逆襲の堕天使

 

ANOTHER OF ANGEL

 

〜小さなプライド〜

 

俺がアイツと初めて出会ったのは俺が小学5年生の時だった・・・

 

そうそう、言い忘れていたが俺の住んでいたのは山の中で、現在もコンビニすら存在しない程のド田舎だ・・・本屋もゲームショップすらない・・・

 

それ故に、外で遊ぶ事が多かった・・・鬼ごっこやかくれんぼ・・・それにサッカーなど・・・

 

話が少し逸れてしまったけど、学校も一クラス20人にも満たない小規模な学校だった・・・都会の学校はどうかは知らないが、俺の所は一番喧嘩が強い者、運動神経が良い奴がそのクラスの指導権を握っていた・・・まったく、今になって考えると情けないことだと思うが・・・当時の俺達はそれが普通だと思っていたんだ・・・

 

そして、あいつが引っ越してきたのは俺が小学五年生になった五月のことだった・・・

 

「阿部 健太です・・・」

 

俺達は新しい転校生の挨拶に驚いていた。

 

そして、男子と女子の反応は対照的だった。

 

男子達は標準語・・・そして、いけ好かないすかした野郎だと思い・・・女子達はその整った顔にこそこそと噂をする始末・・・

 

結論から言うと男子からは好かれない・・・無論、全員が全員というわけではないのだが・・・

 

この阿部健太という男は本当に凄かった。

 

成績はダントツの一位、そして、その運動神経もお墨付きときたもんだ。おまけに格好良いときたもんだ。

 

正直に言うと俺の立場が危うかったんだ・・・

 

だから、頭の悪かった俺はそいつと白黒をつけることにした。というよりか、ただ気に入らなかったからだ・・・

 

「何だよ・・・」

 

鬱陶しいそうにため息をついていたあいつの印象は今でも俺の脳裏に焼き付いている。

 

五時間目が始まる前に俺は健太と学校近くにある廃墟と化している住宅街へ呼びつけた。

 

俺は何も言わずにあいつに殴りかかった。

 

無論、あいつも黙って殴られる程、間抜けではない。

 

逃がさない為に掴みかかろうとした俺の右手をアイツは難なく、掴みとって逆に俺の関節を決めようとしてきたのだ。

 

信じられるだろうか?健太はまだ、小学五年生なのだ。

 

そう、この健太ほど天才と呼ばれるに値する少年は滅多にいないだろう・・・それは、今でも断言できる・・・

 

しかし、俺の家系も上品な者など皆無に等しい・・・

 

健太が“柔”で来るのなら俺は剛でその柔を叩き潰すだけだ。

 

もっぱら、この時の俺は“剛や柔”など知らなかったが・・・

 

俺は最初は健太は打たれ強くは無いだろうと、タカをくくっていた・・・正直に言うと舐めて掛っていた。

 

戦い・・・いや、喧嘩の決着はすぐにカタがついた・・・

 

俺は起き上がれなかった・・・

 

そんな、俺を侮蔑した目であいつが見下ろしている。

 

初めてだった・・・

 

痛いというレベルを超えたダメージというものは・・・

 

本当に息が出来なくなる時があるのだ・・・

 

「弱いくせに喧嘩なんか売ってくるんじゃねぇよ。」

 

俺の小さなプライドはズタボロにされてしまった。

 

生贄はだぁ〜れだ?

 

「・・・ありがとう・・・みんな・・・」

 

ここはルクシオールのブリッジ・・・

 

ルクシオールは皇国の最大戦力という事もあり、現在は白き月と共にトランスバール本星宙域に常駐している・・・

 

ルクシオールの艦長タクト・マイヤーズの前にはエンジェル隊のメンバーが勢ぞろいしていた。

 

「まったく、急な話だねぇ・・・」

 

「悪い・・・フォルテ・・・」

 

「なぁに・・・どうせ、模擬ばかりで飽き飽きしてたところだから、気にする事はないよ。」

 

「それに、EDENとNEUEが無くなれば、わたくしも商売どころではなくなる事ですし・・・」

 

「ったく・・・あんたは相変わらずだな・・・ま、確かに宝探しが出来なくなるのは勘弁してほしいしな。」

 

(アニスさん・・・ありがとう・・・)

 

他の天使達もタクトを励ます・・・

 

「本当にありがとう・・・みんな・・・」

 

ブリッジの中は暖かい空気で満ちていた。

 

ふん・・・また、友情ごっこかよ・・・

 

いい加減に見飽きたんだよ・・・

 

都合の良い時だけわかり合った気になりやがって・・・

 

相変わらずムシの良い展開だな・・・

 

気にいらねぇ・・・

 

ぶっ壊してやる・・・!

 

木っ端微塵にぶっ壊してやる・・・

 

何もかもなぁっ!!

 

ブリッジにアラームが鳴り響く。

 

レーダが未確認物体・・・つまりは敵機を確認したのだ。

 

「マイヤーズ司令!敵機の反応をキャッチしました!多いです!現在確認できてるだけでも3000隻はいます!」

 

「来たか!・・・みんな、突然で悪いけど出撃だ!」

 

『了解!』

 

天使達は各々の紋章機へと乗り込んだ。

 

 

 

トランスバールの宙域を見た事も無い戦艦が占領している。

 

その総数は現在確認されているだけでも約5万隻・・・

 

「こやつ等が外宇宙か・・・」

 

「はい・・・独自の文化を追求していったわりには地味に見えますが、その性能は間違いなくこちらより上と見ていいでしょう・・・」

 

「それはまことなのか・・・?」

 

「はい・・・過去の奴等の戦闘データーより計算したところこちらの火力とあちらの火力の差は倍近くとあります・・・ですから、ここは小回りの利く紋章機と壁役の無人機を配置しておきました・・・」

