく・・・戦況はほんの小さな変化で逆転するのを知っているからだ。切り込み役のランファやアニスが被弾しないようにフォルテは敵の砲台を潰しているのだ。

「ぬ・・・」

メベトは明らかにうろたえていた・・・

眼中に無かった天使達がああまでも奮戦しているのだ・・・

「ふ・・・しかし・・・いつまで凌げるかな・・・」

メベトは突如落ち着き払って微笑したのだ。

まるで勝利を確信したかのような微笑を・・・

 

「副指令!ドライブ・アウト先をスキャンできました!いけます!!」

「よし!よくやったアルモ!ドライブ・アウトだ!!」

「はい!!」

ルクシオールが緑色の空間を生み出していく・・・

「ふ、ふふふ・・・させるか!」

メベトがにやりと笑った瞬間、緑色の空間は消失してしまった。

「な、何だと!?消えた・・・!」

レスターはがっくりと膝をついた。

 

「ちょ、ちょっと今のは何よ!?」

ルクシオールのドライブ・アウトが中断されたのを見ていたランファは何が起こったのかわからないといった感じで取り乱していた。

「どういう事も何もルクシオールのドライブ・アウトが何者かに妨害されたのさ・・・

フォルテは忌々しげに舌打ちをしながら迫ってくる重戦艦の群れに対して攻撃を再開した。

 

一方、死神のメシアは・・・

「カズヤ・・・リコ・・・馬鹿女を連れて皇居へ戻るんだ・・・」

「え?」

僕とリコはメシアさんの突然の解放に驚いた。

「どうしてですか・・・?」

リコが当然のごとくメシアさんに理由を聞いた。

「もうすぐ、このノアも戦いに赴く・・・君達も皇国軍の軍人として戦わなければならないだろう・・・」

「・・・・・・」

そうだ・・・僕達はこの人と戦わなければならないんだ・・・

「ちなみにクロス・キャリバーには馬鹿女が入るだろう?」

「は、はいそうですけど・・・」

「そこでだ。カズヤ・・・君の機体に乗せてあげて欲しい奴がいるんだ・・・皇居に返してやって欲しいんだが・・・頼めるか?」

「はい・・・」

あの人の事だ・・・メシアさんの親友とも言える・・・

10分ぐらいしてメシアさんが誰かを抱えてきた。

その人は中年の男性だった・・・

「メシアさん・・・この人が・・・」

メシアさんは無言で頷いた。

リコの前では名前を出すなと言いたいのだろう・・・

そして僕がその男性をブレイブ・ハートに乗せ終えた頃にメシアさんがミルフィーさんを抱えてやってきた。

この人は昔もこうやってミルフィーさんを抱っこしてあげていたんだろうな・・・

「・・・ほら・・・そうっとだぞ、リコ・・・」

メシアさんはクロス・キャリバーにミルフィーさんを詰め込むと僕の方へ向かってきて僕の顔を真っ直ぐに見据えた。そして・・・

「カズヤ・・・__を頼む・・・」

と・・・それだけ短く言い残して去っていった。

そして、ハッチのが開放され、僕達はそのまま皇居へ向かう事にした。

メシアさんが言うには皇居へのポートが開いているのですぐに到着するとの事だ・・・

最後に僕達はメシアさんの船に軽く一礼をしてドライブ・アウトに入った。

メシアさん・・・あなたの役目は僕が受け継ぎます・・・

今まで命懸けで守り続けてきたあなたに代わって・・・

 

「くそ・・・!そろそろあたしも補給時かねぇ・・・!」

ルクシオールがドライブ・アウトに失敗してから三時間半フォルテが指揮するエンジェル隊は立派に奮闘した。エンジェル隊が撃破した敵の数は何と約一万機にも及ぶ・・・しかし、残りの無人機は残る約69万機・・・そして、エンジェル隊は生身の人間だ・・・その疲労はピークに達しようとしていた。

「くそぉ・・・ここまでなのか!?」

あれからルクシオールも戦闘に加わったのだが、被弾箇所は多くこれ以上の戦闘は厳しい・・・しかし、敵は今まで通りに進行してくる・・・

「いや・・・!まだだ!!まだ終わってない!」

レスターが活き込んだその時だった。

ルクシオ−ルの背後から何かがドライブ・アウトしてきたのだ。

「副司令!ルクシオール4時の方向にドライブ・アウトしてきた機影を確認しました!」

「く・・・!ゼックイか・・・!?」

「残念だけど俺だよ、レスター・・・」

その時、誰もがその懐かしい声に驚いた。

そしてエンジェル隊は見たルクシオールの背後に佇む白い紋章機を・・・

白銀の騎士という表現が似合いそうな戦闘機は進化した七番機だった・・・

七番機の装甲の色は白銀一色・・・頭部、アームからフロントブースターそしてリアブースターに至る全ての箇所がよりコンパクトになり、スマートさをかもし出していた。

「タ、タクトなのか・・・?いや、待て!格納庫からの報告は!」

「いえ!特に七番機の繭には何も異常は無いそうです!」

「・・・ならコイツは偽者だという事か?」

レスターは七番機に映ったたくましい男を見てそう言った。

「オイオイ・・・酷いな、レスター・・・そんな事だからみんなから固いって言われるんだぞ・・・にしてもルクシオールも随分と変わったなぁ・・・」

ふ・・・その喋り方はお前しか考えられないな・・・

「タクト!あんた今まで何をしてたのよ・・ってあんた本当にタクトなの・・・?」

ランファが驚くのも無理は無い・・・タクトには以前のようなナヨっとした風格は無く、明らかに引き締まった体をしていたからだ・・・着ているのも軍服ではなく、サバイバルに使われるようなチョッキベストやズボンばかりだ・・・そう言うなれば冒険者と言った感じだ・・・そしてその引き締まった顔の上の額には赤いハチマキが巻かれていた。

