第二章

 

脅威のメベト大艦隊を退けたタクト達は休む間も無く、阿部 竜二の呼び出しを受けて皇居の地下まで来ていた・・・

「そうかい・・・死神のメシアが全て裏から操っていたって事かい・・」

「ああ・・・ルフト准将の話によればヴァル・ランダルの人達はみんなメベトの事すらも忘れていた。それはまるで話しの上だけで作られたようだったそうだ・・・つまり・・・今回の騒動は死神のメシアが一人で引き起こしたんだ・・・匠に情報操作をしてね・・・皇国軍だって敵国にはそう簡単に直接交渉はしないと奴は読んでいた・・・そして、何の意図があったのかは分からないが、アイツわざとメベトをきり捨てたんだ。」

「まったく・・・とんでもない奴ね・・・」

ランファは拳を撃ち合わせて不快感を表した。

タクト達はやがて呼び出された場所。

皇居の地下にある第一資料室まで辿りついた。

分厚い扉にも厳重なロックシステムが仕掛けられていた。

周囲はまったくの無人で無人の監視カメラがあちらこちらで回っていた。

これらはここまでの通路でも目撃していた。

映像用の同軸ケーブルと電源ケーブルをつけた有線の旋回タイプのカメラもあれば天上を飛び回っている無線の飛行タイプのカメラもある・・・

皇居の地下室はエオニアのクーデターでも無事に残った場所だった・・・

そしてここの管理をしていたのは何故か人事部 部長の阿部 竜二だった・・・

これだけの監視装置を配置しているのに監視しているのはごく僅かの人間だった・・・

そしてその僅かな人間達も阿部の部下達だという・・・

ルフトが阿部を疑っているのはこの事を知ってからだ・・・

俺達はその大きな扉に描かれているものを見て凍りついた。

「ちょ、ちょっと待てよ!これは俺達の紋章じゃねぇかよ!」

最初に声をあげたのはアニスだった。

「いや、隣にあるのはムーンエンジェル隊の紋章だ・・・」

「ただの偶然とは考えにくいな・・・」

そして一番凍り付いていたのは俺だろう・・・

何故なら俺はこの扉に似た扉を見ているからだ・・・

神々の住まう天上界 エリュシュオン

そこの神殿の最上階にあった神王の間の扉がまさにこの扉と瓜二つだったのだ・・・

しかし、神界もろとも消滅した筈なのだが・・・

まさかここはアイツが残したものなのだろうか・・・

「お待たせしました・・・みなさんお揃いのようですね・・・」

『クロミエ!?』

俺達の背後から現われたのはクロミエ・クワルクだった。

「クロミエ・・・ただいま。」

俺は他のメンバーとは違って落ち着いて挨拶をした。

「あはは・・・この姿で会うのも何か複雑ですね・・・」

「俺的にはそっちの方が似合っていると思うよ。」

「ありがとうございます。」

消滅した神界より生き延びた者は一部の神々のみ・・・

そしてクロミエもその一人だ。

「さぁ・・・入りましょう・・・」

クロミエが扉の前に近づくと扉はスライドしながら開いていった・・・

資料室の中はまるで別世界だった・・・

簡単に言えば物理的な物が何もない世界・・・

あるのはデジタル関係ばかり・・・つまりはバーチャル映像パネルばかりだ・・・

「・・・・・・」

俺達はしばらくその光景に見とれていた・・・

そうしているといきなり走ってくる足音が聞こえてきた。

「おや?間に合ったようですね・・・」

「間に合った?」

俺が首をかしげながらクロミエから視線をはなし、背後に振り返ると・・・

「すいません!遅くなりました!」

「はぁ・・・はぁ・・・すいません・・・!」

何とそこにはカズヤとリコがいた。

「カズヤ!リコも!」

俺の大きな声にみんなが二人に気付いた。

「カ、カズヤ!!」

「只今、戻りました!フォルテ教官。」

「リコたん〜うえ〜ん!寂しかったのだ〜〜!」

ナノナノはリコに飛びかかる勢いで抱きついた。

「ゴメンね・・・ナノちゃん・・・」

みんながリコに集まる中僕はタクトさんのところまで近づいた。

僕はメシアさんからタクトさんがここに戻ってくると聞いていたのだ。

「カズヤ・・・君がメシアに捕まっていたのは知っている・・・あっちに行く前にメシアの声が聞こえてきたからね・・・」

「タクトさんも・・・あの人の正体はもう知っているんですよね・・・」

「・・・・・・ああ・・・」

タクトとカズヤはその内容が何であるかを互いの目を見つめて理解した。

「・・・だけど、カズヤ・・・俺はアイツが何で死神のメシアになったのかまでは知らないんだ・・・ただ、アイツ神皇と戦っているとだけしか・・・」

「僕もそこまででは無いのですが、メシアさんが皇国軍とどういう関係なのかは大方聞いています・・・ですから皆さんにもお話しようと思います・・・」

メシアさんは時がくればみんなに話してもかまわないと言っていた・・・それがまさにこの時なのだろう・・・

トランスバールに隠された黒歴史・・・

そのベールが遂に明かされる時がきたんだ・・・ってそうだった!

「あ!ちとせさん!ちとせさん!!」

「はい、何ですかカズヤさん?」

ちとせさんのお父さんは無事に連れ戻しました。」

「え・・・え!?」

「命に別状は無いそうですから安心してください。今は病院で安静にしています。」

「ちとせ!良かったじゃないかい!」

「ほ、本当にお父様が生きていた・・・?」

ちとせは目をわなわなさせながら涙を流した。

そこにいた全員がちとせを祝福した・・・

よかったな・・・ちとせ・・・お父さんが帰ってきて・・・おそらくはアイツが解放したのだろう・・・

「すいません・・・そろそろ始めていいですか?あの方がお見えになるので・・・」

歓声ムードの中クロミエが控えめに聞いてきた。

そうだ、時間は残り少ない・・・エンジェル隊のメンバーに今回の騒動の真相を教えなければならない・・・

「クロミエ、呼ばれた通りに来たが?」

「シヴァ女皇!?」

何とクロミエが言ったあの方とはシヴァ女皇の事だった・・・

「うむ、クロミエからお前達を交えて大切な話があると聞いてのでな。」

「その通りです・・・今回のお話はシヴァ様にもっとも関係の深い事なのです・・・」

「ならば、それを早く教えてはくれぬか?」

「シヴァ様すいません・・・まず先にタクトさんから彼の行った世界の話を聞かないと信用してもらえないほど常識外のお話なので、タクトさんから話してもらわないといけないのです・・・お願いしますタクトさん・・・話せる範囲でかまいませんので・・・」

「分かった・・・みんな聞いてくれ・・・」

俺はみんなに神界での出来事を話す事にした。

 

神界編 

〜迷い込んだ子羊〜

 

俺は死神のメシアに撃墜され、カズヤ達が連行されていくの見届けてから意識を失った・・・

 

「お〜〜い、目を覚ませ〜〜・・・お〜〜いってばよぉ!!」

誰かが俺を呼んでいる・・・目を開けなきゃ・・・

「ん・・・?」

アレ?何だここは、森の中・・・ああ、あの世ってこういうところなんだ・・・よく見ると誰かが俺の前にいる。聞いてみるか・・・

「あの・・・ここってあの世なんですか?」

「ん!?うわーはっはっはっ!はーはっはっはっはっ!」

笑い出した男は年齢20台前半といったところだろうか・・・・

服装は黒革のベストと赤いシャツにところどころに穴のある紺のジーパンとブーツ。いかにも体育会系といった格好をしていて、手には格闘技用の黒い皮手をしてある。格闘家だろうか?頭には赤いハチマキをしているし・・・・無精髭で少し老けて見えるが顔立ちはかなり整っている。特にその鋭い眼光は只者ではない・・・

というか・・・誰かに似ているような・・・?

「いやいや!これは悪かったな!ここはお前達が神界と呼んでいる所だ・・・ようこそ・・・神界へ・・・」

「神界?」

「そうさ・・・ここはが集まる場所だ・・・」

つまりあの世なわけか・・・俺はメシアに負けたのか・・・

「・・・いや〜悪い悪い・・・言うの忘れていたけど正確に言うとここは神界戦争の始まる前の神界さ・・・簡単言うと過去のEDENってとこか?」

「はい・・・?」

何だ?いきなり・・・

「まぁ、ぶっちゃっけ言うとな・・・過去にタイムスリップしてきたんだよなぁ・・・お前さんは〜・・・」

?・・・って事は死んだわけじゃないんだ!!

「あ、そうなんだ!よかったよかった!あははははは!」

「はーはっはっはっはっはっはっはっはっ!」

二人は腰に手をあて大声で笑いあった。

「はっはっは・・・・・・」

そしてみるみるうちにタクトから血の気が引いていき・・・

「エエエエエエエエエエエエエエーーーーーーー!!!!!!!!」

見知らぬ森の中心で俺は叫んだ。

「う〜ん・・・気が済んだか?」

「・・・ああ・・・」

大声で叫んで精魂尽き果てた俺は弱々しく右手を上げて返答した。

「まぁ、食え・・・」

男は俺の肩をポンポンと叩きながらペロペロキャンディを差し出した。

俺はデパートの迷子の子供か?

「何で神界にペロキャンがあるんだよ・・・?神様でも食事はするのかよ・・・?」

俺はぶっきらぼうに言い捨てた。

「あ?そりゃあ神皇達の事だ。俺達はちゃ〜んと食事をするぞ。」

「神皇達・・・?」

「ああ、頭が悪いけど万物の創造者 神皇 タイラント・・・そしてそれに仕える陰険な性格現神王にしてNo,2の黄龍のアバジェス。そして、アバジェスに仕える四聖獣と十二傑衆達とその配下達だよ・・・」

「・・・?」

・・・神皇 タイラント?アバジェス?・・・四聖獣?何の事だ・・・?

「その事を説明するから俺の家に行こうぜ?モンスターの餌にはなりたく無いだろう?」

「モ、モンスター!?」

「ああ、さっきお前が大声で叫んだからモンスターが集まってきちゃった♪テヘ♪」

「テヘ♪じゃ無いだろう!逃げないと!!」

俺は男の腕を掴んだが男はびくとも動かない。てかこいつの体は細いながら筋肉の固まりだ!!

「まぁ・・・心配するな、見た目通り俺は強いから。」

男が目をつぶって先程までの軽薄な声とは違い真面目な声で言った。

「覚えておけこいつらとは必ず分かり合えない神皇の細胞の一部だからな・・・だから・・・生き残りたければ戦って確実に殺せ・・・言っておく・・・ここは弱肉強食の世界だ・・・

この喋り方・・・誰かに似てるような気がするが・・・

それも最近、聞いたような気がする・・・

「今日は講習会だ、俺の戦いを見ているだけでいい・・・」

男はどこから取り出したのか二つの短剣を握っていた。

「俺の名前はロキ・・・タクト・・・俺の戦いをよく見ておきな・・・」

「ロキ?・・・てか何であんたが俺の名前を知っているんだ?」

「黙ってペロキャンをほおばってろ・・・来るぞ・・・」

タクトに冷や汗が流れる。今から生身の殺し合いが始まるのだ・・・

がさがさと音がしてモンスターが現われた。モンスターは半獣人で4体一匹は後ろにいる。とても現実的はありえない造形だ・・・タチの悪い特撮か何かか?

