第二章

 

〜決戦前夜の月〜

 

「レイはお前達の力を見極める為に敵として立ち塞がるだろう・・・」

タクト達はアバジェスから死神のメシア・レイの経緯を聞いて、黙り込んでいた。

ちなみにアバジェスはシリウスの事は一切、話していない。

それは、レイが口止めしたからだ。

そう、シリウスはイレギュラー(想定外)な存在で今回初めて現われた者だからだ。

そして、欠陥品が再起動したのもイレギュラーな事なのだ。

だから、レイはアバジェスに口止めをしたのだ。

「・・・決着をつける時がきたのか・・・」

「先程も話したが、レイはもう長くはもたない・・・だからこそ、今度は本気で仕掛けてくるぞ。あいつはこちらが敗北すれば皇国を本気で滅ぼす気だ。

全員に緊張が走った・・・

無理も無い・・・自分達を幾度となく敗北させてきた最強のパイロットと最強の紋章機が今度は本気で仕掛けてくるというのだから・・・

「基本的に私は皇国軍はエンジェル隊と無人機のみを配置する事を提案します。」

「阿部殿、何を言われる!?相手はネオ・ヴァル・ファスクの親玉ですよ!」

「シヴァ陛下・・・お言葉ですが、この戦闘で有人機を出しても結果は変わりません。レイ・桜葉には数など関係無いのです。相手が強いからこそ、無駄な犠牲は出してはならないのです。」

「し、しかし、相手がこちらに全面戦争をかけてくるというのに・・・!」

「それに、こちらの数が多ければ多いほど、レイには有利になります。」

「どういう事だ?」

アバジェスはタクトの方に振り返った。

「タクト、レイとの戦いで負けた時の状況を思い出してみろ。」

「状況・・・」

状況も何も・・・あいつはいつも一機で・・・・・・一機で・・・?

「あっ!」

「タ、タクト?どうしたのだ?」

「そうか・・・俺達はレイにはめられていたんだ・・・」

「ふ・・・ようやくわかったか・・・」

「ちょっと、タクト!私達にも教えなさいよ!」

「わかってるよ・・・みんなもあいつに撃墜された時の状況を思い出してみてくれ・・・いつもアイツが一機で向かってきただろう?」

「それが何だって言うんだよ?」

「アニス、君がとっても強い重火器を持っているとしよう・・・しかし、命中精度は威力に反して低い・・・それでも撃つかな?味方を巻き込むかもしれないリスクを負って。」

その言葉にフォルテはタクトと同じ事に気が付いた。

「そうかいそうかい・・・つまりはこういう事だね?あたし達は一斉に奴を攻撃すれば有利だと、いや・・・当たり前の戦術だと信じて疑わなかった・・・」

「その通りだよ。フォルテ。」

「ど、どういう事ですか?フォルテさん・・・」

「カズヤ・・・よぉく考えてみな・・・あの紋章機最大の長所はなんだい?」

「それは機動性だと思います・・・」

僕達の集中砲火をことごとく回避していったあの動きは凄まじいの一言に尽きる・・・

「そんあ相手に集団で挑むのは有利な事かい?ましてやパイロットの腕は超一流ときたもんだ・・・」

「あ!そうか・・!!集団で攻撃をしかけるのはこちらの動きにも制限をかける事にもなるんですね!?」

「そうだ。カズヤ・・・アイツはその隙を突いてきていたんだ。圧倒的な機動性とあのステルス機能を匠に使って、俺達をかく乱してその隙にフライヤーを撃ち込んできた。おそらく、フライヤーはステルスを効かせて待機させていたんだろう・・・それはある意味フライヤーで形成された包囲網・・・蜘蛛の巣のようなものだ・・・」

「く、蜘蛛の巣・・・」

アプリコットは少し、顔を引きつらせた。

「そして、かく乱された俺達の誰かがその包囲網にかかれば、その標的を攻撃するようになっていたんだ・・・そして、あいつは俺達をわざとそこに追い込んだ。これで、正解か?アバジェス・・・」

「上出来な答えだ、タクト・・・」

アバジェスは満足そうに頷くと今度はシヴァの方に向き直った。

その目は真剣そのものでシヴァの目を離さない。

「シヴァ陛下お分かりいただけましたか?これから我々が戦っていく相手は量だけでは絶対に勝てません・・・そして我々は今までも量では無く、質で打ち勝ってきたのだと言う事を忘れないで下さい・・・戦いは量より、質なのです。

 

覚えておけ・・・戦いは量より質だという事を・・・

 

あいつが言っていた言葉だ・・・

「了解した・・・阿部殿・・・我が全艦隊の指揮をお願いしたいのだが・・・」

「御意・・・最初からそのつもりでした・・・そして、レイもこの事を予想してこちらに向かっています・・・」

「何!?もうすぐ、奴等がここに来ると言うのか!?」

「はい・・・それもかなり近くまで来ています・・・白き月を連れて・・・」

「・・・・・・」

 

全員の間に気まずい緊張感が漂う・・・

 

「きゃっ!」

突如、ランファが飛び跳ねた。

「どうした!?」

「い、今何かが私のお尻を・・・」

「へ?」

ランファはお尻を手で押さえて、後ろを見渡している。

しかし、そこには先程のメンバーしかいない・・・

「はぁ〜・・・」

アバジェスは額を押さえて深いため息をついた。

「あっ・・・」

今度はヴァニラが小さい悲鳴をあげた・・・

「も、もしかして、今度はヴァニラ・・・?」

ヴァニラは顔を赤らめてうずくまるままだ・・・どうやら、肯定と捉えていいようだ。

「うお!?今度は俺の胸を触りやがった!」

アニスはそのままカズヤに詰め寄った。

「え?ちょ、ちょっと、ア、アニス?」

「カズヤ・・・お前だな?」

「ち、ちち違うよ!!」

「カズヤさん・・・?」

うわ!リコの顔が怖い・・・顔は目を閉じて笑っていているのだが、その低い声と全然マッチしていない!?

「へぇ〜カズヤさんってランファさん達みたいに胸の大きい人がいいんですね〜どうせ、私はランファさん達にみたいに胸が大きくないですから・・・」

リコが今度は口を尖らしてとんでもない質問をしてきた。

リコ・・・それって何か話の路線がずれてない?

「ち、違うよ!!」

僕は堪りかねて叫んだが、リコは顔をそらしたままこっちに反応してくれない・・・

くそ・・・どうやらまったく信じてくれてないな・・・

「リコ・・・カズヤでは無い・・・」

「え?」

「カズヤではなく・・・」

アバジェスはナノナノの方に振り返った。

「ナ、ナノナノじゃないのだ!・・・・・・にゃ!?にゃははははははは!尻尾はくすぐったいのだーーー!!」

突如、ナノナノは笑い転げ出した。

「そこの馬鹿!お前だぁーーーーー!!!!」

アバジェスは何と、ダインスレイブを召還してナノナノに投げつけた。

おい!いくらなんでも当たったら!

そう思った時、ナノナノが立っていた場所でその剣が何かに受け止められた。

 

「おいおい!マジかよ!?」

 

ん?この声はどこかで聞いたような・・・

そして、ナノナノの傍に隠れていた奴が姿を現した。

「あ!?」

驚きの声を上げたのは俺とリコの二人だ。

何故なら、俺達はそいつの事をよく知っていたからだ。

男はいかにもサバイバルやっていますという風貌で、その手には黒い皮手をしていた。

「あんたね!?お尻を触ったのは!」

「おめぇか・・・」

ランファ&アニスシスターズはその男に襲い掛かった。

しかし・・・

「ふん!・・・でやあ!」

その男は二人をいとも簡単に投げ飛ば・・あ、また胸を触った・・・した。

「イタッ!」

「デッ!」

二人が地面に叩きつけられた。

「ふん、たわけめ・・・いきなり襲い掛かってくるとは何て野蛮な・・・」

お前が言うな・・・しかも、お前がした事は立派なチカンな。

「お父さん!!」

「お、リコではないか!?」

わざとらしいぞ・・・

『お、お父さん!?』

俺とアバジェス、クロミエ、そして、リコ以外のみんなが驚きを表現してくれた。

「どうして、お父さんがこんな所にいるの!?」

「だって、俺も皇国軍に所属しているし、これでも大佐なんだぜ?」

「嘘をつくな。そいつは気分次第で階級を変えている、それでも一応将校だ。」

『しょ、将校!?』

こんな馬鹿が・・・?

「ちょ、ちょっと待て!私も知らないぞ!」

さすがにシヴァ様も将校のメンバーは把握しているらしく当然の如く、聞き返した。

「そりゃあそうだ。だって名前は偽名だったからな。」

「コラ、口を慎め・・・」

「いいじゃねぇかよ、俺に言わせてばただの可愛い孫娘だし♪」

そう言うなり、リコの父親はシヴァ様の頭を撫で撫でした。

「ぶ、無礼者!」

シヴァ様が男の手を振り払う・・・そうすると・・・

「コラ!」

ポカ!

