第二章
〜桜葉家の人々〜
これは俺の記憶か・・・?
家のドアをあけると懐かしい光景が蘇ってきた・・・
この家を離れてからどれぐらいの年月が過ぎただろうか・・・スリッパを履いてリビングへ行くとそこにはエレナとどこかで見かけたガキがいた・・・
「お兄ちゃん・・・?」
そのガキは俺を見渡している・・・
「お兄ちゃーーん♪」
俺に飛び掛ってくるガキ・・・は、速えぇ・・・
「うお!?」
「お帰りなさ〜い!!」
俺の首根っこに抱きついてくるピンク色の髪のガキ・・・頭には花飾りをつけている・・・ていうかそのガキは妹のミルフィーユだった・・・馬鹿女は見違えるぐらい成長していた・・・子供は成長が速いと言うが・・・それは本当だった・・・
「く、くるしい・・・離せっ!!」
俺は引き剥がそうとするがこの馬鹿女は意地でも離れないように抱きついている・・・
「あらあら・・・よっぽど嬉しいのね・・・」
と言いつつほろリと涙を流すフリをする猫かぶりの鬼婆ことエレナ・・・
「うわ!?」
イデッ!俺の頭に何か棒のようなもので殴られたような激痛が・・・
「今、何か言わなかったレイ?」
「別に・・・」
そのおかげで馬鹿女も離れたので結果オーライという事にした・・・
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、お土産は?」
「ねぇよ・・・そんなもん・・・」
「えぇ〜!」
「甲斐性無し・・・」
お前にだけはその言葉を言われたく無い・・・デッ!
今度はスネに・・・以下同文・・・
「もう・・・おにいちゃんって・・・ん?」
だれかが馬鹿女の後ろに隠れているみたいだ・・・
「・・・・・」
そいつはミルフィーの腰元から顔だけをのぞかせ俺をジッとみている・・・
「何だ?そのガキは?」
「・・・・」
ガキはさっと顔を隠してしまった・・・・・・・喧嘩売ってんのか・・・?
「あ、お兄ちゃん言い忘れてたけどこの子は私達の妹のリコ。
アプリコットって言うのかわいいでしょ♪」
ガキがまた顔をひょいと現した・・・まぁ・・・馬鹿女の面影はあるが・・・
ちなみに子供の頃は誰でも可愛いと言われるのを知らないのか・・・
「・・・妹?・・・アプリコット・・・?」
「お前・・・俺の話聞いてなかっただろう?」
後ろにはいつの間にかロキが立っていた・・・
ロキが現われるとアプリコットとか呼ばれたガキは馬鹿女の後ろに隠れてしまった・・・もしかしてクソ親父がきたからか?
にしても・・・アプリコット・・・杏・・・呼びにくい名前だなオイ・・・
名付け親はおそらく、エレナだろう・・・
どうせ、馬鹿女と同じく杏が関係したデザートからとったんだろうが・・・
ちなみに桜葉家では辛いものと大の辛党(酒好き)が俺とロキ・・・そして大の甘党がエレナと馬鹿女だ・・・
「・・・もう少し真面目に名前を考えてやれ・・・」
「失礼な事を言わないで直感をフル稼働で考えたのよ?」
直感で名前を決めるな・・・・
まぁ・・・三分もかからなかった名前よりかはマシか・・・
「ほら、リコ・・・お兄ちゃんに自己紹介をして・・・」
馬鹿女が後ろに隠れている妹を促す・・・そして、妹がおずおずと俺に近づいてくる。
「リコ、ほらってば♪」
リコ・・・?あ、あぁ・・・ニックネームか・・・
この時の俺は正直このリコが苦手だった・・・
「・・・・・・」
「・・・チッ!」
お互いに黙ったまま見つめあってしまう・・・俺はこの時、リコに何か共感めいたものを感じていた・・・本能的な部分で・・・馬鹿女とは違う・・・共感を・・・このガキは一体、何者だ?
・・・って言うよりこのガキ気のせいかぶるぶる震えているような?
「・・・・・・」
「・・・・ぅぅ・・・」
何か・・・気のせいかこのガキ、泣く寸前に見えるんだが・・・?
「・・・・・・?」
「・・・・ッ!」
何とガキは馬鹿女にしがみついて・・・
「う・・うわぁぁぁ〜ん!」
泣き出してしまったった・・・えぇーー・・・ってな、何でぇっ!?
「ああ〜なーかした、なーかしたせーんせいに言ってやろう♪」
「最低ね・・・兄失格ね・・・この甲斐性無し・・・」
だからお前に言われる筋合いは無い!!
「俺のせいかよ!?しかも俺に先生なんていねぇよ!!」
「何?・・・俺はお前の先生では無かったのか・・・?レイよ・・・」
今度はマスターがショックを受けたようによろめいた・・・
・・・って・・・ああ!?し、しまった!!
「あ!?い、いえ!違います!さっきのは言葉のアヤです!」
「・・・・」
「マ、マスター・・・怒ってます・・・?」
「いや・・・別に・・・全然これぽっちも・・・紙屑ほども気にしてなんかいないぞ・・・」
怒っている・・・かなり気にしてる・・・やばい・・・
「お〜よしよし・・・可哀想になぁ・・・」
ロキがリコを慰めようと頭を撫でた瞬間!
「い、いやあぁぁぁぁーーーー!!」
ブオン!!
「う、うおぉぉーーーーーーー!?」
拳神とまで言われたロキがいとも簡単に吹っ飛ばされていた。
こ、このガキは一体、な、何者だ!?・・・それはそうと・・・
「何のこれしき!」
ロキは空中で体勢を直すと綺麗に着地をしようとしている・・・
そして俺はロキの着地地点にバナナの皮をセットした。
この間、わずか0,5秒なり・・・
「う、うお!?」
ロキは見事に滑り着地に失敗して床に激突した・・・
てかお前・・・“うお”を二回連続だからな・・・
「見事な手際だったぞ・・・!」
「は!お褒めの言葉、恐悦至極であります!」
褒め称える師匠に跪いて礼をする弟子・・・
「て、てめぇら・・・」
それを憎々しげに睨みつける桜葉家の当主にして拳神 狼鬼。
「自業自得よ・・・あれほどリコには触らないでって言ってたのに。」
エレナは泣いて怯えているリコの頭を撫でながらロキを非難していた。
「いや・・・そうは言っても愛娘が泣いているのを黙って見ておくのは父親としてだなぁ・・・」
鬼婆に必死で弁解している隙にマスターが俺に耳打ちしてきた・・・
「レイよ・・・リコにも俺たち同様に龍の逆鱗というものがある・・・」
「なるほどリコの場合は男が触る事ですか・・・」
マスターをいれた俺達、桜葉家の者達には龍の逆鱗というものがある・・・簡単に言えばある条件を満たせば桜葉家の者は信じられないほどの力を得る・・・
当主のロキの狼鬼化などもその一つだ・・・
血の濃い竜王のマスターは剣を手放すと・・・そして同様にその妹の竜姫・・・いや鬼婆は怒った時に・・・
そして馬鹿女は○を飲んだ時に・・・イヤだ・・・思い出したくない・・・
そして次女のリコは男に触れられるとその逆鱗に触れる事になる・・・
男はその逆鱗の力をある程度コントロールできるが女は自分で押さえつけることができない・・・
ちなみに俺の逆鱗だけは今だに分からない・・・俺も桜葉家の血を引いているだけなのだが・・・
「よしよし・・・」
いつの間にかリコは馬鹿女にしがみついていて馬鹿女がリコを慰めていた・・・
俺は成長した馬鹿女に少し感心していた・・・ちゃんと俺との約束を守っているんだなと・・・妹ができた時は今度はお前が面倒をみてやれという約束を・・・
「俺は毎年リコの誕生日にはプレゼントをしてたんだぞ?イカしてて痺れて興奮するものをな・・・」
お前は毎年、この五歳児のガキに何を渡してきたんだよ・・・
「あのムカデDXは手作りの自信作なんだぞ?あそこまでリアルに仕上げるのに俺がどれだけ苦労したと・・・」
「そんな物騒な物を毎年、送るなぁっ!!」
「やかましい!お前には俺の心てのがわからねぇんだよ!!」
「お前の心だと・・・?」
そんなくだらないもんどうでもいいんだが・・・
「この燃えたぎる俺の魂が!!」
ようするにお前が面白いからなんだな・・・
はっきり言おう。お前に父親を名乗る資格は絶対に無い・・・
とにかく俺の帰省を祝って・・・いや、歓迎会か?・・・料理があまり得意では無い鬼婆に代わり、炊事をしてきた馬鹿女の手料理を振舞われる事になった・・・というか馬鹿女が是非にと言う事でだ・・・俺は食事があまり好きでは無いのだが、馬鹿女の五年間の努力の成果を特別に見てやろうと思ったのだが・・・
「・・・・・・んで、何故メインがケーキなんだ?」
「おいしいから♪」
「答えになってねぇんだよ!!この馬鹿!!どこに夕飯がケーキになる家庭があるんだよ!?」
「ここ♪」
「あ、ミルフィー上手い♪」
・・・喧嘩売ってんのかコラ?いや・・・絶対に売ってるよな・・・
後、今のどこが上手いと言うんだよ・・・?