 

「・・・ちなみに、残りの兵力は各基地内に白兵戦を想定して待機させてあるぜ・・奴等は本気でこちらを滅ぼす気でくるんだからな・・・まぁ、自然界じゃ当たり前の生存を賭けた戦いって訳だ。」

 

ロキは手にグローブをつけながら淡々と述べた。

 

「生存を賭けた・・・」

 

「ああ・・・それが“戦争”ってやつだ・・・やる事は今までと変わらねぇよ・・・」

 

ロキは腕をパシンと打ち合わせて続けた。

 

「殺される前に殺すしかねぇだろ・・・」

 

「こ、殺す・・・」

 

「・・・ったりめぇだろうが・・・忘れたか?この戦いは向こうから仕掛けてきたんだ・・・黙っていても殺されるだけだぜ。」

 

 

「見た目は普通の巡洋艦にしか見えないが、連中はあのアルフェシオンへの対抗策を念入りに用意していた・・・したがって、今回も何らかしらの切り札を用意していると思う・・・」

 

皇国軍の先頭にはタクトのシャイニング・スター・・・

 

「しかし、この戦いはEDENの命運ばかりかNEUEの命運を握もっている・・・だから、決して負けるわけにはいかない・・・したがって、敵機は全機掃討する!いいなっ!」

 

『了解!』

 

戦いを仕掛け始めたのは同時だった・・・

 

そして、連中の切り札が明らかになったのも同時だった。

 

戦艦から、いくつもの光る物が出撃してきた・・・

 

「あ!あれは!?」

 

俺は信じられなかった・・・

 

それは、他の者も同じだろう・・・

 

「ひ、人・・・!?」

 

彼等は仕掛けてきた・・・

 

その背中に生やした翼を輝かせながら・・・・この宙域を自由自在に駆け回る・・・

 

「天使・・・」

 

司令室にいた者達もどよめきを隠せないでいた・・・

 

「な、生身のまま戦いに出るというのか!?」

 

「・・・独自の進化を遂げた外宇宙か・・・まさか・・・その身体そのものを進化させていたか・・・おそらくはミカエルと同様にエーテル体と見るべきだろうな。」

 

奴等はその改造された片腕からレーザーキャノンを発射してくる。

 

「動かなきゃやられるぞ!」

 

闇の天使達に躊躇していた天使がタクトの叱咤で集中力を取り戻した。

 

「・・・ッ!」

 

俺はエクスカリバーで天使を両断していく。

 

「・・・・・・」

 

後方のミルフィーユが辛そうに目を瞑る・・・

 

でも、仕掛けてくる以上・・・やるしかない・・・

 

それが、殺し合いというものだ・・・

 

戦争という名の殺し合いだ。

 

「素早い・・・!」

 

僕は的確にフライヤーで天使を撃墜していく。

 

「・・・これは、戦争なんですよね・・・」

 

リコの気持ちが痛いほどに伝わってくる・・・

 

だからこそ、僕は心を鬼にしなければならない。

 

僕がやらなきゃ・・・僕がやらなければいけないんだ!

 

「・・・・・」

 

カズヤは瞬時に数十にものぼるプログラムを立ち上げて、敵を殲滅せよとフライヤ−に指示を出す。

 

「当たれぇーーーっ!」

 

レイの操るフライヤーの如くカズヤのフライヤー達は洗練された動きで敵を殲滅していく・・・

 

「・・・!」

 

ヒュドッ!

 

天使の放った光の矢が敵戦艦の動力部を貫通し、その矢は止まる事を知らずに後続の戦艦も爆散させて次々と誘爆を引き起こしていく。

 

「こういう時こそ、俺の出番だぜっ!」

 

アニスは味方機のいないエリアまで敵機をおびき寄せる。

 

「いくぜ・・・真・ジェノサイドボンバァァァーーー!!」

 

レリックレイダーが発射した小型の爆弾の正体はミニチュアサイズの反物質弾・・・

 

半径7キロメートルという広範囲の宙域は灼熱地獄と化し、敵を焼き尽くす。

 

ほう・・・そんなに爆炎的な演出が好きなのか・・・?

 

だったら、とことんまで見せてやるよ・・・

 

お前達がよがり狂う程になぁっ!!

 

「弾幕を絶やすな!奴等をルクシオールに取り付かれればそこで終わりだ!」

 

レスターはルクシオールを守ろうと必死に指示を出す。

 

「未確認物体を十二時の方向に確認!・・・おそらくは敵機かと思われます!」

 

「ちっ!おい、タクト!敵の増援だ!頼む!」

 

「了解!いくよ、ミルフィー!」

 

「はい!」

 

シャイニング・スターは敵を殲滅しながらルクシオールへ進路をとる。

 

 

 

〜魂を司る愛の天使〜

ラファエル

 

「な、何だ・・・あれは・・・」

 

レスターが見たのは光り輝く天使・・・の形をしたもの・・・

 

それは、機械でもなければ肉体でもないもの・・・

 

人知を超えた存在である・・・

 

それは、外宇宙を支配する四大天使・・・

 

「こいつは・・・何だ?」

 

俺は、ルクシオールの前に現れた光の物体を注意深く観察している・・・

 

見た目は何の武器も所持して無いが、相手はあの外宇宙なのだ・・・何らかしらの力を所持しているに違いない・・・

 

「お初にお目にかかる・・・EDENの騎士よ・・・そして、デザイア・・・」

 

「!?」

 

何と、そいつは俺達に語りかけてきた・・・

 

「そして・・・我等の忌むべきフェイトよ・・・」

 

「・・・っ!?」

 

その光の物体は僕達の方を振り向いてきた。

 

「お前は誰だ・・・?」

 

「私は、ラファエル・・・ガブリエルと同格の四大天使と言った方が分かり易いだろう・・・」

 

「四大天使・・・」

 

タクトさんが言っていた敵のボスだ・・・

 

「・・・もはや、互いに多くは語るまい・・・ルシラフェルがいない今こそが我等の勝機となる・・・」

 

「どうして・・・どうして・・・お前達はそうやって、侵略をしてくるんだ!」

 

ブラウド財閥を利用してまで!

