第三章

 

ラスト・リヴェンジャー

 

DECISIVE BATTLE 

OF 

BLAUD

 

 

遂に因縁のブラウド財閥との決戦の時が来た。

俺達はジュノーの防衛艦隊と共にブラウド艦隊を待っている・・・

アバジェスの指示により、先鋒を務めるのは俺達、エンジェル隊だ。

 

「それにしてもタクトさんって本当に凄い人ですよね・・・」

ラッキースターの中からミルフィーがそんな事を言ってきた。

「あはは・・・これもミルフィーのおかげだよ・・・ありがとう・・・」

「そ、そんな・・・だって、私はタクトさんの奥さんですから・・・」

「なら、夫してありがとうと言っておくよ。」

「あのねぇ!戦闘前なのよ!?イチャイチャすんのは」

「おやぁ?ランファ〜もしかしてヤキモチか〜い?」

「ち、違いますよ!フォルテさん!」

「とりあえず、ご馳走様とだけ言っておきますわ・・・」

とミントもにこやかに言ってきた。

「・・・父様・・・見ててください・・・」

ちとせはかつての父の愛機に祈った。

 

「・・・タクトさん達は盛り上がっているなぁ〜・・・」

「・・・・・・」

モニターに映っているリコは苦笑している。

僕達はムーンエンジェル隊の隣に配置されていた。

「こいつ等だけは許せねぇ・・・」

「もちろんよ・・・絶対に許さないわよ・・・」

アニスやテキーラ等のNEUEに縁(ゆかり)の深い者達はかつて無いほどに怒りをあらわにしている・・・それはそうだろう・・・NEUEを壊滅させたのはこのブラウド財閥に他ならないのだから・・・

「ママ〜ナノナノ・・・ちょっと怖いけど、皆がいるから怖くないのだぁ。」

「そうですね・・・私も怖くないです・・・」

ルーンエンジェル隊の最後尾にはリリィのイーグルゲイザーが配置されていた。

「もし・・・ゼイバーの旗艦が現れれば・・・この剣で・・・」

リリィはシートの後ろに縛り付けてあるデュランダルを撫でた。

 

「リコ・・・聞いてくれ・・・」

僕はブレイブハートオンリーの回線でリコに話しておきたい事がある・・・

「・・・・・・」

リコが不思議そうに見ている・・・

「僕の機体はエース機なんだ・・・だから、あの強いゼックイが現れたらあいつと戦うから・・・もし、怖くなったら僕から分離してくれ・・・」

「・・・・・・!・・・・・・!!」

リコは少し怒った顔で頭を横に振った・・・

「・・・・・・ありがとう・・・ならば、絶対に勝とう!」

「・・・・・・」

リコは最後にコクンと大きく頷いてくれた。

 

 

〜白銀の狼〜

 

「ミルフィー・・・無理はするなよ・・・」

「タクトさんこそ無理はしないでください!前みたいな事になったらいやですからね!?」

「あ、あはは・・・面目ない・・・」

 

その時だった・・・俺の七番機の目の前を何かが飛んでいったのは・・・

何とそれは白銀色のラッキースター!?

というかカンフーファイターだろうか?アンカークローみたいなのが装備されてるし・・・ってか!あの紋章機は何だよ!?誰が乗っているんだ!?

「ヒャッホォーーーッ!!」

「・・・・・・」

その奇声で誰が乗っているかが分かった・・・

「お父さん!?」

素っ頓狂な声をあげるミルフィー・・・俺もあげたい・・・

「真の主役の登場だぜーーーーー!!」

後、主役は俺だ・・・!

 

「リコ・・・君のお父さんって・・・」

「・・・・・・」

リコは何回も頭を下げている・・・

きっと、恥ずかしいのだろう・・・

 

「ちょっと、ちょっと!何してるんですか!?」

「あ?決まってんじゃん!俺も戦うの!」

「いくら、ロキさんと言えども戦闘機での戦いは・・・」

「あのなぁ〜俺はお前達の紋章機のメカニック担当であると同時にテストパイロットでもあるんだぞ?言っておくが、お前等より操縦のテクはうめぇぞ?」

「か、過剰な自信は危険です!」

「あ、これが俺のテンションだからしょうがねぇじゃんかよ〜ちとせちん!」

「チン!?」

モニターのロキを見ると天使の輪は出ていない・・・どうやら、アンフィニ搭載機か?

 

「・・・っとぉ〜敵さんのお出ましだぜ・・・」

 

次の瞬間、前方から次々と戦艦や戦闘機がドライブ・アウトしてきた。

 

「シヴァ様・・・来ました・・・」

「な、何という数だ・・・」

 

「す、すごい数です・・・!」

「これじゃあ、ネオ・ヴァル・ファスクの方がまだ可愛いねぇ〜・・・」

 

ネオ・ヴァル・ファスクの時とは違い、今回はこちらの戦力が少ない・・・

紋章機は全機揃って、追加で一機加わってはいるが、敵の数が半端ではない・・・

そして、約160000km離れた場所に見える、前に見た超弩級戦艦ラスト・ジャッジメントが見えている・・・間違いない・・・ゼイバーが直々に来たのだ・・・

「そこまでして俺達を排除したいか・・・ゼイバー・・・」

 

「シヴァ様!敵の旗艦らしき巨大戦艦から通信が入りました!」

「繋げ・・・!」

しかし、シヴァの心は既に決まっていた。

 

「こちらはゼイバー・ブラウド・・・これより、お前達を制裁する・・・」

 

白き月の作戦司令室の巨大スクリーンにゼイバー・ブラウドが映し出された。

「黙れ!制裁されるのは貴様だ!!」

「ふ・・・今は誰も聞いておらんよ・・・お前達とジュノー以外はな・・・」

ゼイバーはようやく本性を現した。

「ゼイバー・・・戦う前に聞かせろ!貴様の目的は何だ!?」

「そんなものは決まっている・・・お前達の排除だ・・・」

「排除だと・・・貴様こそ排除されるべき者だ!」

「お前達はもう、知っているのだろう・・・俺が神皇だって事をな・・・」

 

それは既にエンジェル隊にも周知の事実だ・・・

 

「ゼイバー・・・」

 

ロキが今までとは違って真面目な声で神皇をその名前で呼んだ・・・

 

「・・・・・・亮よ・・・俺は待っているぞ・・・」

そう言ってゼイバーからの通信が途絶えた・・・

「ああ・・・待っていろ・・・テメェは俺が殺してやる・・・」

 

「ロ、ロキ殿?」

シヴァはロキの豹変ぷりに驚いている・・・

 

「お父さん・・・?」

「・・・・・・」

どういう事だ・・・今、確かにゼイバーはロキの事を亮と呼んだ・・・

まるで、古い知り合いのように・・・

 

「譲ちゃん・・・敵が仕掛けてくるぞ・・・攻撃命令を出しな。」

「わ、わかった・・・」

ロキの真面目な声に少し、驚きながらも阿部の方へ振り返った。

「阿部殿・・・頼みます・・・」

「了解・・・」

アバジェスが味方機に呼びかけた。

「全員、良く聞いてくれ・・・今回の戦いは俺達の生存を賭けた一戦である・・・敵はブラウド財閥と援軍で到着する皇国軍・・・そして、ブラウドを支持する元・レジスタンス軍の複合軍だ・・・正直に言うと、EDENの全戦力が相手だと思っていい・・・

 

アバジェスの説明は全て厳しい現実だった・・・

 

「でも、負ければ俺達に帰る場所は無い・・・だからこそ、生き残るぞ・・・奇麗事しか言えないが、この戦いに勝つのは俺達だ!それだけは俺が保障する・・・」

そして、アバジェスは戦闘開始を告げた。

 

「先陣は天使達がきる!後に続けえぇーーーーーー!!」

 

それが開戦の合図となった。

 

(諸事情の為に簡略化しています。いつか書き加えるので了承ください・・・)

 

「・・・いくぜ・・・GA−008・・・」

ロキの紋章機はゼイバーの旗艦を目掛けて一直線に進んで行った!

「駄目だ!ロキッ!!」

俺が止めようとすると・・・

「駄目じゃねぇ!見てろ!!」

 

ロキはそう言うとトルネードを描くように見事に敵の防火線を回避しながら敵の懐へと飛び込んでいった。凄い・・・上手い・・・まるで、レイと同レベルだ・・・

「お父さんっ!!」

「ミルフィー!お前達は他のメンバーと一緒に行動しろ!」

そう言うと、ロキは敵の中へと姿を消していった・・・

「あいつ・・・まさか、一人でブラウドの元へ向かったのか・・・」

 

だが、いつまでも止まってはいられない、敵の猛攻撃は既に始まっているのだ・・・

 

「いっけぇーーーー!!」

フライヤーでゼックイを撃墜するカズヤに・・・

「・・・・・・っ!」

最大出力のハイパー・ギガ・ブラスターで60隻単位でブラウドの大艦隊の群れを撃破していくアプリコット・・・その火力はまさにエンジェル隊一と言って間違いない・・・

ルーンエンジェル隊の戦力の要とも言えるカズヤとアプリコットはその攻撃力をフルに活かしてブラウドの艦隊を薙ぎ払っていく・・・

 

そして、フォルテを中心とした他のメンバーも負けてはいない・・・

 

「みんな!もう、燃料を気にする必要は無い!撃てる限り撃ちつくせぇーーー!」

フォルテの豪快な指示の元に紋章機達は次々とゼックイ達を撃破していく・・・

 

そんな天使達に勇気付けられたルクシオールとジュノーの艦隊は後方でエンジェル隊が取りこぼした残存艦隊の掃討に当たっていた。

 

「天使達は本当に頼もしい・・・」

シヴァはこの天使達を誇りに思っていた・・・

「しかし、こいつ等だけではありません・・・アレス・・・ロウィルの第二艦隊とゼウスが率きつれてくるであろう皇国軍が現れます・・・そして、外宇宙も・・・」

そんな中でアバジェスはあくまでも冷静に戦況の展開を報告した。

「かつての我が軍と余は戦わねばならないのか・・・」

「・・・ご安心下さい・・・今度は俺達が撃って出る番です・・・」

「え・・・?」

 

「オラオラー!どけどけええぇーーーー!!」

推定150万を超える超大艦隊のど真ん中に飛び込んだロキは天性の操縦テクニックで着実にゼイバーの旗艦を目指していく・・・

GA−008・・・通称 フェンリル・・・

「ロキ殿ーーーっ!」

「あ!?」

次々と前方に立ち塞がる敵を鬼神の如く撃破していくフェンリルの後ろからイーグルゲイザーがついてきていた。

「馬鹿!何してやがんだ!いくらオリハルコンとはいえ、無敵じゃ無いんだぞ!?」

「百も承知の上だ!だが、私もゼイバーと刺しで勝負がしたいのだ!」

「あ〜!もう!!なら、後ろには引くなよ!!もう引き返せねぇからな!!」

「OKだ!」

「あ、あん?」

さすがのロキも少し面をくらったみたいだ・・・

「突っ切るぞ!ロキ殿!!」

「・・・よ、よおおぉーーーし!OKだ!!」

「エクストリーム・ランサー!!」

パワーアップしたエクストリームランサーはまるで巨大レーザーの柱だった・・・

白い光の槍が敵を薙ぎ払う・・・

モーゼの十戒のように活路が開かれた。

しかし、案の定、動きの素早いゼックイ達が活路を塞いでしまった。

「ワンパターンなんだよぉ!!」

フェンリルに装着されたハイパーキャノンに白銀の粒子が集まっていって、それ白銀のビームキャノンと化して、立ち塞がったゼックイ達を消していった・・・

「よし!OKだ!!」

「行くぞ!オラアーーーー!!」

白銀の狼はラスト・ジャッジメントへ向かっていった・・・

 

「でやあっ!」

エクスカリバーがゼックイを真っ二つに切り裂いた。

エンジェル隊の中で一番強いのはやはりタクトと七番機なのだが、いかんせんエクスカリバー一本というSimple is Bestな武装では集団戦にはフリだ・・・

七番機はリーダー機の宿命と言うべきか、レイのアルフェシオンや先のシリウスのラスト・リヴェンジャーのように数の差や回避などが全く役に立たずに防御力が必要だ!という戦の時にその真価を発揮する・・・

