第二章

 

白き月攻防戦

(後編)

 

騎士の使命VS戦士の宿命

 

騎士であるこの俺が命に代えても・・・

あいつとの決着をつけなければならない・・・

「もういいだろう・・・レイ・桜葉・・・出て来い・・・!!」

俺は再び白き月へと進路をとった・・・

 

「・・・さて・・・行こう・・・アルフェシオン・・・」

白き月の内部で待機していた死神が遂に動き出した。

・・・俺の体もそう長くは持たない・・・それにアルフェシオンのENにも限界がある・・・

しかし、俺は戦わなければならない・・・

俺は戦士だからな・・・

命に代えてでもタクトと戦い抜かなければならない・・・

俺はアフターバーナーを全開にした後、スロットルも全開した。

 

「・・・死神のメシア・・・GRA−000 アルフェシオン・・・出るっ!!」

 

漆黒の紋章機が白き月の中から宇宙へ向かって発進した。

 

(イメージ曲  初代 Eternal Love 

「副司令!白き月より、測定不可の高エネルギー反応をキャッチ!」

「何!?まさか・・・」

突然のアルモの報告にレスターだけで無く、他のメンバーを状況を察した。

「形式該当無し・・・間違いありません!アルフェシオンです!!」

「タクト・・・頼んだぞ・・・!!」

 

俺は約6万km離れた十二時の方向にある白き月からあいつが来るのを感じた。

 

(タクト・・・俺を感じるか・・・?)

 

「ああ・・・感じたよ・・・!」

 

あいつに向かって真っ直ぐ、七番機を動かした。

前方より、漆黒の紋章機が迫ってきている・・・

 

あいつに向かってアルフェシオンを接近させた。

どんどん、白銀の紋章機に迫っている・・・

 

トランバール宙域で白き彗星黒き彗星が互いを目指して流れていく・・・

 

騎士である白き彗星の背後には本星・・・

 

戦士である黒き彗星の背後には白き月・・・

 

そして・・・遂に二人の決戦が始まる・・・

 

騎士戦士の戦いが!

 

「決着をつけるぞ!死神のメシア・・・いやレイ・桜葉!!」

 

「貴様との腐れ縁もこれまでにしてやる・・・タクト・マイヤーズ・・・!!」

 

死神の黒いラッキースターは俺がエクスカリバーを振る事すら許さない速度ですりぬけて俺の背後に駆け抜けた。

「アルフェシオンの本当の恐ろしさを教えてやる・・・」

背後に回ったアルフェシオンは一秒足らずで人型へと変形を済ませてしまった・・・

映画やアニメなどとは違い見せる必要は無い実践的な変形・・・

それを可能にしているのはナノマシン変形だ。

レイ・桜葉はアバジェスから構築者の力を継承しているのだ・・・

それはまさに人と神との差だ・・・

だからと言って退く事はできない・・・

退くつもりも無い!!

 

俺はエクスカリバーで迎え撃とうとするが、奴は距離を約20000kmでキープしながら旋回し続けるだけで、一向に近寄ってこない・・・

「くそ・・・俺との接近戦を避ける機か・・・」

「ふ・・・正々堂々と馬鹿正直に戦う必要は無いだろう・・・」

アルフェシオンは再度、接近してきたかと思うと、再び黒いラッキースターに戻って七番機の横をすり抜けていった。

機動性ではまるで歯が立たない・・・

(時間も無いし・・・始めるか・・・)

黒いラッキースターが俺の背後で再びアルフェシオンへと戻った。

「今度こそ・・・!」

俺は距離40000km、六時の方角から迫ってきたアルフェシオンに向けて七番機を反転させてエクスカリバーで斬りかかった。

「いけえぇーーー!!」

アルフェシオンはダインスレイブを構えない・・・

まさか・・・

「・・・・・・ッ!?」

次の瞬間、隠れていたフライヤー6機が一斉に攻撃を仕掛けてきた。

しかし、今の俺にはもはや、怖い攻撃などでは無い!

俺は全て回避しながら撃ち落そうとしたが2機を撃破するのが関の山だ・・・

シリウスのフライヤーとは違って、さすがは死神の使い魔と言うべきか・・・!

「ふ・・・」

死神はタクトに見えないように口元を楽しそうに歪めた。

(戦い方というものを教えてやるよ・・・小僧・・・)

 

「タクト・・・」

シヴァは皇居の司令室から二人の戦いを見守っていた。

 

タクトがレイ・桜葉を倒せばネオ・ヴァル・ファスクは倒れる・・・

 

逆にレイ・桜葉がタクトを撃墜すれば皇国軍の敗北だ・・・

 

(チ・・・レイの奴、遊んでやがるな・・・)

ロキが腕を組んで静かに戦況を見守っていると誰かが司令室に入ってきた。

「阿部殿!?一体、今まで何を・・・!?」

「申し訳ありません・・・」

阿部はそのままロキの方へ近づいていった。

「始まったな・・・」

「ああ・・・」

「問題はナノマシン形成をどう破るかだな・・・」

「破りようが無いだろう・・・奇跡でも起きない限りよ・・・」

「・・・そうか・・・奇跡か・・・」

奇跡・・・かつて完全だった自分自身が敗れた概念でもある・・・

(タクト・・・あきらめるなよ・・・勝つのはお前だ・・・)

ロキは煙草をふかして弟子の健闘を祈った・・・

 

「チィッ!!」

タクトは死神のフライヤーに苦戦をしていた。

ディレイアタック(わざと遅らせて相手のリズムを崩す事)

フェイントアタック(撃つように見せかけて撃たないだまし討ち)

クイックアタック・・・(ニ連続で撃つ事・・・相手のリズムを崩すのにも有効・・・)

戦い慣れした死神はタクトにリズムを取らせない・・・

(ふ・・・動きが段々と単調になってきたか・・・馬鹿め・・・)

死神はタクトの注意が逸れているのを確認してからアルフェシオンのアーム(前腕部)に司令を下した・・・

(ナノマシン形成・・・ワイヤー射出・・・)

次の瞬間、アルフェシオンの(手の甲側)の前腕部にあった5つの射出口から5つのナノマシン製のワイヤーが射出された・・・両腕を合わせるとその数は10本・・・

その細さは直径 30mm・・・人の目でモニター越しに見るのはほぼ不可能だ・・・

そう・・・これこそがエルシオールのブリッジに穴を空け、タクト撃墜前に量産タイプの紋章機達を一瞬で切断した最強の中距離専用兵器の正体である・・・

(詳細は第一章のBLACK OUT 死神の逆鱗を参照・・・)

 

死神はもがいているタクトに追い討ちをかける事にした。

 

(1、3、7、8・・・モード・・・キャッチ(捕獲仕様)・・・)

 

ワイヤーに振り分けられた番号は左腕の方から1〜10までとなっている・・・

 

(4、5、6・・・モード・・・カット(切断仕様)・・・)

 

死神は各ワイヤーごとにに命令を下しているのだ・・・

フライヤー(使い魔)と同様に・・・

アルフェシオンが僚機を必要としないのはアルフェシオンには優秀な僕(しもべ)が武器となって付き添っているからである・・・

 

(9・・・モード・・・スティンガー(貫通仕様)・・・)

 

レイ・桜葉はタクト以上の指揮能力を持っている・・・それは当然だ・・・何故なら、タクトの指揮能力の高さはこのレイから受け継いでいるからだ・・・

 

「2、10・・・モード・・・アンカー(打ち込み牽引仕様・・・)・・・GO!!

 

の命令を受けてワイヤー(ヘビ)達は一斉にタクトに襲い掛かった!

フライヤーに夢中になっているタクトがどうやってこの極細のワイヤーに気付こうものか・・・

「・・・っ!?」

俺は直感的に悪寒が走った・・・何かが襲い掛かってくる・・・!?

次の瞬間、エクスカリバーを持っていた右腕が何かのロープで巻きつけられたように動かなくなった・・・

「ぐあっ!な、何だ!?」

そして、七番機の頭部を何かが撃ち抜き、右足と左足の付け根(足背部)に何かがアンカーのように突き刺さった!

「うわっ!?」

今度は七番機の肩口に何かが斬り付けられたような・・・衝撃が走った・・・

 

(ち・・・オリハルコンは無理か・・・なら・・・4、5・・・モード・・・アンカー・・・)

 

死神は6番が七番機の肩口を切断できなかったので即座に命令内容を変更した。

人間と違ってこのワイヤー達はミスをせずに即座に実行に移した・・・

 

「ぐっ!」

七番機の肩口に4と5が食い込んだ。

「ふ・・・無様だな・・・」

俺は凧揚げの要領で七番機をあちらこちらに振りまわした・・・

せっかくだ・・・遊んでやるぜ・・・

「ぐあああーーー!!」

いかに機体が頑丈でも中身は生身の人間だ・・・

お前の内臓がどこまで耐え切れるかな・・・?

