第二章
神界編 4
〜兄と妹〜
俺が、目を覚ますとそこにはルシファーがいた・・・
「タクトさん!?」
「・・・おはよう・・・」
「もう!おはようじゃないですよ!」
「あはは・・・もしかして俺また何日間も眠っていた?」
「はい、三日間も・・・心配したんですから〜!」
「ごめんごめん・・・」
頬を膨らませて怒っているルシファーに俺は苦笑しながら謝った。
よく考えたら彼女は母親似なのかも知れない・・・
ベロベロ〜
「ひゃあ!」
俺の頬を何かが舐めてきて俺はビクっと反応してしまった・・・
ルシファーって意外と大胆な・・・
「ぴ〜♪」
何だ・・・クロミエか・・・
「クロミエも心配してたんですから・・・」
「あ・・あははは、ありがとうクロミエ。」
「駄目ですよ?あんまり心配かけたら。」
「はい・・・善処いたします・・・」
俺はロキの言葉を思い出していた・・・
“俺なら全てのルシファーを愛する”と・・・
「タクトさん?」
そして、ルシファーは一つしか存在しない者だと・・・
そして、あいつは因果律が送ってきた制裁者だった・・・
それはつまり・・・
「タクトさんってばぁ!!」
「おわぁ!!」
えらくご立腹のルシファーに俺は思わずビクッとなってしまった。
「もう・・・タクトさん最近なんか疲れてないですか・・・?」
「いや・・・大丈夫・・・それより腹が減って少しも動けないんだ・・・何か食べさせてくれ・・・」
「・・・任せてください!張り切っちゃいますから!」
俺はルシファーと遅くなった朝ごはんをすませてクロミエとじゃれていた・・・何か忘れてるような気が・・・・
「あ!!」
「ぴ?ぴぎ!」
俺は思わず手に抱いていたクロミエを落としてしまった。
「ぴー!ぴー!!」
これには当然、クロミエが怒って抗議してきた。
「ああ・・・ごめん!ごめん!」
そうだ・・・ロキがいない・・・
「ルシファー!ロキは!?」
「・・・お父さん、昨日の朝から帰ってないんです・・・・まったく・・・もう・・・知らないんだから!」
・・・そうだった・・・終末の日は近い・・・なら、俺はまず・・・
!!
今・・・あいつを感じた・・・
「ルシファー!ごめん!俺ちょっと行ってくる!!」
「え?行ってくるってどこに行ってくるんですか!?ちょっと!タクトさ〜ん!?」
俺は家を飛び出していった・・・
あいつはあそこに今来ている・・・
・・・・この思念は・・・・あいつだ・・・
あいつが冥界に戻る前に・・・
俺がエレナの墓に着くとこの時代の死神のメシアが墓の前にいた。
あいつは俺の目を振り返って見ている・・・
俺もあいつの仮面に隠れた眼を見返す・・・
「小僧・・・生きていたのか・・・お前の魂を選定してやろうと待っていたのに・・・中々こなかったので・・・まさかとは思っていたのだが・・・・」
「ルシファーに謝れよ・・・」
「・・・まだ、そんな事を言っているのか?」
「謝れって言ってるんだよ・・・」
「何故?」
「お前はルシファーの夢をけなした・・・それだけは許してはおけない・・・・」
「夢ねぇ・・・それはあいつだけの願望だろう?」
「だから言ってるんだよ。この馬鹿野郎。」
「・・・小僧・・・そんなに死に急ぎたいか?」
「何も確かめもしない癖に決め付けるなよ・・・お前にルシファーの夢を否定する事なんて許されるのかよ・・・?」
「確かめるまでもないだろう・・・?」
「・・・謝れよ・・・さもないと痛い目を見る・・・」
「ふ、ふふふ!・・・そんなにルシファーに惚れたか?」
「・・・この野郎!」
俺はこいつに殴りかかった。
「ならばナイト気取りのまま死ぬがいい・・・!」
前回喰らったこいつのカウンター陰月流 死穴が今の俺には見える・・・だが、これを拾っても大した遠心力は稼げまい・・・俺は紙一重でかわし、レイの側頭部に右ハイキックを繰り出した。
「何!?」
レイは右手でガードするがそのまま弾き飛ばされた。
ロキの修行を終えた俺は今、こいつを凌駕していた・・・
「・・・貴様ぁ・・・!」
「どうした?」
俺はメシアに指でくいくいと挑発した。
「舐めてんのか!?」
メシアが怒号を発して殴りかかってきた。
メシアの拳は確かに早い・・・
しかし、ロキのと比べればあまりにも見えすぎる・・・
そして、奴は俺の顔面に向けて本気の右ストレートを放ってきた・・・俺の計算どおり、挑発が成功した・・・
俺はメシアの右の拳に90度回転させて左の拳を当てる、こちらにメシアのストレートの力がかかって来るのを感じた直後に俺はその方向に逆らわずに回転させ、渾身の右ストレートをメシアの仮面に向けて叩きこんだ。
バキィィ!!