「ウェアウルフか・・・挟み撃ちとは相変わらず、ずる賢い・・・」

ロキは先手必勝で獣人達に攻撃を仕掛けていった。

獣人達は鍛え上げられた拳術を披露するが、ロキは全てを見切っているかのように軽々とかわし、一瞬で三匹の喉元を断ち切った。

「は、早い!?」

男の攻撃は本当の一撃だったのだ・・・

獣達はそのままうずくまり霧散していった・・・これ、本当に特撮じゃないのか・・・?

そして男はそのまま最後尾にいた最後の一匹のモンスターとの距離を一気に詰めてまた喉元を断ち切った・・・そして最後の一匹も霧散していった・・・

「タクト・・・信じられないだろうが、これは全て現実だ・・・

ロキは振り返らぬままそう告げた・・・

「いや・・・信じるよ・・・」

何せ、冷や汗の感触がはっきりとしてるからな・・・

「そうか?そりゃあ素直で良いこった・・・もう一個ペロキャンいるか?」

ペロキャンはお前の好物なのか?

「いいからお前の家まで案内してくれないか・・・」

「了〜解。」

俺はさっきのペロキャンを舐めながら美味いと思った・・・

 

ロキの後についていきながら俺は森を下っていった。ところどころに見知らぬ植物が“動いている”・・・・

やはり特撮か・・・んなわけないか・・・疲労感もあるし・・・

「あははは!驚いただろう?お前達の世界とは違ってこちらの植物は“動ける”からなぁ・・・」

「・・・モ、モンスターじゃないのか!?」

「おいおい、あまり意地悪な事いうと森に閉じ込められちゃうぞ。俺なんか木に立ちションしたら三日間も閉じ込められてしまったからな・・・いやぁ〜あの時はほんとに参った!うわっはっはっはっはっ!」

「それは自業自得だろう・・・」

近くの木がうんうんと頷いたように見えたが見なかった事にしよう。

「はぁ・・・」

俺、無事に帰れるかなぁ・・・山を抜けると街道にでてきた。

「もうすぐ着くからな・・・あの大きな木の下にある家が俺の家だ。この〜木何の木〜気になる木〜♪」

「へぇっくしィ!!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「けふん!言い忘れていたんだがな・・・」

ロキが真面目な顔で振り返る。

「あのペロキャンを作ったのは我が愛娘なんだわ・・・かぁさん似で物凄くいけてるぜ?17才の美少女だぜ。」

「はぁ・・・?」

真面目な顔していきなり娘の自慢か?

「ああ〜お前が概婚者だって事は知っている。でもな二股かけてもいいと個人的には思うぜ!」

ズビシ!と親指を立てて歯を輝かせるロキ。何故か歯並びだけは綺麗だ・・・

どうでもいいが何でそこまで知っているんだか・・・おまけに愛娘を浮気に巻き込ませる気なのか・・・お前は・・・

「はぁ〜・・・“愛娘”じゃないのか?」

「ノンノン・・・愛娘だからこそだ・・・」

ロキは人差し指をちっちと横に振って続けた。

「あのアバジェスのひねくれ息子なんぞに渡したくは無いし、お前となら相性ばっちりだと思うがな〜」

しつこいな・・・俺にはミルフィーがいるんだよ・・・

今回の騒動が起きる前の俺なら、少し心が揺れただろうけど、今の俺にはもうミルフィーしか見えない・・・俺を助けようとして彼女は意識不明になってしまったんだ・・・

死んでも裏切れるものか・・・

そんな俺を覗き込んでいたロキは何故かニヤリと笑っていた・・・

な、なんだよ・・・って・・・あ!?

「・・・アバジェスのひねくれ息子?」

「ああ、冥王ハデスだ。神皇直下の制裁者だな・・・」

「ハデス・・・?」

ロキの顔がまた真面目になる。

「まぁ、今のあいつはまだルシラフェルにはなっていないからな・・・くれぐれも気に食わないからって喧嘩だけは売るなよ?制裁者故に物凄く強いからな。」

「ルシラフェル?」

どこかで聞いたような気がする・・・

「あ〜悪い。言い忘れてた。お前達は死神のメシアって呼んでいる陰険野郎だ。」

「え、ええぇぇぇぇーーーーー!?」

マジかよ・・・それ・・・

「はっはっはっ!元気な奴だな〜。」

「な、何でそんな事まで知ってるんだよ!?ここは過去なんだろう!?」

「なぁに・・・お前と同じ時代から来た奴が教えてくれたんだよ・・・」

ロキのトーンが真面目なものに戻っていく・・・

「他にもいるのか!?」

「言っただろう?ここは魂の集る場所だと・・・」

・・・?ならやっぱり、俺は死んだのか?

「お前は少し違う・・・ちゃんと使命を果たせば元の時代に帰れるさ・・・

「使命・・・?使命って何だよ?」

「後で話すさ・・・そして使命とは果たさなければならない事だ・・・

そしてその為にお前を徹底的に鍛え上げる・・・

「・・・・・・」

「それにあのひねくれ野郎は三秒間見るだけで俺も殴り飛ばしたくなるがさすがに“喧嘩”では済まない相手だからな・・・お前にはこいつも倒してもらわないと・・・」

俺はロキ手をガシ!と握った。

「俺なんか顔なんか見ないでも殴りたくなる!」

「おお!同志よ!!」

俺たちはこの瞬間、同志となった。

やがてロキの家の前に着いた屋根は木でできているが、壁は石でできている。家は二階構成みたいで大きさは40畳ぐらいだろうか周りには牧場らしきものもある。

ドアの前でロキが俺にひそひそと耳打ちする。

「なぁなぁ同志よ、お前から入ってくれんか?実は俺、三日間も内緒で出ていたから気まずいんだよ・・・頼む!同志よ!」

「しょうがないなぁ・・・」

俺は同志の頼みを聞いてドアを開けたのだが・・・

ガチャ

「え・・・?」

「へ・・・?」

俺の視界には真っ白な羽が広がる、・・・ていうか白い天使の羽は目の前の女の子の背中から生えている・・・ていうか正確には互いに“真正面”から向き合っている・・・女の子は着替える途中だったのか、“何も身に着けていない”まぁ、昔だからなぁ〜・・・じゃなくて!何とその女の子はミルフィーにそっくりだったのだ!!

「ミ、ミルフィー!?」

「・・・ッ!?あ、あの・・・!?」

女の子は真っ赤になってふるふると震え出す。

あ〜間違いなく大噴火の予感がするな〜これは・・・

「お〜お〜ますます母さんに似てきて・・・」

俺の背後には棒読みでにやけ面をした馬鹿が一匹・・・

こいつ確信犯だな・・・

そして当然、女の子が悲鳴をあげた。

「イ、イヤアァァァーーーーーーーー!!」

「ゴ、ゴメン!!!」

ほんとにゴメン!ミルフィー!!

バタン!!

俺は馬鹿(ロキ)の胸倉を掴む!

「おい!これは何の真似だ!!てか、ミルフィーじゃないか!?」

「いっぺんに質問するなよぉ〜照れてるからってぇ♪この幸せ者め♪」

「な・ん・の・こ・と・だ!」

俺は馬鹿者の首を締め上げる!

「う!ギブ!ギブ!っす!息できないっす!!」

「気絶させて謝りに行くんだよ!!」

「い、いいじゃん!責任取ってあげれば♪

「だ・か・ら・な・ん・の・こ・と・だ!!」

「あの・・・」

後ろからミルフィーに似た声が聞こえてきて俺は手を離して、振り返り、即座に土下座をして・・・

「ごめんなさい!ごめんなさい!すいません!すいません!」

謝りたおした!今のはミルフィーに対する謝罪でもあった。

「あ、あの・・・顔を上げてください・・・どうやら私が鍵をかけ忘れていたみたいですから・・・」

顔を上げると顔を真っ赤にしたミルフィーがいた。花飾りやカチューシャは身につけておらず、服装は茶色いレザーのドレスだが、その姿はまさにミルフィーだった。

ただ胸元には古ぼけたペンダントを身に着けてあった。

それに羽はもう見えない、さっきの光景は目の錯覚だったのだろうか?

「ミ、ミルフィー・・・なのか?」

「え?いえ・・・私はロキの娘 ルシファーといいます。」

「ルシファー・・・?」

その名前は確かシリウスが言っていた・・・

その時ロキのひそひそ声が聞こえてきた。

「あ〜死ぬかと思った。せっかく、人が“鍵を開けて”サービスしたってのによ〜・・・」

「やっぱり、確信犯かぁぁーーー!!!」

俺は再び大馬鹿者の首を締め上げた。

「ぐえええーーー!?ルシファァァァーーー!!父さんを助けてくれーーーー!!」

それを聞いたルシファーは半泣きで言った。

「御願いです!許してあげてください!お父さんも悪気があってやったわけでは!」

いや、悪気はあったと思うけど・・・?

俺は仕方なくロキを解放してやった。

「ふ〜・・・ありがとうルシファー・・・そしてただいま・・・」

「うん・・・お帰り・・・」

俺はその時の二人の会話に妙な引っ掛かりを感じていた。

「もう!三日間もどこにいってたの?」

「いや〜木に立ちションしてたら閉じ込められてしまってな!」

「もう!またそんな事をしたの!?この間、謝ったばかりじゃない!」

「あははは・・・気をつけます・・・」

「もう!バツとして夜ご飯は抜き!」

「そ、そんな〜!!たかが、三日間留守にしただけでぇ〜!?」

さっきの件だけでも十分だと思うが・・・」

あ!余計な事を言っちゃった!

「あ・・・」

ルシファーの顔がボンっと爆発してまた赤くなっていった。

そして俺の顔も赤くなっていく・・・

ロキの馬鹿はそんな俺達の顔を見て何かへぇ・・・とにやついていやがる・・・あの野郎、後でシメる。・・・コイツが強くても、負けてなるもんか!

「ああっとな・・・この人はお前の旦那さんとなるタクト・マイヤーズ君だ。」

「え!?」

ルシファーは真っ赤な顔を驚かせて俺の方を見つめてくる。

「違う!!え〜と・・・俺は結婚してるんです。」

「え?そう・・・なん・・・ですか・・・」

「え・・・?あ、あのぉ・・・?」

ルシファーは見る見る内に表情を沈ませていく・・・

(この馬鹿!)

ゴッ!!

「い゛!!」

ロキに頭をどつかれた。てか物凄く痛い!

こいつ物凄い馬鹿力だ!!

「あ〜彼はな、今日からここに住む事になった。」

あ〜イテテ・・・

「あ!そうなんだ。これからよろしく御願いします。マイヤーズさん!」

「つっ・・・あ、俺の事はタクトでいいよ!こちらもよろしくルシファー。」

「え・・・はい!タクトさん!」

にっこりとルシファーは俺に笑顔で挨拶をしてくれた。

う〜んどこかであったようなシチュエーションだなぁ・・・

「まぁ、もう日が暮れるし、ルシファーは夕食の準備を頼む。俺は風呂とこいつの部屋の用意をするから。」

「う、うん!さぁ、タクトさんどうぞお入り下さい!」

ロキの家の中は木造でアンティークな作りだった。様々な民芸品やぬいぐるみがあるどれも可愛らしい作りだ。ルシファーの手作りだろうか?

