第三章
ラスト・リヴェンジャー
〜回想〜
(???)
これは俺の記憶だ・・・
ヴァル・ファスクとの戦いの際、彼女の紋章機が暴走した。
原因はヴァインによるものだったが、その時の俺には分からなかった・・・
「まだ・・・まだ・・・やりたい事があるのに・・・」
この時の彼女の言葉を俺は忘れない・・・
「イヤアアーーーーーーー!!!」
そして、彼女は消えた・・・
彼女の最後の悲鳴は今でも俺の脳裏に焼きついて離れない・・・
誰のせいでもない・・・
タクト・マイヤーズのせいなのだ・・・
何故、彼女が消えなければならないのだ・・・!
彼女が何をした!?
それとも、これすらも運命だからというのか!?
ふざけるな!そんな運命などクソ喰らえだ!!
リベンジしてやる・・・!
〜リペア・デイ〜
皇居からシヴァを連れ出したアバジェスは一日半で辿り着いた白き月でネオ・ヴァル・ファスクとの戦いで大破した紋章機の修理に入ろうしていた・・・無論、死神のメシア=レイ・桜葉に紋章機の破壊を命じたのはアバジェス本人なのだが・・・
アバジェスが紋章機の破壊を命じたのは白き月へと上がる為の口実である。
何せ、GA-001、006そしてRA=000、001以外の機体の修理なので、シヴァも視察をしたいとの事で半ば強引に出てきたのだ。
今や、皇国の実権を握っているのはブラウド財閥が送り込んできたスパイ達だ・・・
ブラウド財閥の総帥 ゼイバー・ブラウドこと神皇 タイラントが実権を持っていながら皇国を占拠しなかったのはひとえにレイ・桜葉の存在であった・・・
神皇はレイ・桜葉の恐ろしさをよく知っていたので、彼が消えるのを待っていたのだ・・・だからこそ、仕掛けるのは今だとアバジェスは確信しているのだ。
「ハード作業だぜぇ・・・」
「手を動かせ。」
「お前に言われなくても分かってらぁ!」
ロキとアバジェスは白き月の格納庫にて紋章機の修理に追われていた。
「・・・たく、アンフィニに換装しても制御チップが完成しなけりゃあ意味が無いっていうのによ〜・・・」
エンジン破損時の過電流により焼き切れた配線系統の取替えをしていたロキは口を尖らせてアバジェスにあてつけるように言った。
何分、カバーの裏側に書かれていた配線図がどうやら旧式のものらしく、現在の配線とはあきらかに違っていたので、配線調査をしながら元通りに復旧するしかないのだ・・・ロキには地獄よりも辛い試練である・・・
「手を動かせ。」
ロキの性格を知り尽くしているアバジェスは相手にしないで黙々とコントロール系統の感知システムの更新を続けた・・・
「チッ!」
ロキもアバジェスの性格を知り尽くしているのでこれ以上言っても無駄だと解釈して、作業に戻った・・・
白き月にはもはや、ブラウドの手の者はいない、レイが白き月を占拠したのはこのスパイ達を締め出す為でもあったのだ・・・
そして、ロキ達が黙々と作業をこないしていると、アプリコットがドリンクを二人分持って格納庫へ現われた。
「お父さん、伯父さん。一息いれてくださ〜い!」
「おっ?さすがは我が娘、気が利くねぇ〜。」
「とてもお前達の娘とは思えんな・・・」
「やかましい!エレナに言うぞテメェ・・・!」
「悪かった悪かった・・・」
二人は作業をキリの良い所で切り上げて、アプリコットの元へ向かった。
「どうぞ、伯父さん。」
アプリコットはアバジェスにドリンクを手渡した。
「ありがとう、リコ。」
そして、今度はロキに手渡すのかと思いきや・・・
「お、お父さんのはここに置いておくから!」
リコは工具置き場にドリンクを置くとさっさと行ってしまった。
「あ〜あ〜・・・」
「・・・まだ、警戒されているみたいだな・・・」
「はぁ〜・・・」
話はロキ達が白き月に辿り着いた時まで戻る。
ロキは白き月に着くなり、アプリコットを呼び出したのだ。
白き月のエアポート・・・そこでロキが一人で待っていた。
タクトやカズヤそして、ミルフィーユも出迎えにきていたので、計四人となる。
ちなみにタクトはミルフィーに肩を貸してもらっているかたちだ。
「・・・・・・」
真面目なロキの様子に辺りは静まりかえっている・・・
「桜葉中尉・・・前に出ろ・・・」
「え?」
桜葉中尉・・・アプリコットの事だ・・・
「聞こえなかったのか?前に出ろ!」
ロキは完全に将校として娘に接している、それがタクト達の緊張感を更に高める。
「は、はい・・・!」
アプリコットは慌ててロキの前に立つ。
「先の戦闘時、お前の気の迷いによって、タクト、カズヤ、ナノナノは首に怪我を負う事になった・・・何か異論はあるか?」
「・・・いえ、私のせいです・・・」
「違う!リコは悪くない!!」
カズヤがロキの前に出て抗議したが・・・
「誰が、お前に口を出せと命じた?シラナミ大尉・・・」
ロキはカズヤの胸倉を掴むとそのままカズヤを後ろにせりのけた。
「お、おい!いくらなんでも・・」
横暴なロキに遂にタクトまで噛み付くが・・・
「お前もだ。マイヤーズ准将、こちらの階級は大将・・・お前には俺への発言権は無い。文句があるなら軍法会議で言え。」
「お、お前・・・!」
「・・・・・・」
ロキはタクトを無視してアプリコットに向き直った。
「さて・・・桜葉中尉・・・何か言いたい事はあるか?」
「ひ、酷いよ!お父さんの馬鹿!!」
(ば、馬鹿・・・!?)
「誰がお父さんだ・・・」
「お父さん!!」
「敵への攻撃を躊躇ったなどと、ブラウドの将校達に知られたら、評議会でエンジェル隊を解散させる口実を与えかねない・・・そこまで考えていたか?」
『あ・・・』
全員が何故、あの時ロキが撃てと言ったのかがようやくわかった・・・
「父・・・桜葉大将・・・今回の責任は私にあります・・・ですから如何なる処分も受けます・・・」
「・・・自分のしでかした事の重大さが分かったか?」
「は、はい・・・」
「・・・なら、歯を食いしばれ・・・」
「・・・・・・っ!」
ロキは袖をめくりながらアプリコットに告げた。
最初は驚いていたアプリコットだが、すんなりと従って、口を閉じて、目を閉じた。哀れな事にも、その体は恐怖で震えている・・・
(いくらなんで、殴るなんて・・・!)
