第二章
神界編 3
〜過去の記憶 ロキ 2 後編〜
エレナと分かれた俺はフィノリアから少し離れた場所ににある温泉まで来ていた。大きな木の根元にある温泉だ・・・
時刻は夜の2時・・・誰も入ってこない時間帯を選んで来た。
俺の世界とは違い、ここは基本的に温泉は天然のもので混浴が多いと言う事だった・・・つまりはそういう事だ・・・・只でさえ名前を知られている俺だ・・・これ以上は敵を作りたくは無い。それに俺は風呂が何よりも大好きだった・・・
「ふぅ〜・・・これからどうするかな・・・」
俺はこれからの事を考えていた・・・エレナにリボンを返すのが目的だった、俺ははっきり言って先が見えなかった・・・
こうなりゃ旅の大道芸人でも目指すか?恐怖!狼男!!
「・・・馬鹿か?俺は・・・」
「そんな事無いよ。」
「・・・ッ!!」
しまった・・・俺とした事が・・・気付くのが遅かった・・・
目の前のもやが薄れていくとそこにはエレナがいた。
「「「「・・・・・・・!!!!!!」」」」
というか素っ裸で・・・まぁ・・・風呂だもんな・・・
「って違うだろうがっ!!オイ!?」
「何が違うの?ロキ、入るね・・・」
「お、おう・・・?」
俺は背中を向けて俯いた・・・ったく、こいつは・・・
「ロキって意外と意地悪だよね・・・」
背後から迫る、エレナの声・・・というか少し怒っている?
何だそれ!そっちから入ってきたくせに!俺は被害者だ!!
「逆切れかっ!?」
「え・・・?」
「いや、何にも・・・」
ちゃぽ・・・
しばらく沈黙の時間が流れる・・・しかし、俺はどきどきしっぱなしだ・・・
こんな体験ねぇしよ・・・てか普通はありえないだろう・・・
「さっきの続きだけど私の話を聞かない内に出て行っちゃうなんて酷いよ・・・」
さっきて城での事か・・・?
「そ、そういや何で俺がここにいるって分かったんだよ?」
「それって今、そんなに大事なこと・・・?」
「い、いや、別に・・・」
どうやら火に油を注いでしまったらしい・・・エレナって怒ると怖い人だったんだ・・・
「な、なんで・・・そんなに怒ってるんだよ?」
どうやらそれが龍の逆鱗に触れてしまったらしい。
「そんなの決まってるでしょ!私が何て言おうとしてたか知っているの!?この鈍感!!」
それは何となく気付いていた。だから逃げてきたのだから・・・
てか・・・エ、エレナってこんな娘だったけ!?
「ロキの馬鹿・・・ヒック・・・」
ん?ヒック・・・って?
「もしかして、ここに来る前に酒飲んできた?」
「それが何か悪いの?」
「いえ・・・!」
あ〜〜納得・・・
ちょっと待て・・・エレナってまだ20を過ぎていない筈だ・・・。
「エレナさんまだ20超えてないですよね?」
「花も恥らう18よ。」
それ、未成年飲酒だろう・・・いくら神界でもそれは同じだろう・・・
「そんな事より、何で逃げたのよ?」
エレナの目は俺をジト目で睨んでいる・・・
「そ、それは・・・」
お前とは釣り合わないなんて言ったら・・・殴られそうだな・・・
「泥棒家業してたからなんて言ったらグングニルで突くわよ?」
危うく伝説の黄金の槍で突かれるところでした・・・
てかやはりあなたが持っていたんですね・・・
「んで?どうしてなのよ〜?」
「さっきから?マークが多いッすね・・・」
「ロキが早く言わないからでしょう!?」
・・・ほらね・・・
「ああ、っと・・・」
ここは正直に言うとデッド・エンドを迎えかねない・・・
「いや、ほらさ・・・俺って臭ってたから・・・お風呂に入ってから出直そうと思ったんだよ・・・」
「ふぅ〜ん・・・でもそれなら私の部屋のお風呂を使えばよかっただけじゃないの?」
「いや、仮にも、女の子の部屋でそこまでする訳には・・・」
「でも、私のベッドで一緒に寝てるんだけど?」
・・・心遣いは感謝しますが・・・それって俺のせいか?
ゴツン!
「イテ!」
エレナさんが遂に爆発したようです。
「大体、兄さんと幸せに〜とか言って出て行ったじゃない!!」
「はい、仰る通りでございます・・・」
ゴツン!ゴ!
いててて・・・!コイツ酒癖が悪いな・・・俺なんか酔いすらもしないのに・・・
まぁ、俺の家系は代々酒に強いんだが・・・
「何で私の言う事を最後まで聞かない内に逃げちゃうのよ!私がどれくらい恥ずかしかったか知ってるの!?」
いや・・・今の状況の方が恥ずかしいでしょう?
「もう・・・私をその気にさせといて・・・」
その時、背中に暖かい感触と滑々の太ももらしき感触が・・・!
「ちょ、ちょっと・・・!?」
な、何か立場逆じゃねぇ!?
「狼になって私を襲うんじゃなかったの?」
妖艶な声が俺を挑発します・・・
「いや、だから・・あれは・・じょう・・」
「・・・だんなんて言ったらグングニルで串刺しにするからね・・・」
「・・・・・・」
俺にどうしろと?
「だいたい・・・好き・・で・・もな・・・い・・男に・・・」
ん?何かエレナが体重をかけて来てるような・・・てか・・・このむにょむにょ感は何ざんしょ・・・
「エレナさん・・・?」
あ〜あ・・・のびてるよ・・・
俺はなるべくエレナの裸を見ないように風呂から引き上げ脱衣所へ連れていき・・・服を着させていった。後はこのプレート・メイルを・・・
「あちッ!!」
このプレートメイルだけは本人に着てもらうしかなさそうだ・・・守護の魔法がかかっているからな・・・俺みたいな魔物には触る事すら許さないらしい・・・ちぇ・・・!
俺はエレナの銀色のペンダントを見つけて拾った、どうやらこいつには何もかかってないようだ・・・
俺はそれに彫りこまれたレリーフ(紋章)を見てみた・・・
アバジェスの持っていたものとは紋章が明らかに違っていた・・・
こちらは鳥みたいなものが二匹・・・
こいつもドラゴン・オーブと呼ばれる物なんだろうか・・・?
俺はやっぱりと思っていた・・・そこにはルーンエンジェル隊の紋章が彫られていた。
俺はエレナが目を覚ますのを待ち続けた・・・
「はぁ〜こんな事がアバジェスにしれたら・・・」
俺は背筋が凍るのを感じた・・・
でも、こうして静かに目を閉じていると本当に綺麗な顔つきしてるなって思った・・・もし、こんな娘と・・・酒癖が悪くてもなんか可愛くてしょうがない・・・今まで盗賊業をやっている内は心が冷めていたが今ではこんなにも胸の奥が温かい・・・
間違いない。俺はエレナに惚れている・・・出会った頃から・・・
思いのほかエレナは軽症だったみたいで目を覚ますとぱちくりと俺の顔を見て・・・
「わ!ロ、ロキ!?」
「こんばんは・・・」
「わ、わたしこんなところで何を・・・?」
俺を拷問にかけていたんだよ・・・
「あ、あ・・・わ、わわわ・・わたわた・・・」
状況を理解したらしく・・・エレナの顔がボンと爆発した・・・まぁ、こうなるんじゃないかと思っていたけどな・・・
「あ、あの、もしかして、ロキが着替えさせてくれたの?」
「あ、あ〜・・・」
俺は返事に困っていた・・・まぁ・・・多分エレナは気付いているな・・・
こうなれば、これ以上傷つけないようにフォローしよう。
「この世のものとは思えないほどすべすべな感触で柔らかかった!