 

「タ、タクト!?」

「あのガキ・・・遊んでやがる・・・」

「しかし、・・・レイが遊んでいる内にこそ勝機はある・・・万が一にもレイが本気になればタクトといえども一瞬で殺されてしまうだろう・・・

「あ、阿部殿!無人艦隊で援護を・・・!」

「シヴァ陛下・・・あなたはレイの恐ろしさがまだ分かっていない・・・戦艦を援軍に出せば、今度はそれを逆利用されるだけです・・・」

「く・・・一体・・・どうすれば・・・」

「まだ、勝機はあります・・・レイが遊んでいる限りはですが・・・」

 

「フン・・・少し、飽きたな・・・」

 

(ALL・・・RESET・・・(全機解除)

 

俺はアンカーを外して、近くにいた戦艦目掛けて七番機を投げつけた。

「ぐうぅぅーーー!!!」

俺はリアブースターを最大にして戦艦の手前で七番機を安定させた。

「はぁ・・・はぁ・・・」

頭がグラグラする・・・

「ふふ・・・無様だな・・・」

「な、なんだと・・・」

俺は爆発しそうな心臓を抑えながら言い返した。

「いつものお前らしくないぜ?・・・ふふ・・・いつもの奇跡とやらで俺を倒せるか?」

「いつもの奇跡だと・・・」

「ああ、そうさ・・・」

死神はミルフィーと瓜二つの顔を楽しそうに歪めて言ってきた。

「俺があの馬鹿女の中からお前達を見てきたのは知っているだろう?」

「それ・・が・・どうした・・・?」

「お前達の甘っちょろい三文芝居を見せられてきた俺の気持ちがわかるか?」

「なんだと・・・?」

「お前等エンジェル隊はいつも嫌なことは嫌だとほざいて、時にはその任務を放棄する事もあった・・・まったく・・・どこまでも自分勝手で子供みたいな奴等だよ・・・お前等エンジェル隊には・・・軍人としての利用価値も無ければ誇りすらも無い・・・

それに、士官学校を出ただけで少尉とはな・・・お前らみたいなガキに比べれば、忠実に責務をこなしている二等兵の方がよほど軍人らしい・・・」

「お、お前が選んだんだろうが・・・」

「ああ、俺の最大の計算違いだったよ・・・失敗作。」

「失敗作だと・・・き、貴様・・・」

「失敗作と言っては悪いのか?ならば欠陥品だな、欠陥があったからお前達はその程度のレベルなのだ・・・恥じる事は無い・・・お前達のせいでは無いのだからな。」

「こ、この野郎・・・!」

「おお怖い♪・・・昔のお前はもっと穏やかだったのになぁ〜」

「お前がいるからだろう!!」

「・・・・・・前言撤回・・・やはりお前達は失敗作だ・・・他力本願・・・そして、向上心の欠如・・・これではいくら紋章機といえどもその力を発揮できまい・・・」

俺はそれ以上我慢できずにエクスカリバーを構えて斬りかかった。

シリウス如き雑魚が相手ならまだしも、この俺相手に真正面から突っ込んでくるとは・・・蛮勇・・・そして、学習能力も無いときたもんだ・・・」

死神はワイヤーに指示を送った・・・

 

「ALL・・・MODE・・・CATCH・・・」

 

死神の計10本のワイヤーが七番機の両腕、両足に二本ずつ巻きついて・・・

 

(4、8・・・モード・・・アンカー・・・)

 

「ぐあっ!」

4番と8番のワイヤーが再び、七番機の肩口にアンカーとして食い込んだ。

「どうした?いつものタクト節で俺も挑発してみろよ。」

「く・・・何を・・・」

危機に陥ってからが本領発揮なんだろう?

死神は七番機の右腕をワイヤーを収縮させて引っ張った。

「ぐぐ・・・!」

七番機も粘って対抗するが、僅かな差でアルフェシオンがリードしている・・・

「何も備えもせずに襲撃され、襲撃されてから“何とかなるさ”で切り抜けてきたんだろう?奇跡の体現者さんよぉ・・・」

「ふぅぐぐ・・・!!」

「しかし、本当にばっかだよなぁ・・・その奇跡すらも俺が用意したに過ぎないというのになぁ・・・ふふふ・・・あはは・・・あーっはっはっはっはっはっ!!」

「この野郎・・・!!」

七番機が着実に零番機へと引っ張られていく・・・

「オラ、馬鹿女に救いを求めろよ。助けてくれってなぁ・・・」

「ふ、ふざけるな・・・!!」

「あ、そう。」

次の瞬間、死神はワイヤーに命じた。

 

(ALL・・・MODE・・・SMASH(破砕仕様)・・・

「うわっ!?」

ワイヤー達は団結して七番機をあちらこちらの戦艦にぶつけ始めた。

砲撃戦の最中の戦艦、自軍の戦艦相手構わずに七番機を破砕しようとぶつけてはぶつけてを繰り返す。

「ぐっ!ガハッ!!」

耐震仕様のコックピットでパイロットスーツまで着用していてもこの衝撃は完全には殺しきれず、遂にタクトの口から血が吐き出された!

「オラ、どうした?いつもみたく何とかなるんだろう?」

死神は待っていましたと言わんばかりに楽しそうな口調で話しかけた。

何故なら、この言葉を死神は言いたくてしょうがなかったからだ・・・

「ぐうぅぅーーー!!」

(フン・・・情けない声を出しやがって・・・)

死神は容赦なくタクトを痛め続けることにした。

「どうした?守るんじゃなかったのか?騎士(ナイト)さんよぉ・・・」

またしてもタクトと七番機ごと付近の戦艦に叩きつけられる・・・叩きつけられた跡のへこみ具合がその衝撃の凄まじさを象徴している・・・

 

「阿部殿!このままじゃタクトが殺されてしまう!」

シヴァはもはや錯乱状態だ・・・

「・・・シヴァ様・・・タクトを信じるのです。」

「え?」

「ああ、俺も同感だな・・・安心しな譲ちゃん・・・タクトはこの程度で終わる男じゃねぇよ・・・」

 

一方、エンジェル隊のメンバーはゼックイを撃墜しながらタクトの危機を見ていた。

助けにいけない悶えと自己嫌悪がメンバーに襲い掛かってくる・・・

「くそっ・・・あのままじゃ本当にタクトが殺されちまうよ・・・」

フォルテは目の前のゼックイを二連の連装長距離レールガンで撃破しながら、タクトの身を安じていた・・・

「フォルテさん!行ってくださいまし!」

突如、ミントがフォルテにタクトの救出を促した。

「馬鹿を言いでないよ・・・!あんた達だってボロボロじゃないかい!」

「でも、タクトさんが落とされたらそこまでです!」

ちとせの声を悲鳴気味に張り上げてからフォルテに訴えた。

その時、レスターからフォルテに通信が入った。

「フォルテ!ここは俺達でもたせる!だからタクトを助けてやってくれ!他のメンバーはゼックイの相手で精一杯だ!それにお前がメンバーの中では一番強い筈だ!」

「・・・・・・参ったねぇ・・・あの死神を相手にしなければならないとはねぇ・・・」

恐怖で腕が震える・・・しかし、タクトを見殺しになどは出来ない・・・

「司令官殿を助けに行くとするかねぇ・・・」

フォルテは機体を交戦しているタクトと死神の方へと向けた。

「ハッピートリガー!司令官殿を救出に行ってくるよ!」

「副指令!」

「どうした!?アルモ!」

「クロス・キャリバーとブレイブ・ハートが帰艦許可を求めています!」

「よし、収容しろ!念の為にモルデンを向かわせろ!」

「了解!」

そして、しばらくした後でレスターはアルモからカズヤとアプリコットが帰艦をしたとの報告を受けた・・・

 

「ガハッ!!」

七番機ごと叩きつけられたタクトの口から新しい血が零れた。

タクトの体が普通の人間のままだったらとうの昔に死んでいただろう・・・

「ふん・・・口ほどにも無い・・・」

死神は依然として無傷でタクトの七番機をおもちゃのように振り回している・・・

「・・・ふ・・・喜べ・・・タクト。お仲間が助けに来てくれたぞ?」

「な、何・・・?」

「タクトを離しな!ストライク・バースト!!」

次の瞬間、アルフェシオンに向かって幾筋ものレーザーが襲い掛かった・・・

「量より質と教えた筈なんだがな・・・」

アルフェシオンのバリアがレーザーを難なく弾いた。

「くっ!」

「フォルテ・・・」

 

