第二章
俺には神界で__の長男として生まれる前の記憶が一切無い・・・
自分の本当の名前も知らなかった・・・
そして、そんな俺を育ててくれたのがマスターだった・・・
??・??
そして、俺がこの世を創世したのは神界が消滅してからの事だった・・・
神界はなりそこないの世界だった・・・
神界は無知で無邪気な創造主が創造した世界・・・
故にそれを統治する者が必要だった・・・
それが 究極神 混沌を司る もっとも起源に近い存在・・・
神皇 タイラント
そして、神皇が自分の補佐をさせる為に神界で多大の功績を残した英雄に任命する神々の王
それがマイ・マスター 神王 アバジェスだった。
神王は常に移り変わりが激しくマスターは39代目の神王だった。
何故なら、歴代の神王は皆、神皇に反旗を翻して返り討ちにあっているからだ。
そして神皇に挑んだ最後の神王となる。
神皇が神王を任命するのは本能的なものだった。神皇は混沌の体現者であるが故に統治などが出来る程頭がよく無かったのだ・・・
故に神皇を創造した全ての起源
因果律 メビウスは
神皇に常にパートナーとなる者を求めるように神皇の本能に植えつけたのである。
神皇は頭は悪いがその混沌の海(カオス・シー)と呼ばれる全てのエネルギーの大元から無限大にエネルギーを汲み上げる為に無敵だった。
故に神皇に戦いを挑むのならそのカオス・シーからエネルギーの補給口を確保しなければならない・・・それを応用したものがクロノ・ストリング・エンジンが取り出しているエネルギーだ。元はカオス・シーから取り出しているものだ・・・要は精製されたガソリンとでも考えてくれればいい・・・ただし、精製というのは混沌の方向性を+から−かを定めるという事であり、いかに無限大と言えども一度に膨大な出力を得られるわけでは無い・・・つまり無限の海に小さな蛇口をつけても意味が無いという事だ・・・
そこでこのクロノ・ストリング・エンジンは中止となり、ワンランク上のエンジンの開発に俺とマスターは乗り出した。より大きな蛇口を持つエンジンを・・・
それが、後のGRA−000、GRA−001のエンジンとなるインフィニである。
しかし、俺達は開発などはしていない・・・俺とマスターは拾い物を真似ただけだ。
そしてそのインフィニの原型が搭載されて神界のタルタロスに埋もれていたのが
カズヤのブレイブ・ハートだ。
ブレイブ・ハートの名はロキが勝手に命名しただけだが、名前がこの機体にはなかった・・・それでもこの機体は神である俺やマスターでさえも震え上がらせる程のエネルギーを内臓していた。俺達は何も知らなかったのだ・・・この機体こそが
因果律の機体である事を・・・
そして、それを複製して最初の紋章機が完成した。
GRA−000 ラグナロクである。
ちなみにGRAとはGOD REIGN ALL・・・
神 支配する 全ての意味で、語呂が悪いとのマスターからの指摘でやむおえなく
AGR(全ての神を支配する)からGRAに変えたのだ・・・
それに費やした期間は約13年間だ・・・
話が少し戻るが、神王の下には上級神と言われる者達がいる・・・
第一級神の神王とのように神は等級が割り当てられている・・・
まず第二級神がこの俺だ・・・司るのは天界の統治、冥界の統治そして、全ての始まりと終わりを司る・・・何気に大変だった・・・
そしてその下には第三級神の四聖獣と呼ばれる神獣がいる
四台元素の水を司る青龍をリーダーにして火の朱雀、風の白虎、土の玄武だ。
この四聖獣を治めるのが神王 黄龍のアバジェスだ。
四聖獣は混沌を四台元素に変換する為に絶対に絶やしてはならない者達だから、その統治は神皇直下の神王で無いと務まらないのだ・・・
そして、その下には人間の欲望を司る第四級神の下級神達・・・十二傑集がいる。
こいつらの移り変わりもまた激しい・・・こいつらには独自に12段階の級があるのだが、所詮は神界から集めた人間なのでいつも級の取り合いだった・・・
メベトこと覇王 オケアノスも元はこの十二傑集を統べる者だったのだが、ゼウスにその座を奪われ、失脚をする事になったのだ。
ちなみにこのゼウスは今でも存命中だ・・・エオニアのクーデター時に自分自身を死亡扱いにしてな・・・今でも皇居を蝕む害虫の一人だ・・・見つけ次第始末してやる・・・
と話がそれた・・・どうも俺は説明するのが好きではあるが、上手くは無いらしい・・・
俺達は遂にインフィニを完成させた。ただ、問題なのはその蛇口を大きくするというのは神皇のカオス・シーから強奪するというものであった・・・というより、神皇自身もこのカオス・シーにアクセスしてそのエネルギーを得ている・・・ようはそれを真似ただけだ。しかし、普通にアクセスが出来るわけがない・・・そこでアクセスできる者を知っていた俺がマスターに情報を提供して三つのインフィニを開発したのだ。それは運命の三女神と呼ばれる者を媒介にしてアクセスするというものだ・・・
実はこの俺の分かりにくい説明で気付いたのならば光栄なのだが、因果律にさえ、干渉できない絶対者が存在する・・・それが時の神とも言われる運命の三女神だ。
時を介してアクセスする為に因果律も神皇もインフィニを止める事はできない・・・
それどころか今ではインフィニ搭載機の内一つを強奪しておもちゃにしている始末だ・・・
インフィニは無限大のエネルギーで驚異的な出力を誇る為に宇宙一つを消滅させる恐れもあった為に自尊心の高い人間にのみ使用できるようにわざと枷を設けた。
それがH・A・L・Oの原型とも言えるライフ・オブ・エピオン・システム通称L.Eシステムだ。L.Eシステムはパイロットの想像した事を忠実に再現してくれる。
ちなみにその名は次世代の生命と言うのだが、L.Eシステムを使う者にはこの世界を守護して欲しいという願いを込めて俺がそう名付けたのだ・・・
この世界は弱肉強食であるからその強者に弱者が一方的に狩られないようにと俺やマスターは数々の紋章機を開発していったのだ・・・
それがインフィニの複製であるアンフィニを搭載した量産紋章機・・・
GAシリーズである・・・
当初はマスター・ユニットであるGRA-000ラグナロクの指揮の元に戦う無人機だったのだが、ルシファーが眠りについた後で、ラグナロクはアルフェシオンとエクストリームに分裂し、その上、約十数年前に俺の外宇宙へのリコ誘拐の報復攻撃に激怒したエクストリームが暴走してアルフェシオンに多大なダメージを与えた為に俺もアルフェシオンも修復の時間稼ぎをせねばならなくなった・・・
当然無人機のGAシリーズは約立たずだった・・・そこでマスターの提案により、アンフィニをクロノ・ストリング・エンジンに換装し、人間にも操作が可能な簡易L.EシステムことH・A・L・Oを搭載してGAシリーズを有人機に変える事となった・・・
そして俺はその操縦者に適任なメンバー天使達を集める事になった・・・
言っておくが、女ばかりを選んだのは偶然だからな・・・本当だぞ?
タクトとカズヤの出生の秘密は話がややこしくなるので次の機会にしよう・・・
さて、ここで疑問がでてくるだろうが、RAシリーズは俺達が開発したものでは無い。
RAシリーズを開発したのは因果律だからだ・・・
更に言うならばNEUEを創造したのも俺ではなく因果律だ。
俺はEDENしか創造していないのだ・・・
RA・・・ROON・・・運命・・・フェイト・・・運命の天使・・・
天使・・・天の使者・・・天に従う者・・・
もうおわかりだろうか・・・運命の天使・・・その意味が・・・
俺がタクトにEDENの最後の敵はNEUEだと言ったのは・・・そういう意味だ。
人間が常に抗い、従属し続けるもの・・・それが運命だ。
定められた未来・・・それは運命とも言い、絶対とも言う・・・
運命には絶対逆らえない・・・特にこの俺ではな・・・
さて・・・ここからはあまり語りたくは無いのだが、マスターの命令なので俺の昔話を聞いてもらう事になるが、我慢して聞いてくれ・・・俺もこんな無意味な話はしたくは無いのだが、マスターの命令は絶対なのだ。
〜??の育児日誌〜
ふざけんなよ・・・コラ?何だ?このタイトルは・・・これに訂正しろ!
〜俺の奴隷人生〜
俺がEDENを創造する為には因果律とのいくつかの約束があった。
一つ目・・・人間の欲望をそのまま移植する事。
二つ目・・・因果律のアーティファクトを配置する事。これは今ではロストテクノロジーと呼ばれている・・・
三つ目・・・生と死の概念はそのまま残す事・・・
四つ目・・・野生の生き物をそのまま残す事・・・
つまり因果律が出した条件とは人間に同じ人間を殺す事ができるようにとの事だった。そして、野生の生き物を放って、人間に本能というものを常に意識させるようにとの事だった・・・
他にも色々な因果律が定めた枷はたくさんあるが、説明するのが大変なのでここまでにしておこう・・・
要点をまとめて言うと因果律“は弱肉強食”の世界を創れと言ったのだ。
俺は基本的に馬鹿女の注文通りの世界を創ったにすぎない・・・
何故なら、俺には望む世界など無いのだから・・・
俺は最低限の文化と祖たる生命体を放ったに過ぎない・・・
ただ一つ・・・俺が直接手を加えた人間という創造物は別だが・・・
10月21日・・・午後3時27分・・・
我が家であの馬鹿女は生まれた。
・・・こいつがルシファーの生まれ変わりか・・・と俺はベットに寝かされている赤ん坊を見てそう思った・・・まぁ・・・EDENの創造主たる俺には見慣れた光景なのだが・・・
「レイよ・・・きょうからお前もお兄さんだぞ・・・」
「マスターご苦労様でした・・・それとそのお兄さんていうのはやめて下さい・・・」
俺は人間とは誕生した過程が全く別なのだ・・・この生殖行動とやらも因果律が人間に押し付けた枷の一つに過ぎない・・・
「やれやれ・・・相変わらずだな・・・お前も・・・とにかくルシファーの面倒はお前が見てやれ・・・いいな・・・」
ちょ、ちょっと・・・冗談ですよね!?