リコの父親はシヴァの頭を軽くこついた。

「な、ななな・・・」

シヴァ様の体はプルプルと震えていた。

「じいちゃんは敬え!」

リコの父親はシヴァ様を指差して、注意した。・・・にしてもこいつから指を指されて注意されても、説得力の欠片も無いのはこいつの自業自得である・・・

「いい加減にしろ・・・」

「いい加減しろ〜・・・佐野○郎〜♪」

リコの父親はシヴァ様の頭を撫でながら、アバジェスを挑発した。

「・・・・・・」

あ、アバジェスが、ダインスレイブを構えた。

「ほう・・・戦る気か?」

「殺る気の間違いだ・・・」

リコの父親は指で戦いと描いて、アバジェスも指で殺と描いた。

どうやら、お互いの意思表示の違いを明確化したらしい。

「お二人共、おやめください!」

あわててクロミエが二人の間に割って入った。

「よぉ〜クロミエ〜おひさ〜♪」

「昨日、お会いしたばかりです・・・」

クロミエはどうやらこのリコの父親が苦手みたいだ。

まぁ・・・相手が相手だからなぁ・・・

俺はとりあえず、男に近づいていった。

「お?タクトじゃねぇか!おひさ〜♪」

このクソ馬鹿は呑気に挨拶をかえしてきたので俺もそれなりの礼儀を払う事にした。

「なぁにが、おひさだあああぁぁぁーーーーー!!!」

「ぐえええぇぇぇーーー!?」

俺はクソ馬鹿の首を締め上げた。

 

そう、この男はあの死んだ筈のロキであった。

 

「ネ、ネックブリーカー!?いやだなぁ〜、俺に再会できたのが嬉しいからって♪」

「ふ・ざ・け・る・な!」

俺の腕にますます力が入る。

「ぐわわ!ギブ!ギブ!!助けて〜!!」

「タクト、そのまま殺してかまわんぞ。」

OK〜♪

「お前、自分はミルフィー達の父親とは違うと言ったじゃないか!!」

「あ、あれはウソぴょ〜ん♪」

ドゴォッ!!

俺の膝蹴りがロキを直撃する。

「イデッ!ミルフィーとの結婚の時に会ったじゃないか〜!あの時に気付けよ〜」

「全然、顔が違っていたじゃないか!!」

「俺は変装の名人だし、それに神界に来た時に一発でバレると思ってさ〜♪」

「みんなにお前はもういないと言った俺はどうなるんだよ!!」

「馬鹿だな。」

ドゴォ!ゲシ!ゲシ!!

俺はムエタイ式の膝蹴りをお見舞いしてやった。

「うぅ・・・もうやばい・・・」

ロキが首をガクっとうなだれて倒れた・・・オイ・・・?

「・・・もしかして、本当にダウンしたのか・・・?」

ロキがピクリとも動かなくなったので、俺は手を離してやる事にした。

「・・・・・・」

ロキはそのままうつ伏せに倒れた。

「お、おとうさん!?」

リコが心配してロキの元へ駆け寄った。

次の瞬間、ロキがむくりとよみがえった。

やっぱりな・・・

「きゃっ!」

「お〜リコもすっかり、胸が大きくなったなぁ〜♪」

そう言いながらロキは娘の胸を突付いたり、揉んだりした。

「なっ!?」

「・・・ッ!?」

顔面蒼白になるカズヤと・・・体を震わせるリコ。

「ん〜ミルフィー同様にこれから更にいいバディになると・・・」

親失格の発言をする痴漢・・・まぁ漢というイメージはあったが、今回は痴がついちゃたなぁ〜ロキ・・・

「い、い・・いい・・・!」

3・・・2・・・1・・・

「イヤアアアアァァァァーーーーーー!!!!」

「うおっ!?」

リコはロキの両腕を掴んで・・・振り上げては地面に叩きつけては、叩きつけてを繰り返し、そのままロキの右腕を固めて綺麗な一本背負いを決めた。ちなみにロキが叩きつけられるたびに『アン!』とか喜びの声をあげていたのだが、皆は敢えて聞こえないフリをした。

「一本!それまで!!」

いや、一本どころでは無かったぞ・・・?

・・・にしても、リコさぁ・・・何で締めが一本背負いなの?しかも、男性恐怖症のわりには思いきっし触っているし・・・

「お、おい・・・今度は本当にピクリとも動かないぞ・・・」

リリィはロキのわき腹を剣で突付くがロキは本当に動かない・・・

「あ、ああ・・・ついつい、やりすぎちゃいました・・・」

いや、むしろやり足りないと思う・・・

「ロキ・・・安らかに眠れ・・・」

「何のぉーーーーっ!!」

『うわ!?』

突如、ロキが復活した。

「お、お父さん、ごめんなさい!!」

「なぁに、リコの成長にお父さんも大満足だ!」

腰に手を当てて『うわっはっはっはっ!』高笑いをするロキ・・・

・・・なんか、こいつのイタズラの度合い、神界の時よりも悪化してないか・・・?

「てな訳で自己紹介といくぞ。」

ロキは妙なポーズをとった・・・それでも拳神と言われた武人か・・・?

「俺の名前はリョウ・桜葉・・・ミルフィーと、そこのリコの父親だ。ちなみに7月7日生まれのO型 好きなものは酒にプラモに綺麗なお姉ちゃん!」

ミルフィーとリコも可愛そうに・・・こんな父親を持って・・・

「嫌いなものはそこのひねくれた中年!」

「嫌いなのはお互い様だ・・・」

「ああ、同感・・・それで、俺の事はソウル・ネームのロキでよろしく頼むぜ!俺の天使(エンジェル)ちゃん達!!」

ビッと親指を立てるロキ・・・

いつお前の天使になったんだよ・・・

 

「桜葉・・・あんたも大変ねぇ・・・」

「ありがとうございます・・・テキーラさん・・・」

リコとテキーラが隅っこで何かヒソヒソ話をしていた。

そんな事を他所にロキはカズヤの元へと歩いていった。

「よう!未来の息子よ!!」

「ち、違います!!」

「お〜い!リコォ〜!カズヤがお前とは結婚したくないんだってさぁ〜!!」

「うわわ!何て事を言うんですかー!」

「え?」

リコが悲しそうな顔で僕を見ている。ああ・・・誤解なのに〜・・・

そんなパニックっている僕に近づいてきたロキさんは僕の耳元にささやいてきた。

「結婚する気が無いのならこれからも妨害してやる・・・今度はお前のポケットの中にリコの下着を入れてやるぞ・・・」

この人、本当に無茶苦茶だーーーーっ!!!

「・・・って!ロキさんリコの下着を盗んだんですか!?」 *注 ヒソヒソ声

「・・・・・・」

親指をビッと立てて、ニヤリとほくそ笑むロキさん・・・

こんな人が本当にリコのお父さんなんだろうか・・・

「カズヤさん?さっきから何をお父さんとこそこそ話しているんですか?」

「うわぁ!?」

いつの間にかリコが僕の背後に立っていたので僕は思わずビクッっと跳ねてしまった・・・

「あ〜リコ、残念なお知らせがある・・・」

突如ロキさんが神妙な顔でリコに話しかけた。

「え?」

嫌な予感がする・・・

「カズヤのポケットを見てご覧・・・」

「え・・・」

リコが僕のズボンに目を向けた途端、その表情が凍りついた。

「あ、あなたって人はーーー!!」

僕はロキさんに掴みかかろうとしたが、ひょいと軽くかわされてしまった。

「カ、カズヤさん・・・どうして・・・」

リコの顔は今にも泣きそうだ・・・ああ〜誤解なのに〜!!

「こ、これ返すよ・・・!!」

僕はポケットに突っ込まれていたリコの・・・そのパ、パ・・下着をひったくり出してリコに差し出した。

「あら〜♪ピンク色のフリフリだぁ〜♪」

ロキさんの冷やかしの声と同時にリコは真っ赤になって震え出し・・・

「カズヤさんの・・・バカーーーーーーー!」

バッチィィーーーーーン!!!

強烈な右ビンタを僕に放った。

「ご、誤解なんだってばーーー!!」

「う、うぅ・・・うわぁぁぁ〜〜〜ん!!!」

リコは僕から下着をひったくて逃げようとした。

「まぁ、待て・・・」

その時、ロキさんが妙に真面目な声でリコを呼び止めた。

真面目な声になるとこの人はまるで雰囲気が変わるな・・・

「ひっく・・・な、何・・・?」

「お前に会いたいという奴が来てるんだが・・・」

「後にしてよ〜!」

「いや、それが何と言えばいいのか・・・」

「え?」

「もう、お前によじ登っているんだが・・・」

リコの背中をよく見てみるとなにやら白くて細いものがにょろにょろと・・・

「ひっ!」

「紹介が遅れたが、白へビのジョニー君だ。」

白ヘビのジョニー・・・何か違和感無いのが怖いな・・・

 

「みなさん、よろしくっス〜♪」

 

白ヘビが軽薄そうな声で喋った瞬間、皆が凍りついた。

「い、今、あんたが喋ったの?」

魔女であるテキーラもさすがに驚いたらしい・・・

「そうッスよ〜♪ヘビが喋ったらおかしいですか〜?」

 

『おかしい』

 

ロキとアバジェスを除いた全員がはっきりと断言した。

「ひ、ひどいっすね〜・・・そうは思いませんか?リコさん。」

白ヘビは独特の舌をチロチロさせながらリコに問いかけた。

「・・・・・・」

「あれ・・・?リコさん・・・?」

「・・・・・・」

「んん?」

リコの様子がおかしい事に気が付いたロキがリコに近づいていってリコの目の前で手をブンブン振ってみた。

「・・・・・・」

リコは何の反応も示さずにただ呆然と前を見ているだけだ。

「あ〜・・・」

何かを理解したかのようなロキの声が聞こえてくる。

「気絶しちまった。」

だろうな・・・リコがあの『ひっ!』って悲鳴をあげた時点でおかしいと思ったよ・・・

それから、リコはロキに背負われた・・・目を覚ましたら速攻で投げ飛ばされる気がするが・・・

「さてと・・・んじゃ、明日の激戦に備えて、今日はパーッと盛り上がるか!!」

「明日!?」

シヴァ様はそんなのは初耳だと言わんばかりだ・・・

「あったり前だろう・・・相手は俺たちを殺しにくるんだぞ・・・」

ロキの現実的な言葉に全員が沈黙した。

「そうだな・・・そっちの方が俺達らしいな・・・」

俺は本心からそう思った・・・俺達はいつもそうしてきたんだ・・・

「みんな・・・ここはロキの言うとおりにしよう・・・」

「そうだねぇ〜・・・」

フォルテがそう言うと皆も彼女に促されるように了承した。

 

