第二章

 

〜白き月攻防戦〜

(前編)

 

遂に、トランバール皇国軍とネオ・ヴァル・ファスクの決戦の時が来た。

タクト達は既に紋章機と無人艦隊を展開してトランバール宙域で待機していた。

それらの部隊の戦闘に立っているのはタクトの七番機だ・・・

 

敵はおそらく出てくる・・・

何故なら、既に白き月がタクト達の前に出ているのだから・・・

 

「来い・・・レイ・桜葉・・・」

タクトは目を瞑って、宿敵の到着を待っていた・・・

死神のメシア・・・レイ・桜葉・・・恋人の実兄で今回の黒幕である。

そして、タクトの天敵でもある。

青い綺麗な星がタクト達を見守っている・・・

「本星を見ていると決戦前だっていうのに緊張感が和らぐねぇ・・・」

フォルテは愛機と共に本星を見下ろしている・・・

「そうですね・・・本星がこんなに綺麗だとは思わなかったです・・・」

ランファも微笑を浮かべながら本星に魅入っている。

「あらあら、ランファさんがそんな事をおっしゃるとは意外ですわね。」

「そういうお前こそしっかり見ているじゃねぇかよ。」

毒舌のミントに毒舌で突っ込むアニス・・・

「ママ〜!これが本星なのだ?」

「ええ・・・そうです・・・」

ヴァニラとナノナノも本星が放つスターライトを眺めている。

「ミモレット・・・怖くなったらあなただけでも逃げなさい。」

「いやですに〜!それにご主人様は撃墜などされないですに〜!」

テキーラの膝の上をポヨンポヨン飛び跳ねながらミモレットはテキーラを励ました。

「使い魔に励まされるなんて、私もヤケがまわったものね・・・」

テキーラだけでは無い・・・全員が恐怖心を誤魔化しているのだ・・・

今度の戦いでは最強の敵と最後まで戦わなければならない・・・

無事に生還するというのは無理な注文だろう・・・

しかし、ここで逃げても死神の止めれる者などいない・・・

「・・・剣は守る為に抜くものか・・・」

リリィは昨日の宴でアバジェスに教わった事を思い出していた・・・

「・・・そうだな・・・陛下の下に戻る為にもこの戦は負けられない・・・」

 

「いよいよか・・・」

ロキは皇居に設けられた司令室からタクト達の様子を見守っていた。

「ああ・・・もう、近くまで来ている・・・」

アバジェスはこれから起こる事を全て知っているかのように落ち着き払った様子でモニターを見ていた。

「ロキ殿、阿部殿・・・よろしく頼む・・・」

シヴァは玉座に座ったまま二人の戦士に頭を下げた。

「任せておきな・・・元を正せば俺達の起こした戦争でもあるしな・・・」

「ロキの言う通りです・・・これは俺達、神界の時代から続いてきた戦いです。」

「ロキ殿・・・阿部殿・・・かたじけない・・・」

「なぁに、良いって事よ・・・それよりもリコが心配だな・・・」

ロキは新・クロス・キャリバ−を見ながらつぶやいた。

「アプリコットがどうかしたのですか?」

「ああ・・・あいつはまだ、軍人としての心構えがなってない・・・果たして、自分の親しい相手を本気で撃てるかどうか・・・

「ちちう・・・レイ・桜葉の事か?」

「それもあるがな・・・」

「・・・なるほど・・・」

アバジェスはロキが言いたい事を大体、察した。

「ロキよ、いざとなればお前が、リコを叱咤しろ・・・」

「わぁってるよ・・・でも、なるべく言いたくねぇな・・・」

ロキは苦虫を噛み潰した顔で頭を掻いた。

 

「カズヤさん・・・私、あの人を倒します・・・」

「リコ・・・」

リコが言っているのあの人とはレイ・桜葉さんの事だろう・・・

「いいのかい・・・あの人は君のお兄さんなんだよ・・・」

君を今でも守り続けている・・・本当のお兄さんなのに・・・

「できれば、戦わずに済むのならそうしたいです・・・でもあの人が戦いを選ぶのであれば戦うしかないです・・・」

(お姉ちゃんの目を覚ます為にも・・・シリウス君を解放する為にも・・・)

その時の僕は鈍感でリコがそこまで思いつめているなんて気付かなかった・・・

 

タクトは目を閉じて、待っていた・・・

最強の敵を・・・

(ミルフィー・・・必ず君を取り戻して見せる・・・!)

既に気持ちは恐怖心から闘争心へと変わっている・・・

その時、七番機のレーダーが敵機をキャッチした。

「みんな!来るぞ!!」

 

イメージ曲 BEYOND THE TIMEで・・・(;^^)

 

次の瞬間、白き月を中心としてゼックイや戦艦が次々とドライブ・アウトしてきた。

その数はメベト大艦隊ほどにでは無いにしろ、この戦況においてはベストな配置だった・・・ゼックイと戦艦の割合は大体7:3だ・・・

死神のメシアらしい、少数精鋭部隊だ・・・

しかし、この部隊こそがネオ・ヴァル・ファスク最強の部隊に違いは無い・・・

 

「来たな・・・レイ・・・」

「現状況でゼックイが4000機、戦艦が900機ですね・・・実戦的な数ですね・・・メベトとは違い、効率のいい運用法です・・・」

「敵も本気で来るか・・・」

「だろうな・・・こっちは紋章機と無人艦隊6000機・・・紋章機がいかに活躍するかで勝敗は分かれるな・・・」

「ロキ殿・・・阿部殿・・・余に交渉の機会を下さらぬか?」

「おいおい・・・話が通用する相手じゃないぜ?」

「わかってはおるのだが・・・どうしても、一言だけ試したいのだ・・・」

「・・・まぁ、譲ちゃんの好きにしてみればいいけど、あいつはそんなに甘い奴じゃないぞ・・・おそらくは無視するだろうよ。」

「それでも、かまわぬ・・・」

アバジェスが閉じていた目を開いた。

「来たぞ・・・」

 

次の瞬間、オペレーターが報告した。

「敵から通信です!」

「繋げ!」

 

モニターに銀髪で赤い仮面をつけた男が映っていた・・・

そして、紋章機のモニターにも・・・

どうやら、仮面をつけた男は戦闘機らしきコックピットにいるみたいだ・・・

「メシア・・・」

タクトは宿敵をモニター越しに睨み付けた。

しかし、宿敵の方はタクトでは無く、他を見ていた。

 