「ごめん、ごめん・・・理由は後で説明するよ・・・」

その声にも力強さがみなぎっている・・・

「おかえりなさいタクトさん・・・」

ヴァニラも珍しく微笑みながらタクトの帰還を祝った。

「ありがとう、ヴァニラ・・・でもお喋りは後にしよう。ほら・・・後ろから敵が迫ってきているだろう?」

タクトの言うとおり、現在もルクシオールに向かって敵が進行中なのだ。

「みんなは補給を受けてルクシオールの援護をしてくれ・・・あいつ等とメベトは俺が引き受ける・・・」

タクトの七番機のブースターが点火を始めた。

「ちょ、ちょっとお待ちなさい!あの艦隊にたった一機でなんて無理よ!!」

「大丈夫だからほら、テキーラもいった!いった!」

タクトは手でテキーラにも戻るように指示を出した。

 

第一章

シャイニング・サン

 

 

エンジェル隊がルクシオールで待機しているのを満足気に見届けた俺は赤いハチマキを優しく撫でた・・・

「ロキ・・・お前との約束は必ず果たすからな・・・」

ロキの魂を受け継いだ七番機が白銀のオーラに包まれ始めた。

「目指すのはメベトだ・・・」

俺は神経を研ぎ澄ましてメベトの気配を読み取る・・・今の俺にもはやレーダーは不要だ・・・それにこれくらい出来なければ死神のメシアは倒せない・・・

「見えた・・・このまま真っ直ぐだな・・・」

メベトは艦隊の真ん中で待機している・・・

おそらくは俺の事にも気付いただろう・・・

俺は七番機のスロットルを開いてメベト目掛けて敵の中に飛び込んだ。

光り輝く白い彗星が敵の海を掻き分けてメベトを目指す。

その様はまさにシャイニング・スターと呼べるだろう・・・

しかし、タクトは知らない、まだ七番機はシャイニング・スターにはなっていない事を・・・分裂したもう一つの星が再び融合しない限り、この七番機は本当の名前 シャイニング・スターと名乗れないのだ・・・

 

「あれは・・・白銀の堕天使 ルシファー・・・まさか・・・神皇様へ歯向かった堕天使が今度はタクトという人間如きに力を貸したというのか・・・」

メベトは呆然としながら艦隊を掻き分けて向かって来る白銀の紋章機を眺めていた。

「・・・相手が神皇様に仇す堕天使ならば余も死力を尽くして戦わなければならぬか・・・」

メベトはその巨体を立ち上がらせて自分の機体の召還を開始した。

 

俺がもう少しでメベトのところに到着しようとしたその時、景色が変わった・・・

「・・・これは・・・(自己領域)テリトリー!?」

どうやらメベトは俺をここに閉じ込めたらしい・・・

辺りには何も無い・・・広がるのはキラキラと輝く天の川が流れていた。

ミルキーウェイ・・・それは今の俺が見たくないものだった・・・

ここは混沌の世界・・・おそらくはメベトが神皇から与えられた世界だろう。

「出てこい!いるんだろう!?」

俺は目の前に感じている敵意に向かって呼びかけた。

すると目の前に黄金色の巨大なゼックイが現われた。その大きさは七番機と比較してもゆうに三倍はある・・・相手は神皇配下の十二傑集の一人・・・そして十二傑集が神皇から与えられたすなわち神皇の紋章機・・・この機体の名前はアークゼックイとでも言おうか・・・?

「汝がタクト・マイヤーズか・・・?」

「お前がメベト・ヴァル・ファスクか・・・?」

俺達は互いにモニターごしに睨み合う・・・

「メベト・・・本当の名前はオケアノスだな・・・」

「汝その名前を知っているのか・・・その名前で呼ばれるのは実に久しぶりだ・・・」

メベトは本当に神だったのだ・・・

メベト改めオケアノスは神族の中でも十二人しか選ばれないという十二傑集の一人だ・・・もっともルシファールシラフェルから見れば彼等は下級神らしいのだが、それでも人間では太刀打ちできる相手ではない・・・