 

「・・・?おかしな事を聞く・・・」

 

「何・・・」

 

「そんな事はもはや常識ではないか・・・」

 

「じょ、常識・・・だって!?」

 

「それは、我々HEVENだけに限った事ではなかろう・・・お前達の世界にも侵略という概念が存在する筈だ・・・」

 

「ふざけるな!そんな非常識な考えがあってたまるか!」

 

あ?ふざけてんのはテメェだろうが・・・

 

「弱き者は侵略、略奪を受けて淘汰される・・・それがこの世界の常識だ・・・非常識なのは己を強くしようとすらしない、お前達の方ではないか・・・侵略して、国益を上げようともしないお前達の方が非常識だ・・・」

 

「確かにそうかもねぇ・・・」

 

「フォルテさん!?」

 

「でもね・・・攻められる限り私は最後の最後まで抗うよ!」

 

「ああ・・・大人しく侵略される気は無い・・・攻めて来るものは俺が撃退する・・・」

 

シャイニング・スターの右手にエクスカリバーが現れる。

 

「では、戦闘開始といこう・・・」

 

そういうと、ラファエルからいくつかの光の球体が飛び出していき、それがやがて“戦闘機”の形をとっていく・・・

 

「・・・これがこいつの“武器”か・・・!?」

 

タクト達が見たのはネオ・ヴァル・ファスクのゼックイ達だった・・・エオニアのゼックイとメベトのオリジナルゼックイ・・・

 

「あれはラスト・ジャッジメント!?」

 

「ちっ・・・」

 

ブラウド第一艦隊の旗艦・・・ゼイバー・ブラウドの艦である。

 

ラファエルは人の霊魂を司る天使・・・

 

「さぁ・・・始めよう・・・」

 

敵が動き出した。

 

周囲の天使達と共に・・・

 

「くそっ!こんなものを!!」

 

タクトは再びメベトのゼックイと対峙する。

 

迫り来る巨大なメベトの剣をエクスカリバーで受け止める。

 

「キャーッ!」

 

シャイニング・スターが大きく揺さぶられる。

 

「ミルフィーっ!?こうなったら!」

 

タクトはメベトから距離をとる。

 

「ほう・・・」

 

「シャイニング・・・・・・サアアアァァァーーーーーン!!!!」

 

シャイニング・サン・・・攻撃対象の時間を急激に早め、対象を自然消滅させるタクトの必殺技である。

 

極光の球体が巨大なゼックイを呑みつくし、消滅させる。

 

「エオニアさん・・・」

 

僕は戸惑いを隠せないままフライヤーをエオニアさんのゼックイ目掛けて射出する。

 

「す、凄いです!」

 

カズヤのフライヤーは的確にE.ゼックイを捕らえるが、E.ゼックイは持ち前の重装甲でダメージを削減した。

 

「ふふ・・・さすがはEDENとNEUEの騎士と言ったところだな・・・よくやる・・・」

 

一方、他の天使達は最強の戦艦を相手に苦戦を強いられていた・・・

 

「ち・・・やはりしぶといね・・・」

 

サブリーダーのフォルテは見事な連携攻撃でラストジャッジメントを攻撃するが、外部からの攻撃においては最強の耐久性を誇るラストジャッジメントの前では幼技に等しい・・・

 

そうしてる間にも外宇宙の侵略部隊は刻々と皇居へと近づいていた・・・

 

「チィッ!このままじゃ押されっぱなしだ!」

 

俺はエオニアに手こずっているカズヤの援護に入った。

 

「・・・!?タクトさん!」

 

突如、E.ゼックイに斬りかかるシャイニング・スターの姿が僕の視界に入り込んできた。

 

「カズヤ!リコ!フォルテ達の援護に回ってくれ!君のシールドブレイカーで活路を開くんだ!」

 

「了解!」

 

俺はカズヤを行かせまいとするE.ゼックイの前へはばかり、奴は妨害者である俺にサーベルで攻撃を仕掛けてきた。

 

「エオニア・・・」

 

俺は複雑な心境に陥りながらも剣を抜いた。

 

エクスカリバーとゼックイのサーベルがぶつかる!

 

「くそぉ!どうして今になって!」

 

(タクトさん・・・)

 

 

「カズヤさん!ラスト・ジャッジメントまで後、20000キロです!」

 

「了解!リコ!ドッキングを解除してくれ!」

 

「カズヤさん・・・必ず戻ってきてくださいね・・・」

 

「ああ!」

 

クロスキャリバーからブレイブハートが離れていき、凄まじい速度でラスト・ジャッジメントへと向かっていく。

 

「あ・・・カズヤなのだ!」

 

最初に気が付いたのはナノナノだった。

 

「何だって!あ、あいつ何をする気なんだ!?」

 

アニスが苛立だしげにスクリーンを眺めているとクロスキャリバーから割り込み通信が入ってきた。

 

「皆さん!カズヤさんがラスト・ジャッジメントのシールドを一瞬だけ無効化させます!」

 

「おい!いくらなんでも急すぎるだろう!!」

 

そう言いながらもアニスはトリガーに指をかけてその瞬間を待つ。

 

「ふふ・・・カズヤ・・・いい男になったね・・・さぁ、あたし達を導いておくれ・・・!」

 

ハッピートリガーの砲身がラスト・ジャッジメントに照準を合わせる・・・ファイナル・バースト(尽きる事の無い弾幕)の発射態勢をとったのだ。

 

 

ラスト・ジャッジメントの砲身がこちらに集中したのが見えた。

 

「くっ・・・」

 

しかし、僕は立ち止まる訳にはいかなかった・・・

 

「ウオオオォォォーーー!」

 

僕は、迫り来る幾筋ものレーザーとシャワーのようなミサイルの群れの中へと敢て飛び込んでいく。

 

「カズヤさん!危ない!!」

 

無論、無鉄砲に飛び込んだわけではない・・・

 

「見えた・・・そこだぁ!」

 

僕は弾幕の隙間へとブレイブハートを滑らせる!