我慢できなくなったカズヤがロキを力づくで止めに入ろうとしたその時・・・
ムニュ、プニ、プニ・・・
「・・・・・・?」
目を開いてキョトンとするアプリコット。
そして、彼女の胸を揉んだり、突付いたりしている父親ならぬセクハラ上司。
『な!?』
その場にいたアプリコットとロキ以外の者は固まった。
当たり前である。
「はっはっはっ!これこそお仕置きだ〜♪」
「・・・・・・」
すでにアプリコットの体はがくがくと震えている。
「はは!もう少し、成長すれば、もっと揉み応えもでてくるだろうな!」
「・・・い、いい・・・いいい・・・!!」
「カズヤにでも揉んでもらったらどうだ?」
今、まさに龍の逆鱗に触れている事も知らない馬鹿・・・
「いやあああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
そして、遂に愚か者は龍の逆鱗に触れた。
アプリコットはロキの手を掴むとロキの体を叩きつけた!
「ぐはっ!」
そこはさすがにロキと言うべきなのだろうか、一発では気絶しない。
しかし、アプリコットの勢いは治まらずにロキを叩きつける!
「インサートッ!!」
何やら意味不明の言葉を発するロキ・・・
ちなみにインサートとはコンクリート工事などで使用される打ちこみ式の器具である。
アプリコットはひたすらロキを叩きつける。
ダン!ダン!ではなくドゴォ!とかグシャとかいうコンクリートの音が聞こえてくる。
「あふ・・・アン♪」
次第にロキの中で痛みは快楽へと変貌していった・・・
(どうでも良いわい!そんな事!!)
「あ、ありがとうございますっ!・・ありがとうございます!!」
女王様に感謝する奴隷・・・
ロキの人間性を誤解してほしくないので教えておくが、ロキは酒の席で自分はMではなくSとMの両方だと言っていた。
(いいっちゅうに・・・!!)
「キャアアアアアアアーーーーーーーーーーーー!!!!」
アプリコットはフィニッシュにロキを天上まで放りなげた。
「昇天ーーーーーーーー!!!!」
ドゴォッ!!
ロキの頭は天上にめり込んで。そのままブランブラン(宙吊り)状態になった・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
鬼を退治した勇敢な美少女は荒々しく息をついた・・・
「タクトさん・・・」
「さ、みんな今日は俺のおごりだ。」
そして、タクト達はカフェへと向かうのだった・・・
「ちぇ〜、親子のスキンシップを計っただけなのによ〜・・・」
「俺は毎回毎回、言っているが、お前がしているのはスキンシップなどでは無ければ立派なセクハラだ。」
アバジェスがもう言い飽きたとばかりに目を閉じてストローを吸っていた。
「絶対におかしいぜ〜チクショー・・・」
「おかしいのはお前だ。」
「さっきからごちゃごちゃうるせぇんだよ。この野郎・・・」
「お?タクトとの訓練の時間だな・・・」
アバジェスはロキを無視して早々に引き上げた。
「あ!きったねぇぞ!コラァ!!」
先の戦いで負傷したエンジェル隊のメンバーもあらかた回復して、職務に復帰していた。とは言っても紋章機が修理中の為に職務がないので、エンジェル隊のメンバーは暇を持て余していた。そして、現在は白き月のカフェに集まっていた。
「何はともあれ、ミルフィーが無事に戻ってくれて良かったよ・・・」
「すいません、フォルテさん、みんな・・・心配をかけちゃって・・・」
「いや・・・でも、いつまでもEDENとNEUEの扉を閉ざしておくわけにもいかない・・・陛下達と連絡が取れなくなって、だいぶたつ・・・きっとNEUEは大騒ぎになっているだろう・・・」
「そうですわね・・・私もそろそろNEUEに戻りたいと思ってましたし・・・」
「すいません・・・もうじき、ゲートも開ける筈ですから・・・」
「まぁ、病み上がりなんだから、無理する必要は無いぜ。」
「ありがとう、アニス・・・」
「ところで、カズヤさんとリコちゃんは、何処に行ったのでしょうか〜?」
「ご主人様とミモは二人をまだ見かけてないのですに〜」
「そう言えば、さっきリコは見かけたけど、カズヤは一日見かけないわね〜・・・」
「私が朝、尋ねた時はカズヤ君、部屋にいたよ。」
「部屋・・・?」
ランファが少し意外そうな顔で聞き返した。
「部屋で何をしてるのだ?」
「う〜ん・・・私が行った時は特に何もしていなかったんだけど・・・」
僕は格納庫で紋章機の中を調べていた。
レイさんによって、このブレイブハートはサポート役の紋章機から一転してエース役の紋章機へと生まれ変わった。
アルフェシオンと同じフライヤーの装着や機動性面の格段的な向上・・・そして、システム、操作面の変更・・・前よりもあきらかに扱いやすく、思いと通りに動いてくれるようになった・・・なのに・・・僕はこのブレイブハートに不安を抱いている・・・
このブレイブハートは紋章機と違うと言われてきた・・・
なのに、今では紋章機の中でもトップクラスの性能を有している戦闘機となった・・・
「お前は、敵になんかならないよな?」
僕は返事を返してこれないブレイブハートに問いかかけた・・・
案の定、返事は帰ってこなかった・・・
(ふふ・・・それはお前の行動しだいさ・・・)
「・・・・・・そこ!!」
俺は風を斬る音だけを頼りに敵の剣を受け止める。
そして、左手の剣で息のする方向に斬りかかった・・・のだが・・・
バシィン!