だが、今の俺なら相手が出来る筈だ。

「参るぞ・・・EDENの騎士よ・・・!」

メベトのゼックイが姿を一瞬消したかと思うと俺の十字の方向に四機のゼックイが現われた。

「分裂・・・!?」

四機のゼックイは別々に動き、ウェスト部分からのショルダーキャノンで攻撃を仕掛けてきた。俺はすぐさまに下へ逃げて一機のゼックイに向かって駆けていった。

本物に当たる確率は四分の一・・・

そして、手にアレを召還した。

手に伝わる熱い感触・・・アレが召還できた証拠だ。

七番機の右手に粒子状の黄金の剣が召還された。

エ、エクスカリバーだと!?」

神王 アバジェス様が所持していたという最上位の神具・・・

聖剣 エクスカリバールシファーに授けられたと聞く・・・

そして対をなす魔剣 ダインスレイブルシラフェルに授けられたと聞く。

つまりタクト・マイヤーズは紛れも無くルシファーに選ばれた者だ・・・

「尚更、負けられぬ!この勝負・・・!」

俺はゼックイに斬りかかったがエクスカリバーはゼックイをすり抜けただけだ。

「ち・・・!偽者か!」

俺はすぐさまに他のゼックイに標的を変えて接近させる。

さすがはオリジナルのゼックイだけあってその火力は凄まじいものだったが七番機の装甲はヤワでは無い。七番機が展開したASフィールドがメベトのビームを弾いていく。

そうして俺は全部のゼックイに斬りかかったのだが全て偽者だった・・・

つまりそれはオリジナルが別の場所で見ているという事だ・・・

「・・・・・・」

感じろ・・・メベトの魂を・・・

俺は背後にほんの僅かな気配を感じ取った。迷う事は無い!

俺は背後に向かって接近した。

その気配は距離をとろうとするが七番機に比べれば動きが若干鈍かった。

そして俺の背後から追跡してくる四機のゼックイ・・・

しかし、アレはフライヤーが発生しているホログラムだ。

つまりはフライヤー二機が二連のショルダーキャノンに成りすましていただけだ。

俺は迷わず、真正面にいる本物のゼックイに斬りかかった!

ガキィィィン!!

確かな剣がぶつかった感触・・・

遂にオリジナルのメベトを捜しあてたのだが、俺は少し怯んでしまった・・・

オリジナルのメベトが乗っていたゼックイの大きさはアークゼックイよりも更に一回り大きかったのだ。まさにオリジナルゼックイと言うべきか・・・

「ぐ・・・!」

エクスカリバーを受け止めたメベトの剣の名前はダイナスト・ブレイド

神界の初代覇王 オケアノスが所持していた名剣だ・・・

持ち主に応じてその大きさを変えると言われる剣だが、メベトが所持している為にその大きさはオリジナルゼックイ一機分の大きさだ。

「メベト・・・!」

「タクト・・・よくぞここまで来た・・・!!」

俺の敵はお前じゃない・・・!この戦いに勝って本当の敵を倒さなければならないんだ!そして、ミルフィーをこの手に取り戻す!!」

本当の敵だと・・・?」

お前も分かっている筈だ!お前あいつの手の中で踊らせているだけだ!

「馬鹿な・・・この余は神皇様直下の十ニ傑衆だぞ!?」

「まだ分からないのか!?なら聞くが、何故死神のメシアがここにいないんだ!?

「メ、メシアだと・・・?」

「そうだ!死神のメシアが今回の騒動を裏から操っていたんだよ!

「な、何だと・・・?メシアが・・・」

「考えてもみろ!あいつがその気になっていれば俺達なんかとっくの昔に全滅させられている筈だ!!だが俺達は生かされている!そしてここにカズヤとリコがいないのはあいつが連行したからだ!

「カズヤ・・・リコ・・・紋章機のパイロットか・・・」

メベトの声が震えている・・・それは彼が認めたくないからだ・・・

自分がの操り人形だったという事を・・・

「そして、死神のメシアはお前にその事を報告していない!だから、お前は紋章機の数が減っていた事に気付かなかったんだ!!

「余の方が・・・メシアの操り人形だったというのか・・・」

「メベト・・・いや、オケアノス!降伏するんだ!まだ、お前は死人を出してはいない、まだ引き返せる!!」

「・・・舐めるな・・・余は神だ・・・!」

そう言うとテリトリーが解除されたのか俺はメベトと共に通常空間へと戻ってきていた。そして目の前には紋章機とルクシオールが待機していた。

「な、なんだぁ!?この馬鹿でかいのは!?」

レスターは目の前にいきなり現われたゼックイに腰を抜かしてしまった。何故なら、ルクシオールの前に出現したメベトのゼックイはルクシオールと同じぐらいの大きさだったからだ。

もはや、メベトの艦隊は静まり返ったかのように動いていない。

操者のメベトが自暴自棄になりかけていたからだ。

「オケアノス・・・!もうやめろ!!」

「余は・・・余は!ネオ・ヴァル・ファスクの総帥だ・・・!」

メベトは持っていた大剣をルクシオールに向けて振りかぶろうとした!

「きゃあーーー!」

悲鳴を上げるブリッジのクルー達・・・させるか!!

俺はルクシオールを庇うかのように立ちはだかりその大剣を剣で受け止めた。

物凄い衝撃だが、今の俺の体には大した衝撃では無い・・・!

「みんな総攻撃だ!!」

フォルテの号令の元にエンジェル隊のみんながメベトに総攻撃をかけるが、さすがは

オリジナルのゼックイ、ASフィールドを展開していてエンジェル隊の攻撃をものともしない・・・!

「ぬおおおおおーーーー!!!」

エンジェル隊の攻撃を無視してルクシオールに再び斬りかかるメベト。

「やめろーーーーー!!」

俺は再びエクスカリバーで受け止めた。メベトの剣にはヒビが入り始めた。

無理も無い、エクスカリバー相手が務まるのはダインスレイブだけなのだから・・・

「ぬわぁぁぁーーーーー!!!」

ゴリアテが今度はダビデに斬りかかった。

「・・・ぐぅ!!」

強い体になったとはいえメベトの一撃は凄まじく七番機も悲鳴を上げ始めている・・・でも、ここで避けたらルクシオールが真っ二つにされるだけだ・・・!