 

唯一のライン・・・

 

おそらく、レイさんならこうした筈だ・・・

 

そして、やがてブレイブハートのシールドブレイカーがラスト・ジャッジメントのフィールドを打ち破ったのは言うまでも無い・・・

 

「みんな!今だ!」

 

エンジェル達はラスト・ジャッジメントに総攻撃をかけた!

 

 

「く・・・でぇやぁ!!」

 

エクスカリバーがE.ゼックイを真っ二つにした。

 

E.ゼックイはまるで安らいだかの如く仕草で爆散していった・・・

 

「・・・・・・見事・・・では、メインといこう・・・」

 

次の瞬間、タクトの目の前に二機の戦闘機が現われた。

 

「な!?ラスト・リヴェンジャーが二つ!?」

 

「そう・・・一つはルシラフェルがラグナロクで完全に消滅させたもの・・・もう一つはお前達が消滅させたものだ・・・」

 

「ラファエル・・・・・・」

 

俺は怒りで張り裂けそうになる胸を押さえつけて光り輝く天使を見据える・・・

 

「こんなに頭にきたのは久しぶりだよ・・・」

 

「それこそ、私が望む現状だ・・・」

 

二機のラスト・リヴェンジャーが一斉に襲い掛かってきた!

 

ラスト・リヴェンジャーの性能の高さは嫌という程に思い知らされている・・・

 

「来ます!」

 

迷っている暇など無い・・・ここは、回避に専念して勝機を見出すのがベストだろう。

 

俺は、襲いかかってくる2匹の化け物を的確に回避していく・・・

 

 

「馬鹿!カズヤさんの馬鹿ぁ!」

 

リコが半泣きで僕を馬鹿馬鹿と連呼している。

 

「ゴメンゴメン・・・」

 

「ゴメンなんかですまないです!私がどれだけ心配したと思ってるんですか!?」

 

リコがここまで怒ってるのは先程、僕がラスト・ジャッジメントに無理矢理、突撃をかけたからだ。

 

「大丈夫・・・リコを残して死にはしないさ・・・」

 

「大丈夫なんかじゃないです!さっきは回避ができたからいいものの・・・もし、当たっていたらどうなっていたと思ってるんですか!?」

 

「そ、それは・・・」

 

弾幕の隙間が見えたから・・・なんて言っても、おそらくはリコの機嫌を損ねることにしかならないような気がする・・・

 

「ごめん・・・気をつける・・・」

 

「・・・・・・約束してください・・・もう無茶はしないって・・・」

 

「うん・・・約束する・・・ゴメンね・・・リコ・・・」

 

 

ラスト・リヴェンジャーのデスクローを回避しながらも、俺はただひたすら勝機を窺う・・・

 

「きゃっ!?」

 

シャイニング・スターの急な軌道修正に機体が揺すられる・・・ミルフィーには悪いが、今の俺にはそこまでの余裕がない・・・

 

ラスト・リヴェンジャー・・・紋章機の聖なるイメージを完全に覆す程の禍々しい機体・・・

その性能の高さは十二分にシャイニング・スターに匹敵する・・・

 

その正体は神皇・・・カルマがこの現世に降臨する為の“ボディ”である・・・

 

「くそっ!こんなものをっ!!」

 

互いの命を奪おうと交差するエクスカリバーとデスクロー!

 

そして、背後から感じる二人目の最後の復讐者の牙・・・

 

「なめるな!」

 

俺はそのまま右足にクラウ・ソラス(ビームサーベル)発生させサマーソルトを描きながら背後の復讐鬼に斬りかかる。

 

ラスト・リヴェンジャーの右半身に斬り込みが入る・・・

 

しかし、それだけのダメージでこの不死身の復讐鬼が倒れる訳がない・・・

 

このラスト・リヴェンジャーの最大の特徴はその耐久性能の高さにある。

 

オオオ・・・!

 

おぞましい呻き声を上げ不吉な黄金色のオーラを発するラスト・リヴェンジャー・・・

 

「タ、タクトさん・・・」

 

「ああ・・・」

 

“禁断の呪い(リベンジ)”を仕掛けてくるつもりか・・・

 

リベンジ・・・受けたダメージを因果を捻じ曲げ問答無用で倍返しする最凶のカウンターだ・・・

 

(タクト・・・あなたは死なせない・・・)

 

その時だった・・・

 

「ドライブアウト反応!?」

 

ドライブアウトしてきた戦闘機は未来からの使者だった。

 

その黄金の戦闘機は俺の正面のラスト・リヴェンジャーにサーベルで斬りかかる!

