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逆襲の堕天使

最終

 

ガブリエルとの戦いの決着は突然の乱入者の登場によりあっけなく幕を閉じた・・・

 

「・・・レイ」

 

「・・・・・・」

 

タクトとレイ・・・

 

両者共に、視界に入っているのは己の宿敵・・・

 

「レイさん・・・」

 

あの人は何も語らない・・・

 

変だ・・・今までも戦った事はあるけど、あの人はこんな風な人ではなかった・・・

 

「お兄ちゃん・・・」

 

何だろう・・・変な胸騒ぎがする・・・

 

「ぐぐっ・・・」

 

ガブリエルは残った力を振り絞って、オメガの緊急用の動力回路をひらく。

 

無論、この死神がそんな事に気付いていない訳がない・・・

 

「・・・・・・」

 

やがて、大破した筈のオメガのリアブースターに粒子が集まり、オメガは本星に向けて動き始めた。

 

「・・・っ!逃げる気か!?」

 

しかし、この死神はあえてガブリエルを見逃した。

 

そして、タクト達がトドメをさそうとする前にオメガは姿を消した。

 

「レイ!」

 

エクレアが死神にガブリエルを追えと責めるがレイは何もしようとしない。

 

それはそうだ・・・

 

“死神は俺の命令でしか動かない”のだから・・・

 

「・・・・・・」

 

「そう・・・それが、あなたの決断ね・・・」

 

「エクレア?」

 

「お兄ちゃん・・・?」

 

二人の死神の間に何とも言い表せない雰囲気か漂う・・・

 

「シリウス!ガブリエルを追うわよ!」

 

「ああ!」

 

オリジンもまた姿を消した。

 

空間転移・・・これもまた人が辿り着いた進化のなれのはてである・・・

 

ほんと・・・人間て奴は新しいものに憧れるねぇ・・・

 

逆襲の堕天使(後編)

 

「く、くく・・・許さん・・・許さんぞ・・・」

 

HEAVENの最深部の中をゆらりゆらりとオメガが彷徨う・・・否、引き寄せられている・・・

 

最強の天使

 

メタトロン

 

そのエネルギーは確かに無限ではあるが、それも起動すればの話である・・・

 

かつて、HEAVENの祖はこのメタトロンの力・・・すなわち混沌の力を摂取し、己達の姿を変えていった・・・

 

それも、メタトロンが起動できなくぐらいに・・・

 

祖は恐れたのだ・・・

 

メタトロンが何かの拍子で起動してしまうことを・・・

 

そして、起動を確保するだけのエネルギーを摂取するには沢山の魂を必要とする・・・

 

答えは一つ・・・

 

HEAVENの民全員の魂をメタトロンに与えればメタトロンは自然と蘇る・・・

 

だからこそ、メタトロンはHEAVENの最終兵器なのだ。

 

「そうやって、嘲笑っているがいい・・・死神・・・そして、EDENの祖達よ・・・」

 

そして、最後の生贄たるガブリエルは“メタトロンの魂が封印されてあるオメガ”と共にメタトロンのボディへと引き寄せられていく・・・

 

「待ちなさい!」

 

「エクレア・・・?」

 

ガブリエルの視界は既にぼやけている・・・

 

そして、エクレアとシリウスのオリジンがオメガに追いついた。

 

既に、メタトロンのボディは目の前である・・・

 

(これが、メタトロン・・・)

 

メタトロンのボディは実に美しい翼を持った人そのものだった・・・

 

しかし、その体からは神々しいまでの光が果てる事なくオーラを造っていた・・・

 

その小さな体には無限大の力を秘めているのだ。

 

「エクレア・・・あれは・・・」

 

「ええ、言われなくても分かってるわ・・・」

 

アキト・・・

 

メタトロンのボディはアキト・桜葉・・・本人だった。

 

「やはり、アキトをメタトロンのボディに使ったのね・・・」

 

「ざまぁみろ・・・」

 

「馬鹿ねぇ・・・・・・」

 

エクレアの目に殺意が篭る・・・

 

「そんなに早死にしたいの?」

 

エクレアから圧倒的な魔力の波動がほとばしる・・・

 

にしてもメタトロンのヤツ・・・底知れない魔力の量だぜ・・・この威圧感・・・吐き気がするぜ・・・

 

いわば、メタトロンはHEAVENそのものと言っても良い・・・

 

何処の世界に宇宙そのものと戦う勇者がいるってんだよ・・・

 

シリウスの頬に冷や汗が流れる・・・

 

