第二章

 

最強の紋章機VS究極の紋章機

                                         

「ここも終わったな・・・」

俺はリコ誘拐に関わった66個目の宇宙を消し去った。

(なぁなぁ・・・念の為にEDENとNEUE以外の外宇宙も滅ぼしたらどうだ?

「それもそうだな・・・」

それには俺も同意見だった・・・

妹達に危害を加えるものは何であっても俺にとっては全て敵だ・・・

少しでもその可能性があるのならば、排除する。

例え相手が誰であろうと俺のこの信念は曲げるつもりは無い。

例え、いかなる罵倒を受けようとも俺は止めるつもりはない。

消しておける内に危険性があるものは消しておくべきだ。

俺はその為ならばいかなる手段であろうと選ばない。

サクリファイス

犠牲は選ばない・・・

 

最初に言った筈だ・・・

俺は(妹達を)守る為に(お前達の正義の世界)を壊す者。

お前は(俺の世界を)壊す為に(正義を)守る者だと・・・

 

これがお前の最大の違いだ・・・

 

所詮、正義など人間だけが抱いている妄想にすぎない。

お前達の正義の共通点は人間を保身する内容が必ず盛り込まれている事だ・・・

このまま正義を捨てきれずに戦い続ければお前達は負ける・・・

何故ならば、正義はお前達の敵にも備わっているのだ。

正義・・・正しい事・・・

お前達のその正義とやらが二人の復讐鬼を産み出した事を知りもしまい・・・

その名は

 

最強の復讐鬼

 

混沌の神皇

 

最凶の復讐鬼

 

シリウス

 

復讐は進化を促す最高の促進剤だ・・・

そして全ての起源は復讐心という果実に蜜の味を与えた。

本能と言う名の蜜の味を・・・

人は本能を満たせた時に快感を覚える・・・

本能を満たしたいからこそ、その目標に向かって命懸けで挑むのだ。

そして、復讐心は欲望(本能)の中でも最も強き願望だ・・・

欲望・・・欲して望む事・・・

デザイア

俺が守るのは正義などでは無い。

大事な者達を守る・・・それが俺の願いだ・・・

結局、俺にもデザイアがあったのだ・・・

だから歯がゆい・・・デザイアが・・・

俺を“無”でありえなくしたデザイアが・・・

 

俺は1分で消滅した絶対領域の神殿を復元した。

絶対者となった俺には容易い事だ。

にしても何故人は神聖なものにここまで憧れを抱くのだろうか・・・

白き月、皇王、セルダール、ロスト・テクノロジー、魔法、そしてこの神殿・・・

下らん・・・それらに共通するのは未知への可能性があるからだ・・・

所詮、偽りの伝承に過ぎないというのに・・・

何と愚か・・・

だから元凶にいいように扱われている事に気付かないのだ。

シャトヤーンやソルダムに抱いているのは尊敬・・・

恥を知れ・・・

尊敬するぐらいならば己自身がその領域まで上り詰めればよい話ではないか・・・

なのに何故、己自身を磨かずに強者に憧れる・・・

俺はマスターを慕ってはいるが、この最深部にある信念だけはマスターの命令と言えども曲げるつもりはない・・・

俺は大事な者を守る為なら手段は選ばない・・・

誰が相手であろうと命を懸けてでも守り抜く・・・!

確かにお前達が思っているように俺は只のエゴイストだろう・・・

しかし、このエゴイズムを捨てるつもりはない。

妹を守る為ならば俺は悪魔になろう・・・

正義をかなぐり捨ててでも悪鬼羅刹と化して戦い続ける

戦わなければ守りきれない世界に生まれてきたのならば

俺は絶対に負けるわけにはいかない・・・

そして、この俺を止めたければ口ではなく、俺を殺せ

それしか、手段は無いぞ・・・!

銀河の天使

ギャラクシーエンジェル

 

しかし、お前達がそれでも正義に殉ずるのならば、お前達EDENは最終的にその正義を掲げたNEUEに殺される事になるだろう・・・

これだけは覚えておけ

全てのものには因果がある・・・

お前達の最後の敵である元凶にも正義はある。

 

無とは安定した世界・・・変化の無い世界・・・

それを守るのが完全の体現者

運命であり、使命だ・・・

 

それが俺の使命だ

そして

 

有とは不確かな世界・・・未知の世界・・・

それを守るのが奇跡の体現者

本能であり、使命だ・・・

 

だからこそ、忘れるな。奇跡の体現者よ。

未知への探究心を捨て去れなかったお前達の弱さが

元凶

を産み出したという事を・・・

 

「ん?」

俺はドライブ・アウトの反応をキャッチした。

ここへの侵入する為のゲートは俺が凍結している・・・

少なくとも今、この領域に人間が侵入できる訳がない。

間違いない・・・敵だ。

しかし、俺はドライブ・アウトしてきた機体を見て驚いた。

白銀に輝く紋章機・・・

美しき、優雅な白鳥を連想させるそのボディ・・・

このアルフェシオンと対極の位置にある紋章機

黄金の紋章機から分かれた妹・・・

 

GRA−001

GROW  REPEAT  ANGEL

エクストリーム

 

「な!?エクストリーム・・・!?」

エクストリームはフロントに取り付けられた少し小振りなクロノ・ブレイク・キャノンにエネルギーを瞬時にチャージしてこちらに向けて発射してきた。

通称 エクストリーム・・・

機体と同じ名前を冠する究極の一撃。

やがて轟音と共に、白銀の粒子で形成された超弩級のエネルギー砲がこちらに迫ってくる。

「く!どういうつもりだ!」

俺は回避をする為に横方向に全速力で加速した。

あの一撃はこのリフレクター版をもってしても耐え切れない。

アルフェシオンがインフィニをこの人間のようなクロスコンバット式動作系統ににまわしているのに対して、あのエクストリームはそのほぼ全てをあの一撃にまわしているのだ!

「ぐああぁーーー!!」

エネルギーが巨大しすぎた為、完全には回避しきれなかった。

アルフェシオンの外装にエネルギー砲に潜んでいた毒が侵食してきた。

アルフェシオンの装甲はオリハルコンと呼ばれる究極の金属でそれをナノ・マシンに記憶させて瞬時に修復させている・・・しかし、この毒はそのナノ・マシンを消滅させる効果を持っているのだ・・・その名は

アンチ・ナノ・マシン・ウィルス・・・

通称 A・Nウィルス・・・

ほんの僅かの微粒子がアルフェシオンを蝕んでいく。

俺は即座に装甲に抗生物質を散布させ、ウィルスを除去していくが、アルフェシオンの装甲と修復機能に多大なダメージを与えたのは言うまでもない・・・

(あ、あの野郎!フェイトまで殺す気か!?)

その通りだ・・・頭に来た・・・

おそらくはこいつと再び契約を結び、外宇宙を次々と殲滅していった俺が許せないのだろうが・・・こちらとて許せぬ事もある・・・!

フェイトを助けにも来ないでそのフェイトも巻き込むとは・・・許せん・・・

妹に被害を与える者は何であろうと敵であり、排除する。

「エクストリーム・・・貴様を制裁する!」

アルフェシオンもインフィニをフルドライブさせてエクストリームを威嚇した。

リコをも巻き込もうとしたエクストリームに激怒しているのだ。

 

威嚇しあう最強の紋章機究極の紋章機・・・

 

アルフェシオンの機体の周りに三つの神聖文字が現われて機体の周りを周回し始めた。こちらには俺とフェイトがいる。対して向こうはデザイア一人・・・制裁の審議の結果は目に見えている。

ウィルド・・・可決・・・

当然だ・・・

デザイア・・・否決・・・

当然だろうな・・・

残るはフェイト一人だ・・・

フェイト・・・・・・・・・

・・・?どうした?何故、迷っているんだ?

・・・・・・否決

な!?な、何故だ!あいつはお前を殺そうとしたんだぞ!

(おいおい・・・)

この時、俺とアルフェシオンはエクストリームが俺とフェイトを排除しようとしているのだと信じて疑わなかった・・・

(ウィルド・・・こうなれば俺の力でアレを使うぞ・・・忌々しきデザイアめ・・・!)