 

「・・・っ!」

 

黄金の紋章機はラスト・リヴェンジャーの反撃を回避して、シャイニング・スターの近くまできた。

 

「シリウス・・・」

 

「・・・ったく、その程度でミルフィーを守れると思っているのか・・・」

 

「・・・返す言葉もない・・・」

 

俺は全くその通りだと思い少しおかしかった。

 

「シリウス君、ありがとう。」

 

「・・・れ、礼を言われる程のことじゃないさ・・・」

 

「はは・・・素直じゃないなぁ・・・」

 

「うるせぇ・・・!」

 

「はいはい・・・落ち着いて・・・それで、タクトの方は大丈夫?」

 

「ああ、俺もミルフィーも無傷だよ。ありがとう・・・エクレア・・・助かった。」

 

「そう・・・ならば、目の前の敵を排除するわね。」

 

エクレアはその内に秘められた膨大な魔力を慎重に解放し始める・・・

 

「タクトが皆を守るのなら、タクトは私が守るわ・・・」

 

「・・・・・・」

 

ラファエルはオーラを発する黄金の紋章機を眩しげに見る。

 

「・・・消え去りなさい・・・目障りよ・・・」

 

エクレアがその魔力を解放した瞬間にラスト・リヴェンジャーは塵と化し跡形もなく消え去った・・・

 

「す、凄いです・・・」

 

「・・・・・・」

 

ミルフィーだけじゃない、俺もその圧倒的な威力に驚いていた。

 

何せ、あのラスト・リヴェンジャーを一瞬で消し去ったのだ。

 

「期待を裏切って悪いけど、私はラファエルの“仕掛け”を解除しただけに過ぎないわ・・・」

 

「え・・・仕掛けって・・・?」

 

「アレが呼び出しているのはこの上なく似ている偽者よ・・・」

 

「ほう・・・」

 

「アレは“魂”を司る者よ・・・本来はその魂を自分の魔力に換え自身で戦う天使よ・・・そうでなければ四大天使に選ばれる訳がない・・・様子見はここまでにしたらどう?」

 

「ほう・・・よくぞ見抜いた・・・と言いたいがこちらとしてもいち早く気付いてもらいたかったのが本音だがな・・・」

 

光の物体がやがて翼を生やした人の姿をとる・・・

 

目測だが、身長 162センチ・・・と言ったところだろうか・・・

 

その姿は女性そのものだった。

 

「女・・・!?」

 

「ふ・・・相変わらず“形”にこだわる・・・だからこそ、滅びの道を恐れながらもその道へと突き進むのだ。」

 

「滅びの道へなど俺が歩ませるものか!」

 

「滅びの道を歩んでいる者は大抵が同じ事を言う・・・既に自分が滅びの道を歩んでいる事にも気付かずに・・・」

 

「ラファエル・・・“その道は幾らでも変えられるのよ”」

 

「ほう・・・“運命に抗えなかったそなた”がそのような事を言うとはな・・・」

 

Fate of Cherry Leaf

 

「ええ、“確かに運命には抗えない”わ・・・でも“道”は違うわよ・・・特にこの世界では・・・タクトが勝ち取ったこの世界ではね・・・」

 

「何が言いたい?」

 

「運命とは諦めた者が辿るもの・・・“道”とは諦めない者が進んでいく道よ・・・」

 

「・・・語るに堕ちたなエクレア・・・運命に抗えない者は確固として存在する・・・お前もその一人ではないか・・・」

 

「いいえ、諦めなかったこそ今の私がここにいるの・・・」

 

「ふ・・・ものは言い様とはまさにこの事だな・・・」

 

「別に貴方に理解されよう等とは思わないわ・・・」

 

この世界には分かり合えない者が確固として存在する・・・

 

例えば、正義感が極端に強い者はいい加減な者が許せない・・・そして、その者はそのいい加減な者を論そうとするだろう・・・そして、それが理解されない時にその者は怒りの感情を持つ・・・

 

そして、いい加減な者は自分の考えを押し付けてくる者に反感を抱く・・・鬱陶しい奴だと思い・・・

 

「それには同感だ・・・ならば・・・いこうか・・・」

 

ラファエルの右手に大振りの斧が現れる・・・

 

「斧・・・いえ、擬態させてあるだけね・・・」

 

「・・・あれは厄介な代物なのか?」

 

「いいえ・・・あの斧事態はラファエルの魔力で精製されてあるだけの代物よ・・・問題はそこじゃないわ・・・」

 

「どういう事なんだ?」

 

「わざわざ、高純度の魔力をあんな無駄な物の精製に使用してるのがこの上なく不気味なのよ。」

 

ラファエルは斧を杖のように扱い魔方陣らしきものを描がき始める・・・

 

「・・・?」

 

「相手が因果律とあの死神打ち破った者相手なら、相手にとって不足は無い・・・では、こちらから仕掛けさせてもらおう・・・」

 

次の瞬間、ラファエルの描いた魔法陣が姿を隠したまま膨らんでいき、それがやがて一つの神獣へと姿を変えた。

 

「ド、ドラゴン・・・?」

 

絵本などで見たのとは違う頭の大きな歪なドラゴンが姿を現す・・・

 

「これは我等HEAVENに伝わる最強の神獣“ゲノム”・・・」

 

「ゲ、ゲノム・・・?」

 

「私がそう命名しているだけで名前など無い・・・そもそも名前など些細な事だ・・・」

 

そういうとラファエルはゲノムの首にまたがり、手にした斧を振りかざす・・・

 

オオオ・・・・・・

 

低い唸り声を一瞬だけあげてその禍々しく大きな翼を羽ばたかせて動き出した。

 

「ラファエル・・・その正体は召喚士か・・・」

 

「・・・そうかしら・・・相手はそんな単純な敵じゃないわ・・・何かを仕掛けてくるわよ・・・」

 

「・・・・・・何かって?」

 

「おそらくは・・・こちらに対する間接的な干渉よ・・・」

 

「・・・来るぞ!」

 