「上等だ・・・表に出ろ・・・」
俺が馬鹿女の襟首を掴もうとすると・・・
「まぁ・・・待て・・・」
マスターが俺の腕を取って、制止した。離して下さい・・・
その馬鹿女は今日こそ殺します・・・。
「折角、ミルフィーがお前の為に作ってくれたんだ。ここは大人しく食べてやれ・・・これは命令だ・・・」
「・・・わ、わかりました・・・」
馬鹿女が作ったケーキはただの苺のショートケーキだ。一番簡単なケーキの一つだが、小学四年生にしては上出来だろう・・・
「はい、お兄ちゃん、あ〜んしてぇ♪」
「・・・・・・」
お前があ〜んしろ俺の拳を味合わせてやる・・・
「レイ・・・」
マスターの目が無言の命令を発しているのがわかる・・・「食え」って・・・
ああ、もう!!わかりましたよ!やりゃあいいんでしょうが・・・!!
「あ、あ〜ん・・・」
パク!
「あ!?」
俺は恥ずかしさのあまり目を閉じて待っている・・・ああ・・・こんな姿をタクトに見られたら、俺は死ぬ・・・
「・・・・・?」
いつまでたってもケーキが放り込まれてこないので俺は目を開けた・・・
するとそこには・・・!!(怪談風で)
馬鹿女のスプーンに魚のように食いついているリコの姿があった・・・
「ちょ、ちょっと?リコ・・・!?」
おいおい・・・下品で野性的で有名なロキですら少し引いているぞ・・・
「お姉ちゃんのケーキは渡さないもん・・・んぐんぐ・・・」
頼まれなくてもくれてやるから、せめて食い終わってから喋れ・・・
「・・・ああ〜・・・おいしいか・・・?」
「うん・・・」
結局俺は自分の手で食べることが出来た・・・不幸中の幸いか?
「・・・・・・」
「どう?どう?」
馬鹿女が俺の顔を覗き込むように聞いてきた。
「・・・スーパーに並べてもかまわないだろ・・・」
「え〜、何それ〜」
馬鹿女は不満そうに顔を膨らませたが、知った事かバーカ・・・
「ははは!レイはそれで褒めているつもりなんだよ・・・」
「いえ・・・けなしているんです・・・」
「ほん・・・とうに!ひねくれているわね・・・あんたは・・・」
その後はロキが酒を取り出して、マスターと乱闘寸前になり、馬鹿女が酒を飲みかけて・・・これを俺が全力で阻止して、俺は今に風呂に入っている・・・酒と風呂だけが俺の生きがいと言えるかもしれない・・・唯一の俺の生きがいだろう・・・
俺は元々、魂すら持たない無そのものだった・・・そんな俺が突如、魂を持ち、その保存庫の肉体を持ち、感触というものを知り、欲望という概念が俺の中に生まれた・・・
その為にシャトヤーン達を傷つけてしまった・・・
正直に言えばあの馬鹿女は俺にとっては憎い敵だ・・・
欲望に負けた俺が一番悪いのは知っている・・・だが、その起因を作った者達を許せないのも正直な気持ちだ・・・俺は一体これからどうすればいいんだ・・・?
もはや、欲望に負けた俺には騎士の資格は無い・・・マスターはかつて騎士の資格を無くした時、ロキに討たれて自分を消そうとした・・・そして、ロキもタクトに討たれて自分を消そうとした・・・ならば・・・俺も・・・
俺は人の業(カルマ)そのものだからだ・・・
(くっくっくっ・・・お前は本当にそう思っていたのか・・・)
人の業は人が生き続ける限り、存在し続ける・・・そして、俺も生き続ける・・・まさに終わりの無い、運命の輪だ・・・
ならば・・・俺は・・・俺は・・・これから一体・・・どうすれば・・・いい・・・
今は一時的に奴は活動を停止しているが、いずれ奴は活動を再開するだろう・・・そうなれば俺はまた・・・
死ぬ事も許されず、俺は生き恥をさらして生きていかなければならないのか?俺にとって死は救いだ・・・そして人にとっても死は欠かせないものでもある筈だ・・・死があるからこそ今を大事に生きようとする・・・死があるからこそ人はとてつもない恐怖に挑む事ができる・・・死ねば痛みも苦しみも考える事からも解放されるのだからな・・・
戦争を知らない、貧困を知らない真の苦しみを知らぬ者達はそれを世捨て人とさげずむだろう・・・だが、真の苦しみを知った者達は死を絶望だとは思わない筈だ・・・
終わりなき死こそが真の希望であり
終わりのある生こそが真の絶望なのだ。
因果律はとある役目の為にこの俺を創造した。
俺の役目はこの世界に終末をもたらす事だった・・・
終わりがあるからこそ人は今を大事に生きようとする・・・しかし、それは同時に人にこの世を過大に美化してしまう、過酷な現実を誤魔化してしまう・・・終わりがあるからこそ人はとてつもない恐怖に挑む事ができる・・・しかし、それは同時に勝ち目の無い戦いを挑む蛮勇を生み出す事になる・・・
人は、有限の世界で無限の可能性を求めて進み続けるのだ・・・
かつてのEDENのジュノーは外宇宙からのアクセスを受け、舞い上がって外宇宙との接触を試みた・・・何とも浅ましい事か・・・
俺が敢えて外宇宙のヴァル・ファスクを生かしてあるのはEDENの民が話し合いの余地が無い敵を前にどう抗うのかを観察する為だ・・・話が通用しない敵が現われれば人は戦わざるを得ない・・・それが俺からのメッセージだ・・・“戦わぬ者に生きる資格は無い”と・・・ふ、ふふ・・・なら今の俺はどうなんだ?
戦わずしてこの世に留まる事は許されない・・・
ならば、俺は・・・
「・・・・ッ!?」
俺は突如背後に気配を感じて振り返った。ここまで気付かないとは俺も随分と堕ちたものだ・・・ってぇぇぇぇぇえええええええーーーーー!!!
ガラ!
「う、うああああぁぁぁぁーーーー!!!!?」
な、なんとそこには馬鹿女とリコがぁっ!?ど、どうしてぇーーー!?
ばっしゃーーーん!!ゴン!!
俺は思わず、浴槽の中でひっくり返った・・・後、頭ぶつけた・・・ってぇ・・
「私たちも入るね〜♪」
「・・・・・・」
そんな俺の状況も知らずに体を洗い始める妹達・・・ってかこんな状況をロキやマスターに見られたら・・・
俺は目を瞑って少しイメージしてみた・・・・・・
「このけだものめ!退治してやる!!」
お前に言われたくない・・・
「レイ・・・」
な、なんですか?マスター・・・?
「・・・・もはや、お前に言う事は何もない・・・」
ってそれはどっちの意味でですか!?
「・・・変態・・・」
プス!