メシアの仮面は叩き割られメシアは後ろに吹っ飛んでいった・・・
メシアは自分で放ったストレートの遠心力と俺の遠心力で繰り出された俺の鋼の拳を避けられずにくらったのだ・・・そのダメージは計り知れないだろう・・・メシアはぐったりとして動かない・・・恐らくレイは何が起きたのかがよく分からない筈だ・・・
これがロキが言っていた後手の一撃必殺の拳 狼牙一閃だ。
拳を90度回転させたのは拳を守る為だ・・・いかにロキに鍛えられた拳とはいえあまり粗末にしたくはなかったし、こうする事でより大きい遠心力を得る事ができるのだ・・・
ロキの修行は全てこの為だけにあったのかもしれない・・・拳と肉体の強化、そして、メシアの拳を見れるだけの動体視力を・・・
俺はメシアに近づいていく・・・仮面の下に隠れていたのはやはり、ルシファーと同じ顔だった・・・顔が変形してなかったのはさすがは冥王というだけの事はある・・・俺はメシアの胸元に何かペンダントみたいなものを見つけて少し拝借した・・・俺は背筋が凍りついた・・・
それはあのアバジェスが身につけていた金のドラゴン・オーブだった・・・やはり、ムーンエンジェル隊の紋章が彫られている・・・
この事から予想される事は・・・このメシアが・・・アバジェスに連れ去られされたあのロキとエレナの息子・・・
つまりはルシファーの双子の兄という事だ・・・そうか・・こいつはもしかしたらここに墓参りにきてたのかもしれない・・・頭のいいこいつの事だ・・・ルシファーが妹である事に気付いたんだろう・・・そして、ルシファーを案じて自分の考えを押し付けてたのかもしれない・・・
そうだ・・・思い出した・・・俺はこの顔を昔、見ている・・・
そして俺は遊園地でミルフィーと会っている・・・
そしてその出会いをセッティングしたのは・・・
レイ・桜葉・・・
ミルフィーの兄だ・・・
何で俺は忘れていたのだろうか・・・ばぁちゃんからはレイ・桜葉と言う名前を何度も聞いていたのに・・・
「う、嘘・・・」
リコが口を押さえて震えている・・・
「リコ・・・ごめん・・・僕があの人に条件付きで教えてもらったんだ・・・」
「カ、カズヤさん?」
「ゴメン・・・あの人にこの時まで教えるなって言われていたんだ・・・」
他のメンバーもさっきまでの話を聞いて死神のメシアの正体に大方気がついているのか・・・誰も驚いてはいない・・・
「リコ・・・悪いけど聞いてくれ・・・」
俺は死神のメシアの正体を明かす事にした。
「死神のメシアの正体はレイ・桜葉・・・君のお兄さんだ・・・」
「そ、そんな・・・」
「嘘ではありません・・・あの人は皇国軍にも所属していました・・・」
「わ、私にはお姉ちゃんしかいません!レイなんて人は知りません!」
「それはそうでしょう・・・あの人は自分の事を知っていた人の記憶を次々と消していったのですから・・・戸籍もろとも・・・それからあの人はずっとあなた達エンジェル隊を見てきました・・・クロノ・ブレイク・キャノンを始めとした超兵器の数々もあの人が用意したものです・・・」
「それが本当なら・・・どうしてその人はそんな事をしたんですか?」
「リコさん・・・それはあなたに原因があるんです・・・」
「え・・・?」
「あの人が死神のメシアになったのはあなたの為なんです・・・ですが、それを説明するのには、タクトさんの話を最後まで聞かないとならないんです・・・タクトさんお願いします・・・神界の終末の日の事を教えて下さい・・・」
「分かった・・・」
俺は仰向けに倒れていたメシアをずっと見ていた・・・
こいつは辛口な言葉で俺達をサポートしてきたんだ・・・俺は気絶しているメシアが急に可愛い奴だと思えてきた・・・変な意味ではないぞ?・・・こいつは捻くれて口は悪くて、すぐに怒るがそのそこには妹を案じる心があったんだ・・・・
こっちの世界でもこいつはやはりシスコンだったのだ。
「気は済んだか?タクト・マイヤーズ・・・」
俺はどこからとも無く聞こえてきた声にメシアの側から離れた。
そして、メシアの側に何者かが現われた・・・
そいつは全身を黒いローブで顔を隠している為に素性が分からないが・・・全身に漂っている黄金のオーラが俺を威嚇しているように見えてくる・・・目の前に現われた者は只者ではない・・・かつてこれほどまでの威圧感を感じた事はない・・・
「お前は誰だ?」
「私は神王 アバジェスだよ・・・」
「・・・っ!アバジェス!」
俺は反射的に身を構えるこいつはもはや許してはおけない者だ・・・フィノリアを地獄絵図に変えたこいつだけは・・・
「今は止めておけ・・・まだ、その時ではない・・・」
「ふざけるな!お前がした事だけは許せないんだよ!!」
「・・・なるほど・・・ロキがお前に教えたか・・・」
「その喋り方は止めたらどうだ!?神皇!!」
「神皇か・・・お前は勘違いしている・・・何故なら・・」
「そこまでだ・・・アバジェス。」
俺の背後から聞こえてくるロキの声・・・
「ロキか・・・久しいな・・・本当に・・・」
背後から現われたロキはかつての宿敵を睨みつけている。
違う・・・桁が違う!この二人の闘気はさっきの俺やメシアなんかとは比べ物にならないほどだ!!