「こちらは、ネオ・ヴァル・ファスク 総帥 死神のメシアだ・・・」

「こちらはトランスバール皇国軍 女皇 シヴァ・トランスバールだ・・・」

モニター越しに対峙する父と娘・・・

「こちらの要求はただ一つだ・・・死ね。」

死神は躊躇無く、皇国に対し死刑宣告をした。

「し、死ねだと・・・!?」

シヴァが予想外の暴言に体をわなわなと震わせた。

「ああ・・・文明開化のみに突っ走り、NEUEとの接触を始めてしまったお前達は既に許されざらぬ重罪人だ・・・よって、神の名の下に制裁する・・・」

(とんだ役者だな・・・それはお前の言葉では無くあいつの言葉だろう・・・)

「神の名の下だと・・・この悪党がよくもヌケヌケと・・・!!」

「悪党・・・馬鹿かお前は?」

「な!?馬鹿だと・・・!?」

善と悪など誰が決める?・・・お前達から見れば俺は悪党かもしれないが、俺から見ればお前達が悪党なんだよ・・・こちらも正義の下に制裁を下すのだ・・・それに、善悪などにこだわっているようではお前に王たる資格は無い。恥を知れ・・・」

 

俺はコイツの暴言に我慢できずに割り込んだ。

「正義・・・お前がそれを言うのか・・・!?」

「・・・誰かと思えば、タクトか・・・生きていたのか・・・ふ、存外にしぶといな・・・」

死神のメシアは退屈そうに息を吐いて挑発した。

「よく言う・・・お前は最初から全部知っていた癖に・・・メベトを切り捨てた癖に!」

「ああ・・・あの影武者がどうかしたのか?」

「お前は・・・!」

「あいつはエオニアと同様の道具だ・・・使わないでどうする・・・」

「酷いです・・・」

「何て野郎だ・・・人間を道具と同じとしか思っちゃいねぇ・・・!!」

「酷い?フ・・・シスター・ヴァレルと同じで甘い事を言うな・・・ヴァニラよ・・・」

「え・・・?」

「お前は覚えてないかもしれんだろうがな・・・」

「あなたは・・・私の事を知っているのですか・・・?」

「ああ、お前だけじゃなくて他の奴の事も何でも知っているよ・・・そして、アニスよ、人間を道具としか思っていないとの指摘だが、俺が何か間違った事を言ったのか?」

「あんた・・・自覚が無いのね・・・」

「蘭花・フランボワーズ・・・製造タイプB・・・虫けら同然の人間共が繁殖する農耕惑星で育ち、惨めな生活を送る・・・兄弟の数も多い・・・ふふ・・・その内、どこかに売り飛ばされなければいいがな・・・あははは・・・!!」

「こ、こいつ・・・!!」

「貴方はその虫けら以下ですわ・・・」

「ふふ・・・お前に言われる筋合いは無いぞチビ・・・」

「・・・・・・」

ミントは珍しく嫌悪感を丸出しにして死神を睨んでいる・・・

「ミント・ブラマンシュ・・・製造タイプAB・・・ダルノーの娘・・・ダルノーはその虫けら同然の人間共から金を巻き上げてあそこまで発展したのに・・・お前はお嬢様か?世間知らずのガキがわかった気でいるのは滑稽だぜ・・・」

「それはあんただろう・・・」

「ほう・・・フォルテかぁ・・・お前も言うようになったものだな・・・」

「・・・あんたがあたし達の事をどう思おうがいいさ・・・あたし達のする事は変わらないよ・・・あんたみたいな典型的な悪党を討つって事はね・・・!」

「フォルテ・シュトーレン・・・製造タイプO・・・ゴミの中から這い上がってきたうじ虫だな・・・ふふ、お前の心の中はお見通しさ・・・お前は死ぬのが怖いんだよ・・・他の奴よりも死を知っているだけにな・・・今でも、頭の中に焼き付いているんだろう?マリアの死体がよ・・・ふふふ・・・今、思い出しても無様な死体だったぜ・・・」

「何故、マリアを知っている!?」

「さぁな・・・ただ、死ぬ直前までお前の名前を叫んでいたのは事実だ・・・」

「お、お前が殺したのか・・・?」

死神は楽しそうに口元を歪めるだけだった・・・

「・・・・・・馬鹿だねぇ・・・正直に名乗り出てくるなんて・・・覚悟しな・・・」

フォルテの目に本当の殺意が宿った・・・

「ふ・・・お前に紋章機を与えたのもこの俺だというのにな・・・」

「ああ・・・その紋章機でお前を始末してやるよ・・・死神・・・」

「待ってください!」

突如リコが俺達の回線に割り込んできた。

「貴方は、レイ・桜葉なんですか!?」

「・・・・・・」

今まで楽しそうにしていた、死神が大人しくなった・・・

(レイさん・・・)

でも僕はこの人がこれからどう動くのかを知っている・・・

 

「お願い!答えて!お兄ちゃん!!」

「・・・・・・」

(リコ・・・駄目だ・・・そいつは・・・)

「誰が、お兄ちゃんだ・・・」

「・・・っ!?」

死神の声は先程のものとは明らかに違う・・・

明らかに感情が出ている・・・

「俺は死神のメシアだ・・・それ以外の何者でも無い・・・」

「嘘!あなたは私達を守る為に芝居をしているんでしょう!!」

「そうです!あなたは父様を守ってくれたじゃないですか!」

アプリコットをフォローするちとせ・・・しかし・・・

「・・・言いたい事はそれだけか?」

再び、死神の声から感情が消えた。

「嘘つき!!」

「・・・・・・」

「そんな仮面をつけて誤魔化して・・・!卑怯だよっ!!」

「フン・・・この仮面がそんなに気に入らないのなら外してやる・・・」

死神は耳に引っ掛けてあった仮面の紐を外して、遂にその仮面を外した・・・

 

『・・・・・・っ!!』

全員はその顔に驚いた・・・

その冷徹な性格とは不釣合いの整いすぎた顔で男ですらも魅了する顔・・・

銀の前髪の下に見える真紅の眼・・・

だが、俺達が驚いたのはそこではない・・・

「ミ、ミルフィー・・・」

「お、お姉ちゃん・・・」

天使達は全員信じられない者を見ているかのようにモニターに食い入ってる・・・

 

皇居の司令室ではどよめきが漏れている・・・

「ミルフィーユ・桜葉・・・」

「あのガキ・・・」

 