「・・・っ!」

 

迫り来る巨大なドラゴンに対して俺とシリウス二手に分かれる。

 

さぁ、どちらが標的だ・・・化け物・・・

 

「ふ・・・二手に分かれても同じ事・・・」

 

ラファエルの持っていた斧が怪しい光を発する・・・

 

次の瞬間、目の前の化け物が何とオリジンへと化けた。

 

次の瞬間、目の前の化け物がシャイニング・スターへと化けた。

 

「な、何だ!?あのドラゴンは何処へ行ったんだ!?っていうか、何でお前達が攻撃を仕掛けてくるんだよ!?」

 

「この程度?ふざけないで・・・貴方共々消え去りなさい・・・」

 

エクレアは“タネ”に心当たりがあったらしく、そのタネを解除しにかかる・・・

 

因果に介入しての消去・・・

 

これぞ、エクレアの持つ恐るべき力・・・

 

かかったな・・・因果律・・・

 

我等がお前達に対する策を何も用意していないとでも思っていた訳では無いだろうと思い、ここまで手の込んだトリックを仕掛けたのだ・・・

 

斧に擬態していた何かがエクレアの因果への介入コードを読み取る・・・

 

「・・・・・・?」

 

エクレアは首をかしげる・・・そして、ため息をつきながら何かを悟ったようにほくそえんだ・・・

 

確かに、ラファエルが仕掛けた幻術はかき消せた・・・

 

しかし、ラファエルとゲノムは何事も無かったかのようにそこに存在していた・・・

 

「因果律よ・・・元々、お前は偽りの因果律にしか過ぎぬ・・・故に介入できる事にも制限がある・・・それは、自分と“もう一人の因果律”しか知らぬとでも思っていたか?」

 

「そう・・・やはりとは思っていたけど、“彼”はやはり、あなた達と“グル”だったという事なのね・・・」

 

「・・・?どういう事だ・・・?」

 

「どうという事では無い・・・ただ単にお前達の中に味方を演じている“道化”がいるというだけのことだ・・・」

 

「スパイがいたって言うのか・・・!?」

 

馬鹿な・・・カルマの存在が知れ渡ったこの皇国内でまだ、外宇宙に組する者がいるなんて・・・

 

「そんな馬鹿な事が・・・」

 

「信じる信じないのは勝手だが、事実、そこの因果律の偽者の力は消去させてもらった・・・この“アクセスリーダー”によって・・・そして、このおもちゃを提供したのは紛れもなくもう一人の因果律だ・・」

 

「・・・・・・そう、確かに彼になら可能なことね・・・相変わらず、性根が捻じ曲がった男ね・・・」

 

「それには同感だ・・・アレは決して我等の味方などではない・・・アレは誰にも属さぬ故にな・・・」

 

「でしょうね・・・」

 

「さて・・・ではそろそろ、ゲノムの出番といこうか・・・」

 

ゲノムの顎(あぎと)が大きく開かれ、そこにはヘキサグラム(蓄電池)の魔方陣が描かれる・・・

 

「・・・まさかっ!?」

 

もし、ゲノムが巨大なエネルギー砲を放とうものなら、星のひとつは消滅してしまうだろう・・・

 

「やらせません!」

 

ミルフィーが即座にハイパーキャノンの発射準備にうつる・・・

 

「まさか・・・そんな単純なことはしないさ・・・」

 

さぁ、見せてやるが良い・・・

 

うぬが最強の神獣と呼ばれる所以(ゆえん)を・・・

 

「バーンって、いきます!ハイパーキャノンッ!!」

 

桜色の巨大なビームキャノンがゲノム目掛けて突進する!

 

しかし、ゲノムは憮然としたままヘキサグラムを展開したまま動かない!?

 

「・・・まさか、受けきる気かっ!?」

 

そして、ハイパーキャノンが直撃するかと思った瞬間・・・

 

俺はこの化け物が本物の化け物だという事を思い知らされた。

 

直撃するかと思われたハイパーキャノンはこの化け物の直前で吸収されるかのように消滅してしまったのだ・・・

 

「えぇ!?」

 

「エネルギーを吸収した!?」

 

「ご名答だ・・・このゲノムの守りは我々の中でも最強だ・・・こいつは喋りはしないもののその知識はまさに人知を超えた超越者だ・・・」

 

超越者・・・オーバーロード

 

すなわち、神・・・

 

「そして、吸収したエネルギーはただ倍返しにするのではなく、己の養分とする・・・さぁ・・・ゲノムよ・・・お前の真の力・・・存分に見せてやるがいい・・・」

 

ゲノムの背中に神々しい翼が四枚生える・・・

 

そして、ゲノムの周りに幾つも光球が現れた・・・

 

「ようやく、こいつを使う時がきたな・・・」

 

ラファエルは手にした大振りの斧でその光球の一つを断ち切った・・・次の瞬間・・・

 

ぎゃああああぁあぁーーー!!!

 

ロキ達がいた司令室の中の女性オペレーターが凄まじい悲鳴をあげてこときれた。

 

「・・・・・・」

 

慌しくなる司令室・・・その中でロキだけは何故か平然としていた。

 

「・・・タクト!司令室のオペレーターが一人やられた!一体、何があったんだ!?」

 

血相をかえたシヴァ様・・・

 

「何があったのか・・・いや、あいつが何をしたのかは大体、想像がつきます・・・おそらくはあの光球は人の魂なのでしょう・・・」

 

「た、魂だと・・・!?」

 

「ご名答・・・これが“私の武器”だ・・・」

 

「武器・・・」

 

「ゲノムは混沌へアクセスして生き物の魂の元となる霊気を現世へと呼び出す・・・」

 

ラファエル・・・愛と魂を司る天使・・・

 

「そして、この“ソウル・オーブ”がそれを対象の魂を“複製”する・・・後は、それを“ソウル・カッター”で断ち切るだけのこと・・・」

 

ソウル・カッター・・・死神の鎌・・・

 

だけの事・・・?

