最終章B
最終
ここは何処だろう・・・
暗いな・・・
何をしてるんだ・・・お前は・・・
その声はシリウスか・・・!?
そうだよ・・・
・・・俺に地獄に連れて行くつもりなのか?
いや・・・追い返す為にきたんだよ・・・
へ?
隊長が背負っているものを教えてな・・・
そこで、タクトはシリウスからあらかたの事を聞いた・・・
そして、元凶の存在も・・・
「あいつは・・・初めから・・・そのつもりで・・・」
ミルフィーがお前のせいで泣いている・・・だから、早く戻れ・・・
どうすれば戻れるんだよ?
こうするのさ・・・!
ゴツン!
そこで、俺の意識はおちた・・・
そして、気を失う直前に・・・
“隊長を頼む”と聞こえたような気がする・・・
〜騎士を守る姫〜
「ぐああぁ!うわーーーっ!!」
『ははは・・・無様だな・・・オイ・・・』
ブレイブハートに容赦なく、アルフェシオンの攻撃が直撃していく・・・
アルフェシオンの攻撃力は紋章機の中でも最強で、その上、ブレイブハートはシャイニング・スター程の耐久性を持ち合わせて無いのだ・・・
『ん?・・・・・・ほぉ・・・』
そして、死神はヘパイストスから妹が出てくるのを感じ取った・・・
そして、カズヤの方に向き直る・・・
「良かったな、カズヤ・・・オリハルコン製の装甲で・・・」
「く、くそ・・・・・・」
「やれやれ・・・達者なのは口だけか?」
「だ、黙れ・・・」
「・・・まぁ、そう邪険にするな・・・どうやら、リコがこちらに向かってきている。お前を助ける為だろうな・・・嬉しいか?色男・・・」
「く、くそ・・・」
『まぁいい・・・これで、トドメだ・・・』
死神はデス・ブラスター・キャノンの照準をブレイブハートに定める・・・
「く・・・」
「やめてえええぇぇぇーーーーーー!!!!」
「リコ!?」
『・・・・・・』
クロスキャリバーがブレイブハートとアルフェシオンの間に割り込んだ・・・
「リ、リコには手をだすな・・・」
『“人の妹”を抱いたお前がそんな台詞を吐くとはな・・・お前って、意外に策士だったんだな。』
「・・・ッ!・・・え・・・妹・・・?」
(ち・・・しまった・・・)
今、僕は確かに死神がリコを“妹”と呼んだのを聞き逃さなかった。
「・・・あなたはもしかして・・・」
『・・・・・・』
「ぐぁ!?」
死神は無言のままフライヤーでカズヤを黙らせた。
『来たか・・・』
そして、こちらに向かって来るアプリコットのクロスキャリバーを感知した。
「カズヤさん!?よくも!!」
ボロボロになったブレイブ・ハートを見たアプリコットは機関銃と追尾式ビーム・キャノンを出会い頭に死神に向けて発射した。
『フ・・・』
死神は避けようともせずにその攻撃を待ち、アプリコットの攻撃は実体を持たないアルフェシオンをすり抜けていくだけだった・・・
「やっぱり・・・攻撃が効かない・・・」
『おいおい・・・仮にも桜葉家の者が彼氏との約束を破るとはな・・・』
死神はカズヤとリコのやり取りを全て聞いていたのだ・・・何とも、恐ろしい地獄耳だろうか・・・
「あなたに言われる筋合いはない!」
『酷いなぁ・・・俺はちゃ〜んとお前達との約束だけは守ってきてるぜ?』
「よくもそんな嘘を!!」
『確かに・・・しかし、嘘はついてもお前達との約束を破ったつもりは無いつもりなんだがな・・・』
「嘘!!私との約束を破った癖に!お姉ちゃんを苛めないって約束したのに!」
『あ、あ〜・・・あれは嘘だ・・・あの馬鹿女は俺の天敵だからな・・・そいつは元から無茶な相談だ・・・』
「もう許さない・・・!」
『許さない?そんな量産機一機で何いきがってんだ?お前・・・・・・』
死神から殺気を感知し、アプリコットは少し怯んだ・・・しかし・・・
「私・・・逃げない!あなたになんか負けないんだから!!」
『それはそれは・・・実に勇敢なことで・・・』
死神の口元が僅かに嬉しそうに歪んだ。
果たして、それはどちらの意味でのことだろうか・・・
精一杯の強がりを面白がってか・・・それとも、妹の成長を喜んでか・・・
もしくはその両方か・・・
「・・・・・・駄目だ・・・リコ・・・逃げるんだ・・・僕はまだやれるから・・・」
「強がらないで!そんなボロボロになってまで強がらないで下さい!」
「リコ・・・・・・」
『やれやれ・・・リコ・・・お前は男心というのがわかっていないな・・・男の見栄っ張りを正直に指摘したら、男というのは相当キツイんだぞ・・・』
死神は小馬鹿にした口調でカズヤのフォローをした。
「・・・・ッ!!」
アプリコットはハイパー・ブラスターを発射した・・・
『ばーか・・・』
しかし、死神はアルフェシオンの胸部リフレクターを開き、ハイパー・ブラスターのエネルギーを吸収してしまった・・・
『血の気が多いのはロキやエレナの遺伝だな・・・あの馬鹿女と姉妹だけあって肝心な所には頭が働かないと見える・・・』
「な、な・・・!」
死神はアプリコットを挑発しながらクロスキャリバーの懐に先ほどの四機の使い魔(サーヴァント)達を忍ばせておいた。
(リコ・・・!?危ない!!)
それに気付いたカズヤは力一杯叫んだ。
「リコー!フライヤーが機体に張り付いているぞ!!」
「え?」
『・・・・・・』
死神はフライヤーをクロスキャリバーから引き離してブレイブハートに向けて発射した。
「く・・・」
『死ね。』
死神のフライヤーがブレイブハートのコクピットに向けてビームを発射しようとした次の瞬間・・・
「カズヤさん!!あぅ!!」
「リコ!?」
何と、クロスキャリバーが盾となってブレイブハートに向けて撃たれたビームを受けたのだ。
「リコォ!?リコオオォォォーーー!!」
(・・・・・・リコ、お前・・・・・・)
死神はまたしても愉快そうに口元を歪めた。
それは果たして妹の愚行を嘲笑うものか・・・
それとも・・・・・・?
「だ、大丈夫です・・・今度は私がカズヤさんを守って見せます・・・」
『ギャルゲーじゃねぇんだよ・・・バァカ・・・』
死神は容赦なくブレイブハートに止めを刺そうとフライヤーに攻撃させるが、そのたびにアプリコットがカズヤの盾となって妨害する・・・
『いや・・・お前らはギャルゲーそのものか・・・』
「リコ!?もういい!!それ以上、撃たれたら機体がもたない!!」
「だ、駄目です・・・私にカズヤさんを守らせてください・・・」
「リコ!駄目だ!!」
『ならば、そのまま蜂の巣になりな・・・』
死神はアプリコットにターゲットを変えてフライヤーによる攻撃を再開した。フライヤーの高出力のビームが次々とクロスキャリバーに被弾していく・・・
「・・・・・ッ!!」
それでもアプリコットはカズヤの傍を離れない・・・
「もういい!!もうやめてくれぇぇぇーーーーッ!!!」
カズヤはブレイブハートを動かそうとするがダメージが大きく、微動だに動けない・・・死神が的確に動力系統にダメージを与えていたからだ。
この現状を死神は最初から計算済みだったのだ・・・
『ならば、お前自身で何とかしろ・・・情けない奴だ・・・見栄を張ってリコに大口を叩いた癖にそのリコに守ってもらっているんだからな・・・』
「く・・・!」
「カ、カズヤさん・・・あう!・・・気にしないで・・・私はどんなカズヤさんでも愛していますから・・・」
「く・・・くそ・・・僕は・・・僕はぁ・・・!!」
(やれやれ・・・本当に男心に鈍い妹達だな・・・・)
しかし、その言葉はかえってカズヤを責め立てた。
『お前の底力なんてのはその程度のものなのか?カズヤ・シラナミ・・・』
「クソ・・!クッソオォォォーーーーー!!!」
カズヤはパネルを思いきっし叩いた。
「って・・・?」
次の瞬間、ブレイブハートが再起動を始め、高出力のASフィールドを展開したのだ。
(“オリジン”がカズヤを守ろうとしているのか・・・)
「や、やったのか・・・?」
「や、やりましたね・・・カズヤさん・・・・」
「リコ・・・大丈夫?」
あれだけ滅多打ちにされたのだ・・・心配だ。
「わ、私は大丈夫です・・・」
「本当に・・・?」
「はい!」
リコは満点の笑顔で僕に頷いてくれた・・・良かった・・・
まさに死神が嫌がる奇跡・・・・・・の筈なのだが・・・
死神の口元は緩んだままなのだ・・・
『・・・今が戦闘中だって事を忘れちゃあいないか?お二人さん・・・』
二人はハッと我にかえって死神を振り返った。
レイ・桜葉・・・アプリコットの実兄・・・
しかし、今は天敵の死神のメシアだ・・・
「メシアァ・・・!!」
ブレイブハートのナノマシンが急増食を始め、見る見る内に機体の損傷箇所を修復していった。
(・・・それすらもあらかじめ定められていた“運命”だというのに・・・)
「いけ!!」
カズヤは新しいフライヤーを8機展開してアルフェシオンに攻撃を仕掛けた。
『フン・・・猿真似が・・・』
カズヤのフライヤー28機と死神のフライヤー24機が互いを潰そうと激しい交戦を始める。
『む・・・』
初めて、死神がカズヤのコントロール(遠隔操作)に反応を見せた。
(見える・・・敵四機の動きが見える・・・!)
僕は、これ以上リコを攻撃させない為に全神経を集中させた。今までとは違う・・・本当に見えてくるのだ・・・相手の行動が先読みできるのだ・・・
「・・・す、すごい・・・」
アプリコットはカズヤの善戦ぶりに驚いていた。
何とカズヤは最強の敵、死神のメシアとまともに渡り歩いているのだ。
『フ・・・ようやく面白くなってきた・・・』
死神は徘徊させるかのように動かしていたアルフェシオンを稲妻のマークを描くかのような動きに変えた。
「・・・っ!?」
(最後の戦いだ・・・少しばかり真面目に相手をしてやるか・・・)
死神はフライヤーを新たに3機追加射出してカズヤのフライヤーを二機撃破した。
(な・・・な、何!?)