「は!?それはあの二人の役目でしょう!?」
「あいつはもうすぐ忙しくなる・・・ロストテクノロジーの処分がまだ大分残っているからな・・・」
「ぐ・・・!ならばあいつにやらせた方が良いに決まってるじゃないですか!あいつはルシファーを育てて来たんですから!!」
「しつこいな・・・それにこれも修行の一環だ・・・異論は許さん。」
「ぐ・・・ぐぐ・・・!」
「良いじゃないか・・・きっと可愛くてしょうがなくなるぞ?」
「・・・憎くてしょうがなくなるかもしれませんけどね・・・」
こうして桜葉家に新しい住人が増えた・・・
とはいえまだ名前は決まっていない・・・
10月25日・・・俺達は馬鹿女の名前を考えていた・・・
「う〜ん・・・悩むなぁ〜」
クソ親父ことリョウは首を捻って考え込んでいた。日頃は真面目なんて言葉を使おうものなら偽証罪にもなりかねないこの男もさすがに娘の名前になると真剣だった。
「・・・何でもいいじゃねぇかよ・・・こいつの名前なんてよ・・・」
そう言いながら俺はすでに名前を一つ考えていたのでその名前を紙に書いてリョウとお袋こと鬼婆にそれを書いて見せた。
「・・・・・・」
ゴン!!
「でっ!?何すんだよ!?」
何とリョウの奴は俺の頭をどつきやがった・・・しかも鬼婆も睨んでやがる。
いいじゃねぇか・・・能天気でもよぉ・・・お似合いじゃねぇかよ・・・
「ルシファーはケーキが大好きだったからなぁ・・・」
あ、シカトか?コラ?
「う〜ん・・・あ!そうだ!ねぇミルフィーユなんてどう?ミルフィーって名前はどう?」
そんな甘ったるい名前つけたら甘い奴になっちまうぞ・・・
「ミルフィーユ・・・ミルフィーか!いい名前だな!」
マジかよ!?しかも早いな!オイ!!
「よし、決まったこの娘の名前はミルフィーユ・桜葉だ!」
お〜い、馬鹿女良かったなぁ・・・お前の名前はカップヌードルが出来上がらない程の時間で決めてくれたみたいだぞ〜・・・
俺は馬鹿女の唇を指先でツンツンしながら祝福してやった。
パク
ん?何だ・・・指先が心なし温かくなって・・・って!?
何とこの0才児の馬鹿女は俺の指先を咥えていやがるのだ。
・・・・・・上等だ・・・このガキ・・・・・・
こうしてこの馬鹿女の名前はミルフィーユに決定した・・・
しかし、ミルフィーユとはまた甘ったるい名前だな・・・オイ・・・
馬鹿女が1才になった5月26日・・・
俺は哺乳瓶を暖めていた。
「・・・なんで俺がこんな事を・・・」
このセリフももう何回言ったか検討もつかない・・・
あの馬鹿親共はオシメの取替えや、風呂、そしてトイレの世話まで全部俺に押し付けたのだ。そういやあの二人は極度の面倒くさがりだったな・・・どちらにしろ結論はただ一つ・・・あいつらには親の資格が無いという事だ・・・
今、振り返れば本当によくリコがあの馬鹿二人から生まれたもんだ・・・
「・・・・・・そろそろか・・・」
俺はぬるま湯程度の温度に調節した哺乳瓶を持って馬鹿女のベットまで向かった。
「オラ、さっさと飲め・・・」
俺が馬鹿女の口元に哺乳瓶を近づけるとチュパチュパと吸いだした。
鬼婆が留守の時はこうやって俺が哺乳瓶で餌やりをしていた。
半分ぐらい飲み終えると満腹になったのか吸うのを止めた。
「さて・・・」
俺が哺乳瓶を片付けに行こうとすると
「うあ〜〜〜あ〜〜!!」
突如馬鹿女が泣き始めた!ぐあ・・・またかよ・・・!!
「あ〜わかった!わかったって!!」
俺がベットに近寄ると泣くのをやめてひっぐひっぐとしゃくり始めた。
はぁ・・・そう・・・この馬鹿女はどういう訳か俺が傍を離れると泣いてしまうのだ。
俺がこの馬鹿女から離れられるのはこいつが眠っている時ぐらいしかない・・・
従ってこいつの寝場所は自動的に俺の部屋になるのだ・・・
しかもこいつが泣けばあの馬鹿親がすっ飛んできて俺を殴る・・・
例えあいつらが留守でもご近所さんが通報するシステムになっていてあまり回数が増えると俺がマスターから説教を受ける羽目になるのだ・・・
「俺が泣きてぇよ・・・ほんとに・・・」
馬鹿女がニ才になった2月2日・・・
この日、遂に馬鹿女が歩けるようになった。
トテトテトテ・・・ポテ!
馬鹿女は俺に向かって歩いてこようとして倒れて、必死に立ち上がってまた歩いてきて倒れていた。
見ている俺は既に半笑いだ・・・まぁ〜なんとも無様な歩き方だこと・・・!
うわっはっはっはっはっはっはっ!!
「う〜ん・・・これも俺達の愛の力だな・・・」
「そうね・・・」
ガシと肩を抱き合う馬鹿二人・・・
そう思うのならその愛の力とやらで俺の仕事を替われよ・・・オイ・・・!
そんな二人を冷めた目で見ている俺に馬鹿女がようやくたどり着いた。
「きゃっ!きゃッ!」
・・・何やらやたらとうれしそうに俺の足を掴んでいるが・・・とりあえずこいつをサッカーボールにしてもOK?
馬鹿女が三才になった10月21日・・・
この日は馬鹿女が生まれてしまってから3回目の誕生日・・・という事もあって今日はマスターも家に来ていた。
「はっはっはっ!懐かれているな!レイよ!!」
マスターがニヤニヤと笑っている・・・
「・・・・・・」
そう・・・俺の背中にはあの馬鹿女が張り付いているのだ。ぴったりと・・・
「うむうむ!仲良きことは良き事よ!」
・・・・・・いくらマスターでも殴りますよ・・・マジで・・・
「・・・たっく・・・どうして父親の俺にはあそこまで懐かないのかなぁ〜・・・」
クソ親父がため息をつきながら心境を告白するが・・・
俺から返答してやるとすれば・・・だったら面倒はお前が見ろ。
そしてたらいつでもこの家を出て行ってやるからよ・・・!
「それはお前が面倒を見なかったからだろうが・・・どうせ面倒はレイ一人で見ているんだろう?」
さすがマスター!よく分かっていらっしゃる!
「ふざけるな!俺はいつだってこの溢れんばかりの愛を注いでいるんだ!!」
お前こそふざけるな・・・溢れんばかりの愛ってただ単にじゃれ付いてるだけだろうがよ・・・
そして次の瞬間、この馬鹿女はとんでも無い事を口走った・・・
「お兄ちゃんスキ!」
は!はああああぁぁぁぁーーーーーーー!!!!?
俺の背中に頭を擦りつける馬鹿女を見てクソ親父とマスターがポカンとしてこちらを見ていた・・・ち、違う!!これは何かの間違いだ!!
「レイ・・・まぁ・・・仲良き事は・・・いい事だぞ・・・?」
マ、マスター!?最後の?はどういう意味ですか!?そんな悲しそうな目で見ないでください!
「う〜ん・・・まいったなぁ・・・タクトに何て言ったらいいのか・・・」
あの馬鹿はまだ8才でしかもコイツとはまだ面識も無いわい!