「エクレア・・・私が憎いだろう・・・」

 

「ええ・・・でも、殺す前にあなたに“真実”を教えてあげる・・・昔のよしみでね・・・」

 

小娘・・・どうやら、俺の警告の意味が分かっていないと見えるなぁ・・・

 

「し・・・んじつだと・・・」

 

ガブリエルの命はもう長くは持たないだろう・・・

 

「ガブリエル・・・あなた達が憎んでいる死神のメシアなのね?」

 

「なに・・・を・・・いまさ・・ら・・・」

 

「よく聞きなさい・・・“外宇宙に報復攻撃を仕掛けた死神のメシアはレイ・桜葉ではないわ・・・”」

 

テメェ・・・

 

「・・・な、・・・なに・・・を・・・」

 

「確かにミカエルを消滅させたのはレイ・桜葉よ・・・でも、そのレイを突き動かしたのは彼に寄生虫のようにとり憑いていた化け物よ・・・」

 

ガブリエルはその言葉の意味を知っている・・・

 

レイにとり憑いていたのは神であるカルマだということを・・・

 

「そ、そんな馬鹿なこ・・が・・・」

 

「そして、そいつは“死神のメシア”と名乗り、HEAVENを本能の赴くがままに破壊し尽していった・・・レイが弱って動けなかった合間をぬってね・・・」

 

「分かるか・・・“真犯人は身近にいた”ってことだ。」

 

「ま、まさか・・・」

 

「最初から最後まで・・・あなたは“アイツ”のいいように操られていただけなのよ・・・」

 

上等だ・・・

 

小娘・・・

 

台本とは違うが・・・

 

お前はここでリタイアさせてやる・・・

 

この俺が直々に八つ裂きにしてやるぜ・・・

 

俺は分を弁えぬ愚か者に神罰を下すことにした。

 

よせ

 

ああっ!?るっせぇなぁ・・・もう、お前の指示を聞くつもりはないぜ・・・

 

よせ・・・今、ここでお前が姿を現したら全てが水の泡になってしまうぞ?

 

・・・・・・ちっ!わぁったよ・・・

 

やれやれ・・・

 

「・・・な・・んたる・・・どう・・・け・・・」

 

それが、ガブリエルの最後の言葉だった。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

 

我々は・・・何の為に生きてきたのだ・・・

 

そして、それがガブリエルの最後の思考となった。

 

ガブリエルはオメガと共に霧散するように消滅した・・・否、他の天使同様にメタトロンの元へと戻っていったのだ・・・

 

「・・・ガブリエル・・・」

 

エクレアは寂しげにその名前を呟いた。

 

しかし、彼女に・・

 

“お前に感慨にふける時間などこの俺が与えると思っているのか?”

 

「・・・っ!?エクレア・・・今・・・」

 

「分かってる・・・ガブリエルにアキトの救出法を吐かせようとしたんだけど、無理があったみたいね・・・」

 

オリジンはすぐさま、その場から逃げ出した。

 

そして、オリジンが転移してから2分後・・・

 

その場は灼熱地獄に見舞われた・・・

 

 

「エクレア・・・大丈夫かな・・・」

 

カズヤはエクレアの安否を気にしている・・・

 

俺達はHEAVENの宙域でひたすら待機に入っていた・・・俺だってそんな事をしている状況では無いことは知っている・・・

 

しかし、エクレアがアキトを救出するまで俺達も下手に動くわけにはいかなかった。

 

それに、あんなにまで弟を思っているエクレアの願いを無碍に破ることなどしたくない・・・

 

「・・・相変わらず、甘いな。」

 

「!」

 

今まで、沈黙を守っていたあいつが突如、軽蔑した口ぶりでそんな事を言って来た。

 

「いきなり、喋ったかと思えば・・・それで何が甘いと言うんだ。」

 

「お前の考える事成すこと全てにおいてだ。この戦いはEDENとNEUEの運命を決する戦いだ・・・にも関わらず個人の私情を優先させるとはな・・・・・・皇国軍も本当に慈善事業と化したものだ。」

 

そうか・・・こいつは、俺達の考えている事が全て分かるんだった。

 

「人の心を除き見るような奴にそんな事を言われたくないな・・・」

 

「誰が、お前の希望を聞いた?俺はお前の指図や願いを聞く気など一欠けらも無い。」

 

「・・・要するにお前は俺に喧嘩を売ってるんだな?」

 