死神のフライヤーの動きが全く見えなくなる・・・瞬時に動きを変えて僕の認識を間に合わせなくさせているのだ・・・それはつまり・・・
死神は今まで本気で相手をしてなかったと事だ。
忘れてはならない・・・
この死神は最強の敵であるという事を・・・
「カ、カズヤさん!」
リコが動けない機体で支援攻撃をしてくれるが、死神は回避しようともしない・・・分かっているんだ・・・リコの攻撃など大した事じゃないと・・・
『もらった・・・』
死神のフライヤーが僕を完全に取り囲んだ。
「・・・・ッ!」
「あ・・・!」
『やれ・・・』
冷徹な死神の死刑宣告・・・を合図にフライヤー達は攻撃を開始・・・
(やられる・・・!!)
「やめてえぇぇぇぇーーーーーーーー!!!」
しようとした瞬間、アプリコットが悲痛な叫び声をあげた。
「お願い、もう、やめてぇっ!!」
「・・・っ!?」
「!?」
驚いたのはカズヤと・・・死神のメシアの二人だった。
何とアルフェシオンの翼が消失し、フライヤーが消滅したのだ。
まるで、アプリコットの要望に応えるかのように・・・
『*L.Eシステムがダウン!?』
インフィニが停止してアルフェシオンのコクピット内がコンデンサ(蓄電器)からの非常電源に切り替わる・・・
『チ・・・・まさかとは思うが・・・・』
死神は予想外の事態を早急に調べ始めた・・・。
*L.Eシステム・・・ライフ・オブ・エピオン・システムの事・・・インフィニを制御する専用の連動ユニットでH・A・L・Oの原型・・・性能は段違いで操作性、安定性においては比べものにならない・・・しかし、神への適性値の高い者にしか動かせない・・・
現状で扱えるのはタクト、ミルフィーユ、死神のメシア(レイ・桜葉)の三人だけ・・・(シリウスは死亡した為省く・・・)搭載機もGRA−000、GRA−001、GR−×××の三機と少ない・・・そして、二人は知っている・・・アルフェシオンには感情があると・・・ノアからの脱出の時もアルフェシオンは二人を助けてくれたのだ・・・
「アルフェシオン・・・・・・」
アプリコットはアルフェシオンをじっと見つめて考えていた・・・本当はこのアルフェシオンはとても優しい子なのではないかと・・・アルフェシオンはただ、忠実に主の言いつけを守ってきただけなのではないかと・・・
その証拠にクロスキャリバーもブレイブハートもアルフェシオンに向けて敵意を示していないのだ・・・
『ぐあ・・・マジかよ・・・』
死神は頭をかいて調査結果を見ていた・・・画面には・・・
NO WOUND APRICOT NO WOUND KAZUYA NO WOUND APRICOT KAZUYAと延々に表示されていたからだ・・・
(この馬鹿・・・先にリタイヤするなんてズルいぞ・・・)
アルフェシオンは死神のメシアにアプリコットとカズヤを傷つけるなと抗議したのだ。
『もう時間は無いというのに・・・』
アルフェシオンは停止したまま、動かなかった・・・
起きてください・・・
この声は彼女だな・・・
そう言えば神皇との戦いでもこんな事を体験した覚えがある・・・
やはり俺はどうしても死ねない体らしい・・・
無論死ぬつもりはない・・・
俺は気だるさを堪えながら目を開けていく・・・
そこには穏やかに笑っている彼女の笑顔がそこにあった・・・
「・・・おはよう・・・ミルフィー・・・」
「はい!おはようございます!」
「ん・・・ふあぁ〜あ〜・・・・」
「ふふ・・・よほどぐっすり眠っていたんですね・・・」
「ああ・・・寝過ぎたみたいだ・・・」
時間が無いのはわかっているのだがどうも本来の俺に戻ったせいなのか・・・いつもの怠け癖が戻ってきたらしい・・・俺がこうして戻ってこれたのはあいつに誘拐されからじつに二年間の月日が過ぎての事だった・・・
今の俺はロキのクローンなどでもない・・・
俺はエンジェル隊の司令官 タクト・マイヤーズだ・・・
とは言ったものの頭がまだすっきりしない・・・
何せ、俺の魂の一部はあいつに誘拐されてからずっと眠り続けていたのだから・・・しかし・・・こんなんじゃこれから始まる最後の戦いに赴けないな・・・いくらなんでも怠け過ぎだ・・・
「タクトさん♪タクトさん♪目を覚ますいい方法がありますよ♪」
ミルフィーはそう言うと目を瞑って顔をつきだしてきた・・・
もはや恥ずかしがる間柄でも無い、俺は躊躇せずに口をミルフィーの口に重ねた・・・彼女の口のやわらかさと甘さと暖かさが俺の意識を完全に覚醒させた・・・頭もフル稼働している・・・
「・・・シリウスに会ってきたよ・・・そして、頼まれたよ・・・」
「はい・・・知ってます。私も聞きましたから・・・」
「ミルフィー・・・聞いてる時に、鼻をかんだだろう?」
「あ、あれ?・・・凄いです!よく分かりましたね!」
「う〜ん、頭が完全にさえちゃってるみたいだな・・・」
「あははは♪さっきのキスは効果覿面だったみたいですね?」
「ははは・・・まったくだ・・・さて・・・それじゃ行こうか・・・?」
「はい・・・行きましょう・・・」
俺達は真の姿に戻った紋章機に乗ってあいつの元へと向かった。
〜天使VS悪魔〜
『チッ・・・こうなったら・・・』
俺は裏コードを入力して、インフィニを起動させた・・・出力効率は著しく下がるが、仕方あるまい・・・・・・いや・・・
『・・・・・・ふ。』
どうやら、あいつが来たようだな・・・
ヘパイストスから一機の戦闘機がやってきた・・・
背中には六枚の光の翼が真っ白に輝いている・・・
『ふふ・・・アルフェシオン・・・あいつが来たぞ・・・』
拗ねていたアルフェシオンも天敵の来襲に反応して、再起動を始めた・・・
アルフェシオンが本来の姿へと戻っていく・・・
「・・・タクトさん・・・あの人までもうすぐです・・・」
「ああ・・・俺にもわかる・・・あいつに近づいているのが・・・」
「あの人が狙っているのはタクトさんです・・・」
「それも分かっている・・・あいつは俺との決着をつける気だ・・・」
思えば、死神のメシアとして出会った時からこれは因果律により定められていた運命なのかもしれない・・・
正直に言えばあいつとまともに遣り合える機体はこのシャイニング・スターしかない。
俺の傲慢ではない・・・その証拠にあいつはそれを分からせようとしてきた・・・わざと手加減をして俺達を生かしている・・・俺達を殺そうと思えば幾らでもチャンスもあった・・・いや、それすらもあいつは俺に見せ付けた。つまりそれこそが死神のメシアからのメッセージだったのだ・・・
俺の相手が務まるのはお前だけだと・・・
「・・・決着をつけてやる・・・」
これが、運命であろうが関係無い、俺とレイ・桜葉の闘いは誰にも止められはしない・・・何故なら、俺とあいつが戦いたがっているからだ・・・
・・・本来俺はこういう面倒な事が嫌いだ。
しかし、ロキの影響なのだろうか?
あいつに対してだけは血が騒いでしょうがない・・・
あいつに対してだけは血が騒いでしょうがない・・・
これが因果律の仕業でなくても俺とあいつは戦っているだろう・・・
『良かったな・・・カズヤ、リコ・・・タクトとミルフィーが助けに来てくれたぞ?』
「タ、タクトさん・・・」
「お姉ちゃん・・・」
『ようやく、お目覚めかい・・・タクトとエクストリームよ・・・』
「こいつ・・・・」
俺は正直に言うと怖かった・・・機体からではなく敵パイロットから発せられる敵意が桁外れだからだ・・・
タクト達にもそれビリビリと伝わってきていた・・・
紋章機のスクリーンで死神がその素顔をさらした・・・
死神は仮面を外していた・・・死神の顔はこの世のものとは思えないほどの芸術品だった・・・ミルフィーユと面影は似ているが死神の方はキリと凛々しく引き締まっていた。その中身を知らない者なら、男女構わずその美貌の虜と化すだろう・・・しかし、その目は閉じたままだった・・・
「・・・お、お兄ちゃん・・・」
アプリコットは久しぶりに死神を兄と呼んだ・・・
『・・・・・・』
モニターに映ったレイ・桜葉はアプリコットを見返して・・・
『・・・リコ、お前は本当に大した奴だよ・・・カズヤばかりかアルフェシオンすら虜にしてしまったのだからな・・・ふ、ふはは・・・』
「・・・ッ!」
アプリコットは目を覚ましたかのように死神を睨みつけた。
『おかげでアルフェシオンから絶交されてしまったよ・・・アプリコットの花言葉には誘惑とあるが、あながち嘘ではないな・・・ふ、ふふふ・・・』
「黙れ!」
「そして、その虜になったカズヤ・シラナミか・・・」
「メシア・・・何故、仮面を外した・・・?何故、今更、レイ・桜葉に戻ったんだ?」
『ふ・・・名前などどうでもいい些細な事だ・・・本当に人間という奴は物好きな奴等が多いな・・・くだらないものにこだわる・・・』
閉じられていた死神の眼が開いていく・・・
封じられていた死神が覚醒する・・・
『・・・そちらの稼働率も100%だ・・・もはや遠慮はいらないよな・・・?』
その時、この宙域は真っ黒から真っ赤へと変わった・・・
ヘパイストスが真っ赤に発光し始めたからだ・・・
辺りには真っ赤で毒々しい渦巻きが発生している・・・
不吉な空間がここに形成された・・・
『ふ、ふふふ・・・この俺をその気にさせたんだ・・・もう、思い残す事は無いだろう・・・そして、ここから一人も生かしては帰さん・・・覚悟しろ・・・』
「・・・っ!?」
死神から発せられる本当の殺気・・・
それに立ち向かったのは奇跡の体現者タクトとミルフィーユ・・・
「覚悟するのはお前だ・・・」
「もう・・・誰も傷つけさせはしない・・・私の弟と妹も、あなたには傷つけさせはしない!!」
『・・・・・・』
タクトとミルフィーユの額に熱い感触がはしる・・・Blankというルーン文字の刻印が現れた証拠である・・・それは未知と運命を意味する・・・
そして、メインスクリーンにはALFESHIONと表示されていた。
死神の額にはSowelというルーン文字の刻印が現れていた・・・
そして、メインスクリーンにはEXTREAMと表示されていた・・・
アルフェシオンとエクストリーム・・・かつて黄金の紋章機から分かれた二機の紋章機は互いの優劣を競い合う・・・体現者と同じ様に・・・
『ならば、始めるとするか・・・最後の戦いをなぁっ!!』
死神がダインスレイブを構える・・・
『タイムリミットは30分・・・オーバーすればこの世界はラグナロクに飲み込まれて消える・・・そして、EDENも同じ末路を辿るだろう・・・』
「消えるのはお前だ!!」