「お、タクトで思い出したけど、お前、もうタクトにはあったのか?」
「え?は、はい。」
突然のマスターの仕事の質問に俺は少し驚いてしまった。
「それでタクトはどうだった?」
どうだった?というのはあいつがどれくらい優秀かという事だ。
「まだまだガキですが、頭だけはずる賢く働くようです・・・教育の為に一年前にチェスを教えてやったんですけど、中々、筋はいいです・・・まぁ俺に比べればまだまだガキですけどね・・・」
「小学生相手に張り合ってどうするんだよ・・・お前は・・・」
「まぁそう言うな・・・なるほど・・・ではタクトは予定通りの成長を遂げているのか・・・」
「はい・・・そう思っていただいて結構です・・・」
「タクト・・・?」
俺の背中で馬鹿女が何かをつぶやいたが俺は聞かなかった事にした。
馬鹿女が4才になった8月4日・・・
俺のシャドーレンズのサングラスに太陽の光が吸収されていく・・・
「あっちぃ〜・・・」
俺は家から徒歩で15分のところにある最寄のスーパーに向かっていた。
本当はこの長い髪の毛が鬱陶しいので切りたいのだが、何故かマスターが駄目だと言うので仕方なくゴムで後ろ髪を束ねている・・・
「お兄ちゃん・・・暑いよ〜・・・」
馬鹿女もようやく歩けるようになったがこの暑さには耐えられないようだ・・・
家のまわりには樹木が生い茂っているが、ここら一帯は樹木が無い為に気温が上昇しているのだ・・・
「だから家で留守番しとけと言っただろうが・・・」
「だって〜・・・」
馬鹿女が少し、いじけたように口を尖らせるが俺の知った事か・・・
「・・・お兄ちゃんがいないと寂しいもん・・・」
・・・フン・・・お前の心境など知った事かよ・・・
「うるせぇ・・・少しは黙って歩け・・・」
「ぶ〜!」
そして俺達はようやくの事でスーパーまで辿り着いた。
「わ〜い♪涼しい!」
馬鹿女は素直な気持ちを表現して店内を駆け出した。
「コラァ!店内を走りまわるんじゃねぇ!!危ないだろうが!!」
俺は馬鹿女の首根っこを捕まえて引きずり戻した。
「や〜!は、離して〜」
「離してもいいが・・・もし万が一にも暴れたりしたら・・」
「・・・お兄ちゃん・・・まんがいちってなぁに・・・?」
・・・あ〜そうだった・・・忘れてた〜・・・お前がモノホンの馬鹿だって事をよ・・・
「お仕置きされたくなければ大人しくしていな・・・ここで尻叩きされたくなければな・・・」
「う、うん・・・」
どうやら大方の意味は理解してくれたようだ・・・
まずは・・・青果類から買い揃えるか・・・
俺はカートを押して青果コーナへと向かう・・・その時・・・
「お!レイじゃないかい!!」
声をかけてきたのは近所の田島さんの所の奥さん・・・
ちなみにこいつは親父達への密告者その1だ・・・
二日前にその職務をまっとうした人だ。
「どうも・・・」
「あらあら、今日もミルフィーちゃんと一緒かい?」
「おばちゃん、こんにちは〜!」
「はいこんにちは。でもねミルフィーちゃん?」
「ん?」
「おばちゃんじゃなくてお姉さんって呼んでくれた方が嬉しいわねぇ・・・」
「うん!わかった!お姉ちゃん!」
「あら〜あらあら〜♪」
嬉しそうに身体をくねらせる田島の奥さん・・・キモイからやめれ・・・
「・・・田島さんの所の娘さんは今日は一緒じゃないんですか?」
「あ、あぁあの娘なら今、別行動だよ・・・」
田島さんの所の娘は15才ぐらいの子供になる・・・
「あら〜もしかしてうちの娘の事が気になる〜?」
「いえ、別に・・・」
「あらまぁ・・・うちの娘はあなたにぞっこんなのにね〜」
知った事かよ・・・
「私も若ければね〜・・・」
オイ・・・やめろ・・・マジで怖いからさ・・・
「その真っ白なシャツから見えるセクシーな胸板・・・さすがはリョウさんの息子さんだけあって見事ねぇ・・・顔はエレナさん似でハンサムだし・・・目はリョウさんに似てキリっとしてるしねぇ・・・」
エレナとはエレナ・桜葉・・・鬼婆の名前な・・・
「外見なんて下らないですよ・・・人間は中身でしょう・・・?」
「そしてそのハスキーボイス・・・中身もいいわね〜」
聞いちゃいねぇ〜・・・
「あ!レイさん!」
ん?ああ・・・裕美か・・・裕美・・・このおばさんの娘の名前だ。
ショートカットの娘で外見はそこそこだ・・・おばさんは自分の若い頃とそっくりだと自慢しているが十中八九嘘だな・・・
「お姉ちゃん、こんにちは〜♪」
「あら〜ミルフィーちゃん、こんにちは〜!相変わらず可愛い〜♪」
ムギュ〜と馬鹿女を抱きしめる裕美・・・欲しいなら喜んでやるぞ?
「あれ?でもお姉ちゃんのお母さんもお姉ちゃんなの?」
「え?」
「だってお姉ちゃんがお姉ちゃんって呼んでって言うから・・・」
馬鹿女の言っている事は言葉としてはおかしいけど、裕美は馬鹿女が奥さんの方を見ていたのでその意味を察したらしい。
「お母さん駄目じゃない!ミルフィーちゃんに変な事を言わせたら!」
「裕美をキツイ事を言うわね〜・・・」
いや・・・いたって常識的な指摘だと思うが・・・
「レイさん!レイさん!」
「ん?何だ・・・」
「今度私達、お友達の誕生会をやるんですけどレイさんも来てくれませんか?」
「裕美・・・悪いが・・」
「レイさんが来るとなればいっぱい人が来ますよ!レイさんってみんなの憧れですから男子も集まりますよ!!」
何故、男子まで集まるんだよ・・・
「それにレイさん宛てのラブレターもいっぱい預かっているんですから!」
時にはその中に男からのも混ざっていたけどな・・・
「良いじゃない、行っておやりよ・・・」
田島の奥さん・・・俺は暇そうに見えて暇じゃないんだ・・・
「レイさんの料理も食べたいですし〜」
冗談じゃねぇ・・・何でそんな面倒くさい事を・・・
「あたしも食べたい〜!」
そんな俺の心境も知らずにこの馬鹿女は無邪気だ。
「どうしってもって言うならケーキだけでもいいですから!」
裕美をやけに食い下がるな・・・
「あたしも食べたい〜!」
同じ事を言うな・・・お前は食べたい〜としか言えないのか・・・
「お願いします!レイさん!今度麻雀に付き合いますから!」
「あたしも付き合うよ・・・」
・・・・・・まぁコイツ等相手ならそうそう負ける事もないだろうしな・・・
「わかった・・・約束はできないが、行けそうな時は連絡をする・・・」
「やったぁ〜♪さっすがレイさん!」
「やった♪やった♪」
裕美と一緒になって喜ぶ馬鹿女・・・お前は一体何がそんなに嬉しいんだよ・・・
その後、約束通り、馬鹿女と一緒に裕美の友人の誕生会へ赴き、約束通り麻雀を開始して四人目として乱入してきたクソ親父に俺がボロ負けした事は言うまでも無い・・・あの野郎・・・俺ばっかりロン狙いしやがって・・・
そしてこの馬鹿が5才になった1月23日・・・の早朝7時・・・
「ZZZ・・・Z・・・」
「お兄ちゃん・・・」
ゆさゆさ!
「・・・ZZ・・・ん・・・んん・・・」
「おにいいちゃん!!」
ゆさゆさ!!
「・・・やかましいぃーーーー!!!」
ドゴォオーーーーン!
「ふぎゃ!」
俺は眠れる獅子を起こした愚か者をベッドから吹っ飛ばした。
「うわ〜ん!!」
あ、あぁ・・・来るぞ来るぞ・・・
「オラァーーー!!またミルフィーを泣かしたのかーーー!!」
ぐあ・・・来たよ・・・馬鹿親その1が・・・
「あんた!今度は何をしたのよ!」
そして馬鹿親その2が・・・
その後俺はとても言葉では表現できない制裁を受けた。
「ひっく!ヒック・・・」
「かわいそうに・・・こぉ〜んなお兄ちゃんで困るよね〜?」
馬鹿女はうずくまって必死に泣き止もうとしている・・・
とはいえ俺に罪悪感などは無い・・・いっつもいっつもこの馬鹿に叩き起こされている俺の身にもなってみろ・・・後、鬼婆、その台詞はお前だけには言われたくないぞ・・・
ちなみにこの馬鹿女は何故か俺の部屋で寝ているのだ・・・これってもはや嫌がらせの領域だろう。自分の部屋で寝る時は寝る前に俺に怒られた時ぐらいのもんだ・・・
「オラ・・・謝らねぇか・・・」
こいつの言う事は無視してっと・・・俺がこの馬鹿女に叩き起こされる以上に我慢できない事がある・・・それは・・・それは・・・!!
この背中に湿った感触・・・言うまでも無くこの馬鹿女のヨダレだ・・・
そして本当に殺意を抱いてしまうほどに我慢ができない事が・・・
布団にできた染み・・・こいつの俗に言う“おねしょ”だ!!
「ぐあ・・・またかよ・・・」
ほんと・・・俺が泣きてぇよ・・・
結局その日も俺は自分の布団を洗う羽目となった・・・
他にも仰天なこの馬鹿女の伝説がある・・・
俺がシーツを洗濯していると馬鹿女が来た。
今、話しかけてきたらテメェごと洗濯機にかけてやるぞ・・・
「あ、あの・・・あたしにも手伝える事ない・・・?」
「ない。消えろ。」
俺は取り合いたく無いので即答してやった。
「ほんとに何かない?」
「無いって言ってるだろうが・・・」
俺はほんの一瞬だけ馬鹿女に振り返って睨みつけた。
「う・・・でもでも!何か無い・・・」
はぁ・・・面倒くせぇなぁ・・・!
ただでさえ俺にはろくな噂が無い・・・
この前なんか俺がコイツのパンツを干していたら俺が妹フェチだとの噂まで流れてしまって誤解を解消するのにもの凄く時間を費やした。
おまけにこの前、こいつに洗濯機を使わせたらコンデンサが焼ききれて大変だった・・・コンデンサが焼ききれるとモーターが動かなくなるんだ・・・単相の電流で動かすにはこのコンデンサで位相を90度ずらして単相を三相に変えてやらなければいけない・・・どうだ?少しはタメになったか?扇風機も同じだ。電気が流れているのに動かない場合は、モータに直結しているコンデンサを取り替えてやれば直るぞ。
そこで俺は的確な指示を与えた。
「そんなに言うならあの鬼婆とテメェの下着をそこの洗濯機につっこんどけ。そして自分で干せ。」
「うん!」
そう言うと馬鹿女はスカートを捲り上げて自分のパンツに手をかけて・・・
ゴン!
「イタ!」
「何やってんだ!!テメェは!!」
「だ、だって・・・オマタが気持ち悪いんだもん・・・」
「は!?お前さっき穿き替えたんじゃなかったのか!?」
「ううん・・・」
「汚ったねぇなぁ!早く着替えろ!!」
「でもパンツがないよ〜」
「ああ!もう!!持ってきてやるからさっさと洗濯機に入れとけ!そして俺が戻ってくるまでここから動くなよ!いいな!?」
そう言って俺はコイツの部屋まで急いだ!
