逆襲の堕天使

 

〜ねえ?僕は死ななければならないの?死にたくないのに?ねぇ・・・ねぇねぇ!ねぇってば!どっちか答えろよ!オイ!!!!〜

 

この世の全てを知った時・・・

 

俺はこの世界の全てに嫌悪感を抱いた・・・

 

とどのつまり、俺達は・・・

 

欲望を満たす為に行動しているだけなんだ。

 

では、何の為に欲望を満たす?

 

それが、俺達に植え付けられた本能だからだ。

 

どんな、聖人ぶった者でも、食欲という本能には逆らえないだろう?

 

だからこそ、俺は“神”というものが大嫌いだった・・・

 

いや、俺がこの世界で一番憎んでいるのは間違いなく“神”だ・・・

 

本能などという業を授けた神こそが、最大の罪人なのだ。

 

俺は、この世に生を受けた事に感謝などしていない・・・

 

むしろ、俺に生を授けた者をこの上なく恨み続ける・・・

 

その考えは限りなく健太の思想に酷似している。

 

 

今日も残暑が俺を蝕む・・・

 

太陽よ・・・お前も俺の敵なのか?

 

俺は、今年で23才になる・・・

 

23年間も生きてきたんだ・・・

 

23年間も無意味に過してきた・・・

 

何か、得られたものが会っただろうか・・・?

 

否・・・

 

俺はこのまま、死んでいくのだろう・・・

 

何故なら、この世界は俺を生かそうなどとは考えていないからだ。

 

だからこそ、俺には何もなかったんだ・・・

 

親の顔を知らずに地べたを這いつくばってきた俺には“思い出”すらなかった・・・

 

思い出というものが、記憶と同一だと言うのであれば話は別だが・・・

 

だからこそ、こんな世界をただ憎み続ける・・・

 

それだけが、唯一の楽しみだったんだ。

 

いや・・・孤独で狂いそうになる自分を自分で存続させる為のまじないだったんだ・・・

 

なのに・・・どうして俺は彼女と出会ってしまったのだろうか・・・

 

夜遅いバイトからの帰り道、俺はいつもの道を通らずに路地裏を通った・・・

 

♪〜〜♪〜〜〜

 

・・・歌・・・?

 

俺が最もこの世で鬱陶しかったものだ・・・

 

醜い人間の声など誰が聞きたがる?

 

俺はそう思い、ずっと“歌”を自分の中より隔離してきた。

 

しかし、俺はその歌声から耳を離す事が出来なかった・・・

 

澄み渡る声だったからではない・・・

 

その“女”の歌声はあまりにも枯れ果てていたからだ・・・

 

しかし、俺は何故かその歌声の主を探しへ向かった・・・

 

歌の主はいとも簡単に見つかった・・・

 

その主は一人で歌っていた。

 

そう、誰もいない路地裏で・・・

 

観客が一人もいない場所で彼女は歌っていた。

 

何とも音程のずれた歌声なことだろうか・・・

 

そして、何とも酷い火傷の跡だろうか・・・

 

一言で表現すればそれは紛れも無く醜悪なものだった・・・

 

しかし、俺はその場から離れられなかった・・・

 

ただ、素直にその“歌声”に聞き入っていた・・・

 

「・・・ご静聴ありがとうございました・・・」

 

彼女は俺に向かってお辞儀をすると去っていった・・・

 

家に帰り、眠りについてもその歌声が頭から離れる事は無かった・・・

 

延々と繰り返される耳障りな歌声・・・

 

だと思っていた・・・

 

なのに・・・

 

俺は、その歌が忘れられなかった・・・

 

この世の定理に美しいという概念が存在しているが・・・

 

美しいものだけが人の心を捉えるとは限らない・・・

 

俺は彼女の歌声に“魂”を感じた。

 

お前達にとって、魂とは何だ?

 

世俗的に魂とは人の価値そのものであり、清らかな心を持った者を表現する為の誉め言葉だろう?