『・・・・・・お前達に問おう、何故諦めない?』
「何・・・?」
「それはあなたが攻撃してくるからでしょう!?」
『ラグナロクを阻止するの間違いではないのか?リコ・・・』
「どうして、そんなにしてまでこの世界を終わらせたいの・・・あなたが守ってきたEDENとNEUEを・・・」
『その守ってきた世界を壊したのは誰だよ・・・』
「俺達が何をしたと言うんだ!?」
『新しい世界を望んだからだ・・・神皇を倒した後でもお前達は外宇宙へと接触を試みた・・・それが因果律がラグナロクの発動を決心した理由だ・・・・』
「新しい世界を望んで何が悪いんだよ!?」
『人間の欲望には限りがない・・・欲望を満たしても新しい欲を見つけてはそれに向かっていく・・・餌を手に入れる為に働くようにな・・・それは実に醜い・・・しかし、お前達は欲望に逆らえない・・・欲を満たさなければ生きていけないのだからな・・・
そうだろう?デザイア・・・・・・この世に雄と雌を創造した色欲・・・お前が俺に植え付けた最初の欲だ・・・そして、創造物は七つの大罪により業を蓄積していき・・・俺は因果律に制裁者と呼ばれるようになってしまった・・・無の俺を・・・無の世界に“欲”を植えつけた張本人・・・お前のお陰で因果律の仕事が増えたって訳だ・・・」
「そ、そんな・・・・・・」
『ふふ・・・最後まで言わせろよ・・・神皇がお前を憎悪したのもお前が欲望というものをうみだしたからだ・・・ご飯は心の栄養源とか抜かしていたが、それが神皇やシリウスのような魂喰いを産み出した・・・お前は次々と欲という概念を生み出して因果律の世界を壊していった・・・だから、因果律はお前を排除しようとしているのだ・・・』
「全部、ミルフィーのせいだと言う気か・・・?」
『神界でその馬鹿女の“本性”を見たお前なら分かる筈だがな・・・』
「お前みたいな悪魔なんかとミルフィーを一緒にするなよ・・・!」
『ふ・・・そこの飯ばっか食ってきたグータラ女が天使でこの世界を外宇宙から守り続けてきた俺が悪魔か?まぁ、確かに外宇宙の奴等から見れば俺は悪魔だろうな・・・先制攻撃の際にこの機体で殺した事もあれば呪い殺した事もあったし、猛毒の霧を散布した事もあるし、反物質弾で焼き尽くした事もあったな・・・確かにこれらはお前達の言う悪魔の所業だろうな・・・』
「酷い・・・」
「酷い・・・だと・・・・?」
アプリコットのその言葉にレイが反応した・・・
「・・・ヴァル・ファスクの時も神皇の時も攻撃されてから呑気に反撃をし多くの犠牲者を出したお前達がそんな事を言う資格があるのか・・・?」
レイの声には明らかに怒気が混じっている・・・
「セルダールは何故、シリウスに襲撃されたか知っているか?」
「何・・・?」
「NEUEの中で大きい星で一番攻めやすかったからだよ・・・無口で馬鹿な国王は俺のでっち上げた神話を鵜呑みにして侵略行為、先制攻撃を悪と信じ込んだ・・・その結果・・・外へのガードがおざなりになったんだよ・・・馬鹿な奴だよ・・・それを信じる民もな・・・」
「貴様・・・!」
「・・・セルダールは神話などに捕われずに、自分の頭で考えて自分の答えを出さなければならなかったんだよ・・・神話や伝承を鵜呑みにする奴ってのは大概が自分で考えようとしない甘ったれたガキ共だ・・・」
「因果律の操り人形のお前がよく言えたもんだな・・・」
「何か勘違いしてないか?俺は因果律と利害が一致するから手を組んでいるだけだ・・・俺は一度たりとも因果律を敬った事など無い・・・」
「そうかい・・・」
俺はその言葉を聞いて少し安心した・・・
「もう時間は残ってないぞ・・・口ばかりでなく手を動かせ・・・」
俺はレイの言葉の中に焦りが含まれているような気がした・・・
「・・・攻撃するぞ」
タクト達は交戦に入った・・・
相変わらずレイはその場所から一歩も動かずにタクト達を捌いていた。
「くそ・・・ビームは逆に使われて実弾は消される・・・一体どうすればいいんだ!?」
「方法はある・・・あきらめて死ねばいい・・・」
「ふざけるな!!」
カズヤはフライヤー14機を射出するが、いとも簡単に切り払われてしまった。
そして、レイはタクトの斬撃もなんなくやり過ごす・・・
「どうせ、こんな腕では外宇宙には勝てない・・・そしてお前達が外宇宙との接点を望んだ以上、因果律はお前達を許しはしない・・・ラグナロクは止められない・・・ならばせめて静かに死を待て・・・」
「勝手に決め付けないで!」
アプリコットのハイパーブラスターがレイに向けて発射された・・・
「・・・馬鹿が・・・」
レイはインフィニティ・フィールドを展開し、ハイパーブラスターを凌いだ。
「く・・・・」
「・・・もういいだろう・・・?あきらめろよ・・・」
「ここであきらめたらまた、戦いの日々が始まるんだ!」
「はぁ?馬鹿かお前は・・・ラグナロクでこの世は全て消えるんだぞ?」
「そんな事はさせない!!」
『それも、やってみなければ分からないか・・・お前達はいつもそうだ!知識も無い!力も無い!しかし、弱者の癖に安全かどうかもわからない爆弾に手を出す!!』
ブレイブハートを殴りつけて蹴り飛ばした。
「うわぁ!?」
『それが、他の生き物の生態を脅かす事になろうとしてもだ・・・一体何様のつもりだ・・・てめぇらあぁぁぁぁぁーーーーー!!!!』
レイはブレイブハートを捕獲してシャイニング・スターに投げつけた。
『しかし、自分達の生態が壊されそうになれば必死に抵抗する!それは権利だと・・・自由が当たり前だと・・・だが、権利は義務と共に・・・自由は秩序と共に保障されているんだよ・・・その秩序を乱してきておいて権利と自由だと?・・・・・・ふざけんなよ!!コラァッ!!!!』
アルフェシオンは鬼のような数のフライヤーでシャイニング・スターを滅多撃ちにする!
『そして、口を揃えてこう言ってきた・・・戦争は悪だと・・・闘いはいけない事だと・・・無意味な事だと・・・なら、その理屈が外宇宙に通用するのか?お前達の常識が外宇宙に通用したと思うか・・・?』
タクト達の周辺に魔方陣が描かれ、死神の鎌が槍へと変形していく・・・
ULTIMATE END OR GENOCIDEの発動準備だ・・・
『・・・そんな甘ったれた理屈、通用するわきゃねぇだろぉぉぉぉーーーー!!!!』
レイはその槍 グングニルを投げつけた。
そして、桁違いの大爆発がタクト達を襲った・・・
『・・・こんな風に力で押さえつけられればどんな正論や理屈も紙屑以下の価値しか残らない・・・この世は攻められて攻めての連鎖の世界だ・・・弱き者は殺される弱肉強食の世界だ・・・それでも死ぬまで言い続けるか?侵略はいけない・・・戦争はいけないと・・・自分を殺そうとしている相手に銃口を突きつけられても言い続けられるのか!?・・・死んだら何も残らねぇんだよ!!このガキ共!!!』
タクト達の機体はあちらこちらが焦げていた・・・
タクト達はその苦痛にうずくまるだけで精一杯だ・・・
『この世全ての者がお前達のように何不自由無く育ってきたガキだなんて思うな!そんな甘ったれた世界で出来た常識!正義!理論などが外宇宙に通用すると思うな!!どうした・・・?いつまでうずくまってるつもりだ・・・!出来なくてすいませんじゃ済まないんだよ・・・出来なきゃ終わりなんだぞ!!だから例え、内臓に鉛玉くらってでも立て!!・・・オラァ・・・立てよ・・・!!最後まで抗え!!!』
「・・・まだだ・・・あきらめたわけじゃない・・・!」
最初に復帰したのはタクトだった・・・
(・・・そうだ・・・それでいい・・・醜いのならせめて、どんなに無様でも生き延びろ・・・抗い続けろ・・・)
「レイ・・・お前は命を賭けて・・・自分の心を押し殺してこの世界を守ってきた・・・だからこそこの世界への失望感が俺達より大きいんだろう・・・」
「・・・・・・・」
「だけど・・・だからといってお前に殺される訳にはいかない・・・お前に殺させる訳にもいかない・・・」
「相変わらずの奇麗事だな・・・聞き飽きたぞ・・・」
「あなたがそう思いたければそう思えばいい・・・」
次に復帰をしたのはカズヤだった・・・
「ふふ・・・なんだと・・・?」
「だけど、俺達は生きる為に抗い続ける・・・!!」
カズヤの言葉に次々と紋章機達が復帰する・・・
「奇跡か・・・そんな未知なるものがあるからお前達は未知などというものに憧れるのか・・・」
「まだ、そんな事を言っているのか・・・」
「それがお前達、人間の動力でありカルマそのものなんだよ・・・タクト。」
レイは自嘲気味に笑った・・・
「人は未知を恐れ、未知に憧れる・・・かつてのEDENのジュノーもそうだった・・・最初は国を豊かにする為にと言って技術を研究し磨いていった俺は言葉を信じてずっと見守ってきた・・・そして奴等はかねて問題になっていたエネルギー消費問題の解決策としてアンフィニの開発に成功したのだ・・・まさに偶然・・・奇跡の所業よ・・・」
「・・・ジュノーがアンフィニを・・・」
「そして、奴等はアンフィニを軍事転化した・・・ヴァル・ファスクから身を守る為だと抜かしてな・・・アンフィニを開発したジュノーはヴァル・ファスクを壊滅寸前まで追い込み降伏させた・・・EDENはジュノーの天下となった・・・文明開化の到来だ・・・」
「文明開化・・・?」
『そうだ・・・それはお前達が救出した世界の未来であり、現在では過去でもある・・・』
「・・・・・・?」
『そして、元凶が生まれた原因だ・・・』
「ミルフィー・・・機体を降りてくれ・・・」
「え!?エンジンの出力が落ちちゃいますよ!?」
「ここからはエンジンの出力で勝負がつく訳じゃない・・・それに、君の身体が耐え切れない・・・レイ!お前も俺と決着をつけたいんだろう!?ならば、彼女をクロスキャリバーに乗せてやれ!」
『いいだろう・・・・・・』
タクトは半ば強引にミルフィーをクロスキャリバーに詰め込んで、正面にいる宿敵をにらみつけた。
『来いよ・・・ヘパイストスの中で決着をつけてやる・・・』
〜オメガ・サン〜
イメージ曲 Eternal Love
『・・・お前との腐れ縁もここまでにしてやる・・・』
「やれるものならやってみろ!」
全ての生まれ故郷ヘパイストスでタクトとレイの宿命の闘いが続いていた・・・
今までとは違い互いに決着がつくまで退く事はない・・・
どちらかが死ぬまで・・・
「レイ・桜葉ぁーーー!!」
タクトは一本目のエクスカリバーをレイの鎌に叩きつけると、続いて脚部にアロンダイトを発生させて下から斬り上げた!!