だからここで退く訳にはいかない・・・

あきらめない・・・それがロキから教わった事だ・・・!!

今までのように心だけでは無い、本当のド根性・・・

それが俺がロキから伝授された事だ!

「オオオオオオオオォォォーーーーーー!!!!」

遂には自我さえも忘れたゴリアテの会心の一撃がダビデに襲い掛かる!!

パキィィィーーーーーーン!!

そして遂にメベトの剣は粉々に砕け散った。

「もうやめるんだ!!」

「黙れぇぇぇぇーーーー!!」

ゴリアテはあきらめきれずにそのまま体当たりをしようとするが、ダビデはゴリアテの両足を切断して逆に体当たりしてゴリアテを吹き飛ばした。

自分の艦隊に飲み込まれていくゴリアテことメベト・・・しかし・・・

「グゥオオオォォォーーーーー!!!!」

獣のような咆哮をあげながらこちらに接近してくる・・・しかし、悲しいかなメベトのゼックイは致命的に速度が遅いのだ・・・

「・・・オケアノス・・・これで終わりにしてやる・・・」

タクトは歯を食いしばって目の前から迫ってくる巨神を見据えた。

「うわあぁぁぁーーーーーー!!!」

最後の自我を保ちながらメベトは接近してくる・・・エンジェル隊の防火線をものともせずに・・・

タクトは七番機に命じた・・・

オケアノスにせめてもの安らかな眠りをと・・・

七番機の背中に六枚の光の翼が展開された・・・

それは真っ白に輝いていて神々しい・・・

「みんな目を閉じるんだ!!」

全員がタクトの言葉に目を閉じた・・・

「・・・七番機よ・・・ルシファーの力を借りて漆黒の闇を斬り開け!!」

七番機が発光して当たり一面がまばゆくなった。

「タクトオオオオオォォォォォォーーーーー!!!!!」

しかし、それでもメベトは止まらない・・・ただひたすら直進するのみである。

そしてタクトは手に集まった魔力を一気に開放した!!

 

「シャアァァイニング・・・サァァァァーーーン!!」

 

七番機から発せられた光は前方にいたメベトとその艦隊に向けて広がっていって一瞬にして飲み込んでいった・・・

「!!!!!!!!!!!!!!!」

メベトは声すらあげられずに消滅していった・・・

そしてみんなが目を開けた時、目の前にいたのはタクトの七番機だけだった・・・

 

「メベトめ・・・不甲斐無い・・・」

黒幕はその一部始終を見て、はき捨てるかのように言い放った。

「さて・・・タクトよ・・・神界での約束通り決着をつけるとするか・・・お前もそれを望んでいるからこそ帰ってきたのだろう・・・」

黒幕赤いマントを翻して、白き月へと艦の舵を取った。

「さぁ・・・始めよう・・・俺の戦争をな・・・」

皇国軍とネオ・ヴァル・ファスクの最後の戦いが今、まさに始まろうとしていた・・・

 

〜真の敵〜

 

「す、凄い・・・」

アルモは呆然とタクトが放ったシャイニング・サンの痕跡を見ていた。

70万機もの大艦隊は跡形も無く消滅していた。

ネオ・ヴァル・ファスクの総帥 メベトと一緒に・・・

「や、やったぞ・・・!勝った!!」

レスターは珍しく大袈裟に喜んでいた。何せ皇国軍が総動員しても討伐は不可能とされたネオ・ヴァル・ファスクの主力艦隊を紋章機達とルクシオール一隻で壊滅させたのだから・・・

シャイニング・サンを放った後、七番機は翼を失い、元に戻り、他の紋章機同様に

艦隊があった方角を見ていた。

「まだだ・・・」

タクトは搾り出すような声で呟いた。

そうまだ、最強の敵が残っていいる・・・

今回の騒動を画策した黒幕はまだ生きている・・・

「よし、アルモ、ルフト准将にメベト艦隊を壊滅させたと知らせてくれ。」

「了解!」

 

「くっくっくっ!!今がチャ〜ンス・・・」

俺は息を潜めて天使達に近づいていった。

ドキドキする・・・エネルギーを使い果たした七番機をこの爪でバラバラにできるなんて夢みたいだ・・・タクトはどんな声で鳴くのかな・・・楽しみだ・・・

 

「・・・・・・っ!?」

な、何だ・・・悪寒を感じる・・・誰かが俺を見ている・・・どこだ・・・?

俺は肉眼で当たりを見渡すが、そこには味方しかいなかった・・・

「・・・レスター・・・近くに敵影は無いか・・・?」

「何?敵影だと・・・?」

「ああ、急いでくれ!!」

「あ、ああ・・・待ってろ・・・」

この感じ・・・あいつのものじゃない・・・背筋がぞっとした・・・

 

「チ!・・・気付かれたか・・・」

俺は最大全速でステルスをかけたまま切り刻む事にした。

 

俺は無意識の内にエクスカリバーを装備していた。

ロキとの特訓で身に付いた直感が俺に教えているんだ・・・

「タクト!タクト!!聞こえるか!?」

レスターの慌しい声が入ってきた。やはりまだ敵がいたらしい。

「敵がお前の背後に接近中だ!!」

後ろ・・・そう後ろだ!

俺は背後からなぎ払ってきた何かをエクスカリバーで受け止めた。

これは剣の感触では無い!