言わば一対一用・・・デュエルタイプの紋章機だ。

 

「そこぉっ!」

フライヤー達が次々と敵を撃破していく、その撃墜の様(さま)は、まるで破砕機に岩石を際限なく放り込んでいるかのようなスピードだ・・・

それに対して、カズヤの生まれ変わったブレイブハートはゼックイのような性能が低い量産タイプのような敵に対してその真価を発揮する・・・

言わば殲滅用・・・デストロイタイプの紋章機だ・・・

 

さらにカズヤはマニューバー(航空技術)の扱い方が非常に巧みになっていた。

背後からの相手にはシザース(背後の敵を前に出す事・・・自分の機体を横に逃がす)で対抗し・・・突っ込みすぎて僚機と離れてしまったらスプリットS(敵に潜り込むように)Uターンをする。

通常の紋章機にはスプリットSは難しいテクニックがいる・・・しかし、カズヤはそれをやってのけているのだ・・・

 

「あれだ!」

「ああ・・・見えてる!」

ロキとリリィは遂にラスト・ジャッジメントまで辿り着いた・・・

ラスト・ジャッジメント・・・あのレイのアルフェシオンでさえ、撃墜する事はできなかった、ブラウド財閥の超弩級戦艦である・・・その大きさはロキ達の紋章機が比喩などではなく米粒に見えてしまうほどだ・・・そして、このラスト・ジャッジメントには巨大なインフィニティ・フィールドという究極のバリアが展開されているのだ・・・何せ、神皇の戦艦だ・・・ASフィールドなどは使わないだろう・・・

インフィニティ・フィールド・・・通称、INフィールド・・・その名から連想できるようにアバジェスの盾をフィールド状に展開したものでシリウスのラスト・リヴェンジャーがゼックイに化けていた時に使われていたフィールドでもある・・・

それはまさに鉄壁でエクスカリバーでも斬る事は叶わなかったほどだ・・・

「行くぜ・・・フェンリル・・・」

GA−008の真骨頂はそのアンカークローに似た爪にある・・・

しかし、これはアンカークローのようには飛ばない・・・

「あ、おい!」

リリィが止めるまでも無くロキはブラウドの戦艦へと突進していった。

「うおおおぉぉぉーーーー!!!!」

バギャン!!

嫌な音を出してフェンリルがラスト・ジャッジメントの懐へと潜り込んだ。

 

フェンリルはブレイブハートと同じシールドブレイカーを装備しているのだ。

ASフィールドもINフィールドも中和現象などは存在しないので力で打ち破るしかない・・・特にINフィールドは上級神の代名詞のような盾なので、普通は突破できない・・・しかし、このフェンリルにはレイがとある細工を施してあるのだ・・・

 

「ロキ殿・・・妙だな・・・」

ブラウド財閥の旗艦とも言うべきこのラスト・ジャッジメントが何も攻撃を仕掛けてこないのだ・・・

「・・・いいから装甲を撃ち破ってからそこから侵入する・・・宇宙服は持っているか?」

「OKだ、このパイロットスーツがあるか。」

「よぉーし!!」

ロキはハイパーキャノンをラスト・ジャッジメントに向かって撃った・・・のだが・・・

「弾かれた!?・・・ちっ!分厚いオリハルコン装甲だぜ・・・!」

 

「そのような無粋な真似をせんでもこちらか着艦させてやる・・・」

「その声はゼイバーか!?」

「左様・・・今から収容してやる・・・来るが良い・・・亮・・・」

「・・・・・・」

 

史上最大の艦隊戦

 

現在、戦況は今のところタクト達が有勢だった・・・

「いけぇーーー!ハイパーキャノンッ!」

桜色の巨砲が宇宙(そら)を駆けてゼックイ達を薙ぎ払っていく。

ラッキースターは特に改造を施されていないので当然エネルギーは無限ではない。

ラッキースターからエネルギー警告が表示された。

「あ〜ん!私の紋章機だけアンフィニが搭載されてないなんて酷いよ〜!」

ミルフィーユはそう言って後方で戦っているルクシオールへ補給に戻ろうとした。

そして、見た・・・

「え・・・」

戦艦の大軍がドライブ・アウトしてくるのを・・・

 

「増援・・・!まさか挟み撃ちとは!?」

現在シヴァ達はジュノーを背中にしょってゼイバーの第一艦隊と攻防戦を繰り広げている・・・宇宙には東西南北などありはしないが、ここは分かりやすくする為に敢えて、東西南北を使って説明させていただこう・・・

「遂に来たか・・・ブラウドが牙をむいてきたな・・・」

アバジェスは目を細めた。

 

「増援!?」

俺は肉眼でも確認できるほどのドライブ・アウトを確認した。

「何なのよ!あの数は!?」

「それに中には見た事も無い奴等が混じっているねぇ・・・」

 

一番最初に現れた増援は第一艦隊が北からジュノーを攻めて来ているとすればこの今までに見た事の無い、戦艦の集団は西から攻めて来ている。

 

「阿部殿!こ、これが、外宇宙の連中か!?」

「はい。」

「な、何て事だ・・・」

シヴァはブラウドの規模の凄さを実際に見せ付けられて唖然としていた。

更に増援は西だけに現れたわけではない・・・

 

「正義は我々にあり!諸君!共に逆賊を討とうではないか!」

東の方向から現れたのはジーダマイヤーことゼウス・・・

編成されている戦艦は全て前までは味方だった戦艦だ・・・

 

「あれは皇国軍じゃないか!?」

僕はバーメル級巡洋艦やザーフ級戦艦で編成された皇国軍を見て、彼らが紛れも無く、皇国軍であると証明している・・・・

「まさか・・・本当に来るなんて・・・」

「・・・・・・」

アプリコットは悲しそうに顔を伏せた・・・

無理も無い・・・相手は少し前まで自分達が守ってきた故郷そのものなのだ・・・

しかし、そんなアプリコットの心境は相手に伝わるわけが無い・・・

そして、カズヤにもその事を打ち明ける事ができない・・・

「外宇宙を含めた全艦に告げる!我々の任務はエンジェル隊の殲滅だ!」

ゼウスの命令を了承したのかジュノーを挟み撃ちにするかのように外宇宙と皇国の艦隊達が襲い掛かってきた。

「みんな!皇国軍は後回しにするぞ!」

 

『了解!』

 

最悪の場合、相手が皇国軍でも撃墜せねばならないが、出来るだけそれは避けたい・・・甘ちょろい考えだが、それが天使達の心境だった・・・俺もあまり言えた義理ではないかもしれないがな・・・

 

「シヴァ様!また増援です!」

「何だと!?」

モニターに表示されたのは残された南側に現れた艦隊だった。

「シヴァ様、あいつらは第二艦隊です。」

「ロウィル・・・いや、あのアレスの艦隊か!?」

あいつの証言によると第二艦隊は伏兵専門の艦隊で敵の本拠地への直接攻撃を最優先にしている特殊な艦隊です・・・おそらく今まで、潜伏していたのです・・・」

「白き月のみに一直線で来るわけか・・・」

シヴァは苛立ちで体を震わせた。

「・・・白き月のフィールドを全開にしろ!相手は高速艦と戦闘機ばかりの突撃艦隊だ!じきにこちらに辿り着くぞ!!」

マスターはオペレータへ指示を出した・・・

ご安心下さい・・・

 

「正義は我等にあり・・・」

アレスはアバジェスの予想通り、白き月へ高速艦を飛ばしていった・・・

彼が猛将と呼ばれた理由はそこにある。

 

『くっくっくっ・・・盛り上がってるじゃねぇかよ・・・』

死神のメシアは楽しそうに口元を歪めている・・・

『待っていろ・・・デザイア・・・』

「今回はまだその時ではないと何度言えば分かるんだ?お前は・・・」

『うるせぇな・・・消されたいのか?テメェ・・・』

死神のメシアもう一人の死神のメシアに脅しかけた。

「お前の復讐劇をここで終わらせたいのなら好きにするがいい・・・」

もう一人の死神のメシアはよほど肝が据わっているのかまったく動じない・・・

『テメェ・・・・・・チッ!』

そして、死神のメシアも大人しく従うようにしたようだ・・・

「・・・それで、俺にはまだ出撃するなと?」

『まずはエオニアの小僧を出しな・・・二流パイロットだが、ここら辺で活躍しないと後々、出番は無くなるぞ・・・』

「・・・エオニアは今回の戦いでリタイアさせる・・・もう、解放してやれ・・・

『ああ・・・もう用はねぇしな・・・

解放してやれ・・・実はエオニアに黒き月を与えたのはこの死神のメシアことこのキチガイだ・・・それ故に俺は今回の茶番劇にのってやる事にしたのだ・・・

エオニアは十分に戦ってきたのだ・・・

もう、これ以上危ない真似はさせたくない・・・

昔の俺なら考えもしなかった事だが、今ではそう思っている・・・

 

『俺はいくぜ・・・タクトやカズヤと遊びたいしな〜♪』

「・・・やり過ぎるなよ・・・度が過ぎたら・・・」

『あ〜!分かってる、分かってるって・・・』

そう言って、死神のメシアは獲物に襲い掛かりに行った・・・

「度が過ぎたら、貴様とて容赦はせん・・・」

 

 

二人の鬼

 

「でやあーー!」

バシュン!!

ブラウドの乗組員の首が跳んだ・・・

私がこれで斬り捨てた乗組員は54人・・・

ラスト・ジャッジメントの格納庫へ誘導されて潜入してみれば、ブラウドの乗組員の大歓迎だった・・・

しかし、乗組員は全員、既に人間ではなかった・・・

首を刎ねられても尚、連中は動いてくるのだ・・・

そう、連中は既にゾンビと化していた・・・

まさか、現実の世界でありえるとは・・・

「えぇい!」

まだ、動いてきたゾンビの手足を切断すると流石に停止したようだ・・・

「・・・・・・ッ!!」

グシャ!!

ロキ殿は拳神と呼ばれたその拳で相手を文字通り粉々に砕いている・・・

ロキ殿が退治したゾンビの数はおそらく百は超えている・・・

ラスト・ジャッジメントの中は非常に薄暗い・・・40m先は全く、見えない・・・

何と照明に使われているのは青白い炎をともす蝋燭だ・・・

正直に言うととても戦艦の中とは思えないほどの非実用的な艦内で、非現実的な空間だ・・・思わずこれは夢なのかと勘違いしてしまいそうだ・・・

「ふぅ・・・もうじきだ・・・」

それにしても先がまったく分からない中でもロキ殿は全く、迷う事無く奥へと進んでいく・・・この視界が悪い艦内にも関わらず・・・

やがて、私達は巨大な門の前まできた・・・

門にはいまだに見た事が無い紋章のレリーフがあった・・・

三つの鳥が中心にある宝玉へ口付けている・・・

 

リリィは知らないだろうが、この紋章こそが三つ目の紋章だ・・・

ムーンエンジェル隊の紋章はデザイア・・・鳥の数は一つ・・・

ルーンエンジェル隊の紋章はフェイト・・・鳥の数は二つ・・・

そして、この紋章は・・・ウィルド・・・

オリジナルを示す紋章・・・鳥の数は三つ・・・

 

「リリィ・・・ゼイバーはこの向こうにいる・・・」

「・・・何故、そこまでわかるのだ・・・?」

「・・・・・・嫌でも分かるからしょうがねぇだろ・・・」

 

ゴゴゴ・・・・・・

そうしていると巨大な扉が横にスクロールしながら開かれた・・・

「!?」

「・・・・・・」

やがて、神々しい明かりが照らす部屋が現れた・・・

 

そこは総帥ゼイバー・ブラウドの部屋だ・・・

演説の時は分からなかったが、とてつもない広さだ・・・

豪華な装飾はその規模の大きさを示している・・・

 

そして、そこにゼイバー・ブラウドがいた・・・

以前と変わらぬ貴公子のような紺色の紳士服・・・

白い手袋がその優雅さをかもし出している・・・

 

「よく来たな・・・」

「お前を殺しに来た・・・」

 

対峙する二人の鬼・・・

 

「ゼイバー・ブラウド・・・いや神皇 タイラント!お前を討ちに来た!」

神皇 タイラント・・・ゼイバー・ブラウドの本名だ・・・

そして、黒幕でもある・・・

「神皇・・・懐かしい呼び名だな・・・」

ゼイバーは視線をロキから私に向けてきた・・・

「やれやれ・・・亮よ・・・お前も面倒なお荷物をしょってきたものだな・・・」

「・・・そのお荷物に貴様は討たれるのだ!」

 

(やれやれ・・・)

 

私は細長い銀色の剣を取り出した。

「デュランダルか・・・人間には過ぎた聖剣だな・・・」

そう言うと神皇の左手に一振りの短剣が現れた・・・

一見ただの短剣にしか見えないのだが・・・

「黙れ!悪党!陛下とセルダールの仇をとらせてもらう!」

「・・・お前も復讐に取り付かれるか・・・」

私は神皇目掛けて斬りかかった!