後はとっても精巧な人形みたいに綺麗でドキドキした!」
「〜〜〜っ!〜〜っ!!!」
おお!?エレナがりんご飴に・・・今にも倒れそうだぞ・・!?
(お前、馬鹿だろうっ!!)
「エ、エレナ、大丈夫か?」
「そ、そその!他の女の子と比べてどうだった・・・?」
あう・・・何か鼻血が出そうな質問だよじっちゃん・・・
てかそんな事を聞くか!?普通・・・
「他の女なんか知らねぇよ・・・」
これは本当だ・・・エレナ以外の女なんて考えられない。
「あ、今の無し!忘れて・・・」
「善処する・・・」
「ね、ねぇ・・・後・・・私・・・変な事しなかった?」
「いや、別に・・・」
俺はあんたに天国と地獄を見せられました・・・
「そ、そう・・・」
「アバジェスにはここにくるってちゃんと言ってあるのか?」
「・・・実は黙って出てきちゃったの・・・」
ぐあ・・・マジかよ・・・こんな事がばれたら俺、殺されるよ・・・
「なら、送ってあげるから・・・」
「待って!」
エレナが立ち上がろうとした俺の手を掴んだ。
「何だ?アバジェスが心配してると思うぞ?あの熊も・・・」
ちなみに熊とはダイルの事な・・・
「聞いて、私、ロキの事が・・・」
馴れ合いの時間はおしまいだ。
悪い、エレナ・・・俺は既に正義の味方なんかじゃないんだ・・・
「悪い、今の俺には・・・」
「そんなの関係ない!!」
大きいエレナの声に俺はびっくりした。いや、違う・・・
お前今、俺の心の中を読んでいたのか?
「関係無くなんてこれまで多くの人を傷つけてきた・・・」
「それでも私にはロキはロキでしかないもの!」
「エレナ・・・しかし、俺が犯罪者である事には・・・」
「私は貴方を探す時に聞いたわ・・・あなたが盗んだお金を貧しい家に配っていたのを・・・」
「それは所詮、偽善でしかない・・・」
「偽善でも貴方は貴族からは憎まれても一般の人達からは厚い信頼を得ていたのよ赤いハチマキの泥棒さんって・・・」
エレナはポケットから赤いハチマキをとりだした・・・
「アバジェスと一緒に暮らすんだろ?俺に関わると世間の風当たりはきつくなる・・・」
「そんなの気にしないよ!私も兄さんも・・・」
こいつはどうしてそこまで・・・
だからこそ俺に関わらせてはならない。
「俺はもう行くぜ・・・」
「駄目!!」
エレナが細い腕で俺の袖を離さない・・・
振りほどくのは簡単だが・・・
エレナの顔は半泣きだった・・・・いや、もう、泣いている・・・
くそ・・・・運命てやつは残酷だぜ・・・
「泣かないでくれ・・・俺を困らせるな・・・」
「ぐす・・・だって・・・だってぇ・・・・」
俺はエレナの両肩を掴んでエレナの目をじっと見つめた
エレナの顔が気の毒なくらいにくしゃくしゃだ・・・
エレナはそれでも俺の目を見ては離さない・・・
だから、俺は・・・
「俺のもう一つの姿を見ただろう?俺は化け物なんだよ・・・」
「そんなの関係ないよ!!」
「時々、理性がとぶ事がある・・・そうなったら・・・本当の狼になる・・・いや、本当の鬼畜になってしまう・・・」
そう、俺はあの農村での事件以来この化け物と共存している。
「・・・なら、私を好きにしていいよ・・・」
エレナは着ていた服を全て脱いでしまった・・・
「・・・・悪ふざけはよせ!!」
「・・・ッ!ふざけてなんかいないよ!私は・・・・」
エレナが俺の顔を力強く掴んでぐっと近づけさせて・・・
「おい!よせ!!」
「私はロキが一番大好きだから・・・」
口に柔らかくてくすぐったい感触がひろがる・・・
未知の感触・・・
エレナは俺にキスをした。
「・・・ぷは・・・!この馬鹿女!
お前ほどの女ならもっといい男がいるだろうが!!」
「馬鹿はロキのほうだよ!どうして、正直になってくれないの!?・・・あっ!!」
「・・・やはり、俺の心を読んでいたのか・・・」
「・・・ッ!私・・・私・・・最低だよ・・・何て卑怯な事を・・・!」
エレナは俺から飛びのき、一気に荷物を抱え込んで・・・
「本当にごめんなさい!」
俺から逃げようとした・・・泣いたままで・・・
「待てよ・・・」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
エレナは駆け出そうとした。しかし、俺はエレナの腕を掴んで離さなかった・・・
「ロキ!ごめんなさい!!私の事は忘れて・・・!!」
「忘れられるわけねぇだろうがぁっ!!この馬鹿女!!」
「ロ、ロキ・・・」
「やっぱり、俺はなさけねぇ奴だったよ!」
そう言って力いっぱいエレナを抱きしめた・・・
「ロキ・・・やめて・・・私こんな事される資格ない・・・」
「資格!?んなもん関係あるか!」
そう、それは自分に向けて言った言葉でもある・・・
「お前は馬鹿なんかじゃない!俺が馬鹿だったんだ!!」
今度は両手でエレナの頭を俺の肩に抱え込んだ。
「悪いな、エレナ、お前より俺の方がお前を愛している!!
どうだ!大好きよりも愛しているだぞ!?」
「でも、私はあなたの心の中を読んで・・・」
「完全な人間なんているわきゃねぇだろう!!」
「ロキ・・・」
「それに、お前は底が浅い・・・!だから・・・だからなぁ・・・
俺はそんなお前がこの世で一番の女だって思っている!」
「馬鹿・・・本当に馬鹿だよ・・・」
「ああ、だから言っただろうが・・・」
「ううん違う、馬鹿なのは私達・・・」
「ん?はっはっはっ!!ちげぇねぇや!」
「でもね・・・ロキ・・・?」
「あん?何だ?」
「さっきの俺の方がって・・・言っていたけど私の方がもっとロキの事を愛してるんだから・・・」
「なら、勝負といこうぜ・・・!」
「うん・・・ロキ・・・この前言っていたでしょ・・・その・・・狼になって襲いに来たって・・・アレは半分本気だったんでしょう?」
・・・ばれてたか・・・
「その・・・はしたない女だなんて思わないでね・・・」
エレナが裸のまま俺を抱きしめた・・・
あ〜もしかして・・・
「・・・お前が前に誰と付き合っていようが気にしねぇよ・・・恋愛を一回しかしちゃいけないなんてのは男の勝手な妄想さ・・・」
「ち、違うよ!!馬鹿!キ、キスだってロキが始めてなんだからね・・・・」
「・・・んじゃ何だ?お前が実はドラゴンだったとしてもかまいやしねぇよ・・・あっはっはっはっはっは!」
黄龍の秘宝を持っていたから・・・冗談のつもりで言ったつもりなんだが・・エレナが驚い顔で俺を見ている・・・まさか・・・
「ありがとう・・・」
といって抱きしめる力を強めるエレナ・・・てかマジ?