「誰だ!?」

「タ、タクト!?どうしたんだよ!?」

アニスを始めとした天使達は困惑していた。それはタクトが一人相撲のように何かと鍔迫り合っているからだ。

「ぐぐ・・・!」

相手はかなりのパワーを持っている機体だ。メベトの剣さえ受け止めれたこの七番機を僅かながら押しているのだ・・・

「みんな七番機の真正面の何かにビームヴァルカンを撃ちこみな!」

フォルテに続いて天使達が一斉にタクトと鍔迫り合っている何かに向けて一斉にビームヴァルカンを撃ち込んだ。

フォルテ達のビームヴァルカンが何かに被弾した。そして、その何かはステルスを解除してASフィールドを展開してビームヴァルカンを弾いた。

「チ!・・・邪魔しやがるとテメェ等からバラバラにするぞ・・・コラァ・・・!」

現われたのは何とシリウスのゼックイだった。

「シリウス!!」

「よぉ・・・お帰り・・・タクト・・・」

こ、こいつ俺が今まで何処にいたのかを知っているのか?

「シリウス・・・お前の想像通り、今の俺は神皇の事などをある程度理解している・・・だが、今だにお前の正体だけは分からない・・・

以前に遭遇した時、お前は20才ぐらいだったのに、なんでそのゼックイ共々、元に戻っているんだ!?」

タクトはモニターに映ったにやけ顔のシリウスの目を見据えて今の心境を告白した。

「へぇ・・・それで?何が言いたいの?お前は・・・」

シリウスは敢えてタクトの質問を無視した。

「・・・そしてその機体はゼックイじゃ無いな?」

「・・・くっくっくっ・・・そうだよコイツはゼックイなんかじゃないさ・・・

シリウスの顔がますます卑屈に歪み出す。

「では・・・その機体は何だ?」

「なんだろうねぇ・・・」

シリウスはわざとらしくとぼけた。

「あんたは・・・一体何がしたいのよ?」

ランファは真面目な声でシリウスの動機を問いただした。

「もちろん、そこのタクトを殺す事だ・・・そしてそれはこちらの台詞だ。お前達こそ何でそんなにしぶとく生きてんの?」

シリウスはお前達が生きている事態が不自然だと言いたげな顔で天使達に聞き直した。

「生きていたいからでは答えにならないか?」

「ああ、ならないね・・・だから何でそこまでして生きたいの?」

「何?」

「美味い物を食べたいからか?面白い事をしたいからか?気持ちのいい事をしたいからか?」

「そんな事は考えた事も無い・・・」

「何で男は女に惹かれて、女は男に惹かれるんだ?」

「何が言いたいんだよ・・・お前は。」

「なぁに・・・愛の為だとか言って正義の味方ぶる奴は腐る程にいるからな・・・」

「人間の全てがお前と同じだなんて思うなよ・・・!」

「おんなじさぁ・・・呼吸、捕食、排泄、睡眠、闘争、逃避、そしてお前達が愛というオブラートで誤魔化している異性に対する生殖欲求・・・これらは全て欲望だろう?つまりはお前達は欲望からは逃げられないし、抗おうともしないだろう・・・?だってそれがお前達が生まれながらに持っている本能であり、背負わされた運命なんだからなぁ・・・タクト・・・デザイアは何て意味か知っているか?」

デザイア・・・それは・・・ルシファーの本当の名前だ・・・

何でシリウスがここまで知っているんだ?

「デザイア・・・愛を求める・・・愛を望む・・・そして異性の身体を欲する・・・もう、分かっただろう?それは欲求であり欲望でもある・・・デザイアという概念が無ければが生まれる事は無かったのだ・・・」

「何が言いたいんだよ、お前は?」

「つまりだ。お前はルシファーに選ばれてルシファーの細胞を手に入れた・・・三つの女神のうちの一つ“現代”を手に入れた訳だ・・・」

「ルシファーは物なんかじゃない・・・!!」

「お前の心境なんか俺の知った事かよ・・・そして過去のウィルドが手に入れた・・・従って残る女神は一つ未来のフェイトだ・・・」

「・・・それがお前の目的なのか・・・?」

「ああ、の目的はフェイトだ・・・」

(そしてお前の真の敵だよ・・・)

「そして俺の目的はお前の命だよ・・・タクト・マイヤーズ・・・」

「何故、そこまで俺を目の仇にするんだ!?シリウス!!」

「は!そんなの決まってらぁ・・・お前は本能に流されルシファーと交わった!ならば俺も本能の赴くままにお前をバラバラにしてやるーーーっ!!」

シリウスのゼックイが驚異的な速さで俺との距離を縮めてきた!

「は、早い!!」

「ヒャアァァァーーーーー!!」

シリウスのデスクローが七番機の装甲をかすめとった。

「くっ・・・!」

俺はエクスカリバーで応戦しようとするが、シャイニング・サンでエネルギーを使い果たしたらしく七番機のエンジンの出力が下がっている為、シリウスに対抗できる程の機動力が確保できない!

「タクト!!」

天使達が援護射撃を開始した。そして様々な弾が無防備なS,ゼックイに被弾していくが、全てASフィールドで弾かれた。

「このアマァ・・・!!」

憤怒したシリウスは一度タクトから距離を取り、何と一度に24機ものフライヤーを展開して天使達に反撃した。

「く・・・!」

タクトも七番機のフットの射出口からフライヤーを10機展開して応戦した!