そして、鬼婆(エレナ)にグングニルで俺は刺される・・・
カポーン・・・
「・・・・・・・でよう・・・」
俺はこの状況化でおそらく最善の行動を取ったと思う・・・
「あれ?お兄ちゃんどこに行くの?」
「・・・出るんだよ・・・」
お前のせいでな・・・
ガララ・・・・
俺が風呂から出るとそこには何故かロキの奴が待ち構えていた。
「ありゃ?随分と速いんだな・・・」
そうか・・・お前か・・・お前の仕業か・・・
・・・・・・・風呂上りの戦闘もまた一興だな・・・
俺は素早く着替え終わると同時にロキに上段回し蹴りを放った。
「うおっと!?」
ロキは身を屈めてその蹴りをかわした。
「何しやがる!?」
それは俺のセリフだ・・・!俺はそのまま一気にラッシュをかけた。
「ほう・・・!」
普通の人間なら最初の一撃であの世行き決定だが、このロキはかつて神々をその体で討伐してきた拳神だ。こちらの攻撃をスウェーを使って上手くかわしていく・・・
「ち・・・!」
「アタァ!!」
ドゴォッ!!
俺の鳩尾に上手くロキの突き上げアッパーがめり込んだ。
陽輪流 新巻鮭・・・この技名は本気らしい・・・そこ、笑ってもいいぞ・・・
「ぐは!」
間抜けな技名はともかく俺は体の自由が利かなくなっていくのを感じた・・・このロキ、腕力だけは物凄いのだ・・・ああ・・・馬鹿の特権だったな・・・
「ふぅ・・・さて・・・」
ロキは突然何を思ったか、俺の服を脱がせ始めた。
「な、なにし・・や・・・がる・・・!」
「大人しくしろ・・・!」
いや、してるし・・・お前・・・そっちの気があったのか!?
「ロキ、何もたついているのよ!」
そして、何故か夕食の片付けをしていた筈の鬼婆も現われた・・って・・・
「テメェも・・・共・・・犯・・・か・・・!?」
「失礼な事を言わないで頂戴、私は同志よ!」
同じだ!この野郎・・・!
この共犯者こと鬼婆は身動き取れない俺の下着をずり下げながら恐ろしい事実を告げた。
「この為にわざわざ兄さんに食器洗い代わってもらったんだから・・・」
・・・ってことはマスターも共犯か・・・マスター・・・恨みます・・・
「よし・・・ロキ、窓を。」
「ラジャー!」
ロキが風呂場へのガラスばりのドアを開け放ち、エレナが全裸にした俺を風呂場に放り込んだ。
ドテ!
「きゃ!って・・・お、お兄ちゃん!?どうしたの・・・!?」
リコの髪を洗っていた馬鹿女が俺を驚いて見ている・・・てかもしかしてお前が首謀者じゃないだろうな・・・?
「こいつ、さっき転んでしまってな、体が動かないそうなんだ。だから、お前らが代わりに体を洗ってやれ。」
「病院に連れて行かなくて大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫、風呂上がったら湿布を用意しておくから・・・」
「大丈夫じゃねぇーーーー!!!!」
「お兄ちゃん本当に大丈夫・・・?」
馬鹿女は心配そうに俺を見詰めて近寄ってくる・・・
「わ、わわ・・・!ち、近寄るなぁっ!!う、うわわわわわ・・!!!」
こ、この馬鹿女・・・小学生の癖に・・・プロポーションだけは・・・
「・・・ってちがぁーーーーーう!!」
「もう、動いちゃぁ駄目だってば・・・!」
「だったら、近寄るんじゃねぇっ!!」
「もう、子供みたいな事言わないで。」
お前に言われたくねぇ〜・・・その台詞だけはお前に言われたくねぇ〜・・・
「ほら、リコも手伝って。」
「・・・うん・・・」
「・・・・ッ!!」
俺は目を閉じた。
そんな俺の気も知らずに馬鹿女は俺の体を抱え起こした・・・こいつ意外と力持ちなのか・・・?
「?どうして、目を瞑っているの?」
「・・・テメェは恥ずかしくはないのか・・・?」
「え?それは他の人だったら恥ずかしいけど、お兄ちゃんだもん♪」
「答えになってねぇーーー!!!」
「・・・・・・」
リコにはまだ、羞恥心というものが育って無いのか、意味をはかりかねているようだ。
そして、俺はそれからこの馬鹿姉妹のおもちゃにされた・・・
一部始終を少し、公開すると
「うわぁ〜♪お兄ちゃんって肌が綺麗〜〜♪」
とか・・・
「・・・腕が固い・・・」
とか・・・
「うわぁ〜こんなに細いのに体はがっちりしてるんだ〜!」
とか・・・これ以上は勘弁してくれ・・・マジで・・・
今のリコがこの事を思い出したら・・・想像もできない事態になるだろう・・・記憶消しといてよかった〜
俺は結局、体が動かないとの理由でこの馬鹿姉妹と一緒に寝る羽目になった・・・正直、体が動かない事と全く関係無いことだと思うんだが・・・
「それでね、クラスのお友達達からお兄ちゃんへのラブレターをいっぱい貰ってるんだよ。」
「あ、そう・・・」
俺は寝る事すら許されず、馬鹿女の相手をさせられていた・・・
ちなみにリコはぐっすりと眠っている・・・うらやましい・・・
「もう!お兄ちゃんってば嬉しくないの!?」
「興味ねぇよ・・・」
これは正直な意見だ・・・俺は人間の創造主だ・・・今更、愛情概念など持ちたいとも思わない・・・はっきり言って同姓にも異性にも興味がないのだ・・・さ、さっきのは・・・身近の存在であるい、妹だったので思わず取り乱してしまっただけだ・・・
「もしかして、お兄ちゃん・・・好きな人が出来たの?」
「・・・いや・・・」
一瞬、シャトヤーンの顔が頭をよぎるが、俺は女に興味は無い・・・人間は本能的に異性に惹かれるが、俺は人間では無い・・・俺は神だ・・・本能とは人間の祖である生前の馬鹿女から受け継がれている概念だからだ・・・
「そうなんだ〜えへへへ・・・♪」
何、嬉しそうにしているんだかこの馬鹿女は・・・
こいつが俺に抱いている感情は親愛だ・・・恋愛などではない・・・こいつは昔からそうだった・・・何かと俺にかまってくる・・・正直、うざったい・・・
あん?代わって欲しけりゃ代わってやるよ、タクト。むしろ早く代われ・・・
そして、俺は久々に眠りについた・・・
殺せ・・・殺せ・・・
俺は突如目を覚ました・・・何か体の感覚がおかしい・・・体が俺の意思とは別に動いているのがわかる・・・この感覚はシャトヤーンの時と似ている・・・ま、まさか・・・
「−−−!」
俺はロキとアバジェスに知らせようとしたが声は出ない・・・さすがは慎重派の因果律・・・やる事に抜かりが無い・・・
そう、俺にとり憑依してシャトヤーンを襲ったのは神皇ではない・・・
こいつは馬鹿女を排除しようとしているのだ・・・
何故なら、絶対を真の絶対にさせないものが奇跡だからだ・・・
この馬鹿女が作り出した新しい概念だからだ・・・
運命に仇すものそれは奇跡・・・
因果律にとって生前の馬鹿女ことデザイアは脅威だったのだ・・・
そして、このデザイアに協力して裏切ったこの俺もまた、危険因子の一つなのだ・・・
殺せ・・・殺せ・・・
神皇とは違い、目的だけを命じる超越者・・・単純な命令だけに暗示力は強い・・・抵抗しようとしてもまるで意味を成さない・・・
「・・・く・・・!」
俺は最後の抵抗をしている。声だけでも取り戻せれば、馬鹿女を起こすか、救援を呼べると思ったからだ・・・相手は絶対者なのだ・・・これで手一杯なのだ・・・シャトヤーンは傷つけるだけで許したが、デザイアだけは生かしてはおけないらしい・・・ある意味、超越者らしくもなく、超越者らしいとも言える・・・
このままでは俺は馬鹿女を殺してしまう!くそったれが・・・!!