ワ〜オ!!フィ〜〜〜バァ〜〜〜〜!!
「あのな、お前がどんな事を打ち明けても、絶対に幻滅なんてするもんかよ!」
「う、うん・・・ありがとう・・・そ、それでね・・・」
「なんだ?まだ何か告白したい事があるのか?」
「う、うん・・・ロキってこういう事するのって・・その・・・」
「俺だって今までキスすらされた事もねぇよ・・・何だよ?お前はそんな事気にすんのかよ?」
「だ、だって〜・・・ロキってもてそうだから・・・」
上目遣いに俺を不安そうに見つめるエレナ・・・
「馬鹿・・・お前以外の女なんか見やしねぇよ・・・」
お前って意外とヤキモチ焼きだったんだな・・・
「うん、浮気なんかしたら、刺しちゃうんだからね・・・」
ああ・・・血が騒ぎ出す・・・
「エ、エレナ・・・俺・・・もう、我慢できそうにない・・・」
「ロ、ロキ・・・・痛いよ・・・」
今度は俺がエレナを強く抱きしめた・・・
「エレナ、俺をお前の男にしてくれ・・・」
「うん・・・ロキ、私をあなたの女にして・・・」
もはや、互いに言葉は必要なかった・・・
互いの本能の赴くままに・・・
理性には嘘が混じるが、本能には嘘は無い・・・
(そうだ!本能こそが真実の思いだ!)
俺はもはや、つまらない理性になど縛られたりはしない・・・
俺とエレナに危害を加えるのなら神であろうと正義の味方であろうが敵だ・・・敵ならば俺は悪鬼羅刹や修羅にだって化す・・・
(その考えは・・・“あいつ”そのものだった・・・)
翌朝・・・俺達は素っ裸のまま寝ている事に気付いた・・・
どちらが先に寝たのかすらもはっきりと覚えていない・・・
ところが、エレナが足をモジモジさせて・・・
「もう・・・ロキって本当に狼だったんだね・・・私・・・足が上手く動かないよ・・・・ロキのエッチ・・・」
困ったような赤い顔で俺を見て言った・・・
どうやら俺は理性がとんでいたらしい・・・こいうのって、女の方がよく覚えているものなんだろうか?
「しっかし、よく人がこなかったもんだな・・・」
俺達は服を着て温泉の外に出て雑談をしていた・・・
「それは私が結界をかけていたから・・・」
ああ・・・そういや・・・噂ではエレナはアバジェスと同等の魔力を持ていると言われている・・・そういや、昨日・・・ドラゴンでもっていったらこいつ否定しなかったな・・・
「ロキ・・・今から話す事は全て本当の事だからね・・・」
「ああ・・・」
エレナとアバジェスは伝説の神獣 黄龍の化身だと言う・・・
最も、物心がついた時にそれはアバジェスから聞いた話らしいのだが・・・エレナが人の心を読めるのはそのせいらしい・・・所持していた黄龍の秘宝はアバジェスがゴッドハンドにより創ったものらしい、エレナの持つグングニルは俺のエクスカリバーと同じで概念であり、実体はない・・・主に魔力増幅器として使う杖の代わりなのだと・・・
また、アバジェスは竜王、エレナは竜姫と呼ばれ、魔物達の王のような存在だった・・・魔物達は本来、人間を襲うもの達ではない、魔物達を狂わせていたのがアバジェスが退治したあの邪神ルシラフェルだったそうだ・・・その為、二人はルシラフェルの討伐にむかった・・・
冥界の王であったルシラフェルはまさに混沌そのものの神であったそうだ・・・ルシラフェルが滅んだ時にはアバジェス一人で立ち向かっていたのでそれもアバジェスから聞いた話らしいが・・・問題はルシラフェルが本来、死者を選定する立場でありながら一方では神皇直下の制裁者だったことだ・・・
つまりは神皇は人間の味方ではないという事が確実になったという事だ・・・
アバジェスが神王の座を蹴ったのはそれが理由だったらしい・・・
この時から俺は神皇に不信感を持ち始めた・・・
「それで、これからどうするの?」
「う〜ん、取り敢えず大道芸人でも目指すか?」
「・・・本気で言ってるのなら、付き合うけど?」
「ごめんなさい・・・受け狙いだったんです・・・」
「素直でよろしい!えへへへ・・・」
「盗賊業はもう廃業だしな・・・・」
「やる事がないなら一度フィノリアに来たらどうだ?」
「・・・ッ!アバジェス!?」
「に、兄さん!?」
俺達は一緒に飛び上がった!
背後にはいつの間にかアバジェスがいた・・・
まただ・・・こいつの気配だけは本当に感知できなかった・・・
「さぁ、行こうか・・・兄弟・・・」
と言って、アバジェスは俺の手をがっしりと握った・・・どうやら逃がさないとの意思表示だろうか・・・というか俺とエレナの関係はバレバレだったらしい・・・もしかして俺、裁かれちゃうのか?俺たちがフィノリアに帰ってくると城下町はお祭り騒ぎだった。城壁にかけられていた垂れ幕には・・・
祝!! ロキとエレナ姫 結婚おめでとう!!