そう、死神のメシアの顔はミルフィーユ・桜葉と瓜二つだったのだ・・・

「これで、満足かリコ。」

「やはり、あなたはレイ・桜葉なんじゃないですか!」

「だから?」

「え?」

「だからどうした・・・仮に俺がレイ・桜葉だったとしてもそれはもう過去の話・・・今の俺はお前達の敵・・・それだけの事だろうが・・・」

「よく言う・・・誤魔化し続けているお前が・・・」

「・・・何いきがっているんだ?弱虫が・・・」

死神はタクトを侮蔑したように見た。

「何だと・・・?」

「ほら・・・いつものお調子者のお前はどこに行った?いつものタクト節とやらを俺にも聞かせてくれよ・・・くくっ・・・それとも、俺が怖くてそんな余裕も無いのか?」

「き、貴様・・・」

そのミルフィーと瓜二つの顔は彼女とは全く違う扱い方をされている・・・

「紋章機が新しくなったぐらいで俺と対等に渡り合えると思ったら大間違いだぞ・・・」

「お前こそ・・・いつまでも勝てると思うなよ!」

「フン・・・互いに言葉は不要か・・・」

死神のメシアは仮面を放り投げた。

「シャトヤーンは白き月にいる・・・返して欲しければ俺を倒す事だ・・・シヴァ・・・」

「・・・交渉は無理だな・・・」

シヴァは握り拳を震わせて全機に告げた。

「全機、戦闘開始!!」

『了解!!』

紋章機達が一斉にメシアの部隊へと向かっていく・・・

「ふふ・・・お前達全員・・・ここで殺してやるよ・・・」

死神はそう言うと通信を切った・・・

「・・・相変わらずの毒舌だな・・・」

「ああ・・・しかし、エンジェル隊のテンションは最大限まで上がった・・・相変わらず口が上手い奴だ・・・」

ロキとアバジェスはシヴァに聞こえないように話した。

 

「各機はゼックイを集中的に叩くんだ!」

タクトの指示の下、エンジェル隊はゼックイに攻撃を仕掛けていく。

「ち!こいつら、前よりも頭がよくなっているわね!」

ランファはミサイルを軽々しく回避していく、ゼックイに舌打ちをした。

「ランファ!連携を組め!」

「わかってるわよ!」

ランファはスロットルを少し、閉めて後続機と合流し、連携攻撃を加えていく。

 

後方のルクシオールではイグザクト・スナイパーがアルテミスを充填している。

「・・・そこっ!」

光の矢がゼックイ達を串刺しにするかのように貫通していく。

ゼックイは周囲を誘爆で巻き込むが、操者が死神だけあり、何機かのゼックイは誘爆から逃げ切り、一気にルクシオールまで突っ込んでくる!

「舐めるな!」

レスターの号令の下、ルクシオールのレーザーが発射されゼックイ三機を撃墜した。

「副指令!後方にドライブ・アウト反応を確認!・・・ゼックイです!!」

ルクシオールの後方より、ゼックイが12機接近してきた!

「チッ!伏兵か!!」

「任せときな!」

「フォルテ殿、私もいきます!」

フォルテの二連レールガンが5機のゼックイを撃破し・・・

「行け!エクストリームランサー!!」

リリィの放った極限の槍が残りのゼックイを撃破した。

しかし、更にルクシオールの背後に20機のゼックイの増援をキャッチした。

「くそっ!」

レスターはコンソールパネルを打ちつけた。

「わたくしにお任せ下さい!」

ルクシオールを周回していたミントのフライヤーがゼックイの群れに襲い掛かった。

「リリィ!ミントを援護するよ!」

「了解!!」

ハッピートリガーとイーグルゲイザーもトリックマスターの援護に加わった。

 

「アバジェス殿・・・?」

「話しかけるな。今、あいつは無人艦隊を動かしているからな・・・」

「・・・・・・」

俺はは目を瞑ったまま無人艦隊を動かす事に集中していた・・・

エンジェル隊を巻き込まないように砲撃戦を仕掛けねばならない・・・

狙うのは敵の戦艦のみ・・・

何故なら、ゼックイ達はエンジェル隊だけを狙っているからだ・・・

あいつはタクトと一騎打ちをしたがっているのだ・・・

 

「あたれ!」

ブレイブ・ハートから射出された高性能フライヤー12機はゼックイ30機あまりをあっという間に撃墜していった・・・

「凄いです・・・カズヤさん!」

アプリコットだけではない俺もカズヤの成長振りには驚いていた。

「でぇい!!」

そして、俺はエクスカリバーで目の前のゼックイを一刀両断にした。

七番機は集団戦向きの機体では無い・・・

「・・・それにしてもあいつは何処に隠れているんだ・・・?」

その時、いきなり、ロキからの指示が出た。

「タクト!お前は白き月へ行け!」

「白き月・・・そうか!そこにあいつがいるんだな!?」

「ああ!絶対にあいつを他の天使達と交戦させるなよ!」

「了解だ!カズヤ!後の指揮は任せたよ!」

タクトはそう言うと七番機を白き月の方へと向けて飛んで行った。

 

「了解!いくよ!リコ!!」

「はい!・・・・・・あぁ!」

「どうしたの!リコ!?」

アプリコットは二時の方向から接近してくる136機近くのゼックイの大軍を発見した。

「あんなに・・・!?」

「カズヤさん!二時の方のゼックイをハイパー・ブラスターで撃破します!」

「わかった!」

カズヤが機首を二時の方向に向けてアプリコットはビーム砲のエネルギーを充填していく・・・新たに追加されたビームの出力レベルが上がっていく・・・

威力の調節に気をつけろ・・・

アプリコットは紋章機を改造した兄の言葉を思い出して、出力レベルをMAXのギガから一つ下のメガに合わせて発射した!