『タクト・マイヤーズ・・・!!』
レイもダインスレイブ・フェイカーを肘に発生させ対抗した。
二人の戦いは人間の動体視力で見れるものではなかった・・・
二機の紋章機の動きはまさに電光石火だ。
「タ、タクトさん・・・」
大破したブレイブハートとクロスキャリバーはその戦いを遠くから見守る・・・
「く!」
『オラァ!』
レイ・桜葉は間違いなく最強のパイロットだ・・・
そして今までそれに対抗してこれたのはタクト・マイヤーズだけである。
激しくぶつかり合う二機・・・
タクトがミルフィーを機体を下ろしたのはレイのえげつない挑発を聞かせない為だけではない・・・機体に激しく伝わってくる殺人的なG(慣性の法則による衝撃等)があるからだ・・・正直タクトの体がロキに鍛え上げられてなければ今頃は死んでいただろう・・・
「これで満足か!?・・・レイ!!」
『なんだと・・・?』
タクトは距離を詰めようとし、レイはタクトの苦手な遠距離を保つ・・・
戦いの流れは主導権は確実にレイが握っている・・・
「お前は・・・!お前は!!エンジェル隊の古傷に塩を塗り、あれだけの地獄を見せつけて満足か!?おまえはぁーー!!」
タクトが両手でエクスカリバーを振りかぶって斬りかかる。
『まだだ!!・・・まだ50%だ・・・!!まだお前達が残っている!!お前達にはこの俺が直々に死という恐怖を与えてやる!!』
レイはそれを横にスウェーして回避してカウンターでレッグからのダインスレイブ・フェイカーを振り上げた。
「何がそんなに気に食わないんだ!?」
タクトも上手くスウェーしてその一撃を回避した。
『お前達の存在そのものだ!!』
「何故、そこまで俺達を目の仇にするんだ!!」
『綺麗な世界しか見ようとしなかった純心無垢な天使共に俺が背負ってきた現実を見せてやった・・・文句あるか!?』
「ふざけるな!この野郎!!」
両機は二刀流の剣で斬りあう。
閃光と激しい衝突音を発するエクスカリバーとダインスレイブ・・・
『ふざけてなどいない!誰に守られてるかも知らずにこの世界を守ってる気になっていたガキ共(お前達)には当然の処置だろう!!』
「何だと・・・?」
『俺はずっとあの馬鹿女の視点からお前達を見てきた・・・
そしてお前達の演じる三文芝居を見せられてきた・・・
お前の考案した甘っちょろい戦術・・・
我が強いエンジェル隊のメンバー・・・
誰もこの世の真の悪に気付かずのうのうと生きてきやがった・・・そして、完全に守られながら、完全を目指そうともしない・・・
それが俺には気にくわなかった・・・
自分の造った人形や機体が思い通りに動いてくれない・・・
お前も・・・カズヤも・・・あの馬鹿なガキ共と紋章機共も・・・自分勝手にこの世界を荒らしまわるだけだった・・・分かるか?この失望感が・・・』
「分かってたまるか!そんなエゴの塊なんて!!」
タクトがレイ目がけて機体を接近させて斬りかかる!
『だろうな!創造物のお前達如きには創造主の心境など分かるまい!』
そして、レイはその剣を受け止めた。
「どこをどうしたらそこまで傲慢になれるんだ!!」
『傲慢だと?・・・それはお前達の方だろうが!!』
「お前だ!!」
『ふん・・・自分勝手に世界を開拓していったお前達が傲慢では無いというのか?後先考えずに、他星への影響も省みずにロスト・テクノロジーを掘り返してきたお前達こそ傲慢ではないのか!?』
「お前がばら撒いた癖に・・・!!」
『だからってそれをあさったのはお前達だろう!』
「お前は卑怯だ!!わざと過酷な世界を創っておいて・・・!」
『は!虫が神の心を知らずとはまさにこの事だな・・・自分の不完全さを認めたくないばかりにそうやって・・・俺に当り散らす・・・』
「お・・・お前という奴は!・・・そうやって人を見下し続けていろ!!」
『ふ・・・ならお前達はそうやって永遠に負け犬街道を歩き続けるがいいさ・・・負け犬のお前達にしかできない人間限定の人生だ・・・まぁ・・・もうじきお前達はもうすぐ全員お陀仏だがな・・・待ち遠しいぜ・・・どんな断末魔をあげるのかが見物だ・・・特にあの馬鹿女の・・』
「・・・ッ!!!お前という奴はぁーーー!!!」
タクトは機体を爆発的に加速させてレイに接近するが・・・
(ふ・・・単純な奴め・・・ワンパターンなんだよ・・・!)
レイは機体を反転させてタクトから距離をとる・・・
ヘパイストスの広大なスペースの中を二機の紋章機が駆け抜ける!
追いかけるタクトに・・・それを翻弄するレイ・・・
レイは瞬時に飛行形態に変形しグングンと突き放していく・・・
「くそ!まだ変形できたのか・・・」
『・・・お前みたいな馬鹿じゃあ、俺の相手はつとまらねぇよ・・・』
やがてタクトはレイの機体を見失ってしまった・・・
「逃げた?・・・・・・・後ろかッ!?」
タクトは後ろに向けてエクスカリバーを置いて後ろから振り下ろされたダインスレイブを受け止めた・・・
『こんなもので俺のライバルのつもりか・・・?』
「勝手に決め付けるな!お前は好敵手なんかじゃない!お前は俺の天敵だぁーーーーー!!!!」
タクトはサマーソルトをしながらレッグのクラウ・ソラスで反撃に出た。
『ふ・・・確かにな・・・!』
レイは軽くスウェーをしてそれを回避した。
『お前こそが俺の天敵だな・・・ならば天敵同士・・・仲良く殺し愛といこうぜ!!』
殺し愛・・・あの神皇が好んで使っていた言葉だ・・・
そうか・・・こいつが教え込んでいたのか・・・
どうりでおかしいと思った・・・こいつがいつも先読みできたのはこいつが全て仕組んだ事だったからか・・・
シリウス・・・悪い、俺はやはりこいつだけは許せない・・・
どんな事情があろうともこいつが黒幕であった事に代わりはない・・・
俺達はスペース内にあった柱でイタチごっこのように追いかけあいながら斬り合う。
「殺し愛・・・その言葉だけは言わせない・・・その言葉だけは!!」
『どうやって言わせない気だ?俺の口でも塞ぐ気か?』
「お前を撃破するまでだ!!」
『へぇ・・・そいつは実に面白い重大発表だな・・・』
「この腐れ外道め!!」
『ふふ・・・俺は神皇やシリウスよりも腐っているのか?』
「シリウスをあんな目にあわせたお前がそんな事を言うな!!」
『シリウス救えなかったのはお前だろうが・・・皇国の英雄さんよぉ・・・』
「貴様!!」
タクトがレイを蹴り飛ばそうとしたが、レイは機体を上手く反転させて回避した。
『弱すぎる・・・この程度でいきがられてもなぁ・・・ふ、ふふふ・・・』
「くそ!!馬鹿にしやがって・・・!」
レイは変形機能を見せ付けるかのように駆使してスペースの間を上手く駆け巡り、タクトに攻撃のラインを与えさせない・・・
『どうした?いつものタクトなら何らかしらの策がある筈だが?』
それを完膚無きまで打ち破ってきたのはお前の癖に・・・
格闘の勝利の秘訣はいかに自分のペースに相手を引き込むかだ・・・
ペースを保っている者はつまりは攻め手だ・・・故に自分の起こす行動は常に先制となる・・・一方守る方は相手の出方を窺わなければならず、精神的なプレッシャーを相当のものとなる・・・
レイは今まで受けに回る事が多かった・・・それがレイが最強のパイロットと呼ばれる所以でもある。
レイは常に相手を挑発し相手の攻撃を全て出しつくさせるのだ・・・そして相手の癖と武器の欠点を瞬時に解析し終えて初めて攻撃に転じる・・・そしてレイは意図的に攻守をすり替えた・・・
「くそ・・・相変わらずちょこまかと・・・!」
つまり、タクトの動きを見切ったという事だ・・・
レイ・桜葉・・・あの神王 アバジェスに真の天才と言わしめた者・・・
その戦い方は父 ロキと同じく後手の拳・・・
そして勝負をかけるときにはアバジェスと同じく先手の拳・・・
その武における才能はロキから遺伝し
その才能を磨いたのがアバジェスである・・・
レイは剛のロキと柔のアバジェスの両者を合わせた言わば
柔よく剛を制し、柔なす為に剛をなすとでも言おうか・・・
すなわち高度な柔とは剛を適度に散りばめ相手の動きを封じてしまう事である・・・
『指揮官のお前にパイロットはいささか無理があったな・・・』
再び、タクト目掛けてかけて行く死神の使い魔達・・・
「チッ!」
タクトは次から次へと襲い掛かってくる使い魔の大群を切り伏せてレイとの距離をつめようとするが、レイはそれを許さない・・・
格闘技を極めた者こそが知り得る単純な決まりがある・・・
敵の攻撃を防ぐだけなら三流・・・
敵と渡り合えるのなら二流・・・
そして自分のペースに引き込めるものこそが一流・・・
最大の防御とは攻める事というのは知っているだろう・・・
あれが語っている事は一つ・・・攻撃をさせない限り、ダメージを受けることは絶対にあり得ない・・・