「ふん・・・そんなチンケな紋章機ひとつでこの俺に向かってくるとは・・・勇敢と言うべきか・・・それとも蛮勇と言うべきかな・・・」

死神はタクトを捕獲したまま、フォルテの方へとアルフェシオンを向けた。

「しかし、マスターから俺には手を出すなと忠告を受けていた筈なのにな・・・どちらにせよ、情に流されているようでは軍人としては三流以下だな・・・」

「タクトを離しな・・・死神!」

「お前、馬鹿じゃねぇの?そう言われて誰が離すんだよ・・・それに・・・」

死神の声が一段低くなる・・・

「何、いきがっているんだよ。クソガキが・・・殺すぞ?」

死神の真紅の眼が獲物を睨みつけた。

死神から放たれた桁外れの敵意にさすがのフォルテも怯んだ・・・

「やれるものならやってみなよ!」

「フン・・・相変わらず口だけは達者だな・・・」

「あんたの減らず口に付き合ってる暇は無いんだよ。」

「それは俺の台詞だ。」

死神は二機のフライヤー(使い魔)を呼び出した。

「駄目だ・・・逃げてくれ・・・」

タクトのかすれた声はフォルテには届かない・・・

「フォルテよ。お前が戦士だと言うのならこのフライヤーを倒して見せよ。」

主の命に従い、使い魔達がフォルテに襲いかかった。

「いつまでも、なめてんじゃないよ!」

フォルテは向かって来るフライヤーと垂直に紋章機を動かして、フライヤーとのラインを崩してビーム砲を撃たせないようにする。

「ふ・・・お前はフライヤーと戯れているがいい・・・」

死神はもう、フォルテの相手をする必要の無いと考え、タクトの方に注意を向けた。

「さて・・・そろそろ終わりにするか・・・」

死神はワイヤーに新しい命令を下した。

 

(ALL・・・MODE・・・SHOCK(ショック死)・・・)

 

「ぐあああ!?うあ!うあああーーーー!!!」

次の瞬間、タクトに電流が流れ始めた。

タクトの体がまな板の上の魚のようにビクンと跳ねた。

「112A・・・普通の人間なら筋肉が硬直して泡を吹いて死ぬ筈なんだがな?」

当の死神は平然と動物実験をするようにもがき苦しむタクトを観察していた。

「まぁ、そのうち死ぬだろう・・・せいぜい無様な死体にしてあの馬鹿女に提供してやるとするか・・」

「タクトッ!?」

フォルテは二機の存在を忘れて死神の方へと戻っていき・・・

「当てるよ!!」

アルフェシオンに連装長距離レールガンを撃ち込んだ。

フォルテとてアルフェシオンに攻撃が通用しないのはわかってはいるが、タクトを放っておけなかったのだ。

「随分と仲間思いな事だ・・・同じガキ同士の絆というやつかな・・・?」

死神はほんの少しだけ機体を動かして、レールガンを回避した。

「く!まだまだぁ!!」

それでもフォルテはあきらめずに何度も撃っては反転して撃ち続けるが、死神は全て軽々と回避していく・・・

「やれやれ・・・皇国軍人の質も随分と落ちたものだな・・・貴様のようなノーコンがいるようではな・・・何処を狙っているのかが簡単に分かってしまうぜ・・・」

死神はタクトへ流している電流を一時中断した。

「なぁ、タクト・・・アレ、鬱陶しいから消すな。」

「や・・・やめろ・・・」

タクトの声はもはや死にかけだ・・・

「嫌だね。」

次の瞬間、アルフェシオンの右腕に一瞬の間にハンド・レールガンが姿を現した・・・

これも構築者がなしえる神技・・・ナノマシン形成である・・・

「フォルテ・・・お前は死への恐怖心を克服できていない・・・そして、攻撃をする事でそれを必死に誤魔化している・・・つまりは・・・狙撃される事に慣れていないのだ。二流軍人によくある、過剰反応って奴さ・・・」

死神はレクイエムのように一人で喋り続けて、ハッピートリガーにハンド・レールガンを向けた。

「チ・・・ッ!」

フォルテはハンド・レールガンの射軸から逃れるように機体を反転させた。

そして、死神はその瞬間にフォルテめがけてハンド・レールガンを撃った。

そして、フォルテはそのまま陽電子砲に近づくかのように機体を向けていった。

目では分かっていても、慣性の法則を受けた体だけはどうにもならない・・・

死神はフォルテの一つ先を完全に読んでいたのだ。

「ぐうぅぁぁぁーーーー!」

死神の比較的細かった陽電子砲は一寸の狂いも無くエンジン部を撃ち抜いた。

「クロノ・ストリング・エンジンを完全に撃ち抜いた・・・もう、その紋章機は使い物にならないぞ・・・

「く・・・くく・・・」

フォルテは口から出た血を無視して死神を睨みつけた。

「だから、もう死ね・・・」

死神は動けないハッピートリガーに向けて再度、ハンド・レールガンを向けた。

「ヤ、ヤメロオオオオォォォォーーーー!!!」

俺はただ、その一言だけを叫んだ。

次の瞬間、七番機が軽くなった・・・

「え?」

 

「何・・・?」

俺はその時、七番機を捕獲していたワイヤー達が戻ってきたのを知った。

俺は驚いた・・・なぜなら、七番機には本来備わっていない筈のASフィールドが展開されていたからだ・・・このバリアをワイヤー達が突破する事は不可能だ・・・

これが、奇跡というやつなのか・・・

ふざけやがって・・・

 

「そろそろだな・・・レイ・桜葉の本領発揮は・・・」

 

「ああ・・・そして、タクトも段々と本来の力を出し始めている・・・」

(タクト・・・レイが剣を抜くぞ・・・)

ロキは二本目の煙草を握り潰して三本目の煙草を加えた。

 

「フォルテ・・・大丈夫か?」

「あ、ああ・・・でもハッピートリガーは完全に終わっちまったね・・・」

ゴメン・・・俺のせいで・・・

フォルテに謝った後、俺は死神に向きかえった。

「お前だけは許さない・・・!」

「ふん・・・いい気になるなよ?小僧・・・」

アルフェシオンの左手に漆黒色の粒子が収束していく・・・

「・・・・・・ッ!」

俺もエクスカリバーを召還した。

 

聖剣 エクスカリバー

 

やがて、死神の剣がその姿を現した・・・

死神の剣には実体が無い・・・ただ単にマンガで見たようなビームサーベルのような剣がアルフェシオンの右手に握られているのが分かるだけだ・・・

 

魔剣 ダインスレイブ

 

タクトはエクスカリバーを構えたまま動かない・・・

メシアはダインスレイブを構えたまま動かない・・・

 

しかし、にはあいにく時間が無い・・・不本意ではあるが、こちらから仕掛ける事にした。まぁ・・・俺の陰月流は先手の“ケン”だからな・・・

 

は心を落ち着けて奴の動きを見ている・・・相手はおそらく先手の陰月流で来る・・・俺の陽輪流は後手の拳・・・それを今度は剣で体現する・・・

 

そして、アルフェシオンが仕掛けてきた。

「・・・っ!?」

俺はその一撃を受け止め、七番機の足を使って蹴りを放った。何故なら、死神のバランスを崩さなければ万が一にもダメージを与える事はできないからだ。

「ふ・・・」

何を思ったか、死神は七番機から離れてそのまま黒いラッキースターになって俺から距離を離して・・・・・・消えた!!

 

ブラック・アウト

 

「しまった!」

しかし、俺にはブラック・アウトに対しての対処法を用意していた。

目を閉じて、視界からの情報を断って、このあやふやな直感に頼る事にした。

「・・・・・・」

分かる・・・ぼんやりとではあるが、死神がアルフェシオンに戻って、その鎌(ダインスレイブ)を構えて、背後から斬りかかってくるのが・・・!

死神の狙いは七番機の右足だ。そうか・・・忍びの剣こそが・・・陰月流の剣か!!

「そこだぁ!!」

俺は足に襲い掛かってきた死神の剣を剣で受け止めた。

「む・・・?」

初めて、死神の一撃を受け止めた・・・!

死神は姿を消したまま、さっきと同じ様に俺から距離をとって、再び襲い掛かってきた・・・ヒット&アウェイか・・・

しかし、死神・・・今のはまぐれなんかじゃないぞ!