何故ならロキからも白銀のオーラが発せられているからだ・・・
それに何故かロキは赤いハチマキだけをつけていない。
「今、ここで始める気か・・・?」
「いや、お前との決着をつけるのはこのタクトだ・・・」
アバジェスは俺の方を見てきた・・・
だが、俺はアバジェスから顔を離さない・・・
「ふ、ふふ・・・ロキよ・・・お前は・・・」
「御託はいいからそこの馬鹿を引き連れて帰るがいい・・・」
「オイ!?そいつは・・!」
俺は、そいつはあんたの息子なんだと言おうとしたが・・・
「アバジェス!早くそいつを連れて帰れ!!」
「何でだよ!そいつは・・あんたの・・・!」
「俺の子供はルシファー1人だ・・・」
ロキは俺を射殺すかのような眼で睨んできた。
俺は何も言えなかった・・・ロキは本気だ・・・こいつが息子だと知っていてアバジェスに連れて帰れと本気で言ってる。
「やれやれ・・・」
アバジェスが手を気絶していたメシアにかざすと黄金のオーラがメシアを包み込んでいき、やがてメシアは目を覚ました。
(そうだ・・・黄龍の化身であるアバジェスは治癒の魔法を使う事ができるんだった。)
「・・・ぅ・・・ッ!マスター!?・・・な!?ロキ!?」
目を覚ましたメシアは驚いた顔でアバジェスとロキを見渡した・・・
「申し訳ありません!今すぐにでも・・・!」
メシアは起き上がって俺に構えて戦闘体勢に入るが・・・
「止めておけ・・・この勝負はお預けだ・・・」
「しかし・・・!」
「・・・いいから、俺の言う通りにしてくれ・・・」
「・・・了解しました・・・」
メシアは忌々しげに俺の顔を睨んでいた・・・
「タクト・・・俺達も帰るぞ・・・」
ロキが俺の肩を掴んで言って来たが・・・
「待ってくれ・・・メシア!」
俺にそう呼びかけられたレイは俺を怪訝な表情で見返してきた・・・そう、こいつはまだ、レイ・桜葉になっていないんだ。
「メシア・・・?・・・俺に言っているのか?」
「そうだよ・・・妹は・・・ルシファーは・・・俺がお前の代わりに・・・一生、守ってみせる!!だから・・・お前は・・・もう、彼女の事を心配するな・・・」
「・・・・・・」
メシアは俺を査定するかのように俺を見ている・・・・
「タクト・・・お前・・・」
「ふ・・・私は先に戻るぞ・・・」
やがて・・・アバジェスが消えていった・・・
メシアが背後の墓石の方に振り返った・・・
「メシア!これを返すぜ!」
俺は金のドラゴン・オーブをレイに向けて投げた・・・・
メシアは振り返らずもせずにそれをハシッと掴み取った・・・
「・・・・・・お前の名前は・・・?」
そして、メシアは墓石の方を見たまま俺に聞いてきた・・・
「・・俺は・・・タクト・マイヤーズ!・・・お前のライバルだ!」
「・・・ライバルか・・・タクト・マイヤーズ・・・その名前・・・忘れん・・・」
そう言うとメシアは俺の方に振り向いた。
ルシファーと同じ顔が俺の顔をみている・・・
メシアが今、どんな思いで俺を見ているかは分からない・・・
「・・・・・・タクト・・・さっきの言葉・・・本当だな?」
「ああ!彼女は一生守ってみせる・・・絶対に!!」
メシアは手にした金のペンダントをしばらく見つめていたが・・・すると何を思ったか、メシアは俺に向かってそれを投げてきた。
「お、おい!?」
「・・・・・・」
俺は慌ててそれをキャッチする・・・
「・・・一生じゃない・・・これから永遠にだ・・・そうだろう?」
「・・・永遠に・・・そうだな・・・」
俺は思わずメシアに笑顔で答えてしまった・・・
「お前が死んで何に生まれ変わったとしても・・・お前はあいつを守ってやれ・・・それを・・・繰り返していけ・・・・」
(任せろ!・・・この俺にならそれができる!!)
「逆に言えば例え彼女がどこに行っても・・・俺は彼女を追いかけて彼女を振り向かしてみせる・・・そう言う事だろう?」
「嫌か・・・?」
俺の気持ちを知っていたメシアはわざと俺に意地悪な質問をかけてきた・・・本当にこいつは・・・
「嫌な訳あるか!幸運の女神は俺のものだ!!」
(違う!俺のものだ!お前なんかには渡さない!!)
「ふ、お馬鹿な返答だな・・・ロキ・・・お前もそれでいいのか?」
「・・・ああ・・・」
「タクト」
メシアの顔がロキから俺に向いた。
その顔は若干笑っているように見えた。
「メシア・・・」
「・・・あいつの事はお前に任せたぞ・・・」
そして、メシアは消えていった・・・
俺の手にはあいつから貰った金のドラゴン・オーブが輝いていた。
(・・・ルシラフェル・・・・お前はそれでいいんだな・・・・?)
〜夢が終わる時〜
時刻は夜・・・もうすぐで俺は家に帰りつく・・・
俺は帰りに道に聞いたロキの言葉が忘れられなかった・・・
「もうすぐ終末の日の時が来る・・・」
「その終末の日とは何なんだ?」
「終末の日とは・・・ルシファーとルシラフェルが一つになって初めて使用する事ができる・・・・究極の制裁だ・・・神皇の体内とも言える・・・この神界は全て消滅する・・・」
ちょっと待て!それじゃあルシファーは・・・!
「待ってくれ!俺が使命を果たせば、結末は変わるんじゃないのか!!
「結末は変わるさ・・・絶対にな・・・しかし、終末の日が発動しなければ神皇だけが生き残り、全てが終わるだけだ・・・それでもいいのか?」
「そ、それは・・・」
「お前が使命を果たせば神皇以外の者は救われるんだ・・・」
(それがどんな形であろうとな・・・)
「・・・・・・」
「だから、お前はアバジェスを・・・混沌を倒せ・・・」
「・・・わかった・・・だが、教えてくれ・・・彼女がルシラフェルと一体化すると今の彼女はどうなる・・・?」
「・・・・・・」
「まさか・・・死ぬなんて言わないでくれ!」
「・・・タクト、お前は、その答えを最初から知っていた筈だ。だが、それを直視したくないから俺にその答えを否定して欲しいんじゃないのか?」
「・・・ッ!?」
そう、ロキの言う通り、俺はその答えを知っていた・・・
俺が未練がましくここでの思い出を忘れてほしくないと思っているだけだとという事はわかっている・・・それが、ミルフィーを裏切っているって事だとも分かっている・・・
(は!いつまでも情けない野郎だぜっ!!)
でも!でも!!彼女にここでの俺との思い出を忘れないでほしいのが俺の本心なんだ!!
(それじゃ、我慢のできないガキと同レベルじゃねぇかよ・・・もう、いいからよ・・・後は俺にバトンタッチしてお前は・・・死ね・・・)
「俺は、彼女にここでの思い出を忘れないでほしいと思う。」
「だったら・・・お前が忘れられない思い出をつくってあげればいいじゃねぇか・・・」
「え・・・?」
「じゃあ・・・俺は用事があるからここで少し、お別れだ・・・後、言っておくが終末の日が発動する前には予兆現象が現われる。闇は地下のタルタロスからこの世界を蝕んでいく・・・今度、帰った時に具体的な事を教える・・・」
「・・・わかった・・・」
そう言ってロキは街の方へと歩いていく・・・
もしかしたら、今晩もフィノリアの跡地へ行くのだろうか?