「いっけぇぇーーー!!ハイパァァー・ブラスタァァァーーーー!!!」

次の瞬間、クロス・キャリバーの二連の砲身から今まで見た事の無い巨大なビーム砲が発射された。

「うわあぁぁーーー!す、凄い衝撃だ!!」

カズヤはコックピットの中で揺らされながらその出力の大きさに驚いていた。

ゼックイの大群はそのビームに飲まれて消滅していった。

「す、すごい・・・」

発射したアプリコット自体が今の状況に驚いていた・・・

 

「ふ・・・我ながら少し、改造しすぎたか・・・」

死神はコックピットの中からエンジェル隊の奮戦を見物していた。

「・・・タクトがこっちに向かってくるか・・・・・・ん?」

死神はこちらに接近してくる新たな敵機を察知した。

「来たな・・・復讐鬼め・・・」

 

「く!ゼックイが邪魔で前に進めない!」

俺は次から次へと襲いかかってくるゼックイに阻まれて少しも白き月へと近づけない・・・あいつがそこにいると言うのに・・・

(くっくっくっ・・・みぃぃぃつけたぁ〜〜〜♪)

その時、死神はそ毒々しい爪を研ぎ澄ましながら密かに獲物に接近していた。

「・・・な、なんだ・・・?この殺気は・・・」

この殺気はレイのものより深い・・・威圧感はしないが、不気味なオーラを感じる・・・

「だあっ!」

俺はゼックイを撃破しながら辺りを警戒した・・・

「どこだ・・・どこから仕掛けてくる気だ・・・」

(さぁ・・・殺し愛といこうぜぇ・・・!)

そして、死神が獲物に襲い掛かった!!

「ヒャアアアアアアァァァァァーーーーーーーー!!!」

七番機は突如襲いかかってきた歪な赤紫の戦闘機の奇襲を喰らった!

「こ、こいつは・・・!?」

七番機はかろうじてエクスカリバーでそのデスクローを受け止めて、敵もタクトと距離を離した。

「今度こそミンチにしてやるよぉ〜・・・タクトちゃんよぉっ!!!!」

「シリウスか!!」

 

「シリウス君!?」

私はレーダーにシリウス君の機体を確認した。

「まずい!タクトさんはあの人との戦いがあるのに・・・!」

「カズヤさん!行きましょう!!」

「ああ!」

私とカズヤさんはタクトさんと合流する事にした。

 

「シリウス!いい加減に答えろ!俺が何をしたと言うんだ!?」

「そんなに聞きたいかぁ〜・・・?」

シリウスはデスクローを弄びながら答えた・・・

「そこまで言うのなら、教えてやる・・・それはお前がミルフィーを死なせててしまったからさ・・・

な!?何だって・・・!?

「馬鹿な事を言うな!彼女は生きている!!」

「ふん・・・お前でなくても、タクト・マイヤーズという大馬鹿はミルフィーユ・桜葉を死なせてしまったんだよ・・・

「一体、さっきから何を言っているんだ!?」

シリウスの話は全く意味が分からない!

「まぁ、いいさ・・・いずれわかる事さ・・・」

「また、それか!いい加減にしろ!」

「そう、いきり立つ必要は無いぜぇ・・・何故なら、今日この場所でテメェは俺に殺されるんだからなぁ・・・?」

「ふざけるな!」

「なら、来いやあぁぁぁぁーーーーッ!!!」

シリウスはデスクローを構えながら、13機のフライヤーを展開した。

「くそッ!」

俺は直感を頼りに遠隔攻撃を仕掛けてくるフライヤーを撃墜していく・・・遠いのは後回しにして近いものから撃墜していく。

「オラァーーーー!!!」

「こいつ!無茶苦茶だ!!」

シリウスは自分のフライヤーのビーム砲に当たりながらデスクローで襲い掛かってきた。シリウスの戦闘機にはあの強力なフィールドが展開されている為、フライヤーのビームは吸収されていくが、とても正気の戦い方とは思えないほどのデンジャーだ!

「何の!!」

俺はエクスカリバーで受け止めた!

「チィ・・・この野郎・・・っ!」

俺とシリウスは鍔迫り合いを始めた。

七番機のパワーと互角に渡り合うシリウスの戦闘機・・・

「くく・・・く!」

「こ、この野郎・・・!」

ここで力負けをしたら最後だ・・・!

「チッ!」

シリウスは空いていた左腕のデスクローで七番機を切り裂こうとしてきた!

「くそっ!」

俺は七番機のブースターをフルにしてシリウスに突進をかけた!

「ヤ、ヤロオォォォォォーーーーー!!」

シリウスの戦闘機は七番機のパワーに勝てずに、七番機から突き放された。

「舐めんじゃねぇぞ!!コラァァァーーーッ!!」

シリウスは突き放された次の瞬間、再びデスクローを構えて狂犬の如く、飛び掛ってきた!俺は機体を反転させて接近してきたゼックイの群れの中に敢えて飛び込んだ。無論、ゼックイ達を俺を排除しようと斬りかかってくるが、ゼックイの攻撃は容易に迎撃できる。それよりもあの化け物戦闘機の方が危険だ!

「チッ!」

案の定シリウスはゼックイが邪魔で思ったように進めない・・・

「・・・く、くっくっくっくっ!・・・あははははははは!!」

次の瞬間、シリウスの戦闘機は両手を上にかざし、その手には紫電が走り始めて、紫色の粒子が蓄積されていく・・・おい!まさか!?

「こ、こいつ!?」

俺は七番機を急いでシリウスの戦闘機から離して行く、幸いに前方のゼックイをあらかた片付けていたのでさほど、障害は無かった・・・しかし・・・

「混沌の糧になるがいいっ!!」

次の瞬間シリウスの手から放たれた紫色のボールが俺の方向に投げつけてその途中経過にいたゼックイの群れを飲み込んで瞬時に消してしまった。

「な、なんだ・・・?ゼックイが消えた。」

そして、次の瞬間、シリウスの戦闘機に12枚の光の翼が現われた。

「ウッメエェェェェェーーーーーーーーーー!!」

 

「ゼックイを喰いやがったな・・・化け物め・・・」

死神はコックピットのモニターからその一部始終を見ていた。

 

「さぁ!今度こそテメェの番だぁ!!」

シリウスの戦闘機の手に紫電が走った・・・また今のを撃つつもりか!?

「はじけろや・・・!」

シリウスが紫色のボールを放とうとした次の瞬間、強力なビーム砲がシリウスを直撃した。かなりの出力らしく、シリウスの機体はバリアに守られながらもバランスを崩した。それにしてもこの赤色のビーム砲には見覚えが・・・

「タクト!」

そして、俺を庇うかのように立ちはだかったのは何とエオニアだった!

「エ、エオニア!?」

「義によって助太刀する!」

「エオニア・・・どうして・・・?」

「シリウスは既に人間にあらず、皇国を喰らい尽くすだけの化け物だ!私は元々、シリウスを監視する為にメシア隊に所属していたのだ!