「お前如きの相手などする必要も義理もない。俺が殺したい時に殺せる・・・強いて言えばそれだけが俺から見たお前の存在価値だ・・・」

 

「・・・・・・みんな、悪い・・・」

 

シャイニング・スターの右手にエクスカリバーが召喚される。

 

「ほぉ・・・少しだけ見直したぜ、タクト・・・」

 

そして、アルフェシオンの右手にもダインスレイブが召喚された。

 

「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん!タクトさんも止めてください!」

 

「止めないでくれ、ミルフィー・・・あいつだけは・・・」

 

「二人共、止めてください!」

 

二人が本気で戦いを始めそうだったので僕も慌てて止めに入る。

 

「お兄ちゃん!いい加減にして!」

 

「何を言う?リコ・・・俺は襲いかかってくる敵を迎撃しようとしているだけだぞ?」

 

レイはわざとらしく自分の正当性を主張した。

 

「ふざけるな!煽ってきたのは貴様だろう!」

 

俺がアルフェシオンに斬りかかろうとした次の瞬間・・・

 

「・・・っ!?」

 

直感が赤信号を発してきたので・・・

 

「シャイニング・スター!フィールド全開だ!」

 

俺はシャイニング・スターのフィールドを展開させて天使達を包み込んだ。

 

「ちっ!全員、目を潰れっ!!」

 

天使達が目を閉じた次の瞬間!

 

HEAVENは灼熱地獄の業火へと飲み込まれた。

 

〜メタトロン降臨〜

 

一体、幾程の時を耐えてきたのだろう・・・

 

永遠に続くかと思われた地獄は終わりを・・・

 

何を馬鹿なことを・・・気付いているんだろう?本当の地獄が今から始まるってことぐらい・・・

 

「皆、大丈夫?」

 

エクレアの声が聞こえたのと視界が元に戻ったのは同時だった・・・

 

しかし、視界に光景は以前のもとは180度異なっていた・・・

 

そこは、既に死界へと化していた・・・

 

「な、なんだよ・・・コレ・・・」

 

僕は呆然とメインモニターの光景を見ていた・・・

 

「こ、これって・・・HEAVEN・・な・・・の・・・」

 

アプリコットの声は震えている・・・

 

恐怖したのは彼女だけではない・・・

 

他の天使達も目の前に広がる“敵の攻撃”により破壊された世界を目にして恐怖した。

 

天使達は理解している・・・

 

これが、敵の・・・メタトロンの攻撃によるものだということを・・・

 

メタトロンの攻撃は一瞬にしてHEAVENという宇宙そのものを消滅させた・・・いや・・・文字通り焼き尽くしたと言った方が正解と言えるだろう・・・

 

その破壊力はまさに一撃必殺・・・

 

「何てことだ・・・未来の世界が・・・」

 

あまりの壮絶さに意識しきれていなかったが、冷静に考えれば一つの宇宙が・・・未来の自分達の世界が一瞬にして消滅したのだ。

 

不謹慎かもしれないが、ここが未来だったのは本当に不幸中の幸いだった・・・もし、現代の世界でされようものならば・・・それこそ、全ての終わりだ。

 

「エクレア・・・ごめん・・・わ、私・・・何て言ったらいいのか・・・」

 

嗚咽交じりの声でアプリコットがエクレアに謝罪する・・・

 

そんな母を見てエクレアは苦笑した。

 

「謝る必要なんてないよ・・・元々、HEAVENは“侵略者達の楽園”だったんだし・・・」

 

その言葉は、母だけにではなく他の天使にも向けられたものだった。

 

「で、でも・・・」

 

「それに・・・アレは反省会をさせてくれるつもりはないみたいよ。」

 

「ああ。」

 

オリジンはその黄金の翼を展開した。

 

「エクレ・・・」

 

その時、天使達は目の前に光り輝く天使を見た。

 

その眩く神々しい光はこの死滅した無の世界を明るく照らす・・・

 

その天使は光そのもの・・・

 

否、太陽そのものか・・・?