と書かれていた・・・城に着くまでの間にエレナは嬉しそうに手をブンブンと手を振って皆に挨拶をしていた・・・・俺には野郎からの厳しい視線が突き刺さっていたがおれは自暴自棄寸前でそれどころでは無かった・・・
城に帰り着くと俺は伸びきった髪を切りそろえられてその髭と綺麗さっぱりに剃り落とされた・・・
「ほう、まるで別人じゃねぇか・・・アバジェス・・・お前はどう思う?」
「俺は最初から知っていたさ・・・」
「ロキ、城内の女共がお前の噂で持ちっきりだぜぇ・・・?あのカッコいい人は誰って・・・?よかったなぁ・・・泥棒時代に名前明かして無くて・・・・」
「あ、そう・・・」
「そのそっけない態度は何だ?この野郎♪エレナ一筋てか?」
「ああ、俺は一生、エレナ一筋だ・・・」
「ご馳走様でした・・・」
「さっき、万が一にも浮気したらグングニルで刺すって言っていた・・・」
「・・・・・・」
「・・・頑張れ、ロキ・・・」
「ああ・・・」
そして、翌日、フィノリアで俺とエレナは結婚した・・・
結婚式は二日間も続いた・・・
ちなみにエレナの花嫁姿には絶句した・・・
あの美しい姿は今でも俺の記憶に残っている・・・
何でもエレナは神界一の美女とか言われていたらしい・・・エレナに言わせれば俺の方がかっこいいとか言っていたが・・・正直、自分の容姿がいいなんて考えた事も無かったし・・・
俺にとっては容姿などどうでもいい事だった・・・
ちなみにこの結婚式は今でも最高の結婚式と言われている。
じっちゃん・・・俺の運はやっぱり凄いよ・・・
この世界に迷い込み、農村から盗賊として生きてきて、リボン返しに来たらわずか一週間たらずでこの神界一のお姫様と結婚・・・そう、昔から俺の運の波は激しかった。
(ミルフィーの強運はあんた譲りだったんだな・・・・)
「正確に言えば勝負運だがな・・・」
(・・・ッ!今・・・)
結婚した俺達は隠居生活に入るアバジェスと一緒に暮らす事になった・・・
「ロキ、あっち頼む。」
「イエス。マイマスター・・・」
俺は部屋の間仕切りの線を出してそこにアバジェスが産み出したトネリコという神木を加工した板を壁にしていく・・・
「すまん、実は妹は頑固なんだ・・・」
「いえ、結婚する前から分かっていましたから・・・」
俺達はフィノリア近くにある大きな木の根元に家を建てる事にした・・・面倒くさがりだった俺とアバジェスは彼のゴッドハンドで一気に作ってしまおうと提案したのだが、意外と凝り性だったエレナにグングニルを突きつけられ却下されて・・・現代に至る・・・はぁ〜ぁ〜めんどくせぇ〜
俺達はフィノリアから通い詰めで家の建築に入っている・・・
しかし、アバジェスのゴッドハンドって本当に便利だ・・・
材料を運ぶ必要がないからだ・・・
俺とアバジェスの要領の良さもあり、家は一ヶ月ばかりで完成した・・・
(今のロキの家だ・・・)
この時ばかりはじっちゃんが経営してた大工の見習いやってて本当に良かったと思う。
「やったね!二人共!」
一人で興奮している俺の妻・・・
精魂尽き果てた俺とアバジェスはため息をつくばっかりだった。
「ねぇ、ねぇ!私達の家だよ!」
「そうっすね・・・」
「二人共!感想は!?」
『疲れた。』
見事にハモった俺とアバジェスの正直な感想だった・・・
「もう!二人共、嬉しそうじゃないなぁ〜」
そりゃ、あんた料理当番だけだったからじゃん・・・
まぁ、料理の腕前がイマイチだってことは分かったけどさ・・・
「あ!ロキ、今変な事考えたでしょう!?」
俺を睨みつけるいまいち迫力に欠ける顔・・・しかし、いくらなんでもハイテンションすぎないか・・・?
「っるっせぇなぁ・・・」
「あ、何よ〜?」
「・・・別に・・・」
「すまん、実は妹はわがままなんだ・・・」
「いえ、結婚する前から分かっていましたから・・・」
「何よ〜二人して・・・もう、いいよ!フンだ!!
こうなったら私一人で祝杯しちゃうんだから・・・」
そして、どこに隠してあったのか封を切ってあった酒瓶をとりだし、口元に・・・って・・・もしかして少し飲んでいました!?
『ヤメローーーー!!』
またまた綺麗に俺達の声がハモった時は既に遅かった・・・・
酔っ払いメーターが更に増加したエレナによる俺達二人に対する説教が始まった・・・
「ちょっと〜聞いてんのぉ〜二人共〜〜!!」
「すまん、実は妹は酒に弱いんだ・・・」
「いえ、結婚する前から分かっていましたから・・・」
「ふらりとも〜!きいえんのぉ〜!?」
訳(二人共ー!聞いてんのぉ〜!?)
酔っ払いメーターますます上昇したエレナは呂律すらまわらなくなっていた・・・
俺達はその次の日からその家で暮らす事になった・・・
何日か何もしないで家でくつろいでいた俺にアバジェスがこう話しかけてきた・・・
「ロキ・・・・今、お前は何をしたい?」
「う〜ん・・・」
俺は現状維持と言いたかったが、その為には守れるだけの力が必要だ・・・そう、アバジェスのように・・・しかし、アバジェスはフィノリアの行政から身を引き、ここ毎日の間、製作室に閉じこもって趣味に没頭しているのだから・・・邪魔はしたくないと思ったのだ・・・
アバジェスは既に英雄としての使命を終えていたのだから・・・
しかし、アバジェスは俺の心の中を見透かすようにこう言った・・・
「お前は強くなりたいんだろう?大事な者を守る為に・・・」
「・・・・・・」
「俺に戦い方を教えて欲しいんだろう?」
「・・・俺に戦い方を教えてくれ、アバジェス。」
「・・・分かった、お前を最強の戦士にしてやる。」
「いや、俺は騎士になりたいんだ・・・」
「・・・完全な騎士になる為には完全な戦士にならなければならない・・・何故なら口と気持ちだけでは何も守れない・・・お前はそう思ったから強くなりたいんじゃないのか?」
俺の本心はアバジェス言った通りだったので最強の戦士になる為に最強の騎士に弟子入りする事になった・・・
しかし・・・これが俺の人生を大きく変える事になってしまった。
この龍の兄妹は実はとんでも無い猫かぶりだったのだ・・・
「おら〜後、98回だぞ〜」
「わか・・てっ・・る!」
俺はもうすでに腕立て伏せを602回もしているのだが・・・
アバジェスはとんでもない鬼だった・・・
〜狼牙一閃〜
俺が目を覚ますとそこはロキの家だった・・・
あれ、俺は確かルシファーと・・・
いや、それより、気になった事は
ロキの師匠がアバジェスだったと言う事だ
何故、ダイルさんはその事を黙っているのだろうか・・・
待てよ、ダイルさんはその内、ロキが話すと言っていた・・・
という事はロキが?ロキがこの夢を見せているのか?
それは安直過ぎる考えだろうか?