その時だった・・・俺の背中に何かが抱きついてきたのだ。
そして、次の瞬間俺の体の自由は元に戻った・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・」
馬鹿女は自分が殺されそうになった事も気付かずにすやすやと眠っている・・・そして俺は、背後を振り返った・・・そこには・・・
「・・・ダメ・・・お姉ちゃんにいじわるしちゃ、ダメ・・・・」
リコの顔があった・・・ベットの上なのでこいつは俺の背中に抱きついたのだろう・・・
「・・・お前は・・・一体・・・」
リコが抱きついて俺の体の自由が戻ったと考えるのが妥当だろう・・・しかし、それではこの女は俺にも知らない力を持っている事になる・・・この俺の手が加わっていない唯一の人間・・・それがこのアプリコット・桜葉だった・・・
「これをあげるから・・・」
リコはどこからか取り出した飴玉を俺に手渡した。
その飴は綺麗なオレンジ色の飴だった・・・
「・・・・・・」
「宝物の飴をあげるからお姉ちゃんをいじめないで・・・」
俺は本来、食事をしない・・・何故なら、この体に余計な情報を仕入れない為だ・・・食事をすれば新しい欲望“食欲”が生まれるからだ・・・
俺は元々、“無”そのものなのだから・・・
“有”はこの馬鹿女だけで十分なのだ・・・
だが・・・俺はこの少女がとてつもなく可愛く思えてしょうがなかった・・・だからその飴を受け取る事にした・・・少女 リコは姉を助けようと俺にしがみついたのだ・・・あれほど、怖がっていた俺相手に臆する事無く、この馬鹿女を庇ったのだ・・・
「お前は優しいな・・・」
「・・・ッ!」
俺はリコの頭を優しく撫でた・・・リコは一瞬ビクと身を固めるが、直に慣れて今は俺のなすがままに頭を撫でられている・・・俺がこんな事を自発的にやるのはこれが初めてだろう・・・馬鹿女にでさえ慰める時にしかしてやった事は無い・・・
「・・・お姉ちゃんをイジメめないで・・・」
「ああ・・・わかっている・・・だからもう、安心して寝るんだ。」
「・・・うん・・・」
リコの笑顔を初めて見た気がする・・・子供らしい愛くるしい笑顔だ・・・
俺に対しての警戒心を少し和らげたという事か・・・?
この時のリコの笑顔を俺は忘れないだろう・・・感情というものにさほど関心が無かった俺を惹きつけたのはリコだった・・・
俺は馬鹿女にしがみついてすやすやと眠っているリコの寝顔を見て、これからの道を見つけたような気がする・・・
この娘だけは何としてでも守ってみせると誓いながら眠りについた。
この日は夢を見らずに済んだ・・・俺にとっては悪夢も普通の夢も同意義だからだ・・・夢は己の願望を映す鏡でもあるからだ・・・俺は希望というものを知りたくないのだ・・・毎回リセットされるこの世界に未練を残さない為にも・・・
翌朝、俺が目を覚ますと腹の上に馬鹿女がしがみついて眠っていて、その馬鹿女の背中にはリコがしがみついて眠っていた。まるでコアラの親子だなと俺は思った・・・
普段なら、叩き起こすところだが、今回はリコがいる・・・俺は二人をそっとベットに寝かして台所に向かう事にした・・・
ここ、桜葉家の人間は朝にめっぽう弱い・・・マスターだけが朝にはめっぽう強い・・・
俺が台所に行くとそこにはマスターがエプロンをつけてキャベツを切り刻んでいた・・・相変わらず、マスターの刃捌きは完璧だ・・・
「おはようございます・・・マスター・・・」
「ああ、おはよう・・・レイ・・・」
俺やマスターは神である為、本来食事など必要ないのだが、ロキのメシは強くなる為の一歩だという言葉により、ここにいる間は仕方なく食事をしていたのだ・・・
「マスター・・・自分が代わります・・・」
「かまわんさ・・・こうやって包丁を使いながら俺は集中力を養っているんだ・・・見ろキャベツを0・02ミリ厚く切ってしまう・・・俺も堕ちたものだ・・・」
「0・02ミリは確かに厚いですね・・・」
「ああ・・・まったくだよ・・・最近はデスクワークだけだったからな・・・」
俺やマスターの目測は0.00001ミリの世界なのだ・・・故に、紋章機での戦闘時には大いに役に立つ・・・っと、昨日の事を報告しなければ・・・
「・・・マスター・・・昨夜俺はあの馬鹿女を殺そうとしました・・・」
「・・・・・・」
マスターが包丁を止めて、こちらを振り返った。表情は至って真面目だ。報告の内容だけを聞き、対応だけを速やかに考える王者たる顔だ・・・
マスターは元々、神々を統べていた神王だったのだ・・・どんなに人間みたいに生活していても羽目を外しすぎない・・・俺は本当にマスターは凄いと思う・・・マスターは感情を完全に殺しきれるのだ・・・
「シャトヤーンの時と同じでした・・・俺は・・・何も出来ませんでした・・・」
正直に言っても許される事では無いのはわかっている。しかし、俺は正直に報告しなければならない・・・マスターはずっと俺をサポートしてきてくれている味方なのだ・・・
「・・・お前がミルフィーを殺そうとした事は知っていた・・・」
「・・・なっ!?」
「すまん・・・しかし、俺は確信していた。お前は絶対にミルフィーは殺せないとな・・・」
「い、一体何を根拠にそのような事を言われるのですか・・・?」
「リコがいたからだ・・・」
「・・・・・・」
「その様子だともう気付いたようだな・・・リコには黄龍の血が濃く流れている・・・エレナから遺伝したものだろう・・・リコはいかなる野生の生き物を手なづける力を持っている・・・そして、意識レベルの近い人間を癒す力を持っている・・・まさに・・・真の天使だよ・・・あの娘はな・・・」
「天使・・・ですか・・・」
天使・・・俺がもっとも嫌う奴等だ・・・あいつの手下共だからだ・・・
そして、俺はそいつに背いた悪魔だからだ・・・
「やはり天使が嫌いか・・・しかし、リコの名前には意味があるんだよ・・・桜の亜種・・・杏(アプリコット)・・・その花言葉はお前も知っているだろう・・・?疑惑、遠慮、気後れ、慎み深さ、乙女のはにかみ・・・」
俺はマスターの言葉を聞きながら昨日のリコの笑顔を思い出していた。魅惑の女神とも言われた馬鹿女にさえ魅了されなかった俺を魅了したあの笑顔・・・そうか・・・・
「そして・・・誘惑ですね・・・」
「そうだ・・・ミルフィーの力も受け継いでいるんだ・・・ルシファーの魅惑の力をな・・・」
「正直、理屈ではわかりませんでした・・・ただの子供なのに・・・俺にあの笑顔が焼きついて消えません・・・こんなのは初めてです・・・」
「完全の体現者ですらも魅了するか・・・さすがはロキの娘だな・・・」
「・・・リコに抱いているこの感情は異性に対する色欲とは別のものです・・・俺はリコの為なら、なんでもしてあげたいと思っているんです。俺は異状です・・・完全の体現者が人間・・・いや・・・天使に惹かれるなど・・・あってはならないミスです・・・」
「ふふふ・・・レイよ・・・お前は正常だよ・・・お前がリコに抱いている感情はミルフィーに抱いているものと同じものだ・・・」
「あの馬鹿女と同じものですと・・・?」
「それは“親愛”・・・家族の絆だよ・・・お前がミルフィーを心配するのも親愛の一つの現われ方で、お前がリコを笑わせたいと思うのも親愛の現われの一つなんだよ・・・」
「ば、馬鹿な・・・それではまるっきし俺は人間ではないですか!?」
「ああ・・・体は神でも、その心は人間と同じものだ・・・お前が、デザイアから与えられたものだ・・・」