おそらく、今のエオニアは嘘をつかない筈だ・・・そう信じたい・・・

「エオニア〜?お前、自分が何をしているのか分かっているのかぁ〜?」

シリウスは脅迫じみた声でエオニアを尋問した。

「不穏分子の排除だ・・・!」

「不穏分子〜!?そりゃあテメェの事だろうがよぉ・・・!!」

シリウスは再び、ツメを構えた。

「既に僚機のゼックイをもはや、僚機とすらも思わぬお前はメシア隊にもあらず・・・ここでお前を成敗する・・・この命に代えてもな・・・!」

「だったら、お望み通り無様な犬死をさせてやるぜぇ・・・!」

 

「エオニア・・・」

シヴァはエオニアとシリウスのやり取りを聞いていた・・・

「譲ちゃんよ、あの兄ちゃんの言っている事は本当だ・・・協力をしてくれるのなら素直に受け入れた方がいい・・・」

「・・・・・・」

シヴァの中で葛藤が芽生える・・・

「昔にこだわってないで・・・今の現状を見ろって・・・」

「し、しかし・・・」

そんなに簡単に割り切れない・・・エオニアのせいで多くの犠牲が出ているのも確かだ・・・

「やれやれ・・・」

ロキはそう言うとシヴァの胸を鷲掴みにして揉み始めた。

「わっ!な、何をするか!?この無礼者ーーーっ!!」

「う〜ん〜もう少しって所だな〜」

「何の話だ!離さぬか!!」

「ヤだ。」

「や、やめろーーーー!!」

「ちぇ〜わぁったよ・・・」

そう言うとロキは素直に胸から手を離した。

「い、一体、戦闘中に何を考えているのだ!!」

「・・・戦闘中にぐずぐず昔の事にこだわっていると自分の身を滅ぼすぜ・・・」

「え・・・」

「お前さんとエオニアの事は知っている・・・けどな、現状を見ろよ。今回の戦いは互いの総力戦だ。そんな状況下でエオニアが伏兵とは考えづらいだろう・・・」

「・・・・・・」

「譲ちゃんよ・・・お前さんは王なんだろう?だったら、つまらない事にこだわってないで、大局的に戦況だけを見ろよ・・・戦況が有利になる事に変わりは無いだろう?」

シヴァはその言葉に軽く微笑んでロキに礼を言った・・・

「すまない・・・ロキ殿・・・」

「なになに・・・可愛い孫の為さ・・・」

「・・・それはそれとして胸を揉む事に何の意味があるのですか・・・?」

シヴァは先程とは一転して非難するかのような目でロキを見た。

しかし、ロキはニコニコと笑うだけだ・・・

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「てい♪」

ロキは神速の速さで今度はシヴァの脇下をくすぐり出した。

「うわっはっはっはっ!や、やめろーーーー!!」

(静かにしろ・・・お前ら・・・)

アバジェスがそんな事を考えている事など二人は知らない・・・

 

「カズヤさん!あそこです!!」

リコの示した方を見ると、タクトさんが何者かと戦闘に入っていた。

「あれはシリウスとエオニア!!」

まずい!2対1か!?

「あ、あれ・・・?カズヤさん、タクトさんの方、何か変ですよ!?」

「え?」

僕はリコの指摘を見て、タクトさんとメシア隊の交戦を見ていた。

エオニアのゼックイが・・・シリウスに向けてビームを発射している!?

「ど、どういうなっているんだ・・・?」

「タクトさん!タクトさん!!応答してください!!」

私はタクトさんの七番機に呼びかけた。

「リ、リコか!?」

緊迫したタクトさんの声が返ってきた。

「一体、どうなっているんですか!?」

「エオニアは俺に協力してシリウスと戦ってくれているんだ!」

「え・・・」

「悪い!これ以上説明していられる余裕は無い!!」

そう言うと七番機からの通信が途絶えた。

「リコ!僕達もシリウスを叩こう!!」

「は、はい・・・」

「リコ・・・どうしたの?」

「い、いえ!何でも無いです・・・」

シリウス君・・・あれは夢だったんだよね・・・?

「リコ・・・まさか君は・・・」

そうだ・・・私、カズヤさんに夢の事を話していたんだ・・・

「いえ!いきましょう!」

「リコ・・・」

 

「・・・・・・っ!」

エオニアのメガ・ビーム・キャノンがシリウスをいい具合に牽制する。

「チッ!このくたばりぞこないが!」

シリウスは新たに14機のフライヤーを射出してエオニアに向けて放った。

「させるか!」

俺はそのフライヤーを切り払う!

「このぉっ!!鬱陶しいんだよぉーーーー!!」

シリウスはデスクローを構えて今度は俺に向かって襲い掛かってくる!

「シリウス!!」

「タアァァァクトオオオオオオオォォォーーーーーーーーーーー!!!!!」

地の底より響く狂犬の咆哮!

ガキィンと悲鳴をあげてぶつかるエクスカリバーとデスクロー・・・!

しかし、そのデスクローに僅かなヒビが入っていたのを俺は見逃さなかった!

「ウオオオォォォォーーーーーー!!」

シリウスのデスクローにエクスカリバーを叩きつける!

「な!何だと・・・!?」

そして、遂に右腕のデスクローが砕け散った・・・

「・・・・・・・・・」

シリウスは驚愕して砕け散った右腕を眺めていた・・・

「どうする!まだやる気か!?」

「くっくっくっ・・・!人間風情がよくぞ、ここまで抗ったものだ・・・」

・・・っ!?

違う・・・こいつはシリウスなんかじゃ無い・・・

「タクト?どうした!?」

「エオニア・・・あいつは本当にシリウスなのか?」

「あ、ああ・・・」

何故か、エオニアはバツが悪そうに返した・・・

「誉めてつかわす・・・」

シリウスは何を思ったか、左腕のデスクローを引き剥がして放り投げた。

「・・・なっ!?」

「褒美としてこのが直々に相手をしてやろう・・・」

シリウスの左手にもやもやとした霧が収束していく・・・

そして、それはやがて一つの剣となった。

「な、なんだ・・・あの剣は・・・?」

シリウスの召還した剣はダインスレイブとは違った意味で実体を持っていない・・・早く言えば霧が剣の形をつむぎ出していると言った感じか・・・

 

「・・・っ!?」

死神のメシアは思わず息を呑んだ・・・

「・・・まさか、あいつが直々に降臨するとはな・・・」

死神はタッチパネルを操作してモニターで観戦しながら小さくつぶやいた。

来たな・・・最凶の敵が・・・

 

「さぁ・・・余を楽しませてくれ・・・」

何故だ・・・俺はコイツと前に会った気がしてならない・・・

シリウス?は剣を弄びながら、剣の先に黒い霧を固まりを呼び出した。

「さぁ・・・殺し愛の始まりだ・・・・」

黒い霧の塊はやがて溶けた綿飴のように液体状のような粒子状の球へと変化した。

「しねえぇぇぇーーーーーーーーーーーー!!」

そして、シリウス?はそれを投げつけてきた!