「ああ・・・」

アルフェシオン・・・L.Eシステムフルリンク・・・

リミッター解除・・・インフィニフルドライブ・・・

アルフェシオンの背後に6枚の光の翼が現われる・・・

制裁の発動条件はもう一つだけある・・・

それは全ての起源が制裁を決議した時である・・・

アルフェシオンの周りに黒い霧状のダークマターが収束する・・・

「・・・何故・・・フェイトを狙った・・・」

俺は返答など期待せずにエクストリームに問いかけた。

返答など無いと思っていたのだが・・・

 

KARUMA

 

という返答が帰ってきた・・・

カルマ・・・人の業・・・

“カルマ”・・・そうか・・・やはり・・・こいつが許せないか・・・」

(デザイアめ・・・どこまでも歯向かうか・・・!)

ダークマターはかつてないほどに収束していた。

オリジナルが直に制裁をしようというのだから仕方が無いと言えば仕方が無い・・・

「だが、フェイトを襲うというのであればお前も敵だ・・・!」

そしてまさにダークマターが拡散しようとしたその時・・・

ダークマターが一瞬にして霧散して消滅したのだ。

 

アンチ・__ナ_ク

 

(な、何ィ!?)

馬鹿な・・・制裁を却下したのか!?そんな力がどこにある・・・!?

そして突如、インフィニからのエネルギー配給がストップした。

「な、何・・・フェイトまで・・・どういうつもりだ・・・?」

アルフェシオンの光の翼が消失した・・・

そして、エクストリームはエネルギー砲の充填を完了してこちらに狙いを定めた。

「チィ!」

俺は大急ぎでエクストリームの砲身から垂直に逃げていく。

次の瞬間機体が揺さぶられ、またしてもA・Nウィルスが機体に侵食してきた。

そして、エクストリームはエネルギー砲の再充填を完了させようとしていた。

「く・・・!」

俺はアルフェシオンの飛行形態にしてまた砲身と垂直に逃げようとアフターバーナーをフルにして逃げようとした・・・しかし、またしてもエクストリームのエネルギー砲が正確な位置にぶっ放してきた。攻撃をするあいつは少し動くだけでいいのだ。

「くそぉ・・・!」

アルフェシオンのスラスター出力が著しく低下する・・・

「舐めるなぁー!」

俺は60機のサーヴァントを展開してエクストリームの砲身を集中攻撃した。

エクストリームはインフィニティ・フィールドを展開するが俺も撃墜するつもりでサーヴァントに攻撃命令をだしたのだ。

それにそのフィールドはこちらで解除できる!

(奴のフィールドの因果を消したぞ!蜂の巣にしてやれ!)

「堕ちろ!」

幾筋ものビームがエクストリームの砲身や、機体に被弾する相変わらず、装甲は厚いが、ならば同じ箇所を狙い撃ちにするまでだ!

エクストリームも機体を思いきっし暴れさせて逃げようとするが、俺は狙った標的は逃がさない、そして遂にアルフェシオンと同じオリハルコン製の砲身を吹き飛ばした。

更にブースターを吹き飛ばしたのでこれ以上動きまわる事も出来ないだろう・・・

「・・・・・・」

俺はフライヤーに一時待機を命じた。

(どうした?何故止めを刺さない?)

・・・待て・・・

(馬鹿が!)

次の瞬間、エクストリームの損傷が瞬時に再生した。

(それ見た事か!!)

しかし、エクストリームは動く気配は無い・・・

そして、こちらも動けない・・・

アルフェシオンの損傷率はすでに80%をきっている・・・

俺の体が重たくなっていく・・・

(どうした!?殺せ!ぶっ殺せぇ−−−!!)

フェイトが泣いている・・・

これ以上は戦えない・・・

(ふざけるな!こうなれば俺がやるまでだぞ!?)

お前はここで終わらせてもいいのか・・・?

(何?)

もう満足したのか・・・?

(ふ、ふふふ・・・それもそうだな・・・今回は見逃してやる・・・)

そうか・・・ならば、しばらく兄妹だけにしてくれ・・・

(いいだろう・・・俺も時が来るまで眠りについて復讐の時を待つとしよう・・・)

ああ・・・

ただし、定期的にフェイトと接触させろ、そうで無ければお前の負担が増えるだけだぞ・・・お前が消えた場合はあの小僧を使う事になるのを忘れるなよ・・・じゃあな・・・後はお前の好きなようにシナリオを創ればいい・・・

どうやら、アイツが眠りについたらしい・・・

「・・・エクストリーム・・・フェイトは返す・・・」

そして、俺とエクストリームは白き月へと帰還した。

 

絶対領域での戦闘を得た二機は損傷も激しく、白き月へ辿り着くのが精一杯だった。

白き月の最深部に来た俺はまずフェイトとのリンクを解除した。

幼い少女は俺の手へと戻り、安らかに寝息をついていた・・・

「・・・ごめんな・・・リコ・・・俺は駄目な兄貴だ・・・」

次の瞬間、エクストリームが発光し始めた。

「・・・っ!?」

そして、光の粒子が糸になってエクストリームを繭に包んでしまった。

「これは・・・あの時と同じだ・・・」

黄金の紋章機白銀の紋章機漆黒の紋章機に分離した時と同じく・・・

「まだ・・・進化するというのか・・・?」

なるほど・・・確かに、完全の体現者アルフェシオンはこれ以上成長する事は無い

しかし、奇跡の体現者エクストリームは無限に成長していくか・・・

漆黒は確か・・・されど有限・・・

白は不確か・・・されど無限・・・

 

「さぁ・・・リコ・・・帰ろう・・・俺達の家へ・・・」

 

「レイは満身創痍の体でリコを連れ帰ってきた・・・絶対領域ではエクストリームと交戦したとしか俺達には教えられていない・・・」

タクト達は終始無言だった・・・

 

ここは桜葉家のリビング・・・俺は泣き疲れたミルフィーを部屋まで運んでいる・・・

「・・・ミルフィー・・・ゴメンな・・・」

今思い返せばこの時の俺は珍しく素直だったと思う・・・

ミルフィーをベットに寝かすと俺はマスターとロキへのいるリビングへと向かった。

「レイ・・・すまん・・・俺達がふがいなかったせいで・・・」

俺が来るなり、マスターは頭を下げた。

「兄さんだけのせいじゃないわ・・・私達も油断していたのよ・・・」

「ああ・・・」

親父と鬼婆もどうやら自負の念にかられているようだが、一番悪かったのは他の誰でもない・・・この俺だ。

そしてこれからも俺は一番悪い奴となるだろう・・・

そして、俺の体はその日からおかしくなった・・・

罰だろう・・・今までの行いのな・・・

俺はベットの上で寝たきりだった・・・

体が重くて動かないのだ・・・

そして、リコも今だに目を覚まさない・・・

おそらくはかなり消耗したのだろう・・・

俺が馬鹿をやった為に・・・

「お兄ちゃん・・・ご飯をもってきたよ・・・」

心配そうな声でミルフィーが部屋に入ってきた。

「お前・・・学校はどうした?」

今日は平日だ・・・休日では無い筈なのだが・・・

「うん・・・でも、リコやお兄ちゃんが病気だから、お父さんと叔父さんが看病をしてやってくれって頼まれたの・・・」

ミルフィーは上目遣いに俺を見上げた。おそらくは俺に咎められると思ったのだろう・・・まったく、こいつは・・・

「そうか・・・悪いな・・・」

「お兄ちゃん、体を起こせる?」

「ああ・・・」

俺はミルフィーの御粥を食べれるように重い体を何とか起こした。

本当は何を食べても俺には意味は無いのだが、コイツの心配そうな顔を見ているとそうも言ってられない・・・

「お兄ちゃん、私がふ〜ふ〜しようか?」

それだけは受け入れんがな・・・

「いや、そのくらいは何ともねぇよ・・・」

俺は全て平らげてやった・・・

「・・・まだまだ分量がアバウトだが、悪くは無い・・・」

俺は再び体を寝かせてコイツが聞きたがっている感想を言ってやった。

「あ、う、うん!」

ミルフィーの顔に少しだけ、笑顔が戻る・・・

「食べたばかりで悪いが・・・眠らせてくれ・・・」

「うん・・・お休み・・・お兄ちゃん・・・」

なでなで・・・

「・・・やめろ・・・」

「だ〜め♪いいから、早く眠って・・・」

やれやれ・・・これじゃあどっちが保護者かわからねぇな・・・と言いつつ襲ってくる睡魔に大人しく従う事にした・・・

 