「ああ、一つ言い忘れてたが・・・ルシファーはいつどこに存在しようとお前の恋人だ。それだけは忘れるなよ・・・」
ロキ右手を挙げて今度こそ去っていった・・・
月の天使
ムーンエンジェル
家に帰りつくなり俺は風呂に入った・・・終末の日の予兆現象が始まればロキと同じく天界へ俺はアバジェス・・・いや、混沌の神皇を倒しに行かねばならない・・・
・・・その時にルシファーとの別れの時は来る・・・
俺は風呂に入りながらその事だけを延々と考えていた・・・
もう、夢の時間は終わりなのだ・・・
風呂から上がった俺はベッドで寝る準備に入っていた・・・
月明かりに照らされながら今までの事を整理していた。
まず、事の発端はロキがここに飛ばされたところから始まっている・・・それからエレナとアバジェスとの出会いがあり、
ロキとエレナの間にルシファーとメシア(ルシラフェル)が生まれた・・・
そして復活した邪神ルシラフェルを倒した後でアバジェスがメシアを連れ去った・・・メシアを探していたロキを襲撃したのはおそらくはアバジェスだ。そして、フィノリアが陥落して、エレナさんが命を落とし、ロキは荒れくれてアバジェスに対する執念であの古牙陽輪流を編み出した・・・そして、恐らくはあの狼牙一閃でアバジェスを倒してその帰り際にこちらにきたメシアによって殺され、死人として蘇り、俺を鍛え挙げてくれた。こんなところか・・・
コンコン・・・
その時・・・ドアをノックする音がしてきた・・・
ルシファーだ・・・
俺が飛び出していったのできっと怒っているのだろう・・・
「どうぞ・・・」
ドアが開いてルシファーが入ってくる音がして俺はそちらに振り返った。
「ルシファーどうしたん・・・ッ!?」
ルシファーは何も身につけてなかった・・・
その美しい裸体が月夜に照らされている・・・
胸元を両手で隠しながら顔には赤みがさしていたがその表情は恥じらいというより何かを思いつめたような緊張した表情だった・・・ルシファーに何かがあった・・・
これはただ事じゃない・・・
しかし、俺はその事だけに驚いたわけではない・・・
ルシファーの背中から生えている二枚の白い翼に目を奪われていたんだ・・・
「は、早く服を着てくれ!!」
しかし、俺はすぐに正気に戻り、反対側に寝返りをうつ・・・
「タクトさん・・・私を見て下さい・・・」
今までのルシファーとは違いまるで別人のような暗い声・・・
「お願いです・・・私を見て下さい・・・」
「悪ふざけは止めてくれ!!・・・俺には誓いあった人がいるんだ・・・ルシファーだって知っているだろ!」
「それはミルフィーユ・桜葉さんなんですよね?」
「そうだよ・・・!分かっているのならこんな事は止めてくれ!」
ルシファーの足音が近づいてくる・・・何をする気だ・・・?
「だったら・・・私を見て下さい・・・」
俺は目を瞑り、断固として目を開けないように抵抗する・・・
「タクトさん・・・」
ベッドの軋む音・・・そして頬に走る暖かくやわらかい感触・・・おそらくはルシファーの手だ・・・次の瞬間、俺の意思に反して・・・
「私を見て下さい・・・」
俺の目が強引に開かれた・・・閉じる事が許されない・・・
俺にまたがっているルシファーと俺の頭の左右にルシファーの手が当てられている・・・ルシファーの顔にさっきまでの恥じらいはどこにもありはしない・・・
一体、どうしたんだよ?・・・ルシファー・・・
「私は綺麗ですか・・・?」
・・・いまいちルシファーの意図がわからないが・・・
俺は今の正直な気持ちを伝える事にした・・・
「ああ・・・だけど、今の君は俺の知っているルシファーじゃない。」
「タクトさんの知っているルシファーとはどんな人なんですか?」
「・・・ルシファーは面白くていつも明るくて周りを元気にしてくれるとっても優しい女の子だ・・・でも・・・今のルシファーは何か嫌だよ・・・」
「ふふふ・・・私は本当はこんな女なんですよ?」
「・・・どうしてそんな嘘をつくんだよ・・・」
どうして俺に嫌われるような真似をするんだよ・・・
「タクトさんは今の私は嫌いなんですか?」
「・・・何だよ・・それは!君が嫌われようとしているんじゃないか!!」
「・・・だったら・・・どんな私なら私を抱いてくれるんですか?」
「な・・・なんだって・・・!?」
「どんな私ならタクトさんを私にくれるんですか?」
「・・・ッ!!ふざけるのもいい加減にしろっ!!」
「ふざけてなんかいません・・・」
ルシファーの目が真紅の眼に変わっていく・・・待て・・・この眼は・・・!か、体がまるで言う事を聞いてくれない・・・!!これは眼の力によるものか・・・!?
「ふふふ・・・そうですよ・・・」
「こ、心を読めるのか・・・?」
「タクトさん・・・私が天使だという事を忘れていませんか?」
天使・・・天の使い・・・
「・・・それが何だって言うんだ・・・?」
「天使とは天の使い・・・神皇様の使いという意味なんです・・・」
「・・・・・・」
「タクトさんの知っている天使とは正義の為に戦い、銀河を救っている天使の事ですか?」
「俺の天使はそれでいいんだ・・・!君の言う天使に興味はない・・・!」
待て・・・今、ルシファーは何て言った・・・
「・・・・・・君はやはり未来が見えるのか?」
俺は前々から思っていた事を口に出していた・・・
「ふふふ・・・タクトさんルシファーが未来を司る天使だという事を知ってましたか?」
(フン、それは違う・・・それはお前がクロノ(デザイア)だからだ・・・)
「君は最初から全部知っていたのか・・・?」
「はい・・・さっきまでは神皇様の正体が誰なのかは分かりませんでしたが・・・今なら・・・これから起こる全ての事を私は知ろうと思えば知ることができます・・・」
(・・・貴様がいなければシリウスや俺はいなかったのに・・・よくも・・・)
「ならば、今はどんな未来が見えているんだ・・・?」
「私といやらしい事をしているタクトさんです・・・」
「・・・なんでそこまでして君は・・・!!」
「・・・ふふふ・・・ならば私の未来に逆らえるか試してみましょう・・・」
ルシファーの眼が金色に光ったのが一瞬、見えた・・・
まさか・・・これは・・・魅了の・・・・
「私の体は神界一なんですよ・・・じっくり・・・見て下さい・・・
私の体にどこか不満がありますか?」
俺の目が勝手に動いてルシファーの体の隅々まで見せられる
頼む・・・もう、これ以上・・・
「ふふふ・・・触りたいんでしょう?遠慮しないで下さい・・・安心してくださいタクトさんがここに来る事は分かっていましたから・・・タクトさん以外に触らせた事はないです・・・
だから穢れたところなんてありませんよ・・・」
俺の手が動き、いたるところを触ってその感触を楽しんでいく・・・触る度に理性が侵されていく・・・
これが人と神族の力の差か・・・!?