俺はエオニアのゼックイを引いてその場から離れた!

次の瞬間もの凄い爆発が俺達を飲み込んだ!

「ぐわぁぁーーーー!!」

「−−−−っ!!」

 

「・・・・・・っ!?」

突如、アバジェスは目を覚ました。

「うわ!?な、何だよいきなり!?」

「ロキ・・・最悪の状況になった・・・」

「何・・・?」

俺は妙な胸騒ぎを覚えて聞き返した。

「レイを蝕んでいるのは神皇なんかでは無い・・・最も最悪の敵だ・・・

「お、おいおい・・・まさか、いきなりあいつがおいでになるっていうのか!?」

「お前はシヴァ様に俺が他所で集中していると伝えろ。俺はEDENからアルフェシオンを隔離する為の準備に入る!」

「おいおい!艦隊はどうするんだよ!?」

「AIに切り替える・・・効率は下がるが、やむを得ん・・・!」

「・・・そ、それに、そんな事ができるのかよ?」

「俺を誰だと思っている・・・」

その目は自分が元・神王だと言いたげだ・・・

「ひねくれた猫好き。」

バキィ!!

アバジェスはロキを一発殴って準備へと向かった・・・

(出来なければ、EDENは神界の二の舞になるだけだ・・・!!)

 

「な、何だよ!?今の爆発は!?」

アニスは8時の方向で起きた巨大な爆発に思わず振り返った。

「親分!あっちはタクトのいた方向なのだ!」

「・・・っ!ナノ!俺の事はいい!タクトのところへ行け!」

「親分一人では危ないのだ!」

「うるせぇ!俺をナメるな!いいからタクトの修理に向えってんだ!!」

「わ、わかったのだ!」

ファーストエイダーはタクトの方へと進路を切り替えてアニスの下から離れていった。

「へ・・・このアニス様がトレジャーハンターだって事を忘れるなよ・・・」

アニスは向かって来る20機あまりのゼックイ達を目の前にしながらも臆する事無く突き進んでいった。

「いっくぜえぇぇぇぇーーーーーー!!!!」

そして、次の瞬間アニスのジェノサイドボンバーがゼックイ達を飲み込んでいった。

「へへ!爆発の元祖はこの俺だぜ!」

「ちょっと、危ないじゃないのよ!」

その時、テキーラから通信が入ってきた。

「あ、わりぃわりぃ・・・いたのか?」

「当たり前でしょう!」

「まったく、とんだトレジャーハンターですに〜・・・」

アニスはテキーラ達からの非難を受けながらも次々に接近してくるゼックイ達へとターゲットを切り替えていた・・・

 

「ふふふ・・・虫けらにしてはよくぞ耐えた・・・」

「ぐぐ・・・」

俺の七番機は何とか持ちこたえたが、エオニアのゼックイは既に大破寸前だ・・・

エオニアのゼックイの耐久力は低くは無い筈なのに・・・

シリウス?の放った魔力の球の威力は常識を凌駕する程だったのだ・・・!

「お、お前は一体・・・」

「ふふ・・・お前の考えている通り、お前と我は以前にも会っている・・・

俺の考えが読めるというのか・・・

「くくく・・・俺には動作も無い事だ・・・」

それにしても喋り方が一定しない奴だ・・・まるで混沌のようだ・・・

 

「タクトさん!」

その時、カズヤの声が聞こえたかと思うと、シリウス?の機体をいく筋ものビーム砲が襲った・・・しかし、全てシリウス?のフィールドに弾かれてしまったが・・・

「ほう・・・誰かと思えばNEUEの騎士か・・・」

「シリウス君!もう、止めて!!」

「ふはは・・・!そしてフェイトもセットでついてくるとはな!」

「え・・・?」

シリウス君・・・?

「ふふふ・・・よくぞ来た・・・フェイトよ・・・お望み通り殺してやる・・・

・・・っ!?違う!この人はシリウス君なんかじゃない!

シリウス君はそんな事をいう子じゃ無い!

「違う!あなたはシリウス君なんかじゃない!!」

「あはは♪俺はシリウスだぜ?俺を殺せばシリウスも死ぬんだからなぁ・・・」

「ひ、酷い・・・あ、あなたがシリウス君を・・・?」

「酷い?くっくっくっ!それも運命の一つでは無いのか?」

「そんな運命!私が認めない!!」

「ふはははは!!OK!OK!!・・・ならばかかってこいやぁぁーーー!」

カズヤとリコの紋章機がシリウス?に攻撃を仕掛けた・・・俺も行かなきゃ・・・

「エオニア・・・後は俺に任せて退くんだ・・ここで犬死しても仕方が無い・・・」

「・・・・・・すまん、頼んだ・・・」

エオニアはステルスをかけて消えていった・・・

(くくく・・・人形を庇いながらどことなりと行くがいい・・・

俺の狙いは騎士様とフェイトなんだからな・・・

「・・・今、いくぞ!カズヤ!リコ!!」

俺はカズヤ達とフライヤー合戦を始めたシリウス?に斬りかかった!

「フン!!」

シリウス?今までとは打って変わった反応速度で受け止めた。

黒い霧状の剣はエクスカリバーを難なく受け止めている・・・

「ぐぐ・・・!!」

「は!神王如きの剣でが倒せると思うてか・・・!」

何?今、何て言った・・・!?

俺は思わず注意をそらしてしまった、次の瞬間、俺はシリウス?に弾き飛ばされてしまった。

「し、しまった!?」

「しまった!ってのは自分の死を宣言しているのと同じだぜぇっ!!」

バランスを崩した俺にシリウス?はここぞとばかりに斬りかかってきた。

「タクトッ!」

その時、シリウス?の機体にいく筋もの光の針が突き刺さった・・・いや・・・またしても強力なバリアに弾かれた・・・

ニードルフレシット・・・!?

