逆襲の堕天使

 

 

 

〜獲物〜

 

現在、皇国軍は絶体絶命の危機に陥っていた・・・

 

ガブリエルを指導者とした外宇宙ことHEAVENの本拠地への拠点攻撃を試みた皇国軍はまんまとその裏をかかれたのだ。

 

皇国軍の主力戦力とも言えるエンジェル隊はHEAVENへと旅立った・・・

 

そして、最大の強敵であるガブリエルと戦う筈だった・・・

 

しかし、ガブリエルはその戦力の大きさを利用して、自ら皇国制圧部隊に参加したのだ。

 

皇国側からしてみれば、未来のEDENであるHEVENの拠点を探るのは難しい・・・

 

しかし、HEVENからしてみれば過去の世界であるEDENの軍事拠点を探し出すのは動作も無いことなのだ・・・

 

簡単に言えば攻める方であるHEAVENは断然に有利な状況にいる・・・

 

万が一、タクト達がHEAVENを占拠したとしても、最終兵器であるメタトロンを消滅させる事など不可能だろうし、そもそも、メタトロンの存在を彼らが知る筈がないのだ。

 

それに対して、ガブリエルが皇国を占拠する時間はそんなにいらないし、万が一ガブリエルが占拠した場合、エンジェル隊の親族を人質にとればそれだけで、タクト達の行動に制限をかけることが出来る。

 

「くそ・・・このままでは・・・」

 

絶望感が支配する司令室・・・

 

中には涙する女性オペレーターもいる・・・

 

「・・・・・・」

 

アバジェスも言葉を発する事なく無人艦隊を動かす事だけに没頭している。

 

無論、アバジェスは諦めてなどはいない・・・

 

アバジェスは待っているのだ・・・

 

“救世主”を・・・

 

最前線で次々と撃墜数を上げていくガブリエルはそれこそ、水を得た魚の如く俊敏な動きで宙域を蹂躙する・・・

 

「この戦争(たたかい)はもらったな・・・」

 

四大天使の中でも最も堅実派として知られるガブリエルが勝利を確信した・・・

 

本来なら、ここで軍配はガブリエルの方に上がったであろう・・・

 

イレギュラーさえ起きなければ・・・

 

「・・・っ!?」

 

ガブリエルの背筋に悪寒がはしった・・・

 

「な、何だ・・・この威圧感は・・・!?」

 

今まで、様々な強敵との戦いを乗り越えてきた・・・

 

しかし、これだけの威圧感を感じたことはない。

 

次の瞬間、このEDENに生きる者全てがその禍々しい姿を見た。

 

漆黒のオーラを纏った史上最強の悪魔の姿を・・・

 

「・・・・・・し、死神・・・・・・」

 

ガブリエルは呆然とその名を呼んだ。

 

ガブリエルの怨敵であり、“紛れも無く最強の存在”

 

最強の悪魔・・・ルシラフェル

 

最強の天使“メタトロン”と対を成すものである。

 

 

「あなた・・・」

 

月の聖母は見た・・・

 

EDENの民は見た・・・

 

救世主の姿を・・・

 

「ど、どういう事だ!?」

 

ガブリエルはイレギュラーな事態に驚きを隠せないでいる・・・

 

ガブリエルの予定の中ではあの死神は今頃は己が放ったエサである“サマエル”の相手をしている筈だったのだ。

 

「ば、馬鹿な!エサは放った筈だ!それが、どうして!」

 

妹のフェイトの危機を見てみぬフリでEDENに姿を現すなど・・・

 

「・・・・・・」

 

死神は獲物達に対して何も感慨を抱かない・・・

 

そう・・・

 

この冷徹な性格こそが本来の死神の顔・・・

 

タクトがこの死神と戦い抜けたのは、死神がタクトを意識していたからこそ・・・

 

意識している分だけそこには余裕がある・・・

 

逆に・・・この死神が感情を完全に殺した時・・・

 

それは・・・“この死神の唯一の弱点”を消す事になる・・・

 

弱点の無い者・・・

 

人はそれを最強と呼ぶ・・・

 

ガブリエルは咄嗟に判断した。

 

今、この死神から逃げなければ確実に死ぬと・・・

 

「く・・・!」

 

しかし・・・忘れてはならない・・・

 

この死神が

 

狙った獲物は逃がさない・・・ということを・・・

 

「・・・・・・」

 

そして、遂に死神のメシアが動いた。

 

 

〜汝に退路なし〜

 

「ガハッ!」

 

アニスの口からも血が零れ出す。

 

「あはは!最初に言っただろう?甘いものには“毒”があるって・・・いや、本物の毒は甘い味がするだったなぁ・・・?」

 