「デザイア・・・」
「レイよ・・・もう少し、ミルフィーにも素直になったらどうだ?あの娘はお前を心の底から愛している・・・・」
「何を馬鹿な事を・・・タクトがいるではありませんか・・・」
「確かにな・・・しかし、タクトは最愛の男としてだ・・・お前はそれと対等に位置している最愛の兄としてだ・・・ミルフィーは一生、お前とタクトを対等に愛していくだろう。」
「・・・迷惑です・・・」
「ははは!本当に素直じゃないなぁ・・・そこら辺はエレナに似ている。」
「い、妹はリコだけで十分です・・・」
「嘘をつくな・・・朝のうちに杏のミルフィーユを作ろうと考えていただろう?パイ生地と杏の仕込みは終わっている・・・久しぶりに作ってみろ、大事な二人の妹の為にな。」
「・・・マスターには叶いませんね・・・」
俺の心を完全に読んでいる・・・
「俺は杏の紅茶の仕込みをしてくる・・・三日前から杏を仕込んでおいたんだ・・・そろそろいい乾きぐわいだと思う・・・」
そう言って、マスターは台所を後にした・・・マスターの事だ・・・偶然ではなく三日前から俺が帰ってくるのを読んでいたのだろう・・・本当にマスターにだけは頭が上がらないな・・・
「・・・ありがとうございます・・・マスター・・・」
俺は部屋の温度が上がらないうちにクリームを用意する事にした・・・
ミルフィーユは低温度が命だからな・・・
俺はそれからしばらくあいつの事を忘れるように桜葉家の一員として暮らしていった・・・馬鹿女とリコがいつも傍にいて、俺は馬鹿女が学校に行っている間にリコと遊んでいた・・・
リコが傍にいる限り、俺は神皇にはならない。
俺はそんな生活がいつまでも続くと思っていた・・・
ところがリコが六才になった時にそれは起こった・・・
「リコ・・・君は誘拐されたんだ・・・外宇宙の連中とつるんでいた十二傑集の一人ヘルメスとブラウド財閥によって・・・」
「え・・・?」
「そして、それがレイの逆鱗に触れる事になった。」
「リコー!リコーーーっ!!」
俺は街の至る所を探し回った・・・
「レイ!」
ロキが切羽詰った表情で駆け寄ってきた。
「あっちは駄目だ!こっちにもいないか!?」
「いない!クソオォーっ!!」
レイは近くの外壁に拳を叩きつけた。外壁は粉々に砕けた。
その時、レイにアバジェスから通信が入ってきた。
「レイ!誘拐犯が分かったぞ!」
「誰ですか!」
「ヘルメスだ!おそらく外宇宙にリコを渡す気だ!!高速戦艦が一隻行方がわかっていない・・・」
「ヘルメス・・・」
「あの泥棒野郎め!」
その時、俺の頭の中は焼き切れた。
「マスター・・・リコは取り戻します・・・」
「おい!何をするつもりだ!?」
そう言うと俺は相転移した。
俺の紋章機の元へと・・・
俺の紋章機 GRA-000 通称 アルフェシオンは黒き月の最深部に隠してある・・・
黒き月は本来この為だけにあったのだが、今では神皇のいいように改造されているが・・・とはいえいかに神皇といえどもこのアルフェシオンには手を出さない・・・何故ならば神皇自身がこのアルフェシオンの強さを身をもって知っているからだ・・・
「ただいま・・・アルフェシオン・・・」
WELCOME HOME・・・LUCHIRAFELU
俺の認証が終わりインフィニが起動する・・・
「アルフェシオン・・・今の俺にはリコを探知できない・・・だから、頼む・・・俺の代わりに・・・」
アルフェシオンは瞬時にリコを感知してドライブ・アウトの準備に入った。
「アルフェシオン・・・出る!」
そして黒い紋章機はアプリコットの救出に向かった。
ここは絶対領域 ABUSOLUTE・・・
そして今はこの無人の中をヘルメスの艦隊が巡航中だった・・・
護衛はほとんどが高速艦で旗艦であるヘルメスの船も高速艦だ。
ヘルメスは十二傑衆の生き残りの一人でゼウスに媚を売る泥棒である・・・ヘルメスは外宇宙からの使者と会う為にここまできたのだ・・・
40才ぐらいの小柄な男は戦利品をなめずるように見ていた。
「大人しくしていな・・・小娘・・・」
彼の傍らにはアプリコットが拘束されていた。
「・・・!・・・!・・・!!」
猿ぐつわをかませられている為に彼女はただ呻きながら泣く事しかできない。
「その小娘はさっきから何て言っているのだ・・・うるさくて仕方ない・・・」
「お姉ちゃん、助けてって言ってるのよ・・・」
「ふん・・・下らん・・・」
「まったく・・・神皇様も私にこんな小娘を誘拐しろとはどういう事かしらね〜」
リコを拘束したのはこの外見は美しい知恵と策略の女神 アテナである。
もちろん、彼女も十二傑衆の生き残りの一人である・・・
「分からぬ・・・ただミカエル様がこの娘を指名したのならば、献上するだけだ。」
「ふふ・・・でも大丈夫かしら、何せこの子の兄はあの伝説の死神よ。あの神皇様ですらまるで歯が立たなかった、神でもあり、悪魔でもある者よ。少なくともこの軍勢では勝てないわよ?」
「心配は要らぬ、ミカエル様の部隊は計66もの宇宙の混合部隊だ。それに今のやつはすでに半分に分かれており、その半身はただの小娘に転生して眠りにつき、残る半身も今は廃人同然の男だ・・・」
「廃人・・・ねぇ・・・私が見た時はもう少し、生き生きしてたと思うけど・・・」
「万が一生き生きしていても神皇様の命令には逆らえないさ・・・」
「・・・ふふ・・・にしてもミカエル様も趣味が変わったわね。こんな人間の小娘をご要望とは・・・」
彼等は知る由も無い・・・絶対者の逆鱗に触れた事を・・・
「見つけた!あいつら・・・!!」
俺はアルフェシオンのステルスを発動させ、一気に旗艦まで接近を試みた。
しかし、俺は7秒後にドライブ・アウトの反応をキャッチして旗艦へ接近するのを中断した。
そして、七秒後多数の艦隊がドライブ・アウトしてきた。
「・・・ッ!あれはミカエルの艦隊か!?」
ミカエル・・・66個の外宇宙の戦力をまとめあげている天使長・・・
俺の天敵だ・・・
昔から、ブラウド財閥と共謀してEDENに使者を送り込んできた神である。
言っておくが、ミカエルに性別など無い・・・
それは俺とは違い、ミカエルがそれほどの超越者だという事だ・・・
その力は神皇に勝るとも劣らない・・・そして、その残忍な性格もだ・・・
状況は最悪だ・・・しかし、俺は自分の命など惜しくはない。
リコを助ける・・・それが俺の作戦だ。
「おいおい・・・ミカエル様よぉ・・・幾らなんでもその数は大袈裟すぎるんじゃねぇのか!?」
「珍しいわね・・・あの方がここまで警戒するなんて・・・」
「フェイトはそこにいるのか?」
直接響いてくるミカエルの声・・・男でも女でもない声・・・
ミカエルは超越者だ・・・人間のように通信機など使う必要は無い。
(フェイト・・・?この小娘の事か?)
「はい、神皇様の命により、捕獲して参りました。」
「ふむ・・・この流れ込んでくる・・・絶対者の波動・・・間違いないな・・・」
「ミカエル様・・・ひとつお聞きしたい事が・・・」
「申せ、アテナ・・・」
「フェイトとは一体何者なのですか?」
「それを貴様ら下級神如きが知る必要は無い。」
(チッ・・・)
「それにお前達はひとつ些細なミスをした。」
「な!?そ、それは一体・・・」
「取り返しに来たぞ・・・奴がな・・・」
俺はミカエルの波動が俺を感知したのに気がついた。
こうなれば、迷う暇など無い。旗艦まで突っ切るしかない!