エンジェル隊のメンバーは解散し、このライブラリには呼び止められた、俺とカズヤとリリィ・・・そして呼び止めたリコを背負ったロキとアバジェスの六人しかいない・・・

「さて・・・リリィよ・・・先程の復習といこうか・・・」

アバジェスは両手に木刀のようなものを一つずつ召還し、その内の一本をリリィに放り投げ渡した。リリィは器用に受け取った。

「・・・何故、このような真似をする・・・」

「お前が未熟者だからさ・・・そして、それが何であるのかを身をもって教えてやる。」

アバジェスはリリィに木刀を突きつけるかのように突き出した。

「・・・・・・」

リリィも上着を脱ぎ捨てて木刀を構えた。

(あ、馬鹿・・・)

「・・・それじゃあ、始めるぞ・・・」

その言葉で辺りに緊張感が漂った。

リリィとアバジェスの間の距離は2メートル・・・

アバジェスは相変わらず剣を降ろしたままだ・・・

しかし、これこそがアバジェスの構えであり、相手にプレッシャーを与えるのだ。

俺やロキはアバジェスの剣の腕前の凄さを知っているので、さほどには威圧感は感じないが、アバジェスの剣を知らないリリィはそうもいかないだろう・・・

黙っているだけでもアバジェスから発せられる威圧は凄い・・・そして、剣をある程度踏んだ者には分かるのだ・・・一見、無防備にしか見えないこのアバジェスに斬りかかれば自分がやられると・・・アバジェスのカウンターが来ると・・・

ロキの話によればアバジェスはカウンターの天才で、今までも何人もの強者をそのカウンターで葬ってきたという・・・

「どうした?リリィ・・・」

「・・・・・・」

アバジェスがリリィを挑発するがリリィは動かない。

アバジェスを実際に相手にした者にしか分からない威圧感が今、リリィを襲っているのだろう・・・斬りかかればその場でやられる・・・それがアバジェスが漂わせている威圧感の正体なのだ・・・

俺は神界でアバジェスと戦った時、アバジェスは本気を出してこなかった・・・何故なら、アバジェスの最大の強さはカウンターにこそあるとロキから教えてもらっていたのだ・・・

ロキは娘を抱えたまま、かつての宿敵を見ていた。

リリィの額には汗が浮かんでいる・・・

リリィはアバジェスの隙を見出せないのだ・・・がアバジェスに勝てたのはアバジェスの柔を剛で撃ち砕いたからに過ぎない・・・俺には鬼の体があったからな・・・

はっきり、言おう。

柔でアバジェスに対抗できる者はいない・・・

あのひねくれ小僧でもアバジェスの隙を見出すのは難しい・・・

何故なら、アバジェスは戦いの時には感情を完全に押し殺す・・・ひねくれ小僧も確かに感情は押し殺すが、今だにアバジェスほどには殺せない・・・

「はぁ・・・はぁ・・・」

リリィの息が上がっていき、リリィは呼吸の音を殺せなくなってしまった。

そこで勝負は決まった・・・

アバジェスが仕掛けるだろう・・・俺でも仕掛けるなら今、仕掛ける・・・

アバジェスが目にも止まらない速さでニメートルの距離を詰めて、けさ斬りで斬りかかった。

「くっ!?」

リリィはワンテンポ遅れてしまい、アバジェスの木刀を受け止める事も回避もできずに頭の上に木刀を突きつけられていた・・・アバジェスが振り下ろしていればリリィの頭にアバジェスの木刀が炸裂していただろう・・・

「勝負あり・・・そこまでだ。」

俺の判定を聞いて二人は木刀を床に置いた。

「何で、お前が負けたか教えてやろう・・・」

「私に至らぬところがあったからだ・・・」

「いいから聞け・・・お前は斬り合う前から負けていた。

「な、なんだと・・・」

リリィは納得できなさそうだったので俺が説明したやる事にした。

「あ〜リリィちゃんだったか?それには俺も同意見なんだよ。」

「いくら将校とはいえ、ちゃん付けは止めて下さい・・・」

「・・・それじゃ、リリィよ。何でお前は上着を脱ぎ捨てたんだ?」

「動きにくいと思ったからですが・・・」

かったいなぁ〜もう・・・

「敬語は止めてくれ・・・」

「し、しかし・・・」

「これは命令。無視したら、おっぱい揉んでやる。」

「な!?」

「セクハラだ、馬鹿・・・とはいえ、リリィここは大人しく言う事を聞いておけ・・・」

「了解した・・・」

「よ〜し、良い子だ。でも一応その中年も将校だからな。」

「何?」

「構わん・・・」

「わかった・・・それで、上着を脱いだのがそんなにまずいのか・・・」

「かぁ〜いいか?俺やアバジェスの事はタクトから聞いたんだろう。」

俺はタクトに目で神界での事を話したのかを聞いた。するとタクトはコクンと頷いた。

「アバジェスの目は何処を見ていたと思う?」

「そ、それは・・・」

「あんたは目だと思い込んでいた・・・違うかい・・・?何せ、アバジェスは隙無く構えていたからな・・・」

「ロキもそう見たのか?」

「まぁな・・・アバジェスのカウンターはイヤって程知っているからな・・・」

「ふ・・・見切られていたか・・・」

「それで、リリィよぉ・・・アバジェスはな、お前の腕の筋肉の張りを見ていたのさ・・・

「腕の筋肉の張り・・・?」

「やれやれ・・・人間がそんなに長時間力んでいられる訳が無いだろう?

「・・・っ!?」

「ようやく気付いたみたいだな・・・ロキ、後は俺が言う・・・」

「はいはい・・・どうぞ・・・」

「俺はお前の腕の筋肉の張り具合を見てお前が仕掛けてくるのかを計っていた・・・しかし、カウンターを直感的に感知したお前は俺に仕掛けてこなかった・・・だが、それは正解ではなく失敗だ・・・確かにカウンターは避けられたが、後は膠着状態だ・・・そして今度は、俺はお前が集中力を切らすのを待っていた・・・

「そんな筈は無い!私は剣に集中していた筈だ!!」

「そして、息を乱し、呼吸音を俺に聞かせていただろう?それは集中力を乱したのと同じだ・・・いいか・・・」

アバジェスはリリィが空気を吸い込むのと同時にリリィに踏み込んだ。リリィは驚いて構えるが、ワンテンポ遅れてしまった・・・

「もう、分かっただろう・・・?」

「・・・そうか・・・私が息を吸い込む時を狙っていたのか・・・

「あ、あのアバジェスさん、どういう事なんですか?」

「いいか、カズヤ・・・人間は息を吸い込んでいる時に奇襲されるとどうしてもワンテンポ遅れて行動してしまうんだ・・・だから、俺達は呼吸の音を必死に隠して互いの様子を探り合うんだ・・・

「そ、そうなんですか・・・」

「だから、敵に腕は無闇に見せてはならないんだ・・・特にカウンターで待ち伏せている相手にはな・・・これを詰め将棋ともいう・・・どちらに転がっても詰め将棋を仕掛けた奴が有利という意味だ・・・

なんかその詰め将棋という言葉に俺は後ろ髪を引っ張られる思いを感じた。

「なぁ・・・アバジェス・・・もしかして、レイの奴も・・」

「そうだ、アイツも詰め将棋をしていた。」

「・・・っ!」

やっぱりそうだったか・・・

「あいつも通信からわずかに漏れていたお前達の呼吸音を聞き取り、タイミングを見計らい攻撃を仕掛けた・・・そして、あいつはお前達をそういう状況化に追い詰めていったんだ。圧倒的な機体性能を見せ付けた後に威圧的な言葉でお前達を焦燥感に駆り立ててお前達の呼吸音を引っ張り出したんだ。

「俺達はあいつの術中に見事に引っ掛かったのか・・・」

俺が悔しがっていると、アバジェスはカズヤとリリィの方に向き直った。

「カズヤ、リリィご苦労だった・・・二人共下がって良いぞ。」

「え?」

「カズヤよ、リコをエスコートしてやれ、もうすぐ、宴が始まる頃だろう・・・」

「アバジェスさんはどうするんですか?」

「俺はロキと共にタクトとやらなければならない事がある・・・」

「そういう事だ。リコを部屋に運んでくれや、部屋の割り当てはリリィが知っている。」

「ああ・・・確かにそうだが・・・」

「なら、行った行った・・・」

ロキさんは厄介払いをするように手を振りながら僕に近寄ってきた。

「ほら・・・落とすなよ・・・」

ロキさんはリコを僕の背中に担がせた。・・・にしてもリコは軽いなぁ・・・

というかリコを担がせたのはこの為・・・?