「タクトさん・・・本能に抗わないでください・・・」
「・・・ッ!?」
その言葉に俺は絶句した・・・
「ずっと私としたかったんでしょう?だったら・・・」
「・・・俺は・・・俺は!・・・未来の君と・・・真剣に・・・なのに・・・こんな・・!」
「!?」
「ど、どうして・・・どうして・・・どうして・・・」
「え・・・?」
さっきまで無表情だったルシファーの眼に涙が・・・
「今の私だといけないんですか!私だってミルフィーユなんです!なのに、どうして!
・・・どうして!私じゃ駄目なんですか!」
「・・・それは・・・」
「・・・ルシファーはいつどこに存在しようとお前の恋人だ。」
ロキの言葉が俺の頭の中に蘇る・・・
そうか・・・彼女はミルフィーユとして過ごしている自分の未来を見てきてたんだ・・・
(当たり前だ・・・ミルフィーの真の名はデザイア・・・運命の三女神のうちの次女だからな・・・)
「ルシファー・・・ゴメン・・・俺がいつまでもつまらない概念に捕われていたから・・・君はそんな芝居をしていたんだろう。」
「・・・芝居?ふふ・・・私が堕天使だって事を忘れているんじゃないんですか?見て下さい・・・私の翼は黒にもなり得るんです・・・」
ルシファーの翼が白から黒になっていく・・・
「そんな事をしても無駄だ・・・さっきから君の体は震えているじゃないか・・・」
「・・・ッ!い、いいじゃないですか!タクトさんは私を抱いて、そして未来に帰ればいいんじゃないですか!」
それで・・・彼女の意図がわかった・・・・
「俺が君とそういう事をしないと俺に何かがあるんだろう?」
「・・・いえ!私がタクトさんに欲情しているだけです!」
仕方ないなぁ・・・本当に頑固なんだから・・・
「俺はもう、何もしないからこの魅了を解いてくれ・・・それをできないのなら俺を殺してくれ。」
「・・・ッ!?」
ルシファーが息を呑んで困惑するのが分かった・・・
「・・・ルシファー・・・本当の事を教えてくれ・・・君が例え神皇の配下だったとしても俺の気持ちは変わらないよ・・・君がミルフィーユだというのなら・・・・」
「あ・・・あぁ・・・」
「それが出来ないのなら俺を殺せッ!!」
「う、う・・・うわぁぁぁぁーーーん!」
ルシファーが俺に泣きついてきた・・・体の自由はもう、取り戻している・・・俺はごめんなさいと連呼するルシファーの頭を撫でてやっていた・・・
ルシファーは真実を話してくれた・・・
あのエレナさんの墓石の前で俺はメシアに一度殺された・・・
俺は間違いなく死んでいた・・・そこで・・・ロキは俺の体に・・・
どこからか仕入れてきた神皇の細胞を俺に移植して俺は生還する事ができた・・・しかし、それは俺も神皇の一部になってしまうという事だ・・・それは例えば神皇が憑依した者を倒した者が神皇の一部なら神皇は今度はその倒した者に憑依する・・・
それがロキの代わりに混沌にとり憑かれた邪神ルシラフェルを倒したアバジェスが狂った原因だった・・・
それを回避する方法は因果律の送り出したルシファーと・・・
「つまりは俺とルシファーがエッチしちゃえば俺は神皇にならないって事?」
「・・・ッ!身も蓋もない言い方は止めてください!!まったく・・・タクトさんってほんっとうにデリカシーが無いんだから・・・」
「そっちが先に誘ってきたんじゃないか・・・」
「う!・・・だ、だって・・・だって・・・」
ルシファーは俺が現代のミルフィー一筋だと言う事を知っていた・・・つまり、俺を普通に誘っても・・・その・・・抱いてくれないと思ったルシファーは持ち前の力で俺に自分を襲わせようとした訳だ・・・
・・ったく・・・本当にこういうところは不器用なんだからなぁ・・・
「んもうっ!知りません!意地悪なタクトさんとはしません!タクトさんの馬鹿!!」
ルシファーはそっぽを向いてしまった・・・
「・・・・・・」
「そ、それに・・・私だって・・・タクトさんを愛しているんです!タクトさんも今の私を愛してくれなきゃ・・・なんか嫌です・・・」
「あ・・・・・・」
そうだ・・・俺はある事を忘れていた・・・ルシファーは・・・
「・・・だから・・・私にもタクトさんとの思い出を下さい・・・」
俺の心を読んでいたルシファーはバツが悪そうに苦笑しながら俺を誘っている・・・
ルシファー・・・君はそんなのでいいのか?
君は自分がこれからどうなるか・・・・知っているんだろ・・・?