そしてタンスから適当に一枚の下着をとって戻ろうとして・・
「レイ・・・お前、ミルフィーの部屋で何を・・ん?」
いつの間にか背後にいたクソ親父が俺が手にしているものに目を付けた・・・
あ〜嵐の予感が・・・
にしても何でコイツはこうもタイミングがいいんだろうか・・・
「テ、テメェ・・・妹の下着をどうするつもりだ!この変態野郎!!」
へ、変態野郎・・・!?いつも俺の風呂をこっそり覗いているテメェに言われたくねぇぞ!その台詞だけは・・・!!ちなみに俺の風呂にはあの馬鹿女が一緒に入っている・・・あいつは俺でなければ駄目なんだとか・・・風呂好きの俺には迷惑極まりないのだが、この馬鹿はそれがうらやましいらしくていつも覗いているのだ・・・
まぁ・・・娘を持った親父ってのは大抵そういうもんさ・・・
「う、うらや・・・じゃねぇ!成敗してやるぜ!!!」
うらやましいならそう言え・・・本当に喜んで代わってやるから・・・
「来い!変態野郎!!!」
・・・ちなみにこのクソ親父はマスターよりも強い・・・早く言えば格闘技にかけては右に出る者はいないぐらいに強い・・・本当に馬鹿は喧嘩に強いというが・・・
だが・・・だが!さっきの暴言だけは我慢できん・・・!!!
「上等だ!オラァァァーーーーー!!」
そして、激闘10分の末・・・
「ふん!これに懲りたら二度とするなよ!!」
KOされたのは俺だった・・・いくら技がよくても絶対的な力の前には敗れるのだ・・・
そしてこの日から6ヶ月間俺のあだ名はロリコン下着フェチとなった・・・
死にたい・・・
馬鹿女が5才になった3月3日・・・
「ZZ・・・ZZ・・・ZZZ・・・」
「お兄ちゃん起きて・・・」
ゆさゆさ・・・
「ZZZ・・・ZZz・・・」
「お兄ちゃんってば〜!」
ゆさゆさ・・・
「・・・うるせぇ・・・殺されたくなかったらさっさと出て行け・・・zz・・・」
「う〜!」
はぁ〜・・・俺の安眠できる時っていつか来るのだろうか・・・
チュッ
ん?頬に何か・・・まさか・・・
俺はガバっと跳ね起きた。
「えへへ〜お目覚めのキッスだよ〜」
「・・・・・・」
さぁ・・・今日もやるか・・・朝の準備体操をな・・・
俺は指の関節を鳴らして馬鹿女に照準を合わせて・・・
「そぉ〜れ〜♪」
ドッゴオオォォォォーーーーーン!!
こうして俺の朝が始まるのだ・・・というより始めさせられるのだが・・・
「まったく・・・ロクでもない兄ね・・・あなたは・・・」
「炊事洗濯を全然しないオメーに言われる筋合いはねぇよ・・・」
俺は朝食の片付けをしながら、テーブルでTVを見ながらくつろいでいる鬼婆に言い返してやった・・・
余談だが・・・この鬼婆の為に台所のテーブルとリビングにTVが置いてある。提供者はマスター・・・じつはマスターはこの鬼婆の兄だったりするのだ・・・
マスター・・・さぞ苦労したんでしょうね・・・分かります・・・ええ!分かりますとも!今の俺も苦労してますから・・・
「お〜に〜いぃちゃん!」
そしてその元凶が俺の足に抱きついてきたのでそのまま足を振って引き剥がした。
「うわ!」
元凶は軽く後頭部をぶつけたが、さほど痛くはなかったらしく、俺を非難のまなざしで
見ているが、俺は敢えて無視を決め込んだ。
「む〜!お兄ちゃんの馬鹿!!」
ば、馬鹿・・・?この俺がお前に馬鹿って言われたのか・・・
「・・・ミルフィーユ・・・」
俺は馬鹿女に合わせてしゃがみ込んで珍しくフルネームで優しく話しかけてあげた。
とうの馬鹿女も驚いたらしくて指を咥えてキョトンとしている・・・
・・・にしても相変わらず噛みぐせの直らない奴だな・・・まぁいい・・・
「ミルフィーユ・・・俺の事が好きか?」
「うん!もちろん大好き!!」
「どれくらい?」
「一番大好きーー!!」
「そうかそうか・・・」
俺は至って優しい笑顔を崩さないで馬鹿女の首根っこを捕まえた。そして・・・
「俺もなぁ・・・宇宙で一番・・・お前の事がだなぁ・・・」
「うんうん♪なぁに〜?」
ニパニパと嬉しそうに次の言葉を待っている馬鹿女・・・そうかそうか・・・
そんなに飛んでみたいんだな?よしよし・・・お兄ちゃんに任せておけ・・・
「大ッ嫌いなんだよオォォォォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
そのまま俺はテーブルでTVを見ていた鬼婆の方を目掛けて投げ飛ばした!
名付けてトルネードスルー・・・
馬鹿女がスピンしながら飛んでいった。
「うわ〜〜〜!?」
「うわ!ミ、ミルフィー!?」
鬼婆は予想通りに馬鹿女をキャッチした。
「ミルフィー!!大丈夫!?」
「ふに〜・・・」
馬鹿女は目を回している・・・成功だ!
「あ、あんたねぇーーーーー!!!」
しまった・・・鬼婆が文字通り鬼のように強いってのを忘れていた・・・
それから駆けつけたクソ親父と共に俺はまたいつもの制裁を受けるのだった・・・
「まったく・・・何で俺がこんな事を・・・」
俺はぶつぶつ言いながら馬鹿女が持っているトランプの内の一つを取った。
「ぐだぐだうっせぇ奴だなぁ・・・今日はひな祭りだ・・・そしてお前は今朝ミルフィーを投げ飛ばした・・・それだけで十分だろうが・・・」
全然十分じゃねぇよ・・・おまけに俺が今引いたのはババだった・・・
今、俺達四人は馬鹿女のリクエストでババ抜きをしている・・・
「あ、上がった〜♪」
お〜お〜相変わらずの強運ですこと・・・
「やったな!ミルフィー!」
「うん!」
わぁ・・・何とも憎たらしい程の笑顔ですこと・・・
「お、俺も上がりだ。」
「やったね♪」
「おう!サンキュー!!」
親父と馬鹿女はタッチして喜んでいた。はいはい・・・良かったなぁ・・・
「今度は私ね〜♪」
鬼婆が俺からカードを引く・・・楽しそうだなぁ〜・・・
だってそっちは一枚でこっちは二枚だもんな〜しかも一個はババだし・・・
「あ、私もあがりね〜♪」
「良かったな・・・」
俺は本格的に飽きてしまった・・・これ以上付き合う必要も無いだろうし・・・
「俺はもう寝る・・・」
「えーー!?もっと遊んでよ〜お兄ちゃ〜ん・・・」
馬鹿女が催促の意味で俺のジーパンを引っ張るが俺は無視して二階の自室に向かおうとするが、コイツにしては珍しく食い下がってくるので引き剥がそうとしたら・・・
「ねぇ・・・もしかして・・・面白くないの?」
・・・今まで俺が『うわ〜い!楽しいなぁ〜♪』なんて言った事があるか?
それはそれで我ながらキモイと思う・・・
「どうして面白くないの?(裕美)お姉ちゃんとかとしている時は楽しそうなのに・・・」
俺は特に深く考えず言ってやる事にした。
「お前がいるからつまらねぇんだよ・・・」
「え?」
「俺はお前と正反対でまったく運が無いから面白くねぇんだよ。」
「あ・・・」
馬鹿女がシュンとなる・・・オイ・・・?
「ご、ごめんね・・・お兄ちゃん・・あたしが・・・抜ける・・からお兄ちゃんは・・・お父さん・・とお母さんと遊んで・・いい・・よ・・・」
そう言うと馬鹿女は走って二階へ上がって行ってしまった・・・
「お、おい!?ミルフィーーー!?」
呼びかけてもあいつは戻ってこない・・・まずい・・・おそらくは自分の部屋で泣いているな・・・
「おい・・・ちょっとツラかせ・・・」
真面目な親父の声・・・
「・・・・・・」
俺は黙って表に出る事にした。
「この馬鹿野郎が・・・!」
バキィィ!!