レイが偶然性への対抗策として極めた究極の攻撃方法だ・・・
例え奇跡が起きたとしても火のない所に煙は立たないのと同じ様に攻められないタクトには勝機はない・・・
『哀れ・・・そして醜くて愚か・・・ふ、ふふ・・・ふはははは!あはははは!あーはっはっはっはっはっはっは!!』
レイはさも可笑しそうに笑い続けた。
「何がそんなに可笑しい!?」
『さっきも言ったが、EDENとNEUEほど愚かな世界は無い・・・伝説・・・迷信・・・そこから生まれた身分・・・王族・・・戒律・・・名家・・・所詮は創造物共の妄想の中で生まれた幻想だというのに・・・今だにお前達はそれを信じているようだな・・・シヴァもシャトヤーンも俺に創られたただの人間だというのに・・・』
「そこまで言うか・・・お前は・・・」
『ああ、言うね・・・お前達はどこまでも救いようの無い馬鹿共だと・・・』
「貴様ぁ!!」
タクトは怒りにまかせて斬りかかるが、レイはそれを見切っているかのように完全に受け流す・・・二人の技量の差は明らかだ・・・
『・・・陽輪流には剣技はない、しかし、陰月流には剣技がある・・・』
「それがどうした!」
(いいか、レイ・・・剣を使う時は弧月を描くように斬る・・・)
『・・・お前がマスターに勝てたのはまぐれだ・・・それをここでこの俺がこの手で証明してやる・・・』
「・・・お前にしては随分と甘い事を言う!」
『ほぉ・・・』
レイはけさ切りで斬りかかり、タクトはそれを弾いて両者は距離をとった。それも一時的なものにしかすぎないのだろうが・・・
「それも俺を憎む理由の一つか!?」
二人は手を止めずに斬り合い続ける。
『ふ・・・お前にそんな事を言われるなどとは俺も堕ちたか・・・』
そう言いながらもレイの技量は今だにタクトを圧倒する・・・
レイがタクトの機体を蹴ってバランスを崩させ、左手で斬りかかる。
「チィ・・・!」
タクトは右手に召還したエクスカリバーでかろうじて受け止めた。
『甘いのはお前だ!誰にも優しく!誰にも平等に!この偽善者め!』
「俺が偽善者だと?」
『違うか?お前の優しさなど所詮はお前が誰にも嫌われたくないという気持ちでうみ出したプログラムにしか過ぎないんだよ。』
「勝手に決め付けるな!」
『ならば、分かりやすくはっきり言ってやるよ・・・』
こいつ・・・本当にどこまでも嫌な奴だ・・・
『お前は常に他人の顔色ばかり窺っているんだよ・・・そして、常に嫌われたくないと思っているからこそ、作為的に標的(他人)の気持ちを探ろうとする・・・』
「人の心境や弱いところばかり、覗いているお前が言えた事か!!」
『ふふふ・・・何万回もやり返えされたこの世界で・・・お前が何回俺との約束を忘れたか知っているか?お前はあの桜の森で俺に言った筈だ。
『ミルフィーは俺が守る』ってなぁ・・・
しかし、お前が他の女に何回目移りをしたか知っているか・・・?』
こいつはまさか・・・本当は・・・
『・・・いかんいかん・・・お前の力は俺以下・・・更に頭も技量も俺以下だ・・・しかし、それだけがお前が俺に勝てない理由ではない・・・お前のようなのんびり屋にはそれがなんであるかすら分かりはしまい・・・』
「・・・っ!これ以上、お前の御託に付き合ってられるか!」
タクトは鍔ぜリ合いながらクラウ・ソラスを左のレッグに発生させてサマーソルトを描いて斬り上げた。
レイはシャイニング・スターの胸部を蹴って距離をとってかわす。
『だからお前は馬鹿なんだよ・・・勢いだけがあればそれで何とかできると思っている・・・無意識にな・・・しかし、殺し合いの世界ではそんなものは通用しない・・・戦いとは戦法の競い合いだ・・・順序を組み立てそれをどこまで行動にうつせるかが勝負の決め手となる・・・因果がなければ何も起きはしない・・・』
「まどろっこしい言い方をするな!要はお前は俺が奇跡に頼っているのが気に食わないだけだろう!?」
『ふ・・・やっぱり本当の馬鹿だな・・・自分の欠点を直視しきれない弱虫も・・・直視して直しきれない大馬鹿も・・・所詮、そこまで止まりだ・・・』
「お前こそ!!」
『お前なんかと一緒にするなよ?俺は現実のみを見てそれから逃げた事な無い・・・例えそれがどんなに面倒臭くて無意味な事でもだ・・・』
「ミルフィーを途中でほったらかしておいてよくそんな事が言えるな!」
『ふざけんなよ?俺があいつの面倒を見る義理がどこにある?』
「お前の妹だろうが!あんなにお前の事を・・・!」
『ありがた迷惑なんだよ・・・俺はあの馬鹿女を一度も妹だなんて思った事はない・・・当然だろう?あんな馬鹿な奴・・・』
「お、お前・・・本気で言ってるのか!?」
今さっきは・・・
『最初から言ってきただろう・・・何でそんなにムキになるんだ?』
するとレイはわざとらしく何かに気付いたフリをしてにやりと笑った。
『そうか・・・そうういう事か・・・ふ、ふふ・・・はははは・・・・!』
「今度は何が可笑しいんだ・・・?」
『ふふふ・・・要は俺があいつに慕われているのに俺があいつをぞんざいに扱っているのが許せないだけだろう・・・』
「・・・ッ!!?」
『馬鹿な奴だ・・・あんな見てくれしか長所が無い馬鹿女にそこまで入れ込むとは・・・お前もロキと同じ獣だな・・・身体さえあればそれでいいか?』
「貴様・・・・・・」
『あの女の策にまんまとはまった哀れな奴だな・・・はは・・・だからせめて楽に死なせてやるよ・・・ふふ、ルシファーか・・・あんな堕天使にさえ惹かれなければお前は死なずに済んだものを・・・本当に哀れで面白い奴だよお前は・・・』
笑いながら追い討ちをかけるレイ・・・
その言葉に俺は何も言い返さなかった・・・
キレた・・・
もはやこんな奴と話すことは何も無い・・・
こいつだけは絶対に許さない・・・!!
「お前はミルフィーの兄貴なんだろうがあぁーーー!!!!」
『・・・・・・』
怒りの頂点に達したタクトは速度を上げラインもお構いなしにレイに斬りかかってきた・・・しかし、レイは微動だにせずにタクトの動きを軽蔑した表情で観察しながら回避していった・・・
「何でミルフィーをそんなに突き放すんだぁぁぁーーーー!!」
『・・・・・・本当の馬鹿だな・・・』
「ぁぁーーッ!ぐわ!?」
レイはエクストリームを蹴り飛ばした。
受けにまわっていたレイはいきなり反撃に出た!
『ずっと言ってきただろうが・・・クソガキ・・・勢いだけあれば勝てる程甘くは無いんだよ・・・お前も仮にも指揮官ならばそれぐらいの事は知っていた筈だ・・・たかが馬鹿女の事でそんな基本的な事を忘れるとは・・・お粗末にもほどがあるぞ・・・』
「うるせぇーーー!!」
『・・・聞く耳持たずか・・・・・ざけんなよ!コラァッ!!!』
レイは手足を使い電光石火の勢いでタクトにラッシュをかけた。
それはまるでタクトに反撃の機会を与えない打ちのめし方だった・・・
レイがダインスレイブを使わなかったのはタクト自身にダメージを与える為だ・・・レイにはまだタクトに言いたい事があるので斬っておしまいにする事が出来なかったのだ・・・
相手がタクト以外なら即座に斬り捨てていたただろう・・・
エクストリームは静かになった激しい振動がタクトにダメージを与えたのだ既にパネルにぶつけた額からは血が流れている・・・
「っ・・・っっ・・・」
吐き気の催すグラグラな視界の中でレイの声にエコーがかかって聞こえてくる・・・
『情けない声を出してないでよく聞け・・・大馬鹿・・・
これがお前と俺の最大の違いだ・・・それは勝利への執念だ・・・俺は例えどんな挑発を受けようとも感情に流されて戦い方や予定は変えない・・・それが何故だか分かるか?こっちの感情など敵には知った事ではないからだ・・・そんな状況下で感情に任せて勝てると思うか?
答えはNOだ・・・絶対的な力の前に感情や口など何の役にも立たん・・・特に戦闘機同士の戦いではなおさらだ・・・
この世界は常に戦場・・・
生きるか死ぬか、殺すか殺されるかの世界だ・・・
死人には何もできない・・・死人に口無しだからな・・・
何かをしたければ勝って生き残るしか無い・・・
だから俺は常に先の戦闘の対策を考えながら行動している・・・
その俺にお前の付け焼き刃のようなちゃちな戦術が俺に通用するわけ無いだろう。
言ったろう?俺は面倒な事でも逃げないと・・・やっておいてデメリットはないからだ・・・しかし、お前は面倒くさがって自分を鍛えようとしなかった・・・お前を神界へ導いたのはそれを自覚させる為だ・・・
しかし、結局は何も変わらなかったな・・・
自分は欠点だらけ・・・あるのは強い気持ちだけ・・・
これほど男として情けない事は無いだろう・・・?