その時、ドアがノックされロキが入ってきた・・・
「ロキ・・・」
「よう、どうだった?ルシファーの膝枕の感想は?」
「・・・なんで知ってるんだよ?」
「俺が運んできたからに決まってるじゃん。」
ロキはニコニコしながらそう言った。
「何でお前が運んできたんだ?」
「だって、ルシファーとお前が中々帰ってこないから、墓に様子を見に行ったらルシファーがお前を必死に揺すっておこしてるんだもんよ〜お前、俺が蹴っても殴っても起きなかったし・・・」
そんな起こし方をしてたんだな・・・この野郎・・・
「それでお前自分が何日間寝てたか知っているか?」
「ど、どれくらいなんだよ?」
俺は少し背筋が怖くなった・・・・
「今日で丸四日間だ・・・もう、ルシファーは寝ているさ・・・」
「また、心配かけさせちゃったかな?」
「ああ、目を覚ましたらボコボコにするって言ってたぞ。」
「嘘つけ・・・お前じゃあるまいし・・・」
「なぁ・・・タクトよ・・・」
ロキが声のトーンを落として話しかけてきた。
「お前、“あいつ”にミルフィーはルシファーなんだと、言ったそうだな・・・」
やっぱり聞こえていたのか・・・ルシファーにはそうだった・・・今考えればアレは危険な言葉だったのかも知れない・・・やはりさすがのロキも怒っているよな・・・
「しかもルシファーの必死の告白にミルフィーを裏切れないとか言ったそうじゃないか・・・」
「・・・ああ・・・」
例え殴られてもそれだけは曲げられない・・・
「どうしてだ?ルシファーは紛れも無くミルフィーユ・桜葉なんだぞ?」
「ミルフィーだからこそだ・・・俺は“俺の時代にいるルシファー”と誓いを交わしたんだ。もし、今俺が今のミルフィーを好きになれば俺の時代のルシファーを裏切る事になる・・・」
「なるほど・・・正解ではあるな・・・だがな・・・俺の考えは少し、違う・・・俺なら全てのルシファーを愛する・・・」
「な・・・」
今のロキは夢の中で見たロキの考えとはまるで別人のようだった・・・
「タクトよ・・・ルシファーは時の化身だという事を忘れるなよ・・・」
「え?」
「やれやれ・・・・EDENとNEUEの違いは
存在していた時間帯が違うんだという事を知っていたか?」
「な!?」
「何だ?まだ知らなかったのか?ならば今、俺がここで話す事ではないな・・と言いたいんだがな・・・」
ロキはしゃーねぇなぁと頭をぼりぼりとかいている・・・
「教えてくれ!EDENとNEUEは存在していた時間帯が違うというのはどういう事だ!?」
「そのままの意味だ。それよりも今、お前が知らなければならないのはルシファーはこの世に一つしか存在しないんだ・・・分かるか?この意味が・・・?」
「分からないよ・・・」
「つまりは絶対的な者 混沌 始まり 終わり だ・・・・」
「???」
「まぁ、いいさ今の俺に言える事はルシファーがお前を頼ってきたら、その支えになってやれという事だ・・・明日も早朝から修行を始める・・・いいな・・・・」
ロキはそう言ったが俺は寝起きだという事と、ロキの言葉が気になって眠れなかった・・・翌日、ロキは今日はテストだから俺に腕立て伏せを2000回もしろと言ってきた。考えられないほどの回数なのだが、俺は息も切らさずにできるようになっていたのだ・・・
そんないつも通りの修行の中、突如ロキが変わった事を言い出した。
「今日はお前に俺の技を一つだけ伝授してやる・・・だから打ってこい・・・」
ロキが構えて俺はそれに打ち込んでいく・・・以前ならロキの攻撃は全く見えなかった・・・ところが今のロキの攻撃が俺には見えている・・・以前ガードすらできなかった攻撃がガードできるくらい軽く感じるのだ・・・そう、俺は強くなっているのだ・・・寝ていたのにも関わらず・・・
その時、ロキの顔を守っていたガードが初めて開いたので俺はチャンスとばかりに右ストレートを叩き込もうとして・・・その時、ロキの左手の拳が俺の右手の拳にぶつかり・・・俺の左頬に鉄の塊がぶつかり・・・俺の意識が一瞬で無くな・・・
「タクト・・・これが古牙陽輪流 最終奥義 狼牙一閃だ・・・」
「とまぁ・・・ロキとエレナは結婚したんだ・・・」
「エレナってお母さんの名前ですよ。あの、本当にそのロキっていう人はその・・・生前のお父さんじゃないんですか?」
「それは無いさ・・・」
何故ならロキは・・・
俺はその事だけは思い出しまいと頭を振って、次に進む事にした。
しかし、ここからは迂闊に話せる事ではない・・・
「みんな・・・これから話す事は・・・これ以上無い程の地獄そのものだ・・・聞く勇気が無いのなら立ち去ったほうがいい・・・」
「え・・・?」
メンバー達は俺の突然の告白に困惑する・・・
それもそうだろう・・・俺もあんな地獄は見た事も無い・・・
『・・・・・・』
「いいんだね・・・」
誰も出て行かなかったので俺は続ける事にした。
俺とエレナが結婚してから一年・・・俺は師アバジェスの鬼のような特訓を受けさせられたきた・・・・特にきつかったのは腕立て伏せ4000回・・・『腕立て伏せは伏せる時に力がついていくんだ』とかウンチクをたれて俺に毎日やらせた・・・大体、伏さなきゃ腕立てにならないだろうが・・・・まぁ・・・俺が鍛えてくれと頼んだのだから仕方ないのだが・・・夜はエレナ相手にそのまぁ・・なんて言うか狼になっていた・・・毎日エレナからは狼・・・との感想が返ってくるばかりだった・・・意外にもアバジェスは我関せずといった感じで・・・製作室で何かを黙々と作成していた・・・
厳しい時代だったがこの時が一番幸せだった頃だった・・・
ある日、俺とアバジェスの元に信じがたい情報が流れていたのだ・・・邪神 ルシラフェルが戻ってきたと・・・
戻ってきたルシラフェルは制裁の名の下に次々と狂気の殺戮に走っていた・・・アバジェスの修行により強くなっていた俺は、アバジェスと二人でルシラフェルが現われるという場所に赴いていって外れれば、次の場所へと向かい続けた・・・
そして、遂に邪神 ルシラフェルを見つけたのだが・・・
ルシラフェルは禍々しい鎧と仮面をつけたやつだった・・・
ルシラフェルの仮面は目に三日月形の穴が二つずつ・・・口には逆さまの三日月形が一つといった・・・シンプルかつ不気味なにやけ顔の仮面だった・・・ルシラフェルは戦う前にその仮面を外し、その素顔をさらし、俺は絶句したその顔は俺の老夫婦を殺したあの屑のものだったからだ・・・しかし、奴は確かに“俺が殺した”筈なのだが・・・そして、ルシラフェルは何を思ったか・・・その顔を引き裂いてその下にあった本当の顔を見せ付けたのだ・・・俺は今度こそ本当に絶句した・・・
その顔は行方不明になっていた健太のものだったのだ・・・・
俺は健太に説明を求めたが、『助けて』と繰り返すばかりで俺に攻撃を加えてきたのだ・・・健太に戸惑って何もできない俺に代わってアバジェスは果敢に戦い続け・・・
遂にある魔法によりルシラフェル・健太を完全に消し去った。その魔法の名前はオメガ・ブレイクと言っていた・・・
俺はアバジェスを責めようなどとは思わなかった・・・アバジェスは俺を助けてくれたのだから・・・しかし、帰路の途中ずっと何で健太が・・・と考え続けていたのだ・・・しかし、そんな不安を忘れさせてくれる良い出来事が俺達を待っていた・・・
帰り着いた俺達を待っていたのはエレナとダイルだった・・・
エレナの話によると俺との子供が生まれたらしいのだ・・・
俺達は全員で喜んだ・・・
子供は双子の男の子と女の子だった・・・
(あれ?子供はルシファー1人じゃなかったのか?)