「人間如きにやられる程、この神皇・・・堕ちてはおらぬ・・・」

神皇の短剣が私の剣を受け流す・・・

「ぬっ!?」

リリィは絶えず斬りかかるが、それでも神皇はそれら全てを受け流す!

その短剣の名はマインゴーシュ・・・

受け流しの剣とも呼ばれる・・・

「確かに剣士としてならいい腕だろう・・・」

「何を!」

神皇は短剣だけでなくスウェーまで使って匠に私の剣戟を受け流している・・・

「しかし、動体視力が俺の領域まで追いついていない・・・お前が振りかぶった瞬間に俺はお前が何をしようとしているのかが分かる・・・」

「減らず口を・・・!」

「減らず口などでは無い・・・この勝負は剣技の競い合いでも、経験の競い合いでも無い・・・動体視力の差だ・・・こればかりはどうにもならん・・・」

私はめげずに斬りかかる!何としてでもこの手で・・・!

「なるほど・・・戦士か・・・」

奴の手が一瞬、ぶれて見えた・・・

「チィッ!」

私が蹴りをまじえても神皇にはあたらない・・・

「亮・・・殺してもいいのか?」

「・・・・・・っ!」

「舐めるな!」

「本当に殺すぞ?」

私が斬りかかろうとしたその瞬間・・・

「待て!」

ロキ殿が呼び止めた・・・

既に神皇は剣を引いている・・・

「何故だっ!何故止める!!」

「馬鹿野郎・・・自分の左腕を見てみろ・・・」

「何・・・?」

そうして私が左手を見ると・・・

「な!?」

袖がズタボロにされていた・・・どうやら体は斬られていないようだが・・・

「分かったか?小娘・・・お前の一秒は俺の10秒に相等するのだ・・・」

 

「だから・・・と言って・・・ここで諦めてたまるかっ!」

「馬鹿!さっさと紋章機に引き返せ!もう、十分だろう!」

「私は戦士だ!」

「ここは退けっ!お前は紋章機のパイロットだろうが!パイロットならば・・・お前が真の戦士だと言うのなら、今のお前に出来る事をしろ!」

「断る!」

「この石頭がっ!まだ分からねぇのか!お前じゃあいつは倒せん!犬死にするだけだ!しかし、お前は紋章機のパイロットだ!貴重な戦力なんだよ!そして、外ではタクト達が苦戦している!だったらこんな所で勝てない相手に無駄な事はしてないで紋章機で戦って来い!!」

「ロキ殿もパイロットではないか!?」

「俺はこいつを倒せるし、ラスト・ジャッジメントを外から破壊するのは難しいんだよ!子供みたいな事を言ってないで行け!」

そして、ロキの眼がリリィの目を見据えた。

「・・・ッ!?何だ体が・・・!?」

自分の意思とは反して出口の方へと向かっていく・・・

 

「ほう・・・陰月流の幻術か・・・」

 

やがて、私が部屋の外に出る扉が閉められ、体の束縛が消えた・・・

「ロキ殿!クソッ!」

私はデュランダルで斬りつけるが、巨大な扉はビクともせず、腕に痛みが走っただけだった・・・

「・・・つっ・・・」

私は仕方なく戦線へ戻る事にした・・・

勘だけを頼りに紋章機の元へと向かっていった。

 

「ようやく、心置きなく戦えるな・・・」

神皇がそう言った次の瞬間、部屋の中が一変してホールのような場所に変わり果てた・・・というより、辺り一面がスクリーンに化したというべきだろうか・・・

実は何も無い部屋こそが神皇の部屋である・・・

絶望に満ちた彼の心境を物語るように・・・空虚な空間・・・

 

そして、スクリーンにはロキが古牙 亮として生活をしていた日本という国の街並みが映し出されていた・・・

そして、ここに映し出されているのは神皇の記憶だ・・・

初代神皇 タイラントの記憶でもあり・・・

二代目神皇 ロキの記憶でもある・・・

 

「覚えているか・・・この街を・・・」

「・・・・・・」

「ここは俺達が育ったこの街だ・・・」

「ああ・・・」

神皇はその街並みを懐かしそうに眺めている・・・

「街はこんなにも美しいのにそこに住む人間は醜い・・・」

スクリーンが今度は地球という青い星に存在する様々な国家を映し出した・・・

「限りある資源と寿命のある星を持つ、極めて死に易い生き物の癖に攻撃手段だけが多彩にある・・・そして、その攻撃力を外敵なかりか同じ種族に向けても平気で扱う・・・」

今度は各地での紛争が描かれる・・・

「そして、神などという妄想・・・宗教等に縛られる・・・」

神々の皇帝であった筈の男にあるまじき言葉だ・・・

いや・・・既にその座から退いた者だからこその言葉だろうか・・・

「たった一人のデマを誇大させていったのが宗教だ・・・何の証拠も無しに・・・宗教が絶対ならば野生の生き物がそれに従わぬのは何故だ?答えは簡単だ・・・野生の生き物は知っているのだよ・・・真の創造主の存在を・・・」

「あのクソ野郎の事か・・・」

「神への信仰心や宗教なんてものは所詮、変わり栄えの無い世界で刺激を求める馬鹿や、死への恐怖を誤魔化している腑抜けの集団が身を寄せ合っているだけに過ぎない・・・自分自身で立ち上がれない弱者に生きる資格など無い・・・この世界は創造主が定めた弱肉強食の世界だ・・・この世界で甘やかしてくれる神など、人間が創りだした偽りの神にしかおらん・・・だと言うのに、何が神の教えは絶対だ・・・だ?・・・その姿も確認もしないで小細工と言葉だけで単純に信じ込み、他者の命を奪い去る・・・己(人間)を殺せ等と命じる狂神を崇める必要がどこにある?今回の皇国軍の奴等もそうだ・・・単純な偽造された映像と言葉だけであそこまで簡単に騙されて命を懸ける・・・救い様が無い愚か者だ・・・

「だから、あのクソ野郎シナリオ通りに動いたのか?

「だと言ったら・・・?」

「愚か者はテメェだ・・・」

「もちろん分かっているさ・・・俺も同じ人間だからな・・・・・・ふ、ふふふ・・・本当に人間と言う生き物は救い様が無い・・・人間は本来臆病で怠け者だ・・・その臆病な怠け者を働かせる為に褒美という概念が誕生した・・・それがの始まりだ・・・」

今度はスクリーンに金の延べ棒がいくつも映し出された・・・

「・・・・・・」

「初めは皆、真面目に働いていた・・・しかし、所詮は一年もたたない内にこの金を身分不相応に集める連中が現れた。それが、犯罪者の始まりだよ・・・犯罪者は殺人者からではなく、盗人から始まったのだよ・・・」

スクリーンには二人の世界で出回っていた新聞というものが次々と入れ替わって映し出されていく・・・中にはA氏に横領の疑い!今日にも逮捕か!?という記事もある。

「そして、そんな犯罪者達を抑制するべく国家が誕生して、国の決まり事を制定した・・・その代表的な国の一つが俺達の日本だ・・・

しかし、それを制定するのも、犯罪者を裁くのも人間だ・・・案の定、保釈金という解放システムが建立されて、マネーゲームと言う名の金儲けがはじまった・・・様々な法の隙間を通って金稼ぎをする役人の頂点に立つ議員共・・・そして、大企業はそんな議員のおこぼれに預かる為にプライドの欠片も無い議員に投票する・・・ふふ・・・面白いだろう?投票もしたくない議員に投票しろと会社が圧力をかけるんだぜ?そしてその会社には議員が圧力をかけているというカラクリだ・・・くっくっくっ!」

神皇はさもおかしそうに笑っている・・・

「・・・・・・」

「そんなシステムで選ばれた豚議員共が国を守れるわけが無い・・・案の定、日本という国は金で身を守り、企業は競争、競争と走って、様々な商法を展開して・・・やがてそれはコストダウンへと進んでいった・・・そして、それらの動機を総称した欲望創造主の逆鱗に触れた地球は宇宙ごと焼き尽くされたって訳だ・・・

コストダウン・・・欲望・・・デザイア・・・

それが創造主の逆鱗だった・・・

「そして、創造主に選ばれた俺は旧EDEN(神界)とNEUEを授かった・・・」

「なるほど・・・競争の世界の創世と運営の実験台に神界を選んだわけか・・・」

「そうとも・・・案の定、神界後期ではゼウスのような競争心に取り付かれた俗物が誕生した・・・そして、その競争心は今でもあの俗物に根付いている・・・その結果、神界も滅ぼされてしまったが、俺の知った事ではない・・・」

「・・・それで、NEUEでブラウド財閥を始めた訳か?」

「ああ・・・俺の予想通り、競争心に執着が無かったNEUEの民はそれはもう誠実な民だった・・・EDENとは大違いだった・・・文明は発達せずとも人は栄えた・・・人は活気に溢れていた・・・日本のように欺瞞も無く、神界のように醜い争いも無かった・・・」

「なら、どうしてEDENにヴァル・ファスクを送り込んだ。」

「あれは俺ではない・・・あれはお前の息子気まぐれでEDENへ入れただけだ・・・そもそも、あの制裁者が門番をしているのにが、EDENに介入できる?亮よ・・・この意味がわかるか?

「やはり、外宇宙の介入はあのクソ野郎の手引きか・・・

「しかし、新しいEDEN外宇宙に支配された方がまだマシだったのではないか?月の聖母などというアイドルに心酔してせくせく動いている皇国の民とあの天使達を見ていると心底そう思うぞ・・・ふっふっふっ・・・・・・ふはははは・・・」

最後にスクリーンは現在の戦況の様子を伝えていた。

大艦隊相手に奮闘している紋章機達がロキの目に飛び込んできた。

 

「言いたい事はさっきので全部か?」

「ああ・・・」

「ならば、今度は俺の番だ・・・」

「申せ・・・」

じっちゃんを殺したのはお前か?