「で、では失礼します。」

僕とリリィは部屋に帰る事にした。

ところが、去り際にロキさんから・・・

「襲うのなら部屋にしろよーーー!!」

などと、とんでも無い事を言われてしまった・・・

「しません!!」

僕は振り返らずにそのまま部屋へと向かった・・・

まったく・・・この人は・・・

 

「さてさて・・・ようやく本題に入れるな・・・」

アバジェスが今度は木刀を俺に手渡してきた。

「・・・今度は俺か?」

「そうだ。大体、あいつの狙いはお前だし、あいつと戦えるのもお前しかいない・・・

「だな・・・機体性能の差ばかりはどうにもならん・・・アルフェシオンの装甲を突破するにはエクスカリバーしか無いしな。」

「タクトよ、お前はレイへの対抗策は考えたのか?」

「・・・あいつには俺一機で望む・・・それだけしか思いつかない・・・」

「タクト・・・お前も薄々、気付いているのではないか?あいつには弱点が無いと・・・

「・・・・・・」

実はアバジェスの言うとおりだ。

必要な武装を全てかね揃えていて近距離戦、遠距離戦共に隙は無い・・・そして、非の打ち所の無い機体性能・・・ステルス機能・・・そして、パイロットの技量・・・

弱点などありはしない・・・

「ならば、お前はどうする・・・?」

「・・・・・・」

「答えは見つからないか・・・ならば、それはお前の課題だな・・・」

アバジェスはいつの間にか両手に二本の木刀を構えていた。

「・・・・・・」

俺も無言で一本の木刀を構えた。

「来い・・・」

アバジェスはやはり動かない・・・神界の時とは違って自分から動いてはくれない・・・

何よりも、二刀流の相手と戦うのは初めてだ。

「タクト・・・俺が二刀流になる時はプライドをかなぐり捨てたという事だ・・・」

「なるほど・・・意外と自信家だったんだな・・・」

「違う・・・二刀流の極意とは攻める事だ・・・守りは一切無い・・・」

「・・・?」

「タクトよ・・・お前は騎士かそれとも戦士か?」

「俺は騎士のつもりだ・・・」

「ならば、俺は戦士だ・・・戦いの手段は選ばない。攻撃を続けて守る・・・攻撃は最大の防御だ。

あいつと似ている・・・

あいつは言っていたな・・・俺は守る為に壊す者だと・・・

「故に二刀流は戦士の剣・・・そこに騎士道などは無い。」

アバジェスは二本の木刀を中腰に構えた。

「普通、二刀流は力の問題で片方の剣を短くする・・・そして、その長さの違う二本を同じ様に扱うのだ・・・しかし、俺の二刀流は腕力などという欠点を消し去り、同じ長さの剣を用意した・・・扱いは難しいが、その分、戦力にはなる・・・扱いこなせてこそ、まことの剣士よ・・・分かるか・・・?」

「・・・?」

「本来は、短い太刀で接近戦に持ち込む・・・しかし、俺にはその必要が無い・・・何故なら、俺に接近してきたそのはすでに勝負がついているからだ・・・」

なるほど・・・つまりは絶対の自信があるという事か・・・

「・・・っ!!」

俺は即座に動いた!詰め将棋に付き合っては駄目だ!

「ほぉ・・・?」

アバジェスの木刀がゆらりとぶれる。

見えない・・・本当のラインが・・・

「阿部陰月流は攻めの剣にして、邪道・・・」

「く・・・っ!」

俺はアバジェスの威圧感に抗うかのように斬りかかるが、アバジェスは宣言通り、長くて扱いずらい二本の難なく扱い、俺の剣を受け止め・・・

「・・・っ!?」

俺のわき腹にアバジェスの木刀が軽く触れた。

「何のまだまだぁ!!」

俺はあきらめずにアバジェスに何度も斬りかかった。

しかし、結果は同じで一つの剣を受け止めると、体のどこかにアバジェスのどちらかの木刀を必ず受ける・・・やはり、二本の方が有利なのだ・・・特に相手がアバジェスのような達人なら俺のような奴が幾らあがいてもまぐれあたりなどもありもしない・・・

アバジェスの技量は俺を超越している・・・

それが、現実だ・・・

「二刀流は確かに騎士の道にも反して、守る剣でも無い、しかし、タクトよ・・・それでも生き残った者が勝者になるのだ、そこには善悪も正義の有無もありはしない・・・」

アバジェスは、二つの剣を幻惑するかのように振り回しながら、喋っている・・・

「そして、紋章機の戦いでは力など関係は無い・・・人間の体の欠点をついた格闘術なども通用しない・・・何より、ダインスレイブは増殖、伸縮可能だという事を忘れるなよ。戦士の剣故にな・・・」

なるほど・・・レイはその戦士の剣でくると言うのか・・・

「しかし、お前の剣は騎士の剣 エクスカリバーだ・・・」

「・・・俺の方が不利か・・・」

「悪いが、レイの弱点は俺にも分からん・・・自分で考えてもらうしかない・・・」

その後、俺達は解散した。

何でも、ロキとアバジェスの二人は宴の準備をするとかで・・・

 

「うぅ・・・うぅ〜ん・・・?」

私が目を覚ますとそこは一面の雪世界・・・

「・・・え!?」

私は辺りを見渡すと、そこは吹雪の世界だった。

山と岩石しかない雪世界・・・

「さ、寒い〜!」

私は軍服のままで服が冷たく感じるだけでそれにキャロットなので足に吹雪が当たって痛い・・・

「ど、どうして・・・こんな所に・・・?」

確か、お父さんが現われて・・・白いヘビさんが・・・

「あれ・・・?」

私の正面に人影が・・・

「あ、あの!すいませんーーー!!」

私はありったけの声で叫ぶと人影が近づいてきた。

すこし、安心した・・・無人でなくて良かった〜

そして、その人は私の目の前に姿を現した。

ゴーグルをかけていて、紫色のコートを羽織っているので人相はよくわからないけど・・・背丈は私と同じくらいだ・・・

「あの〜私、ここに迷いこんじゃって!!」

私が、体を震わせながら状況を説明しているとその人は自分が着ていたコートを脱いで私に着せてくれた。

「あ、ありがとうございます!!でも貴方の着る物が・・・」

その人はどうやら軍人らしく・・どこかで見たような軍服を・・・って・・・

「まさか・・・あなたは・・・」

その人はゴーグルを少し、ずらして目を私に見せた。

真紅の眼・・・

何とその人はシリウス君だった!

 

一方、皇居にある王族専用の食堂では・・・

「うっひょ〜♪すんげぇいけるぜ!コレ!」

アニスは嬉々として次々と様々な料理を平らげていく。

「あ〜親分!それはナノナノのものなのだ〜!!」

ナノナノもアニスの袖を引っ張りながら抗議する。

「・・・ガキか・・・こいつらは・・・」

奥の席でアバジェスはワインのグラスを片手にエンジェル隊の様子を呆れた眼差しで見ていた。

「まぁ、いいじゃねぇか・・・あ、シヴァちゃんお酌して〜♪」

ロキは隣の席に(強引に)引き連れてきたシヴァにグラスをヒラヒラさせた。

(お前よりはマシか・・・)

「ぶ、無礼な・・・!」

シヴァはロキを睨みつけた。

「あ、いいのかな〜?このパンティーがどうなっても?」

ロキはハイグレカットの清楚な下着を指差しでまわした。

「な!?お主はどうやって!」

「はっはっはっ!これでも元盗賊だからよぉ!いいから酌してくれよ〜」

「て、手討ちにいたす!」

「あ〜?止めとけ止めとけ・・・」

と言ってロキは席を立つとシヴァを羽交い絞めにして首筋に息を吹きかけた。

「うわっはっはっはっ!や、止めぬか!」

「お!?感度良好だな〜♪」

ロキは調子に乗ってシヴァの体をくすぐり始めた。

「はははは!!や、やめろ〜!!」

「はは!!愛い奴、愛い奴♪」

次の瞬間、ロキの横面に何者かの拳が迫ってきた・・・しかし、そこはさすがはロキと言うべきか、その拳をハシッ!と受け止めた。

「何すんだよ・・・?」

「手討ちだ。」

拳を撃ってきたのはアバジェスだった。

「ほう・・・また負かされてぇのか・・・」

「お前にそのセリフをそのまま返してやる・・・」

「上等だ・・・」

ロキとアバジェスはすでに戦闘態勢に入っている・・・

この二人がぶつかればここはたちまち廃墟と化すであろう・・・

「ふ、二人共、や、止めぬか・・・!」

「いえ、この馬鹿にはここで知らしめなければなりません。」

「それはこっちのセリフだ・・・」

 

みんなが、宴で楽しんでいる間、俺はミルフィーの元を訪れていた。

ミルフィーは依然として静かに眠っている・・・

ルシファーはミルフィーユへ転生してまで俺に会いに来てくれたんだ・・・

「ごめん・・・ルシファー・・・君はずっと待ってくれていたのに・・・会いに来てくれたのに・・・俺は思い出せなかった・・・」

ミルフィーの手を握って俺は懺悔をする・・・

懺悔をするたびに自己嫌悪が高まっていく・・・

何て、情けない男だ・・・俺は・・・

この期に及んで・・・ミルフィーにすがるなんて・・・

明日、俺はあのレイ・桜葉と一騎打ちをする・・・

俺の代わりにミルフィーを守り続けてきた最強の騎士を・・・

いや・・・最強の戦士を・・・

俺は守る為に壊す者・・・

俺はその意味がようやく分かってきた・・・

善悪や正義感だけに執着していけば、守れないものもあるんだ・・・

あいつは心を鬼にして、妹達を守る為だけに戦い続けたんだ・・・

そこに善悪は無い・・・

ただそこにあるのは強い望みと・・・覚悟・・・

俺に倒せるのか?俺で渡り合えるのか?