親父の強烈なストレートを俺はもろに喰らって吹っ飛んだ。
痛いのには慣れているが、この親父のパンチはマスターでさえも一撃でKOしたというほどの威力だ・・・正直クラっときた。
「つっ・・・」
「フン・・・いつもなら反撃してくるお前が殴り返してくるお前がそうしないのはミルフィーが何で泣いたのかを知っているからだろ・・・」
「まぁな・・・」
「あんたねぇ・・・幾らなんでもあの態度は無いんじゃないの?」
「・・・少し反省してる・・・」
「あったり前だ・・・あれで反省すらしなかったら今頃、殺してるところだ・・・」
「ねぇ・・・レイ・・・正直に答えて・・・あなたはミルフィーの事が嫌いなの?」
「好きな訳が無いだろう・・・」
「なら、嫌いなの?」
「嫌いに決まっているだろう・・・俺の正体を考えればよ・・・」
「そんなの関係ねぇだろうが・・・ミルフィーはお前の事をあんなに思っているのに・・・毎日あそこまで一緒にいるなんてのはお前くらいだぜ・・・」
「・・・そんなの知った事かよ・・・それにあいつが一番愛しているのはタクト・マイヤーズだ・・・それはお前達も知っているだろう・・・」
「そうか?俺はあいつの性格から考えて、タクトは恋人として、そしてお前は家族として誰よりも愛されている・・・俺の目が確かなのはお前も知っているだろう・・・」
「愛される・・・か・・・わからんな・・・俺には・・・」
「はぁ・・・ここまで馬鹿だとはな・・・はっきり言ってやる。今のミルフィーが一番好きなのはお前だ。」
「・・・何でそんなにあいつは俺にこだわるんだよ・・・」
「はぁ・・・本当の馬鹿だな・・・それはお前があいつに好かれているそれだけの事だろうが・・・それが現実だろうが・・・」
「・・・だがな、いずれ俺とタクトは殺し合う・・・それはお前達だって知っている・・・そうなった時、あいつはどうする・・・?」
「だから、わざとミルフィーに嫌われようとしてたのか?」
「・・・さぁな・・・ただ、タクトとの決着の最中にあ〜だこ〜だ言われるのが我慢できない・・・それだけの事だ・・・」
「ガタガタうるせぇ!!テメェはレイ・桜葉!お前があいつのたった一人の兄貴なんだよ!それでもテメェはあいつの想いを踏みにじるつもりか!?」
「・・・ふぅ・・・なら俺にどうしろと・・・?」
「・・・何かをプレゼントしてやれ・・・」
「プ、プレゼントォ!?」
「ああ・・・」
親父の目は本気だ・・・
「・・・チ!わかったよ・・・」
レイは家の中へと入っていた。
「あのクソガキは・・・」
「・・・あれでもあいつはミルフィーの事を気にしていると思うわよ。」
「そうか・・・?」
「ええ、目を見て分かったわ・・・あんなに可愛い妹を嫌う筈が無いわよ・・・ただ単に照れているだけよ・・・ルシラフェルとしての時の記憶があるあいつにはミルフィーがルシファーに見えてしまうのよ。きっと・・・」
「あいつがそんなに可愛い奴かよ・・・」
「あんなひねくれ者でも意外と可愛いところもあるのよ・・・」
「・・・ったく・・・」
俺は自室の椅子で背伸びをしながらあいつが喜びそうな物を考えた・・・
ぬいぐるみ・・・花・・・甘いもの・・・っていうかあいつって親父に似て趣味が多彩じゃなかったか?
「・・・・・・」
そういや・・・あいつって俺と外見だけがそっくりだったな・・・髪型まで・・・俺は変えたいけどマスターが許可しないし・・・だからって一緒ってのは嫌だな・・・
・・・っ!?そうだ!俺がしないものをあいつに身につけさせなければいいんだ!!
そうとなれば製作開始だ・・・材料はこの複製機を使おう・・・本当は無闇に使ってはならないのだが、今回ぐらいいいだろう・・・
女物なんて作った試しがないんだが・・・おそらくあの馬鹿女はこれで満足する筈だ。
一時間後ソレは完成した。
俺はソレを持ってあいつの部屋に向かった。
隣の部屋があいつの部屋だ・・・
コンコン・・・
とりあえずノックだけして入る・・・返事が来ないのはわかっているからな・・・
「ミルフィー、入るぞ・・・」
部屋は真っ暗であいつはベットの上で蹲っていた。
「ぐす・・・ぐす・・・」
こいつやはり泣いてやがったな・・・
「お前、泣いてんのか?」
「な、泣いてないよ・・・」
俺が照明をつけると馬鹿女の目は真っ赤だった・・・
「泣いてんじゃねぇかよ・・・」
「ご、ごめん・・・」
「何で謝るんだよ・・・まぁいい・・・ほれ。」
俺は馬鹿女にソレを渡してやった。
「・・・?これはなぁに?」
「それはカチューシャって言ってな・・・こう使うんだよ。」
俺は馬鹿女の髪にソレを装着してやった。
「・・・・・・」
馬鹿女は鏡を見たまま口を開けている・・・まぁ・・・いきなりで始めてのアクセサリーだからな・・・気に入るかどうか・・・
「どう・・・?似合ってるかな?」
「ああ・・・」
そりゃぁ・・・造った俺が似合わないなんて言うのは変だろうがよ・・・
「ありがとう♪」
よほど嬉しかったのかこいつは様々に角度を変えて見ている。
しかし、俺はただ単にコイツを慰めにきた訳ではない・・・
「なぁ、ミルフィー・・・」
「ん?なぁに・・・」
「さっきの事だけどよ・・・」
「う、うん・・・」
「お前自分の運の事を気にしているのか?」
「・・・だって・・・あたしの運って他の人に迷惑をかけるから・・・」
「馬鹿・・・本当の馬鹿だな・・・お前は・・・」
「そ、そんなに馬鹿馬鹿言わないでよ〜」
「何度でも言ってやる・・・テメェは大馬鹿だ・・・そんなのおまえ自身でどうしようも無い事だろうが・・・例えその運について何を言われようがそんなものは無視してしまえばいいんだよ。」
「でもそんなの悪いよ・・・」
「やかましい!何が悪いんだよ!例えお前の運で他人が傷ついてもそれは傷ついた本人に運が無かったからだろうが!だからそんな事を気にするな!」
「う・・・でもあたし・・・泣いちゃうかも・・・」
この馬鹿女はしゃ〜ねぇ〜な〜・・・
「この馬鹿が・・・お前はまだガキだ・・・おっぱいも小さいた・だ・の・ガキだ!」
「む〜!!」
「そしてお前は女だ・・・泣いたら悪いなんてあるかよ・・・お前は女で子供だからまだ泣いてもいいんだよ!いくらでも泣け・・・泣いてでも立ち上がればそれでいい・・・」
「でも、それじゃあ・・・」
「でも、それじゃ・・・何だ?お前は股に俺と同じ物がついてンのか!?」
「う、ううん・・・」
やっぱり・・・ちゃっかり見てやがったのか・・・お前は・・・
この暗黒カマトト娘め・・・お前実は天然なんて嘘だろう?
このスケベめ・・・
「だったらこれでこの話は終わりだ。いいな・・・?」
「う、うん・・・」
「ところでだな・・・今回は特別にお前の言う事を聞いてやる・・・」
「え!?本当!?」
「ああ・・・」
「ん〜とそれじゃあね・・・」
どうせコイツの望みなんてたかが知れているし・・・まぁ・・・泣かしちまったしな・・・
「キスして!お口に♪」
「ん」と口を突き出してくるマセガキ・・・こいつ絶対に天然なんかじゃねぇな・・・
前言撤回・・・少しでも同情した俺が馬鹿だった・・・てわけでもう一回泣かすな・・・
ゴイン!!
「うわ〜ん!!」
馬鹿女が泣き止んだのはコイツの泣き声にすっ飛んできた親父と鬼婆が俺を二人がかりでボコボコにしてからだった・・・
でもここでこの馬鹿女を殴った俺に感謝しろよ・・・タクト・・・イテテ・・・
「・・・それで・・・お願いはあるか?」
「う〜ん・・・あ!そうだ!!」
「何だよ?」
「あたし、お兄ちゃんのように料理が作れるようになりたい!」
は?
「だからあたしにお料理を教えて!」
面倒くさいお願いだなぁ〜・・・でもコイツが料理ができるようになれば俺の仕事も減るってか・・・まぁ・・・ガスコンロを壊さなきゃいいけどよ・・・
そして翌日より俺はこの馬鹿女に料理を教える事になった。
もちろん最初は優しく教えて1週間後から厳しくが職人の常道だ。
「オラー!まだまだ力が足りねぇんだよ!切り口一つで繊維が潰れる事もあるんだ!この前、繊維の操作が旨味の操作だって教えただろうがーーー!!」
「ゴメン!お兄ちゃん!!」
「お兄ちゃんじゃねぇ!!師匠と呼べと何回言ったら分かるんだ!テメェはー!!」
「ハイ!師匠!!」
それから二週間後・・・
「よ〜し!それでいいんだ!やれば出来るんだ!良いぞ!ミルフィー!」
「ありがとうございます!師匠!」
桜葉家の外では・・・
「あらあら・・・今日も賑やかね・・・エレナさん」
「ええ・・・田島の奥さんすいません・・・騒がしいでしょう?」
「いやいや!レイにはお世話になっているからね!それよりさぁ・・・」
「ハイ?」
「レイとミルフィーちゃんのどっちかを家にくれないかい?」
「レイをあげます。というかもらってあげてアレ・・・」(即答+物扱い)
さらに1週間後・・・
「おお!?良いぞ!テメェ!!好きになりそうだぜ!!」
「うん!あたしもだ〜いすき!!」
「抱きついてないでアクをぬかねぇか!オラァァアーーーー!!」
そして俺がコイツに最後に料理を教えた、俺が迎える運命の日の約二年前・・・
「まぁ・・・まだまだ分量計算が甘いが、テメェにしては上出来だろう・・・」
「それじゃああたしは合格なの?」
「ああ・・・」
「やった〜〜〜♪」
「ぐは!!」
歓喜のあまり俺の首根っこに飛びかかる馬鹿女・・・これは俗に言うネックブリーカというマニアックな技なのだが、今回は大目に見てやるか・・・完全に首に決まっているけどな・・・
俺はエプロンをたたみながら最後のアドバイスをしてやる事にした。
「ミルフィー・・・いいか?」
「うん?」
俺は珍しく目を見て話すのでコイツも真面目に聞いている。
「料理には肉も使われるが、肉っていうのは何かの動物を殺してからできるもんなんだ!」
「そ、そんな〜!!」
馬鹿女はさっきまでスジ切りの練習につかっていた肉の断片に目を向けた。
こればっかりはコイツに教えとかなければならないだろうからな・・・
「よく聞け!!」
馬鹿女は身体をビクンと跳ねさせて俺に向き直る。
「だから食料ってのは大事なものだ・・・だから料理を作る奴はその食料を無駄無く、美味しく仕上げる義務がある!義務ってのはやらなきゃいけないって意味だぞ!そしてまだまだお前は未熟者だ。さらにその腕を向上させて食料を無駄無く美味しく仕上げなければならない・・・」
「・・・・・・」
「だからくだらない早食い競争なんかにその腕を使うな!お前のその腕はお前の料理で喜ぶ奴の為に使ってやれ!いいな!それが俺とお前の約束だ!!」
「うん・・・わかった・・・!」
馬鹿女の目は本気だ・・・これなら大丈夫だろう・・・
馬鹿女が6才になった7月5日異変が起きた。
「・・・38℃・・・か・・・」
馬鹿女が体調を崩して倒れたのだ・・・血液検査をしたところ感染の疑いも無い・・・
言っとくが、俺は人体については全て知り尽くしているから確かだぞ?