「ナノナノ!」

「タクト!しっかりするのだ!」

ナノナノのリペアウェーブが七番機を修復してくれた・・・ナノナノもかなり無理をしてくれている・・・

「チ・・・ゴミが一匹、紛れ込んできやがったか・・・」

こいつにはもはや人を人と思う事すら出来ないのだろう・・・

「ナノナノ!危ない!!」

「ナノちゃん!!」

「え?」

カズヤとリコの叫びとナノナノの機体が弾き飛ばされたのはほぼ同時だった。

「あぁぁーー!!」

「このカタツムリがあぁぁーーーッ!!」

シリウス?はファーストエイダーを蹴り飛ばしたのだ・・・あの剣を使わなかったのは不幸中の幸いだろう・・・

「余の余興を邪魔して只で済むと思っているのかっ!!」

憤怒したシリウス?はナノナノに標的を切り替えたようだ・・・まずい!!

「このぉ!!俺が相手だーーー!!」

俺は背中を向けていたシリウス?にエクスカリバーで斬りかかったが・・・

バチィン!という嫌な音を立てて、弾かれた・・・!

「エ、エクスカリバーが・・・効かない・・・!?」

「ああ?死にてぇのか・・・コラァ・・・」

シリウス?は俺に向けて手から産み出したエネルギー弾を撃ち込ん出来た。

「デカイ!・・・っ、うああぁーー!!」

エネルギー弾の大きさは半端では無く、完全に回避する事に失敗して、エネルギー弾を受けてしまった。

七番機が爆炎に包み込まれた。

「タクト!?・・・っ!ナノマシン散布なのだ!!」

ナノナノは己の身をかえりみずに七番機の修復にあたった。

「チィッ!このチビがぁ!!鬱陶しいんじゃあぁーーー!!」

シリウス?はファーストエイダーを魔法陣のようなもので包み込んだ。

運命の天使なんぞ、いらねえぇぇんだよおぉ!!」

「うあーー!?機体が揺れるのだーーー!!」

「ナノちゃん!」

「く・・・っ!!」

僕は直感的にその攻撃がやばいものだと気付き、ドッキング解除を入力してブレイブ・ハートをクロス・キャリバーから分離した。

「カズヤさん!?」

「このまま木っ端微塵にしてやるああぁぁーーーーー!!!!」

幸いシリウス?はナノナノに気を取られている・・・

あいつの注意をそらせるだけでいい!

「うおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!」

ブレイブ・ハート・・・勇敢な心・・・

それを体現するかのようにカズヤは機銃を撃ちこみながら、シリウス?に向かってブレイブ・ハートを突撃させた。

「ああっ!?」

シリウス?は苛ただしげにカズヤの方に向き直った・・・

ただの突撃では無い・・・

死神のメシアが追加したブレイブ・ハートの必殺技・・・

 

シールドブレイカーである。

 

ブレイブ・ハートはシリウスの機体のバリアを貫通してそのままボディに突撃をかけた

「ぐうぅぅーーーー!」

「て、テメェェーーー!?」

強化されたブレイブ・ハートの装甲がシリウス?の機体を弾き飛ばした。

そして、俺はそのチャンスを見逃さなかった!!

「でぇやああああ!!」

バシュン!!

俺のエクスカリバーがシリウス?の左腕を切断した。それと同時にあの剣は霧散していった・・・

「き、貴様らああああああああああ!!!!!!」

完全に激怒したシリウス?の機体が紫色に発光して、その背中にはあの十二枚の光の翼が形成された。

「・・・っ!?」

俺は直感的にシリウス?の機体から距離を取った。

「な、何だ・・・この機体は・・・」

「上等だあ!!この虫けら共ぉっ!!」

奴の機体が紫色のオーラに包まれた瞬間、俺の体が一切、動かなくなった!

「なっ!何だ・・・体が・・・!?」

「タ、タクトさん!か、体がまったく、動きません!」

「カ、カズヤもなのだ!?」

どうやら俺達の体の自由が奪われたらしい・・・

何て奴だ・・・

「動けぬ恐怖を与えたまま、木っ端微塵にしてやるぁっ!!」

シリウスの右手にさっきと同じく、黒い霧状の剣が出現した。

「させない!!」

その時、リコのクロスキャリバーがシリウス?の機体にビーム・ファランクスを撃ち込んだ・・・しかし、相変わらず、シリウス?の機体のバリアがそれすらも弾き返した!

「は!いかに我が呪縛を破る血が流れていようと、この無限の盾は突破できまい!」

 

依然として死神はコックピットの中でその一部始終を黙って見ていた・・・

「リコ・・・これがお前に試練だ・・・お前が、紋章機のパイロットだと・・・皇国軍の者だと言うのなら乗り越えて見せろ・・・」

 

「く・・・!当たって!」

「フン!どちらにしろここで貴様を始末してやる!」

シリウス?の機体の左腕が瞬時に再生した。

「リコーー!ハイパー・ブラスターを使うんだ!!」

「は、はい!」

アプリコットはハイパー・ブラスターへのエネルギーチャージを開始した。

「ち・・・!」

シリウス?は苦々しげに舌打ちをし、神族の呪文を詠唱した・・・

「ぐ、ぐあ・・・あぁっ!?」

「かはっ!?い、息が・・・」

次の瞬間、タクト達の首が見えない何かに圧迫された・・・

(くそ・・・こうなれば・・・)

クロス・キャリバーの砲身にオレンジ色の粒子が集まっていく・・・

レベル・・・MAX・・・チャージ完了・・・

アプリコットがシリウス?に目掛けて発射しようとしたまさにその時・・・

「リコ・・・お前が俺を撃つのか・・・?」

クロスキャリバーの通信にシリウスの声が割り込んできた。

「・・・っ!?シ、シリウス君なの・・・!?」

 

「あの馬鹿・・・」

その様子を見ていたロキは娘に対して舌打ちをした。

 

「あの雪の中であんなに話した俺を撃つのか?」

「・・・っ!」

シリウス君・・・君もあの夢を見ていたの・・・?

「そしてお前が俺を殺すのか・・・?