「・・・・・・・・・」

「答えな・・・じっちゃんは普通の人間に殺せるわけがない・・・できるとすればじっちゃんと同じ鬼の力を持つ俺達だけだ・・・」

「確かに・・・ジジイを殺したのは化け物だろう・・・しかし、俺ではない・・・」

「・・・っ!?何だと・・・ならば、何故逃げた!」

「追跡したのさ・・・犯人をな・・・」

「・・・犯人はわかったのか!?」

「ああ。」

「誰だ・・・!?」

「・・・・・・それをお前に言う必要は無い・・・何故なら、お前はその犯人と会っていた・・・それも頻繁にな・・・」

(そうとも・・・喋れはお前等、二人まとめてゲームオーバーだぜ・・・)

 

「これ以上、お互いに話す必要は無い・・・」

神皇が上着を脱ぎ捨てた・・・

「・・・・・・・・・だな・・・」

ロキも上着を脱ぎ捨てた・・・

 

スクリーンから映っている白き月の光がホール照らす・・・

 

二人はお互いに秘められた鬼を呼び出す・・・

 

ホールには人の姿を模した鬼が二人、対峙している・・・

 

「ふふ・・・古牙陽輪流とはよくほざいたものだ・・・」

「貴様こそ、ゼイバーなどと言う名前をよく名乗れたもんだ・・・・」

「狼牙一閃・・・あれはジジイの得意技じゃねぇか・・・」

「その得意技でテメェを沈めてやるぜ・・・!」

「ふふ・・・一度も勝てなかったお前がか?」

「いつまでも兄貴面してるんじゃねぇっ!!」

 

古牙 望(のぼる)・・・それが、神皇が人間だった頃の名前だ・・・

つまり、ゼイバー・ブラウドとロキは血の分けた兄弟だという事だ・・・

 

「来い!亮!!」

「オラアァァ!!」

鬼の兄弟がラストジャッジメントの中で壮絶な殺し合いを始めた・・・

 

闘争本能

 

 

「ルクシオール後方に退避させながら弾幕を張れぇ!!」

レスターの怒声がブリッジにこだまする。

 

戦況をひっくり返されたタクト達はまさに危機に陥っていた・・・

タクトはムーンエンジェル隊を率いて第一艦隊と外宇宙の複合艦隊の相手をして

カズヤはルーンエンジェル隊を率いて第二艦隊の高速艦を沈めていた・・・

 

「くそ・・・このままじゃ・・・」

高速艦の耐久力は低いが、高速艦は陣形を作って行動し、決して固まらないように進行くるので、一気に倒す事が出来ない・・・

「カズヤ!まずいぜ!」

「アニス!?」

カズヤがアニスの言葉を聞くと何と第二艦隊の後方にはクラスト・ブレイカーが何と60隻あまりも配備されていた・・・

「こ、こいつら、性懲りも無く!」

 

その時だった・・・

ハイパー・ギガ・ブラスターにも匹敵するぐらいのビームキャノンが第二艦隊の高速艦を薙ぎ払ったのは・・・

「な、何よ!今のは!?」

「ご、ご主人様!あれを見るですに!」

ミモレットが指摘した方へ機首を向けると・・・

 

白き月の付近にドライブ・アウトしてきたばかりのゼックイが一機・・・

おそらく、ドライブ・アウト直後に撃ってきたのだろう・・・

 

「タクト!あれって・・・!?」

「ああ・・・エオニアだ・・・」

 

 

白き月の作戦司令室へ通信が入ってきた・・・

 

「こちら、メシア隊エオニア・・・己の信念に基づき、そちらを援護する!」

「エオニア・・・・・・」

「・・・・・・シヴァ・・・久しぶりだな・・・」

「エオニア・・・どうして・・・?」

「私が守るのは旧体制の皇国では無く、皇国を本当に守ろうとしているお前達だ。旧体制の売国奴に皇国を手渡す訳にはいかん・・・指示があれば言ってくれ・・・」

「ならば、エオニアよ、連中のクラストブレイカーを撃破してくれ。今はGA−006が撃破に乗り出したが数が多いのだ・・・頼む・・・」

「了解しました・・・マスター。」

 

 

エオニアは通信をきって、遠方のクラストブレイカー目掛けて照準を定める・・・

「折角、隊長が強化してくれたゼックイだ・・・何としてでも落す・・・!!」

エオニア専用ゼックイ(E.ゼックイ)のギガ・ビーム・キャノンが火を噴いた!

 

「エオニア・・・ありがとう・・・」

そんな、かつての仇敵がシヴァには頼もしく見えた。

 

「エオニア・・・よおぉし!」

タクトが二本のエクスカリバーでゼックイを破砕機のように次々と撃破していく・・・

「みんなぁ!行くぞお!!」

『了解!!』

そんな、タクトに勇気付けられたムーンエンジェル隊もテンションを上げてグングン紋章機の性能をあげていく・・・

 

E.ゼックイの増援で戦況が変わる訳では無いのだが、タクト達にはそんな些細な増援が嬉しかった・・・ブラウドに騙されない者をいる事が嬉しかったのだ・・・

 

「よし!僕達も!」

タクト達に感化されたカズヤ達も意気込もうとしたその時だった・・・

あいつが現れたのは・・・

 

「ドライブ・アウト!?」

カズヤはレーダーにドライブアウトの反応をキャッチした・・・

突如、第二艦隊の高速艦の合間に何かがドライブアウトしてきたのだ・・・

 

『くっくっくっ!盛り上がってるじゃねぇかよ・・・!』

 

「・・・・・・っ!?」

リコの顔が強張った・・・

そして、それは僕も同じだ・・・

「この・・・感じ・・・間違いない!あいつだ!」

ドライブアウトしてきたのはあいつのゼックイだ・・・

桁違いに強いゼックイ・・・

そして、セルダールを崩壊させた殺人鬼だ・・・

忘れたくても忘れられない敵だ!

 

『今、行くぜ〜・・・タクト・・・』

しかし、あいつはタクトさんの方へと向かって行った。

させるか!

「リコ!あのゼックイを討つよ!」

「・・・っ!」

リコも力強く頷いてくれた。

万が一にもジュノーにあの小型貫通弾を撃たれたら終わりだ!

 

「・・・!?今のはあいつ・・・!!」

俺はあいつの思念を感じて第二艦隊の方へとレーダーを向けた。

すると、一機の戦闘機がもの凄い速さでこちらに接近してきているのが分かった・。

どうやら、あいつは俺をターゲットにしたらしい・・・

 

俺はミルフィー達を巻き込ませないように自分から奴の方へと向かって行った。

そして、直に奴が目前まで迫ってきた!

「さぁ!!殺し愛と行こうぜぇーーーー!!」

そして、あいつはいつものセリフを言ってきた・・・

こいつの殺しあいとは殺して愛する事だろう・・・

 

「お前の愛なんかいらない!!」

「俺もいらねぇーーーよっ!!」

 

キチガイの黒い霧状の剣を左のエクスカリバーで受け止める!

「そこぉっ!」

俺はすぐさま残った右のエクスカリバーで突きにかかった!

「うお!?」

キチガイはすんでのところで回避し、後方にロール(反転)しながらフライヤーを射出してきた!その数は少なく見ても30は超えている!

「殺る気満々じゃねぇかよ!オイ!・・・ィィイイイイヤアアアアーーー!!」

「チイィ!」

俺は30機ものフライヤーを捌く事になった・・・

口で30機って言うのは簡単だけど、半端じゃない数だぞ!

何発かが七番機に被弾するが、その程度で参る七番機ではない!

俺は強引に奴との距離をつめる!

フライヤーってのは至近距離に潜り込まれると撃ちにくくなる!

あいつがそうであったように!

そして、あいつに比べれば怖くない!

「いっけえぇーーー!」

「お、おぉぉ!?」

タクトはキチガイとの距離を離さずに接近戦に持ち込んだ!

七番機は一対一での接近戦でその真価を発揮する!

一本の剣でタクトの剣戟に対抗するキチガイも凄いが、このキチガイをそこまで追い込んでいるタクトはもっと凄い!

相手はまかりなき創造主なのだ。

「タクトさん!」

「・・・・・・!」

僕達はあのキチガイと交戦しているタクトさんを発見した

「リコ!」

「・・・!」

リコはコクンと頷く。

行くぞ!

「いっけえぇぇーーーーーー!!」

一斉に飛び跳ねてタクトさんを攻撃できないでいるフライヤー達に向けて飛ばした!

 

「む!?」

しかし、キチガイもそれに気付かないわけがない。

「カズヤ!?」

「ほう!おもしれぇ!!」

闘争本能が旺盛なキチガイはカズヤ用に新たに40機のフライヤーを射出した。

「遊んでやるぜぇ!小僧!」

ディレイ、クイックのテクニックを駆使したフライヤー達がカズヤに襲い掛かる!

 

「リコ!」

「・・・!」

しかし、それらのフライヤーが僕に辿り着く前にあらかじめ充填しておいたハイパー・ギガ・ブラスターが発射された。狙いはフライヤーの固まっている箇所だ!

「あり!?」

逃げ遅れたフライヤーを撃破していき、逃げのびたキチガイのフライヤーに僕のフライヤーでトドメを刺していく!

「まだまだ、品切れには早いぜ!」

キチガイが新しいフライヤーを射出した瞬間を見計らって俺は奴の胴を狙った。

「!?」

しかし、奴はすんでのところで俺のエクスカリバーを回避した。

「・・・・・・!」

しかし、エクスカリバーは奴の右腕を切断した。

 

「このまま、一気に畳み掛けるぞ!カズヤ!」

「はい!!」

 

「フン・・・」

キチガイは珍しく面白くなさそうに息をついた。

 

 

一方、リリィは・・・

 

「ようやく、ついた・・・」

リリィはようやく入り口の格納庫まで戻ってきた。

目の前にはイーグルゲイザーとフェンリルが並んでいる・・・

ガクン!

「な、何だ!?」

艦内が激しく揺れたのだ!

ゴォン・・・ドオォン・・・

リリィがさっきまで通ってきた通路からそれは響いてきた。

それは、着弾の音なんかではない・・・

「いかん!早く戦線に復帰せねば・・・」

リリィは機体へと乗り込んだ。

 

一方・・・艦内の震源地では・・・

 

「チッ!」

ロキは体を捻って神皇の一撃を回避した。

「ふっ・・・どうした?まだ一撃もヒットが無いぞ?」

神皇はまだ一度もロキの攻撃を受けた事がない・・・

それに対してロキは何回ぶっ飛ばされたか分からない・・・

ロキが衝突した所が大きく凹んでいる・・・

「オラア!」

ロキはそれでも神皇に挑む・・・が・・・

「見えるぞ!」

神皇のソバットキック(飛び回し蹴り)がヒットした!

バキィ!

ロキの体がいとも簡単に吹っ飛んで壁に衝突した。

「ぐはぁ!」

そして、再び、艦内が大きく揺れた・・・

「お前は昔から変ってわらん・・・相変わらず攻撃を回避する事が苦手な奴だな・・・」

神皇は敢えてロキには近づかない・・・

そして、ロキに拳を使った攻撃はしない・・・

ロキに迂闊に手を出せば詰め将棋のような関節を極められるか狼牙一閃をくらう事をよく知っているからだ。ロキの得意分野であるカウンター攻撃には付き合わない。

案の定ロキはすぐさまにめり込んだ壁から抜け出した。

「お前は俺に打たれるに打たれて打たれ強くなったのと同じで俺はお前を殴りに殴って強くなった・・・分かるか?」

「・・・ぺっ!」

ロキは血を吐き捨てた・・・

ロキがアバジェスに打ち勝てたのはその攻撃力ではなくその特異体質から得られた」防御力にあった・・・ロキの体は人間のものではないのだ。

しかし、この神皇も自分と同じ特異体質を持ち、こちらは攻撃にだけ特化していき、回避する事のみに腕を磨いていったロキと同じ鬼である。

その身のこなしの速さと攻撃力はロキをすら凌駕するだろう・・・

 

「・・・言った筈だ・・・いつまでも兄貴面するんじゃねぇってな・・・」

ロキは今までとは違ったフォームをとった。

「・・・・・・?」

同じ家で育った兄である神皇でさえ見た事が無い奇異なフォームだ・・・

「何だ・・・その意味の無いフォームは・・・」

神皇の指摘した通り、ロキは意味の無いフォームをとったのだ・・・

ボディはがら空きで、足も揃っている・・・瞬時には動けない・・・

「拳神と呼ばれたお前も堕ちたもんだな・・・」

神皇は普段のフォームを崩さずにロキに近づく・・・

神皇の強さはその集中力の高さにある・・・

残念ながらロキには神皇ほどまでの集中力は無い・・・

しかし・・・

「それはお前だ・・・!」

ロキは地面にしゃがみ込んで・・・そして・・・神皇の足を払う!

「馬鹿め。」

神皇は当然の如くそれを回避しよう両足を地面から離してさっきと同じ様にソバットキックを放つ・・・それは神皇の戦い方では必然の行動だった・・・

「お前こそ・・・」

ロキの鋭い眼光がただ一人の同じ鬼を見据える・・・

ソバットキックは遠心力が命だ・・・その為に神皇も腰を捻らせて飛んだのだ・・・

その威力は相等なものだろう・・・

しかし・・・受けのロキの戦い方は遠心力をいかにして得るかである・・・

その為に古牙陽輪流は後手の拳・・・

神皇の強烈な右回りソバットキックがロキのガードごとぶっ飛ばそうとする・・・

ロキが打たれ強くなければここでぶっ飛ばされていただろう・・・

「ぐっ!!!!」

そして、神皇のソバットキックに耐えきれたロキの体も右回りする・・・

「・・・っ!?」

神皇が気付いた時にはもう遅かった・・・

バキイィィーーーー!!!