君はルシラフェルと一緒になったら・・・
「タクトさん。」
ルシファーが俺を抱きしめて耳元にささやいた。
「私は、タクトさん達が生きている時代でタクトさん達と一緒に暮らしたいと思っているから・・・覚悟をきめたんです・・・だから、さっきはああ言いましたけど、タクトさんは何も気にしないで私と交わって下さい・・・私は始まりと生を司る者ですから・・・そうすれば、私の中には永遠にタクトさんが・・・タクトさんの中には私が永遠に存在する事が出来ますから・・・」
駄目だ・・・俺はこれ以上、我慢できない・・・!!
「・・・そんな事できるかよ!!」
俺の怒声にルシファーがびっくりして俺の顔を見る・・・
そして、苦笑して・・・
「もう、駄目ですよ・・・未来の為にも・・・何としてでも私と・・・してもらいますからね。」
「違う!ルシファー!」
俺はルシファーの肩を抱えてベッドの上で向かい合う。
ルシファーはキョトンとした顔で俺を見ている・・・
月明かりが俺たち二人を照らしている・・・
ルシファーの綺麗な青い目と白い翼その端正で華奢な裸体が
幻想的に俺の脳を刺激している・・・
月明かりに照らされた彼女はまさに
月の天使(ムーンエンジェル)だった・・・
俺とルシファーの目が合う。
「俺は今の君を含めてすべての君を愛し続ける!」
「あ・・・」
「だからルシファー・・・約束して欲しい。」
「は、はい・・・!」
俺達の目はお互いの目を見ている・・・
「まず、ここで抱き合っても、俺の時代でヤキモチを焼かないでくれ・・・」
「はい・・・」
「そして、何があっても俺の事を忘れないでくれ、絶対に!!」
「はい、絶対に忘れません!」
この瞬間、結末は変わった・・・歴史が変わった。
運命の輪の歯車が・・・
「そして、先に謝っておくけど・・・さっきのルシファーに魅了されたせいで俺はかなり興奮している・・・だから、気が済むまでぶっとうしでやる!」
「−−−−!」
ルシファーの顔が爆発した。
「俺を嫌でも忘れられなぐらいに何度も抱く・・・それでもかまわないか・・・?」
「・・・はい・・・」
するとルシファーが指をもじもじとさせて俺を上目遣いに見ながら聞いてきた。
「あの・・・この翼・・・邪魔になりませんか?」
「いや、全然!!むしろあった方がいい!!」
だって物凄くくすぐたくっていいんだもん!
「そ、そうですか・・・すいません・・・わたしこんなの初めてなもので・・・」
「大丈夫、俺も同じだから・・・恥ずかしがる必要は無いさ・・・
俺達は俺達の方法を考えていけばいいんだから・・・」
「そうですね・・・」
それからの事は俺達だけの秘密にさせてもらいたい・・・
「はぁ・・・はぁ・・・もう、ギブ・・・・」
「・・・タクトさんって・・・意外と・・・狼なんですね・・・・」
「・・・そ、そっちこそ・・・かなり・・・」
ルシファーって結構大胆な事を考え・・
パカン!
「イテ!!」
どうやら俺の考えていた事がバレたらしい・・・
「タクトさんのエッチ!!」
・・・・今のは聞かなかった事にしてくれ・・・
俺達は襲ってくる睡魔に逆らわずに眠りにおちた・・・
終末の日までの間は彼女と一緒にいらせてくれ・・・
誰にでもなく願いながら・・・
とここまで話終えるとみんなが顔を赤くして顔を背けていた。
「あ、あれ・・・みんな・・・?」
特にリコは微妙な顔でこっちを見ながら・・・
「タクトさん・・・何かお父さんが移ったような気がします・・・」
「あ、あはは・・・」
どうやら鮮明に話しすぎたみたいだ・・・
次の日から、俺達は終末の日までの時間を惜しむように常に二人で行動した・・・朝ご飯を一緒に作って・・・昼までクロミエと遊び、昼ご飯はダイルさんの家で食べ・・・エレナさんのお墓では何気ない会話で盛り上がって・・・夜はお互いの気が済むまで抱き合っていた・・・それが誤魔化しだったとしても俺達には気にもしなかった・・・
しかし、終末の日は近づいていた・・・
そんなある日・・・
「タクトさん、あ〜ん♪」
「あ〜ん♪」
ルシファーのスプーンでグラタンを頬張る俺・・・
俺とルシファーの関係もかなり甘い物となって来ていた・・・
「えへへ♪ほら、クロミエもあ〜んしてぇ〜」
「ぴ〜♪」
ルシファーはクロミエの口の中にプチトマトを放り込んだ。
クロミエはプチトマトが好物らしい・・・
にしてもこの甘い空間をあいつに見られようものなら・・・
「たっだいまぁぁーーー!!」
いつの間にかロキに見られていた・・・
俺達三人の視線がロキに突き刺さる・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ぴー・・・?」
「あ、ごめんなさい!僕の家かなぁと思ったんですけど・・・」
と言うとロキは身を翻して・・・
「間違えましたーーー!!」
駆け出した!