 

「あ、あれが・・・」

 

「ええ、あれが・・・HEAVENの最終兵器・・・」

 

メタトロン

 

「メ、メタトロン・・・人なのか?」

 

その光の天使は幼い少年の姿をしていた。

 

透き通るような体がその美しさを強調し、童話で語られる美しい天使の姿を体現している。

 

「ええ・・・ガブリエルが私への仕返しとして、アキトをコアにしてメタトロンの降臨を成就させたのよ・・・」

 

「ア、アキトって・・・」

 

「・・・・・・」

 

その先は誰も口を開けなかった・・・

 

只でさえ、相手は破壊の化身なのだ・・・

 

そんな状況でアキトの救出などどこの愚かな指揮官が実行に移すものだろうか・・・

 

「大丈夫さ・・・アキトは必ず救うよ。」

 

「タクト・・・気休めはいらない・・・私にだってこれがどうしようもない事態だってことは理解してるつもりよ・・・」

 

「はは・・・こんな状況なんて今までにだって、何度もあったじゃないか。だから、今回だって何とかするさ。」

 

「そうだよ・・・絶対に助けだすんだから。」

 

他の天使達もこの状況下にいて尚、アキトの救出を考えていた。

 

そんな天使達を見て、侮蔑した者が一人・・・

 

「タクト・・・何とかすると言ったが、具体的にどうする気だ?」

 

レイは無表情のまま、現実的に指摘した。

 

「何・・・」

 

「アキトはメタトロンのコアそのもの・・・言わば、メタトロンの心臓だ。メタトロンはアキトにコアとして機能しか求めてはいない・・・これが、何を意味するか分かってるのか?」

 

「お兄ちゃん!」

 

「リコ、黙ってろ・・・」

 

「・・・っ!」

レイはアプリコットを威圧した。

 

その事に驚いたのはアプリコットだけではないだろう・・・レイのアプリコットへの寵愛ぶりは皆が知っている・・・にも関わらず、今のレイはアプリコットにすら感情を表に出そうとしない・・・

 

「メタトロンは既にアキトの意思を奪ってる・・・というよりも魂を消滅させたのだろう・・・そうでなければ今頃、拒絶反応を起こしてるだろう。」

 

「つまり、要約するとお前はアキトの救出を断念しろと言いたいんだな・・・」

 

「少し語弊があるが、結果的にはそうなる。」

 

「結果的にそうなるのなら、お前の戯言はこれ以上聞くつもりはない。」

 

「タ、タクトさん、何もそんな言い方は・・・」

 

「ふ、戯言だと?笑止千万だな・・・」

 

「お、お兄ちゃん!」

 

「己が運命を懸けた戦いにも関わらず、作戦はいつもの何とかなるか?そういうのを無責任と言うんだよ。」

 

「言った筈だ・・・これ以上お前の戯言に付き合うつもりはない。」

 

「それは、こちらも同じだ・・・お前らがどう動こうが、俺の行動予定に変更は無い・・・」

 

レイのアルフェシオンが漆黒の翼を展開する。

 

それは、死神のメシアが戦闘態勢をとった事を意味する。

 

「レイ、その敵意はメタトロンに向けてのものか?それとも、俺達に対してのものか?」

 

「一つ訂正しろ・・・お前達ではない、お前にむけての返答のつもりだ。」

 

「そうかい・・・」

 

俺とシャイニング・スターの意思は疎通した・・・

 

シャイニング・スターに白銀の翼が現れる。

 

それは、シャイニング・スターがアルフェシオンを再び敵と見なした事を意味する。

 

「ちょ、ちょっと!二人共!」

 

焦燥感に駆られたミルフィーユが二人に向けて制止の声をあげるが、今の二人にその言葉は届いていない・・・

 

「レイ・・・アキトを救出する上で、お前は最大の障害だよ・・・」

 

「お優しいタクト司令の言葉とは思えない乱暴な言い振りだな。」

 

「お前だけは特別さ・・・」

 

「なるほど・・・俺もメタトロンを討伐する上でお前が最大の障害だ・・・よって・・・」

 

レイが排除すると言いかけたその時・・・

 

「二人共!いい加減にして!」

 

ミルフィーユが大きな声を上げた。

 

「引っ込んでろ・・・お前が出るといつも事態がややこしいことになる。」

 

「嫌!」

 

「ふざけんなよテメェ・・・」

 

レイから発せられる闘気が勢いを増す・・・

 

「・・・っ!?こいつとは戦うしかないんだ!分かってくれ!ミルフィー!」

 

「タクトさん・・・どうして・・・お兄ちゃんの事になるとそんなに乱暴になるんですか・・・」

 

「え・・・」

 

「お兄ちゃんも・・・どうして、そうやって、絡もうとするの・・・」

 

「馬鹿か?お前は・・・絡むとかいう安易な問題ではない・・・状況が見えないのか?エクレア・・・代わりに状況を説明してくれ・・・こいつ等にもわかるようにな・・・

 