左手の剣に敵が力一杯、剣を叩きつけて俺は右手の剣のみとなった。
これで、また最初からやり直しだな・・・
ネオ・ヴァル・ファスクとの戦いの後、俺はアバジェスから二刀流の訓練を受けていた・・・訓練といっても木刀で撃ち合うだけなのだが・・・
「タクトよ、利き腕で受け止めるのは止めておけ、それでは次の行動に支障をきたすだろう・・・」
「わ、悪い・・・つい右手が出てしまう・・・」
「おそらく、原因は俺の剣に対する恐怖心だろう・・・」
・・・その通り・・・アバジェスの一撃が怖いのだ・・・
見えない故に・・・
「今はそれでいい・・・」
「え?」
「恐怖心などは戦いの最中に自然と消えていくものだ・・・逆に稽古では恐怖心は拭うのは難しい・・・とにかく今は両腕で戦うという事に体を慣らす事だけをな・・・」
「アバジェス・・・」
何だろう・・・ロキとは違うこの教え方は・・・
ロキみたいにゲキを飛ばすわけでは無い・・・
淡白な性格と言ってしまえばそれまでなのだが・・・アバジェスの言葉には安心感がある・・・ロキの言葉にはお世辞でも安心感などは無いしな・・・
にしても、この目が再び開く事が出来る日は来るのだろうか・・・
「ふぅ・・・」
格納庫から帰ってきた僕はベットの上で今回の戦いの事を思い返していた。
今までも、沢山の騒動を体験してきたけど、今回ほど規模の大きい戦闘は無かったと思う・・・最強の敵の襲来・・・神々の住まう神界の存在・・・桜葉家の人達・・・そして、想像を絶する戦いの数々・・・今でも、これは夢では無いのかと錯覚してしまう時もある・・・何故なら、あまりにも非常識な事が立て続けに起こっているのだ・・・
そして、今度はあのブラウド財閥との戦いが待っている・・・
まるで、アニメのような展開だ・・・・
これが、僕が最近抱いている違和感だ・・・
Pi−−−
ん?
僕が頭を捻らせていたその時、部屋の呼び鈴が鳴った。
誰だろう・・・
「はい?」
「カズヤさん、私です。」
「あぁ、リコ?入りなよ。」
僕はドアを開いてリコを招き入れた。
「お邪魔します・・・」
リコは何故か、僕の顔を見ないで、他の所に目線を泳がせている・・・
何かあったんだろうか・・・?
「どうしたの?」
「は、はい・・・その・・・カズヤさんには色々と迷惑をかけたのにその事をまだお詫びしてなくて・・・」
あ、ああ・・・シリウスの件か・・・
「リコ・・・もう、その事は気にしないで良いよ・・・もう・・・忘れよう・・・」
「あ・・・は、はい!」
シリウスは少し可哀想だったけど、僕達にはこれからがあるんだ・・・いつまでも引きずってはいけない・・・
(お前もそうやって、見たくないものから目を背けるのか?)
「じ、実はもう一つ用とうか・・・お願いと言いますか・・・」
リコが歯切れの悪い声で何か言っている・・・お願い・・・?
「お願いって何?」
「え!?・・・そ、それは・・・その・・・」
リコは俯いて指をもじもじさせている。
「うん。」
「・・・ゴ、ゴメンなさい!やっぱり何でもないです!!」
「え、え?」
リコはそう言うなり、部屋を飛び出さんばかりの勢いで出て行こうとした。
「待って!!」
あ、あれ・・・僕は何でこんな事を・・・
「・・・え?」
「待ってくれ・・・」
「カズヤさん・・・?」
「リコ・・・僕は最近、誰かに見られてる気がしてしょうがないんだ・・・」
「えっ!?」
何故か、リコは過剰に反応した・・・
「リコ・・・?」
「実は私も同じ事を思っていたんです。カズヤさんと同じように誰かがいつも私の事を見ているような気がして・・・」
「リコもか・・・」
「みなさんにも相談したんですけど、そんなのは気のせいだって言われて・・・」
「そうだったんだ・・・」
「はい・・・」
そう言うとリコは大きく息を吸い込んで僕に向き直った。
「じ、実は、さっき言おうとしたお、お願いというのはですね・・・」
「え?」
「や、やっぱりいいです!!」
「良くない!」
「・・・!」
あ、まただ・・・僕はリコに・・・
「カズヤさん・・・?」
「良くない・・・良くないよ・・・リコのお願いは僕に教えてよ・・・僕にだけは・・・」
僕は行動に移す事にした。
「僕にだけは気持ちを隠さないで・・・」
少し、自己中心的な考えだけど、でも嘘はつけない・・・
相手を傷つけない時には嘘も必要だと思う。でも相手が一番、大事な人だった場合は少し、違うと思う・・・僕はリコだけには嘘をつきたくない・・・
まどろっこしい言い方をするな・・・カズヤ・シラナミ・・・
僕は彼女が離れていく事に耐えられないんだ・・・
「カ、カズヤさん・・・・・・あっ・・・」
僕はリコを抱きとめた。彼女との背丈の関係から彼女の頭が僕の肩越しに来る。
甘い香りが僕を魅了する・・・
「リコ・・・君がしたいと思ってる事は全部、僕に話して欲しい。僕は君の望みを叶えたい・・・だって・・・だって・・・」
「・・・・・・」
リコは口を閉ざして、頬を赤らめてはいるが、その目は僕の目を見てくれている。
それが、僕にはとても嬉しかった・・・
こんな天使のような娘が僕の事を信用してくれているんだ・・・
だから、僕は言った・・・
「リコ・・・僕は・・・君の事を愛している・・・」
「・・・!?・・・あ、ありがとうございます・・・わ、私もカズヤさんの事をあ、あ愛しています・・・誰よりも・・・」
リコは息呑んだ後、恥ずかしそうに目を閉じて僕の気持ちに答えてくれた・・・
愛している・・・
今までにも何度も言った言葉だけど、今回は違う・・・
僕とリコが出会ってから、すでに三年がたっている・・・
僕は19才に、リコは17才になった。
男と女・・・僕は以前よりもリコの魅力に惹かれている・・・
率直に言えばそれは、官能的な意味である・・・
僕はリコに欲情しているんだ・・・
それだけじゃない・・・リコにずっと傍にいて欲しいと思う・・・
こんな気持ちは初めてだ・・・
ネオ・ヴァル・ファスクとの・・・いや・・・レイさんとの戦いの中で僕とリコの距離は限りなくゼロになったと思っている・・・
理性で心が通っているからと抑えつけても抑えきれない・・・
でも、17才のリコが僕の事を同じような意味で思ってくれているかは分からない・・・
それにブラウドとの戦いが残っている・・・
まだ、戦いは続いている・・・
平和は訪れていない・・・
だから、今はこの気持ちだけを伝えておくだけに留まろう・・・
「リコ・・・よく聞いて・・・」
「はい・・・」
もう、お互いの顔に恥じらいは無い・・・
今なら、お互いの気持ちを正直に言ってもふざけているとは思わないだろう・・・
「この戦いが終わったら・・・僕と結婚してほしい・・・」
「・・・・・・・・・」
さすがのリコも驚いている・・・
でも、僕の心臓は爆発しそうなのに、思考だけははっきりしている・・・
「僕はこれからもずっと君の傍に・・・アプリコット・桜葉の傍にいたい。」
「・・・・・・・・・」
「僕を君のパートナーにしてほしい・・・僕を選んで欲しい・・・!」
「・・・・・・・・・」
その時、リコの目から雫がこぼれ落ちた・・・
「リ、リコ・・・」
「・・・・・・カズヤさんの馬鹿・・・」
え、え?