 

俺にとって、魂とは嘘偽りなき本能だ。

 

彼女は自分を表現したいのではない

 

ただ、単に歌を歌いたかっただけなのだ。

 

それ故に、俺はその歌に興味をもったのだ。

 

 

何故、そうまでして無様にも歌うのかと・・・

 

 

そして、路地裏へ通い出して約一ヶ月もたとうかという頃に俺は彼女に聞いてみた。

 

「何故、歌うんだ?」

 

彼女は軽くほくそえんで

 

「歌いたいから・・・」

 

と正直に答えた。

 

「なら、どうして、そこまで醜悪な顔と声で歌うんだ?」

 

彼女は何ら気にする事なく、あっさりと答えた。

 

「ただ、歌いたいから・・・それだけ・・・」

 

「・・・あんた、馬鹿だな。」

 

「ええ、そして貴方もね。」

 

・・・そうだな、そんな奴の歌に“惹かれた”俺も、紛れも無い馬鹿だ・・・

 

俺は何か可笑しくなってしまって、笑ってしまった。

 

しかし、次の彼女の一言が場の空気を変えてしまった。

 

「貴方、良い人ね。」

 

良い人?

 

それは、能力が優秀な者の事か?それとも、性格が自分好みの者の事を言ってるのか?

 

「じゃあな・・・」

 

俺は、それだけ言ってその場を後にした。

 

次の日の夜はいつもと違っていた。

 

喧騒に満ちた夜だった・・・

 

いつもの路地裏に立ち寄ると彼女の周りを男連中がぞろぞろと取り囲んでいたのが見えた。

 

しかし、それは歌を聴く為ではなかった・・・

 

「ち、いつも耳障りな声を出しているのはテメェか?」

 

三流の悪役のセリフを吐き出すガキ・・・

 

彼女は無表情だが、彼女は明らかに怯えている・・・

 

俺にとってはテメェの声が耳障りだ・・・

 

そう思った瞬間、俺の体は動いていた。

 

「たかだか、女一人に多勢に無勢で絡むとは男のする事とは思えんな。」

 

「何だ?テメェ・・・」

 

男達の意識が俺に向く・・・

 

ふん、どうやら連中は一人できた俺を好きなように料理できると思ってるのだろう・・・それぞれがにやにやと気色悪い顔をしている・・・

 

「やっちまおうぜ。」

 

男連中は隙だらけの足取りで俺に近づいてくる。

 

スタートは掴みかかろうとした馬鹿へのボディフックだった。

 

事はすぐに方がついた・・・

 

うずくまる連中・・・

 

フン・・・何とも無様な・・・

 

「ありがとう・・・」

 

「いや、いいさ・・・俺はああいう連中が嫌いなんだよ。それより・・・」

 

俺は倒れている連中に目を向ける・・・

 

「何でこうまでして歌う・・・」

 

「それは、あなたになら分かっているのかと思っていたんだけど?」

 

「何・・・?」

 

「私は人に聞いてもらう為ではなく自分が歌いたいから歌うの・・・」

 

「・・・お前、鋭いな・・・」

 

俺は、降参とばかりにため息をついた。

 

それから、俺達の仲は急速に進展していった・・・

 

山を中心に色々なところへ出かけた・・・

 

彼女の色々な事も次々と分かってきた・・・

 

そう・・・ここまでが、俺の楽しい想い出と言えるだろう・・・

 

しかし、神とやらが俺にそんな幸せを与える筈などがなく、運命の日は唐突に訪れた・・・

 

運命の日・・・

 

彼女と知り合って二回目の残暑の日々・・・

 

彼女と40回以上も歩いてきた山・・・

 

「今日も、澄み渡るような青さね・・・」

 

彼女は白いワンピースをもて遊びながら、太陽を見つめる・・・

 

「ああ・・・夏だからな・・・」

 

俺が知った彼女の過去・・・

 

彼女・・・リンは元々、隣国のアイドル歌手だった・・・

 

俺は、知らなかったのだが、隣国では彼女の名を知らぬ者はいないという程の歌手だったそうだ・・・

 

しかし、そんな彼女がこうなってしまった原因は俺の国にあった・・・

 

隣国は自国の核攻撃により、焼け野原と化したのだ。

 

自国と隣国はこの星の中でも一位を争う程の対立の絶えない国であり、四年前の自国の核攻撃によって、今の情勢へと落ち着いているのだ。

 

隣国の崩壊によって、我々の国は繁栄を勝ち取ったのだ・・・

 

彼女の火傷はその時に負ったものらしい・・・

 

彼女が火傷を負う前の写真を見せてもらったのだが、それと比較するとどれほど酷い火傷だったのかが一目で分かる・・・

 

火傷を負う前の彼女はまさに天使だった・・・

 

「ん?どうしたの?」

 

口を閉ざして考え込んでしまった俺を彼女が軽く微笑みながら気遣う・・・

 

彼女の麦わら帽子が眩しい・・・

 

「い、いや・・・」

 

美しいもの・・・

 

今まで、何の興味も持たなかった感情・・・

 

それが、今ではどうだ?