「見える!!」

今度は首を跳ね飛ばすように薙ぎ払われた奴の剣を受け止める。

「ほう・・・」

そして、その次も同じようにヒット&アウェイを駆使して胴体目掛けて薙ぎ払われた一撃を受け止めた。

「どうした!?レイ!こんなものか!」

「・・・・・・」

遂に死神が何も喋らなくなった・・・

 

「あ〜あ・・・馬鹿が、不用意に挑発しやがって・・・」

ロキは頭をぽりぽり掻いてしゃ〜ねぇ〜な〜と呟いた。

「アバジェス。このままじゃ勝ち目はねぇ、エンジェル隊達を応援に行かせろ。」

「お前に命令される覚えは無い・・・」

「あん?」

「それに既に呼びかけている・・・」

 

「ふ・・・ふふ・・・こんなものか、か?それはこちらのセリフだ・・・せっかく、受け止めさせてやったというのに、反撃すら出来ぬとはな・・・

死神は不敵に笑い出した。

「何・・・」

次の瞬間、アルフェシオンがステルスを解いた。

「何のつもりだ・・・?」

「さぁね・・・」

アルフェシオンはダインスレイブを構えたまま斬りかかってきた。

「・・・でぇい!」

俺は死神にしては何の捻りも無い簡単な一撃を軽く受け止めた。

「・・・ふ。」

次の瞬間だった・・・

アルフェシオンが180°後転してそのまま七番機の足を薙ぎ払ってきた。

「ちっ!」

俺はその一撃も何とか受け止めて・・・

そして、アルフェシオンの右のレッグ(スネ)に現われた光の剣が今度は七番機の首を刈り取るかのように襲いかかってきた。

「な!?」

俺は後方に下がって、回避したがフロントボディを少し、切り裂かれた・・・

俺ははっきりと見た・・・今、アルフェシオンは二つの剣を使ってきた。

「見たか・・・これこそ、七番機への対抗策として開発した最強の接近戦専用武装・・・ダインスレイブ・フェイカー(偽わりの魔剣)だ・・・」

「ダインスレイブ・フェイカー・・・?」

「種明かしをする必要も無いのだが、教えといてやる・・・このダインスレイブ・フェイカーはアルフェシオンのどこからでも出現する事が可能だ・・・すなわち、接近戦こそがこのアルフェシオンの真髄だ・・・そもそも、遠距離戦は苦手だとか、中距離戦は苦手だとか言う方がおかしいだろう・・・」

アルフェシオンのレッグから偽りの魔剣が消えた・・・

「その接近戦でしか戦えない七番機は、まさにお前にぴったりな機体だなぁ・・・」

「何だと?」

「やりたくない事はやりたくない。まさにお前を表現しているような機体じゃないか♪」

死神はくくくと笑いを漏らしていた。

「この!馬鹿にしやがって・・・!!」

俺はそのままあいつに斬りかかった。

「は!馬鹿にされるお前が悪いんだろうが・・・」

そして、死神は左手の魔剣で俺の一撃を受け止めると、右エルボー(肘)に出現させたダインスレイブで押し切るように斬りかかってきた。

「く、くそ!」

その一撃をしゃがんで回避したと思えば、今度は死神の左足のつま先に突き出すようにダインスレイブを出現させて、それを突き刺すかのように俺に向けて放ってきた。

「く!」

それが七番機の肩口に直撃して、肩口が粉々に砕け散った。

「この程度で俺に勝つつもりでいたのかお前は・・・」

死神はため息をつきながらも次の攻撃を仕掛けた。

ムーンサルトを描くかのようにアルフェシオンが七番機の頭上を飛び越えながらその刹那にまたしても首を跳ね飛ばすかのように死神の鎌が襲い掛かってくる!

「・・・っ!?」

俺は一本のエクスカリバーで何処から襲ってくるかが分からない一撃に対処していくしかない!

「これが、騎士の剣戦士の剣の違いだよ。タクト・・・」

 

「まずいな・・・タクトの奴、完全にレイのペースに飲まれているな・・・」

ロキの煙草の数は遂に5本目に突入していた。

レイタクトの戦い方を知り尽くしているが、タクトレイの戦い方を知らない・・・その差がタクトにプレッシャーを与えているんだ・・・」

「そして、そのプレッシャーがタクトに冷静さを失わせているか・・・」

ロキは通信機を掴んで七番機へとアクセスをした。

 

「こんなのありかよ!?」

「ありなんだよ・・・!」

依然として死神の反則的なクロスコンバットが俺を畳み込むように疾風怒濤の勢いで展開されていく。

今度は両腕にダインスレイブがディレイクロス(時間差交差)を描いて、七番機を斬りつけてきた。

「うわっ!?」

アルフェシオンの両手、両足、頭その全てが凶器と化す!

まさに底が見えない恐怖だ・・・!

とてもじゃないが、これ以上戦うのは無理だ!

「ふふ・・・どうした?ギャルゲーの主人公さんよ・・・大切な天使達をこの程度で守れるのか?ふふ・・・ふははは・・・はーーはっはっはっはっはっ!!」

「・・・ッ!?」

死神はその邪悪な笑みをわざと俺に見せ付けてきた。

その顔はいやでも彼女を思い出させる・・・

つまり、こいつはミルフィーを取り返したければ自分を倒してみろと俺を挑発しているんだ・・・!くそ・・・馬鹿にするなよ・・・!!

「タクト、白き月へ直行しろ!」

「ロキ!?」

通信機からロキの声が聞こえてきたのだ。

「白き月の中に入り込めば、アルフェシオンといえども全速では動けない筈だ!」

そ、そうだ・・・忘れていた・・・こいつがフルに動ける宙域でわざわざ戦う必要は無いんだ!!それにシャトヤーン様を救出しなければならないんだ!

俺は七番機を白き月の方に向けたいのだが・・・

「フン!・・・行かせると思っているのか!!」

この死神がそんな甘い事を見逃す訳が無い・・・ましてや敵の機動性は最強だ・・・

(?・・・ふ・・・また殺されにきた紋章機が出てきたな・・・

「くそぉーーーっ!」

俺が、アルフェシオンを振り逃げようかと迷っていたその時・・・

「そうは行かないわよ!アンカァーークローーーッ!!!」

突如、アルフェシオンにかぎ爪のようなマニュピュレーターが直撃した。

無論、バリアに弾かれたのだが・・・

「ランファ!?」

「俺やナノナノもいるぜ!」

「アニス・・・ナノナノも!?」

「ご主人様を忘れないで欲しいですに〜」

「そいうことだから、早く白き月に行きなさ〜い。」

「テキーラまで・・・」

「タクト!早く行きなさいここは私達が引き受けたから!」

「駄目だ!その紋章機じゃ間違いなく落とされる!」

「馬鹿!いいから白き月に行け!!」

ロキからゲキがとんできた・・・

「タクト・・・行きな!!」

そうだ・・・俺達は戦争をしているんだ・・・

そして、俺は軍人なんだ・・・

「くっ・・・!」

七番機はそのまま白き月へと向かった・・・

死神は敢えてタクトを見逃した・・・

(フン・・・とんだ三文芝居だな・・・)

 

俺は、妨害をした量産タイプの紋章機達に振り返った・・・

「んで・・・誰から先に死にたいんだ?言ってみな。」

死神の死刑宣告・・・

エンジェル達に緊張が走った・・・

タクトの一騎打ちを邪魔したのは例え、マスターからの命令とはいえど、許すつもりはない・・・このガキ共は徹底的に潰す・・・

「こっちにだってプライドがあるのよ・・・!」

最初に噛み付いてきたのはランファだった・・・昔からこういう奴だったな・・・

「ふ・・・士官学校の時から何も成長していないな、お前は・・・」

「何が言いたいのよ・・・」

「忘れたのか?俺がミルフィーユ・桜葉と魂を共有して士官学校に通っていた事を・・・つまりはお前の性格の隅々までお見通しというわけだ・・・」

「それが、どうかしたの・・・!?」

「お前は一応、馬鹿女の面倒を見てくれたからな・・・他は殺すが、お前だけは見逃してやる・・・ここから、去ねい・・・」

「舐めんじゃないわよ!」

ランファと共に他の奴等も俺に向かって戦闘態勢に入った・・・

(舐めてんのはテメェ等だろうがよ・・・)

俺はマスターコードを入力して紋章機達に停止しろと命じた・・・しかし・・・

「・・・・・・拒否だと?」

何と、量産機共は俺の命令を無視したのだ・・・

「姉さん!行こうぜ!!」

調子に乗りやがって・・・クソガキ共が・・・!