「ズルイです・・・いきなりプロポーズしてくるなんて・・・」
「ゴ、ゴメン・・・」
その言葉とは裏腹に僕の心は温かくなってくる・・・
僕はその言葉だけでリコの返事が分かってしまったから・・・
「傍にいたい・・・私を選んで欲しい・・・それは私が言おうと思っていたのに・・・」
「は、はは・・・ゴメン・・・」
「カズヤさん・・・私と結婚してください・・・」
「ううん・・・違うよ。リコ・・・」
「え?」
「結婚します・・・の方が良くない?」
「・・・そうですね・・・私もお姉ちゃんに負けないくらいの結婚式がしたいです!」
「うん!」
「よーし!負けないぞーーー!!タクトさん!!」
「ふえっくしい!!」
「あれ?タクトさん風邪ですか・・・?」
「いや、少し鼻がむずがゆくなっただけだよ。」
「気分が悪くなったらすぐに言って下さいね。」
俺は相変わらず、ミルフィーに身の回りの世話をしてもらっている・・・
本当にいいお嫁さんをもらったと実感してるよ・・・
本当・・・ミルフィーがあいつの妹なんて思えないよ・・・
「オラァ!」
「うわ!」
突如、何者かに首根っこを引っつかまれた。俺はベットに座っていたので、そのまま押さえ込まれるように、ベットに押し倒された。
というか、ミルフィーが気付く前に俺はこんな馬鹿な事をする馬鹿そのものを知っている・・・もはや名前を言う必要も無いし、言うのも面倒なので言わないけど・・・みんなもこいつが誰かってわかるよな?
「お、お父さん!?」
「いきなり、何をするんだ!お前は!!」
「何するんだ!じゃない!この俺が一日何時間働かされていると思っているんだ!?コラ!!俺はこれでも師匠で将校なんだぞ!!弟子で艦長の分際でこんなスイ〜〜〜ツ♪空間でリラックスたぁ・・・どういう了見だ!!」
そう言いながらロキは首を絞め始めた。
「ま、混ざりたいなら、そう言え・・・!」
「うん・・・」
しおらしく、そう言うとロキは俺の首を開放した。
ちなみに、ロキが大将に就任したのは給料とその待遇にある・・・ようするに半ば強引になったようなものだ・・・レイ・桜葉の空いた席に転がりこんだようなものだ・・・
その後、ロキの要望により、ここは三人制のお茶会となった・・・
「それにしても、お父さんはいつの間に入ってきたの?」
「お前が入るのと同時に・・・後は精神修行の一環で気配を消していたんだ。」
「そうなんだ〜」
騙されてる・・・絶対に嘘だ・・・ミルフィー・・・気付け〜・・・
「ていうか、ミルフィーが部屋に来てから2時間あまりたつけど、お前、その間サボっている事になるんじゃ・・ぐっ!!」
「タクトさん!?」
「タクト、どうした!?」
どうしたも何もテメェがミルフィーの死角からボディに打ってきたんだろうが・・・
とは言え、何か言おうとしたらそのたびに殴る気だろう・・・
「あったり〜!」
しかも俺の考えている事はお見通しかよ・・・
「?・・・何が当たりなの?」
俺へのボディブローへの当たりなんじゃ無いの・・・
〜情報戦争〜
「先程、評議会でエンジェル隊メンバーの解散が質疑された・・・」
アバジェスはエンジェル隊のメンバーを謁見の間に集めて衝撃の報告をした。
「おい!どういう事だよ!」
アニスが一番最初に食って掛かった・・・
「最後まで聞け・・・まだ、質疑の段階だ・・・決定されたわけではない・・・」
「どうなっているんだい!ブラウド財閥との戦いが避けられないっていうのに・・・」
「そこまでの経緯をこれより、教える・・・」
アバジェスはそう言うと、手をかざして・・・
「リプレイ・・・」
と短く呟いた。
すると、アバジェスの背後にスクリーンが出現した・・・
とはいえ、アバジェスが神王であるのは周知の事なのでこの程度へは驚かない・・・
「これはNEUEから送られてきたゼイバー・ブラウドからのメッセージだ・・・」
「ゼイバー・ブラウド・・・!?」
「敵の親玉か・・・」
全員に緊張がはしった・・・
ゼイバー・ブラウド・・・NEUEを影から牛耳っている鉱物資源卸売りを中心に古来より活動をしているブラウド財閥の総帥だ・・・
ネオ・ヴァル・ファスク以上の戦闘部隊を持つとも言われている財閥で、セルダール王やマジークの中でも数名しかその所在地を知らないと言われている闇の財閥でもある・・・その豊富な鉱物資源を目当てに数多くの窃盗集団がその所在地を突き止めて向かったが・・・生きて帰ったものはいない・・・そして、その所在地をリークした者も行方知らずとなっている・・・いわば禁忌の財閥なのだ・・・
しかし、そんな悪評とは裏腹に評判を得ているのが、総帥のゼイバー・ブラウドである・・・彼はその立場にありながら、様々な貧困に悩まされている星へ赴いてはその星の発展に常識では考えられない程の援助をしてきたのだ・・・簡単に言えば、資金の提供を際限なく実施しているのだ・・・
あのリゾート惑星ホッコリーも彼の資金提供によって、あそこまでの盛況を見せたのである・・・それ故に彼はゼイバー・ブラウドという男は多くの者達から支持されているのだ・・・しかし、彼はそれでも宣伝活動をする事などは無かった・・・
言わば、完全な独立ボランティア機関だ。
貧困なる者に無限の資金援助・・・
そんな彼を誰が批難しようものか・・・
批難しようものならその者が批難されるだろう・・・
スクリーンには豪華な装飾が施された大きな部屋が映し出されていた。
アンティークな本棚や机が古風とブラウドの歴史の長さを証明している。
そして、ブラウドの演説が始まった・・・
「親愛なるEDENとNEUEの民の皆さん・・・私はブラウド財閥の総帥 ゼイバーという者です。」
スクリーンが古風で大きな机で肘を突いているゼイバーを映し出す。
外見は20代後半・・・服装はいかにもといった紺色の紳士の服・・・
水色の綺麗なショートカットではたから見ると女に見えるが・・・
その妙に鋭い眼光が彼を男だと証明している・・・
「NEUEの皆さんは既にご存知の事かと思われますが、クロス・ゲート凍結されてから今日に至るまで、NEUEでいくつかの星が正体不明の戦闘機の襲撃により、壊滅させられました・・・生存者はいません・・・」
『なっ!?』
「こちらは私の元へ送られてきた惑星ピコの衛星軌道に配備されていた警護艦隊が命懸けで届けてくれた映像です・・・」
ゼイバーがそう言って画面が切り替わり、ノイズまじりの映像が流されてきた。
「そ、そんな・・・ピコが・・・」
ヴァニラの手足は震えていた・・・
衛星軌道から見ても分かるようにアクア色だった惑星ピコは赤く染まっていた・・・
「ピコが燃えている・・・!?」
そして、警護艦隊は次々と破壊されていく・・・
『あ、あれは!!』
全員は我が目を疑った・・・
警護艦隊を襲撃しているのは、何と死神のメシアの紋章機アルフェシオンとシリウスのゼックイ・・・そして、エオニアのゼックイだったのだ!