「お〜い!二階に来いよ〜!」

俺は意外と大きい階段を俺は上っていくと廊下に出た。部屋が四つぐらい見える、どうやらここがロキとルシファーの部屋があるんだろう。

「ここだ、ここ〜!」

奥の部屋から声が聞こえてきたので俺はその部屋に入っていく。部屋も意外と広い机とベット一つというシンプルな作りだ。

「ここは昔、“俺の師匠”が使っていた部屋だ。隣はルシファーの部屋で真向かいは俺の部屋だ。」

「ところで木造でかなり古いけど大丈夫か?なんか修理するなら手伝うけど。」

「あははは!心配無用だ。この家に使われている木はトネリコの木といって炎も吸収するし強度も下手な金属よりも高く、腐敗もしない上にリラックスできる粒子も散布してくれる神木なんだぜ。」

「神木を切ってもいいのかよ・・・?」

「大丈夫、大丈夫!この家を建てた俺の師匠は神様だからな」

「お前の師匠ってどんな人だったんだ?」

「う、う〜ん・・・それはいつか教える。」

ロキは歯切れが悪そうに返事をした。すると今度はニヤニヤしてとんでもない事を口走った。

「まぁ、部屋は隣だから夜這いもOKだぞぉ〜いつでも協力してやるからな!」

「なんて親だ・・・」

「へっへっへ!そうは言っても、何かルシファーがお前の事を意識してるみたいだからさぁ〜ルシファーも喜んで迎えると思うぞぉ・・・」

「今日会ったばかりじゃないか!」

「ふっふっふっ!一目惚れってのは唐突なんだぜ。」

それは多分お前だけの理屈だろう・・・

「・・・はぁ・・・」

そうして部屋を案内されていく内に日は暮れていき、夜になり、俺達は台所兼食堂へ向かった。向かっていく途中でロキが俺にある事を告げた。

「あのな、ルシファーは大のベジタリアンでな、肉が極端に嫌いなんだ。食材は基本的に野菜と卵だけだ。後、俺がモンスターを倒しているのも知らない。俺は街の大工さんという事になっている。街の連中にもそういう事にしてもらっている。まぁ・・・よろしくな・・・」

「わかった・・・気を付ける。」

食堂は台所と一緒になっており、石造りのかまどが印象的だ。

テーブルには数々の色とりどりの料理が並べられていた。

中にはシチューのような物もあった。

「今日はタクトさんの歓迎で張り切っちゃいました♪」

「す、すごい・・・」

「う〜ん、これはお嫁さんになる素質ありとみた・・・」

ロキがニヤニヤと俺とルシファーを見比べた。こ、こいつは・・・

「お、お父さん!」

「はいはい・・・いただきます!」

「いただきます・・・」

彼女の料理は確かに野菜中心だが味つけが絶妙でとにかく美味かった。

「ご馳走様、ルシファー片付け手伝うよ。」

「え?いいですよぉ・・・タクトさんは先にお風呂を済ませてください。」

「ひゃっほーイ!!一番乗りいただきだぜぇーーーー!!」

ロキが子供の如く風呂までかけて行った。

本当に娘とは似ても似つかない父親だ・・・

「もう・・・いつまでも子供なんだから・・・」

「・・・手伝うよ・・・」

「は、はい・・・御願いします。」

そうして俺は皿洗いを手伝う事う事にした。

彼女は積極的に話しかけてくれるので会話が弾んだ。

「じゃあ、タクトさんは別の世界から来たんですか?」

「うん。」

正直に言うのはマズイと思い、別の世界から来たという事にしておいた。しかし、さすがは神界の住人、俺の言うことを素直に信じてくれた。本当に夢の中じゃないだろうな・・・?

「タクトさん達の世界でどういう所ですか?」

「習慣等はここに似てるなぁ・・・環境は似ているよ。」

「何かお仕事をされているんですか?」

「あぁ、宇宙の調査や警備などかな?」

「宇宙?」

「あ、空の上にある無限に広がっている世界さ。」

どうやら宇宙という概念が彼らには無いらしい。

「宇宙ってどんなところなんですか?」

「う〜ん例えば今俺達がいるのが球体の土の塊の星だとしたらそれを包み込んでいるものだね。」

「???」

「うう〜ん・・・とにかく夜になると空に他の星が光って見えるんだよ。」

「うわぁ・・・なんか見てみたいですね・・・」

「え〜っと・・・う、うん、いつか見せてあげるよ。約束する。」

俺はどういっていいか困ったが、彼女に見せてあげたかったので約束する事にした。

「本当ですか!?約束ですよ?タクトさん♪」

「うん、約束。」

俺が小指を差し出すとルシファーは不思議そうに見つめてきた。

「指きりっていってね、こうやって・・・」

「え?あ、あの!?」

俺がルシファーの華奢な白い手を取って小指を絡ませた。

「ゆ〜びきった!って言うと約束は重いものになるんだ。」

「あ、あの・・・指切ったって別に切られてませんし、約束は元々、必ず果たさなければいけない事じゃないんですか?」

「へ・・・?」

「わ、わたしもしかして何か変なこと言っちゃいましたか!?」

「ぶわっはっはっはっはっはっ!」

俺は思わず笑ってしまった。

「あ〜酷いですよ〜!タクトさんの意地悪〜!」

「ご、ごめんごめん・・・これはねおまじないのようなものなんだよ。お互いが必ず叶えようねと誓い合うんだ。」

「あ・・・そうなんですか・・・そ、その嬉しいです。」

ルシファーの顔がまた赤くなる。赤面症なんだろうか?

「ちなみに俺達の星は宇宙の銀河って所にあるんだ。」

銀河ですか・・・・綺麗な名前ですね。」

「ちなみに他の言葉だとギャラクシーとも呼ぶんだ。」

「ギャラクシー・・・なんか格好良い名前ですね・・・私、覚えておきます。

「そう?」

「後、タクトさんの故郷の植物などはどうなんですか?」

「あははは・・・さすがに木は動かないな・・・」

「え?そうなんですか!?」

「うん、まぁ・・・ここの植物達は皆、優しそうだね。」

「あ・・・・はい!」

何故かルシファーはまた顔を赤くして俯いた。

「あ、あの・・・ぶ、ぶしつけなことを聞いてもいいですか?」

ルシファーが指をもじもじさせながら聞いてきた。

「いや、いいよ。それで何かな?」

「そのタクトさんの奥さんってどんな方ですか?

「え?」

「い、いえ!いいです!すいません!私変な事を聞いて!本当にすみません!!」

「いや、いいよ・・・まずとっても元気で優しい人だよ。後、物凄い美人なんだ。」

なんかミルフィーに言っているみたいで物凄く恥ずかしい。

「・・・・・・」

何かルシファーの様子がおかしい・・・何か元気なさそうだ。

あっそうだ、確かミルフィーの写真が・・・ああ、あったあった。

「これ写真って言うんだけどこれが俺のお嫁さんのミルフィーユ・桜葉。」

「え!こ、これって!?」

「あははは、俺もそっくりだったんで驚いたよ。」

「・・・本当に似てますね・・・あの・・・タ、タクトさん・・・?」

ルシファーがまた顔を赤らめて俺にぎこちなく聞いてきた。

「ん?なんだい?」

「さ、さっき・・・・そ、そ、そのミルフィーユさんの事をも、そ、その・・物凄いび、び、美人だって言いましたよね?」

「うん確かにそう言ったけど?」

「そ、そそそのわ、私はどうですか?タクトさんのお気に召しますか?」

「は、はい?」

「あ、あああの、あのわ、私はき、ききき綺麗ですか・・・?」

ルシファーはズザザと後ずさって手をブンブンと振った。

「ご、ごめんなさい!やっぱり何でも無いです!!」

「・・・かわいいと思うよ・・・・」

「あ、ありがとうございます・・・えへへへへへ・・・」

「あ、あはははは・・・・・」

(しまった・・・俺って・・・)

(間違いなく確信犯だな。)

気配を殺して遠くから覗いていたロキは鋭く突っ込んだ。

 

ルシファーが風呂に入るとロキの部屋まで呼びつけられた。

にしてもロキの部屋には色々な昆虫の模型やらがびっしりだ・・・

モンスターは退治するのに昆虫マニアなのだろうか・・・

(後にロキからどっちかと言うと多足型昆虫が好きなんだ〜と聞いた・・・しかし、俺の記憶が正しければ6足以上の虫は昆虫とは言わなかったような気がするけど・・・)

ロキは酒らしきものをコップに注いで俺に手渡した。

「まぁ、飲め。」

「あ、悪いな・・・ってきついな!これは・・・」

「気にするな、俺は酒に目が無くてな・・・それよりもさっきはルシファーといい雰囲気だったじゃないか・・」

「見てたのかよ・・・」

俺は頭を抱え込んでうなだれた。

「あっはっはっはっ!気配を消していたからな。」

「それで何の話だ?」

「・・・お前がここにきた理由とこの世界でのお前の使命を教える。」

ロキの声のトーンが真面目なものに変わる。

「・・・何をすればいいんだ?」

反感をかうのを覚悟で言ったんだがな・・・何も文句を言わないのか?」

「いや・・・・帰りたいけど使命を果たさないなんていうのは卑怯だし、何よりもルシファーの為にも何かしてやりたいんだ。」

「・・・・・・なるほど・・・ならば言おう。お前の使命とは・・・」

ロキの鋭い目が俺を捕らえている。

「ルシファーと結婚して子供を作って孫を俺に渡す事。」

「は、はぁ!?」

「何、半分本気の冗談だ・・・少しは俺の事が好きになっただろう?」

・・・むしろ嫌いになりそうなんだが・・・

「テイク2・・・アァーックション!」

何か神界の者にしては近代的な言葉を知っているな・・・それも教えてもらった事なのだろうか・・・

「お前の使命とは・・・神皇を倒す事だ。」

「森でも言っていたけどその神皇やら何の事だ?」

「そうだったな・・・」

ロキは酒を一杯あおってから続けた。

「この神界は万物の創造主 神皇 タイラントが創世した事により始まったんだ。

宇宙の最初の姿であった混沌乖離(かいり)してな・・・」

乖離・・・

俺はその言葉が何故か引っ掛かった・・・

「そしてこの世界には天と地が誕生し天は選ばれた者達が神族となり暮らす天界・エリュシュオンとなり、地は死者を裁く場所 冥界となった・・・そしてその更に底には

奈落 タルタロスがある・・・そしてそこを統べているのが冥王 ハデスだ。」

「死神のメシアか・・・」

「ああ・・・そして俺達が住んでいるここが地上界 アスポデロスだ・・・」

「なるほど・・・混沌が三つの世界に別れてしまったんだな・・・」

「飲み込みがいいな・・・しかし、ここからが、少し長くなるぞ・・・その神皇の下には階級を設けて配下の者達を従わせている・・・こいつらは基本的に神皇がここアスポデロスから選ぶ・・・

まず第一級神 神王 黄龍のアバジェス・・・

神皇に代わり神界を実際に運営する者だ・・・冥王 ハデスの師にあたる・・・

別に天界と冥界は争っているわけではないんだぞ。」

「なるほど・・・そいつ死神のメシアの師匠か・・・」

だったらとんでもない奴だな・・・そのアバジェスは・・・

「そして次に第二級神の冥王 ハデス・・・

こいつがお前の言っている死神のメシアとかふざけた名前のガキんちょだ・・・神界に来た者の魂の選定をする者・・・全ての始まりと終わりを司る者・・・おそらくお前の元にもいずれ来るだろうが無視しちまえ♪」

無視できればいいけどな・・・

「次が第三級神の四聖獣と呼ばれる、神獣達だ。神王に忠実に従い四大元素を司る・・・リーダーは水の青龍・・・そして土の玄武、風の白虎、火の朱雀だ。こいつらは基本的に神皇の命令によって動く為、まず接触する事は無いだろう・・・」