直そうと思っていても直せなければ五十歩百歩・・・
気持ちだけで自分を取り巻く環境は動かない・・・
動かしたければ行動するしかないのだ・・・
口と気持ちだけでは何もできないし・・・何も守れもしない・・・
お前は心のどこかで甘えていた・・・なんとかなるだろうとな・・・
だからお前は甘いんだよ・・・その上、あの馬鹿女の事になると冷静を失う・・・それはお前の甘えでしかなく・・・弱点にしかならない・・・本当に守りたいと思うのなら非情に徹してでも守る・・・お前は馬鹿女の事になるとそれができなくなる癖があるからな・・・違うか?』
「く・・・」
『今日までお前が生きてこれたのはお前が生きてきたのが人間の世界だからだ・・・口と感情論が通用する世界だからだ・・・
人間が自己保身の為に作った人間限定の世界のルールだからだ・・・
EDENもNEUEもお前と同じで個人の自由が最優先だとほざく・・・
俺にはそれが一番許せなかった・・・
お前のように個人の自由が約束された世界は確かに理想郷だ・・・
しかし、冷静に考えればそんな理想郷などできはしない・・・
必ずどこかで矛盾が出てくるからだ・・・
個人の自由は本人の気付かぬどこかで必ず他者の自由を奪う・・・
そして負の感情が生まれ争う・・・
何故なら、人間の原動力は欲望だからだ・・・
ならば、答えは一つ・・・我慢するしかないんだよ・・・
楽な世界などどこにもありはしない・・・
所詮、お前達の偽善に満ちた正義感や理想郷は他者がひいたレーンだ自分の生きる道ぐらい自分で考えなくてどうする・・・
俺は責任と義務が大事だとは言ったが個を否定するつもりは無い・・・
何故なら、公は個を保証し、個は公を形成するからだ・・・
おかしいと思ったのなら即座に行動にうつせ・・・
自分で考えて正しいと思ったのならばそれでいい・・・
他人が作った正義などは不要だ・・・正義は悪利用ができる・・・
一番いい例が宗教だ。
正義という大義名分で多くの人間を洗脳し、本人達に疑う事を許さない・・・そうなれば戦争でも何でもやりたい放題だ・・・大義名分と洗脳されなかった者達を排除する力さえあればな・・・
だからこそお前は抗え・・・例えそれが神が定めた道(運命)だとしてもお前がそれをおかしいと思うのならひたすら抗い続けろ・・・』
「お、お前は・・・」
『俺らしくない・・・俺もヤキがまわったな・・・』
レイはダインスレイブを一本だけ構えた。
「・・・・?」
『来い・・・これが本当の最後だ・・・』
レイが機体を出口の方に向けて発進した。
俺は無言のままその後を追跡していく。
そして俺は外の宙域へ出てきた。
そしてそこにはアルフェシオンが待ち構えていた・・・
『俺はこの一本の剣だけで戦う・・・』
「・・・何で本気を出さない・・・?」
アルフェシオンの最大の武器はその武装の多さだ・・・
それを敢えて使わないというのはいくらなんでもおかしい・・・
お前は俺達を本気で止めたかったんじゃないのか・・・
『素人の考えだな・・・言った筈だ・・・俺に常識は通用しない・・・戦いは量よりも質だとな・・・』
「・・・・・・」
ビンビン伝わってくる・・・レイは本気だ・・・
凄い・・・この威圧感・・・神皇やアバジェス・・・そしてあのロキからすらも感じた事は無い・・・膝の震えが止まらない・・・
こいつは本気でダインスレイブ一本で勝負をするつもりだ・・・
だが、隙が無い・・・
シンプルゆえに活路が見出せない・・・
『来いよ・・・俺が憎くてたまらないんだろう?』
そうの通りなのに・・・手が動かない・・・
やばい・・・こいつ桁違いだ・・・
『・・・臆したものに勝機などあるものか・・・』
「!!!」
そうだ・・・恐れてどうする・・・ロキは勝ち目の無い戦いに真正面からぶつかってあのアバジェスに勝っているんだ・・・俺が恐れてどうする・・・
「いくぞ!」
『こい!』
紋章機とタクトの故郷ヘパイストスの中で
タクトとレイの最後の戦いが始まった。
タクトもエクスカリバー一本で斬りかかる。
レイは機体を旋回させ理想のラインを描いて斬りかかる。
レイの正面にはタクトの側面がある。
故にタクトの死角は増える・・・そして、その死角にレイはいる。
そして、タクトはそのラインを崩そうと必死にレイにくらいつく。
「くそ・・・踏み込めない・・・!」
『馬鹿めぇっ!』
死角から繰り出されるレイの一撃!
「・・・ッ!」
タクトも奇跡的なスウェーで回避するが右手のアームシールドの表面を削った。
『紋章機でよかったな・・・とりあえず技あり一本だ・・・』
「く・・・!」
その言葉に負けるものかとばかりにタクトは手数を増やすが全て受け止められてしまい、挙句の果てにはカウンターをくらってしまう始末だ。
「まだなのか!まだ追いつけないのか!?」
『お前じゃ一生追いつけねぇよ・・・』
「なめるな!」
『哀れんでいるんだよ!』
最後の強がりをするタクトに追い討ちをかけるかのようにレイはエクストリームの動力部に集中的に攻撃をくわえてタクトを沈める。エクストリームの被害は甚大で、もはや、レイに抵抗するだけの動きは出来ないだろう・・・
レイはその真紅の魔眼を細めて獲物を見据えた。
『さて・・・今度こそ死んでもらおう・・・』
「く・・・!」
絶体絶命の危機のその時・・・
「もうやめて!!」
「ミ、ミルフィー・・・?」
俺の背後からカズヤ達のクロスキャリバーが接近してきていた。
『ふふ・・・良かったな・・・色男二号・・・』
レイはダインスレイブを高々と掲げた・・・レイにしては珍しい隙だらけの構えだ・・・あるいはこれすらも罠の一つなのか・・・どっちにせよ何の狙いも無くこんな奇特な行いをするわけがない・・・
『・・・どうした?・・・・・・こいよ・・・色男二号・・・』
「・・・・・・」
レイ・桜葉はあのロキの長男だ・・・本来の戦い方はおそらくはロキと同じく後手の拳・・・迂闊に仕掛ければやられる・・・
『・・・臆した者に勝機はないぞ?』
それとも二代目アバジェスのルシラフェルか・・・
しかし、アバジェスもカウンターを得意としていた・・・
そしてロキもアバジェスのカウンターは一撃必殺の威力を持っていると言っていた・・・
それは夢で見た二人の戦いから学んでいる・・・
『来ないのなら・・・こちらから仕掛けるまでだ・・・』
ダインスレイブが頂点から時計回りに下がっていく・・・
『桜舞う・・・春の夜・・・頭上に漂う・・・朧月・・・』
そして8時のところでレイはダインスレイブを止めた・・・
『俺は一つ嘘をついた・・・名前など下らないと言ったが
全ての名前には意味がある・・・貴様を葬る名は・・・陰月流 朧月・・・見せてやる・・・本当の陰月流をな・・・』
・・・ッ!ということはまだ本気じゃなかったって事か・・・
レイの体がぼやけてゆたりと動きだす・・・
くそ・・・奴の剣のラインが全く見えない・・・ぼやけて見えてしまって集中が出来ない・・・
「タクトさん・・・一体どうしたんだろう?」
僕は見ていた・・・剣を高々と上げたあの人の前でタクトさんのシャイニング・スターが呆然と立ち尽くしていた。
(・・・言葉には力がある・・・陽輪流には無い筈だ・・・ロキ自身もこの事だけは知らないからだ・・・真の陰月流の後継者のみに伝授される・・・話術・・・これこそが一流と超一流の差を分ける要素だ・・・)
動かなきゃやられる・・・しかし・・・ラインが見えない・・・!!
『桜は舞い散り、死者の血を吸って赤く染まる・・・』
「!!!!」
それはまさに死角からの一閃だった・・・
アルフェシオンのダインスレイブ・フェイカーがエクストリームの右足を切り飛ばした。
「し、しまった!」
「タ、タクトさん・・・!」
『・・・陰月流 秘奥義 桜花一閃・・・』
「タクトさん!?」
まずい・・・このままじゃタクトさんがやられる・・・!
『ふ・・・忍(しのび)は敵のアキレス腱から断つ・・・それは陰月流も同じ事だ・・・確実に仕留める為にもな・・・分かったか?流派の差が・・・ん?』
レイ・桜葉の予定外の出来事・・・それは・・・
「僕を忘れるなーーー!!」
カズヤ・シラナミの特攻だった。
何者にも臆さない勇敢な心・・・
『・・・なっ!突撃だと!?馬鹿が!!』
レイなら余裕でブレイブ・ハートを撃退できた筈だ・・・
「うおおおおぉぉぉぉーーーーーー!!!」
銀色の紋章機が悪魔に突撃していく・・・
(確かに馬鹿だ・・・しかし、お前はそれでいい・・・)
しかし、レイは敢えてその突撃を回避しようとしなかった・・・そして・・・
ドゴォォォン!
『く・・・!』
(どうして・・・?あなたは・・・)
レイがバランスを崩した・・・初めて見せた本当の隙だ・・・
チャンスはここしかない!!
「もらったーーー!!!」
バシュン!!
エクスカリバーがレイの右肩口ごと斬り飛ばした。アルフェシオンの切断面から赤い液体が噴出した・・・
『ち・・・・・・』
レイは右腕に走る激痛を押さえつけた・・・
L.Eシステムにフルリンクして攻撃を回避し続けるのが、このレイ・桜葉の戦い方だった・・・
しかし、それでも呻き声は上げようとしない・・・・
「・・・まだ、やる気か?」
『・・・・・・』
モニターごしに二人は互いの目を見合う・・・
「もう、やめて!お兄ちゃん!!」
「レイさん!」
「お兄ちゃん!!」
『なめるなっ!!』
『・・・ッ!』
『俺は戦士だ・・・死してもなお、戦い続けなければならない・・・
ガキ共・・・俺はまだ終わっていない・・・まだ、あきらめない・・・
例え眼球をえぐられても心臓を打ち抜かれても俺はあきらめん・・・この俺を止めたければ・・・俺の信念と俺の魂を木っ端微塵に砕いてみろ!!』
「駄目!!」
(アルフェシオン・・・これで最後だ・・・)
切断されたアルフェシオンの腕が再生していく・・・
(ありがとう・・・アルフェシオン・・・)
「レイさん!!」
『・・・勝負だ・・・タクト・マイヤーズ!!』
「・・・・・・来い!レイ・桜葉!!」
『行くぞ!』
アルフェシオンは背後へと下がって俺達と距離をとる。
「お兄ちゃん!!」
俺達の背後には最後の月 ヘパイストスがある・・・。
俺はレイを追跡しない・・・レイの言った勝負とは互いの技量を競い合う事ではないのだ・・・勝負とは本当に力比べをする事なのだ・・・
そして俺が“アレ”を出せなければ世界は再びリセットされてしまう・・・
俺とレイはこれから命を賭けた一発勝負に出る・・・
『着いたか・・・』
レイはタクト達から百万離れた場所でアルフェシオンを待機させた。
相手との距離は関係無い・・・何故ならこれか仕掛けようとしているのは絶対に回避不能の攻撃だからだ・・・
『・・・こんなに緊張するのは初めてだな・・・ようやくここまできたか・・・今度こそこの運命の輪が断ち切られる事を祈ろう・・・』
レイは目を閉じて精神を最大限まで集中させた・・・
レイの頬のsoweluの文字が光輝きだした・・・
『タクト・マイヤーズ・・・お前の真の力を見せてみろ!』
そして、レイの目がクワッと開かれ・・・アルフェシオンは腕を後ろに伸ばしサタンテイルを発射した。そして、それは極太の光の鎖へと化して伸びていった・・・やがてそれは何かに突き刺さった・・・その鎖は時間を越え、空間を越え・・・ある物に突き刺さったのだ・・・正確に言えばそれは過去から持ってきたものだ・・・過去の管理者のルシラフェルだからこそできる荒業である・・・
『く・・・!』
レイは初めて歯を食いしばって後ろにある物を引っ張っている・・・
『ぐ・・・ぐぐ・・・・ぐぅーーーー!!!』
この男が目を閉じて力んでまで後ろの物を引っ張ろうとしているのだ・・・アルフェシオンも苦しそうに後ろの物を引っ張っている・・・最強の存在ですら苦労する物とは・・・一体・・・
(最後のド根性を見せろ・・・レイ・桜葉あぁーーーーー!!)