「お、お父さん!待って!!」
「ロキ!?」
それから俺はレンゲ街のダイルさんの店まで逃げてどこか遠い目をして拗ねていたロキを引っ張り戻してきた・・・
「いや〜久々に帰ってきたら、あんなスゥイィ〜ト空間になっているとはなぁ〜」
俺とルシファーは俯いて顔を赤らめていた・・・
もの凄く恥ずかしい・・・
「何か、まるで新婚夫婦みたいだったな〜♪」
「あ・・・そのお父さん・・・」
ルシファーがおずおずとロキに告白をしようとしていた。
「う〜ん・・・もしかして、二人とも男と女の一線を越えたとか・・・?」
「う゛っ!」
鋭いロキの指摘に俺とルシファーは思わずどもってしまった。
しまった・・・ロキの顔がにやけている・・・
「はっは〜ん・・・こりゃあ孫の顔を見る日も近いな〜・・・」
「な!?」
「だって〜ねぇ〜・・・」
ロキは俺達の背後に視線を当てた。
「うむそうだな・・・」
そこには熊・・・いやダイルさんがいた。
「あんなに純情だったルシファーがねぇ〜・・・」
そして、その隣にはニヤニヤしたマナがいた・・・
「・・・もしかして三人共・・・俺とルシファーの事を見ていたのか?」
「はい、あ〜ん♪」
とマナがジェスチャーでロキに口を開けさせる。
「あ〜ん♪」
そしてそれに答えるロキ・・・
こいつら・・・
「〜〜〜っ・・・」
ルシファーは真っ赤だ・・・俺もおそらくは赤くなっている・・・
「まぁまぁ〜仲良き事は良い事だ〜いや〜今から名前を考えておかないと・・・」
・・・例え師が相手だとしても・・・許せぬ事もある・・・
「お、お前なああぁぁぁーーーー!!」
「お?やる気か?」
俺はロキに掴みかかろうとし・・
「あ、馬鹿・・・」
ダイルの言葉を聞いた時は遅かった・・・
ロキはその手を掴んで一気に一本背負いで俺をぶん投げた。
それから俺が回復するまでに10分の時間を費やした・・・
「それでお父さんはいままで何処に行ってたの!?」
ルシファーの心境を考えれば実にごもっともな意見だ・・・
「う、う〜ん・・・それが・・・また森の中で立ちションして閉じ込められていたなんて言ったら怒るよなぁ〜?」
「はぁ〜・・・」
懲りない父親にため息をついた。
大変だ・・・ルシファーも・・・
「ま、そんなに気を落とすな!」
ルシファーの肩をトントンと叩きながらフォローするロキ・・・
というかお前が諸悪の根源なんだよ!!
お前、絶対に分かっててやってるだろう!?
「まぁいいや・・・それよりもタクト・・・修行に行くぞ。着替えな・・・」
「あ、ああ・・・分かった・・・」
俺とロキはいつもの修行場まで向かった。
「さて・・・今日はお前にあるものを授ける・・・」
「あるもの・・・?」
「お前も知っているだろう・・・俺が昔、使っていた剣を・・・」
「まさか・・・エクスカリバーの事か?」
「ああ・・・」
ロキは軽く頷いた。
「授けるとは言っても使い方を教えるだけだがな・・・」
「?」
「一言で言うな・・・」
「ああ・・・」
「心の中で俺が使っていた剣を使いたいと念じな。」
「は?」
「念じなって言ったんだよ。ほら・・・早くしろ。」
ロキにせかされて俺は頭の中でロキが使っていたあの黄金の剣を思い出してみた。
しかし、何も起きなかった・・・
「・・・お前、ルシファーと交わったんだよな?」
「ブゥッ!」
い、いきなり、何を言うんだ!こいつは・・・
「な、何でお前がそんな事を知ってるんだよ!?」
「俺が何年、ルシファーの父親してると思っているんだよ。それにお前、今自分で墓穴をほったじゃねぇかよ・・・」
「ぐ・・・!」
「おっかしぃな〜・・・」
ロキは腕を組んで真面目な顔をして考え込んでいる・・・
「おい、今度は自分で思い描いた剣を想像してみろ・・・」
「わ、わかった・・・」
俺は今度はさっきとは違い、抽象的にイメージしてみた。細かい事を考えずに・・・
「・・・?」
すると、右手に熱い感触が・・・
「・・・・・・」
そして次の瞬間、右手に光の粒子が収束していき、それが剣の形になっていった。
「な、なな・・・」
「止めるな!出したいと思い続けろ!」
ロキのゲキに俺は集中し続けた。
そして、粒子はやがて黄金の剣となった・・・
ロキの使っていたものとは細部が若干違うが・・・
「できたじゃねぇか・・・それがエクスカリバーだ。」
「こ、これが・・・」
俺は剣をかざしてみる、太陽の光に反射して黄金色の刀身がまばゆく光っていた。
「今度は消えるイメージをしてみな。もしくは命令口調でもいい・・・」
俺が消えろと念じてみると剣は一瞬で霧散した・・・
なんかかっこいい・・・
「・・・よし・・・後は出したり、消したりを繰り返すんだ・・・」
それから俺は40回以上も出したり、消したりを繰り返した。
「まぁ、その辺でいいだろう・・・タクト・・・それはお前の七番機にも互換性があるから、七番機でも同じ様にすればいい・・・」
「ロキ・・・お前は何で紋章機にまで詳しいんだよ・・・」
「当たり前だ・・・紋章機はこの時代に作られたんだからよ・・・」
「な、何?!」
「お前もよく知っているだろう、アルフェシオンとかいう黒い紋章機を・・・」
「ああ・・・」
「アルフェシオンの原型となったものが終末の日にルシラフェルとひとつになったルシファーが乗る紋章機なんだ・・・」
「そんな・・・」
「この未来は変えられないぞ・・・運命だからな・・・」
「なんだよ!こんな運命なんてくそ喰らえだ!」
「気持ちはわかるけど、前にも言っただろう?限られた世界ならば、その中でやっていくしか無いんだよ・・・俺達は・・・」
「ちくしょう・・・ちくしょう・・・!」
こんな運命を受け入れる必要がどこにあるんだよ・・・
「・・・だからこそ、お前は強くなって神皇という運命に抗うんだよ。最後の最後までな・・・」
ロキが上着の黒革のベストを脱ぎ捨てた。
「そこで、今日からは修行の最終段階に入る・・・」
「・・・ああ・・・」
こんな運命受け入れてたまるかよ!
「今回からはお前には目を瞑ってもらって修行をするぞ。」
「え?」
「いくら動体視力をあげても直感も磨かなきゃこれからの敵には勝てないんだよ・・・神皇や死神のメシアは視覚からの情報だけで戦えるレベルなんかじゃないんだ。」
「・・・・・・」
そうだな・・・それは確かに言う通りだ・・・
死神のメシアもはじめに言っていたからな・・・
生き残りたければ直感を磨けと・・・
何故なら、人間が神族に挑もうというのならそれぐらいの差を乗り越えなくちゃあいけないんだ・・・
「よし、来い!」
俺は目を閉じた・・・
ロキの足の音や風の音が聞こえてくる・・・
ポン
ロキはどうやら直感を磨くと言っただけあって、真剣に殴ってはこない・・・
目を閉じて始めて分かった事だが、目を閉じると音に敏感になる・・・当たり前の事だけど、音に恐怖を感じるのだ・・・
「いいか!俺の拳や足の風を斬る音をよぉく聞いておくんだぞ・・・」
ブオン!