「・・・レイの言う通り、メタトロンの攻撃力は尋常ではないわ・・・今でこそ、あそこで留まっているけど、あれは混沌のエネルギーを充填し、“第二射”に備えてるの・・・あの様子だともうじき第二射が来るわ・・・そして、レイの言った通り、メタトロンはアキトを手放そうとはしないでしょうから、アキトを救出する手段は皆無に等しいでしょうね・・・」

 

「エクレア・・・」

 

「そういう事だ・・・お前達は救う手立てが無い子供の為に自ら犬死しようとしているのだぞ?その事を理解しているのか?」

 

「それでも、俺達はそこに可能性が少しでもあればそれを実行に移すまでだ。」

 

「もはや、語るにも値せん・・・夢空想論で戦いに挑む等、無謀にも程がある。まさに愚の骨頂・・・メタトロンよりも先にお前を排除するべきだな。」

 

「ふざけるな・・・!」

 

まさに、一瞬即発!

 

「どうして・・・どうして、二人はいつもそうやって喧嘩ばかりするんですか!」

 

はぁ?馬鹿じゃねぇの?それはその二人が天敵同士だからに決まってるだろう。

 

「二人が戦う理由なんてもう無い筈・・・なのに・・・どうして・・・どうし・・て・・・」

 

ミルフィーユの声は嗚咽交じりで少し聞き取りにくかったが、二人にはしっかりと聞こえた。

 

・・・・・それにしても

 

また、泣き落としか?いい加減に見飽きたんだよ・・・

 

「ミルフィー・・・」

 

(母さん・・・)

 

「チ・・・こんな事でいちいち泣くな。馬鹿が・・・」

 

アルフェシオンのダインスレイブが消失した。

 

「お、お兄ちゃん・・・?」

 

「まったくもって理不尽かつ運命とやらを呪うところだが、俺は、お前の兄だ・・・妹を泣かした等と噂を立てられては俺の面目ばかりかマスターの面目も立つまい・・・」

 

レイはため息をつきながら頭を掻いた。

 

「・・・・・・だから、今回だけ特別にそこの馬鹿の方針に従ってやる・・・」

 

「お兄ちゃん・・・」

 

素直じゃないなぁと思いながらもミルフィーユに笑顔が戻る。

 

「・・・・・・」

 

それでも、俺はこいつに対する警戒を解きはしない・・・

 

こいつに対する警鐘はまだ止んでいないんだ・・・

 

「確証は無いが、アキトを束縛しているのはメタトロンの魂だろう・・・」

 

「魂・・・?アレ(メタトロン)にそんなものがあるんですか?」

 

「・・・・・・エクレア、何も話してなかったのか?」

 

レイは若干呆れ気味にエクレアを問いただした。

 

「しょ、しょうがないでしょ・・・正直に言ったら戦闘に支障をきたすと思ったから・・・」

 

「はぁ・・・」

 

レイの仕草はそんな事だろうと思ったと言わんばかりだ。

 

「メタトロンは元々は人間だ・・・生前はレナミス星系の辺境にある惑星“トロイ”に住んでいた青年だ・・・」

 

「レナミス・・・」

 

レナミス星系・・・かつて、ヴァル・ファスクのネフューリアとの戦いで制圧された軍事拠点のひとつだ。

 

「かつて、時空震が起こる約1200年前・・・あの星系はEDENの中でも最も発展を遂げていた・・・その中でも最も軍事開発の星先端を担っていたのが、惑星トロイとその隣に位置する衛星ルナだった。そして、ルナは元々、トロイの中でも優れた技術者達が開発に乗り出して発展した衛星だ。」

 

「軍事開発最先端の星が二つ・・・」

 

「しかし、トロイはその資源力と人力を盾にしてルナに圧制を強いていた・・・」

 

「・・・それで、ルナはレジスタンスを結成してトロイからの解放を要求したの。」

 

「しかし、トロイはその要求を退けるばかりか、ルナの技術力を妬み、強制徴収及び強制鎮圧に踏み切った・・・」

 

「そして、ルナのほとんどの人達が命を落としてしまったの・・・そして、トロイはルナを制圧したわ・・・」

 

「しかし、生き残った住民達はトロイへと逃れ、そこに自分達の国を作った・・・トロイにはルナの住民の遺族や親族がいた為、その国は思いの他、栄えた・・・」

 

「・・・でも、そんな事をトロイの人達は・・・」

 

「そうだ。その国は思いの他、防衛力に特化していた為、トロイの連中は様子を見るに留まっていたんだが・・・」

 