アルフェシオンはステルスを解除してASフィールドを展開して一気に旗艦まで突っ込んでいく。
「あ、あれは黒い紋章機!?」
「ち・・・やはり来たのね!」
アテナは泣いているアプリコットの顔を強引にモニターに向けさせた。
「ほら!ご覧なさい!あれがお兄ちゃんよ!あんたを助けに来てくれたのよ!」
アプリコットはモニターに接近してくる黒い戦闘機を見た。
「・・・!」
「ふふ・・・分かるのね・・・それはそうよね・・・兄妹なんだから・・・」
(反吐が出るわね・・・)
「リコォォーーー!!」
俺は奴等の弾幕をまともに受けながら、旗艦のブリッジに張り付いた。
「く・・・リコ・・・!」
リコはブリッジに手足を魔術縄で縛られていた。
おまけに猿ぐつわまでかませてある・・・
頭の中がおかしくなりそうだ・・・
「おっと・・・そこまでだ・・・」
聞きたくない声が聞こえてきた。ミカエルだ・・・
「ミカエル・・・リコを返してもらう・・・」
「神皇との戦いでエネルギーを使い果たした機体で何ができる・・・いかにインフィニといえども一気に無限大までエネルギーを充填できるわけがなかろう・・・」
「貴様を倒すぐらいならば、まだ、残っている・・・」
「お前も分かっている筈だ・・・ここで戦闘を開始すれば、この小娘の命は無い・・・」
「・・・俺がお前の要求をのめばリコを殺さないと誓うか・・・天使長の名にかけて・・・」
「ああ・・・そして俺の要求は分かっているだろう・・・」
「俺の命だろう・・・この艦隊の数を見れば分かる・・・おまけにブラウドのものをあるし、何より、そこの下級神が動いているという事は神皇の差し金か・・・」
神皇はよほど、俺を恐れているらしいな・・・
「ならば、要求をのむか?」
「リコの開放が先だ!」
「お前にしては甘い事を・・・お前に選択権は無い・・・次の返答で娘の生死は決まる・・・俺の性格はお前もよく知っているだろう・・・」
ミカエルは有言実行だ・・・嘘ではない・・・
そして、神皇と同じでこのミカエルには実体というものが無いのだ。
「・・・お前の要求を飲む。」
「死ね。」
次の瞬間、アルフェシオンの周りに17本もの光の槍が出現し、それがアルフェシオンに突き刺さった・・・無論、パイロットのレイにも・・・
「・・・・・・」
レイは声も上げずに絶命した。
そう確かに絶命した・・・
「−−−−−−−!!!」
幼いアプリコットにも兄がどうなったのかが分かったらしく大きなくぐもった悲鳴を上げた。
「うるさい!小娘め!!」
ヘルメスは苛ただしげにアプリコットに振り返った。
「ふふ・・・悪い子にはお仕置きね・・・」
アテナは銀色に輝く畳張りのような巨大な針を取り出し、アプリコットに見せ付けた。
「!?」
ギラリと輝く鋭利な刃物にアプリコットは息を呑んだ。
ウィルド・・・ウィルド・・・
誰かが俺を呼んでいる・・・ウィルド・・・どこかで聞いた俺の名前だ・・・
そうだ・・・全てを思い出した・・・
この声の主は俺の元パートナーであり天敵だ・・・
フェイトが危ない・・・
フェイトが・・・危ない・・・?
助けたいか・・・?
当たり前だ・・・
ならば俺と再び契約しろ・・・さすればお前にこの力を返す・・・
早くしろ・・・早く・・・___い・・・
ふふ・・・そうか・・・そうか・・・
早くあの屑共を___い・・・
ああ・・・それは俺も同意見だ・・・
早くしろ・・・俺の枷(カルマ)を外せ・・・
いいだろう・・・本能の赴くままに殺し愛を楽しんで来いよ。
これは殺し合いなどでは無い・・・これは制裁だ・・・
殺し合うつもりなどない・・・奴等はただ俺に殺されるだけだ・・・
ふふ・・・復讐ではないのか・・・
復讐などという生易しいものでは済まさない・・・
ほう・・・遂に悪魔になるか・・・
俺は奴等を制裁する死神だ・・・そして妹を救う救世主だ・・・
ならば、行け・・・気の澄むまで殺しまくれ・・・
ああ・・・楽には死なせないから、じっくり見物しているがいい・・・
俺はアルフェシオンを再起動させ始めた。
あ〜ぞくぞくするぅ〜っ・・・!さぁ・・・俺を楽しませてくれ・・・
死神の救世主
死神のメシア
俺は家に戻ってミルフィーの警護をしていた・・・
ミルフィーまで狙ってくる恐れがあるからだ・・・
もちろん、誘拐犯が相手なら問答無用で殺す・・・
俺も頭に血がのぼっているのだ・・・
悪いが、俺はそこまでものわかりのいい大人じゃねぇんだ・・・
「お父さん!リコはどこ!?」
ミルフィーはかつて無いほどに取り乱している。無理も無い・・・この俺でさえ取り乱しているのだから・・・
エレナはまだ家から飛び出したままだ・・・
「大丈夫だ・・・レイが見つけてくれたから・・・だからもう泣くな・・・」
「ひっく・・・ほんと・・・?」
「ああ・・・ほんとさ・・・」
エレナの奴も、今頃はアバジェスから連絡を受けているだろう・・・
レイ・・・リコを頼んだぞ・・・
アテナはこの上なく楽しそうな笑みを浮かべて、無抵抗な少女の顔を持ち上げた。
「これであなたの可愛らしいお口を縫ってあげるわ・・・」
殺してやる・・・
アプリコットには縫うと意味がイマイチ理解出来なかったが、口に近づけられてくる針を見せ付けられて、大体の事を察して首を横にブンブンと振った。
お前を殺してやる・・・
「ふふ・・・安心しなさい・・・死にはしないから・・・」
お前達、全員殺してやる・・・
銀色の針がひっくひっくとしゃくりあげるアプリコットに近づいていく・・・
そうだ。死ぬのはお前だ・・・
次の瞬間、アテナの指がありえない方向に曲がって千切れた。
「ギ!?ギャアアァァァァーーーーーー!!」
ブリッジに凄まじい絶叫が響いた。
そして、アプリコットは眠るように気を失った・・・
だが、千切れた指からは血は吹き出ない・・・
お前の汚い血で俺の妹を汚すな・・・
「アアアアーーーーーー!・・・」
そしてアテナの声が消えた。
死神はアテナの声というものを消した。
お前の耳障りな声で妹の眠りを覚ますな・・・
「ま、まさか・・・生き・!ぐげげーー!」
ヘルメスの体が雑巾絞りをされるように回り出しあちらこちらのパーツが千切れた。
しかし、二人の体は即座に元に戻り、また、回り出し千切れた。
楽には死なせん・・・
永遠に続く苦痛の中で下級神如きが、俺に歯向かった事を悔いていけ・・・
そして、ミカエルを完全に消滅させた後でお前達も同じようにしてやる・・・
魂すら残さない・・・
アルフェシオンに突き刺さった光の槍が一瞬で霧散した。
「何!?」
アルフェシオンと死神の破損した箇所を一瞬で再生した。
「さぁ・・・帰っておいで・・・リコ・・・」
我が元に戻れ・・・フェイト・・・
次の瞬間、声も上げられずに何度も殺されている二人の愚神の他所にアプリコットは
アルフェシオンの元へと帰っていった。
「リコ・・・ゆっくりお休み・・・」
死神は膝の上で安らかに眠っている妹の頭を優しく撫でた・・・
「怖い事は全て忘れて安らかにお休み・・・」
死神はアルフェシオンに命じて、リコをアルフェシオンの心臓部 インフィニへと移動させた・・・
グルルルル・・・!
アルフェシオンから不気味な呻き声が出た。
それは主の帰還の喜びと敵に対する怒りの表現・・・
ALFESHION・・・
SHE FINAL ゼロ・・・
そして、インフィニは本来の主を得てその真の力を解放した。
インフィニフルドライブ・・・
「さぁ・・・祝うがいい・・・死神の再来を・・・」
制裁の時間だ・・・
「ミ、ミカエル様!アレは一体!!」
「うろたえるな!」
ミカエルは配下の天使を一括してアルフェシオンを天の鎖で縛り付けた。
グゥオオォォォォォーーー!!オオオォォォーーー!!