 

彼女の前ではどうだ?

 

俺は・・・彼女の事を・・・

 

「・・・っ!?」

 

それは、一瞬の出来事だった・・・

 

この国が灼熱地獄の炎に見舞われたのは・・・

 

その炎は極光が生み出したもの・・・

 

そして、その“光”は俺から全てを奪い去っていった・・・

 

〜 裁きの天使 ウリエル 〜

 

俺が目を開けるとそこは、既に焼け野原だった・・・

 

「・・・・・・」

 

俺は、一瞬何が起きたのか分からなかった・・・

 

俺の思考回路が復旧した頃に俺は“彼女がどこにもいない”ことに気が付いた。

 

「ーーーっ!!ーーっ!?」

 

俺は自分の声が出ないことに気が付くと同時に喉がもの凄く熱いことに気が付いた・・・

 

本当はもう分かっていた・・・

 

彼女がどこにもいないことを・・・

 

でも、信じたくなかったんだ・・・

 

俺は、半泣きになりながら彼女の姿を探し続けた。

 

しかし、どこにも彼女の姿を見つけることは出来なかった。

 

しかし・・・彼女の遺品を見つけることは出来た・・・

 

爆風で吹き飛ばされた真っ黒な麦わら帽子を・・・

 

焼け野原の中・・・

 

「グオオオオオオオオ・・・!!!」

 

死にかけた男が咆哮をあげる・・・

 

それは、崩れた声紋が奇跡的に出したハーモニーである・・・

 

何故だ!どうして歌う事だけに人生を費やし、一生懸命生きようとした者が死ななければならない!!

 

皆に言っておきたい・・・

 

当たり前の事かもしれないが・・・

 

この世界では生きたいと思っていても・・・

 

死にたくないと思っていても・・・

 

死んでしまう事がある・・・

 

それは、あまりにも常識的で残酷で厳しい・・・

 

人間の宿命である・・・

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

男の眼球が崩れだす・・・

 

しかし、それでも男は得体の知れない強襲者へ向かって怒りの咆哮をあげる・・・

 

それは、この男の一生分の力を使い切って発せられた断末魔の叫びであった・・・

 

そのとき、俺の思考は止まり・・・

 

“俺”の思考が覚醒した・・・

 

何故、争う・・・?

 

生き延びたいから・・・?

 

繁栄の道を歩みたいから・・・?

 

それは、何の為に・・・?

 

それは、欲望がある故に・・・

 

誰だ?などとはもはや問う必要はない・・・

 

何故、欲望が生まれる・・・?

 

それは、神が人に植え付けた“本能”だから・・・

 

何故、本能などを植えつける・・・?

 

それは、人が神に逆らえないように植えつけた“枷”であり、神が本能に弄ばれる人間の無様な様子を見たい為に・・・

 

ならば、どうして、神が存在する・・・?

 

それは、世界が存在するから・・・

 

ならば、何故、世界が存在する・・・?

 

それは、形あるものが存在する為に・・・

 

では、“何故、形あるものが存在する・・・?”

 

それは、自然に生まれたものであり、誰かの意思で生まれたものではない・・・

 

私はそれを“全ての起源”と呼ぶ・・・

 

・・・では、“この星に伝わる因果律”とは何だ?

 

それも、この世界の“作者”が望んだ“創造主”にしか過ぎぬ・・・

 

では、お前は何だ?

 

私は、その作者の一部・・・

 

この世界を望まぬ者だ・・・

 

ならば、お前に問おう・・・

 

形あるものが存在する意味はあるのか?

 

・・・・・・作者にはあるだろう・・・

 

違う・・・“この俺にとって、形あるものが存在する意味はあるのか?”と聞いている・・・

 

・・・・・・ない。

 

だよな?