「トロイの連中は新型兵器の“核”と呼ばれる悪夢のようなミサイルを撃ち込んだの・・・そして、その国は滅んだ・・・」

 

「酷い・・・」

 

「戦争とはそういうものだ・・・そして、その国の生き残りがいた。」

 

「リンと呼ばれていた綺麗な女性歌手で、その彼女と恋におちたのが、生前のメタトロンよ・・・」

 

「嫌な予感がするわね・・・」

 

「戦争というものには報復攻撃がつき物だ・・・その国の生き残りの連中はその星全域を炎に包み込む程の兵器を開発し始めた・・・」

 

「恐ろしい執念だねぇ・・・自分達の命をも犠牲にしてでも復讐しようなんてね・・・」

 

「その兵器って?」

 

「それは、兵器というより呪術でしょうね・・・混沌の闇から炎を生み出す呪術・・・名前はとくに無かった筈だけど・・・連中は開発に失敗したの。」

 

「開発者達は混沌の制御に失敗して、自らの身をその炎に焼き尽くされた・・・結果的にはトロイ全体が焼け野原と化した・・・いや、トロイは炎の星となり燃えさかり続けた・・・まぁ、発動に失敗したとはいえ、結果的には成功したことになるのかもしれんがな・・・」

 

「・・・なんてことだ。」

 

「トロイの住民達は一人残らず死んだわ・・・」

 

「じゃ、じゃあ・・・リンという人とメタトロンも・・・」

 

「ええ・・・しかし、メタトロンの怨念は強すぎたの・・・そして、彼は天使として蘇ったの・・・正確には混沌を取り込んだというべきね・・・」

 

「そ、それじゃあ、メタトロンって混沌そのものなのか!?」

 

「そう・・・彼は、己を滅ぼしたその“炎”を取り込んで最凶の破壊神と化した・・・その後は・・・レイ、あなたが説明しなさい。」

 

「ふん・・・俺は、即座にメタトロンの討伐へ向かい・・・メタトロンを討伐した。」

 

「説明が短すぎるわよ・・・何か、弱点とかないの?倒したんでしょう?」

 

「うるせぇ・・・俺は確かにあいつを完全に消滅させた・・・ラグナロクを使ってな・・・」

 

ラグナロク・・・全てを無へと返す黒い霧(ダークマター)を散布する究極の魔法である。

 

「だけど、現実にメタトロンは存在してるのよ?」

 

“どっかの誰かさん”があいつの魂をガブリエルに提供したんだろうよ・・・」

 

「どっかの誰かさんだと・・・」

 

「そんな些細な事はいずれ分かる・・・」

 

「些細な事じゃない!お前・・・“真犯人”が誰か知ってるんだな!」

 

「ふ、存外に思い込みが激しいな・・・しかし、嘘はつきたくないから正直にYESと答えておこう・・・」

 

「ふざけるな・・・」

 

「お兄ちゃん、それがアキトを救出する手がかりになるかもしれないの!だから、教えて!」

 

「リコ・・・」

 

「おねがい!」

 

「・・・・・・悪いが、それをお前達に教える時は・・・」

 

レイは目を閉じる・・・そして・・・

 

「教える時・・・それは、お前達がこの俺を倒した時だけだ・・・

 

「え・・・ど、どうして!?」

 

「・・・それが、この世界の・・」

 

その瞬間、俺は時を止めた。

 

「・・・・・・お前か」

 

ネタばらしはご法度だぜ・・・相棒・・・

 

「ネタばらしをしてるのはお前の方だろう・・・」

 

何だと・・・

 

「何故、“俺達の過去を語った?”このまま、黙っていれば“エクレアも気付かなかっただろうに・・・”」

 

・・・・・・

 

「もうじき、終幕の時が訪れる・・・もう、隠していても仕方ないと思うんだが?」

 

まだだ・・・メタトロンは最終試験さ・・・

 

この程度の敵に負けるようではこの次に進む資格などない・・・そうだろう?

 

「・・・・・・」

 

連中の記憶はリセットしておく・・・ただ、タクトとエクレアの記憶への介入はかなり、困難だぜ・・・果たして、上手く“リセット”できるか・・・あの二人は俺に対しての認識が敏感になってきてるからな・・・

 

「それは、お前が頻繁に現れているからだろう・・・だから、よせと言ったんだ・・・」

 

もうすぐなんだ・・・頼むぜ・・・相棒・・・頼む・・・

 

「・・・・・・分かった・・・ただし、今度で正真正銘の最後だ・・・この戦いの後は、俺の好きなように行動させてもらうぞ。」

 

かまわねぇよ・・・

 

「アキトはどうする気だ?」

 

さぁ・・・俺としてはどっちでもいいんだが?