「お休みなさい・・・お兄ちゃん・・・」

ミルフィーユは眠りに付いた兄の額をいつまでも優しく撫で続けた・・・

何故なら、いつもはあんなに元気一杯な兄がこうまでも弱々しいのだ・・・

ミルフィーユは不安でしょうがなかったのだ・・・

何故なら、今にも兄が死んでしまいそうで・・・

 

一方、リビングではロキとアバジェスが真面目な顔つきで相談をしていた。

「おそらく、レイはこのままでは長くはもつまい・・・」

「・・・・・・」

「だが、安心しろ手はうってある・・・レイは助かる・・・」

「なら、いい・・・」

「それよりもだ・・・白き月であの二機は眠りに入り・・・アルフェシオンは傷を癒し、エクストリームは二機に分裂した。

「はぁ?」

俺はタチの悪い冗談としか思えず、アバジェスを怪訝そうに見返した。

「分裂したんだよ。二機の紋章機となって・・・」

「マジかよ・・・何でまた・・・」

「それは俺にもわからん・・・ただ、新しい紋章機が一つ出来たのなら、あの欠陥品はあのまま封印しておくのが一番だろう・・・」

アレか・・・」

欠陥品とは本来、タクトの紋章機になる筈だった最後に開発した紋章機だ。

性能は少し、アバウトだが、エクストリームと同じ概念を受け継いでおり無限に成長して無限に強くなるというまさに無敵の紋章機となって、元凶への対抗策として開発しておいた俺達の最後の切り札だったんだが、その気性が荒くてこちらの命令は一切聞かなかった為にレイによりタルタロスの最深部に封印されたのだ。

もちろん、場所が場所だけに確認する事もできないし、確認しようとして下手に起動したら最悪の事態になる。

さっきも言ったがあの欠陥品は一度、起動すると破壊も出来ない上に進化するので封印する時はあのアルフェシオンが全力を持ってようやく封印するに至ったのである・・・結論から言ってアレは絶対に起動させてはならない最凶の紋章機なのだ。

 

「エクストリームが消失し、新しく二機の紋章機が生まれた・・・しかし、その性能はおそらく低下しているだろう・・・そこで、ミルフィーユ・桜葉をエンジェル隊に追加する。

「な!?ふざけんな!!!」

俺はアバジェスの胸倉を掴み上げた。

「よく聞け、馬鹿・・・」

アバジェスは俺の手を振りほどいた。

「俺達の切り札であるタクト・マイヤーズにはサポーターが必要だ・・・その適任者はミルフィーが一番だ・・・タクトの能力向上にも役に立つだろし、リコがエンジェル隊に入る動機もより簡単にできる・・・リコのミルフィーに対する尊敬心を利用すればたやすい事だ・・・」

まったく、コイツは手段を選ばない奴だ・・・

「親が自分のガキをそんなぞんざいにできるかよ!!」

「しかし、元凶の真の狙いはミルフィーぞ?俺達で保護しきれると思うか?今回のリコ誘拐もそうさ・・・」

「く・・・でもよ・・・」

確かに、それが現実的な意見ではあるが・・・

「いいか、ミルフィーはあのレイの分身だ。潜在的な戦闘能力はある・・・それに分裂した一番機との相性の良さはタクトともタメをはるし、他の者ではまず動かない・・・悪いが、アルフェシオンエクストリームがああなった以上、紋章機一機でも戦力が惜しいのだ・・・分裂してしまったのなら、その二機で補うしか無い・・・分かってくれ・・・」

「・・・ただし、あいつが除隊したいと言えば俺は力づくでもパイロットから外すぞ?」

「ああ・・・かまわん・・・」

まぁ・・・タクトがいればそれも無いだろうが・・・

「そして、もう一つ問題がある・・・本来、レイの操作の元に動く筈だった無人機の紋章機達(GAシリーズ)を改造しなければならなくなった・・・レイはあの様だ・・・しばらくは前線には出せない・・・」

「・・・なるほど・・・そこで、前から候補に上がっていた奴等をエンジェル隊として起用するのか・・・」

「そうだ・・・ダルノーの奴が曲者になるだろうがな・・・」

「またアイツか・・・まったく・・・」

「そこでな、レイと俺で前々から考えていたんだが、有人機にするのならばアンフィニをクロノ・ストリング・エンジンに換装しようと思っている。」

「はぁ!?正気かお前!そんな事をしたら紋章機では無くなるぞ!使える武装も貧弱なものに限られてしまう!とくにGAー002なんかは機動性だけになってしまうぞ!」

「失礼な奴だな・・・これはレイからの案だ・・・紋章機に乗るパイロットは全員が精神的に未熟者ばかりだ・・・そんな連中にアンフィニのような高性能なものを最初から与えては本当の戦争が始まっても大した戦力にはならないと考えているんだ・・・」

「・・・つまりは何か?本当の戦争が始まる少し前にアンフィニに換装するって事かよ?」

「そうだ。そして、もう一つ・・・を設けておこうと思う。」

「枷?」

「H・A・L・Oだよ・・・」

「はあ!!?あんな欠陥品を使ってどうするんだよ!!」

「いいか・・・皇国はもはや奴の扮したジェラールの手元にあるのに等しい・・・」

「レイが消えた後はゼウスがなりすましているのかよ、嫌な皇国になりそうだぜ・・・」

「そして、エンジェル隊は精神的に弱い・・・所詮は寄せ集めの素人だ・・・軍人としての心構えはレイとは格段下だ・・・そこでエンジェル隊の入替などという事態にならない為にはこの者でしかこの紋章機は動かせないという大義名分が必要だ・・・ミスをしてもH・A・L・Oのせいにできる・・・強力だが不確かゆえにってな・・・」

「なぁるほど・・・つまりはクビにされない為の保護策か・・・それにアレはテンションに左右されるから仲間達もそれを指揮するタクトとの関係は嫌がおうにも良好なものになる・・・そして、唯一、監視できる神皇は筋金入りの馬鹿ときたもんだ・・・」

「いざという時はクロノ・ストリング・エンジンの出力をこちらで遠隔操作する事もできる・・・」

「はぁ・・・これだけ計画を変更するとなると、お前のあのひねくれた娘の教育も変えないとならなくなるぞ?」

「大丈夫さ・・・ノアにはまだ、教育を施してはいない・・・」

「まぁ・・・説明好きなお前の娘だから適任なのかもしれないけどよ・・・」

さすがのこいつもあれだけひねくれてれば否定もしないか・・・

「お前は明日から紋章機の換装に入ってくれ、俺も手が空き次第応援にいく。」

「本当だろうな・・・?」

「俺が嘘をついた事があるか?」

「殴るぞ。テメェ・・・」

 

「・・・以上が紋章機の改造の経緯だ・・・」

「ノアってあんたの娘だったのか・・・」

「向こうは俺の事など覚えてもいないだろうがな・・・さて、次で本当に最後だ・・・」

 

翌日、リコは目を覚ました。体調は至って良好だ。ちなみにあの事件の記憶は全て俺が消去しておいた・・・リコにはまだ早い話だからな・・・

しかし、俺の容態は一向に回復しないまま二日が過ぎた・・・

「お兄ちゃん、大丈夫・・・?」

「だいじょうぶ・・・?」

俺の部屋には二人の妹がいる。

「ああ・・・」

俺の容態は他人から見れば一目瞭然だろう・・・

もはや、手も重たくなってきた・・・

鬼婆が計らってくれてもう無理をして食事をする事も無い・・・

もし、俺が消滅したとしても、後はカズヤが引き継いでくれるだろう・・・

 

その日の夜の事、マスターが尋ねてきた。

「レイ・・・体の調子はどうだ・・・?」

「・・・正直、もう長くはもちません・・・」

マスター相手に嘘はつけない・・・

「・・・お前はまだ戦う気があるか?」

「・・・私はもはや騎士ではありません・・・しかし、もし叶うのなら戦士として妹達を守りたいです・・・・」

「・・・なるほど・・・ならばかなえてやろう・・・腕を出せ。」

「?」

俺は言われるがままに腕を出した。

「いいか、大人しく注射を受け入れろ。俺を信じろ。」

どうせ、消滅する身だ。それにマスターの言う事であれば信用ができる。

マスターが注入しているのは血だ・・・

俺の眼は伊達ではない・・・構築者ゆえに誰の血かはわかる・・・

O型の血だ・・・それもまだ何も混ざっていない・・・純正のものだ・・・

というより、限りなく俺の血に近いが・・・ミルフィーのものでは無い・・・

・・・っ!まさか!?