俺はアルフェシオンを黒いラッキースターに変形させて、奴等ドッグ・ファイトを仕掛ける事にした。

ドッグ・ファイト・・・相手の背中を取り合う戦い・・・

互いの技量が如実に表れる戦いだ・・・

「ランファ・・・士官学校のよしみだ・・・馬鹿女の機体で撃破してやるぜ・・・」

「やってみなさいよ!」

(こんな嘘にまんまと引っ掛かるとはな・・・)

俺とエンジェル隊の紋章機同士がすれ違う・・・

この時に既に俺は右スロットルを全閉にして左スロットルを全開にしていた。

この俺の手際の速さが奴等との差を決定付けた。

俺は反転に入ろうとしていた四機の紋章機の内のナノナノに目をつけた。

「・・・堕ちろ。」

俺はファーストエイダーのエンジン部分目掛けてレーザーファランクスを撃ち込んだ。

「うあ!?」

「ナノナノ!?よくも!」

ファーストエイダーもこれでおしまいだろう・・・

『量産タイプ紋章機のエンジンを全て破壊せよ・・・』

それが、俺がマスターから受けた命令だ・・・

俺はお前達と遊ぶつもりは無い。

これ以上お前達に使う時間も無ければ、使う無駄なエネルギーも無い・・・

俺は奴等の視界から姿を消した。

 

ブラック・アウト

 

俺はお前達ほど甘っちょろい覚悟で戦場に出ている訳ではない・・・

俺は目的の為になら悪魔と化す・・・

戦場は個人の意思で動くものでは無いのだ・・・

たまには不本意な事もあるだろうが、それでも軍人は上からの命令に絶対服従を誓わなければならない・・・軍人である事を選んだのであれば・・・

それに、マスター以上の指導者はいない・・・だから、俺は軍人になる事を選んだ・・・

お前等(エンジェル隊)みたいな半端な覚悟で軍人になった訳じゃないんだよ・・・

 

アルフェシオンに戻り、ワイヤー達に命令を出した。

 

(ALL・・・MODE・・・STEENGER(スティンガー)・・・)

 

ペネトレイターと化したワイヤー達が残りの紋章機の心臓を貫通しようと忍びよりながら襲い掛かる・・・

「待っているがいい・・・タクト・・・この雑魚共を片付けたら今度は貴様の番だ・・・」

 

 

「くそっ・・・俺は・・・」

エンジェル隊のおかげで、白き月まで逃げ延び事ができた・・・

またしてもしてやられた・・・

あの魔剣に手も足もでなかった・・・

だが、俺を助けてくれた天使達の為にも俺はシャトヤーン様を救出しなければならない・・・絶対に・・・

 

「く・・・」

「残ったのはお前だけだな・・・ちとせ・・・」

死神は最後に残ったGA−006と対峙していた。

もはや、残っているのはちとせのイグザクト・スナイパーだけだった・・・

あの後、姿を消した死神は次々と獲物達に奇襲攻撃をかけて紋章機達の心臓(クロノ・ストリング・エンジン)を砕いていった・・・

エンジェル隊が忍び寄る死神に気付いた時には既に勝敗は決していた・・・

そして、イグザクト・スナイパーの砲身も死神の見えないワイヤーに切り裂かれてしまい、もはやちとせはこれ以上戦う事は不可能だった・・・

 

「な、何て事だ・・・エンジェル隊がこうもあっさり倒されるなんて・・・」

シヴァは力なく座り込んでしまった・・・

「こ、これが・・・死神のメシアの実力なのか・・・」

 

「あなたは・・・本当にお父さんのお友達なんですか・・・」

ちとせの声は恐怖で上擦っている・・・何とも無様な天使な事だ・・・

「・・・・・・さぁね・・・」

俺はワイヤーに命令を出した。

 

(ALL・・・MODE・・・CATCH・・・(捕獲せよ))

 

見えないワイヤーが一瞬にして、イグザクト・スナイパーを捕獲した。

「くっ!」

「ちとせ・・・雅人同様に役に立ってもらうぞ・・・その為に残したのだからな・・・」

烏丸 雅人それがちとせの父親の名前だ。

「・・・!!あ、あなたは・・・!あなたという人は!!」

俺はちとせの非難の声を無視して白き月の内部にいる七番機に呼びかける事にした・・・

「シャトヤーン様ーーー!!」

俺は七番機から声を発しながら、シャトヤーン様に呼びかけていた。

「タクトです!救出に参りました−−−!」

しかし、一向にシャトヤーン様からの返答は無い・・・

ピピ・・・ピピ・・・

誰だ・・・?

「よう・・・」

「レイ!?」

モニターに映ったのはミルフィーの顔をした死神だった・・・

「タクト・・・表に出てこないと仲間が一人、無様な死に様をさらす事になるぜ?」

「な、何だと・・・!」

こいつ・・・俺を宙域に引っ張りだそうとしているのか・・・

「どうする・・・?俺が命令するだけで大電流がちとせの体に流れる事になる・・・」

次の瞬間、モニターにアルフェシオンに捕獲されたイグザクト・スナイパーが映し出された・・・

「ち、ちとせ・・・!!」

「そうだな・・・90Aからどんどん上げていく事にしよう・・・死ぬ時には泡を吹いているだろうよ・・・しかし、それはそれで面白いな・・・無様に泡を吹くEDENのアイドル(天使)か・・・ふふ・・・ふはははは・・・!」

「・・・っ!?」

面白い・・・その一言が起爆スイッチになった!

「き、きき・・・きさまぁーーー!!!」

「ふふ・・・早く来ないと、お前の天使が無様な黒こげ姿をさらす事になるぜ。」

そう言って死神は通信をきった・・・!

俺は七番機を反転させ、最大全速で出口へ向かった。

 

「ちとせ・・・怖いか?感電死というのは苦しいものだ・・・楽には死ねないんだよ・・・楽に死ぬ時というのは体に穴が開くか、消し炭になってる時だ。」

「あ、あなたはもはや、父様のお友達なんかじゃありません!悪魔そのものです!」

「その通りだよ・・・ちとせ・・・」

「え・・・?」

「俺は悪魔だ・・・」

悪魔だからこそ、天使を殺すのさ・・・

 

「人質とは・・・そこまで堕ちたのか・・・父上・・・!」

シヴァの手はふるふると震えている・・・

「シヴァ様・・・」

「このような悪魔が余の父親だと言うのか・・・」

(タクト・・・急げよ・・・タイム・リミットは近い・・・

 

七番機が再び宙域へと出た。

辺りにゼックイはいない・・・ゼックイ達は皇国の無人艦隊と交戦中のようだ・・・

 

モーゼの十戒のように俺の真正面には何もなく・・・

約90000の先にあいつが待っている・・・

「来いよ・・・今度こそ殺してやる・・・」

モニターに奴の顔が映っている・・・

俺の頭は既に煮えくり返っている・・・

この悪魔だけはここで倒す・・・

今度こそ・・・!!

「死ぬのは貴様だ・・・」

 

七番機零番機へと近づいていく・・・

 

最後の紋章機最初の紋章機へと近づいていく・・・

 

その時、俺の頬に一瞬だけ熱い感触が走った・・・

 

そして、死神の頬にもルーン文字が現われた・・・

それは、“sowelu”・・・完全を現す・・・

完全の体現者の証・・・

 

俺はタクトの頬に“blank”の刻印が現われたのを感知した。

・・・未知・・・運命・・・姿の無い刻印・・・

奇跡の体現者の証・・・

 

「ロキ・・・始まるぞ・・・体現者同士の戦いが・・・」

「なるほど・・・一応は混沌を倒した事になるという訳か・・・

「この勝負・・・必ずどちらかに勝敗が下る・・・」

 

(ばーか♪まだ早いよ・・・絶対領域じゃないと面白くないだろうがよ・・・)

 

「タクトさん!来ちゃ駄目です!」

七番機が20000の所まで来た時、ちとせが声を荒げた・・・

「駄目だ!これ以上、君を犠牲にしてたまるか!!」

「タ、タクトさん・・・駄目・・・逃げて・・・逃げて下さい・・・」

 

「チッ・・・これ以上、お前の三文芝居なんか見たくねぇんだよ。」

バジジィィ!

「あうっ!!」

「ち、ちとせ!?ちとせーーーー!!」

こ、こいつ・・・やりやがった・・・

「フン・・・失神しやがった・・・」

死神はちとせの紋章機をルクシオールの方に放り投げた。

「ど、どうして・・・」

「決まってんだろ・・・用済みだからさ・・・」

「・・・・・・・・・るな・・・」

「言っておくが、今度逃げたらあのガキ共(天使)のコックピットを撃ち抜くからな。」

「・・・・・・けるな・・・」

「来いよ、主人公さんよぉ・・・」

死神は右手にダインスレイブを呼び出して構えた。

 

「ふざけるなあぁぁーーーー!!!!」

 

俺はすぐさまに斬りかかった!

「ふ・・・単純な奴め・・・いつものお前らしくない・・・」

死神はタクトの剣を受け止めた。

「何が用済みだ!この野郎!!」

「そのままの意味だよ。」

「ふざけるな!!」

「それはお前だろう?」

「ぐっ!!」

死神が俺を蹴り飛ばした。

「こんなどうしようもないガキ共を使ってきたお前の存在自体がふざけている・・・」

「何だと・・・!?」

「そこが、俺とお前の指揮官としての心構えの違いだ・・・俺は命令通りに動かない部下はすぐに切り捨てる・・・そこに私情は無い・・・だが、お前はどうだ?今までのお前の指揮なんてのはガキ共を野放しにしていただけではないか。」

「お前みたいに力づくで従わせる事の方がよっぽど素人だ!!」

「はあ?誰が力づくで従わせているだと?」

死神は機体の周囲に12機のフライヤーを展開した。

「こいつらは力づくではなく、本能によって従っている。」

「そんなものにしか頼れない情けない奴め!」

「は!こいつらはお前の天使みたいに感情に流されずに言われた通りに動いてくれる・・・情けないのは信頼関係などというものに翻弄されてばかりのお前だろう?」

「その信頼関係すらも築く事すら出来なかったお前が何を偉そうにっ!!」

エオニアやシリウスに裏切られたくせに!