「ほう・・・フライヤーまで使えるようになったか・・・」

シリウスは24機の内、10機をタクトのフライヤーにまわして攻撃した。

14機はエンジェル隊に襲い掛かり、10機はタクトのフライヤーと交戦している。

無論、こんな事は人間に真似できるわけが無い。

「くッひっひっひぃぃぃーーーーー!!」

シリウスの目は既に正気では無い・・・口からは唾液があふれ出して治まらない・・・

「こいつは・・・シリウスは危険すぎる・・・!!」

タクトの直感が告げていた。今、ここでシリウスを倒しておかないと取り返しのならない事態になると・・・

「オルアァ!!どうした!?雌どもぉっ!!俺の脳みそに当ててみろやぁっ!!」

シリウスの言動は既にまともな人間のものでは無い・・・

今のシリウスに人を殺せと頼めば躊躇無く実行するだろう・・・

「ち!子供がいつまでも舐めてんじゃ無いわよ!」

テキーラはヘキサ・クロス・ブレイクをS,デックイに向けて唱えた!

いかにS,ゼックイが俊敏であろうが魔法はシリウスには逃げられない・・・

「ぐ!?ひぃあああああーー!・・ーあ、あああああああ!!!!」

S,ゼックイを六星陣(ヘキサクロス)が取り囲み圧縮していく。

「ぬぅがああぁーーーーーー!!!!」

しかし、シリウスのゼックイはそれすら耐え凌いだ!

「う、嘘・・・!」

テキーラは驚愕したS,ゼックイについた筈の傷がロッジクパズルのように見る見る内に修復されていったのだ。

「タクトは後回しだ・・・オイ・・・今、俺を撃ったクソアマァ・・・」

シリウスの声は地の底から響くほどにドスが効いている・・・

気持ちよかったお礼にテメェをそのチャチな機体から引きずりだしてその白くて柔い肌にこの爪を突き立てて痛みの中で得られる快感というのを教えてやる・・・

俺の愛するテキーラちゃんの綺麗な綺麗なピンク色の臓物をこの宙域にばら撒いてやるぅ・・・う・・うぅ・・・うらぁああああああああーーー!

狂犬はテキーラへ標的を変えた。天使達が弾幕で応戦するが、S,ゼックイのフィールドが発生して全て弾いていく。

殺し愛といこうぜええぇぇーーーーーー!!!!」

シリウスのゼックイが愛爪 デスクローをガチガチいわせてスペルキャスターの手前まで来たその時、タクトのエクスカリバーがS,ゼックイの右手をデスクローごと切断した。

「ギ!?ヒアアアアアァァァァーーーーーー!!!!」

凄まじい悲鳴を上げてシリウスはエンジェル隊から距離を置く。

S,ゼックイの切断された箇所からは真っ赤なオイルが流れている・・・

「シリウス・・・」

俺は既にシリウスが戦闘をできる状態では無いと思った・・・

「−−−−!−−−−ッ!!」

言葉にならない悲鳴を上げて片腕を押さえてコクピットを転げまわるシリウスを見て俺は既に戦意が喪失していくのを感じていた。

「シリウス・・・もう俺達の前に現われないというのなら見逃す・・・もう、メベトはいない・・・リウスへ帰るんだ・・・!!」

タクトは気付かなかった・・・その言葉がシリウスの逆鱗に触れた事を・・・

「・・・タクト、タクト、タクト、タクト、タクト、タクト・・・タクト、タクト、タクト、タクト、タクト・・・タクト、タクト、タクト、タクト、タクト!タクト!タクト!タクト!タクト!タクト!タクト!タクト!タクト!!タクト!!タクト!!タクト!!タクト!!!タクト!!!!」

シリウスは何度も確かめるようにタクトの名前を呟いた。

シリウスは唇を噛み切るほどに食いしばってタクトの顔を見た。

シリウスの目からは涙が溢れていた・・・それが痛さからなのか、悔しさからなのかまでは分からないが・・・

「・・・タクト・・・」

シリウスはいきなり澄み渡るような静かな口調でタクトに話しかけた。そして・・・

「俺はお前の事が好きになりそうだ・・・タクト・・・愛しているよ・・・」

「・・・・・・」

シリウスはふざけて言っているのでは無い・・・俺には分かる・・・シリウスから感じる殺気が爆発的に増殖しているのが・・・愛しているとはその真逆の意味だろう・・・

「だから・・・愛しているから・・・足の指から脳みそまで順番に砕いてやるよ・・・お前を殺し愛してやるよ・・・」

次の瞬間、切断した筈のS,ゼックイの手が一瞬で元の場所に結合して、S,ゼックイから赤紫のオーラが発生した。そしてその背後には不吉な6枚の光の翼が二つ折り重なって現われた。計12枚の虹色の不吉な翼・・・

「終末の12枚の翼!?」

あ、あの機体は一体!?

その時、全紋章機のモニターに警告音と共に次の文字が表示された・・・

 

 GR−××× DANGER 

GR−××× DANGER

 

と何度も繰り返すように表示されたその頻度の回数から紋章機の緊張の度合いが伝わってくる・・・

「GRー×××・・・だと!?」

じゃあコイツも紋章機なのか!?

「く・・・くっくく・・・こいつが紋章機だと?」

何とシリウスのくぐもった声が頭に直接響いてきた!