こんな何気ない素振りの音さえも、怖く聞こえるものだ・・・
だが、恐怖に負けるようなら死神のメシアに勝てる筈が無い・・・
俺はロキの打撃を何発か喰らいながらも、着実に音を聞き分けてスウェーを上手く使って回避していった・・・
そして、家に帰りついた時はルシファーとクロミエと二人っきりで留守番をしていた。
「あ、おかえりなさい。」
ルシファーがクロミエを抱えて出迎えてくれた。
「かぁ〜!わかってねぇなぁ〜!ルシファーは〜・・・
『お帰りなさいあ・な・た』だろうが!」
「え、えぇ・・・その・・・」
ルシファーは困ったように顔を赤らめて俺の方に向き直って・・・
「お、おおかえ、りなさいい・・あ、あ、あ、あ。」
「顔なしか?お前はあ、あって・・・」
お前は黙っていろ・・・ルシファーは真剣そのものなんだぞ・・・
ルシファーは大きく息を吸い込んで、こっちを真剣に見詰めて・・・
「お、おかえりなさい!あなた!」
最後は少し声が変になったけど、彼女は勇気を出して言ってくれた。
「うん・・・ただいま・・・ルシファー・・・」
だから俺も誠意をもって応えたと言っても俺はいつも通りなんだけどな・・・
「ところでルシファーよぉ〜ダイル達は帰ったのか?」
お前、ルシファーに強制的にさせて感想は無しか・・・?
「うん。お店があるからって帰って行ったよ。」
「そうか・・・よし、俺はダイルの所に飲みに行ってくる。」
「え?夜ご飯はどうするの?」
「いや、いらねぇや。お前とタクトの新婚生活を邪魔したくねぇしなぁ〜」
またしてもロキの顔はにやけている・・・
「もう!お父さんの馬鹿!!」
「はっはっはっ!そうだ、お前達今度から家に帰ってきたらアレをやるんだぞ。」
「アレって何だよ?」
「もちこういうのだ・・・」
ロキがドアのところまで行ってこっちに振り返った。どうやら帰ってきた俺を演じているようだ・・・ここからはロキの一人芝居なのでご了承してほしい・・・
「ただいま〜ルシファー・・・」
「おかえりなさい!あ・な・た(ハート)」
「ふぅ〜疲れた〜」
「あなた、お風呂にする?お食事にする・・・それとも・・・わ・た・し?」
「わ・た・しぃぃ〜!」
「あんっ!疲れてるのに駄目よ〜」
「ふっふっふっ!この燃え滾る愛の力で体の疲れなどふっとん・・」
バキィ!!
俺のストレートがロキの顔に入った。
「ってぇなぁ・・・!」
「いいから早くダイルさんの所に行け!この馬鹿!」
それから夕飯を済ませた俺は風呂に入ることにした。
「テテ・・・肩が思ったように動かないな・・・」
ロキとの修行が過酷だったせいか、肩が痛くて上手く上げれない・・・
何せ、4時間もぶっとうしで動いたのだから、無理も無い事だった・・・
ガララ・・・ピシャ!
「うん?」
誰かが入ってきたみたいだ・・・まさか・・・
「タクトさん背中を流しますね〜♪」
「ル、ルシファー!何をやっているの!?」
「だって、タクトさん食事の時、肩が痛そうで手が上手く動いてなかったみたいですから・・・私がこうして背中を流しにきたんです。ついでに私も一緒にお風呂に入りますけどかまいませんよね?」
大いにかまうよ!
そりゃあ確かに恥ずかしがる間柄では無くなったけどそれはいくらなんでも大胆すぎるのでは?さすがは親子かな・・・こんな突拍子の無い所は似ている・・・
「ほらほら〜背中をこっちに向けてくださいね〜♪」
結局俺はその好意に甘える事にした・・・
こんな馬鹿な事でさえもうすぐ出来なくなるのだから・・・
ルシファーがしたいと思った事なら俺が出来る範囲で叶えてやりたいと思ったのだ。
「うわ〜タクトさん、見た目通り、本当に硬い体してますね〜」
ルシファーは感嘆のため息をつきながら言った・・・
「・・・・・・」
そして、それは俺も同じ事を思っていた・・・鏡に映っている俺の体はもう以前とは比べものにならないほどに変わっていた。筋肉が無駄無くついている・・・ロキと同じで戦士の体付きだ。
だが、それは見栄えの為では無い・・・この世界で生き残る為に進化したんだ・・・
この世界は弱肉強食だから・・・
風呂から出た俺達はルシファーの部屋のベランダから夜空を眺めていた。
宇宙という概念が無いこの世界に夜があるのは謎だが・・・
事実、こうやって綺麗な星空が広がっている・・・って!
「ルシファー・・・これが星空だよ・・・」
「え!?そうだったんですか!?」
「あはは・・・約束は叶えられたね・・・」
「嬉しいです!」
「え?」
「だって!夢が果たせたんですよ!?タクトさんと星空を見るって夢が!」
彼女はこんな些細な事にでも喜んでくれる・・・
俺にはそれがこの上なく嬉しかった・・・
そしてそんな彼女の姿を見るのが、この上なく悲しかった・・・
大喜びのルシファーに対して俺の心境は複雑だ・・・
もうすぐ終末の日が来るのだ・・・
神界が終わる日が・・・
それから俺はいつものようにロキとの修行に励み、修行の後にはダイルさんの店で何でも無いような話題で盛り上がっていた・・・
修行は辛かったけど、俺にとってはこの時期が一番楽しかった。
そう、かつてのロキのようにね・・・
そしてそんな感じで時はたって、5ヵ月後・・・
ついに終末の日が来た。