「ふふふ・・・だからお前は“甘ったれ”なんだよ・・・俺はお前のように他の者に頼ったりしない・・・俺は完全の体現者だからな・・・」

「リコの血を採取しなければ生きていけない癖によくそんな事が言えるなっ!」

この野郎・・・・・・調子に乗りやがって・・・

「上等だ・・・このガキ・・・そこまでほざくのなら今から起きる事態を自分一人の力で何とかしてみせな・・・」

俺は白き月に命令を発した・・・

「・・・・・・?」

 

この二人の刺々しい会話は司令室や各紋章機にまで届いていた。

 

「タ、タクト・・・」

司令室の中は二人の過激な言い争いにどよめいていた・・・

「あ〜あ〜遂にレイを怒らせやがったな・・・あいつ・・・」

「・・・・・・」

次の瞬間、オペレーターから悲鳴のような声が上がった!

「た、大変ですっ!!」

「どうした!?」

「し、白き月が・・・白き月が・・・」

オペレーターの声は涙混じりだ・・・ただ事ではない・・・

「・・・っ!?白き月がどうした!?」

 

「白き月が本星に向けて降下を始めました!!」

 

「な!?」

(そうか・・・これで終わりにするか・・・レイ・・・)

「シャトヤーン様・・・!シャトヤーン様がまだ残っているのに!!」

シヴァは椅子から立ち上がって叫んだ。

「母上ええぇぇーーーーーーー!!!!」

 

「し、白き月が皇国に向かって・・・動いている・・・!?」

あの巨大な白き月が戦艦並みの速度で本星へと向かっている・・・このままでは白き月は本星の引力に引かれて、白き月は落下して崩壊し、本星にも多大な被害が出てしまう・・・!!

「シャトヤーン様まで殺す気か!?シャトヤーン様は、お前の!」

「言っただろう・・・用済みは処分するってな。」

「・・・っ!?」

こ、こいつ・・・!!

「ふふ・・・お前達が信仰し・・・憧れて・・・命懸けで守りぬいてきた白き月とアイドルが今度は凶器となってその恩を仇で返すのだ・・・ふふ・・・どうだ?これ以上に面白い演出は無いだろう?あははは・・・!あーっはっはっはっはっはっはっ!」

「このヤロオオオォォーーー!!!!」

七番機がエクスカリバーで悪魔に斬りかかる!

「フン・・・勢いだけでこの俺が倒せるとでも思っているのか・・・?」

死神も斬りかえしてくる!

「・・・舐めてんじゃねぇぞ・・・この小僧があああああぁぁぁーーーーー!!!!」

死神の魔剣がまたしても襲い掛かってくる!

「負けてたまるかあぁぁーーーー!!」

一本のエクスカリバーで対抗するも、死神の足に生えた偽りの魔剣が七番機の右足を刈り取った・・・だが、これぐらいで退く訳にはいかない!!

「どうした!?いつものお優しいタクトさんらしくないぜ!?」

「お前はどうしてそこまで!!」

「それはこちらのセリフだ!どうしてお前はそこまで馬鹿なんだよ!!」

「お前こそーーーっ!!」

エクスカリバーとダインスレイブが衝突しては不快な音を出す!

「こんな事をさせる為にルシファーはお前を救った訳じゃないんだぞ!!」

「あの馬鹿女にもほとほと困ったものだ・・・何とも恩着せがましい奴だ・・・」

「な、何だと・・・」

「恩着せがましいって言ったんだよ。思い返せばいつも俺に付きまとっていやがった・・・まったく、鬱陶しいにも程がある・・・」

「ル、ルシファーはお前を助ける為に・・!」

お前を助ける為に自分を捨てたんだぞ・・・!

「それが鬱陶しいんだよ!別に俺は助けてくれなど言った覚えはねぇのによぉ・・・」

「!!!!!!」

何かがキレた・・・

指先が怒りで震える・・・こいつだけは絶対に許さない・・・!

「お前はあああぁぁーーーーーーー!!!!」

俺は怒りに任せてエクスカリバーを奴に叩きつけた!

「フン・・・単純な奴め・・・」

「お前は・・・!お前はだけは・・・!お前だけはあぁぁーーーーーっ!!!」

俺は怒りに任せて暴れるタクトの動きを冷静に観察していた。

(フィールドさえ無くなれば、ただの雑魚だ・・・)

「絶対に許さねぇーーーっ!!!」

「・・・また、のしてやるよ。」

フィールド・キャンセラー発動・・・

アルフェシオンを中心とした半径10万全域に俺はナノマシンの素粒子を散布した。

互いの機体が展開しているASフィールドは名称こそは絶対領域となってはいるが種を明かせば、ただの高性能なバリアだ。その構築基盤を崩してやれば後は容易い。

そして、ASフィールドは外から物理的干渉を受けない限りは目に見えない・・・

そして、タクト自身もフィールドが消失した事に気が付いていない・・・

もらったな・・・この戦いは・・・

 

(ALL・・・MODE・・・CATCH・・・)

 

極細のナノマシン製ワイヤーが七番機のあちらこちらに絡まっていく。

「く、くそぉ!またかっ!?」

タクトは必死にあがくがもう遅い・・・ワイヤーは完全にタクトを捕らえている。

「タクト・・・これで終わりにしてやる・・・」

「うわ!?」

七番機が磔にされたかのようにアルフェシオンの真正面でさらし者にされた。

「死ね・・・」

アルフェシオンの胸部パネルが展開されて中の反射板が現われ、そこに紫色の粒子が集束されていく・・・その飛び交う紫電の激しさがこの攻撃の威力を示している。

まずい!あのどでかいエネルギー砲を使うつもりか!?

「デス・ブラスター・キャノン・・・」

その時だった・・・七番機がふと軽くなり、アルフェシオンから煙が立ち込めたのは・・・その上、先程まで集束していた粒子は既に消滅していた。

「何だ・・・七番機が動ける?」

「な、何だ!?これは・・・!!」

ナノマシン形成にエラー・・・形成不可能不可能だと!!・・・まさか・・・

俺はアルフェシオンからの報告を聞いてエラーの正体が分かった・・・

「・・・A・Nウイルス(アンチ・ナノマシン・ウィルス)!!・・・・・・散布したのは七番機だと!?・・・馬鹿な!何で七番機にこのようなものが備わっているのだ!」

そうかこれも奇跡の成せる事か・・・・・・ふざけるな・・・何が奇跡だ!!

「クソオォッ!!またあの馬鹿女かあっ!!」

死神はタッチパネルを叩いた。

 

「ルクシオールに撃墜された紋章機の回収を急がせろ。」

「はい!」

アバジェスはオペレーターに指示を出していた。

「おい・・・アバジェス・・・見てみろよ・・・」

「何だ・・・ん?・・・ほう・・・」

「アルフェシオンが煙をふいている・・・ナノ・マシンが溶解しているんだ。

「なるほど・・・A・Nウィルスか・・・これでナノマシン形成が使えなくなったな・・・」

「ああ・・・奇跡の始まりだ・・・」

ロキは表情を楽しそうに歪めた。

モニターでは七番機の消滅した右足が瞬時に再生していく様子が映し出されていた

「す、すごい・・・!!」

シヴァは呆然と七番機の引き起こした奇跡を見ていた。

「レイ・・・ここからだぜ・・・タクト・マイヤーズの恐ろしさは・・・

 

七番機の出力が上がっていくのが分かる・・・暖かい・・・

タクトさん・・・・・・

懐かしい声が聞こえてくる・・・

タクトさん・・・負けないで・・・

ああ・・・分かってるよ・・・ミルフィー・・・

 

「チ!インフィニの出力が下がっていく・・・!!」

ウィルスは既に除去したが、既にナノマシン形成は不可能・・・つまり、フライヤーやワイヤー・・・そして、変形する事は不可能だ・・・

「レイ・桜葉!!」

「・・・っ!?」

あいつが高らかに俺の名前を呼んだ。

「もう、お前には負けない・・・!絶対に・・・絶対に・・・!!」

ミルフィーを取り返す為にも・・・

「絶対に負けないからなあぁぁぁーーーー!!!!」

七番機がエクスカリバーで斬りかかる!

「・・・調子に乗ってんじゃねえぇぇぇーーー!!!!」

零番機もダインスレイブで応戦する!

もはや、互いに残された武器は一本の剣のみ・・・!

激しい斬り合いが始まった!