姿を持たない死の天使は確実に天使達の命を削り取っていた。

 

「くそ!くそ!くそぉぉぉーーー!!」

 

タクトは闇雲に何も無いところへスレイヤー・オブ・デステニーを振り回すが手ごたえは皆無だ。

 

「くっくっくっ!」

 

そんなタクト達の乱れっぷりをさも、死の天使は滑稽そうに嘲笑っている・・・

 

「くそったれめ・・・」

 

シリウスも徐々にその狂犬ぷりを見せ始めている。

 

「・・・・・・」

 

辺りが地獄と化している最中、エクレアは落ち着いた様子である事を考えていた。

 

(変ね・・・スレイヤー・オブ・デステニーは相手の存在とも言える因果そのものを断ち切る剣なのに・・・どうして、サマエルは平然としていられるの・・・?)

 

「くっくっくっ!タクト・・・どうにかしてみろよ・・・そうでないと、お前の天使達はもうすぐ、心臓を破裂させて死んでしまうぞ?」

 

その時、俺は死の天使からの憎悪をはっきりと感じとった。

 

「・・・っ!?」

 

その時、エクレアは“からくり”に気が付いた。

 

「みんな!アンフィニを止めなさい!」

 

「なっ!?」

 

「な!?」

 

驚きの声を上げたのはタクトとロキの二人・・・

 

アンフィニの停止は紋章機の停止を意味する。

 

「何を言ってるんだ!アンフィニを止めたらそれこそ、フィールドが・・・!」

 

「いいから!死にたくなければ言う通りにしなさい!」

 

二人のやり取りを悠長に見ている余裕のない天使達は言われた通りに紋章機を停止させた。

 

それと同時に機内の内気循環は非常用循環へと切り替わり、機内の空気は正常のものへと戻る・・・

 

「とんだ一人芝居ね・・・」

 

エクレアはそう言ってサマエルを侮辱した。

 

正確に言うとサマエルのフリをしていた者に対してだが・・・

 

「何が起こったんだ・・・サマエルは?」

 

あれ程に発せられていた殺気は今は欠片ほども感じられなくなった。

 

「・・・・・・サマエルが二度と現れることはない・・・それが今、確実に言える事よ・・・」

 

「エクレア・・・?」

 

エクレアの目は見た事も無い鋭さを放っていた。

 

エクレア・・・どうして、君は・・・

 

君は・・・

 

そんな目であいつを睨んでいるんだ?

 

この後、俺達は無事、ルクシオールに帰還し、サマエルの毒に犯された天使達の治療に労じた・・・

 

 

「な、な・・・何という・・・」

 

言葉を失ったのはシヴァ・トランスバール

 

否・・・

 

現状に言葉を失ってるのはアバジェスを除いたEDENの民だった。

 

「・・・まさか、ここまで圧倒的だとは・・・」

 

アバジェスでさえもその“圧倒的な戦力差”に驚きを隠せないでいる。

 

そして・・・

 

「く・・・やはり、前回のは芝居だったのか!」

 

「・・・・・・」

 

死神は何も答えず、“無口”を貫き通す。

 

そう・・・死神は無口のまま、ガブリエルの軍勢に襲い掛かかり、それこそ虫けらを掃除するかの如く勢いで敵を消滅させていったのだ。

 

「・・・くっ!」

 

ガブリエルはこの死神から逃れられない事を既に知っている・・・

 

現に先程、逃走を試みたが・・・

 

結果は無限にあるのではないかと錯覚を覚える程の死神のフライヤーに囲まれ阻止された・・・

 

故に、退路などありはしない・・・

 

「ふざけるな・・・私達(HEAVENの民)はお前の生贄などでは決してないっ!!」

 

そうだ・・・私達は被害者なのだ・・・

 

かつて、この死神にどれだけの同胞の命を奪われたことか・・・

 

「いつも、勝てると思うな!」

 

ガブリエルは勇敢にも死神へと向かっていく・・・

 

常人ならば、その圧倒的な威圧感に押しつぶされているだろう・・・

 

「・・・・・・」

 

しかし、死神は仕掛けてくる勇者をさもつまらなさそうに見ているだけだった・・・

 

「動かない?!なめるなーーーっ!」

 

オメガの背中から幾つものフライヤーが発射され、悪魔へ襲い掛かる!