「な、何よこれぇ・・・!」

それは天使達も同じ様でランファを始めとした天使達が次々と耳を塞いだ。

「その言葉こいつにはタブーだぜ・・・何せコイツには名前も型式すらも天使のAすらもらえなかったかわいそうな奴なんだからなぁ・・・」

紋章機の画面が切り替わり今度は

ESCAPE

逃げろと表示され、紋章機達は一斉にルクシオールまで下がった・・・

「ちょ、ちょっとこれはどういう事だい!紋章機がまったく言う事を聞いてくれないよ!!」

紋章機はこの機体を恐れているのだ・・・

GRA−000が最強の紋章機

なら

GRー×××は最凶の戦闘機

だ・・・

「・・・・・・」

しかし、タクトの七番機には他の紋章機とは別の事が表示されていた。

DON’T ESCAPE

逃げるなと・・・

「わかっているよ・・・ロキ・・・俺は逃げない・・・!!」

俺はエクスカリバーを構えて、目の前の化け物を見据えた。

「フッシュルルル・・・!タクトォその身に宿ったルシファーの細胞ごと消してやるからなぁああっ!!!」

「どうして、そこまでルシファーを!俺を憎むんだ!!」

「自分の胸に手を当てて思いだせぇぇーーー!!」

シリウスがまたしてもデスクローで襲いかかってきた。

「何を思い出せと言うんだ!!」

俺は単調なシリウスの突進攻撃をスウェーで回避しながら聞き返した!

「お前がその七番機さえヴァインなんかに奪われなればーーー!!」

「な、何!?」

俺はその言葉に気を取られてシリウスの一撃を喰らってしまった。

「ぐはぁっ!」

「はっはぁ〜〜あーーーーーー!!」

七番機の右足が切断された。

「ひィーーーひっひっひ〜〜〜!!タクトォ〜〜?もうすぐその眉間の間に鉛弾をぶち込んでやるからな〜〜〜〜♪」

シリウスは唾液を飛び散らせながら恍惚とした表情を浮かべている・・・

「く・・・何てパワーなんだ!」

次の瞬間、シリウスの機体が四筋のビームに襲われた。

しかし、案の定その強力なフィールドによってはじかれた。

「チ!今日は天使のフルコースかよ!?ああ!?」

シリウスは自分を狙撃してきた天使に向かってフライヤー10機を飛ばして反撃した。

狙撃してきた天使もフライヤーを6機展開してシリウスのフライヤーをあっという間に撃墜した。

「な、なんだと!?」

シリウスはタクトへの注意をその新しい天使へと向きを変えた。

「タクトさん!!」

その声はカズヤのものだった。

「カ、カズヤとリコなのか!?」

「はい!」

リコが元気に応答してくれた。

「カズヤ・・・その機体は・・・」

クロスキャリバーの外観は変わらないが、ブレイブ・ハートには新しい射出口が取り付けられている・・・あそこからフライヤーを射出したのだろう・・・

「タクトさんの方こそ・・・」

もっとも僕はメシアさんからこの事は既に聞いてあるのだが・・・

「カズヤ・・・悪いが、話は後だ。あのシリウスの戦闘機を撃墜してからゆっくりと話そう・・・」

「はい・・・!」

「了解です!!」

七番機とブレイブ・ハートは合流して不気味に立ち尽くしているシリウスの機体と正面から向き合っている・・・

「カ、カズヤさん・・・あれゼックイなんかじゃないですよね・・・?」

「そうだろうね・・・あの機体は危険な香りがする・・・」

リコが不安げに聞いてきた。でも僕も同じ考えだ・・・なんて禍々しい戦闘機なのだろうか・・・かろうじてゼックイとしての面影があの爪に残されはいるのだが・・・

それに紋章機の開発者のメシアさんからもあの機体の情報は無い・・・あれはおそらく紋章機では無いのだろう・・・

「ふ、ふふ・・・まさかそちらの方からおいでなさったとはなぁ〜・・・いいぜ・・・テメェらもバラバラにしてやる・・・木っ端微塵になぁ・・・!」

シリウスは機体の手に紫色の光球を出現させた。

「ふふふ・・・ふははは・・・ふははははははははは!!!!」

シリウスはそれを振りかぶってこちらに投げつけてきた。

「カズヤ・・・!散れ!!」

「了解!!」

ドオォォォーーーーーーーン!!!! 

俺達がさっきまでいたところが大きな爆発に包まれた。

あそこにいたらやられていたと思える程の爆発だ。

「く・・・!なんて桁違いな魔力だ・・・!!」

間違いない!シリウスはもう人間なんかじゃない!

「このままじゃ・・・ルクシオールがやられる・・・!」

僕は必死にあの化け物への対処法を考えていた・・・

とにかく攻撃力が圧倒的に高い・・・その上強力なASフィールドを装備している・・・

間違いない・・・あの機体は進化しているんだ・・・

機械が進化なんてタチの悪い三流小説みたいだ・・・!

「オラァ!今度は外さねぇぞ!!」

シリウスはまた紫色の光球を機体の手に出現させた。

「タクトさん!僕があいつの注意をそらしますからタクトさんがその隙を突いて仕掛けてくれませんか!?」

「了解だ!カズヤ、頼んだ!!」

僕たちはニ撃目の光球を飛んでくる少し前に作戦を行動に映した。

僕がシリウスの注意をひきつければいいんだ!