「?・・・神王に従っているんじゃないのか?」

「そうなんだが、最終的な決定権は神皇にあるんだよ。」

「神王も意外と大変なんだな・・・」

「そして最後が第四級神の十二傑衆だ。下級神と呼ばれるこいつらはメンバーの入れ替わりが激しい・・・

「入れ替わり?」

「ああ、神王も冥王も四聖獣もそしてこの十二傑衆もアスポデロスから神皇が選んで配置するんだ。」

「何か・・・庶民的だな・・・拒否権はあるのか?」

「一応ある事はあるが、何せ天界はここアスポデロスの住民達の憧れだからな・・・」

「・・・なんか嫌なシステムだな・・・」

「お!お前もそうか?」

「ああ・・・何か出世街道って感じで、その為には手段を選ばないって連中も出てくるかもしれないだろう?」

「・・・その通りだ。実際に出世を狙って人の道を踏み外した馬鹿もいる・・・例えば現十二傑衆のリーダー覇王 オケアノスもその座をゼウスに奪われまいと必死だ。」

「オケアノス・・・?それにゼウスって・・・」

「さっきも言っただろう。出世の為に人の道を踏み外した屑・・・それがゼウスだ。そしてオケアノスとは巨人族 ティターン族の中でもとりわけ武勲をたてた猛将さ・・・お前達の世界ではメベト・ヴァル・ファスクって名乗っているけどな。

「・・・っ!?マジかよ!」

「ああ、マジだぜ?ゼウスだってお前達の世界に忍び込んでいるぜ。」

・・・本当にどうなっているんだ・・・

「こいつらはルシラフェルと共に終末の日から逃れられた選ばれた奴等さ・・・」

「終末の日?」

「おう・・・それは名前すらも出してはならない禁断の言葉らしいんだが、俺でもその言葉は知らねぇんだ・・・」

「そんなに凄い言葉なのか・・・」

「初めに言っておくが、この神界はいずれ訪れる終末の日で消滅する・・・

「な!?」

「それを生き延びるのは選ばれた者だけだ・・・エリュシュオンにいる者達と例外の奴等を除いてな・・・」

「な、なんだよ!それ!?」

「言っただろう?ここは弱肉強食の世界だってな・・・優れた者、選ばれた者だけがお前達の現世に戻れる・・・生き返る事ができるのさ・・・」

「それは神皇が定めた事なんだな・・・」

「当たり前だろう。こんなシステムなんて奴以外の誰が望むなんってんだ。」

ふざけやがって・・・何が、神皇だ・・・!!

「無論、アスポデロスの者達はこの事を知らないし、知っていても口にだしてはならない。この事を知ればアスポデロスの民はパニックを起こすだろうからな・・・それに口に出した途端にハデスに殺される・・・ああ、この家の中なら大丈夫だから心配すんな。」

「何で・・・あんたはそこまで落ち着いていられるんだ?」

「それは俺が強いからさ。」

ロキは即答した。その目は身も心も強いからだと言ってるように見えた。

強いから・・・でも・・・俺は・・・

「強い者だけが生き残る世界なんて、間違っている・・・」

「それはそうかもしれないが、そういう弱肉強食世界になってしまったのならその弱肉強食世界の中でやっていくしか無いだろう・・・おまえ自身が強くなるしか無いんだ。」

おまえ自身が強くなるしか無いんだ・・・その言葉が深く俺の心に響いた。

「ロキ・・・俺・・・強くなりたい・・・」

そして、みんなの元に帰りたい・・・

「強くなりたいじゃねぇ・・・強くならなきゃならねぇんだ。そして、お前は強くなる・・・絶対にな・・・俺の目は確かなんだ・・・」

そう言ってロキは俺のグラスにもう一杯注いだ。

「だから、修行はお前の限界領域を超えたものになる・・・覚悟しときな。」

「ああ・・・!」

俺は気合を入れるようにグラスをあおった。

「その意気だぜ♪」

まったく・・・こいつは人をその気にさせるのが上手い奴だ・・・

「ところでお前の目的は何なんだ?なんで俺にここまでしてくれるんだ?」

「・・・・・・」

ロキは何も答えずに酒をあおった。

「ロキ・・・」

き、きまずいな・・・

「・・・バッカだなぁ〜」

「・・・?」

「そんなのお前とルシファーの子供が見たいからに決まってるじゃねぇか・・・」

「はぁ!?しつこいなぁ!」

「違う、馬鹿・・・俺はお前とミルフィーの子供を見たいと言ったんだよ・・・」

「どういう意味だよ・・・?」

「かぁ〜っ!!相変わらずのニブチンだな〜」

ロキは一気に飲干してグラスをだん!とテーブルに置いた。

「ルシファーはな・・・終末の日に転生してミルフィーになるって言ったんだよ!」

「は、はぁーーーー!?」

な、何だぞれは!?

「細かい事はまだ言えないが、ルシファーは生前のミルフィーだと思えばいい・・・」

「ちょ、ちょっと待て!彼女はこっちの世界でまだ20そこらなんだぞ!?」

「だぁから〜転生してミルフィーユ・桜葉として生まれ変わるんだってば!」

「・・・これ本当に夢か何かじゃないだろうな・・・?」

「なら確かめてみようぜ。」

ゴツン!

「いっでぇ!」

「どうだ?これは夢か?」

「いや・・・現実だ・・・」

もの凄く痛ぇ〜・・・

「よぉ〜し・・・それでだな。俺は父親としてお前と娘の子供が見たいと言ってるんだ」

「・・・てことはお前も俺の世界にいるのか?」

「・・・・・・」

俺がそう聞くとロキは黙り込んでしまった・・・表情は珍しく沈んでいる・・・

「違う、ミルフィーユの親父はリョウ・桜葉っていう別の男だ。俺じゃねぇよ・・・

「そうか・・・」

てことはお前は・・・終末の日に・・・

「だから、お前とルシファーが子供を作ってくれれば俺も孫の顔が見れるって訳だ。」

「あ、あのなぁ・・・俺はミルフィーと結婚しているんだぞ?」

「ああ、だからお前と娘の子供が見たいと言ってるんだよ。」

「だから、ルシファーとミルフィーは別人だって言っているだろう!」

「あ?お前、何か勘違いしてるな。ルシファーとミルフィーユは細胞の一つ一つまでまったく同じの同一人物なんだぞ。つまりはミルフィーユ・桜葉本人だ。」

「で、でも、彼女とはまだ知り合ったばかりでそんな・・」

いくら俺でもこれ以上先を言うのは抵抗がある・・・

「はっは〜ん・・・なるほど〜お前・・・まだ経験が無いんだな〜」

「わ、悪いかよ・・・?」

「いや、男の価値はそんなもので決まるものじゃねぇ・・・けどな、愛する彼女がいる奴は別だぜ。俗に言うプラトニック・ラブなんてのは俺に言わせれば嘘っぱちだ・・・

だってよ、お互いに命より大事な恋人なんだろう?お前達も・・・違うか?」

ロキの目はこれ以上無いほどに真剣だったので俺はコクンと頷いた。

「うんうん、それでいい・・・でだな、お互いに命より大事な恋人なら、お互いに隠す事も無い筈だろう?Hな事を望んだらそれがいやらしいとか言うのは何かおかしくねぇか?俺のいた世界では自主規制とかほざいた連中もいたけど、相思相愛の恋人同士が互いの身体を求めて何が悪いんだ・・・?」

こいつ、もの凄く過激な事を言っているけど、コイツだってルシファーの父親なんだ。

ただ単に馬鹿の妄想という訳でも無いだろう・・・何故なら、俺もコイツの言う事をおかしいなどとか思えないのだ。

「俺に言わせりゃぁお互いを愛し合って結婚までした夫婦が子供を持たない程、不自然な事は無いと思うぜ。生殖行動がなきゃどうやって人間の世界を存続させるんだよ?全員体外受精にでもさせる気か?そっちの方が不自然じゃねぇか?

俺はルシファーを授かった時はエレナと一緒に大喜びしたもんだぜ。だって俺達が限界まで愛しあって生まれた子供なんだからよ。当然、子供にかける愛情も違う・・・全ては愛情なんだよ・・・

「・・・・・・」

エレナ・・・それがルシファーの母親か・・・

「愛情が無いHなんてのは下衆だが、相手が相思相愛の仲ならば徹底的に最後まで愛するべきだと俺は思う・・・それに恋人を失ってからでは遅い・・・もし、ルシファーがいなければ今の俺はいなかった・・・

ロキは注いだ酒をグイと一気に飲み干した・・・

そうか・・・エレナという奥さんはもういないんだな・・・

「この俺の愛情に懸けるこの信念だけは、誰にも文句は言わせねぇ・・・

何故なら、俺の嘘偽りの無い気持ちだからだ・・・

ロキの目は酔っ払ってなどはいない・・・こいつは本心で言っているのだ・・・

凄い男だよ・・・ロキは・・・

「だからだな、タクト・・・さっきも言った通り、ルシファーは間違いなくミルフィーなんだよ。もし、ルシファーがお前の事を好きになったら、ミルフィーと同じように愛してやってくれねぇか?俺はお前ならあいつを任せられる・・・お互いに望むのなら何をしても俺は口はださねぇ・・・」

「・・・でも、俺は・・・」

お前ほどにはわりきれない・・・

「・・・もちろん、最終的な判断はお前に任せる・・・しかし・・・」

ロキが俺の胸倉を掴んだ。そして俺の目を見据える。

「もし、お前が自分の気持ちに嘘をついてルシファーの想いを踏みにじったらゆるさねぇからな・・・もちろんそれはあいつも同じ事だ・・・自分の気持ちに嘘だけはつくな・・・それが俺からのお願いだ・・・いいな?」

「・・・ああ、分かった。」

ロキの目は俺を査定しているが、どうやら信じてくれたらしくて掴んでいた胸倉を離してくれた

「まぁ、飲めって・・・ってわりぃ!間違えた!」

「お前も結構うっかり者だよな・・・」

「まぁ、聞けって・・・ところでお前は真の絶対者て何だと思う?」

本当にこいつの話は突発的だな・・・さっきまでの話とかみあってないぞ・・・

まぁ、いいか・・・

「う〜ん・・・創造主の神皇か?」

「じゃあ、その神皇“何が”作り出したんだ?」

「何がって言われてもなぁ・・・・」

「俺はそれの“答えらしきもの”を見つけたんだ。」

「それは?」

「それはありとあらゆるものに関係しているもの“因果律”だ。」

「因果律!?馬鹿いうな!あれは原因とかだろう?意思を持っているなんて・・・」

「確かに俺も見た事はない、だが、神皇はその答えに近づいた先代の神王達を抹殺していった・・・」

「先代の神王達を・・・」

「つまり、神皇がこれを黙殺しようとした事は神皇が知られたくなかった・・・それは神皇が因果律を認めたという事だ。つまり“因果律には意思がある”ということだ。事実、この世では時に神皇の予想を覆すイレギュラーが存在する。

例えば俺やお前なんかも神皇なんか嫌いだろう?そして、神皇が命令したらその通りに動くか?そうじゃないだろう・・・?だからこそ・・・奴は本能という誘惑で強引に従わせているんだ・・・」

「本能という誘惑?」

「・・・しなければ死んでしまうというのが一番分かりやすいかな・・・?」

「・・・死んでしまう・・・」

「故に誰も神皇には歯向かわない。今の生活を維持したいならな・・・おまけに神皇の奴は自分の為に植え付けた捕食の概念をルシファーのせいにしやがった・・・あいつのやりそうな事だ。ルシファーはな・・・捕食や暴力ということを何よりも嫌っているんだぜ?それなのに捕食の概念を植えつけた堕天使とは何て言い草だ・・・!