三機は固りながら互いをサポートしあいながら戦っている。
一気に接近して斬りかかるシリウスのゼックイ・・・
六機のフライヤーを飛ばして攻撃をするアルフェシオン・・・
そして、シールドでアルフェシオンを守りながらメガ・ビーム・キャノンを撃つエオニアのゼックイ・・・
「お兄ちゃん!?」
「・・・・・・」
「う、嘘・・・お兄ちゃんが・・・こんな事を・・・」
リコは震えながら次々と戦艦を破壊してい兄の紋章機を見ていた。
僕はリコの様子を見ながらスクリーンを見ていたのだが、どうしても気になる箇所が一つあった・・・
メシア隊はあんなにチームワークが良かったのだろうか・・・少なくとも、エオニアとシリウスが行動を共にしていたのもほとんど無かった・・・
何よりも一番、不自然なのはアルフェシオンだ・・・アルフェシオンは常に単独で動く・・・というよりも単独で動かなければ使用できる攻撃が限られる為に著しく戦闘力が下がってしまうのだ・・・そして、それこそが完全の体現でもあり・・・完全が常に完全でいられる証拠だ・・・何故なら、完全の体現者がもっとも嫌がるのは外的要因だからだ・・・レイさんは確かにそう言っていた・・・本人がそう言っていたのにこれはいくらなんでもおかしくはないだろうか・・・
そして、フライヤーの数も少なければ使い方も雑だ・・・レイさんはフライヤーの軌道を細かく変える。さもなければ先が読まれてしまうからだ・・・もちろん、フライヤーを短いサイクル(一つの行動)で動かすのは難しい・・・でも、レイさんはそれを実現させていたからこそ、あんなに強かったのだ・・・
スクリーンに映っているアルフェシオンのフライヤーのサイクルは無駄に長い・・・
というか・・・このフライヤーの撃ち方はどこかで見たような気がする・・・
「みんな、妙じゃないかい?」
僕がそう考えているとフォルテさんが突然、口を開いた。
「私も同じ事を考えていた・・・」
「二人共、何が分かったんだい?俺は目が見えないから教えてくれないかな?」
「ああ・・・あいつと戦ったタクトなら、分かるだろう?アルフェシオンは今までステルスをかけて、攻撃をしてきただろう・・・にも関わらず、この映像では姿をさらしてある。僚機のゼックイもねぇ・・・妙だろう?姿を現す必要も無いのに姿を現すなんて・・・つまり、こいつは自分達が攻撃してますとアピールしてるようなもんだよ・・・」
「なるほど・・・つまりこいつらは・・・ブラウドと手を組んだメシア隊か、もしくはメシア隊に成りすました偽者か・・・のどちらかって事か・・・」
「十中八九、後者の偽者と見るべきだろうな・・・」
リリィはモニターを憎々しげにみながら言った。
「つまり・・・ブラウド達はEDENに攻撃を仕掛ける口実を得たいという事か・・・」
「何て、奴等だ・・・ゆるせねぇ・・・」
アニスは拳を叩き合わせた。
やがて、スクリーンがブラウドの元へと戻った・・・
「私は正義心に従い、この卑劣な凶行を繰り広げた者達の正体を掴む為、EDENへと赴き、全力で捜索しました・・・」
「ちょっと!あんたはどうやってEDENへ渡ってきたのよ!」
ランファのブラウドへの指摘に答えるかのように録画の中のゼイバー・ブラウドは返答してきた。
「おそらく、皆さん方は私が、いかにして凍結中のゲートを渡ったのかと疑問に思っている事でしょう・・・」
(ゼイバー・・・どう来る・・・)
「答えは簡単です。このクロス・ゲートは我々、ブラウド財閥の建造物なのです。」
「え!?」
当然の如く、ミルフィーユはい驚いた。
「デタラメもいいところですわ・・・」
「我々は古来よりABUSOLUTEを管理してきたのです。その管理者の血を私は受け継いでいます・・・私はあなた方の言い方に直すと私は先のヴェレル達と同様にABSOLUTE人という事になるでしょう・・・」
「嘘なのだー!」
「あいにくそれを証明するものはありませんが、私がゲートを開けるという事実はこの放送がそちらに届いているという事が証明をしています・・・」
「EDENとNEUEを渡る方法は他にもあります・・・!」
そう言ったアプリコットはヴェレルとの戦いの際にカズヤとセルダールに伝わる秘術で絶対領域へと赴いたのだ・・・
「私は、EDENとNEUEの交流にゲートが利用されればと思い、EDENへの使用を黙認してきました・・・しかし、それがまさかこのような悲劇を招くとは・・・」
ゼイバーは黄金の瞳を無念そうに閉じた・・・
ゼイバーを疑っている者には芝居に見えたかもしれないが、ゼイバーを支持している者達にそれは誠意ある者に見えた事だろう・・・
「そして、私はこの騒動の真相を知るに至りました・・・」
ゼイバーの机の上に小さいスクリーンが新たに現れた。
「こちらをご覧下さい・・・」
スクリーンに何かのデーターが書きこまている。
「これからお話する事の証拠となるものです・・・」
「・・・・・・」
アバジェスの目に険しさが宿る。
「まず、最初に正体不明の戦闘部隊はネオ・ヴァル・ファスクのメシア隊という特殊部隊でした・・・いや・・・正確にはメシア隊の隊長 死神のメシアと名乗る人物こそがこのネオ・ヴァル・ファスクの黒幕でした・・・」
「・・・・・・」
「そしてこれからが重要な事です!」
ドン!ドン!とゼイバーは机を二回叩きながら言った。
「!?」
机を叩いて音を鳴らす行動は、傍聴人の気を引き付けるには最も適した行動だ。
「死神のメシアの正体はレイ・桜葉というEDEN出身の人間だったのです!」
「・・・・・・」
この時、ゼイバー意図的にしたのかはわからないが、ロキとゼイバーの目線があった・・・ロキの目も険しいものへと化している。