アルフェシオンは雄叫びを上げながら無茶苦茶に暴れて鎖を引きちぎろうとしている。その様はまさに目の前の獲物によがり狂って暴れる猛獣である・・・
「な、何て奴だ!因果を曲げて形成したこの封印を破るというのか!?」
(くっくっくっ・・・俺を神皇風情と同じだと思うなよ・・・)
ミカエルは必死に鎖を補強し、配下の天使達は死に物狂いで攻撃を続けていく。
外宇宙の者達は全員、分かっているのだ・・・
この化け物が鎖から解き放たれた瞬間に殺されると・・・
グオオオオオーーーー!!!
アルフェシオンは直撃をもろともせずに鎖を引きちぎろうとする!
天使達を皆殺しにしようと悪魔は鎖を狂ったように引きちぎっていく。
「く、鎖がもたない・・・!!」
オオオオオオオオオオーーーーーーー!!!!
アルフェシオンの咆哮と共にアルフェシオンの背中に光の翼が現われた。
六枚の翼が二重となって12枚の翼が広がった・・・
「あ、あれは・・・終末の12枚の翼・・・!?馬鹿な!?どうしてアルフェシオンに両方の翼が!!」
ミカエルの声は震えていた。
当たり前の事だ・・・それは、デザイアを同じ思いだからだ・・・
そして配下の天使達も震え上がっていた。
「安心しろ・・・消す前にたっぷりと遊んでやる・・・」
アルフェシオンの周辺に数え切れないほどのフライヤーが出現した。
そのフライヤー達は精鋭な兵隊のようにアルフェシオンを守護するかのように周辺を徘徊している・・・
その姿はまさに、サーヴァントだ・・・
お前達には見せしめになってもらおう・・・二度とこんななめた真似が出来なくなるようにな・・・すぐに壊れてくれるなよ・・・見せしめにならないからな・・・
サーヴァント達は主の命令を受けて一斉に襲い掛かった。
ある者はブリッジを吹き飛ばし、ある者はそのコウモリのような翼をカッターにして斬り刻んだり、ある者は蜂の巣にする。
まさにこの宙域は天使達の断末魔の叫びが響き渡る地獄と化した。
「ふ、ふふふ・・・ふはははは・・・!」
俺は二千隻近くの艦隊が密集している箇所を見つけた。
オメガ・ブレイクを使ってもいいが、すぐに終わらせては見せしめにはならない。
そうだ・・・見せしめだ・・・
二度と俺の妹に手をだせないぐらいの恐怖をお前達の断末魔の叫びで仲間に伝えるがいい・・・通信系統は生かしてある・・・存分に報告をするがいい・・・お前達の後はお前達の宇宙を皆殺しにしてやる・・・連帯責任だ・・・
俺は見せしめにぴったりな魔法を思い出した。
(おい、アレを使えばどうだ?捻り潰し・・・一番効果があるぜ?)
そうだな・・・今なら、本来の威力が出せそうだ・・・
俺は0.1秒で二千隻の戦艦の構図を解析し、因果にアクセスをかける・・・
空間圧縮のプログラム構築中・・・完了・・・
「死ね・・・」
圧縮地獄
ヘル・バイス
アルフェシオンの手が握り潰されると同時に二千隻の戦艦もプレスされて爆発していく・・・ふふふ・・・天使と言えども所詮はエーテル物質・・・ヘル・バイスは相手を握り潰したという合図であり、結末はプログラム構築が完了した時点で決まっている・・・
いかなるバリアを張ろうとも握り潰されるという因果ができている以上、さっきの天使共に逃れる術など無かった・・・それがこいつらの運命なのだ。
運命には絶対逆らえない・・・
「く・・・!化け物め!」
ミカエルがこの絶対領域から逃れようとするが、俺はすでにその因果を消去済みだ。
(くっくっくっ!駄目だろ〜?獲物が逃げちゃあ・・・)
「安心しろ、ミカエル・・・お前は最後に殺してやる・・・」
「ふ、ふん・・・実体を持たない者をどうやって消そうというのだ?」
何とも無様な・・・仮にも外宇宙のNo1が怖気づくとは・・・
それに、お前は無などでは無い・・・後でそれを身をもって教えてやる・・・
(ひっひっひっ!オイ!今度は命乞いをしてきた相手から殺るってのはどうだ!?)
「有効な案だ・・・恐怖感倍増の効果がある・・・実行に移そう・・・」
いくつもの隻からの降伏の合図が見えた。
俺はわざとゆっくり、その中の一隻に近づいていく・・・
(あは!あははは♪馬鹿なやつー♪殺されるとも知らずに!)
俺はダインスレイブを呼び出し、その戦艦を真っ二つに斬り裂いた。
この絶対領域で死んだ者の魂は全てアルフェシオンの糧となり、消えていく。
故にこいつらを殺せば殺すほどにアルフェシオンはどんどん進化していく。
(おいおい!この調子ならアルフェシオンでもアレができるぞ!)
「まぁ、待て・・・せっかくだから、ミカエルが命乞いをするのを見たくはないか?」
(いいねぇ・・ウィルド・・・お前は最高のパートナーだ・・・)
「ふ・・・おそらくプライドの高い奴の事だ・・・俺の正体を明かさない限り、命乞いなどしまい・・・何故なら、奴が恐れるのは死でも無く、痛みでもなく、完全な消滅・・・つまりは無に帰る事だからだ・・・」
(いいぜ!次の舞台に移りたいからさっさとやろうぜ!!)
「了解だ・・・」
俺は残りの獲物の処分をサーヴァント達に任せてミカエルに直接話しかけた。
「ミカエル・・・そろそろ死んでもらうぞ・・・ふふ・・・残念だったな、もう少しでフェイトが手に入り、お前は絶対者になれたのに・・・」
「何を!こちらもあの方からの命でフェイトを捕獲しようとしたのだ!お前こそ、こんな事があの方に知れたらどうなるかわかっているのか!?」
(もう、知っているよ・・・でもお前、弱いからいらねぇや・・・)
「ふ、ふふ・・そうか、そうか・・・それは実に哀れな事だな・・・」
「何・・・?」
(くくく!その反応最高♪バッカだなぁ・・・コイツ・・・まだわからないのか・・・)
「お前・・・今、自分が相手にしているのが何であるかもわからないのか?仮にも神皇と同レベルともあろう者が・・・」
「何が言いたい・・・」
「こういう事さ・・・」
次の瞬間、アルフェシオンの黒いボディの周りに黄金の文字が三つ列を作って現われ、それが機体を周回しながら新しい文字をつむぎ出していく・・・
「この神聖文字・・・お前になら読めるだろう・・・」
「ま、まさか!?」
「そのまさかさ・・・お前が頭の中で考えている通りさ・・・」
「まさか、神界を無に返した・・・アレか!?」
「・・・・・・」
俺は口元をニタリと歪めて肯定した。
この三つの神聖文字が現しているのは運命の三女神の事だ・・・つまり、三女神の残留思念にアクセスして三つのうち、二つでも可決と判断を下せば、アレの発動が許可されるのだ・・・残留思念はあくまで過去の思念体であり、転生後の女神の意志などは全く考慮しない・・・故にこの愚者共には因果律の制裁が下されるだろう・・・
そして、周りの文字が消えていき、黒い霧(ダークマター)が収束を始めた。
「どうやら・・・全会一致で可決のようだ・・・」
「よ、よせ!や、やめろ!」
(コラコラ・・・言う相手が違うだろう・・・)
ミカエルは天使長だけあり、構成物質の100%が全て魔法物質エーテルで出来ている為に、実体を持たない・・・しかし、正確に言えば肉体を持っていないだけで、アストラル・サイド(精神世界)に介入すれば実体が存在する・・・
無論、オメガ・ブレイクでも完全に消滅できるが、せっかく最強の攻撃が使えるというのだ・・・ならば、そちらを使いたくなるのは処刑人としては正しい事だと俺は思う。
それにオメガ・ブレイクは救済の魔法でもある・・・こいつらのような屑には制裁こそが相応しいのだ・・・
そして、見逃した神皇とは違い、こいつには退路は無い、消える直前だ、長く生きたものほど、死ぬ前に未練を残す・・・
「何故ですか!?私はあなたの命令通りに!」
(キターッ!遂に命乞いしやがったよ!ははは!!笑い死にそうだぜ!!)