その時、馬鹿女がうわごとで何かを言ったのを聞き逃さなかった。
「タ、タクトさん・・・」
・・・っ!?
馬鹿女・・・今お前はあの莫迦(タクト)の事を言ったのか?
「タクトさん・・・」
なんて事だ・・・ルシファーの魂がここまで根付いていたとは・・・
まさかとは思うが、これが原因だと言うのならもはや俺の知識の範疇をも超えている・・・!こんな非常識な事が何の因果も無しに・・・
つまり、コイツは全ての起源が定めた法則すら無視して奇跡を起こしかけてるのだ。
俺は人の想いなんてものは情欲の一種だと思っていた・・・しかし、この馬鹿女がした事はその俺の定義すら粉々に撃ち砕いたのだ・・・
「・・・そうか・・・ルシファーが目覚めつつあるのか・・・」
俺はマスターにこの事を報告して相談する事にした。
「いくらなんでも目覚めるのが早すぎます!予定では17才からの筈です!」
「レイよ、イレギュラーは常に付きまとってきただろう・・・それに予定通り、ミルフィーには士官学校に入学させるぞ・・・それでいい筈だ・・・」
「それはそうですが、このままではアイツの熱が下がりません・・・下がってもまた、併発する恐れもあります。」
「ふふ・・・お前も何だかんだ言ってもミルフィーの事が心配なんじゃないか。」
「な!?何を馬鹿な事を・・・」
「まぁ、よい・・・レイ・・・命令だ・・・タクト・マイヤーズをミルフィーユ・桜葉と接触させろ・・・そうすればルシファーも収まる筈だ・・・」
「了解・・・予定はまた変更ですね・・・」
こうして俺はあのバカップルを再び再会させる事になった・・・
7月6日
馬鹿女の熱が下がり、俺は計画を実行する事にした。
俺はタクトを預けているマイヤーズ家に来ている。
なんとも大きい屋敷だこと・・・
「・・・お待ちしておりました・・・ルシラフェル様・・・」
この家では俺は昔の名前で呼ばれている。
何故ならこの目の前にいるタクトの祖母にあたる老婆はマスターの部下の一人だ。
そして、数少ない我々の味方だ・・・
「あなたも元気そうで何よりです・・・それでタクトの様子はいかがでしょうか?」
「ふふ・・・あの方に似てとっても活発な男の子になっておりますよ・・・」
「そうですか・・・もうあいつも10才ですか・・・」
ならば計画のタイムリミットはあと11年か・・・
「マスターより連絡は受けております。どうかタクトをよろしくお願いします。」
「はい・・・では借りていきます。」
俺は屋敷を歩きながらタクトをどうやって連れ出すかを考えていた。
正直に言うとお互いに犬猿の仲なのは分かっている・・・
「・・・・・・」
俺はタクトの自室につきさっさと入ることにした。
「あ!また来たのか!!帰れ!帰れ!」
とてもこの家の子供とは思えないみすぼらしい恰好をしたこのクソガキがあのタクトである・・・もちろん、殴れと命令されれば喜んで殴ってやる・・・
「フン・・・言われなくてもすぐに帰る・・・」
「だったら今すぐに帰れ!」
この野郎・・・ここで始めるか?いかんいかん・・・ここでこいつの相手をすれば俺もコイツと同レベルの馬鹿になってしまう・・・
「おい、明日ここの遊園地に行く・・・絶対に来いよ。」
「やだよ。何で俺がお前なんかと遊園地に行かなければならないんだよ。」
俺だってイヤじゃい!!
「へぇ〜お相手は女の子なんだがなぁ〜・・・」
「え?」
ほぉら・・・かかった・・・
「あんなに可愛い子がお前を誘っているのにな〜・・・」
俺はわざとらしく語尾をのばした。
「行く!絶対に行く!!」
はい・・・タクト捕獲完了・・・ほんと・・・馬鹿な奴だな・・・
「えーーー!?」
翌朝俺が遊園地に連れて行ってやると言ったら、大喜びした馬鹿女は急いで身支度を整えた・・・・・相変わらずワンピースが好きな奴だな・・・
目的地へ着くなり俺はフリーパス券を馬鹿女に渡しておいた。
にしても凄い人ごみだ・・・おそらくこいつの背丈じゃ道がわからねぇだろうな・・・
コイツの監視は親父がしておくから問題は無いだろう・・・
後はいかにしてあの莫迦とこの馬鹿女を接触させるかだが・・・
「お兄ちゃん!おにいちゃん!アレ!アレ!」
と言いながら馬鹿女が指差したのはジェットコースター・・・いきなりかよ!?
「ああ・・・」
とりあえずは乗り場まで連れて行こう・・・
「うわ〜凄く込んでいるね〜」
馬鹿女はこれから俺がする事も知らずに順番待ちの行列に感心している・・・
「俺は少しトイレに行く・・・」
「お兄ちゃんがトイレ?」
不思議そうな顔をする馬鹿女だが・・・実は俺はトイレなどに行く必要が無いのだ。
俺はどんなものにしろ“欲”(デザイア)が大嫌いだからだ・・・
・・・俺は上手くアイツを置いてけぼりにする事に成功した後は親父の奴が見張っているから大丈夫だろう・・・
「・・・来ていたか・・・」
「おそいぞー!」
俺が入り口へ行くとクソ馬鹿(タクト)が偉そうに仁王立ちしていた。
「自分から呼んでおいた癖に!」
マスター・・・このクソガキをとりあえず一回殺してもいいですか?
え?駄目?チ・・・!
「悪かった悪かった・・・」
まぁ、コイツをここで一時間待たせたのは実は計画通りなんだが・・・
だってこいつ、ムカツクし・・・
「それで可愛い女の子って誰だよ?」
「自分で探しな・・・」
「なんだよそれ!お前が言ったんじゃないかよ!」
「心配せずとも見つかる・・・じゃあな・・・」
「あ!オイ!!」
俺はタクトの目の前から姿をくらまし二人の動きをさぐる事にした。
・・・ったく俺は愛のキューピッドなんかじゃないんだぞ・・・
馬鹿女の様子をさぐると案の定大泣き状態だ・・・
しかし、それでも周りの親子連れは相手にしない・・・
なんて薄情な・・・などと思うなよ・・・俺達が意図的に仕組んだ事なのだ・・・
何故なら今回はルシファーの機嫌取りだからな・・・
「おにいちゃ〜〜〜〜ん!!!」
あちらこちらを彷徨いながら俺の名前を呼ぶ馬鹿女。
・・・う〜ん・・・さすがの俺も少し罪悪感が・・・でも今、出て行ったら恥ずかしいし、何より俺は妹を置き去りにした悪い兄貴になってしまうしな・・・
「・・・レイ・・・助けてもいいか?」
「駄目だ。」
無線機から親父の助けてもいい?という問いがきたので却下した。
この計画には人類の存亡がかかっているのだ、命に別状が無い限り、私情を挟むのはあまりにも自分勝手だ・・・
「はぁ〜タクトの奴はやく来ないかね〜」
「・・・無線機でそんな事を話してくるな。」
「う、うぅ・・・ヒック!」
心配などいらない・・・タクトは必ず来る・・・
この馬鹿女の強運は半端ではないのだ・・・
「そら来た・・・」
〜白馬の王子様〜
ま、まじかよ・・・このタイトル・・・
「ねぇねぇ」
誰だろう?お兄ちゃんとは違う男の子だ・・・
髪の毛はボサボサで野球チーム柄のTシャツに半ズボン・・・
そしてところどころにすり傷の跡が残る日焼けした肌・・・
いかにもやんちゃな男の子だ・・・
「・・・・・・」
私はこの男の子に不思議な感覚を抱いてしまって
口を開けて見とれてしまった・・・
こんな感覚・・・お兄ちゃんとも違う・・・この安心感・・・
「俺と遊ばない?」
え・・・?
「でも、お兄ちゃんが・・・」
「お兄ちゃん?もしかしてお兄ちゃんとはぐれたの?」
「う、うん・・・」
お前、その馬鹿女がはぐれているって本気で気付かなかったのか!?
俺は莫迦の天然っぷりに思わずツッこんでしまった・・・俺としたことが・・・
「あ、あのね、お兄ちゃんねトイレに行くと言ってからそのまま来なかったの・・・だから近くのトイレも覗いたんだけど・・・いなくて・・・ふえ・・」
この大馬鹿!!男子トイレなんかを覗きに行くな!!!