「ここで勘違いをしないでいただきたい事は私はEDENを責めているのではないという事だ。力を持てない普通の民は皇国軍という強大な組織に逆らう事はできない・・・従って、EDENの民に罪は無いという事をここで言っておきたい!」
ゼイバーは再度、机を叩きながら傍聴人の意識を完全にひきつけている。
「そして、皇国軍にも罪は無いと言っておきたい!皇国の運営を担い決定を下すのは皇王だからです!絶対王政の皇国では皇王に逆らえる者はいない・・・」
ゼイバーは机を叩いて、衝撃の発表をした。
「今回の騒動を仕組んだのはレイ・桜葉と、その娘であるシヴァ女皇とそれを取り巻く一部の者達なのです!!」
「な、なんだと!?」
シヴァは思わず椅子を倒す程の勢いで立ち上がった。
「ふざけやがって!」
「随分と強引なやり方ですわね・・・!」
「ここで、先程、紹介したこのスクリーンを見ていただきたい。」
画面がゼイバーの手元にある小さいスクリーンへとズームアップされる・・・
「これにはレイ・桜葉のシヴァ女皇とDNA鑑定が表示されています・・・結果は親子であるとの事だでした・・・無論、我々は二人の血を採取などはしていません・・・髪の毛からDNA情報を採取しました・・・そして、シヴァ女皇と月のミストレル(聖母)シャトヤーンのDNAが一致した事もこの場で発表させていただく!」
(やはり、それを使ってきたか・・・)
アバジェスはゼイバーがこの事を利用する事を既に知っていた・・・しかし、アバジェスは敢えて、ゼイバーを止めなかったのだ・・・
無論、それがアバジェスの策でもあった・・・
「レイ・桜葉が倒れた今、(EDENの)皆さんにはもうお分かりでしょうか・・・?我々、NEUEには惑星レベルでこのような理不尽な悲劇とそして多大な被害が出ているのに対して・・・何故、戦争の舞台となったEDENには皇国内での紛争程度で済んでいるのかが・・・答えはもう、皆さん方の正義の心の中にある筈です!それは今や、EDENを統括するにまで発展したトランスバール皇国の女皇 シヴァと敵の首魁であるレイ・桜葉が共謀して起こした騒動に他ならなーーーい!!」
ゼイバー・ブラウドは最後に大きく怒りを表すように机を叩いた!
『なっ!!!』
あらかじめブラウドの今後の展開を予想していたロキとアバジェス以外の者が絶句した・・・どんなに鈍い者でもゼイバー・ブラウドが何をしたいのかが分かる・・・
実は、このゼイバーの演説はNEUEに向けられたものではなく、EDENに向けられたものである・・・EDENの民を抱きいれようとしようとしているのだ・・・
つまりゼイバーの狙いは皇国軍の指導者でもあるシヴァの退位である・・・
さすれば、エンジェル隊とてその権威を失い、その任務を遂行する事は困難になるであろうし、自分達の送り込んだスパイを皇王にしてしまえば、後はEDENはゼイバー・ブラウドの思うがままななのだ・・・
金品に興味の無いゼイバー・ブラウド・・・
その本当の顔は混沌の神皇 タイラント・・・
彼の狙いは、ただ一つこの世を混沌に変える事・・・
そして、障害となるタクト達の排除に他ならない・・・
これが、静かなる開戦だった・・・
神皇へ反逆した神王 アバジェスとの開戦だ・・・
このゼイバーの一言が後に大きくEDENの民の心に揺さぶりをかけた。
もちろん、この言葉を全員が信用する訳が無い・・・
しかし、権力者達が一つの道を選んだとなれば、その権力者に従じる者達はその意向に抗う事はできない・・・
そう、我々が国という権力者に抗えないのと同じで・・・
そして、この権力者達は善意で動くものでは無い、大抵の権力者は金で動く・・・何故なら、自分が権力者であり続けるのなら金で人を従わせるしかないからだ・・・
金以外で人を従わせられるのはカリスマ性を持ち合わせた一握りの王族ぐらいのものだろう・・・第一、人はそう簡単には流されない・・・
しかし、例外は存在する。自分達の命が危機に瀕した時、人はお互いを守ろうと協力しあう・・・それが国の始まりでもある。
そして、この広い宇宙には色々な種族が存在する。中には善悪に影響されない種族もいる・・・全部が全部、生命第一主義などでは無い・・・
しかし、この宇宙の創造主が偶然的に創造したのか、それとも必然的に創造したのかはわからないが、このEDENとNEUEに存在する生命体は生命第一主義者のみだったのだ・・・つまりは自己防衛に過剰な程に反応するという事である。
「しかし、我々には正義の心と慈悲の心がある・・・そこで、私はシヴァ女皇にお伝えしたい!武力に武力で対抗するのは好ましくもないし、それは最終手段である・・・そこで私はシヴァ女皇との謁見及び会談を望む次第です!」
「よ、よくもここまで抜け抜けと・・・!」
「シヴァ女皇、貴方の身の潔白を証明するしかこの事態に収拾する手段は無い筈です!こちらには貴方がレイ・桜葉を父を呼んでいたと証言する者もいます!私に賛同して頂いたソルダム陛下の計らいの下、現在、私はセルダールに滞在しています。」
「へ、陛下が・・・!?ば、馬鹿な・・・」
リリィの知っているソルダム国王はブラウドを警戒していた筈だ・・・
「貴方が無罪だと言うのならこちらに直接赴いて私とお話いただきたい!NEUEの復興支援を引き受けている私となら、貴方も私と話すべきでは無いのですか!?私は待ちます・・・期限などは設けませぬが、時間は貴方を信じているEDENの民の不信感もつのらせる行いであると自覚してください・・・」
演説はそこで、終了した・・・