そして・・・遂に・・・
『オオオオオオォォォォォォーーーーーー!!!!!』
後ろの物がアルフェシオンの背後に迫ってくる・・・
その瞬間、アルフェシオンはレイの実体と自分の実体を無に変換してその物をすり抜けた。
『タクトオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!』
この単純な力技こそ桜葉家の長男 レイ・桜葉の最強の攻撃・・・
『これで終わりだあああああぁぁぁぁーーーーーー!!!!』
オメガ・サン
タクト達は目の前にこちらに序々に接近してくる赤い“丸”を見た・・・
「な、なんだ・・・?あれは・・・!?」
最初に気付いたのはカズヤだった・・・
「あれは・・・そんな・・・まさか・・・」
アプリコットは目の前の光景が信じられなかった・・・
目の前に迫ってきているのは燃え盛り光り輝く星・・・太陽だった・・・
(・・・本当に最後まで容赦の無い奴だ・・・)
タクトはミルフィーユに語りかけた。
「・・・ミルフィー・・・行くよ・・・」
「はい・・・お兄ちゃんをお願いします・・・」
接近してくる太陽相手に逃げ道など無い・・・
あの太陽が接触するまでもなくこちらは溶解してしまうだろう・・・
それに俺は恐れて逃げるつもりはない・・・
陽輪流の極意は相手の牙にこそ隙はある、故に牙を砕けだ・・・
狼牙一閃のように・・・
近寄ればこちらは溶解する・・・ならば伸びる剣があればいい・・・
俺はただひたすら信じるだけだ・・・
俺の幸運の女神を・・・
「タクトさん!!」
手に熱い感触・・・エクスカリバーとは違う感触だ・・・
今、迫る太陽が運命だというのならその運命を斬るまでだ・・・
「・・・・来い!!!」
その時エクストリームの手から虹色の柱が発生し頭上を越えて伸びていく・・・それは剣のように・・・伸びていく・・・
あいつはおそらくあの太陽の裏側にいる・・・回避ができない攻撃を仕掛けてきた以上あいつも覚悟を決めたという事だろう・・・
『タクトオオオォォォォォォーーーー!!!!!』
迫ってくる太陽・・・
そして俺はこの光の柱を真っ直ぐに太陽に向けて振り下ろした!
「レイイイイイィィィィィィーーーーー!!!!!」
!!!!!!
虹色の柱が太陽を真っ二つに切り裂き・・・
後ろに隠れていた無の存在ごと切り裂いた!!!
タクトが使用した剣はレイの空想上の剣である・・・
その名は・・・
スレイヤー・オブ・デステニー
運命を殺す者
『ぐはっ!!』
レイは肩口から斬り裂かれ吐血した。
(タクトの奴・・・わざとずらしやがったな・・・)
しかし、レイは笑顔だった・・・
遂に運命の輪が切り開かれたのだから・・・
『・・・・・・お前の勝ちだ・・・・・・』
「レイ・・・・・・」
レイの頬からはすでに刻印は消えていた・・・敗北したレイは完全の体現者で無くなった証拠である・・・
ここに長い間に渡った
二人の決着がついた・・・
「お兄ちゃん・・・」
『こんな無様な姿・・・リコにだけは見せたくなかったな・・・はは・・・』
「喋っちゃ駄目!」
ここはヘパイストス内部・・・大破したアルフェシオンのコクピットの周りにはタクトとカズヤ・・・そして二人の妹がいた・・・兄の心配をして・・・
結局、レイ・桜葉は四人の兄であり続けたのだ・・・
「レイ・・・カズヤとリコにはシリウスから聞いた真相を全て話しておいたからな・・・」
『ふん・・・余計な真似しやがって・・・』
実は他のメンバーは一足先に皇国へ帰還している・・・
来る、元凶との決戦の為に・・・
カルマはまだ、生きている・・・
その為にレイは俺にダインスレイブを授けたのだ・・・
元凶を斬れる唯一の剣を会得する為に・・・
「どうして最初に正直に話してくれなかったんですか!?」
『話したらお前やリコが攻撃しにくいと思った・・・すまん・・・』
「だからってこんなになるまで・・・!」
『なぁ・・・カズヤ・・・俺はつくづくお前は凄い男だと思ったよ・・・まさかブレイブ・ハートで突撃をかけてくるとは思わなかった・・・よ・・・』
「あの時、もしかしたらと思ったんです・・・第一、あなたが本気になっていれば僕達では相手にならない筈ですから・・・」
『俺も・・・随分となまったようだな・・・・あはは・・・』
「もう!笑い事なんかじゃないよ!馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!!」
『はは・・・リコの言う通りだ・・俺は大馬鹿だな・・・』
「ほんと・・・おに・・ちゃんは大馬鹿だよ・・・!馬鹿!!」
『お、お前にだけは言われたくねぇよ・・・この野郎・・・』
いつもなら殴ってやるところだが、さすがにそれは無理そうだ・・・右腕が完全に終わっている・・・
「いいよ・・・いつもみたいに殴っても・・・だから、いつまでも私の傍にいてよ・・・お兄ちゃん・・・」
『・・・気持ち悪い事言うな・・・お前はマゾか・・・』
レイが俺の目を見た・・・俺はその時、その目が何を言いたいのかが分かった・・・
『リコ・・・これを・・・』
俺は左腕をなんとか動かして懐に手を入れてある物を取り出した。
俺はリコから預かったものを返す事にした・・・
「え?これって・・・」
レイが取り出したもの・・・それは花飾りのついたリボンだった・・・
「・・・っ!?どうしてお兄ちゃんがこれを・・・」
『覚えてないだろうがお前が俺にくれたものだ・・・それ以来肌身離さずお守り代わりにしていた・・・わりぃな返すのが遅れた・・・』
この記憶は残しておけばよかったなと俺は少し後悔した・・・
『そのお守りの効果は確かだ・・・どんな戦場でもそれは俺を守ってくれた・・・そして俺にはもう必要ないだからお前が持っていけ・・・』
「お兄ちゃん!?」
「馬鹿な事を言わないで!一緒に帰るんだから!」
「そうです!力づくで引きずってでも帰りますからね!!」
『おいおい・・・お前達はこれからあいつと戦わなきゃならねぇんだぞ?』
「そんなの関係ないもん!」
「そうですよ!」
『・・・どうせ俺は・・・もう長くは持たない・・・だからさっさと行け・・・でないと・・・死にきれないだろうが・・・もういいだろう・・・いい加減に俺を眠らせてくれ・・・ここ20年間も俺は一睡もしてないんだ・・・』
「駄目!!」
『・・・ったく・・・最後まで手間のかかる奴等だな・・・』
突如四人の体が宙を浮き、紋章機のコクピットに押し込められた。
「お兄ちゃん!!駄目!」
『行け!そして、抗え!・・・ぐはぁ・・・!』
レイの口から新たな血が噴き出した・・・
「お兄ちゃん!?」
「・・・・・・・分かりました。」
「カズヤさん!!」
「ゴメン・・・でも、これ以上レイさんを苦しめたくないんだ・・・」
この人はまだ誇り高い戦士なんだ・・・だからその死に際は誰にも見られたくないだろう・・・
「・・・そんなの駄目!」
レイの呪縛を解除したミルフィーユは一目散にレイのそばに駆け寄った
『・・・・・・このッ!!』
レイは最後の力を振り絞って立ち上がると・・・
バッチーン!
ミルフィーユの頬を力一杯張った!
「・・・っ!!」
『この馬鹿女が!いつまでもまとわり付くんじゃねぇ!!鬱陶しくて眠れないんだよ!!さっさとタクトのところへ行け!!俺の死ぬのと同時にアルフェシオンは爆発する・・・このままじゃお前も死ぬぞ!!』
「やだぁ!絶対にやだぁ!!私も一緒にいくんだからぁ!!」
ミルフィーユはそれでもレイを抱きとめて離さない・・・
まるで子供が親にしがみつくように・・・
「ミルフィー・・・・・・」
俺は・・・これほど運命を呪った事は無い・・・
(それが、桜葉の宿命なのよ・・・)
『馬鹿か!?お前は!!お前にはまだやる事があるだろうが!!』
「でもぉ!でもぉ!」
レイは左手でミルフィーユの背中を掴み上げた。
『ったく・・・お前はリコの姉貴だろうが・・・泣くんじゃねぇよ・・・馬鹿・・・』
そして、動かない筈の右手を動かしてハンカチをミルフィーユの顔に当てて涙でくしゃくしゃになった顔を拭いた。
これがレイの最初で最後の奇跡かもしれない・・・
『ほら・・・鼻水は自分でなんとかしろ・・・』
「うん・・・ごめんなさい・・・」
ミルフィーユはハンカチで顔を拭いている・・・
『カズヤ・・・リコを頼んだぞ・・・そのおもしろい顔はお前が拭いてやれ・・・』
レイはフッと妹の泣き顔を見て笑いながらカズヤに妹を託した。
「お兄ちゃん・・・」
アプリコットの顔もくしゃくしゃだ・・・
「はい・・・命に代えても・・・」
『いい返事だ・・・そして・・・』
レイが俺を見てきたので俺も見返した。
「・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・』
俺はもしかしたら心のどこかでこいつに憧れていたのかもしれないなと思った・・・こいつもロキと同じ戦士だった・・・
レイはミルフィーの前で口に出すのが恥ずかしいのか何も喋らない・・・
しかし、俺にはレイの言葉が伝わってきた・・・
ミルフィーを頼むと・・・
だから俺は黙って頷いた・・・
するとレイは初めて俺に笑顔を返してきた・・・そして・・・
『オラァ!』
ミルフィーをブンと俺にめがけて投げつけてきた。
『行けぇ!どこまでもあきらめずに生き残れぇ!!』
「お兄ちゃん!」
俺達はハッチを閉じて紋章機を発進させた。
そして、俺達はヘパイストスを後にした・・・
去り際にレイの最後の声が聞こえてきた・・・
『ギャラクシーエンジェル・・・バンザーイ!!』
と・・・・・・
俺はガキ達が去るのを見送って回線を繋げた。
『マスター・・・聞こえますか・・・こちら・・・レイ・・・』
「ああ、聞こえている・・・」
『タクトはアレを修得しました・・・よって俺の任務はここまでです・・・』
「・・・よくやった・・・本当にな・・・」
『はい、ありがとうございます・・・ところでシヴァとシャトヤーンはそこにいますか?』
「ああ・・・二人共・・・」
画面に懐かしい姿が映る・・・
「父上・・・!?」
「あなた・・・!?その傷は・・・!」
『悪いが説明する時間が無い・・・だから、よく聞いてくれ・・・』
「は、はい・・・」
『シヴァよ・・・王に必要なものは何だ・・・?』
「それは民を第一にです・・・そして、それを死守する事・・・」
『70点の正解だな・・・シヴァよ・・・王とは万人に慕われなければならないのだ・・・そうでなければ誰も王の言う事になど民は耳を傾けまい・・・そして民は千差万別・・・だから、時には民の間で意見が分かれる事もあるだろう・・・中には私利私欲の者も出てくるだろう・・・そんな時には心を鬼にして沈静化せねばならない・・・支持者の少ない方をな・・・』
「そんな・・・」
『・・・そんな正義もくそもないのが王の務めだ・・・だから俺はお前には普通の娘として生きていって欲しい・・・王族なんてものはもはや必要無いんだ・・・EDENもNEUEの生き残りも王がいなくても民は団結しだしている・・・王族しか指導者になれないなんてのはもはや時代遅れだ・・・』
「・・・それでも私は民を守りたいのです・・・!」
『それは正義の為か・・・?それが正しいと思っているのか?』
「いえ・・・私は父上から正義の事を学ばせてもらいました・・・他人から得た正義は結局、人を滅ぼすものです・・・時には義に反してでも民を守らなければならないと神皇との戦いで学びました・・・ですから私は正義感で守っていくわけではありません!自分の意思で守っていきます!」
『100点満点だ・・・』
「だな・・・」
「え・・・?」
『マスター・・・シヴァを正式に俺の跡継ぎにして下さい・・・』
「ああ・・・ただし近いうちに王権制度は代わるぞ・・・?」
『構いません、シヴァは最後のトランスバールの皇王となる資格があります・・・それに王権支配の世が終わってもシヴァは民に選ばれます・・・なんたって俺の娘ですから・・・』
「わかった・・・それではレイ・・・任命しろ・・・」
『・・・シヴァ・トランスバール・・・
我が13代目皇王ジェラールの名の下に・・・
汝をここにて15代目皇王に任命する!!』
「・・・・・・・・はい・・・謹んで王の役目を全うして見せます!」
「・・・あなた、ありがとうございます・・・」
『いや・・・気にするな・・・』
「今度はいつお戻りになられるのですか?」
『・・・・・・』
レイの表情が曇る・・・
『・・・すまん・・・ちょっとわからねぇ・・・』
「帰ってきたら・・・お話をいっぱい聞かせてくださいね?」
『ああ・・・わかった・・・愛してるよ、シャトヤーン・・・』
「はい、私もです・・・レイ・・・」
さて・・・最後は・・・
『マスター・・・そこにロキがいますね?』
「はは・・・お前には全てお見通しか・・・ロキ・・・」
そしてモニターにロキが現われた・・・相変わらず口には煙草を咥えてやがる。まったく・・・あれほどリコ達から注意されているのにこいつは・・・
「何だよ・・・クソガキ・・・」
『・・・・・・』
相変わらず口が悪い・・・ここが俺に遺伝したのか・・・?