 

「・・・・・・」

 

ひたすら、死神は無口で無表情を保っている・・・

 

そして、オメガのフライヤーのビームがアルフェシオンの装甲をすり抜けていった・・・

 

「な、何だ!?今のは・・・一体、何をしたというのだ!くそ!」

 

焦燥感に追われながらもひたすら攻撃を仕掛けてるガブリエルに対して、死神は全くの無反応だった。

 

如何なる攻撃も死神には意味を成さない・・・

 

この世で最も、無に近い存在ゆえに・・・

 

 

その様はどう見ても死神がガブリエルを相手にしていないとしか見えない。

 

否・・・死神は相手にしていないのではない・・・

 

ガブリエルに対してメッセージを出しているのだ。

 

「こ、この・・・!」

 

ラチがあかないと判断したガブリエルは必殺技を繰り出す!

 

オメガの背中に黄金色の翼が神々しく輝きはじめる。

 

忘れてはならない・・・ガブリエルは四大天使であり、現天使長なのだ。

 

その技量とその魔力もHEAVENの中でも最強クラスだ・・・

 

.「死神・・・貴様だけは・・・!」

 

オメガの周囲の重力が著しい速さで変動を遂げていく・・・

 

「はぁぁぁ・・・・・・」

 

次の瞬間、何とオメガが三体に分裂した!

 

そして、その中にいるガブリエルも三体へと分裂した。

 

それは、流れる水路が三つに分れるかの如く・・・

 

「・・・・・・」

 

それでも、死神は一向に動こうとはしない。

 

ただ、分裂した訳ではない・・・

 

ガブリエルがしようとしていることはかつて、死神がガブリエル達に使用した禁忌の魔法である・・・

 

偉大なる

 

「――――――――」

 

三体のガブリエルは各々が、別々の詠唱を始めている・・・

 

神々の

 

それは、ウィルド、フェイト、デザイアの三女神を体現している・・・

 

暗闇

 

「・・・・・・馬鹿め。」

 

久方ぶりに口を開いた死神が発した言葉はガブリエルを軽蔑したものだった。

 

「死神!例え、貴様を倒せずとも、貴様に私と同じ思いを味あわせる事は可能だ!」

 

そう・・・お前の唯一の弱点は・・・

 

アバジェスやシヴァ・・・そして、シャトヤーン・・・!

 

「・・・・・・やろうと言うのならば、やればいい・・・止めはしない・・・」

 

「な、何を!?」

 

「やるが良い・・・」

 

「正気か!貴様は・・・!」

 

「今回、作者からはお前を殺すなと命じられている・・・」

 

 

「しかし、“物語の支障になる行動”が見受けられた場合にはこの限りではないとも言われている・・・」

 

死神は初めてガブリエルをロックオンした・・・

 

「それにそのラグナロク・・・お前は、そのラグナロクを放った事はあるのか?」

 

「それをお前に答える必要はない・・・身を持って知るが良い・・・!」

 

「ガブリエルよ・・・無知は罪という言葉を知ってるか?」

 

「何が言いたい・・・」

 

「お前はラグナロクというものを知らない・・・お前はあの時、EDENにいて免れたから気が付かなかったのだろうがな・・・」

 

「な、何だと・・・?」

 

「ラグナロクはお前達が信仰しているカルマも使用する・・・しかし、俺とカルマのラグナロクは“質”があまりにも違いすぎる・・・この言葉の意味・・・今までの戦いを盗みしてきたお前になら分かる筈だ・・・」

 

「ならばこそ、私のラグナロクは本物の筈だ!」

 

「そういう意味ではない・・・ラグナロクに本物も偽者も存在しない・・・」

 

死神は漆黒色の翼を展開して黒いオーラを更にほとばしらせた・・・

 

その黒きオーラ・・・黒い霧こそがダークマター・・・

 

かつて、いくつもの外宇宙を無へと帰した禁忌中の禁忌の魔法である。

 

「ラグナロクとは、各々が自身の最強の攻撃だという証であり、それをこの世界の創造主が認めてから、その圧倒的な攻撃力を発揮するもの・・・あくまで、その契約の総称に過ぎぬ・・・」

 

死神は嘲笑うかのように続けた。

 

「どうやら、カルマはそのことにすら気付いていなかったと見える・・・どうだ・・・そいつはお前の腹の中に寄生してると見えるが、俺の声はちゃんと聞こえてると思うのだが・・・?」

 

死神は意味ありげにガブリエルの顔を覗きこんだ。

 

「貴様・・・」

 

「俺が気付かないとでも思っていたのか?元々、最弱クラスの天使であったお前がいきなり、四大天使に上り詰めたのはあまりにも不自然だった・・・そして、お前の奥底より立ち込める波動は紛れも無く奴の波動だ・・・」

 

「・・・・・・失せろ。」

 