 

「それならば、解放してやれ・・・あれで、エクレアはまだ、この世界で生きようとしてるんだ。」

 

・・・・・・いや、ならばこそだな・・・

 

「何・・・」

 

あいつ・・・俺の物語を壊そうとしてるからな・・・最初は目を瞑っていたんだが、さすがに我慢の限界だ・・・今回は少し痛い目にあってもらわないとな・・・俺の気がおさまらねぇ・・・

 

「お、おい!?」

 

そこで、時は再び流れ出した。

 

「チッ!あの野郎!」

 

レイは珍しくコックピットに八つ当たりした。

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

しまった・・・

 

「すまん、少し取り乱した・・・」

 

「何、訳の分からない事を言ってるんだよ。メタトロンの光が勢いを増してる・・・仕掛けてくるぞ!」

 

・・・どうやら、上手くいったみたいだ。

 

(いちいち出しゃばるな!)

 

「レイ・・・?」

 

「いや・・・それよりも、メタトロンの力は以前より、増加している・・・どういう訳かは知らないがな・・・」

 

「そう・・・シャイニング・スターのフィールドで耐えられそう?」

 

「・・・それは、本人次第ということになるが、俺の見立てでは残り三回を防ぐので手一杯だろう・・・そこのポンコツとヘタレパイロットではな・・・」

 

シャイニング・スターはアルフェシオン目掛けてエクスカリバーを投げつけた。

 

ちなみに、それはタクトの意思とぴったり疎通した上での行動だったのだが・・・

 

レイはというより、アルフェシオンはそのエクスカリバーをダインスレイブで弾いた。

 

弾かれたエクスカリバーはシャイニング・スターの方へ飛んでいき、シャイニング・スターはそれを見事キャッチする。

 

「ポンコツはそっちだろう!この負の遺産め!」

 

そして、再度アルフェシオン目掛けて・・・

 

「二人共、いい加減にしなさい!」

 

珍しく、エクレアが本気で怒った。

 

次の瞬間、シャイニング・スターとアルフェシオンは大人しくなった。

 

「・・・何か、緊張感が薄れていくね。」

 

「はい・・・私もです・・・」

 

天使達の顔に笑顔が戻る。

 

「でも、いいんじゃない?こういうのが私達らしい気がするし。」

 

ミルフィーユは既にハイテンションだ。

 

「うん、そうだね。」

 

「あはは、何か、ミルフィーさんがそういうと説得力がありますね。」

 

「カズヤ君、それってどういう意味かな?」

 

「え・・・」

 

「カズヤ君、それってどういう意味かな?」

 

何だろう・・・ミルフィーさんが怖い・・・

 

まずい、何か考えろ!

 

「い、いえ・・・その、ミルフィーさん達もこんな雰囲気で戦ってきたんだろうなぁ・・・と思って・・・」

 

「ふ〜ん・・・カズヤ君は私達をそんな風にみてたんだ〜・・・」

 

「え!そ、そんなつもりじゃ!」

 

「へぇ、カズヤも随分言うようになったねぇ・・・」

 

フォルテはニヤニヤとしながら追い討ちをかける。

 

「きょ、教官・・・」

 

「なんてね♪」

 

「へ・・・?」

 

「うん、これがギャラクシーエンジェルだと私は思うよ。」

 

「ああ、俺も同感だな。」

 

「タクトさん。」

 

「カズヤさん、私もそう思います。」

 

「・・・・・・・・・そうだね。」

 

次の瞬間、全紋章機に翼が生えた。

 

「フン・・・相変わらず能天気な連中だぜ。」

 

「うふふ・・・そう言いながらも、考えてる事は満更でもないんじゃないの?」

 

「は、はぁ!?」

 

「ねぇ、レイ?」

 

エクレアはレイに同意を求めたのだが。

 

「・・・・・・」

 

「レイ・・・・・・」

 

「さぁな・・・・・・」

 

レイは無感情のまま答えた。

 

「メタトロンの攻撃が始まるぞ!全機防御体制に入れ!目を閉じて、耳を押さえろ!」

 

「・・・っ!シャイニング・スター!」

 

シャイニング・スターのINフィールドが天使達を優しく包み込んだ。

 

「暖かい・・・これがシャイニング・スターのフィールド・・・」

 

「全機!くるぞっ!」

 

次の瞬間、俺達のいた宙域は二度目の終末を向かえた。

 

「うわああぁぁぁーーーーーー!!!」

 

それは、永遠に続くのではないかと錯覚してしまいそうになるほどの地獄の炎・・・

 

いや・・・それはもはや“炎ではなく閃光”である。

 

視界が全て真っ白な中、紋章機はその天叫の如く衝撃波に容赦なく揺さぶられる!