ロキはまたグイと酒をあおった。

「ルシファーが堕天使・・・どういう事だ?」

「・・・まぁ、いずれ話すさ・・・」

「タクトさん、お風呂空きましたよ。」

「ル、ルシファー・・・」

「どうかしました?タクトさん?」

その、風呂上りのパジャマ姿に興奮しましたなんて言えるわけないじゃん!そうやって苦悩しているとロキの奴がはは〜んとにやついて・・・・・って!?

「はっはっはっ!ルシファ〜タクトはなお前の風呂上りの姿に興奮してるんだよ。」

「!?」

ルシファーの顔がボンと赤くなる。しかもうつむいて上目遣いに・・・

「そ、そう・・・なんですか?」

なんて言ってきた。

「ち、違うよ!ロキィッ!!」

俺はロキに掴みかかるが、奴は口笛を吹いていやがる!!

「いいから早く風呂に入れよ〜♪」

居心地が悪くなってしまった俺は風呂に向かおうとしたその時・・・

「あれ?お父さんまた美味しそうに飲んでいるね?」

ロキははっとなりバツの悪そうな顔をしていかにも

「しまったぁー!」という顔をしている。

何かあったんだろうか?別に咎められそうな感じではないのだが・・・?

「ねぇ、私も“飲んでみていい”?」

ロキの赤みのかかった顔から血の気が“マジ”で引いてる。

「だ、だだだ駄目に決まっているだろう?お前はまだ子供だからな。」

「え〜!この間は“大人になったな”とか言っていたのに〜!」

オイ!お前何を根拠にそんな事を言ったんだ!?

俺の中にロキに対する殺気が湧いてくる。

「駄目なものは駄目!あまり聞き分けの無い事言うと・・・あのチョコくわすぞ?」

「ごめんなさい!それだけは許して!!」

「タクトもいいか!?こいつには何があっても酒を飲ませたりするなよ!!」

「あげたら・・・?」

俺はからかうように言うと・・・

「・・・やってみろ・・・」

ロキから殺気が立ち込める。うわ、こいつ本気だ。

「その時は“俺もお前も地獄を見る事になる”

お、俺もお前もって・・・?

俺はロキに追い出されるかのように風呂に入らされた。

どうやらルシファーには酒は禁忌らしい。

風呂は神界らしからぬ普通のお風呂だった。

蛇口やシャワーまでももあるし・・・

「神界にも石鹸やシャンプーがあるんだ・・・」

ラベルなどは貼ってなくプラスチックではなく木製だがカフカフの木の花に似たマークが描かれている。

「神界にもカフカフの木があるのか・・・?」

風呂からあがると俺はどさっとベットに倒れこむ。

「はぁ・・・・何かどっと疲れたなぁ・・・」

目を閉じていたらいつの間にか俺は寝ていたらしい・・・

 

「起きろ〜起きないとこの俺のキスで目が覚め・・」

俺はガバっと跳ね起きた。

「お!やるなぁ・・・」

「朝っぱらから嫌がらせか・・・!」

「違う!愛だ愛!」

「いらねぇよ!」

「ちぇ!それよりも・・・オラ、さっさと修行にいくぞ。」

「最悪の目覚めだ・・・」

俺は洗面所で顔を洗って台所に行くとロキが待っていた。

「あれ?朝飯は抜きか?それにルシファーは?」

「あいつは何故か朝に弱くてな・・・それに飯食うと“後が辛くなる”からやめといたほうがいいぞ。」

「うう・・・」

「泣くなよ、これしきの事で・・・ほれそこの胴着に着替えろよ。」

「何か随分と綺麗だな・・・」

「あっはっはっは!それはルシファーのお古だからな。」

「え?ルシファーの・・・」

「嘘っぷー♪ぷぷぷ・・・今、目が輝いてたぜ?くっくくくく!」

ロキは必死に笑いをかみ殺している。

「くくくく・・・だ、大体サイズが違うじゃん!」

「お、お前なぁ・・・!!」

俺はどたばたしながらも胴着を身につけてロキの家を後にした。ロキは荷袋をかるって昨日の街道にでた。

「この十字路は北が我が家とすると西が昨日の森東がノスタルティック山脈、そして南がレンゲ街だ。今日は山脈の方で修行をするからな。なぁに昼飯前までには終わるさ。」

「そうなるように努力する・・・」

「よぉし!その心意気だ!行くぞ!ついてこい!!」

というとなんとロキは走り出した。

「おい!待て!!」

「走る事こそが修行の基本だ!ついてこいよ!!」

「鬼〜!!」

ロキに振り切られないようについていく。ロキはかなり早い。

「おらおらぁ!もう少しだ!!気合を入れろよ〜!!」

「わ、わかってらい・・・!」

心臓が爆発寸前の状態で2分近く走っているとようやく山脈のふもとに辿り着いた。

「よくついてこれたな。まぁ、喰え、Present For You〜♪

そういうとロキは銀紙に包まれた板チョコを差し出してきた

「ここは本当に神界なのか・・・」

といいつつ板チョコをかじって見ると“ありえない味”がした。

「・・・っ!?苦っげえぇぇぇぇーーーー!?」

ロキがにやついていた。この顔に気付いていればこんな事には・・・あまりの苦さに目から涙が・・・はう〜・・・

「そいつは一種の薬だ、どんな怪我や疲労も治癒してくれる万能薬なんだぞ。材料の中には“一粒で城が建てられるぐらいの高級な果実”が入っているんだぞ?良薬口に苦しだ。」

「そうはいってもよぉ〜・・・」

「これはなぁ・・・・ルシファーがお前の為に調合した特製品なんだぜぇ〜?いいのかぁ〜残したら悲しむだろうな〜・・・」

「え?ルシファーが・・・?」

思わず残りを喰ってしまう俺。

「な〜んちゃって♪これは俺が手汗を握って作った愛のチョコレートだ。」

「ぶぅっ!!!」

思わず吹き出してしまう俺・・・な、なんて奴だ・・・

「どうだ?味はともかく体は軽くなっただろう?」

言われてみれば息もすっかり収まっている、疲労感も全くなっていた。本当に凄い効能なんだな・・・

「さてと、もう少し奥に進むぞ。」

ロキはそういうと山脈を更に進んでいった。山脈には整備された道が通っていたがロキは全く正反対の裏道らしき所を通っていく。はっきりいってかなり歩きづらい・・・

「よし、着いた。」

ロキが連れてきた所は岩山に囲まれた広場だった。人工的な物は何一つないが、修行場には十分な環境だった。

「さて、早速始めるわけだがな、基本的に組み手をする。」

「組み手?乱取り稽古の事か?」

「そうだ。戦い方なんてものは自分に最適な形にアレンジしていくものだ。すなわち自分で考えろって事だ。」

「なるほど、実戦の中であみ出したものは実戦に有効な戦法という訳だな。」

「というわけで修行開始だ。」

「おう、やるぞ〜!!」

ロキがボクサースタイルで構える、俺もボクサースタイルで構える。

ボクサースタイルは上段攻撃には理想の防御体勢である。

どこかで得た知識通り、腕を上げ下げしながら胴体をまもり、拳は頭をガードする。相手にわき腹を見せないように常に相手の真正面を陣取る。

「ほう・・・それなりには知識があると見た・・・んで?攻める時は?」

「・・・・・・」

そういえば守るばっかりで攻める方法は考えた事がなかった。

「んじゃあ俺からいくな?先に謝っとくわ・・・ゴメンよ。」

「え?」

ベキィッ!!

次の瞬間、骨の折れるような音とわき腹に物凄い衝撃が走った!鉄バットでフルスィングを喰らったかのような衝撃が!!

「あ゛っ!!」

激痛よりも呼吸がまるでできない!苦しい!!

「やはりもろに入っちゃったか・・・ほれ、食えよ。」

ロキが俺の口に例のチョコを突っ込んだ。

「このチョコは食えば食うほど強くなるから遠慮せずに食え。てか食わないと死ぬぞ?」

俺は涙目になりながらも何とかチョコを食べた。体から痛みが退いていく・・・・味は酷いが効果は絶対らしい。

案外苦いのがこういうときには向くものだなと思った。

「何すんだよ!!死ぬかと思ったぞ!!」

俺は加害者ロキに詰め寄る。

「やかましい!!アレぐらいの攻撃もかわせないお前が悪いんだろうが!」

「全然見えなかったぞ!」

「そんなんで神皇に勝てるか!動体視力を養うんだよ!」

「そんな無茶な!!」

「安心しろ、このチョコはな損傷した箇所を治癒しながら進化させ強化する効能がある。まぁ、殴られて食べる程強くなるって奴だ。柔道にもあるだろう?投げられれば投げられる程強くなるってよ。」

「とほほ・・・」

「まぁ、そう凹むな。このチョコに入っているのは黄金の実という奴だ。聞いた事はあるだろう?」

「黄金の実?」

「俺が旅先で見つけた果実だ。そのまま食うと毒にやられるんでな、この苦みの元の解毒剤で毒を打ち消しているって訳だ。」

「お前、意外と物知りなんだな。」

「意外って言うな!俺の師匠ってのが人間の皮被った悪魔でよ・・・俺なんか初日で叩きのめされ、ロクな治療もされないでここに放たりっぱなしだったんだぞ。お前なんかまだいい方さ・・・畜生・・・あの悪魔め・・・・」

ロキの目に涙が浮かぶ、ロキの師匠って一体何者だったんだろう?

「とぉにかぁく!お前を短期間で強くする為に容赦なく痛めつけこの黄金のチョコで鋼の肉体を養う!というわけで“修行”再開だあぁぁぁーーーー!!」

「これって本当に修行かぁぁぁぁ〜!!!!?」

それから俺はありとあらゆる所を蹴られ殴られ、地獄のチョコを食わされた。

これで強くなれなかったら泣くぞ俺・・・・くすん・・・・

「よぉ〜し!今日はここまでにして帰るぞ。ん?どうした?」

「足が重たくて動かないんだ・・・」

「まいったなぁ・・・チョコはもう家にしかないしなぁ・・・」

ロキは腕組みをしてう〜んと考え込むと

「なぁ・・・同志よ俺がここにお前を置いて帰ったらどうする?俺が放置された時はモンスターに食われそうになったけど。」

「死んでも呪い続けてやるーーー!!」

「おお!怖っ!!ったく仕方ねぇなぁ・・・」

ロキは俺に背中を向けた。ま、まさか・・・!

「おぶってやるよ・・・」

「マジかよ・・・」

「モンスターの餌になりたいか?ここって時々ドラゴンが出るぜ?」

「御願いします!」

ロキに背おわれて俺は山脈を抜けていく。ロキは荷袋と俺を担いでいるのにちっとも徒歩の速度を落とさない・・・ロキって口は悪いが意外といい奴なのかも知れない。

「ったく、男を背負うなんて恥ずかしくて死にそうだぜ・・・」

「俺の方が恥ずかしいよ!」

「う〜ん・・・?おお!」

ロキの目に妖しい光が芽生えた。嫌な予感がする・・・

「お〜よちよち、お家まで我慢するんでちゅよ〜」

「や、やめろーーーーー!!!」

「ルシファーの小さい頃を思い出すなぁ〜♪」

「やめてくれーーーーーーーー!!!!!」

すれ違う人達がロキにお子さんですかと聞いてきた・・・

俺はこうして家に辿り着くまでに第二の地獄を味わされた。

前言撤回、こいつは鬼だった・・・

家につくとロキは入り口の前で俺を降ろしたというか放り投げた

「いて!何するんだ!!」

「ん〜?俺に担がれたところルシファーに見せたいのかなぁ?」

「・・・地獄のチョコを御願いします。」

「はい、ただいま〜」

ロキが地獄のチョコをとりに家の中に消えていった・・・あ、そうか俺がこんな状態だとルシファーが心配するからか・・・あいつも親なんだな・・・

「タクトさん!?」

俺がそう感心しているとルシファーの声らしきものが聞こえてきた・・・って!?