「馬鹿はテメェだああああーーーーーーーー!!!」

ロキの声よりも先にロキの右ストレートが神皇の鳩尾を正確に捉えていた。

「ぐはあっ!!がぁっ!!」

音速を超えるカウンター・・・

古牙陽輪流 最終奥義・・・狼牙一閃・・・

 

二人の育て親である師が編み出した奥義である・・・

よくば豪を制す・・・

しかし、豪よくば柔を制すが師の教えであった・・・

つまりは人の体の限界を超える豪を会得できれば

それは一撃必殺の領域に辿り着けるのだと・・・

 

攻めにまわっていた神皇に唯一会得できなかった師の技で・・・

受けにまわっていたロキが唯一会得できた師の技だ・・・

つまり、打たれる事を嫌っていた神皇には相手の攻撃に耐える防御力が無い為に、相手から遠心力を逆利用する事が出来なかったのだ・・・

 

既に兄弟対決の勝敗はついていた・・・

 

〜??????再び!

 

「だあっ!」

タクトとキチガイの戦いは続いていた。

タクトの二刀流を一本の拳で上手く受け流すキチガイ。

「チ・・・」

しかし、その顔はつまらなそうだ・・・

 

「いけッ!」

カズヤとアプリコットもタクトに誤って被弾しないようにキチガイへ援護攻撃を仕掛けていた。キチガイのフライヤーは動きが心なしが雑になったようで、カズヤのフライヤーの方が生存数が多い。

その時だった・・・

「つまらねぇ・・・・・・遊びは終わりだ。」

「ぐっ!?」

「・・・・・・っ?」

「タ、タクトさん・・・これって・・・」

僕達の体がまたしても言う事を聞いてくれなくなったのだ・・・

それどころか紋章機まで完全に止まってしまった・・・

こんな時に・・・!

 

「さぁ・・・ジュノーちゃ〜ん・・・お注射のおじかんですよ〜♪」

急に声が弾み出すキチガイ・・・

そして、キチガイのゼックイの左手に見覚えのあるライフルが握られた・・・

「・・・・・・!!」

アプリコットは目を見開いてそのライフルを見た。

おそらくはやめてと叫んだのだろうが・・・声にはならない・・・

そう、セルダールを崩壊させた小型惑星貫通弾だ・・・

「く、くそ!あいつ!!」

僕は必死に動けと命令を出すが、痺れたようにまるで感触が無く動かない・・・!

このままじゃ、ジュノーが!!

キチガイのゼックイがライフルをジュノーに向けて構えた。

「ほらほら〜もっと声を出しな〜その為に声だけ残してやったんだからさぁ〜・・・」

「くそーーー!ヤメロオオオオオオオオオ!!!」

結果は見えているがそれでも俺はありったけの声で絶望に逆らった・・・

「ん〜?・・・そんなに止めて欲しい?」

「当たり前だ!」

「え〜!・・・どうしても?」

「止めろ!!」

「ん〜・・・・・・?」

キチガイはふざけた様子で頭を捻っているような声を出した。

「ア♪だったらさ・・・カズヤ!」

キチガイはこの上なく純粋無垢な子供のように喜んだ声で・・・

「何だ!?」

カズヤは早く言えと言わんばかりに噛み付いた。

「お前が、タクトとデザイアを殺したら止めてやるよ?」

「・・・っ!?」

アプリコットが息を呑んだ。

「ふざけるな!この屑めっ!!」

「あ、そう。じゃあ、発射♪」

キチガイは何のためらいも無く、あっさりとライフルを発射した・・・

(やめてえええええええ!!)

その時、アプリコットは祈った・・・

セルダールを破壊した小型貫通弾が今度はジュノーを破壊しようと駆けていく・・・

「うわああああーーーーーー!!!」

僕が叫んだ時だった・・・

ジュノーに向かっていた小型貫通弾が蜂の巣のように滅多打ちにされて消えた・・・

 

『クソ!チクショオオオオ!!何て事をしやがるうううううううう−−−−!!!』

キチガイは妨害した相手に吼えた。

 

(イメージ曲 第三次 スーパーロボット大戦α THE GUN OF DIS )

 

『あれはっ!?』

俺(僕)は・・・

そのフライヤーに見覚えがあった・・・

 

(タクト・・・俺を感じるか?)

「ああ・・・感じたよ・・・」

 

僕達は確かに見た・・・

僕達の真正面にいるキチガイのゼックイ・・・

そして、その背後にいた・・・

アルフェシオンを・・・

(お兄ちゃん!?)

 

 

「こちら・・・死神のメシア・・・マスターの命により参戦する・・・」

 

死神のメシア再び!

 

「父上・・・父上なのか・・・」

「ああ・・・」

死神のメシアは仮面を被ったままだが、娘の問いに答えた。

「レイ・・・良く間に合ってくれた・・・頼む・・・」

「了解・・・マスター・・・ブラウドと外宇宙は排除ですか?それとも殲滅ですか?」

「決まっている・・・殲滅だ。余計な時間はかけるな。

 

殲滅・・・残らず滅ぼす事・・・

 

「了解、速やかに行動に移します。」

そう言うとレイは通信を切った・・・

 

『テメエェ!!どういうつもりだ!!』

創造主は本気で怒りをあらわにしていた・・・

「別に・・・ただ、お前が俺の妹に手を出したから・・・それだけだ・・・」

『ナメていると消すぞ・・・テメェ・・・!』

「それはこちらのセリフだ・・・」

『何だと・・・!』

予想外に強気なレイの反応にキチガイもうろたえていた。

「あれほど、やり過ぎるなよと警告したのに破ったな・・・?」

『それが、どうしたあぁ・・・!!』

お前には強制退場してもらう・・・」

『は!俺とやる気か・・・テメェ・・・』

「フン・・・お前に俺の因果は消せはしまい・・・」

『そんな小細工しないでも実力で消してやんよ〜・・・ナメんなよ!?』

「お前こそ、俺をナメるなよ・・・クソガキ・・・」

 

アルフェシオンとゼックイが何かを話している・・・

けど、内容はさっぱり分からない・・・

 

次の瞬間、二機が動いた!

「早い!?」

それは本当に一瞬の出来事だった・・・

まず、キチガイがレイに斬りかかってレイがそれをスウェーで回避した。

「!?」

そして、レイはすぐさまに右足のレッグ部分にダインスレイブ・フェイカーを発生させて、蹴り上げるようにキチガイの残った腕を切断して、今度は左足のふくらはぎの部分にダインスレイブ・フェイカーを発生させてボールを蹴る要領でキチガイの首を刎ね飛ばして機体を元の位置に戻して・・・両手に本物のダインスレイブを呼び出した。

 

ダインスレイブ・フェイカー・・・

ナノマシンがダインスレイブに成りすます事により、アルフェシオンの至る部分に発生できる最強の接近戦サポート兵器・・・この反則的な武器に対抗できた者はいまだにいない・・・

『き、きさまああああああああーーー!?』

「失せろ・・・」

そして、そのまま両手のダインスレイブでキチガイのゼックイはサイコロステーキのように解体した・・・そして、ゼックイは爆散して跡形も無く消えた・・・

この間、何とわずか30秒足らず・・・

間違いない・・・コイツは死神だ・・・

抵抗する事すら許さない・・・

 

「お、お兄ちゃん・・・お兄ちゃんなの?」

ミルフィーユは遠方に兄の気配を感じていた・・・

ミルフィーユは昔から遠方にいる筈の兄の気配を感じ取れるのだ・・・

 

「アルフェシオン!?リコのお兄さんか!?」

「私達にはただの死神よ!!」

テキーラはレイの事を警戒している・・・というより、他のメンバーもそうだ・・・ここにいる全員が前大戦の最中に散々、このレイに撃墜されてきたのだから・・・

 

既に俺達の体の自由は元に戻っていた・・・

あいつがキチガイを撃破してくれたからだろうが・・・

キチガイですらあの攻撃に成す術も無く撃破されてしまった・・・

それは、まさに白き月での決戦の時の俺を思い出させる・・・

 

「な、何故、制裁者が生きている!?」

「死んだ筈では無かったのか!?」

外宇宙の指導者達からの苦情が次々とゼウスの元に飛び込んでいた。

「そ、そんな・・・私にも何がなんだか・・・」

「馬鹿者!あれが本物の制裁者ならば私達の命は無い!」

外宇宙の指導者達は皆、焦っている・・・

死んだ筈の最強の制裁者がいきなり現れたのだから無理も無い・・・

 

俺に射程など関係ない、敵は隅々まで見えている・・・

後は殲滅するのみだ・・・

マスターは時間をかけるなと言った。

そして、デブレが出来るのは好ましくない・・・

ならば、相手を瞬時に跡形も無く消し去るのが一番だ・・・

「・・・・・・・・・」

数が多いので俺は空間の方を圧縮する事にした・・・

第二艦隊の高速艦及びステルス型戦闘機達は広範囲に展開している・・・

面倒だから、簡単に終わらせてしまおう・・・

消えてもらうぞ・・・お前達全員な・・・

無へと帰すがいい・・・

 

アルフェシオンがその右手を外宇宙の第二艦隊がいる方へと向けられた。

「・・・・・・・・・」

そして、アルフェシオンが開いた右手が再び握り締めた瞬間それは起こった。

外宇宙の第二艦隊がいた区域が圧縮されだしたのだ。

 

圧縮地獄

ヘル・バイス

 

第二艦隊は一瞬で跡形も無く消滅した・・・

残ったのは我、アレスのみ・・・

そして、我はわざと残された・・・

私にはまだ利用価値があるからだろう・・・

でなければこの死神の制裁者が生かしておくわけが無い・・・

 

既にこの戦の勝敗は決まった・・・

 

「じょ、冗談では無い!」

そんな捨て台詞を残して、外宇宙の複合艦隊はゲートに逃げようとするが・・・

 

「ゲート・フリーズ・・・」

俺は、奴等の退路を完全に封じた・・・

何・・・昔から逃げようとする奴の相手には慣れている・・・

行動パターンも丸見えだ・・・正直、飽きた・・・

真面目に相手をするのも面倒くさいんだよ・・・

それに・・・俺の妹に手を出そうとした時点でお前等の運命は決まっている・・・

一人も生かしては返さん・・・

いや・・・魂すらも残さない・・・

お前達の記憶はここで途切れる・・・

お前達が渡る道は“死”では無く“消滅”だ・・・

 

アルフェシオンの左手が外宇宙の複合艦隊へ向けられ、手の平が開かれた。

それは、死の宣告・・・

それは、避けられぬ死神からの死刑宣告・・・

そして、アルフェシオンの手が握り潰されて、刑は執行された。

その後の末路は第二艦隊と同じ・・・

本当に一瞬だったのだ・・・・

彼等には何も喋る事すら許さなかった・・・

 

「な、何て奴だ・・・」

俺は戦慄を覚えていた・・・

白き月で戦った時とはまるで別人のように、素早く終わらせた・・・

そこには、一切迷いが無かった・・・

こいつは間違いなく最強の死神だ・・・

 

残るは第一艦隊・・・

既にジュノーの艦隊は第一艦隊の射程外にいる・・・

急ぐ必要は無いだろう・・・

コレだけの大艦隊だ・・・こんな機会は二度とないだろう・・・

ここはマスターに相談する事にしよう・・・

「マスター・・・第一艦隊の事なのですが、練習台にしてもよろしいですか?」

「練習台・・・?」

「はい・・・あのガキ共に紋章機の本当の使い方を見せます・・・

「是非、頼む・・・ただし、ラスト・ジャッジメントは破壊するなよ・・・」

「了解、それと、雅人の意識は後、49秒後に目覚めます・・・私が戦っている間にブラウド財閥の証言者になるよう説得してください・・・あの豚を引きずりだします・・・」

「雅人は十数年間も眠っているのだぞ?大丈夫なのか?」

「はい・・・処置はしてあります。」

「やれやれ・・・お前にはかなわんな・・・」

「・・・では、失礼します・・・」

 

「こちら、死神のメシア・・・これより、第一艦隊を壊滅させる・・・」

通信機にあいつの声が入ってきた。

既に他のメンバー達もあいつの圧倒的な強さを見せ付けられて文句を言う気力すらない・・・今、この状況で俺達が束になってかかっても相手にすらならないだろう・・・

だが・・・何かムカついた・・・

この感情は本能的に感じたものだ・・・

「何、勝手なことを言ってるんだよ。」

「うるせぇ・・・素人は引っ込んでろ・・・邪魔だ。」

「お前こそ、邪魔なんだよ!」

「俺は、正式にマスターからの指示で動いている・・・文句あるか?」

あいつの声に明らかに挑発的なニュアンスが含まれている・・・

こいつ・・・わざとだな・・・

「こ、この野郎・・・」

「お兄ちゃん!お兄ちゃんなの!?」

その時、俺達の会話に割り込んできたのはミルフィーだった・・・

そして、今までどこか楽しそうだったあいつの口元が真面目なものになった・・・

どうやら・・・よほど、ミルフィーの事が嫌いらしい・・・

「お兄ちゃん、お帰り〜!!」

戦況が静まりかえっている中でもミルフィーユはいつも通りの対応だ・・・

ちなみに、ここでのやり取りは敵味方全てに筒抜けだ・・・

(こ、この馬鹿女・・・!俺を笑い者にする気か!?この野郎!!)