「マスター!これはリコの血ではないですか!!」

「動くな!」

「は、はい・・・しかし、リコは・・・」

「大丈夫だ・・・そんなヘマはしない・・・」

「・・・・・・」

注射が終わった途端に俺の体は嘘のように軽くなった。

「・・・なるほど・・・あいつが言っていた“接触”とはこの事ですか・・・」

「ああ・・・おそらく自分自身の因果を完全に途絶えさせない為に、もっとも重要度の高い血液を欲しているのだろう・・・何せお前から聞いた話では元凶はリコの__らしいから俺は直感的にそうではないかと思ってな・・・」

なるほど・・・あの夜、リコを放置していたのはそれを確認する為ですか・・・

「マスター・・・元凶の事はまだ伏せておいて下さい・・・もし、万が一にもこの事がタクト達にばれると元凶はすぐに最終戦争を引き起こしますから・・・」

「分かった・・・俺とお前だけの秘密だ・・・」

その夜、俺は今後の方針を決めた。

 

二日後、俺は桜葉家を再び出る事にした。

ミルフィーは学校に戻った為、今、家の前にはエレナとリコしかいない。

マスターが送迎用の車で待っている。

「レイ・・・気をつけてね・・・」

「ああ・・・」

「お兄ちゃん・・・」

俺はリコの視線に耐え切れず、ゆっくりと車に乗り込もうとした・・・

「まって!」

「・・・リコ?」

俺を呼び止めたのはリコだ。それもかなり強い声だった。

よく見るとリコは泣いていた。

リコが俺の元へ駆け寄ってきて、何を思ったか髪の毛を結んであったリボンを外して俺に差し出した。

「・・・・・・・これは・・・ミルフィーから貰った大事な奴だろう。」

「うん・・・でも、お兄ちゃんが心配で・・・だから、おまもり・・・」

・・・っ!

俺はおそらく泣いていただろう・・・

そして、俺はそのままリコの頭に手を乗せて俺の記憶を全て消去した。

リコは声も上げずに意識を失った。

俺は倒れようとしたリコを抱きとめ、エレナに差し出した。

「頼んだ・・・」

「わかったわ・・・」

俺が泣いていて上手く喋れない事に気が付いたのだろう・・・エレナもそれ以上は何も言わなかった・・・

そして、俺は車に乗り込んだ。

見送るエレナに抱きかかえられたリコがどんどん小さくなっていく・・・

「いいんだな・・・?」

「はい・・・」

行き先は白き月だ・・・

 

白き月の最深部では三機の紋章機がいた。

GRA−000、GA−006、そして分裂したエクストリームの半身だ。

「なるほど・・・分裂した片方はミルフィーの専用機で使うと・・・」

「ああ。GA−001として運用する・・・今頃は全紋章機の換装が終わっているから、ロキはそのGA−001の整備に入っているだろう・・・」

中身はクロノ・ストリング・エンジンでしたか?」

「ああ・・・インフィニはあちらの片割れの方にあるのだろう・・・」

マスターは奥に残されたエクストリームの半身に目を向けた。

「基本的にインフィニの取り外しは危険だ。故に特例が無い限り、あの紋章機はここに封印しておく・・・時がくるまではな・・・」

「では型式はGA−007ですね・・・」

こいつが俺のアルフェシオンといずれ殺し合うのか・・・

「それよりもいいんだな?お前の戸籍から何まで全部処分して・・・

それはミルフィーの記憶からも俺を抹消するという意味だ。

「構いません・・・俺は今から、“死神のメシア”になりますから・・・」

レイ・桜葉はもういない・・・

俺は今から死神のメシアとなる・・・

「分かった・・・」

俺はアルフェシオンへと向かう・・・

眠りにつく為だ・・・これ以上リコの血を採取する訳にはいかない・・・

「レイ・・・いや、ルシラフェル。これからどうする気だ?」

「俺はミルフィーの中から様子を見て、クロミエに指示を出します。

「NEUEのカズヤはどうする?」

カズヤのガードはモルデンに一任してあります・・・」

「そうか・・・ならば、俺は皇国を守るとしよう・・・」

「あ・・・」

俺はその時、ある事を思い出した・・・

「マスター・・・申し訳ありません・・・少し時間を下さい・・・」

 

俺が向かったのはシャトヤーンの庭園だ・・・

「・・・・・・」

正直、どんな顔をして会えばいいか分からない・・・

何せ、俺はシャトヤーンにとって許されない相手だ。

しかし、眠りにつく前にどうしても会いたくなったのだ・・・

森の中を進んでいくと、シャトヤーンと少女が遊んでいた。

こちらには気付いていない・・・

まさか・・・あの少女は・・・

俺は逃げたくは無かったので、足音を立てながら、近づいていった。

「ん?誰?」

俺に気付いた少女はあどけない声で俺に尋ねてきた。

そして、その少女の目を見てそれが娘のシヴァである事に気付いた。

「あなた!」

シャトヤーンが目を見開いて俺を見ていた。

まずい・・・

俺は即座にシヴァに眠れと命じて眠らせた。

「シヴァ!?」

「大丈夫だ。寝ているだけだ・・・」

俺はシヴァに駆け寄ってきたシャトヤーンをなだめながら言った。

「あなたは、シヴァに名乗り出るつもりが無いのですか?」

シャトヤーンが悲しそうな目で俺を見ている・・・

どうやら、俺がシヴァを眠らせた意図を察したようだ。

「今更、どのツラを下げて父親などと名乗れる・・・母親に乱暴をした男を許せるわけがないし、シヴァはまだ5才の子供だぞ・・・」

「そんな・・・乱暴だなんて・・・」

シャトヤーンがいかに寛大でも俺は自分が許せない。

だから、この親子に愛される資格など俺には無いのだ。

ふ・・・なら、何で今更、シャトヤーンに会いにきたんだ・・・俺は・・・?

「それに、現在、皇王になりすましている奴はあのイカレ野郎の仲間さ・・・ここで俺が父親だなんて名乗ったら皇国は大パニックになる・・・」

「・・・・・・」

シャトヤーンの表情が曇った。

シャトヤーンにはマスターから俺の正体や神々の事を教えられている・・・だからこそ、イカレ野郎こと元凶の言う通りに動いているのだ。

元凶が考えたシナリオ通りに動くしかないのだ・・・

 

これもまた運命・・・

でも、運命に抗うのも俺たちの本能だ。

 

「で、でもな・・・」

「はい?」

シャトヤーンが突如、不思議そうに俺を見上げた。

俺の心臓は戦闘中でもないのにバクバクいっている・・・

こんな事は初めてだ・・・

「そ、その・・・」

「はい、なんですか?」

そんなに見詰めるな・・・!

「お前さえ良ければなんだが・・・」

「はい、なんでしょう?」

「お、俺と・・・その・・・」

駄目だ・・・俺ってこんな所はどこかの馬鹿女とそっくりだ・・・

・・・ってそんな事あってたまるかよ!!