「う〜ん・・・酷いお兄ちゃんだな・・・置いてけぼりにしたんだな〜・・・」
馬鹿が腕組みをしながら考え込んだ・・・
鳩尾に左ブローを入れて気絶させてジェットコースターに縛り付けてやりたいが、当たりなので勘弁しといてやろう・・・
「ふぇぇぇん!」
ぐあ・・・また泣き始めっちゃったよ・・・コラクソガキ・・・!
なんでもいいから誘え!何でもいいからとにかく早く!!
「ねぇねぇ」
タクトが馬鹿女の頭をトントンとノックすると馬鹿女は泣きやんだ・・・マジかよ・・・
「俺とお医者さんごっこしない?」
はい?
「お医者さんごっこ・・・?」
「俺が医者で君が患者さん。」
「う〜ん・・・」
お前、馬鹿だろう・・・
それと馬鹿女・・・お前、お医者の意味が分からないんだろう?
「な、なぁ!お医者さんごっこて本当にするのか!?」
興奮気味に入ってきた馬鹿の無線機との交信を切った。
「イヤ?」
いいよって言ったらそれはそれで多分、退くぞ・・・
「私はお医者さんがいい!」
「うん!良いよ!!」
知ってるのかよ!?しかもそっちでも良いのかよ?
タクトにはM気があるという事が判明した・・・
という訳で少しあいつらを気絶させておくか・・・
バキィ!コツン!
「う〜ん・・・あれ・・・俺は一体何を言ってたんだっけ・・・テテ・・・なんか胸の真ん中が痛いな・・・」
俺が目を覚ますとそこはカフェテラスの椅子に座っていた・・・
いつの間にこんな所に来たのだろうか・・・?
あ!そういえばさっきのピンクの女の子は・・・あ、真正面にいた・・・
けど女の子は椅子の上でまだ眠ったままだ・・・
よく見ると・・・可愛い・・・いやすんごく可愛い!!
俺は少しドキドキしてしまった・・・
「う〜ん・・・この子が例の可愛い子かな〜・・・」
「ん・・・んん〜?・・・」
俺がそんな事を考えていると彼女が目を覚ました。
「あ、あれ?あたし・・・一体何を・・・?って何でこんな所に・・・?」
馬鹿女はいまいち状況を理解しきれないらしくて辺りを見渡している・・・
ちなみに俺はブラックコーヒーで一息いれている・・・
「レイよ・・・もっと他に場所があったんじゃねぇのか?こんな場所じゃ萌えイベントもあったもんじゃねぇよ・・・」
何だよ・・・萌えイベントって・・・
「もしかしてお前が一息入れたかったからなんて言わないだろうな・・・」
俺は無視してコーヒーを平らげる事にした・・・
さて、ここには長い無用だな・・・
「行くのか?」
「ああ」
俺達はカフェから出て行く事にした。
「あ、すいません・・・」
「はい♪」
俺は近くのウェイターを呼び寄せた。
「あそこの青とピンクの子供二人にミルフィーユとミルキセーキを一つずつ出しといてくれませんか?」
女にキャッシュカードをかして女はそれをカードリーダーに通してまとめて精算をしてくれた。
「はい、かしこまりました♪もしかして妹さんですか?似てますものね〜♪」
女はカードを返すついでにとんでもない事を言い出した。
「い・・・いや・・・」
す、するどいな・・・このウェイター何者だ・・・サングラスしている筈なんだが・・・
「うふふ・・・優しいお兄さんですね・・・」
待てよ・・・このウェイトレスはまさか・・・!?
「あ〜ちなみに俺があのピンクの子が俺の娘です!」
「あら〜お父さんも恰好いい方ですね!」
「あ、そうですか〜!」
こ、この馬鹿!!気付け!そのウェイトレスの正体に!!心なしか顔が引きつっているからよ!
ああ!もう!!また夫婦喧嘩になるからそれ以上ナンパするのはやめろ!!
「すいません・・・後はお願いします・・・あ、そうそう・・・妹は後で迎えに行くのでそれまでは好きにするようにと伝えておいてください・・・」
俺は頭をかきながら照れている馬鹿を引きずり出して出て行った。
「しっかし、お前もいいところがあるじゃねぇかよ・・・」
馬鹿が煙草をふかしながら変な事を言ってきた。
「フン・・・任務遂行の為だ・・・」
「お〜お〜照れちゃってぇ〜♪」
「違うって言ってんだろうが・・・」
「はいはい・・・」
「あれ?」
俺達の前に突如ケーキと飲物が出された・・・
「あ、あの俺達何も注文してないんですけど?」
「・・・おいしそう・・・」
「これはそちらのお譲ちゃんのお兄さんからの差し入れよ。」
「さ、さしいれ・・・?」
「プレゼントって事だよ。・・・って!そのお兄さんは何処に行ったんですか?」
「出ていったわよ〜」
なんてお兄さんだ・・・
「そうそうお譲ちゃん?」
「なぁに?」
「お兄さんが後から迎えに行くから好きに遊んでいて良いって言ってたわよ。」
「で、でもあたし・・・一人だし・・・」
「あら、ここにとってもいい男の子がいるじゃない。」
「ぼ、僕ですか?照れるな〜」
って違う・・・この人に促さられなくても俺はこの子を誘おうとしてたんだ。
「君さえ良ければ俺と一緒に遊んでくれないかな?」
「・・・・・・」
そしてピンクの女の子は覗き込むように俺の目を見据えてくる・・・
まだ、幼いけど俺にはこの女の子が天使に見えた。
「うん♪」
そしてピンクの女の子は元気よく頷いてくれた。
俺はもう心の中がハイになっていた・・・
「ところでこのケーキってちょっと変わっていますけど何て言うんですか?」
「あ、それはね、ミルフィーユっていうのよ。」
「え!!」
いきなり、ピンクの女の子が素っ頓狂な声をあげたので俺は思わずビクっとなってしまった。
「ど、どうしたの?」
「あたしもねミルフィーユって言うの・・・ミルフィーユ・桜葉・・・」
ミルフィーユ・桜葉っていうのか・・・
「俺はタクト・マイヤーズって言うんだ。」
タクト・マイヤーズ・・・あれ?どこかで聞いたような・・・
「10月21日生まれ・・・6才」
「10月21日生まれ・・・10才」
・・・・・・あれ?同じなのか?
「O型」
「O型」
まただ・・
「料理・・・」
「チェス・・・」
へぇ〜この子はもう料理ができるのか〜・・・
「あ、あたしの事はミ、ミルフィーって呼んで。」
「俺の事はタクトって呼んでくれ。」
「タクト・・・タクト君・・・」
どこかで聞いた覚えがあるような・・・?
「ねぇ、お譲ちゃん?タクトさんの方が似合うんじゃないかしら?だってタクト君の方が年も上だし・・・」
「うん!じゃ、じゃあ・・・タクトさん!」
「ああ・・・よろしくミルフィー!」
それから俺達は様々な雑談をした。
なんでもミルフィーの言う事によれば彼女のお兄さんはもの凄くかっこよくて、強くて何をしても器用で料理が上手いらしい・・・そして洗濯もご飯もお兄さんがするらしい・・・スーパーマンだな・・・しかし、そのお母さんは一体何をしているのだろうか・・・
「ねぇ、ミルフィー。」
「うん?」
「そろそろ乗り物とかに乗ってみない?」
「うん!乗る〜♪」
「よし!行くとしようか!ミルフィー!」
「うん!タクトさん!」
俺は彼女の手を引いて真ッ空な外へと出た。夏の始めともあり、日の差し具合が少し強い・・・でもそんな事は今の俺達にはあまり関係ない!!
そして、ウェイトレスはそんな二人の後姿を眺めながら微笑んでいた。
「ふふ・・・ミルフィーもいい彼氏を見つけたわね・・・」
「そうだな・・・」
「に、兄さん!?」
「あぁ・・・悪い悪い・・・俺も一応見にきたんだ。なにしろイレギュラーな事だからな。」
「そうね・・・」
「にしてもお前もよくやるな・・・レイの目を欺くとはな・・・俺でもアイツの目だけはごまかせんと言うのに・・・」
「ジェットコースター行こうよ!」
「う、うん!」
実はそういうのはあまり好きでは無かったりするんだけど・・・ここは男の俺が根性を見せなければな・・・それにミルフィーのこの笑顔が見れるのなら安いもんさ!
自惚れかもしれないけどミルフィーは飛び級でかわいいし、その内面から溢れている優しさがよく分かる・・・本当にこんな可愛い娘と俺が遊んでいるのか?
夢かな・・・?でもいいさ!こんな夢なら大歓迎さ!
もっとミルフィーを笑わせてやるぞ!
「うわ〜い♪」
ミルフィーは本当にジェットコースターが好きなようだ・・・ウプ・・・
ここのジェットコースターは半端じゃないのに・・・
それからコーヒーカップ、観覧車、メリーゴーランド、後はあの急降下する・・・あれはあまり思い出したくないな・・・
まぁ、とにかく楽しかったのは確かだ・・・
だけどもう日がくれてきた・・・
俺はもうこの女の子とさようならしなくちゃならないのかな?