まぁ・・・ロキ達の話によると半端じゃないくらいにあいつに懐いていたらしいから・・・まさに、号泣!兄妹の感動の再会!と言う事になるんだとうけど・・・俺の立場からすると少し複雑だ・・・まぁ、あいつの事だ・・・

「やかましい・・・引っ込んでろ・・・さもないとテメェから始末するぞ。」

ほぉ〜らやっぱり・・・

「ど、どうしてそんなに冷たい事を言うの〜!?」

ムカ・・・

「始末する。」

次の瞬間、ラッキースター目掛けてフライヤーが飛ばされていった!

「きゃ!ど、どうして〜!?」

「よ、よせ!!」

それらは全てすんでのところで狙いを外した・・・

 

「く、くくく・・・」

「阿部殿?」

シヴァは隣で顔を隠して体を震わせているアバジェスを怪訝そうに見上げていた。

 

「あ、危なかった〜・・・」

安堵のため息をつくミルフィー・・・あの野郎・・・

(ふん・・・ざまあみろ・・・)

「き、貴様っ!」

俺は七番機をアルフェシオンに向けた。

もう、許さない!!

 

「タクトさん!?」

ミルフィーさんが撃たれそうになった後で

タクトさんがレイさんに向かって接近していくのが分かる・・・

・・・ってちょ、ちょっと、二人とも!

 

「お前なあああぁぁーーー!!」

七番機が予想通りに接近してきた・・・本当に単純な奴だ・・・

「おっと・・・お前達と遊んでいる暇は無い・・・」

俺は取り合うのも馬鹿らしいと思って、アルフェシオンを飛行形態にして、第一艦隊に飛び込む・・・速度では七番機は追いつけないだろう・・・っと、その前に・・・

「カズヤ・・・良く見ておけよ・・・」

 

「え?」

僕はいきなりそう言われて呆気に取られてしまった・・・

だが、僕の目は第一艦隊に向いていた・・・

すでに、皇国軍は攻撃を停止している・・・

彼らもおそらくは戦いの決着を読んだのだろう・・・

 

七番機を振り切ったアルフェシオンは黒き彗星となって、ゼックイと戦艦の大群の中へと突っ込んでいった・・・

「さぁ・・・始めよう・・・」

レイの口調が死神のものへと戻った・・・

先頭に立つアルフェシオンに向かって第一艦隊の砲撃が集中する。

しかし、死神は小さくなった機体の面積を活かして、敵の火線を紙一重で回避していく・・・死神はわずかな火線の隙間を見逃さない・・・そして、それは幸運では無い・・・

「・・・・・・・・・」

アルフェシオンは敵の真正面で真上に上昇していく・・・(インメルターン)

そして、ホーミングレーザーとホーミングミサイルも追って行く・・・

そのままバレルの塔を上っていくように旋回しながら上昇していく・・・

そして、発射されたホーミング性のレーザーとミサイルがアルフェシオンを目指してバレル塔の下から同じようにロールしながら這い上がってくる・・・

バレルロール・・・

「この程度は常識だぜ・・・」

そう、死神の恐ろしさはこれからだ・・・

この程度の芸当で最強と呼ばれている訳ではない・・・

ここからは一流と超一流の違いである・・・

ここからが死神の真骨頂である・・・

バレル塔の頂点に辿り着いた死神は何と、今度は真っ直ぐに急降下した。

デッドインサート・・・

バレルの塔の真ん中に杭を打ち込むかの如く、塔の中を突き進んで駆けていく・・・

そして、機体にかかる衝撃も半端ではない・・・

タフな体と精神力がなければ失神は免れない・・・

しかし、こんなものはこの死神にはハンデにすらならない・・・

「ふ・・・ついてこれたら褒めてやる・・・」

レーザーはホーミング性を失って、上空へ空しく昇って行きしぶといホーミングミサイルがしつこく追尾しようとするが、急降下しようものならミサイル同士がぶつかるのも必然的であり、ミサイルはその威力が災いして次々と誘爆を起こしていく。

しかし、相手は無人機だ・・・撃つことをやめない・・・

「・・・・・・失せろ。」

そして、塔から唯一、生還した死神がチャージしておいたデス・ブラスター・キャノンを発射した。

ドオオオオン!!

その大きさと威力の為に轟音が発生する。

薙ぎ払うかのように発射される神の裁き・・・

 

もはや、ブラウド財閥の敗北は明確だった・・・

 

桜散る時・・・

 

「何をしている・・・?」

「っるっせぇ・・・黙ってろ・・・」

ラスト・ジャッジメントの通路ではロキが兄を担いで格納庫へと向かっていた。

既に二人は人間の姿へと戻っていた。

「・・・・・・」

「お前は・・・こんな世界を創りたくてNEUEを開拓した訳じゃないだろう・・・」

「・・・・・・さぁな・・・」

兄こと神皇はぶっきらぼうに答えた・・・

「お前は、我慢できなかったんだろう?日本という国と世界というものが・・・」

「・・・・・・」

「だからこそ、資金援助をして裕福になった世界の行く末を見ようとしたんだろ?」

「だが、人は何も変わらない・・・新しいものに触れればそれまで積み上げてきたプライドも道徳観念を捨ててしまう・・・」

「だから・・・戦争を起こすように仕組んだのか?」

「・・・・・・・・・」

「それは違うだろう・・・評議会の連中はお前ではなく、ジーダマイヤーの息がかかった連中だったぜ・・・その時に俺とアバジェスは気付いたんだよ・・・」

「何にだ・・・」

今まで小細工を仕組んでいたのはお前ではなく、あのクソ野郎だったって事だ・・・

「・・・・・・・・・」

「おかしいって思ったんだよ・・・烏丸雅人やルシャーティを生存させていたのがな・・・お前の演説はあの二人が証言をすれば全てお前にとって致命的なミスになる・・・」

「・・・・・・お前の紋章機まで連れて行け・・・」

「・・・?今、連れて行ってるだろうが・・・」

「急いで連れて行けと言ったんだ・・・」

「ちっ!」

 

「片付いたな・・・」

もはや、残ったのは第一艦隊、第二艦隊の旗艦と皇国軍のみ・・・

「な、何て事だ・・・」

ジーダマイヤーことゼウスは呆然と立ち尽くすしかなかった・・・

既に皇国軍は反撃する気力すらない・・・

いや、反撃しようとすれば自分達も殺されると判断したのだ・・・

「マスター・・・一度、そちらへ帰艦します・・・」

レイ・桜葉はそう言うと本当に一瞬の間で白き月へ帰艦した。

 

「な、何なんだよ・・・あいつは・・・!」

タクトはかつての宿敵の奇行に戸惑いを隠せなかった・・・

 

 

「着いたぞ・・・」

ロキは神皇を担いでフェンリルのところまで辿り着いた・・・

「通信機を貸せ・・・」

「あ〜!もう!!」

ロキは神皇を抱えたままコックピットへ飛んだ。

「・・・・・・」

神皇は黙々と周波数を調整していく・・・

「何処に呼びかけてるんだよ?」

「・・・・・・」

「ちっ!無視かよ・・・」

 

そして、神皇は信頼のおける部下へコンタクトをとった。

「アレス・・・聞こえるか?」

「神皇様・・・?」

「ああ・・・戦況はどうだ?」

「・・・・・・それは・・・」

アレスは言いづらそうに口をつぐんでいた・・・

「構わん・・・申せ・・・」

制裁者にやられました・・・すでに残ったのはゼウス様の皇国軍のみです・・・」

「やはり、来たか・・・」

神皇は軽く笑った・・・

「お前・・・知っていたのか?」

「そちらにはロキ殿もご一緒でしたか・・・」

「ああ・・・」

「アレスよ・・・もうよい・・・既にこの戦は我等の負けだ・・・」

「・・・もう、よろしいので?」

「ああ・・・後は任せる・・・よしなにな・・・」

「御意・・・神皇様・・・私も一緒です・・・」

「ああ・・・」

それが二人の最後の会話だった・・・

 

「マスター・・・只今、戻りました・・・」

白き月の作戦司令室にはレイ・桜葉が帰り着いていた。

「父上!?そちらの方は・・・!?」

レイは以前と変わらない服装だったのですぐにわかった・・・

司令室の中ではどよめきがもれていた・・・

無理も無い・・・レイは前大戦の首謀者なのだから・・・

そして何より、レイが肩を貸していた人物に見覚えがあったのだ。

「よく来てくれたな・・・レイ・・・そして、烏丸大佐・・・」

「すいません・・・苦労をかけました・・・」

そう、レイが肩を貸している人物こそがあの烏丸 雅人だったのだ・・・

 

烏丸 雅人・・・GA−006のテストパイロットとして、ブラウド財閥の内部調査に赴こうとしたその時にジーダマイヤーに襲撃されて戦死扱いされて今日まで保護されてきた重要人物である・・・そして、レイの唯一の戦友だ・・・

レイは計画を実行に移す前にアバジェスに耳打ちをした。

「ルシャーティは敢えて出しません・・・シリウスに筒抜けですから・・・」

「分かっている・・・こっちにあの化け物が来たらそこでおしまいだ・・・」

 

そして、レイはオペレータと入れ替わり白き月のバックアップに残してあった

“TOP SECRET”という項目を呼び出した・・・そして・・・

 

「始めるぞ・・・雅人・・・」

「ああ・・・始めよう・・・」

 

紋章機のモニターには二人の姿が映し出されていた。

「父様!?父様!!」

何より、まっさきに驚いたのは雅人の娘であるちとせだった・・・

「よかった・・・目を覚ましてくれたんだ・・・」

 

「レイ・・・」

タクトはかつての宿敵を見ていた・・・

「お兄ちゃん・・・」

モニターに映ったレイは紅い仮面を外していてその素顔をさらしていた。

昔からミルフィーユがよく知っている顔だ。

 

「・・・・・・」

リコはレイさんの姿を複雑そうに見ている・・・

・・・何せ、シリウス君を利用していた事に対して疑念を抱いているのだろう・・・

「レイさん・・・一体、何を始める気なんだろう・・・」

 

「よくもまぁ・・・おめおめと顔が出せたもんだねぇ・・・」

前大戦の首謀者だという事は既に全員が承知してる事だ・・・

桜葉家に批難が集中しないのはその人脈の賜物ではあるのだが・・・

流石に本人までもが許されるわけが無い・・・

 

「挨拶をするのは初めてだが・・・お前達は俺の事を知っているだろう・・・」

レイ・桜葉は敢えて高圧的に演説を始めた。

 

「こいつは・・・本当にひねくれているな・・・」

まるで、聞いている者に対して同調して下さいなどとは言わないと言ってるもんだ。

 

「俺は、レイ・桜葉・・・前大戦を仕組んだ死神のメシアだ・・・」

 

おそらく、その言葉に全員が息を呑んだだろう・・・

最強の紋章機のパイロット 死神のメシア・・・

 

「初めに言っておくが、これは謝罪の演説などではない・・・」

 

そして、その言葉に反感心を抱いた者もいただろう・・・

 

俺はジェラールの時の事に関しては一切喋らないように考えていた。

話しても自分にメリットがある訳でもないので、話すのは愚かだと思ったからだ。

 

「では、今回のブラウド財閥が主張してきたシヴァについての事実をいくつか俺自身から返答するとしよう・・・」

 