戦闘という事に関してレイに心身共に欠点などは無い・・・

俺が相手にしようとしているのは最強の敵なのだ・・・

 

吹雪の吹きしける中、少年とその後ろをついて行く少女がこの雪世界を彷徨っていた・・・

「シリウス君・・・」

「黙って歩け・・・」

あの後、私はシリウス君についていく事にした。

どうやら、シリウス君もここに迷い込んだらしくて、辺りを彷徨っている最中に私を見つけたらしい・・・シリウス君曰く『放っておくのも癪に障るから助けてやっただけだ。』と舌打ちをしながら言われちゃった・・・まったく・・・素直じゃ無いんだから・・・

「ふふ・・・」

思わず、私は吹き出してしまった・・・そんな私をシリウス君は怪訝そうな顔で見返した。

「何だ・・・?」

「ご、ごめんなさい・・・」

「無駄話をしている暇は無い・・・どこかで吹雪を凌げる場所を探さなければならない・・・急げ・・・」

「う、うん。」

吹雪は寒いけど、シリウス君がいるおかげで冷たいとは思わなかった・・・

 

「何よ・・・私と勝負をしようって言うの?」

「おうともよ!激辛好きとなれば黙ってはおれんからな!」

宴の開かれている食堂ではロキとランファの二人が激辛好きの座をかけて対峙していた・・・

「格闘技が強いってのと、辛いのに強いってのは別よ・・・?」

「はっはっはっ!俺を舐めるなよ〜・・・あ!いや・・・舌で舐めるのはOKだ!」

次の瞬間、エンジェル隊から拒絶のジェスチャーが飛んできた。

「じゃあ、この1200倍カレーで勝負よ!!」

「はっ!上等だぜ!こっちはハンデで1300倍でいってやるぜ!!」

(1200倍や1300倍って、一体どんな香辛料を使っているんだい・・・)

フォルテは見ていられないとばかりに他の料理に手をつけた。

『いざ!尋常に勝負!!』

 

一方、シヴァとアバジェスは・・・

「阿部殿・・・」

「何でしょう?」

「その・・・レイ・桜葉が余の父上だというのは本当なのですか・・・」

「はい・・・あなたの血液型はアイツの遺伝があり、O型になります・・・」

「それだけでは・・・」

「違います・・・桜葉家の血は特殊ですので、最も構成が近いO型と表記しているのにすぎません・・・桜葉家の血はみな同じ構成なのです・・・隅から隅々まで・・・そして、貴方にも間違いなく桜葉家の血が流れていました。」

アバジェスの真剣な眼差しにシヴァはその事を認めるしか無かった・・・

「・・・・・・ならば、父上は何故、一度も私を訪ねてくれなかったのだ?」

「それは、あいつ自身にしか分からないでしょうが、心当たりは一つあります・・・あいつは貴方を皇王にしてくれと私にお願いをしました・・・そして、予定通り貴方は女皇となられた・・・そして、いずれあいつにとって貴方は敵になる・・・

「・・・・・・」

「ならば、自分は悪魔と化す・・・そう言ってあいつは俺の元を去りました・・・」

「・・・・・・」

「シヴァ様、あいつはあなたに王族としての義務を果たせと仰っているんです。」

(そうだ・・・余は王なのだ・・・)

「・・・わかった・・・阿部殿・・・指揮を頼む・・・」

「御意。」

アバジェスは丁寧にお辞儀をした。

 

「あっはっはっ!まだまだ甘い!!」

激辛勝負はロキの勝ちになった・・・

「おい!姉さん、しっかりしろ!」

ランファはテーブルに突っ伏していた・・・

無論、気絶しているからである・・・

「辛さ2000倍なんて食べれば当たり前ですわ・・・」

ミントはやれやれという感じでナプキンで口周りを拭いた。

その時・・・

「ご主人様〜!あちしを置いてけぼりなんて酷いですに〜!」

カルーアの使い魔ことミモレットが現われた。

「あらあら〜ごめんなさいね〜ミモレットちゃん・・・すっかり忘れていましたわ〜」

「・・・っ!」

ガタン!

突如、アバジェスが席を立ち上がった。

「あ、阿部殿・・・?」

シヴァは怪訝そうにアバジェスを見上げている・・・

しかし、アバジェスはシヴァを無視してカルーア達の方へと向かっていった。

(うあ!?やっべぇ〜・・・)

ロキはまたかよ〜という感じで頭を掻いた。

楽しそうに騒いでいるミモレットを取り巻く天使達はアバジェスの接近に気付いていない・・・アバジェスは着実に近づいていった・・・

「ミモレットちゃんが寝ていたからきっとあの方が呼ばなかったのでしょうね〜」

「う!そうだったのですかに・・」

ミモレットの声を遮ってアバジェスが話しかけた。

「ミモレット・・・とか言ったな・・・」

「うん?この方は・・・?」

「あ〜こちらの方は・・・」

「可愛いい・・・」

『は・・・?』

アバジェスはうっとりとした表情でミモレットを見ている・・・

全員は訳が分からずに挙動不審なアバジェスに注目している。

「な、何ですに〜?気持ち悪いですに〜・・・」

次の瞬間、アバジェスはミモレットのガシッと掴んだ。

「んが!?」

「に〜・・・だと・・・?」

(あ〜あ〜始まったよ・・・)

ロキはまたしても面倒くさそうに頭を掻いた。

「そ、それが・・・どうか・・・したですかに〜・・・?」

ミモレットは苦しそうにかつ怯えながらアバジェスに問いかけた。

その言葉が引き金だったなんて誰も知るよしは無い・・・

「に〜じゃねぇっ!!にゃ〜だろうがぁーーーーー!!!!」

「ニ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!?」

アバジェスはミモレットをブンブンと強烈に振った。

ロキを除いた、全員はアバジェスの凶行に唖然とした・・・

「あ、阿部殿・・・?」

シヴァに関してはグラスを落とした事にも気付いていないぐらいに呆然としていた。

その目はまさに点になっていて、口は開いたまんまだ・・・

「テメェッ!!それでも猫の端くれかぁーーーー!!!」

「ニ〜〜〜〜〜!!つ、使い魔ですに〜〜〜〜〜!!!!」

「ふざけんな!猫じゃねぇかあぁぁーーーーーーーっ!!!!」

その後、暴走したアバジェスをロキが力づくで押さえ込んだのは言うまでも無い・・・

 

私とシリウス君は吹雪の中を突き進んでいた。

「ん・・・?」

突如、シリウス君が立ち止まった・・・

「シリウス君どうしたの?」

「湯気だ・・・」

「湯気・・・?」

私達は湯気の立っている場所まで近づいていった・・・

「うわ〜♪温泉だよ〜♪やった〜♪」

私は嬉しさの余り、シリウス君の手を握って飛び跳ねた。

「やかましい・・・」

シリウス君は手を振り解いた。

少し、調子に乗りすぎちゃったみたい・・・

「ねぇねぇ、私、温泉に入っても良い?」

「・・・勝手にするがいい・・・俺は付近の捜索に・・」

「駄目だよ!一人でなんてこんな吹雪の中なのに!」

「・・・でもお前が温泉に入るんだろうが・・・」

あ、そういう事だったんだ・・・ふふ・・・意外と紳士なんだ・・・

「シリウス君・・・私が良いよって言うまで後ろを向いていてね。」

「フン・・・お前の裸なんか頼まれても見るか・・・」

むっ!

「シリウス君・・・?それってどういう意味なのかな?」

自分でも怖いぐらいの声が出ている・・・

おそらく顔は笑顔を保っていても頬が引きつっているだろうなぁ・・・

「・・・いいから、さっさと入れ。」

シリウス君はそう言うとそっぽを向いた。

「もう・・・」

シリウスは背後で布のすれる音を聞きながら、ある事を考えていた。

俺の家系の奴はどうしてこうも風呂が好きなんだろうな・・・)

無論、アプリコットがそんな事を知る由は無い・・・

 

温泉の温度は抜群に良かった・・・岩壁の小さな温泉だけど、足は伸ばせるし、深さも丁度肩までつかるぐらいはある・・・

何か、私の為にあるような温泉だなぁとか思っちゃった・・・

(そうだとも・・・夢は己の望むように見れるものでもある・・・

 

私が、それから風呂から出たのは・・・ゴメン・・・覚えていない。

「・・・っ!?」

私が着替えようと戻ってきたらたらシリウス君が銃を取り出してこちらに振り返った!

「え、え・・・あ、あの・・・?」

信じられない状況に上手く喋れない・・・

ちょ、ちょっと〜!?どうして振り返るの〜!!

「なんだ・・・お前か・・・」

そう言うとシリウス君は舌打ちをして銃をしまった・・・

な、なな・・・!?

「さっさと着替えろ・・・今度は俺が入る・・・」

う〜・・・シリウス君に抗議したいのは山々だけど、シリウス君も寒い中で長く待ってくれたので、私は敢えて追求しない事にした。

カズヤさん・・・ごめんなさい・・・

それにしても私ってそんなにスタイルが良くないのかな・・・

 

「ここで、待っていろ・・・」

「うん・・・っ!?・・・きゃ!?」

シリウス君は私の前で遠慮なく衣服を脱ぎ出したので私は慌てて後ろを向いた。

シリウス君には羞恥心というものが無いのだろうか・・・

それからシリウス君は温泉の方へと消えていった・・・

「まったくもう・・・こんなに脱ぎ捨てて・・・」

私はシリウス君が乱雑に脱ぎ捨てていった衣服を整えていた。

「あ〜あ〜ズボンもこんなにシワだらけにしちゃって〜・・・ん?」

ズボンのポケットからどこかで見たハンカチがはみ出していた。

あの時、私の涙を拭いてくれたハンカチだ・・・

桜色のハンカチ・・・

私は少し、気になってそのハンカチを取り出した。

何となくお姉ちゃんの香りがするハンカチを・・・

「・・・・・・」

ハンカチは桜色で、白い花がプリントされている・・・これは桜の花びらだ・・・

「・・・・・・っ!?」

私は、そのハンカチに刺繍されていた名前を見て凍りついた。

「嘘・・・」

何故なら、刺繍で・・・

ミルフィーユ・桜葉

と書かれていたからだ・・・

「どうして、シリウス君がお姉ちゃんのハンカチを・・・?」

       私はいても立ってもいられなくなって、シリウス君の元へ急いだ。

恥ずかしいなんて言ってられない!それにおあいこだから!

 

「・・・・・・」

(シリウスよ・・・お前の使命を忘れるな・・・)

「分かっている・・・」

(さすれば、ミルフィーユは助かる・・・)

「ああ・・・俺が助ける・・・」

(そうだ・・・そして、お前が勝つ・・・何故なら、真の正義はお前にこそあるからだ。

「・・・・・・」

 

私はシリウス君に話しかけられなかった・・・

シリウス君はこちらに背中を向けていて私に気付いていない・・・

それでも話しかけられなかったのはシリウス君の背中には羽が生えていたからだ・・・

(キレイ・・・)

シリウス君の真っ白な羽は光り輝いていてとても幻想的だった・・・

・・・って!シリウス君に何で羽があるの!?