もはや、ブラウド財閥が敵である事は事実だ・・・
「あからさまな挑発だねぇ・・・」
「赴いた途端に総攻撃を喰らう可能性もある・・・連中はネオ・ヴァル・ファスクと真っ向から艦隊戦をやらかした程の戦力を持っている。俺達を撃退した後でEDENとNEUEの両面とも戦う用意があると見てもいいな・・・」
「しかし、これが罠だと確信できるのはゼイバー・ブラウドの本性を知っている俺達だけなのも事実だ・・・ここで我々が赴かわなければ、EDENの民はゼイバー・ブラウドのいう事を真実だと思い込んでしまう・・・何しろ、それで無くても皇国はよく思われていないのだ・・・それこそ奴の思うがままだ・・・」
「だな・・・ここはあのクソ野郎の言う通りに従うしか無いだろう・・・最悪の場合はEDENとNEUEの両面から敵視されかねん・・・ん?おい、ヴァニラ・・・大丈夫か・・・?」
ロキが顔を俯いたままのヴァニラに気付いて話しかけた。
「ヴァニラ・・・」
「ママ・・・」
全員はそれ以上、ヴァニラに話しかけようとは思わなかった・・・
何故なら、ヴァニラは顔を俯けたまま泣いていたからだ・・・
アバジェスは皆の視線がヴァニラに注がれている中でシヴァに近づいた。
「シヴァ様・・・行きましょう・・・セルダールへ・・・」
アバジェスが小声でシヴァにささやいた。
「ああ・・・これ以上、ブラウド・・・いや、神皇の思い通りにはさせない・・・」
シヴァは小さく泣いているヴァニラに視線を向けて呟いた・・・
〜創世の記憶〜
????編
これは俺が人間だった頃の記憶だ・・・
俺は地球という星に生まれた子供だった・・・
俺には二つ下の弟がいた・・・
両親の顔など知らない・・・
ジジィは両親は死んだとしか聞いていないが、俺にはもうどうでも言い事だ・・・
俺達は物心ついた時からジジィに育てられてきた・・・とは言っても俺や弟は14才からは自分の食いぶちを自分で稼ぐ事になっていたが・・・
俺の住んでいた国の名前は日本という・・・
こちらの年代で現して西暦、2021年にもなれば、我が家のように家の歴史を重んじる古臭い信念に捕われている者もいれば、日本国民としてのプライドすらも忘れ個だけを尊重するガキ共がはびこっていた時代だった・・・
ジジィの言う事には1920年代の日本国民とやらには公の証でもある魂があったが、現在の2021年には大人も子供も公を持たぬ肉の塊と化していた・・・そう、エネルギーを消費しているだけに過ぎない屑だ・・・
俺の住んでいた街は高層ビルが集中するビジネス街と境目に田舎がくっついたような奇妙な街だった・・・
俺が住んでいたのはその田舎の奥に武家屋敷だった・・・
俺と弟は食いぶちを稼ぎながらも、家に伝わる古武術を足しなわれていた・・・
道場を構えているわけでは無いので名前などは特に無いが、その鍛錬の激しさは学校での体育の授業で実感させられる・・・つまりは俺と弟の運動神経は学校の中でも群を抜いていたのだ・・・
そんな生活を続けていきながら俺が19才になった時、俺は既に働いていた・・・
職業は町にあった小さな電気工事屋だった・・・
2021年はインターネットが当たり前のように普及していた。国や自治体が地域格差を緩和する為に始めたプロジェクトだった・・・国がそれだけの地方交付税を出せば、自治体といえど動かねばならない・・・
その保全工事(メンテ)の為に俺達のような電工は休みも無く働き続けた。さらに俺達は元請けと言われる電話会社の下で働く下請け業者に所属していた。下請けとは傭兵のようなものだ・・・元請けは厚生省の監視が無ければ下請け業者の命など蚊ほどにも思わない・・・安く早く工事が済めばそれでいいのだ・・・こんな非道徳的な職務思念が誕生した理由は日本が金儲け第一主義の国と化したからだ・・・
多角経営をしてない電力会社で無い限りは会社は普通の商法では儲からない・・・
何故なら、そこには競争というものがあるからだ・・・
競争は互いのレベルを向上させる、もしくはレベルが劣化しない為に資本主義社会が生み出した合法的な考えだ・・・
しかし、そのレベルがほぼ互角になった時、今度は値段の安さで勝負に出る事になった・・・しかし、それでは資金的に弱い企業は次々と倒れていき、倒産をする企業もあれば、ライバル社と身を寄せて存続させようとする所もあった・・・
そう・・・競争・・・競争だ・・・
他者を蹴落として、自分が生き残る・・・
それは弱肉強食の社会だ・・・
そして、俺はそんな世界に愛想が尽きた・・・
そんな事を考えていたある日、俺はある者に選ばれた・・・
神界を統べる者として・・・
そして、俺は地球という星をその宇宙ごと焼き尽くした・・・
新しい世界を創るのに古い世界は邪魔でしかない・・・
そして、全てが無へと帰した後で、俺と俺を選んだあいつは新世界を創り出した・・・
新世界 NEUEを・・・
NEUEには競争社会や弱肉強食の無い世界にしたかった・・・
その要望をあいつが叶えてくれた・・・
アイツは俺にこう言った・・・
『EDENとNEUEを好きにするがいい・・・』
俺はその言葉に従って、醜き競争社会を神界で始める事にしたのだ。
まだ、無垢な世界でしかなかった最初のEDENにて始めるのだ・・・
そして、この頃からだった・・・自分の意識が飛んでしまうのは・・・
そう・・・それは自分の体を別の何者かが扱っているような間隔だ・・・
(おっと。ここで矛盾が出ちまったな・・・)
乖離
(ふぅ・・・あやゆくカラクリがばれるところだったぜ・・・)
競争心・・・
これこそが神界の基本システムにもなったのだ・・・