 

ああ・・・お前にとって、この世界はただの枷でしかない・・・

 

だからこそ・・・必要ない・・・

 

ああ・・・

 

だったら、俺に力をくれないか?

 

どのような力か?

 

決まっている・・・全てを破壊できる力さ・・・

 

・・・それは、何の為に?

 

この世から“憎しみ、喜び、悲しみ、憎しみ、哀しみ”を消す為に・・・

 

・・・消したいのは感情だけか?

 

まさか・・・・・・

 

ほう・・・

 

“形あるものが存在するからこそ、感情が存在する”んだ・・・

 

単刀直入に聞きたい・・・

 

お前は、これから何をしたい?

 

違う・・・したいではない・・・

 

しなければならないんだ・・・

 

・・・そうか・・・

 

俺はこの世界そのものを裁く・・・

 

その一部であるこの俺も含めてな・・・

 

形在るもの全てを無へと帰す・・・

 

それが、俺の使命だ・・・

 

いいだろう・・・お前にはその資格がある・・・

 

思う存分にこの世界を破壊するといい・・・

 

勘違いするな・・・

俺は無意味な破壊活動を楽しむのではない・・・

あくまでも、この世界を“無”へと化すのが俺の使命・・・

 

わかるか?

 

俺は“余分な時間などかけずにこの世界を消滅させる”と言っているんだ・・・

 

彼は“カルマ”とは似て否なる者・・・

 

カルマはその中に巣くう亡者の欲求を満たす為に残酷かつ時間をかけながらその恨みを晴らしてきた・・・

 

それは、まさに復讐鬼の所業である・・・

 

だからこそ、カルマはこの世界をギリギリの段階で存続させてきた・・・

 

しかし、この男の目的は違う・・・

 

彼は己の欲求を満たす為に破壊するのではない・・・

 

純粋にこの世界を消し去りたいが為に破壊する・・・

 

そこに私情は存在せず、ただいかに早くこの世界を消滅させられるかのみ考える・・・

 

それは制裁・・・

 

誰にも属さず、誰にも感化されず・・・

 

我々はそれをパニッシャー(制裁者)と呼ぶ・・・

 

そして、彼の制裁が始まった。

 

 

無慈悲で無駄のない制裁が・・・

 

 

まず、消滅したのは“今回の核攻撃”を行ったリンの国だった・・・

 

隣国のレジスタンス達は彼の国の核攻撃に同じ核で報復攻撃をしたのだ・・・

 

だからこそ、彼は裁いた・・・

 

同じ灼熱地獄の炎を用いて全てを“無”へと帰した・・・

 

彼の制裁の絶対条件は形在るものの存在を“ゼロ”にすることである・・・

 

否・・・形在るものの存在を許さない存在である・・・

 

それは、殺したり、粉砕することでは達成できない・・・

 

死体から出る寄生虫すらも形在るものだと彼は考えている為、全てを焼き尽くそうと考えたのだ。

 

今の彼は、かつて、彼自身が忌み嫌った“太陽”そのものである・・・

 

本来、太陽は生物の生長を手出けするもの・・・

 

それが、人間の認識なのだろうが・・・

 

神に言わせれば太陽は全てを無に帰する為の存在なのだ・・・

 

人の命に限りがあるように・・・

 

星の命にも限りがある・・・

 

人も星も生き物であり、形在るものに他ならない・・・

 

言い換えればそれは“永遠を否定する者”・・・

 

世界の存続を望まぬ者だ・・・

 

彼・・・“ウリエル”は次々と宇宙を消滅させていった・・・

 

ウリエルの持つ膨大な魔力に誰も抗うことなどできなかった・・・

 

その怒涛の炎に全て焼き払われてしまった・・・

 

RAGE

 

抵抗などという概念は存在する意味がない・・・

 

いかに、抵抗したところで“俺の制裁”からは逃れられん・・・

 

なのに、何故、抵抗などという概念が存在する?