さっきのお姉ちゃんのハンカチも・・・

眠った後のお姉ちゃんはハンカチなど持っていなかったはず・・・どう考えてもシリウス君が手に入れられる筈がない・・・

それに何より・・・シリウス君からはお姉ちゃんと同じ香りがする・・・

男の人なのに、怖くない・・・

「・・・っ!?」

次の瞬間、シリウス君の羽が静かに薄れていき、消えていった・・・

「・・・そこで何をしている・・・?」

気付かれた!?

私はその場から逃げ出した。

しばらくしてシリウス君が温泉からあがって身支度を整えた・・・

あのハンカチは元に戻しておいた・・・

今、聞くのはやめておいた方がいいと思うから・・・

でも、本当にそれでいいのかなぁ・・・

そして、シリウス君と私はまた雪の世界へと歩み出した・・・

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

「うるさい・・・黙れ・・・さっきから何度も言ってるだろう・・・何を謝る必要がある・・・」

やっぱり駄目だよ・・・この子には嘘をついてはいけない・・・

「あ、あのね・・・私・・・シリウス君のズボンをたたんでいた時にあのハンカチを見つけて・・・それで・・・その・・・」

「・・・・・・」

シリウス君が足を止めた。やはり、怒るよね・・・

少し、怖かったけど私がした事を考えればシリウス君から怒られても仕方が無いよね・・・

「あのハンカチをどうやって手に入れたのか知りたかったのか・・・?」

「う、うん・・・ゴメンね・・・本当にゴメンね・・・」

「いい・・・それよりも知りたいんだろう・・・?」

「ううん、無理に言わなくてもいいよ・・・」

「・・・これは俺が、ミルフィーから貰ったものだ・・・

「え!?」

お前に教えられるのはそこまでだ・・・それ以上は話せない・・・」

「あ、ありがとう・・・」

「気にするな・・・俺もお前の裸を見たんだ・・・お互い様だろう?」

「〜〜〜っ!?」

シリウス君が少し、意地悪そうに笑った。

「もう、シリウス君の馬鹿馬鹿馬鹿〜〜〜!!」

とっても恥ずかしかったけど、シリウス君と少し、打ち解けたような気がして嬉しかった・・・相変わらず体は寒いけど、心は暖かくなった。

 

「・・・む?」

「どうしたの?」

30分ほど、歩き続けた時、シリウス君が何かを発見したらしい。

「洞穴(ほらあな)だ・・・」

「あ、本当だ。」

私達はためらわず、洞穴の中へと入っていった。

「うう〜・・・寒いけど、雪が入ってこないだけマシだね。」

「ああ・・・ん?」

シリウス君が地面に何かを見つけたようだ。

「ワラだ・・・」

「ワラ?」

私は床に乱雑に敷き詰められた枯れた苗のような物を見渡しながら聞いた。

「ワラも知らないのか?お前は・・・」

シリウス君が何か呆れたように見ている・・・

「うう・・・ゴメン・・・都会育ちで・・・」

「ワラには保温効果がある・・・という事は誰かが、ここを使用していたって事だ・・・」

「じゃあ、近くに街があるの?」

「かもな・・・」

「やった〜♪」

「やかましい・・・洞穴の中で叫ぶな・・・!」

「ゴメンなさい・・・」

ちょっと、はしゃぎすぎたみたい・・・反省、反省・・・

「吹雪の様子を見て、先に進むか・・・」

シリウス君は入り口に私達が来た方向を書き入れた、これで今度は矢印の付いてない方向に行けば間違えて戻る心配も無い・・・にしてもシリウス君って冒険になれているのかな・・・

「俺は眠る・・・お前もそうしろ・・・」

そう言ってシリウス君はワラの上に寝っ転がった。

「あ、私も・・・ごろ〜ん♪」

私もワラの上に寝っ転がった。

「うわ〜♪フカフカだよ〜♪」

ワラはかなりの量がしかれているらしくてフワフワして気持ち良い・・・

「・・・・・・」

シリウス君が私の方をどこか懐かしむような目で見つめているのに気が付いた。

「・・・?どうしたの?」

「いや・・・」

シリウス君は寝返りをうって顔を背けた・・・どうかしたのかな?

似ているな・・・そういえばジュノーでもこんな風に根っ転がったな・・・

「シリウス君・・・?」

「うるさい!さっさと寝ろ!」

「う、うん・・・」

どうしたんだろう・・・・・・ん?

寝っ転がっているシリウス君をよく見ると足を細かく震わせていた・・・

あ!そっか・・・私はシリウス君のコートを借りていたんだ・・・

だから、シリウス君はやせ我慢して・・・

「シリウス君・・・」

「・・・うるせぇなぁ・・・何だよ・・・」

私は少し大きめなコートを脱いで、シリウス君に擦り寄った。

「な、なんだ?」

「えへへ・・・こうすれば暖かいよ♪」

私はシリウス君の背中に抱きついてその上からコートを被る事にした。

「フン・・・勝手にしろ・・・」

シリウス君はそう言うと黙り込んでしまった・・・

シリウス君からはお姉ちゃんと同じ匂いがしてくる・・・そのせいなのかな?シリウス君も男の子なのに全然怖くないのは・・・そう・・・カズヤさんと何処と無く似ている・・・

そうだ・・・どうして私はこんな所にいるんだろう・・・

カズヤさんは・・・どこにいるんだろう・・・

お姉ちゃんは何処にいるんだろう・・・

そして、皆はどこにいるんだろう・・・

体は暖かくなったけど、心のモヤは晴れなかった・・・

私はシリウス君を抱き枕みたいに抱きしめて寝る事に集中した・・・

 

俺は混沌の落とし子・・・

俺には過去など無い

俺には現代など無い

俺には未来など無い

俺は時の旅人・・・

故に俺達に帰る所など無い・・・

そんな俺が求めるもの・・・

この運命の輪から大事な者を救う事・・・

そして、タクト・マイヤーズというバグを消す事・・・

そして、もう一人の俺が望むのは

フェイトを消し去る事・・・

混沌を脅かす運命を消す事・・・

混沌を混沌で無くするもの・・・それが運命だからだ。

運命とは答えでもある・・・

決まりきった未来とのように・・・

それは混沌に一つの基準を設けてしまう・・・

そして、それは混沌を混沌でなくしてしまうからだ。

だからこそ、この戦闘機は眠りから目を覚ました。

この戦闘機は運命を憎んでいる。

己に与えられた運命に抗う為に・・・

そしてこいつは運命を覆した・・・

そして、俺も運命に抗う・・・

彼女を助ける為に・・・!

 

う・・・ん・・・?

何かもぞもぞと動いている・・・?

私はすっかり目が覚めてしまった・・・

見慣れないところだ・・・

あ、そうだ・・・ここは部屋じゃなかったんだ。

私はシリウス君と一緒に・・・ってシリウス君は・・・

「シリウス君・・・?」

「静かにしろ・・・何かが来るぞ・・・」

「え・・・?」

ザクッザクッ・・・

「あ、本当だ・・・」

「かなり重量がある奴だ・・・人間の足音ではない・・・」

「え、そ、それって・・・」

「お前、銃は持っているのか?」

「う、ううん・・・」

「馬鹿、どうやって身を守る気なんだよ・・・」

「ご、ごめんなさい・・・」

「もういい、お前はそこに隠れていろ・・・」

「で、でも・・・」

「やかましい!足手まといだって言ってるんだよ!」

ザクッ!ドシン!ドシン!

「ち、きやがったな・・・」

「あ、あああれって!」

私達の洞穴に来たのは茶色の大きな熊さんだった・・・

「って熊さんて冬眠をするんじゃ・・・?」

「熊の冬眠は睡眠のようなものだ。何らかしらの理由で目を覚ます事もある・・・」

「ど、どんどん近づいてくるよ・・・」

熊さんはノッシノッシと着実に私達に向かって近づいてくる・・・

「ち・・・」

シリウス君が腰に下げてあった銃を取り出そうとした。

「だ、駄目!!」

私は慌ててシリウス君の左手を押さえ込んだ。

「はぁ!?」

「可哀想だよ・・・ここはきっとこの熊さんの家なんだよ・・・」

「それがどうした!?」

「せっかく、家まで帰ってきたのに・・・あんなに雪まみれになってまで・・・」

熊さんの体にはあちらこちら雪が積もっている・・・

「チ・・・馬鹿め・・・」

シリウス君は銃を抜くのを止めてくれたようだ。

熊さんは体を振って体に積もっていた雪を落として、私の方に近づいてきた。

「おい・・・どうする気だ?」

「眠らせてもらっていいか聞いてみる・・・」

「はぁ?馬鹿かお前は・・・」

シリウス君は呆れているけど、私はこの熊さんと話せるような気がした。

やがて、熊さんは私の真正面に立つと、フンフンと匂いを嗅いで来た。

「・・・お前、食べられるんじゃねぇのか?熊は好奇心旺盛だからなぁ・・・」

「そ、そそそそんな事は無いよ・・・」

やがて、熊さんは何を思ったか、ワラの上に根っ転がった。

「あれ・・・?」

熊さんがこちらを見ている・・・

もしかして・・・

私は熊さんに近寄った。

「オ、オイ!」

「失礼しますね・・・えい♪」

そのまま体を預けるように寝そべった。

どうやら熊さんは嫌がっている様子は無い・・・

「・・・ありがとうございます♪く〜まさん♪」

(本当に大胆な奴が多いぜ・・・俺の家系には・・・)