あいつは前髪を鬱陶しいそうに掻きあげた・・・

そんなに鬱陶しいなら坊主にすればいいじゃないか・・・このキザ野郎め・・・

 

「まず、シヴァとの親子関係についてだが、これは本当の事だ・・・そして、シャトヤーンは俺の妻だ・・・俺の愛する家族だ・・・」

 

この場にシャトヤーンがいたら、顔は真っ赤になっていただろう・・・

現に映っていないシヴァの顔も複雑な顔をしながらも赤らんでいた。

 

「そして、俺達が共謀して、NEUEを襲撃したなどというデマが流れていたみたいだが、これについては最後の方で返答する・・・まずはセルダール襲撃についてだ。」

 

そう言うとモニターの画面が流れた。

その映像はタクト達がセルダールの上空でクラストブレイカーを破壊している様子が克明に映し出されていた。

 

「これは、俺がこの眼で見た真相であり、俺の紋章機が記録した真実だ・・・これを仕組んだのは言うまでもなくブラウド財閥だ・・・」

 

その時だった・・・回線に割り込んできた者がいた。

「皆さん、偽りの映像に騙されてはなりません!」

割り込んできたのは血相を変えたジーダマイヤーだった・・・

 

(本当の馬鹿だな・・・そのまま消してやろうと思ったのにな・・・)

 

「お前等よく聞け・・・映像なんてものはこのEDENならばいくらでも偽造できる・・・だから、そんなものに騙されるな・・・その映像を掲げて参戦を呼びかける組織もだ。」

 

「黙れ!この戦争犯罪者め!大将という役職につきながら、ネオ・ヴァル・ファスクなどという武装集団を率いていた貴様が言う事など誰が信じるものか!」

 

「どちらの意見が正しいのかはお前がその目で見て自分で見極めろ・・・それが国に生かされているお前達の義務だ・・・」

 

レイは敢えてジーダマイヤーに取り合わない・・・そして、代わりに烏丸 雅人がその姿を現して呼びかけた。

「皆さん・・・私は烏丸大佐と言う者です・・・レイと私はブラウド財閥の内情を調べる為にEDENとNEUEを転々としていました・・・そんな時にそちらのジーダマイヤーが率いる皇国軍に巣くっている評議員が全員で結託して私の紋章機 GA−006を強奪したのです・・・そして、私は暗殺されそうになりました・・・」

 

「皆さん、偽者の言う事に惑わされてはなりません!」

 

「もう一度言う・・・どちらが正しいかなどは自分で判断しろ・・・」

そして、レイと代わるように雅人は語り出した。

「みなさん・・・聞いて下さい・・・我が皇国軍の中には沢山の者がいます・・・ある者は皇国を守る為に、ある者は収入の為に、ある者は名誉の為に・・・そして、残りの一つが何であるかご存知ですか?それは神への信仰です・・・」

 

「神への信仰などとお前達、犯罪者が口に出すのもおこがましい!」

 

「ジーダマイヤー代表・・・意見があるのなら後にしてもらえんか?自分の正義に自信があるのならば、最後まで聞いてからにすべきではないのか?」

 

「く・・・は、犯罪者め・・・!」

これ以上は自分の評判を下げるだけだと判断したジーダマイヤーは大人しくシートへ下がって座り込んだ・・・

 

「皆さん・・・この世には神がいます・・・我々を創造した神が・・・」

 

「しかし、そのは俺達を愛してはいるが、同時に憎悪している・・・

 

「・・・・・・」

タクトは七番機の中で頭を捻っていた。

何が言いたいんだよ。お前は・・・

 

「いきなりで驚くかもしれんが、俺はこのEDENを創造した者だ・・・」

 

馬鹿だろう・・・お前・・・そんな事をいきなり言われて誰が信じるんだよ!?

 

「その証拠はこの俺の腕とこの紋章機・・・そして・・・この力だ・・・」

 

レイの手の平に炎が現れる・・・

そして、その炎は青から緑そして紫などに次々と変わっていく・・・

 

「・・・とこれ以上は面倒くさいから、控えておくが、俺はとあるキチガイからこのEDENを授かった・・・好きにしろとな・・・それが、俺達の創造主だ・・・奴は俺達がもがきながらも生き抜いていく姿を見たがっている・・・だからこそ、ジーダマイヤー達を利用して今回の騒動を引き起こした・・・」

 

「くっ・・・!」

「代表!どこへ!?」

オペレータを完全に無視をしてジーダマイヤーはいずこへと消えた。

 

「この世界は弱い者を必要としない世界だ・・・だからこそ、簡単に死ぬような体を与えられて、時には残酷な殺され方をされる者が現れるのだ・・・」

 

「それに付け加え皇国軍の上層部は戦争の際には足し算と引き算でしか考えてこなかった・・・300の兵隊相手に500人投入すれば300人の犠牲で勝利できるだろうというふうに・・・」

 

「しかし、お前達はそんな国に守られて生きている筈だ。俺はここではっきり断言しておく・・・戦う時には戦わなければ、この世界は絶対に守れないし、戦えない者は生きていけないと・・・そして、お前達はそんな世界にお前達は生まれたのだ・・・後はそんな厳しい世界でお前達自身でどうやって生き残ればいいのかを自分で考えろ・・・

 

おいおい・・・

 

「正義の味方であるお前達に言わせれば俺は典型的な悪党なのだろう・・・しかし、俺は正義など持とうとは思わない・・・何故だかわかるか?」

 

そう言えば、俺にも同じ様なことを言ってきたな・・・

 

「正義とはこれが正しいと決め付けたらそれだけに執着してしまい、周りの事が見えなくなる・・・今回のブラウドの発表を信じて、ジュノーにクラストブレイカーを平気で撃ち込むような・・・正義の為なら、人間の世界とは関係ないジュノーの生き物達まで仕方が無いからと殺すのか?仕方が無いがお前達の正義か?」

 

「レイ・・・」

そのレイの言葉が何故か自分に言われている錯覚にとらわれる・・・

 

「だからこそ、俺は他人が作り出した正義では無く、自分の信念に従う・・・自分の目でよく見て、よく考えて自分の信念を見つけろ・・・ただ単に税金を納めれば国民というわけではない・・・信念を見つける義務がここで生きているお前達にはあるのだ。」

 

「レイさん・・・」

僕の場合は信念と言うよりかは希望だ・・・ただリコを守りたいという・・・

 

「この世界は望み通りにならなくて当たり前のつまらない世界だ・・・しかし、それでもお前達はこの世に生まれた・・・それだけが確実な事実だ。ならば、せめて生き延びてみろ・・・どんなに過酷な人生であろうとな・・・」

 

レイはモニターの方に目を向けて右指を突き出して・・・

 

「俺達は、力を合わせていかなければ生きていけない・・・その為に国という公がある・・・中にはその公に反発する者もいるだろう・・・しかし、俺達はまとまっていかないと生きていけない・・・だからこそ、こんな個人の主張に付き合うな!このトランスバールという皇国を誇りに思え!お前達を今日まで守り抜いてきたこの皇国とそして、女皇とそして、お前達を常に守り続けてきた天使達を最後まで信じてみろっ!!

 

レイの力強い言葉がこの宙域に響き渡った・・・

そして、全員の心にも・・・レイの強い信念が伝わった・・・

 

白き月の中ではもちろん、ジュノーの中や皇国軍の中にも拍手が起こった・・・

 

「まだ、続きがある・・・よく聞いてくれ・・・今、NEUEで最悪の悪魔がNEUEを喰い始めている・・・セルダールもピコもそいつに喰われてしまった・・・そして、後、一週間足らずでこのEDENにも辿り着くだろう・・・」

 

拍手がやんで、どよめきの声がある・・・

 

「だからこそ、俺と天使達はその悪魔を討ちに行く・・・しかし、俺が国を守るのは公に従っているからではない・・・俺は家族を守る為という個人的な理由で命を懸けて戦いに行く・・・中にはそんな俺に反感を抱いている者もいるだろう・・・だが、俺は戦いをやめるつもりは無い・・・文句がある奴は口ではなく力で止めてみろ!逆に返り討ちにして俺は闘いに行く・・・それが俺の信念だからな・・・

 

「凄い奴だよ・・・お前は・・・」

EDENそのものに喧嘩を売るなんて・・・

ものすんごく!(強調)ムカツク奴だけど・・・

 

「俺達は必ず、NEUEでその悪魔を討伐してみせる・・・だからこそ、戦いが終わるその時まで信じてみろ!!どうしようもないクソガキぞろいの天使達だが、その度胸と信念だけは本物だ!それだけは俺が保障する!!だから、今だけでも信じてやれ!

この銀河の天使達(ギャラクシ−エンジェル)を・・・信じてみろっ!!!!

 

この人間の世界で何より、難しい事は人の信用を得る事である・・・

 

レイへ盛大な拍手と歓声が沸き起こった・・・

 

「父上・・・」

父の姿が娘には頼もしく見えた・・・

言葉だけで父は人からの信用を得たのだ・・・

「良くやった・・・」

 

(この人がお兄ちゃんなんだ・・・)

私は、少しだけお兄ちゃんの事が誇りに思えた・・・

「えへへ・・・やっぱり、お兄ちゃんだ・・・」

私はこんなお兄ちゃんが大好きだった・・・本当に意地悪で厳しくて怖いお兄ちゃんだけど、私はそんなお兄ちゃんの言葉でここまで生きてこれたと思う・・・

 

二人の妹も自分の兄を誇りに思った瞬間だった・・・

 

その時、何者かが割り込んできた・・・

「こちらはブラウド財閥のロウィルです・・・」

「・・・・・・・・・」

 

レイの演説に共感した者達にはもはや、悪でしかなかった・・・

しかし、アレスは最後の役割を果たそうとしていた・・・

「ゼイバー総帥からのメッセージを伝えます・・・」

そして、ロウィルは語った・・・

ゼイバー・ブラウドの遺言を・・・

 

ロキが機体を発進させようとしたその時にそれは起きた・・・

 

何の植物も無い、この格納庫に花びらが振ってきたのだ・・・

 

「ん・・・桜の花びら?」

「・・・・・・っ!?」

ロキがそう言った瞬間、ロキの兄こと神皇はGA−008から飛び降りた・・・

神皇は何とか無事に着地するが、

「お、おい!何やってんだっ!?」

「行け!早く行けっ!!」

「馬鹿言うな!」

俺も紋章機から飛び降りようとしたその時・・・

 

シャリン・・・シャリン・・・

鈴のようなものが鳴る音がしてきた・・・

 

「誰だ!?」

俺は通路からこちらへ向かって来る奴に目を向けた・・・

 

「駄目よ・・・彼は最初から死ぬ事を望んでいたのだから・・・」

 

「姿を現してからぬかせ!!」

 

シャリン・・・シャリン・・・

 

「それは彼の運命なの・・・そうでしょう?望・・・・・・」

 

望こと神皇は何も応えない・・・

 

「ふざけんなこの野郎!」

そして、俺は紋章機から飛び降りた!