「あれ?ルシファー?」

ルシファーは篭をかるっていた、篭からは野菜らしきものが見え隠れしている。朝の収穫ってところだろうか?

「一体何があったんですか!?腕に痣があるじゃないですか!?酷い怪我・・・」

ルシファーが泣きそうな顔で腕をさすってくる。俺は何となく恥ずかしくなって。

「実はロキの奴が・・・」

俺がロキに殴られてと言おうとした瞬間・・

「チィィエエェェェスゥトオオオォォォォーーーーーー!!!」

「ゼナ!!」

何者からのとび蹴りを喰らった。もの凄く痛い!!

思わず蹴りが飛んできた方を見るとロキが俺を見下ろしていた。顔は笑っていて目が笑ってない・・・!怖っ!!

「お・れ・が・ど・う・し・た・の・か・な?」

「ロキの奴がチョコを取りに行ってくれてたんだ?」

「疑問形はいらないよな〜?タクト君?」

「う、うん・・・」

ここで頷いとかないと殺されると直感的に悟った。

「お父さん!これはどういう事!?」

「あ、あ〜街道を案内していたらこいつが川に転落してな。」

「本当なんですか?タクトさん?」

俺は思わずロキの顔を見た。『うんと言わないと殺す』と顔が物語っていたので俺はうんと頷いた。

「もう・・・気をつけてくださいね。」

「ご、ごめん・・・」

「ルシファー、昼飯の用意しといてくれ俺がこいつにチョコを食わせるから。」

「え゛?」

ルシファーの顔が引きつる。少し面白い・・・

「チョコを・・・?タ、タクトさん・・・このチョコは・・・」

「ああ、大丈夫、大丈夫。こいつはもう、20近くは味わっているから。それにこの味に快感を覚えたらしい。」

「・・・・・・」

ルシファーが哀れんだ表情で俺を見る。違う!誤解だぁ〜!!

「それともこのチョコを一緒に食いたいのか、ルシファー?」

「わ、私お昼ご飯の準備してくる・・・!!」

ルシファーは逃げるように家の中にかけていった。もしかして・・・

「もしかしてルシファーもこのチョコを食べた事があるのか?」

「ああ、昔よく菓子をつまみ食いしていたから面白半分で菓子の中に忍ばせておいたんだ。そしたら見事に食ってしまってな、いやぁ〜あの時は面白かったなぁ・・・♪」

この男は本当に鬼のような奴だった。

俺はふと気になった事があった。今の話だとまるでロキが一人でルシファーを育てたのではないかと思えてしまうのだ。

「ロキ、一つ聞いてもいいか?」

「ん?何だあいつのスリーサイズか?憶測だが上から82、54、81ってところだ・・・17才の愛娘ながら凄いバディだぜ・・・夜這いするなら協力するぜ?」

こいつ・・・本当にルシファーの父親なのか!?

「違う!お母さんはどうしているのかと聞きたかったんだよ!」

「・・・え?お前、まさか俺のワイフに興味があるのか!?まさか人妻好きだったのか!?うわぁ・・・ルシファーが知ったら泣くだろうなぁ・・・」

ロキはいつも通りにふざけてはぐらかしたが、目が笑ってはなかった。どうやらエレナさんの事については聞かれたくないらしい。

「いや、違うからさ・・・」

「ん〜?てい♪」

何を思ったかロキは俺の口の中に地獄のチョコを突っ込んだ!

「このマニアックめ〜♪将来の奥さんを泣かせるなよ!!」

「んーーーーーーーー!!!!??」

地獄の苦味に悶絶する俺に背をむけてロキは言った。

エレナはあいつを産んだ後、“神皇”に殺された。あいつは昼飯の後に毎日墓参りに行くから一緒に行け・・・」

ロキがまた真面目な声に俺はこくんと頷く。

下ネタ大好き男だがこいつはいい父親だなと俺は思った・・・

「間違ってもお前から聞いたりはするなよ?好感度がダウンするぜ。ま、頑張れよチェリーボーイ♪」

・・・と思った俺が馬鹿だった・・・

チョコを食った俺は家に入ろうとドアを開けたら・・・

何とドラゴンと遭遇しました!ビバ!神界!!

「で、でたぁーーーー!って・・・ちっちゃ!!」

「ぴ〜?」

家の中に転がり込んでいたドラゴンは猫ぐらいの大きさで色は青い。ぶっちゃけ・・・

かなり可愛い!!じゃなくて!ドラゴンだよ!ドラゴン!最強のモンスターだよ!!

ん〜気のせいかどこかであったような・・・

「ど、どうしました!タクトさん!?」

ルシファーが慌てて奥からエプロン姿で出てくる。う〜んやっぱりミルフィーにそっくりだなぁ・・・じゃなくて!!

「危ない!!ここは俺に任せて逃げるんだ!!」

「危ないって・・・?」

きょとんとするルシファー・・・嫌な予感がする・・・

「ぴ〜♪ぴーーー!!」

何を思ったかそのチビドラゴンは俺に向かって飛んできた!!かわしきれない!?く、喰われるーーーー!!!

ベロベロ〜

「へ?」

こともあろうかチビドラゴンは俺の顔を舐めまわした。味の確認だろうか?

「うわぁ!凄いです!タクトさん“クロミエ”に懐かれたみたいですね!!」

「はい?うひゃっひゃっひゃっひゃ!く、くすぐったい〜!!」

懐かれたって?クロミエって事はペットて事ですか〜!!?

さすがは神界!!アンビリバボーーーーー!!

「何だ!?何だ!騒々しいな!って・・・タクト・・・なんかおもろすぎるぞ・・・?」

「ひーっひっひっひっ!んなわ、ひひ・・な・いだろう!と、止めてくれーーー!」

「面白いから嫌だ♪」

ああ・・・同志よそういやぁあんたってそういう人だったよな。

ルシファーはうふふと嬉しそうに見つめているし・・・・ああ、このまま笑い死ぬんだろうか・・・結局、俺が声を出さなくなったのに気付いたルシファーが止めてくた。ルシファーとクロミエは台所に引っ込んだ。

「薄情者・・・」

俺はロキを睨みつけながらぼやいた。

「あははは!わりぃわりぃ!めんごめんご!」

めんごって・・・死語だぞそれ・・・・じゃなくって!

「クロミエって・・・まさか、あのクロミエか?」

「おうよ!二年前、あの森で親とはぐれて森に迷い込んでいたところを晩飯にしようと捕まえたらルシファーにどつかれてな、それ以来ルシファーに懐いてしまった。いやはや・・・まさかあのチビが後に四聖獣に選ばれるとはなぁ・・・」

「ちょっと待て、確かお前、モンスターとは分かり合えないとか言ってなかったか?」

「ああ、言った。しかし、ルシファーは例外だ。あいつは微弱ながら神皇の創造物を神皇の呪縛から解き放つ能力を持っている。それに母親は竜姫だったからな相性もあったんだろう。今ではすっかり“俺以外”の人間に懐いている。」

「だよなぁ・・・晩飯にしようとしたんじゃあなぁ・・・」

“弱肉強食”の世界なのになぁ〜・・・」

「・・・?」

何故かロキの軽く言った筈の言葉が妙に重く感じてしまった。

昼飯を終わらせた後、俺とルシファーはレンゲ街に出かける事になった。レンゲ街は意外と近かった。街は多くの人達で賑わっていた、ルシファーの話によると街からは二つの街道が出ていてロキの家や山脈や森に繋がっている街道ともう一つの街道、エシブ街道から人々が流れてくるらしい。

ほとんどの人がこの街でこのルシファーが卸しているケーキを買いに来ているらしい。

「う〜ん、凄いなぁ・・・そんなに有名なんだねぇルシファーのケーキって・・・」

「あははは・・・照れちゃいます・・・」

俺は街でのルシファーの人気ぶりを知る事になった。すれ違う人々のほとんどがルシファーに挨拶をしてくるのだ。中には彼氏かい?とかいう冷やかしもあったが・・・

後、意外な事にロキもかなり街の人達から信頼されていた。ルシファーに挨拶をしたほとんどの人々からロキはどうしてるのか?と聞かれたのだ。人は見かけによらないものだ・・・ルシファーが突如足を止めて一軒の喫茶店を指差してニコニコしながら話しかけてきた。

「タクトさん、ここはお父さんの知り合いの店なんです。よければ一緒にお茶しませんか?」

「いいよ。」

ルシファーが先頭で入っていき、俺も後に続いていく。

「らっしゃい!おお!ルシファーじゃあねぇか!ささ、ここに座りな!」

俺はルシファーをカウンターに進めた店長らしき人を見て凍りついた。

一言で言えば人間では無い。後、でかい!顔は熊みたいだ・・・

結論、怖!!

「ん?おお!あんたはまさか・・・!!」

店長がカウンターから出てこちらに向かって来る・・・!!

ズドドドドって!!こ、怖いよぉーーー!!

「おおおぉぉぉぉぉぉーーーーー!?あんたは!?」

俺は情けなくも金縛りにあったように動けなくなる。

こ、こないでーーーーー!!

「ああ、ダイルさん、その人は家で一緒に暮らす事になった、タクトさんです。」

「い、一緒にって!ま、まさかルシファーの“コレ”かい!?」

と店長がしたジェスチャーは“彼氏”というものだった。ああ・・・ますます神界のイメージが崩れていく・・・

「ち、違いますよ!タクトさんは旅行でここに来ているんですってば!」

ルシファーは顔を真っ赤にして手をブンブンと振って否定した。

「本当なのかい?タクトさんとやら・・・」

熊・・・いや店長の鋭い視線が俺の目を射抜く。

「は、はいぃぃ!」

「それにタクトさんには奥さんがいるんですよ!」

「!て事は浮気か!?て、てめぇぇ!レンゲ街の天使をっ!!」

「ダ、ダイルさん!?」

な、なんか微妙に会話が成立してなくないですか!?

「・・・な〜んちゃって!ロキから聞いているよ。タクト君。」

「はぁ・・・・驚かさないでくださいよぉ〜・・・」

「いや〜はっはっはっ!すまん、すまん!ロキの奴に頼まれてな!いや!本当に悪かった。」

「もう、お父さんは・・・・」

「あははは♪ぜ〜んぜ〜ん気にして無いから!」

俺はこの時、破門覚悟で師匠をボコボコにしようと思った・・・

「自己紹介が遅れたな!俺はダイルってんだここGOKUTBUSEAの店長をやっている。ロキとは腐れ縁の中だ。」

まじっすか・・・その店名・・・

「お〜い!買い物行ってきたぜ〜!!」

「おう!」

その時、背後から元気のいい女の子の声が聞こえてきた。

「ってあれぇ・・・!ルシファーじゃん!久しぶり〜!ここ四日間ご無沙汰だったけど何かあったのか?」

ルシファーに話しかけてきた娘は見た目はルシファーと同い年で赤髪の女の子で猫耳と尻尾がついていた。

いや〜何て言うかもう何でもありっすね・・・グッレイト!神界!!