「リコ!ビーム・マシンガンだ!」

「はい!カズヤさん!」

クロス・キャリバーのビーム・マシンガンが次々とシリウスに着弾していく。無論、ASフィールドに弾かれていくけど・・・しかし、シリウスは回避という言葉を知らないのだろうか・・・全く回避しようとする気配が感じられない。動きは単調でこれでは素人レベルだ・・・

「フン!クソがぁーーー!!」

シリウスがカズヤとリコに向けて光球を向けて放とうとしたその時、シリウスはまったく俺に気付いてなかった。こいつ・・・本当に素人だ・・・

俺はそのままシリウスの両腕を切断した。

「ヒギィ!?ギイイヤアアァァーーーーー!!!!」

「・・・っ!!」

耳を突くような悲鳴にアプリコットは耳を塞いだ。

「あがが!!−−−−−!!!」

今度は両腕を抱え込んでのた打ち回るシリウス・・・

その様子は哀れそのものだが・・・

(なんと無様な・・・それでも復讐鬼か!!)

「シリウス・・・」

おそらくコイツはまだ仕掛けてくるだろう・・・そしてシリウスはあまりにも危険すぎる。

「・・・・・・」

俺は止めを刺す為にエクスカリバーを振り上げた。

「タクトさん!待ってください!!」

リコが制止の声を上げたので俺は振り上げたままで待機した。

「カズヤさん、紋章機をあの機体に近づけてくれませんか?」

リコは宇宙スーツを着込みながらとんでもない事を言い出した。

「だ、駄目だよ!そんなの危険だよ!!」

「お願いします・・・!!」

リコの目は真剣だ・・・おそらく僕が何を言っても行動に映すだろう・・・

「わかった・・・」

僕は紋章機をシリウスの機体に近づけていく。

「な、何をする気だ!?危ないぞ!」

「タクトさん!お願いします!時間をください!!」

「・・・・・・わかった・・・だけど・・・気をつけろよ・・・」

俺はシリウスがおかしな事をしないかどうかを念入りに監視する事にした。

シリウスの機体とクロス・キャリバーが接触するとリコは紋章機から出てシリウスの元へと飛んでいった。

「リコ・・・」

私はシリウス君の機体に取り付くとコクピットがあろう場所まで辿りついた。

「シリウス君!お願いここを開けて!」

私は何回も何回もノックをした・・・

シリウス君が痛みでのたうち回っている姿を見た途端に私は自分でもわからない行動に出ていた。

あの時、私はシリウス君を放っておけないと思った・・・

(いいだろう・・・フェイト・・・好きなようにするがいい・・・)

「きゃ!?な、何!?」

次の瞬間、私の体がシリウス君の機体に飲み込まれていった・・・

「しまった!リコォォォーーー!!」

「よせ!リコが帰ってくるまで攻撃はするな!!」

「りょ、了解・・・!!」

リコ・・・

「くそ・・・モニターの通信も切れた・・・!」

 

「ぐぐ・・・い、痛いよぉ・・・!痛いのが止まらないよぉ・・・・!!!」

私が目を開けるとシリウス君が両肩を抑えてうずくまっていた。

「シリウス君!」

私はシリウス君に近づいてその身体を抱き起こした。

「・・・ッ!?な、何でお前がここにいる!?」

シリウス君の目が大きく見開かれている。

「・・・・・・」

シリウス君は男の子で怖いけど・・・あの部屋で見たシリウス君に何故かお姉ちゃんの面影を見た・・・それだけじゃない・・・シリウス君は何故か放っておけなくなるのだ・・・

私は宇宙服を脱いでシリウス君の両肩を擦ってあげた。

「な、何だ!?」

「痛いの痛いのとんでけ〜♪・・・だけど知らないの・・・?」

「・・・・・・?」

シリウス君はキョトンとした。こうしていると普通の男の子なのに・・・

「シリウス君・・・まだ痛いところがあるの?」

「・・・もう痛くない?」

自分でも何がしたかったのかわからないけど、私はシリウス君の頭を抱え込むように抱きしめて頭をよしよしと撫でてあげた。

「シリウス君・・・私で良ければお友達になるよ・・・」

「な、何を・・・言ってるんだ!?」

「ううん・・・私がシリウス君とお友達になりたいな。駄目かな?」

「・・・・・・お前、馬鹿じゃねぇのか?」

口は相変わらず悪いけど、君は本当はとっても優しい男の子なんだよね。

「よしよし・・・」

「あ・・・・・・」

シリウスはそれ以上何も言わずにアプリコットのなされるがままにされていた。

君には帰る所が無いんだよね・・・その戦闘機の中にしか・・・でも・・・

「もう、寂しくなんかないよ・・・私がいるから・・・」

「・・・ッ!?」

「私がずっと一緒にいてあげるから・・・」

シリウスの目からは涙が零れていた・・・

シリウスの機体からオーラと12枚の翼が消失していく。

その事にタクトやが気付いていればこの先にある悲しき運命はなかっただろう・・・

フェイトよ・・・シリウスは所有物だ・・・誘惑しようとしても無駄だ・・・!)

「え・・・?わわ・・・!」

リコの身体がシリウスから離されて相転移させられた。リコはクロス・キャリバーの中に移されていた。

「リコ!良かった!無事で・・・!!」

「シリウス・・・」

そしてシリウスは静かにドライブ・アウトして消えていった。

「シリウス君・・・」

私はシリウス君がいた場所をずっと見ていた。

 

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