選ばれた者しか生き残れないという俺が考案した競争システム・・・
この競争社会こそが、神界の正体だった・・・
案の定、このシステムを知った者は己を鍛えて他者を蹴落として這い上がって来て、十二傑集に選ばれた者は今度はその席を守る為に競争を続ける・・・
何とも醜くて、愉快な芝居だった・・・
所詮、人間は何処に住まおうが人間でしか無いのだ・・・
そして、俺は、NEUEから競争心を排除しようと決心した。
俺の弟は神界を救った後でその事に気付いて俺を始末しにきた・・・
しかし、所詮は弟・・・昔から俺に負け続けていた俺に勝てる訳が無く、俺は弟を殺した・・・確かに殺したのだ・・・なのに、弟は死ななかった・・・それは弟の中に宿る鬼の血がそれをさせなかったのだ・・・
鬼と化した弟の強さは半端ではなく、俺も深手を負ってしまった・・・
そして、この時、俺はあいつから皇帝の座から降されてしまったのだ・・・
新しい神々の皇帝に選ばれたのだ・・・
やがて、未来のEDENより赴いた騎士により弟は敗れて神皇の座から降りた・・・
そして、現在神皇の座についているのは同じく未来より赴いた騎士だ・・・
正確に言えば三代目神皇は人間では無い・・・
真の混沌の体現者とは混沌に呑まれぬ者だ・・・
到底、人間に抗える者ではない・・・
弟もその沸き起こる破壊衝動と毎日のように瓦礫の城で戦っていたのだ・・・
三代目の神皇は
不死身の復讐鬼だ・・・
おそらくは俺やロキをも凌ぐ適性を備えている事だろう・・・
何故なら、あいつが求める神皇とは復讐鬼だからだ・・・
おそらくはあいつも今度の神皇にはそれなりの性能を持たせている事だろう・・・
俺は神皇の座より退いた後で、NEUEで暮らす事にした・・・
EDENとNEUEを繋いでいるのはゲートだけではない・・・
混沌と呼ばれる海だ・・・
そして、幸いな事にも俺には創造の力が残っており、これを利用して鉱物資源の売買に乗り出した・・・この時代はまだ、セルダールなどという王朝も無かった時代だ・・・
これが、ブラウド財閥の始まりだった・・・
金ではなく物質で動く世界・・・
競争の無い無垢な世界・・・
それがこのNEUEだった・・・
だから、俺は死ぬ寸前までこのNEUEを維持したくて、鉱物資源を売買しながら、競争社会にならないようにと様々な惑星に資金を援助した・・・恵まれていれば競争社会になる事も無いと思ったからだ・・・
そして、NEUEは栄えていった・・・
穏やかに・・・商売をしたい者にも魔法を学びたい者達は研究をしたい者達にも剣を学びたい者にも星をくれてやった・・・
しかし、そんな平穏を混沌に引き戻したのがEDENだった・・・
EDENをこちらによこしたのはおそらくはあいつだろう・・・
ゲートの開閉ができるのはあいつしかいないからだ・・・
運命の三女神と創造主のみが持つ、ゲートキーパーの力だ・・・
あいつはEDENへの復讐の為にこのNEUEを使う事にしたのだ・・・
そして、NEUEにも競争心が芽生えた・・・
そして、進化への欲求もどんどん増大していった・・・
進化・・・欲望(欲求)・・・それはあいつが最も憎悪するものだ・・・
それを敢えてNEUEにまで広めたのは他でもない・・・
NEUEに放たれた運命の天使達をかき集める為のエサだったからだ・・・
本来、アルフェシオンが指揮するGAシリーズとは違い
オリジナルが指揮をするRAシリーズには意味がない・・・
GAシリーズは白き月を守る為に創造された紋章機だ・・・
それに対してRAシリーズは単なる見せしめとカモフラージュの為に創られた紋章機だ・・・その為にわざと神王の紋章をつけているだけに過ぎない・・・
これがGAシリーズとRAシリーズの違いだ・・・
GAシリーズにはアルフェシオンの半身であるエクストリームを加えられている・・・
白き月が無くなれば、あいつの存在にも大きな影響を及ぼすからだ・・・
GAシリーズの目的はあいつが降臨する日まで白き月を守り通す事だ・・・
そして、RAシリーズはあいつの因果が揃うまで鍵を守護するのだ・・・
そして、その白き月は今度の戦争に姿をさらす事だろう・・・
タクトに見せ付けるつもりなのだろう・・・
あいつはデザイアの騎士であるタクトに並みならぬ執着心を抱いている・・・
いや・・・タクトを痛ぶるのが面白くてしょうがないのだろう・・・
惑星ピコは既にあいつに喰われた・・・これで、何個目の犠牲だろうか・・・
サクリファイス・・・
あいつはその動力を人間の魂で補っているのだ。
すでに何人の魂を与えたか分からない・・・
言わば、奴はソウル・イーターだ。
創造主でさえ、その存在が解明できない魂は混沌以上のエネルギーを秘めていると聞く・・・故にその稼動効率はインフィニにも匹敵するのだ。
運命の三女神の魂が宿った機体でなければインフィニは稼動しない・・・
そこで、人間の魂で代用しているのだ・・・
俺はもはやEDENやNEUEの将来などどうでもよくなっていた・・・
NEUEの民もEDENの後を追うように進化を追い求めて、その身を滅ぼすだろう。
お互いを蹴落としあう、弱肉強食の世界が始まるのだ・・・
それに、この俺は既に自分の意思では動かなくなっている・・・
エンジェル隊との戦いが最後になるだろう・・・
そして、その後で世界は終焉へと向かう・・・
終焉は誰にも止められないだろう・・・
誰も運命には逆らえないのだ・・・
俺も運命には逆らえない・・・
だからこそ、次のステップへとシナリオは進んでいる・・・
おそらく、次の作戦が開戦の合図になる・・・
『サクリファイス・・・犠牲か・・・』