 

「・・・・・・・・・」

 

「ひどい・・・こんなの酷すぎる・・・」

 

ミルフィーが泣いてる・・・

 

「酷い?・・・確かに“生”を司ってきたお前からすればそう見えるか・・・しかし、私からすればの一人を殲滅したに過ぎない・・・」

 

敵の殲滅・・・

 

ああ、そうだな・・・

 

「・・・・・・」

 

「タクトさん・・・っ!?」

 

私はタクトさんの顔を見て凍りついた・・・

 

タクトさんのこんなに怖い目を見たのは初めて・・・

 

・・・タクトさんが怒っている・・・

 

「ラファエル・・・敵の殲滅と言ったな・・・?」

 

「何か違うことを言ったか?」

 

「いや・・・それで正解だよ・・・」

 

 

「な、何・・・?」

 

「リコ・・・見える?シャイニング・スターのオーラが・・・」

 

「は、はい・・・シャイニング・スターが怒ってます・・・」

 

シャイニング・スターから白銀のオーラが乱雑に吹き荒れる・・・

 

RAGE

 

「シャ、シャイニング・スター!?」

 

どうしたんだろう!?

 

インフィニのリミッターゲージはとうに振り切れているのに・・・

 

出力は一向に止まらない!

 

「タクトさん!」

 

「大丈夫・・・俺は冷静だよ・・・」

 

冷静だからこそ、目の前の“敵”をいかにはやく“始末”するかを考える事ができた・・・

 

答えは簡単だ・・・

 

あの目障りなトカゲごと真っ二つにすればいい・・・

 

こい・・・スレイヤー・オブ・デステニー

 

シャイニング・スターの右手に虹色の剣が現れる・・・

 

「あ、あれ?」

 

どうして?私、何もしてないのに・・・

 

スレイヤー・オブ・デステニーは本来、ルシファーとルシラフェルがこの世に呼び出す奇跡の剣・・・

 

つまり、ルシファーとルシラフェルが因果律にアクセスして呼び出すものなのだ・・・

 

ならば、何故、タクトは呼び出せたのか?

 

もはや、これは“奇跡ではなく矛盾”である。

 

「タクト・・・」

 

「フン・・・相変わらず、常識外なやつだな・・・」

 

「・・・・・・」

 

俺は余計な事は喋らずに剣を振る。

 

ラファエルは最初からこうなる事を知っていた。

 

スレイヤー・オブ・デステニーはHEAVEN最強の防御力をもつゲノムをいとも簡単に真っ二つにした。

 

「ちっ・・・」

 

ラファエルはその身軽さを活かして間一髪で回避していた。

 

「・・・さすがは運命の切り手と言ったところか・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

「くっ・・!?」

 

懐に潜り込んで来た天使をフライヤーで撃墜する。

 

「カズヤさん、右からも!」

 

「ああ!」

 

リコの言葉を聞くまでもなく、僕はフライヤーを射出し、敵を撃破した。

 

「やるね、カズヤ・・・しかし、状況はこちらが押され気味だよ・・・!」

 

フォルテは戦艦を薙ぎ払うように撃墜しながら現状を述べた。

 

「く・・・」

 

 

「運命の切り手・・・アトロポス・・・」

 

ラファエルは手にした斧を持て余すように回しながらその名前を確かめるように呟いた。

 

「そろそろいいだろう・・・」

 

ラファエルが持っていた斧が杖へと姿を変えた・・・

 

「・・・それがお前の武器の正体か?」

 

「いかにも・・・死神により失われた我等が神木である命の木より作られし、セフィロト・・・

その雫を凝縮し精製されたのがこの水晶・・・

そして、それを包み込むように命の木の枝が杖という形をかたどったのだ・・・」

 

「あ、そう・・・」

 

「ふ・・・もはや、私と口を利くのも嫌だと見えるな・・・尋ねてきたのはそちらだろう?」

 

「確かにな・・・しかし、今から始末する相手の武器を知ったところで意味が無いと気付いただけさ・・・」

 

「言ってくれるな・・・」

 

ラファエルが手にした杖をかざした瞬間、巨大なブラックホールが形成され、周囲のものを飲み込み始める・・・

 

「・・・っ!」

 

同時にタクトも手にした剣を振るっていた。

 

奇跡の剣は発生したブラックホールの因果そのものを見事に切り裂いた。

 

絶対に切れる筈が無いものを

 

斬ってこその奇跡の剣である・・・

 

因果と運命は表裏一体のもの・・・

 

つまり、スレイヤー・オブ・デステニーこそ・・・

 

因果律を斬る事ができる唯一の剣であり・・・

 

人が神を超える手段でもある・・・

 

「・・・反則的な武器だな・・・まさか、因果そのものを断ち切るとは・・・なるほど・・・それならあの死神を倒せた事にも頷ける・・・」

 

「・・・他に言う事が無いのならもう終わりにするぞ・・・」

 

タクトは構える・・・

 

「なめてもらっては困る・・・」

 

ラファエルの体の周りに何処かで見覚えのある体のパーツが集まり、それがフルメイルをかたちどるようにラファエルの妖艶な体を包み込む・・・

 

「・・・それが、お前の本気か?」

 

そして、その背中には四大天使の象徴たる大きな光の翼と頭上にはHALO(ヘイロウ)が現れた。

 

「いかにも・・・これはゲノムの魂を呼び出し形成したもの・・・しかし、お前に説明はもはやいるまい?」

 

「ああ・・・!」

 

タクトは言うが早いかラファエルに斬りかかる!