親父と息子は天敵同士だと言うがまさにその通りだな・・・
「早く言えよ・・・」
『戦いが終わったら鬼婆の所に戻ってやれ・・・リコもいなくなってずっと一人暮らしなんだ・・・寂しくないわけが無い・・・』
「大きなお世話だ・・・クソガキ・・・」
父上・・・?戦いが終わったらって・・・
『そして、どうしようも無い程の幼稚な天使達を頼んだぞ・・・』
「・・・・・・ああ。」
「わかった・・・」
さて・・・俺も限界が近づいてきたな・・・
俺は最後に四人を見た・・・
酷い親父でごめんな・・・シヴァ・・・
酷い夫ですまない・・・シャトヤーン・・・
出来の悪い弟子ですいません・・・マスター・・・
そしてモニターを切る直前にロキを見た・・・
じゃあな・・・・クソ親父・・・
レイからの交信が途絶えた・・・
「父上・・・?父上ぇぇぇーーー!!」
「あなた・・・!?」
「レイ・・・・・・」
「・・・クソガキが・・・格好つけやがって・・・・・・・」
ロキは咥えていた煙草を地面に叩きつけて叫んだ・・・
「クソッたれがあああぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!」
アルフェシオンのコクピットではレイが最後の時を迎えようとしていた・・・
『ゴバ・・・!』
レイの口からはどす黒い血が流れている・・・
(言い残したい事はもうないな・・・まったく・・・肉体というものは鬱陶しいこと極まりないな・・・)
俺にはもう何も見えない・・・
戦士は人前で死んではならない・・・いつかマスターが俺に言った言葉だ・・・しかし、俺は戦士でいられたのだろうか・・・?
それにまだ未練が残している事もある・・・
一つはカズヤとリコが幸せに暮らしていけるのか・・・
あの二人はどちらも奥手だから心配だな・・・
二つはシヴァとシャトヤーンの事だ・・・あいつら二人だけでやっていけるだろうか・・・
三つ・・・あの馬鹿と馬鹿女の二人だ・・・あの二人も似ているからな・・・
とくにあの馬鹿女危なっかしいから・・・大丈夫だろうか・・・?
あの馬鹿も馬鹿女の凶運に巻き込まれなきゃいいんだが・・・
・・・・・・なんだ・・・俺はまだ未練を残しているのか・・・未練を残して死んだ者は多くいるというのに・・・善人であろうが悪人であろうと・・・
人間ってのは・・・どこまでも醜く、愚鈍で、浅ましく、脆い・・・
このヘパイストスでどんなに手を加えてやってもそれを仇で返してきたしな・・・
魔法にロストテクノロジー・・・よく考えてみればかなり奮発してやったと思う・・・
まったく・・・人間ってのはみんなガキだな・・・
しかし・・・面白かった・・・もし、生まれ変われるのなら俺も・・・人間として生まれ変わりたかった・・・その時はリコにつきまとってやろう・・・って俺はストーカーか?は、はははは・・・
「隊長・・・それはさすがにまずいですよ・・・」
・・・?この声は、エオニアか・・・?
「隊長は本当にあの女に甘いんですから・・・」
シリウスの声もしてきた・・・・
『よぉ・・・俺を迎にきたのか?』
「はは・・・それは無理ですね・・・あなたは人間では無いんですから。」
『笑うな・・・言ってみただけだ・・・それより、シリウス悪かったな・・・最後まで芝居をさせてしまって・・・』
「気にしないでください・・・タクトが気に入らなかったのは本心ですから・・・」
『タクトか・・・救いようの無いほど馬鹿な奴だったが・・・面白い奴だったな・・・』
「そうですね・・・」
「しかし、何で最後まで本気を出さなかったんですか?」
『あいつ等が予想以上のガキだったんでな・・・辛口の予定が中辛になってしまった・・・』
「なるほど・・・」
『まったく・・・もう少し暴れたかったな・・・』
「ならばメシア隊再結成といきますか・・・?」
『だな・・・・・・』
「違うぞ、エオニア・・・まだ結成中だ・・・」
「・・・そうだったな・・・」
「今度は手加減無しで奇襲攻撃をかけるか・・・やっぱりこのままじゃ俺のプライドが許さないからな・・・」
「死神のメシアの復活ですね。」
『いや・・・その名前は・・・あまり好きじゃ・・ない・・・次の機会があれば今度はレイ・桜葉・・・として・・・デビューを飾ろ・・・う・・・』
俺が目を覚ますと・・・
アルフェシオンのインフィニの回転数が臨界点を突破して暴走を起こし始めた・・・
『・・・・・・・』
あいつらは無事にドライブ・アウトしたらしい・・・
アルフェシオンの装甲があちらこちら凹んでいく・・・
しっかし、なんで最後の最後になって頭に浮かんでくるのがあの馬鹿女の笑顔だとは・・・最悪だな・・・・・・眠ろう・・・・
アルフェシオンのコクピットにも外部からの圧力が加わってきた・・・
『・・・・・・ざまぁ・・・みろ・・・これ・・でお前も・・・終わりだ・・・因果律・・・』
それが、レイ・桜葉の最後の言葉だった・・・
そしてインフィニが爆発し、ヘパイストスやその周辺の宙域を飲み込んで無へと変えていく・・・
シャイニング・スターは虹色の空間の中を力強く疾走していた。
それは、EDENへの帰路・・・
タクト・マイヤーズは体現者との戦いに勝ち残ったのだ・・・
しかし、勝者に喜びなど欠片も無かった・・・
「・・・うぅっ!うあぁ・・・!」
(ミルフィー・・・)
シャイニング・スターの中ではミルフィーユが嗚咽をあげながら泣いていた・・・誰でも、あの後、レイがどうなったかは想像がつくだろう・・・
「・・・・・・?」
その悲しみの帰路の途中でシャイニング・スターに変化が訪れた・・・インフィニのリミットゲージが上がったのだ・・・
「ア、アルフェシオンが・・・」
それは、アルフェシオンがシャイニング・スターと融合した事を示している・・・と同時に・・・それは、レイ・桜葉の死を意味する・・・
彼は誰にも看取られずにその呪われた生涯を終えたのだ・・・
(レイ・・・)
ミルフィーユは自分と共有していた兄の魂の繋がりが途絶えた事で兄の死を知らされた・・・
「お、お兄ちゃん・・・う、うわあああーーーん!!」
彼女は泣き続け、俺はその震える肩を抱きしめて鎮めるので精一杯だった・・・
レイ・桜葉・・・
ヘパイストスにて戦死・・・
しかし、戦いはまだ、終わらない・・・
四人目の体現者が残っている・・・
それは、最後にして最強の体現者・・・
奇跡、完全、混沌・・・
それらを上回る勝利に限りなく近い体現者・・・
その答えは
“絶対”
そして、それを体現できる者はただ一人・・・それは・・・
“絶対者”
それは、アルフェシオンの名に隠されていたアルファベット・・・
ALFESHI0N
SHE
FINAL
0
さぁ、時が来たわ・・・
貴方は誰・・・?
私は貴方達が因果律と呼ぶ者よ・・・
因果律!?お、お前が全て・・・
そして、貴様達が元凶と呼んでいる者だ・・・
げ、元凶・・・
フェイト・・・俺の“名前”をお前は知っている筈だ・・・
そして、あなたも私の名前を知っている筈よ?カズヤ・・・
ア、アキト・・・
エ、エクレア・・・
桜葉・・・
ようやく、私の名前を呼んでくれたわね・・・
さぁ・・・始めましょう・・・最後の戦いを・・・
そして、終わらせましょう・・・“私の戦争”を・・・
そして、再び始めよう・・・俺の復讐劇をなぁ・・・