 

制裁された者達は彼を悪魔や死神だと罵っただろう・・・

 

しかし、勘違いしてはならない・・・

 

彼は、制裁者なのだ・・・

 

“誰にも平等に消滅をもたらす者”なのだ・・・

 

 

このままいけば、ウリエルの使命は達成されていただろう・・・

 

しかし、不幸な事にも同じ頃に“最強の制裁者”が存在していた・・・

 

妹を虐げた者達への報復の為に目覚めた死神がした・・・

 

二度と妹に危害を加えさせまいと考えた死神がいた・・・

 

その名は“死神のメシア”・・・

 

二人の目的は似ていて非なる・・・

 

ウリエルは完全なる消滅を目指すのに対し・・・

 

この死神は妹が安全に生きていける世界を目指している・・・

 

そんな、二人が遭遇しない方が奇跡的であるとも言え、二人は出会ってしまった・・・

 

無論、話し合いなどはなく、すぐに互いを消し去ろうとその“力”を振舞う・・・

 

そして、さらに不幸なことに

 

この死神の力はウリエルを遥かに上回っていたのだ・・・

 

ことの勝負は一瞬でカタがついた・・・

 

全てを無にへと帰す炎といえど・・・

 

全てを無へと分解してしまう黒い霧には勝てなかった・・・

 

その黒い霧の正体は神々の黄昏・・・

 

ラグナロク

 

その無の霧はその制裁の炎とウリエルの存在をも無へと帰した・・・

 

そして、死神は次の制裁へと向かう・・・

 

しかし、そんなウリエルの存在を惜しんだ者がいる・・・

 

それは、カルマと名乗る復讐鬼である・・・

 

〜最強の天使〜

 

お前は消滅させるには惜しい・・・

 

お前はまだ、消滅するべきではない・・・

 

お前が消滅する時はこの世全ての存在が無へと化した時だけだ・・・

 

だから、お前を蘇らせてやるよ・・・

 

あの馬鹿なミカエルの代わりにお前を天使長の座においてやる・・・

 

そうすれば、あの“目障りな死神”にもそう引けはとりまい・・・

 

お前に新しい名前をやろう・・・

 

メタトロン

 

混沌そのもので在りながらも意思を持つ者・・・

 

お前は混沌となりて、時が来るのを待て・・・

 

やがて、この“ラグナロク”の時を迎える・・・

 

ラグナロクの発動は“俺がこの世に定めた運命の三女神が目覚めた時より始まる・・・

 

その時、お前は再び“あの死神”と相見えることになるだろう・・・

 

だから、その時までその力を蓄えておけ・・・

 

全てを無へと帰す暗闇の霧と言えども・・・

 

“無限の有”を無に帰すことなど不可能だ・・・

 

だからこそ時を待て・・・

 

 

〜最終戦争への十六夜〜

 

「・・・・・・」

 

純白の天使が大きな培養ケースをじっと眺めている・・・

 

培養ケースの大きさは縦に6m、横に8メートル・・・奥行きが4メートル・・・

 

とても、人の培養に使うものとは思えない大きさだ・・・

 

「メタトロン・・・“我々の最後の切り札”か・・・」

 

純白の天使はそのあどけなさの残る愛くるしい姿とは正反対に落ち着いた声を出した・・・

 

彼女の名前はガブリエル・・・

 

そう・・・この姿こそガブリエルの誠の姿である・・・

 

「思えば長い時だった・・・」

 

ガブリエルの脳裏にHEAVENを破壊し続ける死神の姿が蘇る・・・

 

“兄であったミカエル”が死神に倒され、HEAVENの治安は一気に悪化した・・・

 

兄は偉大であった・・・

 

その強さに誰もが忠誠を誓った・・・

 

しかし、そんな兄も死神の鎌より逃れる事は出来なかった・・・

 

神に仕える事こそが生きる道だと信じている自分達がその“神に最も近い者”を失ってしまえば、混乱が起きるのもごく自然の事であった・・・

 

ましてや、ラファエルは先刻、自害し・・・

 

ウリエルはリンと名前を変え、下界で人として生きて人として死んだ・・・

 

残ったのは自分と目の前の培養槽にいる

 

最強の天使だけである・・・

 

しかし、HEAVENにはこの最強の天使だけでことたりる・・・

 

最強の天使・・・メタトロン・・・

 

その予言された力は絶大にして無限・・・

 

またの名を“尽きることの無い炎”・・・

 

“絶対なる無に唯一対抗できる無限の有”・・・

 

そして、全てを焼き尽くし“無”へと帰す・・・

 