「絶対に!絶対に!!負けてなるもんかあああぁぁぁーーーーー!!」

「少し、有利になったぐらいでいい気になるな!小僧がーーーっ!!」

二機の斬り合いの激しさは勢いを増していく。

 

その戦い様はまさに互いに命を懸けた死闘である。

 

「お前だけは絶対に許さないからなぁっ!!」

「それはこっちのセリフだ!ヘタレがあぁっ!!」

アルフェシオンが次の瞬間、姿を消した。

 

ブラック・アウト

 

しかし、俺は慌てない・・・何故なら、アルフェシオンが見えるのだ。

インフィニの出力が下がったせいか、今まではまったく見えなかったアルフェシオンがおぼろげではあるが、見えるのだ!

「気のせいなんかじゃない!あいつが見える!!」

俺は背後から斬りかかって来たレイに向けてエクスカリバーを振った!

「な、何!?ブラック・アウトを見破ったのか!?」

レイがそのまま後方に下がるが、逃がしはしない!!俺は七番機をそのまま踏み込ませて、レイを追跡する!

「チィ!」

「逃がすか!この野郎!!」

「俺が逃げただと!?舐めやがって!!」

レイは遂に姿を現して、斬りかかって来た!

「このおぉーーー!!」

聖剣と魔剣がぶつかっては離れてぶつかる!!

「チ!テメェはしつこいんだよ!!」

「しつこくて悪いか!!」

「お前は初めから気に食わなかったんだよ!!」

「お互い様だ!それにこの腐れ縁はここで終わりにしてやる!!」

「弱い癖にヒーロー気取ってんじゃねぇ!!」

「いつまでも昔の俺だと思うな!」

「は!よく言うぜ!今までお前が生き残ってこれたのは周りの人間に支えられてきたからだろうが!!」

「それが、悪いか!!」

「ああ、悪いね。でなきゃ、お前みたいな怠け者が生き残れる訳がねぇよな!!」

「それは悪かったな!!」

「皇国軍も随分と生易しくなったもんだ!!テメェ等みたいな軍人としての心構えもしてないようなクソガキを司令官にするとはなぁ!!」

「何だと!?」

「戦争は良くない・・・それがお前達の信念だった・・・」

それがどうした!!俺達は戦いをなくす為に・・」

「戦わずして守れるかーーーっ!!このガキがあぁぁーーーーっ!!」

「ぐわ!?」

アルフェシオンの右足にこちらの左足が蹴られてバランスを崩した。

「どうした!?大口を叩いた癖にこの程度か!!」

レイはここぞとばかりに魔剣で俺の左手を斬りにかかってきた。

「チ!」

だが、俺だって負けていない!

スライディングをするようにアルフェシオンの左足を蹴り飛ばした。アルフェシオンはバランスを崩した。

「なっ!?」

やった・・・初めてレイに攻撃を当てたぞ!!

二人は機体を立て直すと再び斬り合いにはいった。

「どうだ!完全なんてありはしないんだ!!」

「たかが一撃あてたぐらいでいい気になってんじゃねぇーーー!!」

 

「す、すごい・・・」

シヴァだけでなく二人の壮絶な戦いはモニターを通じて全員が見ていた。

そして、その荒々しい喧騒も・・・

「・・・凄いな・・・あのレイに攻撃を当てるとは・・・」

「なぁに、今のタクトにはレイの攻撃が見えている筈だからな・・・」

「ふ・・・明鏡止水の心か?」

「ああ、その通りだ。一見、ただ怒りに任せて暴れているよう見えるタクトだが、その怒りがあそこまでの集中力を保っていられるんだろう・・・澄んでいるというのは何も冷静沈着というわけではない・・・戦況はタクトが有利だな・・・」

「それはどうかな・・・レイがそんなに甘い奴だといいんだがな・・・」

「何が言いてぇんだよ。」

「レイとてタクトが明鏡止水の心を持っている事ぐらい百も承知だった筈だ・・・それにレイ・桜葉もタクト同様に追い詰められてからが強くなるからな・・・」

「腐れ根性か・・・」

 

「何が、奇跡だ!何が夢だ!何が愛だ!!反吐が出るんだよっ!!」

七番機と零番機は壮絶な斬り合いを続けている!

「くっ・・・!皆がお前みたいに強くないんだ!!少しは弱い者の立場に立って考えろ!この石頭−−−っ!!」

「うるせぇっ!!弱者ってのは周りに甘えているだけの怠け者なんだよ!そんなガキの子守なんてしてられるか!ガキの子守はあの馬鹿女だけで十分だ!!」

「だから、そうやって決め付けるなと言ってるんだ!この野郎!!」

「は!人の言う事を聞かないのはお前も同じだろうが!!」

「何を!!」

「何とかなるで作戦を立てて、結局はいっつも紙一重だった・・・その度に俺がどれくらいフォローしたか知ってるのかこのガキィ!!」

「そんな話を今更出しやがって!!」

「今まで黙ってやったんだよ・・・お前は弱者だからなぁ・・・!!」

 

一方、その頃ルクシオールの格納庫にはクロス・キャリバーに閉じこもったアプリコットをカズヤが引っ張り出していた。

「リコ・・・!お願いだから・・・」

「ゴメンね・・・ゴメンね・・・ゴメンね・・ゴメンね・・・」

リコはさっきから同じ事だけを呟いている・・・目は既に遠くを見ていて虚ろだ・・・

その時、格納庫のモニターには激しい斬り合いをしているタクトさんとレイさんの様子が映し出されていた。

「タクトさん・・・レイさん・・・」

二人共、悪い人では無いのに・・・

どうして殺し合わなければならないんですか・・・

でも僕は二人の戦いを止める事はできない・・・

『俺とタクトとの一騎打ちを邪魔するな・・・』

それが、レイさんとの約束だった・・・

二人は互いの剣をぶつけて離れては再度ぶつけている・・・

本当に凄まじい戦いだ・・・

「お前だってシリウスをまともに動かせなかった癖に!!」

「そのシリウスを救えずに殺したのはテメェだろうが!!

「・・・・・・っ!?」

その二人のやり取りにリコが体を震わせて・・・号泣しながら、シリウスの名前を何回も叫んだ・・・その泣き声は僕も泣いてしまう程に痛々しかった・・・

そんなリコを見るに耐えなかった僕は何度もリコは悪くないと諭したが、今のリコには何を言っても相手にされなかった・・・こんなに自分が歯がゆいと思ったことは今までに無い・・・

奇跡の体現者完全の体現者の死闘はまだ続いていた。

「一部の完全に近い者に守られながら、奇跡に頼り、夢だけを見て、完全を目指す事を忘れたお前達、人間共に明日など必要ない!!」

「何でそこまで完全に執着するんだよ!」

「そうしなければ、精神的に未熟なお前達はかつてのEDENのように繰り返すからだ!夢と自由と進化だけを追い続けて人間としての心も忘れ・・・

自らの業でその身を滅ぼしたEDENのようにな!!

カルマにより滅びたEDENのようにな!!」

・・・?今、もう一人の声が聞こえたような・・・

「だから、そうやって決め付けるなと言ってるんだーーー!!」

(は!決め付けるも何ももはやそれは因果と化している・・・だから、今、こうやってお前が存在できているのだぞ?タクト・・・)

「完全を目指さないのはお前達の甘えでしか無いだろうがぁっ!!」

「甘え、甘えって・・・!お前の世界じゃ人は生きていけない!!」

「全員に生きろなどとは言わん!弱者は勝手に死ね!!」

「ふざけるな!!」

「ふざけているのは貴様だ!忘れたか!?この世は弱肉強食の世界だって事を!」

「そんな世界・・・変えてやる!!」

「できもしねぇ癖に夢理想論ばっか、並べてるんじゃねぇ!!」

「お前こそ!現実、現実って言いながら、結局、リコを傷付けただけじゃないか!」

「何を!」

「お前が完全の為にと目指してきた今までの計画で多くの人が命を落としたり、傷付いたりしているんだぞ!!」

「そこまで知った事か!お前等弱者の救世主など真っ平御免だ!!死にたい奴は勝手に死ね!死んだ者は全員が敗者だ!死人は何もできはしない!!」

こ、こいつは・・・

「よぉく、分かったよ・・・レイ・・・」

「そのチンケな頭で何が分かった。」

「お前とは絶対に分かり合えないってなぁ!!」

「今頃、気付いたか!!馬鹿がっ!!」

互いにこれ以上討論する必要など無い!

俺は剣だけでなく、空いている左手や足も動員してアルフェシオンに攻撃を加えていた・・・!そして、レイも同じ様に返してきた。

 

「現実を見れない小僧があああぁぁぁーーーーーー!!!!」

 

「現実しか信じられない臆病者があぁぁーーーーー!!!!」

 

激しく、ぶつかる七番機と零番機!