シリウス君がどこか呆れたような顔をしている・・・こんなに暖かいのに・・・

「ほら♪シリウス君もおいでよ♪」

「お、俺はいい・・・」

「もう、い・い・か・ら♪」

私は渋るシリウス君を強引に引っ張ってそのまま足を払って寝かせた。

「な、何をしやがる!」

「いいから♪熊さん暖かいですよ〜♪」

私は文句を言うシリウス君の口を人差し指で押さえて黙らせた。

「く・・・」

シリウス君はそのままふてくされてしまったので私はコートをシリウス君と私を覆うように被せ、熊さんの暖かさを背中に感じながら今度こそ、眠りに入った。

 

「レイよ、これがリコの血だ・・・今から、そちらに相転移する・・・」

「すいません・・・」

モニターに映った死神のメシアは一礼をした。

「礼ならロキに言え、奴がカズヤの寝ている間に採取してきたんだ・・・」

「カズヤはリコの傍に?」

「ああ・・・」

「ふ・・・そうですか・・・」

カズヤに任せてもいいようだな・・・

「だからだけは言っておいたらどうだ?レイだけに・・・」

「わかりました・・・」

「・・・・・・」

俺とマスターの間にしばらく、沈黙が続いた・・・

「マスター・・・今のはまさか・・・」

「もういい!馬鹿者!!」

「し、失礼しました!!」

マスターはセンスが致命的だからなぁ・・・

「・・・何か言ったか?」

「い、いえ!」

「まぁいい・・・ところでレイよ、仕掛けてくるのは明日か?」

ここからは真面目な話だな・・・

「はい・・・タクトに十分な睡眠が取らせる為に翌日の午後にそちらに宣戦布告をします。」

「ふ・・・相変わらず、律儀な事だな・・・」

「勘違いをしないで下さい。俺がタクトを完膚無きまでに叩きのめす為です。」

「ふ・・・そうか・・・」

「では・・・」

俺は通信を切って、シャトヤーンが待機している自室へと向かった・・・

 

う・・・ん・・・ここは何処・・・?

目の前は真っ暗だ・・・

あれ・・・熊さんがいない・・・

シリウス君・・・?シリウス君もいない・・・

「シリウス君!シリウス君!?」

私の目の前に突如あの、紋章機が現われた。

GR−×××・・・

この紋章機は明らかに私を憎悪している・・・

「やめろ・・・」

その時、背後からシリウス君の声が聞こえてきた。

「シリウス君・・・」

「今、戻る・・・」

シリウス君は私を通り過ぎていってあの紋章機へと戻ろうとした。

「駄目!」

駄目だよ・・・あの紋章機に戻ったら・・・

「・・・俺にはあいつしかいない・・・

「私がいるよ!」

だから、戻っちゃ駄目!!

あの紋章機に戻ったら君は・・・

「そして、あいつにも俺しかいないんだ・・・」

そう言うとシリウス君の体は霧散していった・・・

「ダメェェェーーーーー!!!!」

・・・コッ!リコォッ!リコォ!!

カズヤさんの声がする・・・

そうだ・・・私も戻らなきゃ・・・

シリウス君・・・ゴメン・・・

「リコ!」

目を開けるとカズヤさんが心配そうに覗きこんでいた。

「ど、どうしたの!?いきなり、叫んで・・・」

そうか・・・さっきのは夢だったんだ・・・

でも寒くて暖かい夢なんてあるのかな?

「カズヤさん・・・聞いてくれますか?」

「え?・・・うん、いいよ。」

それから私はカズヤさんに夢の事を隠さずに話した。

もちろん裸を見られた事は話してない・・・

というか話せないよ・・・カズヤさんにあんな事を・・・

「・・・シリウスが・・・そんな事を・・・少し、信じられないななぁ・・・」

カズヤさんは首をかしげる・・・無理も無いよね・・・

「確かに夢の話なんですけど、妙に感触があったんです。寒かったり・・・暖かったり・・・」

「う〜ん・・・確かに妙だね・・・」

「はい・・・それにシリウス君は言ってました・・・あの戦闘機には自分しかいないんだって・・・」

「・・・でも、それってやっぱり、夢なんじゃないのかな〜?」

「え?」

「だって、シリウスはミルフィーさんのハンカチを持っていたんだろう?」

「はい・・・」

「だったら夢だと思うよ・・・それに・・・」

「それに・・・な、なんですか・・・」

どうして、そんな意地悪そうに笑っているんですか・・・?

「リコってばお姉ちゃ〜んとか寝言を言っていたし♪」

「え、えぇーーー!?私、そんな事を言ってたんですか〜!?」

「うん♪何回も言っていたよ。く、くく・・・」

「もう!カズヤさん馬鹿馬鹿!!」

私は意地悪なカズヤさんをポカポカと叩いた。

もう!本当にお父さんに似てきたんだから〜・・・

「あ、あはは・・・ゴメン、ゴメン・・・」

「む〜・・・っ事はカズヤさんはずっと私の傍にいてくれたんですか?」

「そうだよ。だってリコがいないと面白くないんだもん。」

カズヤさん・・・

「で、でも!他の人達がいるじゃないですか!私より面白い人がいっぱい・・・」

「はは・・・本当にリコは鈍いなぁ〜」

「む!カズヤさんにだけは言われたくないです!!」

まったく、もう〜!

「あ、あははは・・・でも、鈍いのは本当だろう?リコは大事な事を忘れているよ。」

「え・・・?」

「僕がリコの彼氏だって事を・・・」

「あ、あの・・・その・・・」

カ、カズヤさん・・・私・・・顔が爆発しそうです・・・

「リコ・・・愛してるよ・・・」

カズヤさんの目が私の目を捉えて離さない・・・

「カズヤさん・・・」

私もです・・・カズヤさん。

私達はどちらからとでもなく、顔を近づけて口を重ねた。

窓から見える夜空には今はある筈の無い白い月が見えていた・・・

 

一方、タクトは・・・

「ん・・・・・・っ!・・・」

俺が目を覚ますと、そこはミルフィーが寝かされている部屋だった。

「よう、おはよう・・・タクト・・・」

「ロキ・・・」

俺が目を開けると、机に肘を立てたロキが出迎えた。

「俺は寝てしまったのか・・・」

「みてぇだな・・・」

よく考えてみれば俺はミルフィーを守りきれたのか・・・?

目の前で眠っているミルフィーを見ているとその自信は無い・・・

「なぁ・・・ロキ・・・俺、ミルフィーを守れているのかな・・・?」

「・・・・・・」

「俺は・・・」

バン!

「・・・っ!」

突如背中をはたかれた。

「ば〜か、何を言ってるんだよ。お前はここまで守り通してるじゃねぇかよ・・・」

ロキはそう言うと、おそらく自分で持ってきたであろうグラス二つと酒瓶を持ってきた。

「とと・・・ととと・・・っと。」

ロキは二つのグラスに透明色の酒を注いだ。

「まぁ、飲め。」

「悪い・・・」

何か懐かしいな・・・

「なぁ、タクトよ・・・お前は俺に聞きたい事があるんじゃねぇのか?」

「・・・レイは一体何者なんだ・・・?」

「・・・これから、言う事はあいつとアバジェスから聞いた事だ・・・あいつはセラフィムという階級に所属していた天使だ・・・旧名はウリエル・・・タルタロスを仕切り、その炎で罪人を処罰する制裁者だ・・・その後、その力を神皇に認められて冥王 ハデスとなった・・・いいか?天使って奴等は昇格すると神にも選ばれるんだ・・・俺もデュオニソ・・・何とかって十二傑集へのスカウトが来たが、ムカついたから唾を吐いてけった・・・」

「それでお前は神皇の後継者に選ばれたのか・・・」

「まぁな・・・それよりもレイについての続きだが、あいつは神界戦争の後で、ルシファーの魂を切り離して、ルシファーを眠りにつかせた・・・そして、レイは命の源だけを放ち、この世の行く末を見届けた・・・」

「何でそんな真似を・・・?」

「そいつは俺達にもわからねぇ・・・それを知りたければあいつに直接聞くしかない。」

「・・・・・・」

果たして、そんな余裕があるかどうか・・・

「そして、古代のEDENが一定の文化まで発展すると外宇宙の連中が接触を試みてきた。そして、アイツはEDENの騎士としてそれらを迎撃してきた。」

「EDENの騎士・・・」

「そうだ・・・アイツの強さは折り紙つきで、外宇宙の奴等も滅多な事では仕掛けてこなかった・・・ところがな・・・ある時、あいつは、一つの武装勢力の侵入をわざと見逃したんだ・・・そして、奴等はヴァル・ランダルと名称付けた星を拠点にしてEDENと戦争をおっぱじめた・・・」

「ヴァル・ファスクか・・・」

「ああ・・・おかしいだろう・・・レイによるとそうするしか無かったとだけしか答えないんだがな・・・そして、時空震が起きて現代に至るって訳だ・・・」

「時空震・・・そして、月の聖母と天恵か・・・」

「・・・・・・」

ロキは酒を煽ると少し、険しい目で俺を見た。

「タクト・・・俺が今までどんな事をしてきたか知っているか?」

「・・・紋章機の整備じゃ無いのか?」

「ああ・・・だが、もう一つ俺には重要な役目がある・・・それはな・・・」

ロキは残りを一気に飲み干した。

「ロスト・テクノロジーの捜索・・・そして破壊だ・・・」

「な、なんだって!?」

「いいか・・・ロスト・テクノロジーは天恵なんかじゃねぇ・・・人の探求心を煽る為のエサであり、麻薬のようなものなんだ・・・小さな効果に反して多大な副作用をもたらす毒なんだよ・・・

 