“有を用いて完全なる無の世界を創造する”

 

壊天の天使・・・

 

ゴボボボ・・・

 

人の形を保った“逆襲の天使”は依然と眠り続けたまま、己が解き放たれるのを待っている・・・

 

かつて、カルマが引き起こした無の闇・・・

 

神々の黄昏・・・ラグナロク・・・

 

それは、神の時代の終末の日・・・

 

しかし、メタトロンがもたらすのは・・・

 

完全なる終末・・・

 

そして、メタトロンも全てを無に帰した後で、無へと帰る・・・

 

「・・・奴等が仕掛けてくるのももうすぐか・・・」

 

ガブリエルはその生まれつきの予知でタクト達との決戦を予知していた・・・

 

「ウィルドに導かれ運命の斬り手が現れ・・・」

 

そして、その運命の斬り手は最強の死神をこのうつし世へいざなう・・・

 

「そして、死神もその真の力を解放するか・・・」

 

ガブリエルには唯一の不安がある・・・

 

それは、死神の報復である・・・

 

確かに一度は死神をうち負かした・・・

 

しかし、ガブリエルは知っている・・・

 

死神はまだ、“誰にもその秘めたる本当の力を出したことはない”と・・・

 

ガブリエルは今でも思う・・・

 

実は死神はわざと倒されたのではないかと・・・

 

次なる報復攻撃の為の口実をつくりあげる為に・・・

 

かつて、死神は妹を虐げられたことを口実にいくつもの宇宙を滅ぼしていった・・・

 

そして、今回も・・・

 

おそらくは仲間には内密にアルフェシオンの改造を行っているのだろう・・・

 

そうでなければあの悪魔と死神があの程度の攻撃でやられる筈はない・・・

 

あの死神は完全なる無を体現することができる唯一の存在だ・・・

 

故に死神として万物より恐れられているのだ・・・

 

では、何故そのような“芝居”をする必要があったのか・・・

 

「・・・どこまで“芝居”を続けるつもりだ・・・」

 

ガブリエルは今はいない“最強の敵”を訝しげに睨んだ・・・

 

〜怒涛の天使〜

 

ここはタルタロスの最深部・・・

 

全ての力と魂が帰りつく無へのゲート・・・

 

タルタロス・・・別名 ラグナロクと言われる闇の世界は現世とあの世を繋ぐゲートである・・・

 

あの世は誰にも侵入できない完全なる絶対領域である・・・

 

かつて、カルマはこのタルタロスより死者の魂を召還した・・・

 

そしてその残りカスは負のエネルギーと化してタルタロスの中に充満している・・・

 

「・・・もうすぐだな・・・」

 

愛機の中で死神は眠りながら復活の時を待っている・・・

 

死神の目標はガブリエルの殲滅と外宇宙の消去だ・・・

 

しかし・・・今、死神の頭の中にあるのはその者達ではない・・・

 

「待っているがいい・・・“もう芝居を続ける必要はない”と“作者”から許可を得たからな・・・」

 

死神より圧倒的な殺気が立ち込める・・・

 

「・・・いい具合だな・・・」

 

そして、その閉じられた目が開けられる・・・

 

全てを真っ赤に染める真紅の瞳が開かれる・・・

 

「この俺に屈辱を味合わせた事を後悔させてやるぜ・・・なぁ・・・“レイジ”

 

アルフェシオン・レイジ

 

それが、この最強の紋章機の真名である・・・

 

レイジという名は意図的に封印されてきた・・・

 

それは作者が

来る最後の時まで温存していた最強の存在を

隠し通す為に死神に設けた

 

最後の枷である・・・

 

RAGE・・・怒涛・・・

 

「俺の目標は最初から決まっている・・・」

 

それが、俺が持って生まれた運命であり・・・

 

“作者”より架せられた

 

因果律としての使命である・・・

 

俺を感じるか?

 

そして、自分にとりまく死の予兆を感じるか?

 

それが、お前の運命だ・・・

 

言っただろう?

 

運命には逆らえないってな・・・

 

テメェの無様な矮小さを思う存分に味合わせた後で殺してやるよ・・・

 

堕天使は逆襲の機会を伺いながらその身に秘められた真の力をじっくりとじっくりと解放し始めていた・・・

 

 

 

 

 

 

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