桜の花びらが舞い降りる不思議な空間でそいつは姿を現した・・・

 

「・・・誰だよ・・・テメェは・・・」

 

そいつは女だった・・・年は17才ぐらいの娘だ・・・

まず何より印象的だったのはその長くて艶らかな桜色の髪の毛だった・・・

そして、その眼はサファイヤに輝いていて俺の目を見据えている・・・

そして、その端正な顔が誰かを思い出させる・・・

シャリン・・・シャリン・・・

その女が近づいてくる度に鈴の音が鳴る・・・

それは桜色の髪の毛に取り付けられた桜のかんざしが奏でる音だった・・・

 

その美少女はロキの殺気に臆する事も無く、望に近づいていく・・・

 

「答えな・・・テメェは誰だ?」

 

「私?・・・おそらく、あなたがこの世で一番嫌っている者よ・・・」

 

俺がこの世で二番目に嫌っているのがアバジェスだとして、一番目と言えば一人しかいない・・・

「それが、テメェの姿か・・・」

 

「ええ・・・そうよ・・・あなた達、EDENの民が望んだ姿よ・・・」

 

女は着物を着ていた・・・

着物は桜の刺繍がされていて、色は桜色で統一されている・・・

そして、帯には波が描かれている・・・

足には純白の足袋だけを履いていた・・・

「どう?一応・・・貴方に見せる為に着飾ってみたんだけど?」

そう言いながら、その女は愛くるしい笑顔で神皇に問いかけた・・・

「・・・・・・逃げろ・・・ロキ・・・」

神皇は搾り出すような声で弟を促した・・・

「ふふ・・・酷い人・・・せっかくおめかししてきたのに・・・」

女はその麗しい唇で小さく微笑んだ・・・

まさに、人を誘惑するほどの美貌・・・

「何で下駄を履いてねぇんだよ。テメェは・・・真似るならとことんまで真似やがれ・・・」

ロキはそう言いながら、構えた・・・

「ふふ・・・家の中では靴を脱ぐのが日本の文化じゃない・・・」

「ヤケに詳しいな・・・」

「それはそうよ・・・私も日本であなた方の近くで暮らしていたんだから・・・」

「胡散臭いんだよ・・・」

「嘘ではないわ・・・貴方達のお爺さんを殺したのはこの私なんだから・・・」

「何だと・・・!?」

「・・・・・・・・・」

「そして、あなた方が可哀想だったから、あなた達だけ神界へ連れて来たの・・・後は、全員消したけどね・・・」

「テ、テメェ・・・!」

「やめろ!いいから、早く逃げろ!」

「うるせぇ!けが人は黙ってろ!」

俺はその女の目の前にたった・・・女も止まった・・・

 

「一つ、聞かせろ・・・リコとカズヤにちょっかいを出してるのはテメェか・・・」

「ふふ・・・そうよ・・・でも、私はあの二人の望みを促しているだけ・・・」

「ふざけんな!この野郎!!」

俺はその女を殴り殺す程の威力で右ストレートを放ったのだが・・・

拳はそいつの体をすり抜けていった・・・

「・・・・・・ちっ!」

「駄目よ・・・私の身体はまだ、誰にも触らせた事が無いんだから・・・」

「アイドル気取りか!?この化け物・・・!」

「ふふ・・・でも、あなた達が望んだ事なのよ・・・」

そう言いながら、女の手に何か剣の様なものが現れた。

正確には日本刀だ・・・

細長くて・・・紫色のオーラが漂っている不気味な刀だ・・・

な、何だ・・・あの剣から眼が離せねぇ!?

「やめろ・・・エクレア・・・」

神皇はすがるような声で、女に頼んだ・・・

「本当に優しい人・・・また、弟を助けたいの・・・」

「・・・亮・・・行け・・・これ以上、俺に生き恥をさらせるな・・・」

「馬鹿野郎!紋章機にのって治療を受けさせるんだよ!」

「馬鹿はお前だ・・・まだ、わからないのか・・・」

「ロキ・・・望がまだ生きたいと言うのであれば私は何としてでも存命させるわ・・・」

「だったら、失せろ!」

「それは、駄目・・・彼は死を望んでいるのよ・・・」

「その通りだ・・・早く行け!」

「だから、私が現れたの・・・死神のメシアとして・・・」

「ふざけんな!この野郎!」

「ふざけてなんていないわ・・・私は望を愛しているの・・・彼は十分に生きて、その役目を果たしたわ・・・だから、私の元へと誘ってあげるの・・・」

「テメェ!!」

ロキの強烈なボディブローが炸裂するかと思いきや・・・やはりそれは女を身体をすり抜けていった・・・

「くそぉっ!!」

「無駄よ・・・あなたも分かっているんでしょう・・・」

なぜか、ぼやけた視界に女の悲しそうな顔が映っている・・・

「頼む・・・亮・・・行ってくれ・・・俺を休ませてくれ・・・」

「・・・・・・あ、兄貴・・・」

俺はすでに泣いていた・・・

「お前には家族がいるだろう・・・妻と・・・三人の子供・・・」

「・・・・・・」

「お前は日本人という種族の唯一の生き残りなんだ・・・その世界を・・・子供達に教えてやれ・・・それがお前の成すべき事だ・・・」

「くそ・・・くそっ!」

「泣くな・・・仮にも古牙家の跡取りがそんな事でどうする・・・」

「・・・く、くく・・・」

「全く、お前は昔から殴られても泣かない癖に、こんな事ではすぐに泣く・・・いい加減にその癖を直せ・・・子供に移るぞ・・・」

兄貴の顔は笑っていた・・・懐かしい顔だ・・・

俺が、泣いた時にいつも見せていた顔だ・・・

「う、うるせぇ・・・」

「さぁ・・・行けっ!・・・亮!!」

「うわあああぁぁ!!」

俺は飛び乗るように紋章機に乗り込んでそのまま脱出した。

 

桜が舞い降りているな・・・

そう言えば、あいつは昔から桜が好きだったよな・・・

最後まで泣き虫な弟は大人になっても泣き虫だった・・・

そして、俺はあいつに膝枕をされたまま看取られている・・・

「ねぇ・・・望・・・」

あいつが俺の前髪を掻きあげながら聞いてきた。

「・・・何だ・・・?」

「さっきも言ったけど、貴方が第二の生を望むのなら叶えてあげられるわ・・・」

「もはや、望むものなど無い・・・」

「どうして?貴方の好きなように人生を謳歌できるのよ・・・?あなたは生まれながらずっと他人の事を優先的に考えてきたわ・・・貴方は社会的に弱かった弟に財産を分ける為に家を出て行ったでしょ・・・」

「あれは、あの家にいたくなかったからだ・・・」

「望・・・これが、最後よ・・・もう一度、やり直す気はない?」

「無い・・・死があるからこそ、人はその中に生きがいを感じる・・・」

「・・・私は人間は嫌いよ・・・限りある人生だからこそ、人々の“デザイア”は大きくなる一方なの・・・貴方もそれは知っているでしょう?」

「・・・・・・・・・」

「望・・・いいのね?」

「ああ・・・しかし、最後に教えてほしい事がある・・・俺がどうしてもその正体をつかめなかった者がいる・・・どうせ、最後ならそいつの正体を知っておきたい・・・あいつの存在は矛盾しているんだ・・・

女には望が言っているあいつというのが瞬時に分かった・・・そして、答えた。

「“アレ”は・・・私の抜け殻よ・・・しかし、デザイアの引き起こした奇跡によって、自我を持って転生してしまったの・・・だから、あんなに強いのよ・・・」

「そ・・・うか・・・なるほど・・・」

俺の目は既に閉じかけている・・・

眠い・・・・・・

そして、まどろみの中で見える死神は泣いていた・・・

 

「さぁ・・・俺を無へ連れて行ってくれ・・・」

 

「望・・・貴方を殺し愛してあげる・・・」

そして、除々に顔が下がっていく・・・

そして、その桜唇が俺の口に触れた途端・・・

身体に走る快感と・・・安らぎを感じながら・・・・・・

 

そして、望の身体は霧散していった・・・

初代神皇 古牙 望は・・・無へと帰した・・・

彼が望んだそのままに・・・

 

そして、女は泣きながら呟いた・・・

「許さないわよ・・・デザイア・・・貴方だけは・・・私の手で・・・」

 

 

〜ブラウド財閥の終幕〜

 

「以上、述べた通り、全ては我が、ブラウド財閥の企てた事であった・・・よってここに発表すると同時に謝罪を発表するものである・・・」

ロウィルはブラウド財閥とそれを上手く利用していたジーダマイヤーの悪事を全て暴露した・・・もはや、ブラウド財閥は事実上、敗北宣言をしたに等しい・・・

そして、正直暴露したからと言って、ブラウド財閥が許される訳が無い・・・

 

その時だった・・・

ラスト・ジャッジメントが爆発したのは・・・

 

「・・・っ!」

俺の紋章機の後ろで大きな爆発音が聞こえてきた・・・

分かっていた・・・

こうなるって事は分かっていた・・・

それでも、俺は・・・俺は・・・・・・

 

やがて、ラスト・ジャッジメントの爆発は広がっていき・・・

絶対に撃沈しないと思われていた超弩級の旗艦が沈んでいった。

そのはかない望と一緒に・・・

 

「チックショオオオオオオオオォォォォォーーーーーー!!!!」

 

ロキの叫び声・・・それが兄へのレクイエム(鎮魂歌)だった・・・

 

そして、ロウィルはそれをブリッジから眺めていた・・・

ロウィルの艦にも誰もいない・・・

ロウィルにとっても仲間と言えるのは神皇だけだった・・・

そして、ロウィルの最後の公式発表が始まった・・・

「責任は総帥と私にある・・・それはこの命をもって、償うものである・・・」

そう言って、ロウィルは通信をきった・・・

「神皇様・・・私も・・・今、参ります・・・」

そして、猛将と言われたロウィルの戦艦もその後を追うように爆散した・・・

 

「敵の旗艦・・・二隻とも・・・轟沈・・・」

白き月の指令室ではオペレーターの悲報が空しく響いていた。

「な、何て事を・・・」

シヴァは信じられないといった感じで燃え尽きていくロウィルの戦艦を見ていた。

「・・・・・・・・・」

「総員・・・勇敢であった敵に向かって敬礼っ!」

 

その場にいた誰もがブラウドの勇敢な猛将に敬意を表した・・・

 

「ア、アレスめ・・・取り返しのつかない事をしおって・・・!!」

ジーダマイヤーは勇敢に散っていった、猛将を冒涜しながら往生際悪く・・・格納庫に隠していたゼックイに乗り込んで逃げ支度をしていた。

 

ちとせの機体に通信が入ってきた。

「ちとせ・・・私が分かるかい・・・?」

「・・・っ!?」

懐かしい声が聞こえてきた・・・

「父様・・・?」

「ちとせ・・・悪かった・・・本当に悪い事をした・・・」

「と、父様・・・」

ちとせが泣きそうになった・・・しかし・・・

「すまないが、ちとせには狙撃してもらわないとならない敵がいる・・・」

「え?」

「皇国軍の戦艦からゼックイが出てくる・・・その中にはジーダマイヤーが乗っている・・・このまま生かしておけばあいつはまた同じ事をしでかす・・・」

「同じ事を・・・」

「ちとせ・・・俺の代わりにお前が仇を撃ってくれ・・・あいつの犠牲になった者達の仇を・・・お前が果たしてくれ・・・!」

ちとせの眼が狙撃手のものに変わった・・・

「・・・わかりました・・・」

ちとせはアルテミスの充填に入った・・・

 

そして、雅人の宣言通り、皇国軍の中でも比較的大きい戦艦から一機のゼックイが出てきた。

「く・・・!」

 

「出たな・・・寄生虫め・・・雅人・・・」

「ああ・・・!・・・ちとせっ!」

 

「はい・・・」

ちとせの心は既に無の境地へ入っていた・・・

既にそのゼックイが出てきた瞬間に照準は終わっていた。

イグザクト・スナイパーの砲身に光の弦が引かれる・・・

極限までに光を凝縮されたレーザーの矢を引き絞っていく・・・

そして・・・

「くそ・・・俺はこのままでは終わらんぞ!」

悪態をついていたゼウスだったが・・・

ヒュドッ!

ゼックイを白き月の方角から放たれた光の矢がゼックイのコックピットを正確に打ち抜いていた。

アルテミスの矢・・・

イグザクト・スナイパーは後方支援型の紋章機・・・

その本来の役目は白き月の周囲を警護する紋章機である・・・

その為に常識はずれな射程と精密度を誇るレーザー兵器を装備しているのだ。

「ギャヒイイイイイイイイィィィィィーーーーー!!!!」

断末魔の叫びをあげながら、皇国を蝕んでいた寄生虫は姿を消した・・・

 

「終わったな・・・レイ・・・」

「ああ・・・そして、EDENの生存を賭けた戦いが始まる・・・」

 

このすぐ後で、皇国軍の方ではシヴァ女皇の復位を求める声が上がり、シヴァは女皇して再び君臨する事になった・・・

 

史上最大規模の艦隊戦はここに終結した・・・

ブラウド財閥は元々、NEUEのカオス・シーにて運営をおこなってきたので、その詳細が明らかになる事もなく、闇へと消える事となった・・・

 

しかし、タクト達はそのカオス・シーまで赴かなければならない・・・

(そうだ・・・早くこいよ・・・)

NEUEを喰らい尽くそうとしている最凶の敵と戦わなければならない。

 

リベンジしてやるからよおぉっ!!

 

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