ちなみに今俺は映像ではなくロキの語りだけでこの世界を見ている・・・やはりこの夢を見せていたのはロキだったのだ・・・
分かったのなら、黙って聞いてろ・・・
子供が生まれたのはちょうどルシラフェルを倒した日だったのが、少し気味が悪かったが、子供達は俺達によく似ていた・・・
女の子の名前はルシファーという名前にしたこれは俺の世界で堕ちる前の大天使の名前だったからだ・・・
(何故、男の名前を言わない、映像を見せないんだ?ロキ。)
それがエレナとの最後の幸せとも知らずに・・・俺達は幸せの渦にいた・・・エレナは俺以上に子供達を可愛がっていた・・・
ただし一つだけ、不安な事があった・・・それはアバジェスが徐々に元気を失っていった事だ・・・アバジェスは食事すらしなくなりやがては製作室に閉じこもってしまった。
そしてある日、アバジェスは男の子を連れていずこへと消えていった。
そして、俺は悲しみにくれるエレナを笑わせる為に、アバジェスを探しにあちらこちらを旅に出た・・・そして、その途中で俺は何者かに襲撃された・・・
(あ・・・映像が出てきた・・・)
俺を襲撃されたのは夜の森だ・・・そうだ・・・タクト・・・分かるだろう?お前が迷い込んできたあの森さ・・・
俺は・・・森の中を捜索していた・・・そして、出口に引き返そうとした時に何者かが俺に奇襲をかけてきた。そいつは俺に気配を感じさせずに俺の首を狙って、上から襲ってきたのだ・・・俺は間一髪で避けて、すぐさまに__へと姿を変えた・・・しかし・・・その暗殺者は恐ろしく強かった・・・アバジェスの下で修行をしていた俺は強くなっていたのだ。身体的にも技量的にも・・・しかし、その暗殺者はレベル自体が違っていた・・・俺の攻撃は全て読まれていて・・・すぐさまにカウンターの手刀が襲ってくる奴の拳はまさにかまいたちそのもので避けたと思ってもどこかがざっくりと切られているのだ・・・
そして、その独特の動きが一番の曲者だった・・・奴の動きは全て残像がつきまさに幻影だった・・・距離がつかめない為に俺の攻撃は当たらない・・・それに目にも止まらない速さで襲ってくるのだ・・・俺は根性さえあれば戦いぬけられると思っていたが・・・今回はわけが違った・・・あちらの攻撃をかわせずもせず、こちらの攻撃は当たりもしないのだ・・・そして・・・・暗殺者は・・・俺の膝に足を絡ませ自分の足を曲げ俺のバランスを崩してかがみ込んでしまった俺の顎に・・・
必殺のアッパーカットを叩きこんできた・・・
俺の脳天にまで突き抜けてくる衝撃・・・
朦朧とする意識の中で・・・暗殺者の言葉を聞いた。
「阿部陰月流 最終奥義 神威昇天」
(阿部って・・まさか・・・暗殺者の正体って!?)
(それはこれから語ろう・・・)
俺は何者かによって、自宅に帰されていた・・・俺が生死の境目を歩いている間に俺の看病をしていたのはエレナだった・・・そして、俺は意識を取り戻した・・・
「ロキ!?分かる・・・!?私がわかる?」
こくん
顎が完全に砕けていた俺は頭を何とか振って答えた。
「ご、ごめん・・・無理に頷かなくてもいいよ・・・」
それに俺の目は見えない、体もほとんど動かない・・・
夜になりエレナが隣のベットで寝るのを確認すると俺はあの暗殺者の技を解析してみる事にした・・・
神威昇天・・・あの技は自分の体を絡ませ相手を前にかがませ渾身の一発を叩き込む技なのだろう・・・・相手は当然逃げられないし、相手が打つ前にこちらの一撃必殺のアッパーカットを打ち込むこれはまさに前手の拳であり、暗殺者から見ても格闘家から見ても理想的な技だ・・・
格闘家の理想それは一撃必殺・・・鍛え上げた体を100%酷使して、力の入りやすい体勢で放つ事・・・しかし、それは相手に見切られやすい・・・つまりはカウンターをくらってしまうという欠点を持つ・・・それを克服できた者がまさに理想だろう・・・
相手に必ず一撃必殺を叩き込める状況を作り出す事が・・・
それを実現させたのがさっきの技(神威昇天)だろう・・・知らなければあの技は回避できない・・・故に、見せてはならない、使う時は相手を必ず殺せるようにせねばならないのだ・・・強がりかも知れないが・・・それがあの暗殺者のミスだった・・・
もしかしたら相手が俺をわざと見逃したのかもしれない・・・
しかし、これが後の古牙陽輪流と狼牙一閃を編み出す事になったのだ・・・奴が前ならこちらは後でいく・・・あちらが剛で来るのなら俺は柔で対抗する・・・
タクト・・・しかと聞け・・・狼牙一閃とはカウンターなのだ・・・相手の拳を拳で受け止め、相手の遠心力を逆利用し遠心力を稼ぎながらストレートを叩き込むのだ・・・これはこの技を知らない連中には絶対に避けれないライトニング・カウンターなのだ・・・
わかったか?その為に今日まで動体視力と拳・・・そして、相手が上段ストレート出すまでに耐え切れる体を養ったのだ・・・
(ああ・・・これをあいつ(ハデス)に使えと言う事だな?)
そうだ・・・これ以上は自分で精進していくんだな・・・
(待ってくれ!この先を・・・教えてくれないか?)
この先は・・・思い出したくないんだよ・・・
(それでも教えてくれないか・・・?ルシファーの為に・・・)
ルシファーの為・・・?
(ああ・・・この次で・・・最後なんだろう?ルシファーに大いに関係した出来事なんだろう?ダイルさんを使ってまでごまかした・・・)
・・・分かったよ・・・ただし、これから語る事はルシファーには内緒だ。いいな?