「お父さんが家に帰ってこなかったから・・・お墓参りだけ行ってたの。」

「ま〜たあのスケベ親父かよ!あんたも大変だねぇ・・・あんな父親で・・・・」

「もう慣れたから・・・」

何気にきつい事言われているぞ、ロキ・・・

「ところでこちらのお人はあんたの“コレ”かい?」

またそのネタ振りか?・・・それセクハラだぞ・・・

「ち、違うてっばぁ〜!!」

「お〜意味深な反応だねぇ・・・!まぁ、いいや始めまして色男さんあたしはマナ。ここの店長、ダイルの一人娘さ。」

「はい?今なんて言いました?」

「・・・・・・」

「あははは!似てないだろう!あたしは母親似なんだよ!」

あ〜だから猫耳なんだ・・・納得。

「おい、マナ、俺はこの兄ちゃんと話がしたいから、しばらくルシファーと話してな・・・」

と言うなり熊・・・ダイルさんは俺の首根っこを掴んで奥に連行されて行く・・・

も、もしかしてこの先はBAD END!?

「あう〜・・・」

ダイルさんが連れてきたのは台所だった。

「強引に悪かったなぁ・・・あんたに教えておきたい事があってな。」

「へっ?教えたい事・・・」

てっきりKILLされるかと思っていたんですけど?

「ああ、この神界の歴史をな・・・」

「え?」

「ロキには黙っていてくれよ、ばれたら殺されるからな。」

「は、はい・・・・」

そして、俺はダイルさんが淹れたお茶を飲みながらダイルさんの話を聞くことになった。

「俺が生まれた時の神界は弱肉強食の時代でね・・・・常に支配者がころころ入れ替わるほど治安が悪い時代だった。親兄弟の絆なんぞあったものでは無かった・・・邪竜、邪神のような化け物がはびこる時代だったんだ・・・俺達はいつも死の恐怖に怯えていた・・・今考えれば自分の身も守れなかった自分が恥ずかしいがなその化け物達の親玉は邪神 ルシラフェル神皇直下の神王として君臨していた悪魔のような男だった・・・ルシラフェルは遊び感覚で俺達を苦しめたり、殺害していった・・・そんな時立ち向かったのが神界の大英雄 アバジェスだ。」

アバジェス・・・!?」

「アバジェスは神とは無縁の出身でありながら次々と邪神や邪竜を討伐していった・・・その魔法の力とその“ケン”の腕前は神界最強と今でも言われている・・・

更に、奴は黄金の竜(黄龍)の力を隠し持っていてな、自作の聖剣で敵を倒したとも言われている・・・そして、アバジェスは遂にルシラフェルを討伐する事に成功したんだ。

そして、アバジェスは戦友のギュスターウ゛・・・まぁ、ともかくアバジェスはギュスターヴに地上界とフィノリアの街を統括させ引退して、どこかの工房で毎日、神具の作成をしていたとかって噂もある・・・何せ神王のアバジェスは神皇に匹敵するほどの想像能力を持つ構築者(ビルダー)であっただけに器用でなぁ・・・・

手先はゴッドハンドとも呼ばれていて、奴が作成したルシラフェル討伐で愛用していた聖剣エクスカリバーを始めとした武器防具は今でも最上級のものとされハンターが血眼で捜索しているらしい・・・」

「エ、エクスカリバー?」

「どうかしたか?」

「あ、すいません・・・続けてください。」

「後、君はロキがどういう奴かはどこまで知っている?」

「う〜ん、まぁ、女たらしで酒乱で少し強いって事でしょうか?」

「うわっはっはっはっは!違いないねぇ!ただし、最後は違うぜ。“ロキは物凄く強い”だ。」

「え?ロキってそんなに強いんですか・・・?」

「ああ、俺は戦友だったからな・・・今はああ見えても昔、あのアバジェスと互角に渡り歩いた“拳士”だ。君は若い頃のロキを知らないだろう・・・?」

ダイルさんはてぃーかっぷを一口飲んで続きを話だした。

「あいつはなぁ、元は今より22年前、ここより東に“あった”地上界を治めていた覇王ギュスターヴの城フィノリアの城下町で盗賊をしていたんだよ。」

「と、盗賊!?」

今のロキからは想像できない陰湿な過去だなと思った・・・

「ああ、出生までは知らないが19才の時から盗賊家業に手を染めていたらしい・・・あの当時、あいつは身寄りがなかったみたいだからなぁ・・・性格もやさぐれていて短剣二本でいろんな貴族から金目の物を盗んでおったわい。俺はその時ギュスターヴの城の宝物庫の警備をしていてな・・・とある夜中にロキが俺の所に忍びこんできたわけだ・・・俺も腕っぷしに自信があったから軽く捻ってやろうと思ったんだがあいつが強くてな・・・あっという間に倒されてしまったんだ。」

「う、うそでしょ・・・?」

この筋肉の塊のようなく・・人を倒すなんて・・・

「信じがたいが本当さ・・・ちょうどその時だったよ・・・エレナとロキが出会ったのは・・・

エレナ・・・ルシファーの母親の名前だ・・・

「ロキとエレナは前から面識があったらしくてね・・・ロキはエレナにあるものを返そうとしてフィノリアまで来たんだ・・・そしてそれを返し終わった後、ロキは姿を消し、エレナもそれを追いかけたんだ。エレナはロキに一目ぼれしたそうだからな・・・」

「ロキってモテたんだ・・・」

ちょっと意外だった。

「エレナが言うには容姿ではなく、根が優しいとの事だったらしいし・・・まぁ、それは嘘ではなかったよ。そして、ロキとエレナがめでたく結婚した・・・そして次第にロキは周りの者達にも心を開くようになった・・・」

「そういやロキの奴今の家は師匠が建てた家だとか言ってましたけど・・・」

「・・・・・・」

ダイルさんは何故か気まずそうにお茶をすすった。

「それはいずれロキが教えてくれるだろうからな・・・」

「あ、すいません・・・」

「いや、いいさ・・・それでなどんどん強くなっていってロキは遂には覇王であるギュスターヴも超えるほどの剣士になったんだ・・・まぁ、そこまでが平和な時だった・・・ある日、ロキは修行試しの旅に出たいと申し出たんだ。その時にエレナはルシファーを身篭っていた。」

「え?」

俺はこの時、ダイルさんが一つ大きな嘘をついていた事に気が付かなかった・・・

「ロキには知らされてなかったんだよ。そうしてロキはその事を知らぬまま実力試しの旅に出た・・・そしてその間にルシファーが産まれた・・・ロキが旅に出てから2年たった日の事だった・・・ロキが満身創痍の状態で旅の行商人に拾われてきたんだ。それは酷い怪我だった。意識はなく呼吸をするだけの状態。無事な箇所など体のどこにも無いほどの重傷だった・・・もはや助からないと誰もが思っていた・・・しかしその時、エレナがロキの看病を引き受けた。そして、次の日、ロキが奇跡的な復活を遂げたんだ。」

「まさか、このロキのチョコですか?」

「いや・・・ロキが負った傷は呪いによるものでもあったからアレでは傷は癒えなかったんだ・・・」

「俺の推測ではエレナが何かをしたと思っている・・・」

エレナという人はもういない・・・真相を知っているのはロキだけだろう。本人に意識があったのならの話だが・・・

「そして運命の日がやってきた・・・ギュスターヴの城 フィノリアにモンスターの集団が襲い掛かってきたんだ・・・そのモンスター達を率いていたのはなんとあのアバジェスだった。皆、その残酷な事実を受け入れられないまま奴(アバジェス)に殺されていった・・・信じられるかい?最大の英雄と呼ばれた剣士が今度はこちらにその剣先をこちらに向けて来るんだぞ?ギュスターヴは体を真っ二つにされ、そして奴はエレナをも殺しやがった・・・

「あれ?俺はロキから神皇の仕業と・・・」

ダイルさんは目を閉じて言った。

だからこそ、アバジェスがやったんだ・・・」

「・・・・・・」

「ともかく俺はルシファーだけを抱えて逃げてきたから運良く逃げれたんだ。結局生き残ったのは俺とルシファー、そしてロキの三人だけだった・・・今でも頭から離れないよ・・・あの時の自分のふがいなさは・・・」

ダイルさんは残りのお茶を全て飲み干しながら俺に懺悔のように言った。

そして俺はある事に気が付いた。ロキは神皇に殺されたと言った。

「そんな事ないですよ・・・あなたがいなければルシファーも殺されていたでしょう。」

「それだけが唯一の救いだよ・・・フィノリアから逃げた俺達はルシファーを俺の故郷であり、隣町だったこの街に預けてアバジェス討伐の旅に出た・・・幾多ものアバジェスの配下のモンスター達を倒しながら俺達はアバジェスの居場所を探し続け、ロキがようやく奴の居場所を探り当てた。しかし、ロキは俺にルシファーの事を託して奴の居場所に一人で乗り込んだんだ。」

「え?」

アバジェスの直下のモンスター達はそこいらのモンスターとはわけが違う程、強かった・・・しかし、ロキはフィノリアの一件以来、戦い方が変わっていってな、より高度で緻密な戦法をとることが多かった。俺なんかでは歯が立たなかった化け物でもロキは軽々と倒していった・・・そしてロキはこの街に帰ってきて現在に至るわけだ・・・」

「それで皆はロキがアバジェスを倒した事に気付いたんですね・・・?」

「ああ、確かに今ではあんな風におちゃらけているがな・・・あいつの強さは今でも健在だ・・・時々フィノリアの跡地に出かける事もあるしな・・・どうも挙動不審なところがある・・・」

「フィノリアの跡地に・・・」

「あそこには絶対に近づいてはならん。あそこはアバジェスの呪いが残っていて今では誰も近づかない。近づきたがらない・・・ロキは退魔の力が宿っているからなんともないだろうが、一般人が呪いを浴びれば即死だ・・・」

「一体、ロキはそんな所で何をしているんですか?」

「そいつはわからねぇなぁ・・・聞いてもはぐらかされるしな、きっと触れられたくないのだろう。もしかしたらまだエレナの事が忘れられないのかもしれん・・・あんたもこの事はロキには聞かんといてくれ・・・」

「はい・・・分かりました。」

「少し長くなりすぎたな・・・そろそろルシファーが墓参りに行く時間だな、しっかし、ロキが居候を許すなんてな・・・

「え?そんなに珍しいんですか?」

「そりゃあ・・・あいつの親馬鹿っぷりはここいらじゃ有名だからな・・・だから、ここいらの男共もルシファーは永遠のアイドルということにして手を出さないんだ・・・だが昨日の夜、ロキが飲みに来た時にあんたがルシファーを嫁にもらってくれればいいんだがとか言うんだから驚いたよ。よほど気に入られたんだろうなぁ・・・あんたは・・・俺もあんたになら家の娘をやってもいいと思うぜ?家のも候補にいれといてくれよな!家のも結構いけてるだろう?」

「いや、だから俺は結婚してるんですってば・・・」

「む・・・そうか・・・あんたになら嫁がせてもいいと思ったんだけどなぁ〜」

俺は話題を代える事にした。

「後、ロキが弟子をとるのってそんなに珍しいんですか・・・?」

「ああ、今でもここにロキへの紹介を求めてくる奴が絶えないんだ。何せあのアバジェスに打ち勝ったんだからな・・・しかし、ルシファーがいるからあいつはもう暴力事は辞める事にしたんだからな・・・」