 

「・・・ふ」

 

次の瞬間、ラファエルが姿を消した・・・いや、消えたかとの錯覚を覚える程の速さでシャイニング・スターの背後へ回り込んでいた。

 

「思い知るがいい・・・」

 

ラファエルの杖に高出力の重力弾が形成され、それがシャイニング・スターへ向けて放たれる!

 

「ちぃっ!」

 

タクトがその重力弾を真っ二つにしたのと同時にラファエルは本命の魔法を詠唱し終えていた。

 

“ホッド・ブリアー”・・・」

 

ホッド・・・それはラファエルが支配する創造の世界・・・

 

ラファエルは魂や概念等の“形無きもの”“形有るもの”として具現化する事ができる・・・

 

「さぁ、見るがいい・・・私の剣を・・・」

 

ラファエルの右手に握られたのは燃え盛る炎の剣・・・

 

「我等、四大天使は各々が象徴たる“剣”を持っている・・・」

 

「御託はいいよ・・・」

 

「だな・・・!」

 

ラファエルは己の何倍かはあろうシャイニング・スターへと恐れずに斬りかかる!

 

「・・・っ!」

 

ホッド・ブリアーを具現化させた燃え盛る剣は陽炎を起こし、タクトの視界を妨害する。

 

「チッ!?」

 

タクトは後方へ下がりラファエルの薙ぎ払いを回避する。

 

薙ぎ払われた剣の軌跡には残火がほとばしる・・・

 

加えて、相手は人間と同じ面積しか持たない・・・

 

故にスレイヤー・オブ・デステニーを直撃させるのは至難の業である。

 

ラファエルは距離を離さずに2撃目のけさ斬りを放つ!

 

「やらせるか!」

 

タクトはそれを己の剣で受け止める!

 

「隙が多いな・・・こんな相手に負けるとは・・・」

 

ラファエルは距離を離さずに重力弾(グラビティ・ショット)を5連発でシャイニング・スターに撃ち込んだ!

 

「・・・くっ!?」

 

回避に失敗したシャイニング・スターのコックピットに三つ目の重力弾がヒットした。

 

「うわぁぁっ!?」

 

「きゃーーー!?」

 

「あの死神も地に堕ちたとしか言い様がない・・・!」

 

バランスを崩したシャイニング・スターにここは勝機とばかりにラファエルが斬りかかる!

 

そして、その剣を受けに割り込んだのはシリウス・・・

 

「・・・っ!?」

 

「誰か忘れてるんじゃねぇのか?」

 

「ええ、不愉快ね・・・」

 

「・・・確かに・・・な!」

 

そう言うとラファエルはオリジンに向けて右手をかざす。

 

次の瞬間、オリジン周辺の空間が捻じれ出す!

 

それはまさに空間圧縮・・・

 

かの死神のヘル・バイスに酷似した攻撃だった。

 

「馬鹿ね・・・私相手にそんなお粗末な攻撃を使うなんてね・・・」

 

エクレアは即座に空間の捻じれを巻き戻した。

 

「・・・?」

 

「私が、あなた達と“あの男”の企みを知らないとでも思っていたの?その程度の攻撃に対する対策を何も考えてなかったとでも?」

 

「・・・さすがは、“あの男”の教えを受けていたことのだけはあるな・・・因果へのアクセスを行うことなくやりのけるとはな・・・」

 

「これで二対一だ・・・」

 

ラファエルを挟むかのようにシャイニング・スターとオリジンは位置している・・・

 

「・・・ひとつ聞きたい・・・」

 

突如、何を思ったかラファエルは一人で喋り出した。

 

「お前にとって、“正義”とは何だ?」

 

タクトにとって、その質問は何度も聞かされた事だ・・・

 

「・・・俺は正義に従っている訳じゃない・・・」

 

そう・・・ただ、守りたいから・・・

 

“・・・正義とは人間が創り上げた妄想であり、現実に飲まれ欲望の赴くままに邪へと化す自分を抑える為の虚空のプライドにしか過ぎん・・・”

 

「ふ、ふふ・・・やはりそう答えるか・・・」

 

果たして、ラファエルはどちらの“男”に答えたのか・・・

 

「そして、お前はまだこんな“茶番劇”を続ける気なのか?」

 

「茶番劇だと思うのなら勝手に思うがいいさ・・・俺達はそれでも生き続けるんだ・・・」

 

“この茶番劇も今回で終わりだ・・・”

 

「そうか・・・ならば、私は“本来の役目”を果たそう・・・」

 

ラファエルはそう言うと“最後”にシャイニング・スターを見つめて呟いた・・・

 

(タクト・マイヤーズ・・・果たして、お前が“あの男”を超えられるかどうかを見られないのが残念だ・・・)

 

次の瞬間、ラファエルは自分の首をいとも簡単に跳ね飛ばした!

 

「ひっ・・・!」

 

ラファエルの首から鮮血が大量に吹き出る・・・

 

「な、何!?」

 

無重力の中それは無数の小粒へと化し、霧散するように消えていく・・・

 

「チッ・・・」

 

(そう・・・彼女は最初から“カルマへの生贄”って事なのね・・・)

 

そして、ラファエルの亡骸は最後に光り輝きながら消滅していった・・・そして、ラファエルの従者であった天使達も・・・

 

「あ、ああ・・・」

 

くぁぁぁ・・・ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

うっめえええぇえぇぇぇぇ!!!

 

「カルマアアアァァァーーーーーー!!!」

 

激戦を終えた宙域にタクトの咆哮が空しく響く・・・

 

激戦は初めから捧げられていた“生贄”の死によって、終局を迎えた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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