「俺と友達でいてくれないか!?」

「・・・・・・」

シャトヤーンは口を開けてポカンとしている・・・

だろうな・・・文脈無いもんな・・・

「・・・お断りします・・・」

シャトヤーンはぷいと顔を背けた。

「・・・そうか・・・」

だろうな・・・文脈無茶苦茶だって自分でも自覚してるし・・・

「友達では嫌です・・・」

え!?じゃ、じゃあ・・・

「なら、俺と恋人として・・・」

「・・・・・・それ以上じゃ無いと嫌です・・・」

「・・・・・・」

おいおい・・・これ以上って・・・

「挙式も上げられないし、俺はしばらく帰ってこれないぞ・・・」

「それでもかまいません。」

シャトヤーンが俺を抱きしめてきたので、俺は仮面を外して抱き返した。

互いに見詰め合う・・・

今は元凶も眠っているから、眼も目に戻っている・・・

「シャトヤーン・・・俺と結婚してくれ。」

「はい・・・あなた・・・」

俺達は互いの口を重ねた。

お互いの気持ちはすでに落ち着きはらっている・・・

「挙式はここでしましょう。」

「そうだな・・・」

 

俺とシャトヤーンはそれから色々な話をした。

俺が馬鹿女を育てたエピソードやシャトヤーンからはシヴァの育児について聞かされてた。

それに元々、俺とシャトヤーンは顔見知りの仲だった・・・俺はシャトヤーンを幾度となクローニングしてきたのだから・・・

そしてようやく、お互いの気持ちが通じ合ったのだ・・・

しかし、残り時間は少ない・・・

俺は本題に入る事にした。

「シャトヤーン、もうすぐ時間だからこれからの事をお前にも話しておく。」

俺はシヴァを膝の上で寝かせたままシャトヤーンに振り返った。

「・・・・・・」

シャトヤーンも真面目な顔に戻って俺の話を聞く体勢に入っている。

「いいか、これからはマスターがお前達を守ってくれる・・・そして、お前はマスターの言う通りに動いてくれ・・・俺が帰ってくるその時まで・・・」

「分かりました・・・」

「そして、あのどうしようも無いクソ馬鹿な妹を頼む・・・」

「うふふ・・・ミルフィーユの事なら任せてください。」

「・・・さてと・・・」

俺は最後にシヴァの頭を撫でて、シヴァをシャトヤーンに預けた。

「行かれるのですね・・・」

「ああ・・・長い間帰れないが、俺は必ず戻ってくるから、待っていてくれ。」

「はい・・・いくらでもお待ちしています。」

 

俺はアルフェシオンのコックピットの中にいた。

「・・・さて・・・」

既にコックピットなかの温度はマイナスに入っている・・・

体ももうすぐ凍っていくだろう・・・

そして、俺は魂はミルフィーの魂の元へ行くのだろう・・・

正直に言うと嫌なのだが、仕方あるまい・・・

それが、俺の償いだ。

 

「・・・アルフェシオンと共に眠りについたか・・・」

その様子を見届けたアバジェスは最深部への隔壁を閉じた。

既にGA−006とGA−007は別ブロックに搬送している為、ここに入る者はいなだろう・・・

俺は神王の封印魔法をかけておいた。

インフィニティ・シール・・・

これで、ここに入れるのはこの俺だけだ。

そしてこの中から出られるのは中にいる者だけだ・・・

 

は待とう・・・救世主が現われるのを・・・

 

〜メシア隊編成〜

 

それからはミルフィーの中から宿敵の行動を見続けた。

神皇が仕組んだエオニアのクーデター・・・

そしてその最後の戦いでミルフィーはルシファーとして覚醒した。

そしてラッキースターも次なる進化の為に休息へと入った。

ミルフィーが軍を退役する時に予想通りにタクトも跡を追うように軍を退役した。

そしてそれからしばらくはこの馬鹿共にも休息の時間をやる事にした・・・

 

その半年後、ちとせをエンジェル隊として起用する事に決めた。

雅人の娘だ。相性の面では一番の適格者であり、その腕も雅人譲りだろうというのがマスターの決断だった・・・

そして、俺はネフューリアを放ち、初めての外宇宙との戦闘をガキ共に体験させた。

厳しい戦いの中でもこいつらは命懸けで立ち向かっていった・・・

俺はこの様子を見て、タクトとミルフィーの最後の課題であったゲルン討伐を課す事にした。

俺がこのゲルン討伐で見たかったのはタクトとミルフィーの相性の良さを最終確認する為だ。すでに黒き月との戦いでルシファーとしての回線を開いているミルフィーならばゲートキーパーとしての役目をこなせると俺は判断していたのだ。

そして、俺はヴァインとルシャーティを使って揺さぶりをかけてみた。

 

これがおそらく俺がした最大のミスだった・・・

ここに神皇は目をつけたのだ。

そして、一人の子供を自分の思うがままの操り人形へと変えてしまった・・・

最凶の復讐鬼として・・・

 

そして、俺はミルフィーの記憶を操り、タクト自身の精神的な強さを検証する事にした。結果はギリギリで合格にした。

そして、ゲルン討伐を終えた後、二人は結婚・・・

分かりきっていた事なのだが、気持ち悪かったのでこの時だけはミルフィーから一時的に離れていた・・・

そして、俺はマスターと今後について話し合った。

NEUEへの干渉である・・・

はっきり言っておく、NEUEこそがEDENの真の敵なのだ。

そしてブラウド財閥が管轄する領域でもある・・・

俺とマスターの話し合いは長時間にも及んだ。

次は下手をすれば本当の戦争にも成りかねないからだ。

ちなみにさすがにこの時ばかりはミルフィーがかわいそうだと思った。

そして、マスターは決断を下した。

NEUEへの干渉をする事を・・・

マスターは皇国にABSOLUTEの存在を裏から浸透させ、EDENはABSOLUTEへの研究を開始した。そして、ゲートキーパーとなったミルフィーの力によりEDENはNEUEとの接触に成功した。

俺はこの時、ミルフィーから離れてカズヤの中へと潜伏した。

今度はカズヤの視点からリコとの相性の良さを観察しなければならないからだ。

そして、元凶がばら撒いていたRAシリーズに導かれるかのように皇国は次々と紋章機を発見していった。

元凶のシナリオ通りに・・・

運命に導かれて・・・

 

やがてリコも皇国軍へと入った・・・

少し、複雑な心境ではあったが・・・

そして、カズヤも予定通りに選ばれた。

カズヤが選ばれたのは必然で、偶然ではなければ、ミルフィーの強運のせいでもない・・・カズヤが選ばれたのはそれが運命だったからだ。

実は最初は俺は不安でしょうがなかった。

タクトとルシファーのように互いに昔から知っていた訳では無いのだ。

カズヤとリコは正真正銘の初対面なのだ。

しかし、カズヤとリコの相性の良さは折り紙つきだった。

時には激しい喧嘩もしたが、すぐによりを戻す。まさに完璧な相性だった・・・

だから、俺は後任をモルデンに任せて元の体に戻る事にした。

 

「・・・懐かしいな・・・この体も・・・」

俺は久々の体の感触を懐かしみながらもマスターの元へ向かう事にした。

隔壁の封印が解除されたので、俺は数年ぶりにアルフェシオンを起動させる事にした。このタッチパネルの感触も何か懐かしい・・・

「起きろ・・・アルフェシオン・・・」

俺はアルフェシオンに呼びかけた。

アルフェシオンはすぐに応えてくれた。

「何だよ・・・お前の方が先に起きていたのか・・・」

俺はそう言いながらドライブ・アウトの入力をしていく・・・ポートさえ開けてあればここからでもマスターのいる皇居まで行くのは容易い事だ・・・

「それじゃ・・・久しぶりに出るとするか・・・」

アルフェシオンのL.Eシステムとリンクを始める・・・そしてインフィニが起動した。

復旧率は60%

まぁ、マシな方だろう・・・

「アルフェシオン、死神のメシア・・・出る!」

俺はマスターの元へと向かった。

 

「・・・その姿で会うのは久しぶりだな・・・」

「はい・・・やはり、自分の体が一番です。」

マスターは相変わらず何も変わっていない・・・

「なぁにが、一番だよ・・・」

そして、コイツもだ・・・

 

俺はマスターにアルフェシオンの復帰を告げてネオ・ヴァル・ファスクを編成する為にとある場所へ向かった・・・

様々な時代と結びつく、混沌の世界・・・

別名 

 

絶対領域

 

運命の輪の中心・・・

繰り返される世界とは隔離された絶対の世界だ。

 

俺は未来へ干渉する為にパートナーを呼び起こした。

(・・・よう、相棒・・・時が来たんだな?