「ロキって実は凄い奴なんですね一見ただの飲兵衛にしか見えないんですけど・・・」

「飲兵衛!?あっはっはっはっはっは!ち、違いねぇや!!」

「ですよねぇ!うわっはっはっはっはっ!!」

俺はそうしてルシファーの墓参りに付き合う事にした。

「お母さんのお墓は家の裏の方の森の中にあるんです。」

俺とルシファーは家の裏道を歩いていく、ロキは何故かここには人を近寄らせないらしい・・・クロミエですらもだ・・・故にここに入る事が許されているのはルシファーとダイルさんだけらしい、俺が許されるというのは異例な事だそうだ・・・

「着きましたここですよ。周りを見てください・・・綺麗でしょう?」

「うん・・・綺麗だ・・・本当に・・・」

言われるまでもなく俺はこの周りの景色に目を奪われていた。

あたりは薄いピンク色の花を咲かせた木で囲まれていた。木はあのカフカフの木に似ている。ここの木は何故か動かない。

「これは桜の木と言うんです。毎日咲き続けているんです。お父さんが言うには本当は短く儚い時間しか咲かないみたいなんですけどここの桜は毎日咲き続けているんです。」

「あ、桜で思い出した。」

俺は懐からリコの写真を取り出した。リコの写真を見せてやれる内に見せてやりたかったんだ。それに、彼女が生前のミルフィーだと言うのならきっと気に入ってくれる筈だと思ったからだ。

「この娘はアプリコット・桜葉って言ってミルフィーユの妹なんだ。」

「うわぁ〜かわいいですねぇ・・・」

ルシファーは写真のリコに完全に目を奪われているまさかここまで気に入るとは思わなかった・・・

「こんな優しそうな妹がいるなんてきっとミルフィーユさんは幸せなんでしょうねぇ・・・アプリコット・桜葉さんですかぁ・・・」

「うん、とっても気が利いて何事にも前向きな君やミルフィーユに似ているよ。本当に・・・」

「ううん、私は前向きなんかじゃありません、だってまだお母さんの事を思い出そうとしてるんですから・・・・私、お母さんの事何も覚えて無いんです・・・お母さんは私を産んですぐに病気で亡くなったそうですから・・・

ほら・・・全然前向きじゃないでしょう?私とその人達と比べたらその人達に失礼ですよ。タクトさん。」

ルシファーが「めっ」と人差し指で俺の額を優しく突付いた。何だろう?この胸の痛さは・・・彼女があまりににも似ているからだろうか?

しかし、よく考えればそれはミルフィーにもルシファーにも失礼な事なのかも知れない・・・ルシファーはあくまでまだ友達なのだから・・・俺はそんな自惚れた考えに自己嫌悪を覚えてきた・・・

「ルシファー・・・」

俺は正直にそんな事は無いと言いたかったが、それを言うと彼女がますます傷つくんじゃないかと思ったからだ。

「す、すいません・・・わ、わたし、いっつも突拍子も無いこと言うもんですから、お父さんからは『お前わざとだろう?』なんて言われるぐらいですから気にしないで下さい!

あ、あははははははは・・・!!」

「あ、あははは・・・ルシファーって天然だとか言われた事ない?」

「はい・・・マナによく言われます。『あんたはそれが持ち味なんだから』とか言って・・・って!酷いですよ〜タクトさんまで〜!」

「あははははは!ゴメンゴメン!」

「もう!タクトさんって・・・時々、お父さんみたいに意地悪な時があるんですね!!私・・・少し傷ついちゃいました・・・」

その姿を見せられると、やはり二人が同じに見えてしまう・・・ルシファーは間違いなくの前世のミルフィーなんだけどこれってやっぱり浮気になるのだろうか・・・

「あんまり意地悪な事言うとご飯抜きにしちゃうんだから!!」

「すいません!私タクト・マイヤーズはいかなる処罰も甘んじて受け入れる所存であります!だから・・・」

俺はちんけなプライドをかなぐり捨てて地面に手を突いて・・・

「それだけは堪忍してくださいましぃ!!」

ひたすら謝りたおしたのだった・・・

そして俺達は十字架の墓石へと辿り着いた。お墓は綺麗にされていた・・・毎日ルシファーが掃除しているからだろう・・・しかし、十字架とは・・・本当に“この神界は人間の文化にそっくりだ”・・・ルシファーとお祈り(挨拶)を済ませた俺は尿意を覚えそれとなく墓石の世話をしているルシファーに断りをいれ、用を足しに行く事にした。

「トホホ・・・自己嫌悪〜・・・」

そして、俺がルシファーの元に戻ろうとすると彼女が知らない男と話していた。ルシファーの表情からすると楽しい会話ではないらしい、男は金色の神秘的な刺繍が施された黒いローブと赤のマントを身につけていた。

髪の毛はシルバーピンクの違いだけでルシファーと似ている・・・しかも端正な顔つきをしいて輪郭もルシファーと似ている。しかし、目元はアイツのような赤い仮面で隠されている・・・ってこいつは・・・!?

この男は死神のメシア本人だった。

関係者以外立ち入り禁止の筈のこの森に男がいた。

男はしかもあの死神のメシア。ロキのいう話ではまだルシラフェルになっていないと聞いているが・・・・二人の話し声が段々と聞こえてくる、盗み聞きするのは本意ではないが相手はあの男だからしょうがない・・・

「それはわかっています・・・でも私には・・・冥王様がおっしゃる皆が悪い人には見えないんです・・・」

冥王・・・そうだロキが言っていた・・・今の死神のメシアは冥界の王にして神皇直下の制裁者だと、そして喧嘩など売ったりするなとまで・・・・

「・・・いつまで夢を見ているつもりだお前は、本来は天使長として神皇様に仕えなければならない身でありながら、神皇様の命令を無視してそのような世迷言をまだ言うのか・・・?」

「よ、世迷言ってそんな私は・・・そんなつもりじゃ・・・それに天使長なんて言われても困ります・・・それに・・・私は神皇様が創造主などとは思えません・・・」

「何と無礼な事を・・・それに、この世の者全てが分かり合えるなどという考えのどこが世迷言ではないと言える?神界の暗黒時代・・・貴様も知らぬ訳ではあるまい・・・」

神界の暗黒時代・・・・ダイルさんが教えてくれたアバジェスが一度は沈静化して、そのアバジェスがもう一度引き起こし、ロキが沈静化した戦乱の神界だ。

「お前の父、拳神 狼鬼(ロキ)も最初はお前と同じようにその理想を追い続けて修行を積んでいった。・・・それを正義を守る為と信じてな・・・しかしロキはフィノリア陥落の際に正義などというまやかしを捨て去り、戦いの鬼、いや、復讐の鬼と化した・・・アバジェスの配下の者達をアバジェスについた者なら老若男女を問わずに一人残らず殺した・・・命乞いすら許さずにな・・・

あのロキが老若男女を問わずに殺した?

「お、お父さんはそんな事をする人じゃありません!」

「嘘をつくな、お前はロキの本当の姿を知っている筈だ・・・お前が幼い頃、人売り集団に誘拐されそうになった時にロキは鬼と化して、そいつ等を瞬時に肉塊に変えた事を・・・」

「あ、あれは私を守ろうとして・・・」

ルシファーはロキが戦士である事を知っていたんだ・・・そしてロキには何か秘密があることは俺も薄々気付いていた・・・

「ロキの本当の名前は古牙 亮・・・ロキとはお前の父が復讐の鬼と化してから自身につけた名前だ。己の甘さであり、幻想であった正義を捨て去る為にな・・・お前はその名の由来を知っているか・・・?

“狼鬼”・・・狼のように俊敏で、狙った獲物は逃がさない・・・そしてあのアバジェスの攻撃すら凌いだ鬼のような腕力(攻撃力)と鬼のような肉体(防御力)・・・いいか?ロキは武神でもあり鬼神でもある。だが、決して正義の味方などではない。

「そ、そんなの嘘です!嘘っ!!」

ルシファーが耳を抑え頭を横に振りながら否定する。

「ロキ譲りの石頭だな・・・これは確かに俺が言った事だ・・・欺きに聞こえるのはお前の自由だ・・・しかし・・・お前のその能力は事実だ・・・モンスター共と共感できる能力は人のものではない、それはお前がエレナから黄龍の力の片鱗を受け継いでいるからだ。それ故に、神皇様はお前を天使長・・・もしくは次の神王として迎えようとしているんだぞ・・・?」

「私、天使になんてなりたくありません・・・天使は神皇様の命じた者達を一方的に処分する存在じゃないですか・・・

「当たり前だ。不良品は処分し、より高性能な命のみを残していく・・・それが生きる者の絶対の掟、弱肉強食だ。

「ならば、先代の神王ガイア様は私達の事をあんなに親身なって考えて下さったのに・・・何故、神皇様は不良品などと決め付け処刑にしたのですか!?」

「我々はお前達のいう正義感などで動いているわけではない、より優秀な創造物を創ろうとしているのだ・・・」

そんな考えだから、私は神皇様が信じられないんです!!」

「本当に無礼な奴だな、ならばお前はモンスターと分かり合えるが、他の者達はどうだ?ロキはもっぱら分かり合おうともしないし、クロミエもお前以外の者とは分かり合わないだろう。」

それは違う。俺はクロミエと仲良くなれた!

それに俺の知っているクロミエもそうだ!

「俺が言いたいのはそういうことだ。俺の言った事は現実だ・・・しかし、お前が言っているのは非現実だ・・・目の前の現実も直視しきれない子供の夢でしかないんだよ。

「ゆ、夢を見るのがそんなにいけないんですか・・・!?それに夢では終わらせません!いつかは皆が分かり合える日が来る筈です!!」

「・・・ッ!いい加減にしろ!!この馬鹿女ぁ!!」

「!!」

死神のメシアことハデスの苛立った声にルシファーが体をビクッと膠着させる。

何の確証も無いのに己の夢だけに走るな!創造物にはそれぞれ役目があるんだよ!お前のように自分がやりたいようなだけに動けば誰がそいつの役目を果たす!?誰も食料を作らなくなったら誰が食料を調達するんだ!?

そうやって、辛いからと現実から目を背けるなどと子供じみた真似がいつまでも通用すると思うな!!

・・・ったく・・・いいか・・・お前がこれ以上神皇様に従う気が無いのならお前を制裁しよと命じられている・・・神皇様が制裁しよと命じられれば俺は制裁者としての役目を果たす・・・お前みたいに現実から目を背けずにな・・・そして、神皇様が不良品と決めれば誰であろうが俺は容赦なく制裁する。そう、例え“お前”であろうとな・・・」

「!」

な、何だよ、それ・・・!脅迫じゃないか!しかも言うに事欠いてルシファーを、ミルフィーを欠陥品だって!?

ふざけやがって!!

俺はロキの忠告も無視してに近づいていく・・・

冥王 ハデス?神皇直下の制裁者?

そんなものクソ喰らえだ!!

ルシファーがハデスの殺気に怯えて震えている。奴は本気だ・・・だが、そんな事は俺がさせない“彼女”は俺が守る!!彼女を見捨てるなんてできるわけが無い!!

「ちょっと待てよ・・・!!」

出てきた俺をルシファーは驚いた顔で、は気付いてたと言わんばかりの顔で俺を見た。

「ふ・・・ようやくネズミが姿をあらわしたか・・・」

「タ、タクトさん!駄目です!!この方は神皇様直下の制裁者冥界を統べている冥王ハデス様なんですよ!?」

「・・・・・・」

「分かったのなら去ねい、小僧・・・貴様のようなネズミなど裁く価値も無い・・・」

「・・・ふざけんなよ?誰が退くもんか・・・!お前等みたいな下衆野郎にルシファーを渡せるかよ!!」

「どうやら死にたいらしいな・・・貴様・・・」

 

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