(約束する・・・)
分かった・・・
〜最後の記憶 ??〜
*表現がグロテクスなのでご注意下さい。
俺の怪我は少しずつだが回復の傾向にあった・・・黄龍の化身であるエレナとの体液の交換をしていた為、俺の体には黄龍の細胞が形成されつつあったからだ・・・とは言え顎へのダメージは相変わらずで俺は喋る事ができなかった・・・体もまだやっと家の中を歩ける程度だった・・・
そんな療養生活の中で、俺は1歳のルシファーを可愛がるエレナの姿を見て、いつか必ず息子をアバジェスから取り返そうと決意していたんだ・・・しかし、運命の日がやってきた・・・
家に血相を変えたダイルが現われたのだ・・・
そして、ダイルは言った・・・フィノリアをあいつが襲撃していると・・・これを聞いたエレナはフィノリアへ行くだろうと俺はエレナを止めようとしたんだ・・・俺の直感が今のあいつはエレナでも殺すだろうと・・・俺は喋れなかったのでひたすらエレナに向かって首を横に振り続けた・・・エレナは俺の言いたい事が分かったのだろう・・・彼女はにっこりと笑って・・・ダイルに俺を任せて出ていったんだ・・・
いや、あいつはフィノリアに行く直前でルシファーに逢いに行ったんだ・・・半べその顔でルシファーを名残り惜しそうに見つめながら・・・そして、ルシファーに銀のドラゴン・オーブ・・・最高のお守りをルシファーに残して俺にこう言ったんだ・・・
「ルシファーをよろしく・・・」って・・・
自分の事は一切考えずに・・な・・・
そして、エレナは本当にフィノリアに行ってしまった・・・
それがルシファーとエレナの最後の接触だった・・・
あいつは命に代えても息子を救いたかったんだ・・・
その銀のドラゴン・オーブは今でもルシファーが肌身離さず持っている・・・あいつにはアレが唯一残っている・・・は、母親の・・・形見なんだ・・・
(ロキ・・・辛いのならもう、言わなくていい・・・・)
いや、続けるさ・・・しかし、ここからはお前は俺とまた一体となって知ってもらおう・・・
俺はエレナの後を満足に動かない体で追いかけていった・・・ダイルは俺にルシファーは任せろって言って行かせてくれた。
フィノリアの方角には煙とその上に昼の青空に不気味に渦巻いている紫色のオーラが見えていた。・・・俺に焦りが芽生えた・・・少なくともフィノリアが普通の状態ではないと思ったからだ・・・やがて日が暮れていく頃に俺はフィノリアに辿りついた・・・
そこで俺が見たのは地獄絵図だった・・・・最大規模の都市は裏返って最大規模の死の都と化していたのだ・・・まずはこの鼻を破壊せんと言わんばかりの焼ける死体が放つ異臭が地獄の始まりだった・・・
かつてEDENとまで呼ばれたフィノリアは地獄と化したのだ・・・
城下町の中は全てが真っ赤だった・・・それは城下町と死体を焼いている炎のせいだけではない・・・・血だ・・・・あたり一面にぶちまけられた人の血だ・・・・飛びッ散ったピンク色の綺麗な臓器がドンドン黒ずんでいくのがわかる・・・それは城下町の温度が異様な高さにまで上がっていたからだ・・・・壁には人型に焦げた模様もあった・・・
幸いなのかどうかは分からないが城下町には一切、人の声がしなかった・・・・俺は重い体を引きずりながら城を目指した・・・あそこに“あいつ”がいると思ったからだ・・・エレナよりも先に奴に逢い・・・最後の力を振り絞ってでも奴を殺してでもエレナとの接触を止めなければならない・・・
俺は城までの道のりである事に気が付いた・・・
フィノリアを襲撃したのは魔物なんかではない・・・
魔物なんて生易しい者ではない・・・
襲撃したのは__になった俺以上の殺人鬼だ。
俺はひたすら真っ直ぐに城への道を目指す。
一つ目は俺の優れた嗅覚が魔物の残香を発見できなかったからだ・・・二つ目は俺が見てきた死体は尋常ではない殺し方をされていたからだ・・・まず、地面などに転がっている死体は砕けたように一つもまともな部分が無い・・・男なのか女なのかも分からない・・・知ろうとも思わない・・・
この__ですら少し吐き気がしてきた・・・
そして、俺が歩きながら横にあるものが見えてしまう・・・殺人鬼の性格がよく分かる現場だった・・・俺は怖くて近寄れなかった・・・道の両脇にある貴族の塀にある柵には若い綺麗な女ばかりが串刺しにされていた・・・女達は全員その・・・股間から柵を突き刺されて絶命している・・・なんて奴だ・・・何がそこまでお前を駆り立てるんだ・・・
(素晴らしい!実に素晴らしい!これこそ殺し愛だ!!
あの方こそが死神のメシアに相応しい!!)
女達は別に何かで縛られていたわけではないなのに・・・抵抗できずに殺されている・・・奴の魔力にかかれば人間の自由を奪う事など何という事も無いのだろう・・・
女達の苦悶の表情も様々で白目をむいた者・・・生きているかのように目を見開いて死んでいる顔あるいは眼球をほじくりだされた顔・・・それらが全て・・・俺の方を向いている!!
「−−−−!!!」
俺は遂に吐いた。
(弱虫め!理性の皮を被った偽善者め!)
俺はできる限り早足で城に向かう・・・
殺人鬼はこの死体を使ってメッセージを送っていたのだ・・・
“楽には死なせない”と・・・
殺人鬼は俺かエレナのどちらかを待っている・・・
何故なら城への一本道を通る者に自分の芸術(殺人現場)を見せれるだけ見せるかのようにセッティングされていたのだ・・・
フィノリアを襲った者は生き物でさえない・・・本能なんてレベルを超越した化け物だ・・・
(なぁに・・・EDENの奴等がした事に比べれば大した事はないさ・・・火葬してあげただけ感謝してもらわなきゃなぁ・・・)
そして俺は城にようやく辿りついた・・・城の中で見たのは・・・
飛び交っている生首達・・・・中には俺の知っている奴・・・
・・・いや、全員が俺の知っている奴だった・・・
「−−−−−−−−ッ!!!」
俺は閉じられたままの口で殺人鬼の名前を叫んだ・・・
奴は俺を待っていて俺に見せているのだ・・・
そして、そんな地獄を通り過ぎて俺は王の間の通路にまで辿りついた・・・恐らく今は夜になっているだろう・・・通路の両脇にはまだ、無事な肉体・・・恐らくは殺されているのだろうが・・・ならばこれも死体だ・・・俺がその死体達の間を通り抜けようとすると死体達の首が一斉にちぎれてコルクように宙に舞い、首を失った導体がスプリンクラーのようにあたり一面に鮮血を撒き散らす。
それはまさに歓迎のシャンパンのつもりなのだろう・・・
血の放出が終わっても俺はまだ通過しないでいた・・・
直感が告げていたからだ“まだ行くな”と・・・
次の瞬間、スプリンクラーの役目を終えた死体達の体が
風船のように膨れ始めて・・・パンッ!という乾いた音を立てて破裂した・・・そして、地面に転がっていたコルクの生首も一緒に砕けた。あたり一面にピンク色の臓物が撒き散らされた。
それはまさに歓迎のクラッカーのつもりなのだろう・・・
そうして・・・俺は王の間についた・・・
そこには真ん中にはギュスターヴだった肉の塊が散らばっていた
そして、玉座に居座っていた唯一の生存者・・・
つまり・・・殺人鬼を睨んだ・・・
殺人鬼 アバジェスはニヤニヤと俺を見ていった・・・
その表情は常軌を逸した殺人鬼の顔だった・・・
言うまでもない・・・こいつが殺人者だったのだ。
「よく来たな・・・ロキ・・・待っていたよ・・・」
「−−−−−!!」
俺はアバジェスの名前を閉じたままで叫んだ。
「くっくっくっくっ!心配するな“妹”なら返してやる・・・」
そう言うとアバジェスは俺に向かって玉座の後ろに隠していた
“何か”を投げつけた・・・
俺はその何かを見て絶句した・・・
俺の思考は停止・・・いや、等価変換をした・・・
いや、これは悪い夢なんだと思い、現実から逃げようとした。
しかし、認めるしかなかったそれはエレナの亡骸だったのだ。
「−−−!!−−−!!−−−!!−−−!!」
俺は狂ったようにエレナの名前を叫び続けた。
そして、見なければ良かった・・・エレナの胸には穴が開いていて下の地面が丸見えだった・・・俺は・・・大馬鹿だ・・・
俺はエレナの亡骸を抱きしめて泣いた。
人生で初めて泣いた・・・
「−−−ッ!−−!−!!−!!−!」
くぐもったロキの泣き声が王の間に響く・・・
「後2分速ければにエレナを殺す瞬間を見せられたのに残念だよ・・・クックッくっくくっくくっくっくっ!!」
目は熱いから痛いに変わり、激しく震わせた喉が何かが殺してやる・・・飛び出しそうになり飲み込んでしまった喉が殺してやる・・・物凄く苦しくて痛い・・・お前を殺してやる・・・そして、何より胸が苦しくて痛い・・・心拍数がお前を殺してやる・・・上がっているのだ・・・今度はお前を肉の塊にしてやる・・・
(そうだ!リベンジだ!リベンジだ!リベンジ!リベンジ!)