イヤだ・・・もう会えないかもしれないのに・・・
お兄ちゃんが迎えにきたら、タクトさんとはもう会えないのかな・・・
そんなのイヤだ・・・
お兄ちゃんとは違う、この気持ちを伝えたい・・・
まだ一日しか会ってないけど、私はタクトさんが好きになったんだ・・・
「やれやれ・・・」
俺は遠くから夕焼けに佇む二人を見守っていた。
馬鹿女が何を考えているのかも大方わかる・・・
無理も無い・・・転生してから久々の再会だ・・・
ルシファーの魂は、神界が消滅してから何万年も待ち続けたのだ・・・
それが今でもアイツの潜在意識に染み付いているのだ・・・
「タクトさん・・・あの・・・」
「うん・・・」
「あたし・・・タクトさんと一緒に遊べて楽しかった・・・」
「俺も楽しかったよ・・・ミルフィーと一緒にいれて・・・」
俺達の顔に笑顔など無い・・・彼女なんかは半泣きだ・・・
「また会えるよね?」
「う、うん!会えるさ!」
駄目・・・この気持ちを伝えたい・・・
溢れて止まらないこの気持ちを・・・
「タクトさん・・・」
「・・・ッ!?」
突然、ミルフィーが顔を近づけてきた。
まだ六才だが、その潤んだ目と潤んだ唇はとても六才とは思えないほどに魅力的で比喩表現ではあるけど・・・本当に吸い込まれそうだ・・・
俺はミルフィーが何をしようとしているのかは分かっている・・・
まだ、早いなどと言って自分の気持ちを誤魔化したりはしない!
間違いない!一時の気の迷いなんかじゃない!
俺はミルフィーの事が好きでしょうがないんだ・・・
俺達はまだ、子供だけど・・・この互いを思う気持ちだけは変わらないだろう・・・
だから・・・俺達はどちらからとかでなく、口を重ねた。
くすぐったくて、柔らかくほのかに暖かく、甘い感触・・・
それは俺も彼女にも始めての体験だった・・・
夕焼けの中でキスをしている二人はとても子供とは思えない程に抱き合っていた・・・
「タクト・・・ミルフィー・・・よかったなぁ・・・」
親父は真面目な顔で喜んでいる・・・
まぁ、無理も無いか・・・
「・・・そろそろ引き上げないとマズイか・・・」
俺は今からあの二人から今日の記憶を消去しなくてはならない・・・
何故なら、この二人はまだ出会ってはならないからだ・・・
俺は二人に近づく為に気配を殺して忍び寄る・・・
そして俺は、二人に眠れと言って静かに眠らせた・・・
俺の忘却術は完璧だ・・・二人の頭の中から今日の記憶を封じた・・・
さすがに消すまではいくら大嫌いな二人が相手でもできなかった・・・
何故なら、今回この二人をくっつけたのは俺で・・・そしてこいつらを利用したのも俺達大人の都合だからだ・・・
親父がタクトを担ぎ、俺が馬鹿女・・いやミルフィーを抱え上げた・・・
「やりきれんな・・・悪役は・・・」
「だな・・・・・・ん?・・・お前・・・」
まずい!親父がこっちに気付いたか・・・?
「レイ・・・お前は悪くねぇよ・・・」
親父は続きを言わずにマイヤーズ家にタクトを帰しに向かった・・・
・・・たく余計な真似を・・・
「タクトさん・・・」
ミルフィーがその名前を聞いた時、俺の視界が滲んだような気がするが・・・
俺はそのままミルフィーをつれて帰る事にした・・・
「鬼の子は悪魔か・・・しかし、その悪魔にも心はある・・・」
「レイには悪い事をさせちゃったわね・・・」
「ああ・・・しかし、それが俺達が果たさなければならない義務だ・・・」
「・・・そうね・・・兄さん・・・」
「それにあの二人は絶対に再会する・・・それはレイにも分かっている筈だ・・・」
夕焼けも終わる頃の帰り道・・・俺はミルフィーを背中に担いで家へと向かっていた・・・
「・・・・・・」
俺はもうコイツの事を馬鹿女って呼ぶのはやめようと思った・・・
馬鹿ってのは知識、学歴なんかじゃなく相手の気持ちを汲み取れない者の事を言う・・・だとすればコイツは馬鹿なんかじゃねぇ・・・
「ん・・・ん〜・・・?」
お?目を覚ましたか・・・
「よう・・・目が覚めたか?」
「うん・・・・・・あーーーー!!」
背中でいきなりミルフィーが叫んだ。
「な、なんだよ!?」
「お兄ちゃん、酷いよ!置いてけぼりにしてぇ!」
「・・・悪かったって・・・」
「もぉう!お兄ちゃんの馬鹿!!」
馬鹿ぁ!?
お、お前にだけは言われたくねぇぞこの馬鹿女!!
やはり前言撤回だ・・・
俺はそれからミルフィーを処理してから家に帰った。
「ちわ〜す!宅急便で〜す。」
俺がひとっ風呂浴びていると玄関に宅急便が届いた。
「は〜い・・・!」
どうやら鬼婆がとりに言ったようだ・・・
「お、来たか・・・」
にしても一人の風呂は何とも落ち着くな・・・
「ミ、、ミルフィィィーーーー!?」
桜葉夫妻はダンボールに入れられていたミルフィーユを見て驚愕した。ガムテープで縛り付けられているその姿はまさに誘拐スタイルだ。
「またアイツの仕業かあぁぁぁーーー!!!」
どどっどどどどどど!!
ああ・・・やっぱり来たか・・・
そして俺はまたまた二人から言葉に表現できないような制裁を受けるのだった・・・
そして馬鹿女が7才になった時に運命の日が訪れた・・・
運命からは誰しも抗えても逃げる事は叶わない・・・
故に俺はこれから運命と戦いに赴く・・・
皇国軍のマスターより令状が届いた。
このレイ・桜葉宛てにだ。
詳細はマスターの元で説明を受けるらしい・・・
出発予定日は明後日だ・・・
手紙の最後には妹に言いたい事があれば今日のうちに済ませておけとあった・・・
ようするに内容は命懸けで長期間に及ぶものなのだろう・・・
なに・・・俺にとっては大した事ではない・・・
俺はそうたかをくくっていたのだ・・・
それが運命の日だとも知らずに・・・
「・・・・・・」
俺はいつものように風呂で体を洗っていた。
「お兄ちゃん、背中を洗ってあげるね♪」
そして背後には七才にもなって一緒に入ってくる馬鹿女・・・
いくら追い出しても泣くばかりで俺が痛い目にあうのでもう、追い返すのはあきらめた・・・まったく・・・タクトも大変だろうな・・・あいつに同情するのは癪に障るがいた仕方あるまい・・・こんな女じゃなぁ・・・
「お兄ちゃんの背中て硬いね〜♪」
「触るな・・・それ以上したらドザえもんにしてやるぞ・・・」
ドザえもんの意味はこいつだって知ってるようでビクと身体を震わせた。
現にこの前、実演してやったからな・・・こいつにも俺がやる時は本当にやるという事が分かっているみたいだ・・・
「お兄ちゃんの髪の毛って相変わらず綺麗だねぇ〜」
お前はシャンプーのCMに出てくる褒めオバサンか?
「私もこんな髪になりたかったな〜・・・」
ああ・・・それは同感・・・よかった〜シルバーで、ドピンクなんかになっていたら今頃どこかで「認めたくな〜イ!」とか言っていらかもな〜・・・
「ハロハロ♪お前もな〜♪」
「???」
って嫌じゃ!!
「・・・ゴホン!」
俺は少し暴走したが、本題を切り出す事にした。
「おい、馬鹿女。」
「何?」
「俺は明日から家からいなくなる。」
「え!?」
馬鹿女の手が止まった。
「仕事だ。」
「か、帰ってくるんだよね?お父さんみたいに・・・」
「ああ・・・しかし、そう早くは帰ってはこれん・・・」
「そ、そんな〜」
「お前も明日からは小学生だろうが、いい加減に俺から卒業しろ。」
「卒業も何もないよ〜あたしはお兄ちゃんといたいだけなのに〜」
「答えになってないぞ・・・それと学校では俺の話は一切するな・・・」
だせば、笑い者にされるのが目に見えているしな・・・
「・・・・・・」
シュンと落ち込んでいるのが背中越しにわかる・・・
「いいか・・・小学校ってのは友達をつくるところだ・・・勉強はその合間にやっておけばいい・・・授業を真面目に聞けばその分、勉強をする必要も無い。だから授業だけは真面目に聞け。分からなければその日の内に理解するようにしろ・・・」
「う、うん・・・」
どうやら馬鹿女は明日の入学式にかなり緊張してるようだ・・・
とはいえどうせコイツの進路は生まれる前から決まっている・・・
ならば、役に立たない皇国理学よりも他人とのコミュニケーションを上手く取れるようになった方が実際の職場ではよっぽど役に立つだろう・・・万が一コイツが軍人にならない可能性もない事もないのだ・・・
そして、俺は最後のアドバイスをした。
「そして、泣いても泣くだけで終わるな、泣いてでも立ち上がれ・・・」
この言葉はまだこの馬鹿女には?ものだろうが、この言葉こそ俺が一番言いたい事だったのだ・・・
そして翌日この馬鹿女の望みで俺は小学校の入学式へと来た。
いかにもって甘ったれたガキ共の行進を見届け、俺は馬鹿女に気付かれないように学校を去った・・・後は鬼婆が引き継いでくれる・・・
俺は家に帰ると身支度を揃えた・・・いや・・・揃える物など無い・・・
俺はクローゼットの鍵を外して中にある一着の服を取り出した。
紫色の軍服・・・胸元には俺の階級章がついてある・・・
俺の所属は大将・・・もっともここ数年は幽霊大将などとも言われているがな・・・
俺は本来、兵科の大将にあたるが、実際的には技術部を運営している・・・とは言っても監視だけだがな・・・
俺の仕事は二つ・・・
人がロスト・テクノロジーに溺れないように技術部で監視をする事・・・
ロスト・テクノロジーは元凶が人々の進化に対する探究心を煽る為においた、言わば誘惑の兵器なのだ・・・
そしてもう一つの仕事は
皇国軍の制裁者だ・・・
俺は軍服を着るとポートを開いて相転移した。
目指すは皇居。
俺の運命の日が始まった・・・