遂に、ガブリエルがそのラグナロクを発動させようとしたその時だった。

 

「アンチ」

 

死神が呟いた短い言葉でガブリエルに集まっていた膨大なエネルギーが消滅した。

 

「・・・っ!?」

 

「無駄だ・・・お前の能力は隅々まで把握している・・・現状で俺にダメージを与える事が可能な武器をお前は所持していない・・・」

 

「く・・・くそ・・・!」

 

「・・・本当は、ここで始末する気だったのだが、余りにも無様なので気が変わった・・・どこにでもう失せるがいい・・・お前では俺の相手は務まらぬ・・・」

 

「ふざけるなぁーーーっ!!!」

 

ガブリエルは己のプライドの最終防衛ラインを突破されまいと敢て、死神へ立ち向かう・・・

 

オメガの手に握られたガブリエルの剣が死神へ振るわれるが・・・

 

「失せろ・・・と言った筈だ・・・」

 

ガブリエルよりも後で剣を抜いた筈の死神の刃がいとも簡単にオメガをあっさりとスライスした。

 

「くっ・・・!?」

 

「これ以上、お前と遊ぶ義理はない・・・」

 

そう言いながら、死神は因果を操る・・・

 

そう・・・この死神のイメージした事は全てが現実と化す・・・

 

それこそ、人間の空想上の中で最も、絶対的なものとして描かれる・・・

 

「・・・・・・」

 

次の瞬間、ガブリエルは声を上げる暇すら与えられずにかき消された。

 

その一部始終を見ていたEDENの民達は決して、喜んでなどいなかった・・・

 

「外宇宙が何年もかけて製造したオメガ・・・しかし、それすら・・・死神の前では玩具と化すか・・・まさに、人と神の差を見せ付けたか・・・」

 

もし、この死神が再び敵と化した時・・・

 

自分達にどんな対処法があるというのだろう?

 

最強の味方は最強の敵と成りうるのだ。

 

「レイ・・・・・・・・・」

 

アバジェスは目を閉じて、かつての愛弟子の名前を小さく呟いた。

 

「お前は・・・・・・」

 

そして、死神は一瞬にして姿を消した。

 

「父上!?」

 

「・・・・・・・・・俺達の救世主なのか?」

 

 

 

〜堕ちる天使〜

 

悔しい・・・

 

あの死神に一撃も報いる事が出来なかった・・・

 

そして、死神は私をおめおめと見逃した。

 

それはつまり・・・死神は私を脅威とすら見ていないという事だ・・・

 

我々はあの死神への復讐(オメガ)の為に幾程の時を費やしたことか・・・

 

しかし、あの死神は嘲笑うかのようにそのオメガをいとも簡単に退けた・・・

 

我々は・・・我々は・・・

 

決して、奴の生贄などではない!

 

今回、あの死神に我々が力を合わせても奴に勝てぬということを見せ付けられた。

 

しかし・・・

 

我々の切り札はオメガだけではない・・・

 

神であろうと・・・何であろうと・・・

 

この世に“有”が存在する限り・・・

 

ただひたすらに、全てを焼き尽くす・・・

 

最強の天使・・・

 

メタトロン

 

混沌の底で眠りについていたソレを私が召喚することに成功した・・・

 

メタトロンを呼び出せるのは我らが神(カルマ)のみ・・・

 

故に、この身にカルマを宿した・・・

 

そして、女である事も忘れた・・・

 

だからこそ・・・

 

私は何があってもあの“死神”を倒さなければならない・・・

 

我々の悲願は安定した生活などではない・・・

 

ただ、あの死神を倒す事のみ・・・

 

その為にはどんな犠牲も問いはしない・・・

 

メタトロンは一度、起動させたが最後・・・

 

その後は、ただひたすら破壊を続ける・・・

 

敵味方の区別をつけずに・・・

 

だからこその“最終兵器”なのだ。

 

しかし、使わざるをえないだろう?

 

メタトロンを使わせる為にお前は私を見逃したのだろう?

 

メタトロンを起動させてHEAVENを壊滅させろという意図なのだろう?

 

そして、私をHEAVENへ飛ばし、クロノ・スペースを完全凍結させた・・・

 

いいだろう・・・

 

やってやる!

 

そして、メタトロンの前で自分の愚かさを呪うがいい!

 

ふふふ・・・あははは・・・あーはっはっはっはっ!

 

全てを焼き尽くし終えた時、私の復讐は完遂される!

 

HEAVEN星系の本星・・・エリュシュオン・・・

 

その最深部では逆襲の堕天使が最強の天使の降臨の儀を開始していた・・・

 

 

 

 

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