お前が俺に送ったメッセージをお前にそっくりそのまま返してやる・・・!!
お前は楽には死なせない・・・
お前だけは楽に死なせてたまるか!!
俺の血が沸騰するのが分かる・・・体が変わっていき・・・
体が軽くなっていくのが分かる・・・
「あっはっはっはっはぁぁああ!俺を殺す気か?前にアレだけいたぶってあげたというのに、また、俺と殺し愛をしたいというのか!?ふははははははははは!!!!」
(ころしあい・・?待て・・・ロキ・・・まさか、こいつは・・・)
「ふはははは!ひひひひーっひっひっひっひ!あはあはははあはははぎゃーっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
「アアアァァァァバァァァジェェェーーーーエス!!!!」
その時の俺はまさに咆哮を上げた化け物だった。
こいつにどんな事情があったのかなんてその時の俺には聞くなんて考えすら湧かなかった、ただ目の前のアバジェスという存在を何一つ残さずに消してやるという事だけだった・・・その笑い顔を恐怖に変えてやりたかった・・・しかし・・・・
「おお・・・怖い♪」
アバジェスの姿は霧散していった・・・
奴はその場から逃げたんだ・・・
それからは何をしてたのかはよく分からない・・・
多分、俺は周りのものに八つ当たりをしてたと思う・・・
そして、俺はエレナを手厚く葬った・・・たった一人で・・・
(・・・それがあの桜の木の森か・・・)
ああ、もっとも桜の木が咲いたのはまだ、後の話だ・・・
家にはダイルと・・・ルシファーがいた・・・
俺はエレナにルシファーの事を頼まれていたのに・・・アバジェスに復讐する事ばかりに没頭していた・・・俺がこの時に考え付いた対アバジェスの戦法が後の古牙陽輪流だったんだ・・・娘を放ったらかしにしてな・・・
笑っちまうだろう?俺なら笑う・・・・俺はやはり馬鹿だった・・・
・・・完全な言い訳だが、ルシファーの顔を見るとエレナの事を思い出してしまうんだ・・・フィノリアに向かう前のエレナの顔を・・・エレナはな・・・多分自分が殺されるのを予知していたんだと思う・・・だから、最後にルシファーの顔を焼き付けていたんだと思う・・・
あいつは俺の前の奇跡の体現者だったんだからな・・・
(奇跡の体現者?)
ああ・・・これは奴から聞かされて分かった事だ・・・
(誰なんだよ・・・?そいつって・・・)
あいつは・・・いや、いい・・・
(な、なんだよ・・・)
悪いな今は言えそうにない・・・
そして完全に傷の癒えた俺は遂に家を出た・・・
目指すは冥界だ・・・天界へは冥界から入らねばならない
(何でそんな事が分かったんだよ?)
俺はその時、既に奇跡の体現者として因果律に選ばれていたんだ・・・だからこそ完全の体現者であったアバジェスの居所がすぐに分かった・・・いや・・・二つは呼び合うのだ・・・
互いを消す為に・・・因果律の候補者から消す為に・・・
旅の途中ずっと自分を誤魔化す為に言い聞かせていたんだ。
これは復讐ではない制裁だと・・・
俺の世界、地球と言うところで見た映画のセリフさ・・・
天界エリュシュオンに巣くう愚神共を・・・
いいか、アバジェスと天界の奴等は共犯だったんだ・・・
いや、天界は所詮一人の意思で動いていたに過ぎない・・・
もう、分かるだろう?混沌の体現者 神皇 タイラントさ・・・
奴はアバジェスに憑いて狂わせたのさ・・・後で分かった事だった・・・それ故に俺とアバジェスは手順を間違えてしまったんだ・・・混沌を倒す前に決着をつけてしまったんだ・・・
天界に乗り込んだ俺は向かって来る者、向かってこない者かまわずに殺していった・・・目指すは・・・アバジェスが居座る神王の間だ・・・そして、俺は遂にアバジェスを追い詰めて殺し合って俺が生き残ったんだ・・・
そして、俺は制裁されたんだ未来からきた因果律の制裁者にな・・・
(なんだって!?)
奴は神皇の制裁者ではなかった・・・因果律がこの世に送り出した制裁者だ・・・手順を間違えた俺を制裁しにきたんだ・・・そして、持ち前の強運で生き延びた俺は満身創痍でルシファーの所まで辿りついた・・・今更、虫のいい話だがな・・・
アバジェスを倒した俺はもう、自暴自棄の状態でな・・・そんな事はめんどくさかったから・・・その事を言及しようとは思わなかった・・・
それからの俺は酷い荒れようだった・・・アバジェスを倒した英雄だと祝されても俺は家から出なかった・・・近づく者があれば追い返した・・・毎日が酒に入り浸る毎日だった・・・
いや、元々、酒が大好きだったんだがな・・・
(そんなのはとうの昔に知っていたよ・・・)
はいはい・・・そして、そんな俺を救ってくれたのがルシファーだった・・・あいつは荒れている俺に怖がらずに近づいては毎日、俺の頭を撫でてくれたんだ・・・俺が父親だって知っていたのかどうかもわからんがな・・・
・・・だが、俺は序々に元気を取り戻していった・・・
そして、ある日神皇の手下から十二傑集に加わらないかと持ちかけられた・・・十二傑集 ディオニソスとしてな・・・・その役割は酒の管理者だ・・・もちろん唾をかけてお断りしてやった・・・そして、現在に至るって訳だ・・・
さて・・・お前はもう起きてハデスを叩きのめしてくるんだ・・・
終末の日への時は近い・・・
お前はこの世界で神王 アバジェスと・・・
“神皇”を倒すんだ。
ああ、狼牙一閃・・・会得してみせるさ・・・レイとの実戦の中でな・・・俺は陽輪流ではなく俺の戦い方で戦うさ・・・自分で考えて・・・その為の体をお前に養ってもらった。
・・・ありがとう、ロキ・・・
・・・・・・
俺に惚れるなよ。
惚れるか!!