「ああ・・・未来からヘパイストスを呼びたい。」

(いいぜ・・・)

俺の前に大きな機械製の月が現われた

 

この月こそが

ヘパイストス

全てが生まれた場所だ

 

俺は知り尽くした内部を進んでいき、空いている培養槽へと向かった。

今回、複製する人間は二人・・・

というより、今の俺ではもう二人で限界なのだ。

そしてその二人の名前は

エオニア・トランスバールとヴァインだ。

俺は二人の培養が完了するまで、アルフェシオンの新武装の追加を行う事にした。

タクト達に戦闘というものを教える為に必要なものを・・・

新武装はナノマシン形成を応用した捕獲兵器 粒子状のワイヤーカッターだ。

アーム部分に取り付けるのが、ベターだろう・・・

そして、この時、もう一つの新武装を取り付けたのだが、それはまだ明かせない。

ただそれが、必ずタクトを撃墜できる武装だとだけ教えておこう・・・

剣の道に相反した・・・騎士の道を外れた者にこそ相応しい邪道の兵器だがな・・・

 

やがて、エオニアとヴァインの培養が完了した。

こいつらに魂を入れ込むのは俺の役目ではなくパートナーの役割だ。

(さてさて・・・やるかねぇ・・・俺の物語の為にも・・・

何せ・・・俺はこの物語の主人公だからな・・・

 

そうして、二人はこの世に蘇った。

二人共、夢から醒めたような反応をしたが、俺の説明を大方理解したらしい。

二人共、培養時に同時に形成された寝巻きのようなものにくるまれているので何か斬新だ・・・

「なるほど・・・今の世界はそのようになっていたのか・・・」

エオニアはEDENの情勢にどこか懐かしむように呟いた。

「そして、あなたはあのミルフィーユ・桜葉の兄と言う訳ですか・・・」

「・・・まぁな・・・とは言え俺も戸籍すら残っていない・・・

「それで、我々に何をさせたいのだ?」

俺がこの二人にこの話をしたのはあのパートナーがリコの様子を見に行っているからだ。でなければとてもこれからの事は話せたものではない・・・

俺は話した。全ての起源の事、神皇の事、そして、神界の事も・・・

そして、俺が最後にシャトヤーンとの事を話した時だった・・・

「そ、そなたが・・・シャトヤーンに暴行を加えたと言うのか・・・?」

エオニアはわなわなと震え出した。彼が怒るのは無理も無いだろう・・・

「ああ・・・経緯はどうであれ・・・シェリーを傷つけたのも俺だ・・・すまん・・・」

エオニアはゆっくりとこちらに近づいていた。

「・・・一つ聞きたい・・・」

「・・・?」

「そなたはその黒幕を倒そうとしているのだな?」

「ああ・・・」

「・・・・・・」

突如、エオニアとヴァインは何か相談を始めた・・・今の俺にはそれを読む事はできないし、しようとも思わない・・・

やがて二人が頷いて、こちらに向き直った。

「死神のメシアとかいったな・・・」

「ああ・・・」

「僕達で良ければ協力させてくれないか?」

「何?」

何でだ・・・俺はお前達を死に追いやった張本人なんだぞ?

「そなたの経緯がどうであれ、EDENを守ろうとしているのは事実だ・・・」

「それに僕達も多くの者の命を奪った者だ・・・ならばせめてこの命を懸けてできる事があるのではないかとな・・・」

・・・人間とは分からない・・・

醜くもあれば時には美しくもある・・・

「すまん・・・」

俺はここに二人の心強い仲間を得た・・・

完全たる筈の俺が仲間を欲しいと思ったのだ。

完全の体現者など所詮は幻に過ぎないのか・・・

ここに、メシア隊が結成された。

 

ここ・・・ヘパイストスに潜伏してから一ヶ月・・・

二人がゼックイの操縦に慣れている間に俺は計画通りに準備を進めていった。

まず最初に、神界戦争で見逃した。オケアノスの封をとき、メベト・ヴァル・ファスクという神となったと夢の中で暗示をかけておいた。

量産型のゼックイや戦艦などは俺には余裕の作業で、このヘパイストスから次々と送りだして編成していった。

今回の戦争はあくまで予行練習なのだ・・・

本当の戦争の始まる前の・・・

俺がこの眼で見てきたエンジェル隊の弱点は数え切れない・・・

中でも一番不味かったのは人の死への恐怖心を拭えてない事だ・・・

エンジェル隊のガキ共は有人機を撃破するのに戸惑っていた。

確かに天使らしいと言えば天使らしいが・・・

俺に言わせれば、そんな甘い考えでは到底ブラウド財閥とは戦えない。

何故なら、ゼイバー・ブラウドがそこにつけ込んでくるからだ。

 

そして、カズヤの育成についてだ・・・これはブラウド財閥がリコを狙っている為だ。

カズヤの能力は確実に開花しつつある・・・

しかし、まだまだだ・・・カズヤがガンナーになっている内はまだ、ゼイバー・ブラウドとは戦えないだろう・・・

これらを打開するには荒療治しかない。

この俺、自らがガキ共の相手をするしかないのだ。

奴等に限られた能力をいかにして応用するかを己自身で気付かさなければならない・・・その為には様々な戦況で挑む必要がある。

イグザクト・スナイパー換装の為に雅人もこちらで保護しなければなるまい・・・

まったく、する事が多くて、気が滅入る・・・

面倒くせぇなぁ・・・といつもなら言っているだろうが、今回は俺に責任があるようなものだからな・・・それにこれは俺の使命だ・・・

 

そして、訓練を重ねる内にエオニアとヴァインは俺を隊長と呼んで慕うようになった・・・正直一匹狼で戦ってきた自分にはこそばゆい・・・

 

そして、戦艦も一通り揃ったその日、俺は妙なエネルギー反応をキャッチして絶対領域まで赴いた・・・そして、アイツがそこにいた・・・

「こ、これは・・・欠陥品!?」

俺が見たのは例の欠陥紋章機だった・・・

アルフェシオンの後継機ともいう紋章機で人型兵器でもある。

はたから見ればゼックイに見えない事も無いだろう。

「馬鹿な・・・タルタロスの底からここまで逃げてきたというのか?」

グルルル・・・

アルフェシオンもこの欠陥品に威嚇を放っている・・・

それも当然だ・・・

こいつを封印したのは因果律の封印だというのに・・・

まさか・・・そこまで進化したというのか・・・!?

欠陥品の中に生体反応を感知した。

「生体反応・・・!そんな馬鹿な事が!?」

俺は欠陥品への通信周波数を同調させて欠陥品のパイロットに呼びかけた。

この欠陥品は欠陥たる証はその気性の荒さにあり、起動テストの時に俺が搭乗したのだが、全くいう事を聞かなかった為に運用するのを断念したのだ。

そして、俺が驚いたのはそれだけでは無い、欠陥品を動かせるのはその反則的な性能の高さ故にタクトか桜葉家血を引いた者だけなのだ。

つまりは俺の知っている誰かが操縦しているという事だ・・・

欠陥品からは返答は来ない・・・

とはいえ、この危険物をこのままここに放置する訳にもいかない・・・

俺は新武装の捕獲用ワイヤーで欠陥品の両腕に巻きつけた。

欠陥品は抵抗してこない・・・本来この欠陥品はアルフェシオンが相手だとしても大人しく従う奴ではない筈なのだが・・・

「連れて行けというのか・・・ヘパイストスに・・・」

俺はそのまま欠陥品をヘパイストスへと牽引していった・・・

 

ヘパイストスへ着くとエオニアとヴァインが出迎えてくれた。

しかし、ヴァインだけはこの欠陥品を見た途端に血相を変えた。

「隊長・・・そ、それは・・・」

「?・・・お前こいつを知っているのか?」

「知ってるも何も、僕と七番機を襲撃した奴です!」

「な、何!?」

そんな馬鹿な!脱走したヴァインを追撃したのはゲルンの手の者だった筈だ!