「ふ・・・それはお前が用済みだからだ。」
俺は収束してくるダークマターに拡散しろと命じる・・・
これはダークマターの散布・・・
触れたものは如何なるものであろうと無へと帰す・・・
オメガ・ブレイクは決まった区域内を外から無へと返していくが、この因果律の制裁は俺を中心にして、無限に拡散していくのだ・・・
そして、ダークマターが一斉にアルフェシオンから拡散して全てを飲み込んで無へと変えていく・・・残るのは獲物を喰らい尽くした“無”(ダークマター)のみだ・・・
これが因果律の制裁・・・
偉大なる神々の暗闇
_グ__ク
ミカエル、ヘルメス、アテナ、外宇宙の美しい天使達・・・
これらの愚者共はここに制裁を受け、無へと帰した・・・
言っただろう?魂すら残さないと・・・
「そうしてレイは“オメガ・ブレイク”でミカエルをという外宇宙から消し去ったのだ・・・」
「オメガ・ブレイク・・・?」
「ふむ・・・説明の必要があるか・・・マジョラム少尉、君は公認の魔女だそうだな?」
アバジェスがテキーラの方に振り返った。
「そうよ。それが何か?」
「君の想像の範囲内の答えでいい・・・この世で最も威力があって確実に相手を殲滅できる攻撃は何だと思う?」
「随分と唐突な質問ね〜・・・う〜ん・・・やはり精霊の力を借りた攻撃かしら・・・」
「確かに精霊の力は膨大だが、所詮、神族には通用しない・・・」
「悪いけど、他には思いつかないわ・・・」
「そうか・・・ありがとう・・・マジョラム少尉・・・では答えよう・・・この世には神ですら覆せない理屈があるそれは・・・」
アバジェスは全員の顔を見渡して答えた。
「それは“時間”だ。」
『時間?』
「そうだ・・・如何なる神にも起源は存在する・・・そこでだ・・・」
アバジェスの眼が細まった・・・
「もし、その神が誕生する前まで時間を巻き戻したらどうなると思う?」
「その神の存在が無くなりますね・・・」
「そうだ。カズヤ・・・」
「で、でもまた時が立てば元に戻るのでは?」
「その通りだが、その神の誕生の因果が無くなればその神はもう二度と生まれる事は無い・・・それを実現したものがオメガ・ブレイクだ。」
「という事はオメガ・ブレイクは相手の時間を巻き戻して消滅させる魔法なのか・・・」
「本来は単体のみの最強の神族魔法だったのだが、レイの魔力は桁外れな為、発動させるとその区域そのものを外から飲み込んで消滅させてしまう・・・その為に、発動時には対象を別次元へと移動させねばならない・・・」
アバジェスが今度はタクトの方を向いた。
「タクト、お前がブラウドとの戦いでシリウスから逃げた後、レイがシリウスにオメガ・ブレイクを使用した事は知っていたか?」
「え!?」
「あの時にオメガ・ブレイクを使った事により、レイは大量の力を消耗して計画を一段階早める事になったんだ・・・だから君は早い段階で神界へと行かされたんだ・・・」
「俺が弱かったからか・・・あいつは・・・わざと俺を・・・」
落ち込むタクト・・・しかし、アバジェスは慰めたりなどしなかった。
「そう思うのならこれからの戦いで決して負けるな。それがお前の責任だ。」
「ああ・・・」
「少し、話がずれたな・・・そのオメガ・ブレイクの対極の位置にあるのが、タクトがメベトに使用したシャイニング・サンだ。」
メンバーの脳裏にシャイニング・サンの威力の凄さが蘇る。
「対極・・・なるほどね〜つまりシャイニング・サンとやらは相手の時間を進めて消滅させてしまうのね。つまりは、全てのものには終わりがある・・・違うかしら?」
「察しがいいな・・・その通りだ。ただし、シャイニング・サンは永遠に存命できる者には効果を成さない、それはメベト達、十二傑衆のような不老不死では無く、神皇などの死の起因がないものつまりは終わりという因果が存在しないものには意味を成さない・・・」
「何かややこしいのだ〜」
「シャイニング・サンとオメガ・ブレイクは対象の因果そのものに介入するのだ。対象の始まりと終わりにという原因そのものに・・・」
何人かのメンバーは頭を捻るが、アバジェスは気にせずに続けた。
「まぁ、これはお前達がそこまで気にする必要は無いが・・・タクト、お前には大いに関係する事だ。」
アバジェスは神妙な顔で俺の方を見ている。
「いいか、シャイニング・サンも使い方を誤れば味方をも巻き込む。お前の場合はレイほどの魔力は無いみたいだから、範囲を狭いだろうが、諸刃の刃である事には変わりはない・・・使う時はくれぐれも用心しろ。」
メベトに使った時は何も知らずに使ったけど、そんな危ない魔法だったとはな・・・
「わ、わかった・・・」
「シャイニング・サンとオメガ・ブレイクには互いに中和しあう効果がある。もし、万が一にもレイがオメガ・ブレイクを使うような事があればシャイニング・サンを迷わずに使うんだ。いいな?」
「ああ・・・わかった。」
万が一か・・・
「すまん、話を続ける・・・そして、怒り狂ったレイはリコ誘拐に関わった66もの外宇宙を全て滅ぼした。そこにいる者なら見境無く・・・」
「な、何て事を!それじゃただの虐殺ではないか!」
「シヴァ女皇、レイは完全の体現者です。誘拐事件の可能性が少しでも残っていればそれを容赦なく排除します。それほどあいつはリコ、君の事を思っているからだ・・・」
「そんな・・・でも叔父さん・・・私は許せないです・・・あの人が本当にそんな事をしたのなら・・・」
「・・・リコ・・・俺はレイのフォローをする訳では無いが、そんな甘い考えでは外宇宙とはやっていけないぞ・・・」
「あ、甘い考え?」
「アバジェスさん!リコの言う事は当たり前の事じゃないですか!!」
「カズヤ、外宇宙がEDENとNEUEにちょっかいを出さなくなったのはレイが66の宇宙を滅ぼしたからだ。見せしめとしてな。」
「見せしめとは穏やかじゃないわね・・・」
ランファはアバジェスを軽蔑するように睨んでいる・・・
「見せしめが無ければ外宇宙の連中はまた同じ事をしただろう・・・」
「そんなの話して見なければわからないではないですか!」
「ちとせ少佐・・・雅人を生きて戻れたのが見せしめのおかげだという事を忘れるな。」
「・・・どういう事ですか?」
「レイの制裁を見せ付けられたブラウド財閥は即座に雅人と六番機を解放した。そして雅人はその精神的衰弱が激しかった為にレイが保護していたんだ・・・六番機は俺が白き月にマイナー化して保管しておいたんだ・・・」
「そ、そんな・・・」
「事実だ。それでも言うか?見せしめは必要無いと・・・襲撃されるたびに応戦すると・・・相手が話が通じる相手かもわからないのに?どんな強力な兵器を持っているのかも分からないのに・・・?」
「・・・・・・」
誰もアバジェスに反論できなかった・・・
何故なら、アバジェスの言う事は現実的であり、理争論などでは無く、現に自分達はその恩恵で生活がしてこれたからだ・・・
「その・・・アバジェスさんよぉ、そのマイナー化ってなんだよ?」
アニスは気まずそうに話を切り替えてアバジェスに質問した。
「ああ・・・つまりはアンフィニをクロノ・ストリング・エンジンに換装したのさ・・・」
「何で、高性能なエンジンを取り替える必要があったんだよ・・」
「ソレを今から、説明しよう・・・これが、君達に隠していた最後の真相だ・・・」