殺すという言葉にアプリコットのトリガーを握る手がブルブルと震え出した・・・

「そ、そんな・・・わ、わた・・わたし・・・」

 

「・・・?桜葉は一体何を迷っているのだ!?」

シヴァはチャージが終わってもハイパー・ブラスターを撃たないアプリコットを怪訝そうに見ていた・・・

(あの野郎・・・わざと言いやがったな・・・)

 

「わ、私・・・私は・・・」

「ど、どうしたの?リコ・・・どうし・・・て撃たない・・・の?」

カズヤは圧迫さらていれる喉から必死に声を絞り出した・・・

(うるせぇ。)

「ぐあ!?」

タクト達の首を圧迫する力が更に強まった・・・

「カズヤさん!?」

しかし、アプリコットへのシリウスの命乞いは続いた。

「やめて・・・リコ・・・俺はまだ生きたい・・・美味しい物を食べたい・・・楽しい事もしたいよ・・・だから俺を撃たないで・・・」

「あ・・あぁ・・・」

「ぐあぁぁーーー!!」

「リ・・コたん・・・!」

「リコ・・・っぐ!!」

真剣に命乞いをする友人とその敵に殺されかけている仲間達・・・

アプリコットはすでに錯乱状態に陥っていた・・・

ど、どうしたらいいの・・・!?

シリウス君は操られているだけなのに!

しかし次の瞬間、クロスキャリバーのコックピットに聞きなれた怒声が響いてきた。

「馬鹿かあっ!!テメェはあぁぁーーーー!!!!」

その怒声は父親からのものだった・・・

「・・・っ!?」

「何やってやがるんだ!!さっさと撃てっ!!」

「う、撃てない!私、撃てないよ!!」

お姉ちゃんを心配してる人を・・・

「はぁ!?」

「シリウス君はただ操られているだけなのに!!」

「この馬鹿ヤロー−−ッ!!」

「馬鹿なんかじゃないもん!」

「今の状況を見てみろ!今、タクト達は殺されかけているんだぞ!?」

「・・・・・・」

「今、お前を守ってくれているのはタクト達で、お前を攻撃しているのはそいつだろうがーーーー!!!」

「・・・!!」

「お前はカズヤよりシリウスの方が大事なのあぁぁーーーー!!!?」

その言葉でアプリコットの決心はついた・・・

いや、アプリコットはその言葉にすがりより、罪悪感を誤魔化したのだ。

クロス・キャリバーから今まで見た事の無いほどのビーム砲がシリウス?の機体を目掛けて発射された・・・

「リコ・・・」

死神はモニターを切った・・・

「・・・つらいかもしれんが、それが軍人というものだ・・・

死神は右腕の袖を捲り上げて、アバジェスから渡された妹の血が入った最後のアンプルを取り出した・・・

「シリウスはリタイアした・・・ならば、もはや邪魔者はいない・・・

死神は注射器にアンプルの血を移した後、ソレを右腕の動脈に注入した・・・

「タクト・・・待っていろ・・・もうすぐだ・・・」

死神は注射を続けながらつぶやいた・・・

 

シリウス?の機体は消えていた・・・

あの後、MAXレベルのハイパー・ブラスターはシリウス?の機体が展開していたバリアを貫通して機体ごと飲み込んだのだ・・・シリウスはもうこの世にはいないだろう・・・

「リコ・・・」

「リコたん・・・」

(リコ・・・ごめん・・・僕のせいだ・・・)

シリウス?からの呪縛から解かれたメンバーはリコにありがとうなどとは言えなかった・・・

「ゴメンね・・・シリウス君・・・ゴ、ゴメンね・・・!」

何故なら、アプリコットは先程から泣きながらシリウスへ謝り続けているからだ。

リコのテンションが下がった為かクロス・キャリバーのエンジンは完全に停止していた・・・

辺りのゼックイがハイパー・ブラスターで巻き込まれていたのが幸いしたみたいだ。

 

「ロキ殿・・・桜葉はもう、これ以上・・・」

「・・・・・・ああ・・・」

ロキは通信周波数をカズヤに合わせた・・・

 

「カズヤ・・・リコとドッキングしてルクシオールに戻ってくれ・・・」

「はい・・・」

僕はロキさんを責められなかった・・・リコに辛い思いをさせたのは僕が不甲斐無かったからだ・・・

僕は自分自身を責めていた・・・かつてこれ程に自己嫌悪を抱いた事は無い・・・

 

・・・それからナノナノはアニス達の元へと戻り・・・

カズヤはクロス・キャリバーと強引にドッキングして、ルクシオールへと帰還した。

もう、リコは十分に戦っただろう・・・

 

後は、俺が守り抜かなければならない・・・

騎士であるこの俺が命に代えても・・・

あいつとの決着をつけなければならない・・・

「もういいだろう・・・レイ・・・桜葉・・・出て来い・・・!!」

俺は再び白き月へと進路をとった・・・

 

「・・・さて・・・行こう・・・アルフェシオン・・・」

白き月の内部で待機していた死神が遂に動き出した。

・・・俺の体もそう長くは持たない・・・それにアルフェシオンのENにも限界がある・・・

しかし、俺は戦わなければならない・・・

俺は戦士だからな・・・

命に代えてでもタクトと戦い抜かなければならない・・・

俺はアフターバーナーを全開にした後、スロットルも全開した。

 

「・・・死神のメシア・・・GRA−000 アルフェシオン・・・出るっ!!」

 

漆黒の紋章機が白き月の中から宇宙へ向かって発進した。

 

「副司令!白き月より、測定不可の高エネルギー反応をキャッチ!」

「何!?まさか・・・」

突然のアルモの報告にレスターだけで無く、他のメンバーを状況を察した。

「形式該当無し・・・間違いありません!アルフェシオンです!!」

「タクト・・・頼んだぞ・・・!!」

 

俺は約6万離れた十二時の方向にある白き月からあいつが来るのを感じた。

 

(タクト・・・俺を感じるか・・・?)

 

「ああ・・・感じたよ・・・!」

 

あいつに向かって真っ直ぐ、七番機を動かした。

前方より、漆黒の紋章機が迫ってきている・・・

 

あいつに向かってアルフェシオンを接近させた。

どんどん、白銀の紋章機に迫っている・・・

 

トランバール宙域で白き彗星黒き彗星が互いを目指して流れていく・・・

 

騎士である白き彗星の背後には本星・・・

 

戦士である黒き彗星の背後には白き月・・・

 

そして・・・遂に二人の決戦が始まる・・・

 

騎士戦士の戦いが!

 

「決着をつけるぞ!死神のメシア・・・いやレイ・桜葉!!」

 

「貴様との腐れ縁もこれまでにしてやる・・・タクト・マイヤーズ・・・!!」

 

inserted by FC2 system