待てよ・・・確か、俺はあの時、程々に痛めつけておけと言った筈だ・・・

「あの時、僕とルシャーティはジュノーまで後、少しというところでこいつに襲撃されたんです・・・」

ジュノーの近くでだと?変だ・・・俺は脱走直後に軽く痛めつけろとプログラムしていた筈だが・・・

「ヴァイン・・・ジュノーまで敵と遭遇した事は・・・?」

「いえ・・・」

・・・そうか・・・この欠陥品が先にやっていたのか・・・あるいは食い殺したか・・・

「ハッチを開けよう・・・中にパイロットがいるんだ・・・」

俺はそのまま欠陥品のハッチまで浮上してハッチの強制開放のコードを入力した・・・まぁ・・・変更されていると少し、厄介だが・・・

コックピットのハッチは予想に反してすんなりと開いた。

「こ、こんな子供が・・・」

中にいたのはリコと同い年の金髪の少年だった・・・

いや・・・俺はこいつに見覚えがある・・・

そう、リウス星の皇子 シリウスだ。

確か、ミルフィーが助けてリウスにいた筈だが・・・

「こ、こんな小さい子供が・・・この化け物のような戦闘機を・・・」

そう、この欠陥品はあまりにも危険すぎる為に、操縦できるパイロットはタクトか桜葉家のものと限られている・・・というよりは元々、タクトの専用機になる筈だった・・・

すなわちどう考えてもこの少年には桜葉家の血が流れているという事だ・・・

俺はエオニアとヴァインに整備の続きをするように命じて、シリウスのデータを取る事にした。

血液型はO型・・・桜葉家の血は特殊でO型の者しかいない・・・

そして、桜葉家の中でDNAの類似する者はミルフィーが限りなく近い・・・しかし、どうやら何か他のDNAが混じっているみたいだな・・・・・・

そしてもう一人の該当者が判明した。

「ま、まさか・・・シリウスは・・・」

その該当者は俺の一番知っている奴だった。

「・・・・・・」

俺はシリウスの頭に手を置き、シリウスの過去を見る事にした。

過去を司っていた俺にしか出来ない能力である。

・・・シリウスは何らかしかの情報操作をされているみたいで、中々見えてこない・・・だが、一つだけある事が見えた。暴走するラッキースター・・・これは俺が仕組んだプログラムの一環でヴァインにさせたように見せかけてそれに怒ったタクトがどういう反応を示すのかを見ようと思ったのだ・・・そもそも、ヴァインに紋章機をあたれる訳が無い。そんな知識がヴァル・ファスクにあれば向こうも紋章機を建造すればいいのだからな・・・

「イヤアアアァァァーーーー!!!!」

最後にミルフィーの叫び声が聞こえた。

「・・・っ!?」

俺は慌ててシリウスとのリンクを外した。

な、何てものを見てしまったんだ・・・この俺も冷や汗をかいている・・・

「そうか・・・そういう事か・・・」

俺の疑念は全て晴れた・・・

まず、あの欠陥品はリウスで無力な戦闘機になりすまして、シリウスとミルフィーを誘い込んだ・・・そこでデザイアの情報を採取した・・・

次にこのシリウスはあいつが送り込んできた復讐鬼だという事だ・・・

「どういうつもりだ!!」

俺はそいつに怒りの問いかけをぶつけた。

(ふふ・・・どういうつもりも何も・・・そういう事さ・・・)

「これも復讐のつもりか!デザイアへの当てつけのつもりか!!

(当たり前だろう・・・アイツこそが元凶なのだから・・・お前もそれを理解してくれたではないか・・・)

「いくらなんでもこれはやりすぎだ!」

(くっくっくっ!お前にしては随分と優しい事を言うではないか!)

「ふざけるな!これは明らかにお前の道楽だろうがっ!!」

(道楽ではない・・・復讐だ!!)

「何が復讐だ!あの欠陥品は必ずNEUEを集中的に攻撃するぞ!NEUEの者達が喰い殺されてもいいのか!!」

(それも、我が民の運命・・・それに奴等はいずれ運命の輪により蘇生する・・・そんなに気にする必要はなかろう・・・)

「そんな事を俺がさせると思っているのか!?」

(いんや・・・ただし、忘れるなよ・・・俺とお前の契約の条件を・・・

「く・・・」

(NEUEの民の命か大事な妹の命・・・どちらをとるかはお前次第だ・・・)

「きさま・・・」

(安心しろ・・・運命の輪を回すにはあの二人が必要不可欠なのだ・・・あの二人は最後まで俺が守ってやるさ・・・)

俺はこいつの条件を飲むしかなかった・・・

こいつにはまだ誰も歯向かえないのだ・・・

 

翌日俺はヴァインに特殊な命令を与える事にした。

「リウスの生存者の調査ですか・・・」

「ああ・・・お前はルシャーティと同行して調査にあたってもらいたい・・・」

「ルシャーティ・・・」

「もしかして、余計なお世話だったか・・・?」

「い、いえ・・・ルシャーティは俺の事を?」

「ああ、マスターはすでにルシャーティに説明してある。是非、お前に会いたいと言っていたそうだ・・・」

「了解しました・・・」

俺はゼックイでルシャーティを迎えに行くヴァインを見ながら罪悪感を感じていた。

リウスにはもう生存者などいる筈が無いのだ・・・

ただ、シリウスが目を覚ました時にヴァインがいればシリウスは間違いなく、ヴァインとルシャーティを殺すだろう・・・ヴァインをリウスの調査に行かせたのはその為だ。

食い尽くされたリウスにシリウスが近づく事はもうないだろう・・・

ヴァインとルシャーティが身を隠すにはもってこいの場所だ。

 

俺とエオニアはシリウスの目覚めを待っていた。

ここは新造戦艦 俺の高速巡洋艦 ノアの中だ。

同時にメシア隊の旗艦でもある・・・

ネオ・ヴァル・ファスクの旗艦はメベトがすでに搭乗している。

神界の時から自己顕示欲の強い奴だから今頃はさぞ満足しているだろう・・・

俺にとって戦艦など何の役もなさない・・・

このノアが高速巡洋艦なのも機動性だけを重視しているからだ。

そして、この計画の最後でしかその能力の使い道は無い。

攻撃力は俺のアルフェシオン一機で補える・・・

しかし、まさかあの欠陥品まで抱える事になろうとはな・・・

シリウスは年相応の子供のようにすやすやと眠っている・・・

「しかし、シリウスの正体がまさか・・・」

「エオニア・・・シリウスが目を覚ますぞ。」

「・・・っ!」

「・・・う・・ぅぅ・・・」

シリウスの目がゆっくりと開けられる・・・

俺はその目を見て驚いた・・・以前とは違って、シリウスの目は集点があっていない。まるでその赤い目は目の前の光景では無く、その心の奥底に秘めたものを見るかのようにうつろだ・・・

「・・・タクト・・・コ・ロ・ス・・・」

それが目覚めの一言だった・・・

強力な意思・・・こいつの頭の中にはタクトへの憎悪とそれをとりまく人間の世界への嫌悪感しか残ってはいない・・・その思念はまるで元凶の生き写しのようだ・・・

「タクトを殺したいのか?」

俺はシリウスを刺激しないように質問をした。

一見、刺激するような言葉に聞こえるだろうが、他の言葉よりこちらの方がシリウスの興味をひきやすく、親睦を深めることができる。今のシリウスに人徳などを説いても理解もされない所かあの欠陥品で暴れまわるだろう・・・

「お、お前・・・タクトを知っているのか・・・?」

「ああ・・・俺はあいつに死んで欲しいから、お前に協力するよ・・・タクトを殺すのはお前だけしかいない・・・」

「・・・お前・・・仲間・・・お前・・・仲間・・・」

こうしてシリウスはメシア隊の四人目のメンバーとして加わった。

その後、格納庫に向かうと欠陥品はゼックイへと擬態していた。

どうやら、欠陥品も俺達を利用する事に決めたらしい・・・

 

それから俺はシリウスに戦術指南を施して、連携プレイの訓練も行った・・・しかし、もっぱらシリウスには協調性などは無い・・・正直に困ったものだが、今更この危険物を野放しにもできないので、俺がフォローをする事にした。

 

そして、カズヤとリコの最終的な相性の良さを確認した俺は・・・

計画を始める事にした。

オペレーション・ラグナロクの始まりである・・・

 

マスターにはすでに報告済みで白き月の警備艦隊は無人機ぞろいだ。

シリウスとエオニアの実戦訓練の成果を見るのにも丁度いい・・・

ノアをステルスをかけたまま、トランスバール宙域の白き月に向かわせる。

ヴァル・ランダルへの情報操作もすでに完了している・・・

そして、俺達は白き月に辿り着いた。

シャトヤーン以外の者はすでにマスターにより、救出されている。

そして、俺達は格納庫で機体の中で待機していた。

 

「二人共、相手は全て撃破してかまわん。」

「もちろんですよ!皆殺しにしましょうや!」

良かったぜ・・・無人機にすり替えていて・・・

後はコイツにダミーの叫び声を聞かせてやれば有人機だと思い込んで、満足するだろう・・・

「・・・隊長・・・もうそろそろですね・・・」

エオニアが専用回線で話しかけてきた。この回線はシリウスに傍受されないようになっている・・・

「一応、建前でフォーメーションの指示を出すが、シリウスが大人しく従うとは思ってはいない・・・あいつは好きにさせておくに限る・・・暴れた時は俺が何とかする。お前は機体の操縦だけに集中すればいい・・・」