「ロスト・テクノロジーの月か・・・」

俺はワインを片手に自室から見える白き月を眺めていた・・・

「あなた・・・」

シャトヤーンが椅子に座ったまま気まずそうにはなしかけた。

「シャトヤーン、すまなかったな・・・今までロスト・テクロノジーの事を隠していて・・・」

「いえ・・・最初は驚きましたけど、今ではさほど、驚きません・・・」

「そうか・・・」

俺はシャトヤーンに振り返らずに続けた。

「・・・ロスト・テクロノジーの配置はあいつからの条件だった・・・」

「条件・・・その条件を呑まなければ我々は生きていく事すら許されなかったのでしょう?」

「ああ・・・しかし、ロスト・テクノロジーの役目はすでに半分は満たしている・・・EDENは禁断の果実を食し(ロスト・テクロノジー)・・・探究心に憧れて遂に禁断の新世界NEUEに接触をしてしまった・・・

「NEUE・・・」

そして、リコとカズヤが知り合ってしまった・・・

「でも、貴方はそれを切り離す事ができなかった・・・」

「・・・・・・」

俺はクイと軽くワインを飲んだ。

「ああ・・・あんなに好き合っているんだ・・・どうやって切り離せと言うんだ・・・」

「・・・だから、あの人と対立をしたと?」

「いや・・・むしろ、あいつはあの二人の接触を願っているよ・・・そして、リコとカズヤを鬱陶しく思っている奴は、今はNEUEでの準備中さ・・・」

「・・・ブラウド財閥のゼイバー・ブラウド総帥ですね・・・?」

「ああ・・・ブラウドはリコの誘拐にも手を貸していた・・・おそらくは誘拐して消す気だったのだろう・・・しかし、失敗したのでずっとNEUEからこそこそ小細工を仕掛けているのさ・・・」

に怯えてな・・・)

シャトヤーンは少し表情を曇らした・・・

「ブラウドは・・・その・・・」

シャトヤーンが言いにくい理由は俺が良く知っている・・・

「ブラウドは待っているのさ・・・俺が倒れるのを・・・

まぁ、確かにどうせ時間の問題だろうがな・・・

「シャトヤーン・・・」

俺は懐からアレを取り出して、シャトヤーンに手渡した。

「これは・・・花飾り・・・」

「ああ・・・俺のお守りだ・・・それを持ってからは負けた事が無いんだ・・・」

「でも、どうしてこれを私に・・・?」

「ん?今回の戦場には持って行きたくないんだよ・・・それに、それは俺の手で返すって決めたからな・・・」

そう・・・俺の戦争が終わった時に、この手で・・・

「あ、あなた・・・まさか・・・」

俺はワインを置き、仮面を外してシャトヤーンの目を見た。

おそらく、シャトヤーンには俺の真紅の眼が見えているだろう・・・

「戦いが終わるまで安らかに眠るんだ・・・」

俺は今までの感謝を込めてシャトヤーンにキスをした。

 

 

「ロキ・・・俺、実は怖いんだ・・・」

俺はロキの前で今の心境を正直に話す事にした。

あ〜あ〜殴られるだろうな・・・

しかし、いくら皆の前で強がっても、戦いへの不安が消えないんだ。

相手はあの死神のメシアなんだ・・・

「そんなの当たり前だろうが、馬鹿。」

「え?」

しかし、ロキは俺の予想を覆す事を言った。

「怖くない戦いなんてあるかよ・・・戦いとは常に自分の奥底に潜む敵への恐怖心との勝負だ・・・それに戦いに勝てばどんなに無様でもでいいんだよ・・・」

「悪い・・・情けない事を言ってしまったな・・・」

「・・・敵は弱点の無い最強の敵・・・そして、それへの対抗策は無い・・・この状況下で呑気に構えている方がどうかしているぜ・・・それに、お前あいつに恐怖心を抱いているのはそこまでこれからの考えているからだろうが・・・」

「ロキ・・・」

まったく、こいつには頭が上がらないな・・・

「まぁ、飲め・・・」

ロキがお代わりしてくれたグラスを軽く飲んだ。

「いいか・・・タクト・・・明鏡止水の心を忘れるな・・・」

「明鏡止水・・・」

澄んだ心・・・

完全を維持する為にアイツの戦いは常に計算されている・・・しかし、それではどうやっても、明鏡止水の域にまでは達せない・・・」

「・・・それが唯一の突破口か・・・」

「いや・・・もう一つお前は大事な事を忘れている・・・お前が、あのアバジェスと戦った時、お前はどうした?」

「え?・・・確か・・・距離を離さないように・・・あっ!」

そうか・・・そうだった・・・一つだけ策があった。

「その様子だと気付いたみたいだな・・・」

「ああ、俺は俺の得意分野で戦えばいいんだ。」

「そうだ。七番機は優秀な接近戦用の機体だ。接近戦にかけては相手がアルフェシオンであろうと、そうそう引けはとらない・・・」

「そうか・・・アイツの領域で戦わなければいいんだ!」

「そういう事だ・・・ただし、あいつだってその事は十も承知だから、何とかしてでもあの紋章機の機動性を殺す方法を探すんだ・・・

「わかった・・・!」

俺はそういうと・・・ミルフィーの頬に軽くキスをした。

(ミルフィー・・・必ず帰ってくるからな・・・)

そして、ロキに振り返って例の赤いハチマキを返す事にした。

「・・・?」

ロキもさすがに怪訝そうな顔で俺を見ている。

「まだ、戦いは終わってないぞ・・・?」

「ああ・・・でも、俺はお前からこのハチマキをもう一度返してもらう・・・」

「ふ・・・そういう事か・・・」

「ああ・・・勝つ負けるでは無く、必ず生きて戻ってくる・・・」

「いい返事だが、勝たなきゃ意味がねぇぞ。」

「ああ!もう恐怖なんて吹っ飛んだ!今度は俺があいつを叩きのめす番だ!!」

「その意気だぜっ!」

ロキが俺の手を握って激励してくれた。

「じゃあ、ちょっと寝てくる・・・」

「ん?てっきりここで眠るのかと思ったぞ?」

「悪い・・・でも今は、ミルフィーに甘えている時じゃ無いんだ!」

「そうだな・・・ああ、行って来いよ!相棒の元へ!!」

すっかりばれているな・・・

俺は相棒への元へと向かった・・・

 

「エオニア・・・今までの任務、本当にご苦労だった・・・」

ブリッジに佇んでいるエオニアは表情をひとつ崩さずに聞いていた・・・

「・・・・・・」

俺はエオニアを予定通り、解任する事にした。

今度の戦いは本当の殺し合いになる・・・

シリウスも帰ってこないが、恐らく戦闘開始と共に乱入してくるだろう・・・

「隊長・・・私は・・・」

「エオニア・・・これからは一個人としてお前に頼みたい事がある。」

「・・・・・・何なりと・・・」

「シャトヤーンを皇居まで返してくれんか?」

「隊長・・・あなたは・・・まさか・・・」

エオニアはもう気付いている・・・今まで崩さなかった表情を不安気に崩している・・・

「ああ・・・だからこそ、お前に頼むのだ・・・」

「・・・了解しました・・・しかし、私は今でもメシア隊の一員です。」

「エ、エオニア・・・」

「だからこそ、私は最初に誓った使命を最後まで果たします!いえ!果たさせててください!!使命を果たせなくて何の為の命でありましょうか!!

私の為に犠牲になったシェリー達やEDENの民の為にも・・・この命を使い果たしてでも成し遂げなければならない事があるのだ・・・!!

「・・・・・・わかった・・・ならば、エオニア!」

エオニアはビシっと敬礼をした。

「ならば、最後まで己の使命を果たしてみせよ!!」

「はっ!!」

俺はエオニアの敬礼に同じ敬礼で返して相棒の元へ向かう事にした。

これ以上、エオニアと話す事は互いに無粋だ・・・

俺とエオニアは戦士なのだから・・・

ただ、最後に・・・

「エオニア・・・死ぬなよ・・・!」

それだけを言い残して、俺は相棒の元へと向かった。

ブリッジに残ったエオニアは最後まで敬礼を崩さなかった。

(隊長こそ・・・)

 

俺は相棒のコックピットで眠りについていた・・・

「いよいよ、明日か・・・」

思えば俺には長い日々だったな・・・

死神のメシアに誘拐されてから、殺されて、神界へ赴き、ルシファーと出会い、分かれて、この相棒と共に・・・強くなって帰ってきた・・・

奇跡の体現者なんて知らない・・・

俺は騎士なんだ・・・

攻撃だけが、全てじゃない・・・

本当に今度こそ・・・俺はあの死神のメシアからみんなを守ってみせる・・・

そして、ミルフィーユ・桜葉を取り戻す!

ミルフィーを眠らせているあいつを倒せば、ミルフイーは目を覚ます筈だ・・・

だから、一緒に最後まで勝ち残ろう・・・七番機・・・

そして・・・

「決着をつけるぞ・・・!レイ・桜葉・・・!!」

 

 

は相棒のコックピットで眠りについていた・・・

「いよいよ、明日か・・・」

思えば、長く待たせられたものだ・・・

神界戦争・・・EDENの創世・・・時空震・・・あの馬鹿女の転生・・・シャトヤーンとの出会い・・・リコとの出会い・・・そして、ガキ共の世話係・・・

完全の体現者などあるものか・・・

今の俺は戦士だ・・・

攻撃だけが全てのこの俺のどこが完全か・・・

しかし、俺は最後まで戦い続ける・・・大事な者達を守る為に・・・

その為に悪魔と化そう・・・

命・・・魂・・・俺の全てを出し尽くしてこの勝負に挑む・・・!!

だから、もう少しだけ我慢してくれ・・・アルフェシオン・・・

そして・・・

「決着をつけるぞ・・・!タクト・マイヤーズ!!」

 

そして、翌日・・・

遂に

トランバール皇国軍ネオ・ヴァル・ファスク

最後の戦いが始まった・・・!!!

 

勝つのは奇跡か・・・

それとも完全か・・・

 

生き残るのは

タクトメシアか・・・

 

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