しかし、二人の死闘はもうすぐ、終局へと近づいていた・・・

 

一方、皇居の司令室では・・・

「シヴァ様!未確認飛行物体が突如、皇居の上空にドライブ・アウトしてきました。」

「な、何だと!?」

「識別判明しました!・・・って!こ、これは敵の旗艦です!」

「そ、即座に迎撃だ!!」

「お待ち下さい!その戦艦にはシャトヤーン様が乗っているかもしれません!」

「え・・・?」

「敵から何らかしらの呼びかけが来る筈です・・・オペレーター!あの戦艦に呼びかけろ!」

「は、はい!!」

「し、しかし・・・攻撃されてからでは・・・」

「あ〜もう!よく考えてみろよ、譲ちゃん・・・敵の旗艦が一機だけで乗り込んでくるのはおかしいだろう・・・」

ロキは頭をぽりぽり掻きながらシヴァを諭した。

その時、アバジェスの言った通り敵の旗艦から応答があった・・・

「聞こえるか・・・司令部・・・」

どこか聞き覚えのある声が弱弱しく応答してきた。

「エオニアだな?」

「エオニアだと・・・!?」

エオニアはシリウスとの戦いの際にタクト達を援護して、機体が大破した為、戦線から離脱したのだ・・・

「シャトヤーン・・・は無事だ・・・この船の・・・中にいる・・・」

「あ、あぁ・・・シャトヤーン様・・・!!」

シヴァは安堵の表情を浮かべた。

「了解した・・・エオニア・・・ご苦労だった・・・至急、回収班と医療班をそちらにまわしておく・・・だから、それ以上無理に喋るな。いいな?」

「かたじけない・・・」

そう言ってエオニアは通信をきった。

「い、一体どういう事だ?」

「シヴァ様・・・エオニアは皇国軍の味方です・・・自分がシャトヤーン様奪回の命令を下していたのです・・・」

「な、何と・・・」

「ルフトには先日、話しておいたのですがね・・・エオニアはよく任務を果たしてくれました・・・」

「そうか・・・ん?ちょ、ちょっと待て!それじゃあ、父・・あの男は何故・・・」

「シヴァ様・・・本当の敵はレイでは無いのです・・・」

「え・・・?」

 

七番機と零番機は互いの間接部が悲鳴を上げても、戦う事をやめようとしない。

「感情に流されるままにしか動いてこなかったお前達の甘っちょろい行動を見せられてきた俺がどんな気持ちでいたか、お前にわかるか!?」

「そうやって、お前は馬鹿にする事しかできないのか!?」

「馬鹿にされる方が悪いんだろうがっ!」

「お前だって失敗をしてきたじゃないか!!」

「俺の失敗はお前達、弱者の行動が原因なんだよ!」

「お前こそ、弱者だ!!」

「己自身の力で何も出来なかったお前に言えた事かっ!?」

「己自身だと!?お前だってルシファーがいなければ!」

「勝手に俺に干渉してきた馬鹿女の事など、知った事かっ!!」

 

「こ、この馬鹿野郎ーーーーーーーっ!!!!」

 

七番機が聖剣を零番機の魔剣に叩きつける!

もう、幾度も行われた斬り合い・・・

「ぐ!?」

しかし、今回は違っていた・・・

零番機 アルフェシオンが大きくバランスを崩したのだ。

「な、何だと・・・!七番機のインフィニの出力が上がっている・・・!?」

「どうしてお前って奴は、彼女をそこまで邪険にするんだーーーー!!!」

「俺の事を何も知らない癖に分かったような口を叩くなぁーーーーーっ!!」

「お前の事は知らなくても彼女の事なら知っている!!」

もはや、二人の口論は口論ですら無くなっている・・・

「ノロケ話に付き合っていられるか!!」

「こ、このおぉぉぉーーーーーーー!!!」

七番機がアルフェシオンを蹴り上げて、空いていた左手でボディを殴りつけた。

「ヤ、ヤロウッ!?」

 

「す、すごい・・・!七番機が・・・」

「タクトのエンジンがフル稼働になった・・・勝負はついたな。」

「いや・・・レイが本気になるぞ・・・

 

「うおおぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!」

俺は大人しくなって防御に回るアルフェシオンを何度も殴りつけた。

「・・・・・・」

「ミルフィーをかえせええぇぇぇーーーーーーーーーーー!!!!!」

「・・・・・・」

俺が左手でアルフェシオンの胸部を殴ろうとした時だった。

 

「調子にのるなよ・・・」

 

ゾクッ!

「くっ!?」

その時、宇宙が凍りついた。

俺は、七番機をアルフェシオンから離した。

な、何て威圧感だ・・・!

 

「あ!あの馬鹿!?」

「レイの闘気をまともに感じたのだ。無理もあるまい・・・タクトは遂に起こしてしまったな・・・眠れる獅子を・・・」

 

俺はヘビに睨まれた蛙のように動けないでいた・・・

指一本が凍りついたように動かないのだ・・・!!

「ふぅ・・・あれだけ殴ったのだから、気が済んだだろう。」

まさか、こいつ・・・初めから・・・

「俺も言いたい事は大方言い終えたしな・・・」

アルフェシオンがもう一本のダインスレイブを取り出して、二刀流の構えをとった。

「という訳でお前も用済みだ。

アルフェシオンが斬りかかって来て俺もそれに応戦するが・・・

「くっ!?」

最初に剣が触れ合った時に七番機の右足が切断されて・・・

「失せろ・・・ガキ・・・」

そして、次の瞬間、七番機の手足は全て切断された。

「し、しまった・・・!?」

「他愛も無い・・・少し本気になっただけで終わりか?」

 

「タクト!?」

「手の内を敢えて隠していたか・・・」

「しかし・・・・・・」

 

「どうだ?何か言い残したい事はあるか?」

「く・・・」

俺はトドメを刺す事にした。

どうやら、今回のタクトは失敗だったようだ・・・

今回のタクトは成功すると思っていたのだがな・・・

どうやら俺の買いかぶりだったようだな・・・

やれやれ・・・また最初からやり直しか・・・

今度で何回目なのか自分でも検討がつかない・・・

前回は混沌を倒すところまでいったというのにな・・・

だが、このタクトが弱かったのは俺のミスでもあるな・・・

運命の輪はまだ回り続けるか・・・

 

俺はダインスレイブで七番機のコックピットを貫く事にした。

「ゲームオーバーだタクト・・・」

「く、くそ・・・!」

 

いや、まだ終わらせるのは惜しい。

 

「ぐっ!?ぐぐ・・・ああ・・・!!」

突如、レイが苦しみだした・・・

な、何だ・・・?どちらにしろ俺は七番機を動かす事しかできないのだが・・・

その時、司令部のアバジェスより通信が入ってきた。

「タクト!ルクシオールまで後退するんだ!!」

「急げ!!」

「りょ、了解・・・!」

珍しい程に慌てたロキとアバジェスの声に俺は素直に従う事にした。

 

 

どういうつもりだ!?まだ、早いぞ!!

お前こそ、何故、運命の天使まで撃墜した?

運命の天使はまだその時では無いだろう・・・!

ふん・・・お前も情に流されるか・・・

違う!!

運命の天使達を覚醒させるのはオペレーション・ラグナロクの最終段階の時だぞ!

そして、混沌が倒れてからがオペレーション・ラグナロクの最終段階の筈だ!!

ああ〜・・・その最終段階なんだが、少し早めようと思ってな・・・

馬鹿な・・・!?

安心しろ・・・カズヤとフェイトは残しておいてやる・・・

そういう事では無い!

血筋のせいか・・・血が騒ぐな・・・__家の血が騒ぐ・・・

・・・・・・

俺の復讐劇がようやく再開するのだ・・・フィノリア以上の舞台としよう・・・

殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し・・・愛する・・・殺し合いする・・・殺し愛する・・・

さぁ・・・殺し愛といこうぜぇ・・・

・・・・・・・・・

待っていろ・・・デザイア・・・テメェのその柔らかい肌を引き裂いて、バラバラにしてやる・・・この時をひたすら待ち続けたのだ・・・己の愛した男(タクト)の無様な死体の前で泣きながら己の業(カルマ)を償いながら死ねえぇぇーーーーーーーっ!!!!

・・・・・・お前はこれでいいのか?

何だと?

お前の復讐劇はこの程度で終わっても良いのか?

・・・・・・・・・

ずっと、待ち続けたのだろう?EDENへの復讐の時を・・・

あの馬鹿女への復讐の時を・・・

なのに、ここで終わらせても良いのか?

・・・・・・・・・

 

この程度でお前の復讐を終わらせても良いのか?

 

・・・・・・くっくっくっ!そうだな・・・確かに・・・この程度で終わらせるのは・・・

 

勿体無い

 

この俺のギャラクシーエンジェル

この程度で終わらせるのはあまりにも勿体無いな・・・

 

それに、フェイトとカズヤも交わってはおらん・・・まだ因果は揃っていない・・・

だな・・・・相棒・・・

 

『仕方あるまい・・・今回は小手調べといくか・・・』

 

復讐鬼がEDENに再び降臨しようとしていた。

 

かつて、フィノリアを地獄絵図に変えた殺人鬼が・・・

 

最強凶悪悪魔

 

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