「了解・・・」

俺はノアの格納庫のハッチを開放した。

「各機、起動開始と同時にステルスをかけて、出撃だ。」

「りょ〜うかい♪」

「・・・・・・」

「シリウスとエオニアは敵防衛艦の撃退に当たれ・・・」

「了解!」

「任せておいて下さいよ・・・!皆殺しにしてやりますからぁ・・・!」

ノアのハッチが全開になった。

アルフェシオン・・・L.Eシステムリンク開始・・・インフィニ・・・ドライブ開始・・・

「・・・メシア隊・・・出撃!!」

「了解!」

エオニアのゼックイが一番手で出撃した。

「りょ〜うかい♪待ってろよ〜今、楽にしてやっからよぉぉぉーーーっ!!」

二番手のシリウスが奇声を上げながら出撃した。

「アルフェシオン・・・死神のメシア・・・出る!!」

俺はアルフェシオンから戦況を観察しているマスターに出撃の報告をした。

 

俺達はステルスをかけたまま、敵艦隊へと近づいていく・・・

「私は、再びここに帰ってきた・・・」

エオニアはトランスバール本星と白き月を見て感慨にふけっていた。

「今度は繁栄では無く、皇国を生存させる為に・・・」

エオニアのゼックイがメガ・ビームキャノンの充填を始めた。

「くっくっくっ!!ひひひひ・・・ひゃははははは!!あーはっはっはっはっはっ!!待っていろよぉ・・・タクトォ・・・テメエは俺に殺される運命なんだからよぉ〜・・・

シリウスはゼックイのツメ型ビーム兵器 デスクローを構えた。その様はまるで目の前の敵にでは無く、頭の中にあるタクトへ向けたかのようだ・・・

運命には逆らえない・・・

「さぁ・・・殺し愛といこうぜエエえええぇぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!!」

シリウスが先陣をきるのと同時に俺とエオニアも攻撃を開始した。

無人機相手への奇襲攻撃の始まりだった。

 

そして、俺は予定通り白き月を占拠した。

俺は最初にシャトヤーンの元へと向かった。

シャトヤーンはあの庭園で俺を待っていてくれた。

「・・・ただいま・・・シャトヤーン・・・」

「おかえりなさい、あなた・・・」

俺達は再会までの年月を全て振り返るように長時間の間、お互いを見詰めた。

「すまんな・・・なるべく穏やかにするつもりだったんだが・・・」

「いえ・・・マスターが手引きをしてくれていたので・・・」

「・・・という訳で俺の人質になってくれないか?」

「はい、喜んで・・・」

「おいおい・・・とんだイタズラ者だな・・・」

「ふふ・・・あなたのが移ったんですよ。」

なお、シャトヤーンにはエオニアの事は報告済みだが、エオニアの強い希望でシャトヤーンとの接触を拒んでいる・・・互いに顔を合わせ辛いのだろう・・・

 

白き月に帰還した俺は、メベトを使って皇国軍に宣戦布告をした。

ネオ・ヴァル・ファスクという戦闘部隊はこの時、正式に誕生した。

 

そして俺は、白き月で保管されていた七番機の改造に着手した。

七番機はあの欠陥品にやられたらしく、損傷が激しかった・・・

七番機の改造は大掛かりだ。

簡単に言うと七番機の心臓と魂の保管場所とも言えるインフィニだけを残して後は新しく造り直すのだ・・・モデルにするのはアルフェシオンだ・・・

つまりは七番機を人型に変えてしまうのだ。

ナノマシン装甲のボディに間接部分はアルフェシオンと同じ構造。

ナノマシン装甲は人間では扱うのは不可能だが、俺には大した事では無い。

そして、エンジンにはインフィニを取り付ける。

そして、その連動システムである。L.Eシステムも・・・同時に・・・

ここが最大の難所だった・・・何しろ、俺は七番機から嫌われている。

まぁ・・・俺も嫌いなのでお互い様なんだが・・・

そして、七番機は人型として生まれ変わった。

そして、マスターからタクト達が白き月の捜索に乗り出したとの情報を得て、俺はタクトの捕獲に乗り出した。

マスターの手助けもあり、捕獲はすんなり成功した。

 

タクトはこれから先、神々の強者と戦い続けなければならない・・・

神界の初代覇王 オケアノスことメベト

剣神にして最後の神王 マスター

拳神にして前の神皇 ロキ

混沌の体現者たる最凶の復讐鬼

その次ぎはこの完全の体現者たるこの俺・・・

そして、最後は全ての元凶・・・

いずれも頂点に君臨する実力者揃いだ・・・

偶然やまぐれが通用するような相手では無い。

そしてその戦いに生き残るの為にはタクトを強化する必要がある。

肉だけを強化するのはたやすい事だが、俺がタクトに求めているのはそこではない、タクトが知らなければならない・・・本物の苦痛を・・・そして、打たれる度に強くならなければ絶対に勝ち残れないのだ。

つまり、タクトには死への恐怖感を完全に消してもらわなければならない。

どんな強者でも死への恐怖心は必ずついて回る・・・それ故に後一歩の踏み込みが出来ないのだ。

先程、挙げた6人が強いのはその後一歩の踏み込みができるからだ。どんあ過酷な戦況でも常に冷静な思考回路を保てる鋼の精神こそ、俺がタクトに求め続けているものだ。まぁ・・・今でもそこそこに戦況での立ち回りはこなしているが、所詮は人間・・・神である俺達の領域にはとても追いつけはしないだろう・・・

だからこそ、俺はタクトに死ににくい体を提供する事にした。

 

そして、タクトを七番機に乗せた際に俺はタクトにこう言った。

 

妹達に危害を加えるものは何であっても俺にとっては全て敵だ・・・

少しでもその可能性があるのならば、排除する。

例え相手が誰であろうと俺のこの信念は曲げるつもりは無い。

例え、いかなる罵倒を受けようとも俺は止めるつもりはない。

消しておける内に危険性があるものは消しておくべきだ。

俺はその為ならばいかなる手段であろうといかなる犠牲をも選ばない。

 

サクリファイス

犠牲

 

最初に言った筈だ・・・

俺は(妹達を)守る為に(お前達の正義の世界)を壊す者。

お前は(俺の世界を)壊す為に(正義を)守る者だと・・・

 

これがお前の最大の違いだ・・・

 

所詮、正義など人間だけが抱いている妄想にすぎない。

お前達の正義の共通点は人間を保身する内容が必ず盛り込まれている事だ・・・

このまま正義を捨てきれずに戦い続ければお前達は負ける・・・

 

俺は大事な者を守る為なら手段は選ばない・・・

誰が相手であろうと命を懸けてでも守り抜く・・・!

確かにお前達が思っているように俺は只のエゴイストだろう・・・

しかし、このエゴイズムを捨てるつもりはない。

妹を守る為ならば俺は悪魔になろう・・・

正義をかなぐり捨ててでも悪鬼羅刹と化して戦い続ける

戦わなければ守りきれない世界に生まれてきたのならば

俺は絶対に負けるわけにはいかない・・・

そして、この俺を止めたければ口ではなく、俺を殺せ

それしか、手段は無いぞ・・・!

お前達がこらからも他人に与えられた正義に殉ずるのならば、お前達EDENは最終的にその正義を掲げたNEUEに殺される事になるだろう・・・

だから、これだけは覚えておけ

全てのものには因果がある・・・

お前達の最後の敵である元凶にも正義はある。

 

そして、俺達はその元凶の選んだ三つの候補者・・・

 

何もかもが混ざった混沌の世界・・・

始まりでもあり。終わりでもあり。

光でもあり。闇でもあり。

過去であり。未来でもある。

そんな混沌の世界を望むのは

混沌の体現者の本能である・・・

 

 

無とは安定した世界・・・変化の無い世界・・・

それを守るのが完全の体現者の

運命であり、使命だ・・・

 

それが俺の使命だ

そして

 

有とは不確かな世界・・・未知の世界・・・

それを守るのが奇跡の体現者の

本能であり、使命だ・・・

 

だからこそ、忘れるな。奇跡の体現者よ。

 

混沌の体現者完全に消滅した時・・・

 

お前本当の戦いが始まるという事を・・・

 

だからその時まで、勝ち残れ・・・

 

そして、との決着をつけろ。

 

タクト・マイヤーズ

 

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