 

「お、おい!本当に耐え切れるのかよぉぉぉーーーー!!」

 

「お、親分!喋ると舌を噛むのだ!」

 

否、それは間違いなく絶対なる破壊だろう・・・

 

この閃光は対象を焼き尽くすのではなく、対象を跡形もなく消滅させるという因果を持っている・・・

 

故に、炎そのものであろうとこの閃光はそれすらも消滅させる。

 

この単純かつ最強の威力を持つ魔術こそが、メタトロン唯一の攻撃であり、メタトロンを最強の天使と言わしめているものでもある。

 

元となった禁断の秘術・・・その名は・・・

 

閃光に似て非なるもの・・・

 

 

ディス・フレア

 

やがて、永遠に続くかと思われた脅威極まりない閃光は一時的に治まりをつけた。

 

「な、何とか・・・耐え切れたみたいだな・・・ん?」

 

シャイニング・スターのメイン画面に割り込み画面が表示された。

 

CAUTION CAUTION CAUTION

 

INFINITY FIELD EXPAND・・・・・・62%

 

「展開率・・・62%・・・」

 

「・・・それが、現在のシャイニング・スターのINフィールドの展開率だ・・・」

 

「インフィニティなのに限界があるのかよ・・・」

 

「馬鹿め・・・メタトロンの攻撃は本来、対象を必ず殲滅するという因果をもった必殺の一撃だ・・・それを防ぐのならば、“必殺が必殺ではないという矛盾”を生み出す必要がある・・・後は言わなくても分かるだろう?」

 

「はいはい・・・分かったよ・・・要は次の攻撃を防いだらもう後は無いと言いたいんだろ?」

 

「かなり語弊があるが、そういう事だ・・・それで?どうするつもりだ?」

 

アキトをどう救出するか・・・

 

「言っておくが、俺にはアキトを救出する手段がない・・・だから、今回はお前がその手段を考えるんだ。」

 

「言われなくても分かってる!」

 

「ほう・・・では、その手段とやらを聞かせてもらおうか・・・」

 

ちぇ・・・見え透いた嫌味を言いやがって・・・

 

「チッ・・・」

 

「次のメタトロンの攻撃までおそらく10分だ・・・次の攻撃はさっきのものよりも強力だぜ?」

 

「うるさい、今から説明するから少し黙ってろ!」

 

「・・・了解、マイヤーズ司令殿・・・」

 

レイは苦笑しながら大人しく命令に従った。

 

こ、この野郎・・・

 

「残念ながらアキトを必ず救出できる手段を俺は知らない・・・・・・」

 

タクト達に気まずい空気が漂う・・・

 

「でも・・・これは勘なんだけど・・・メタトロンを直接攻撃したからと言って、アキトがどうにかなるとは思えないんだ。」

 

「それはどうして?」

 

「アキトはメタトロンのコアだ・・・そして、メタトロンはさっきの話を聞く限り、“形あるもの”全てを破壊しつくしたいと思っている・・・ならば、アキトを何が何でも死守する筈だ。」

 

「アキトが死んでも、メタトロンは“稼動維持に必要なアキトの機能的な部分”だけ再生させるかもしれんぞ?」

 

「・・・その時は俺を恨んでくれていいさ。司令を出したのは俺だしな・・・」

 

「タ、タクトさん・・・」

 

「ふん、前言撤回だ。無能さ加減にも程がある・・・第一、お前を恨んだところで何になる?お前を恨んだところで何も変わらぬ、アキトは蘇らぬ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「それはどうかねぇ・・・」

 

最初に異を唱えたのはフォルテ・・・

 

「確かに現実的に見て、あんたの言ってる事は正しいさ・・・でもね、このまま何もしないでアキトを死なせるよりかはあたしはマシだと思うよ。」

 

「ふ、メタトロンを倒せるつもりでいるのか?」

 

「ああ、倒せるさ。あたし達には最高の司令さんがついてるんだからねぇ。」

 

「ふん・・・まるで話にならないな・・・」

 

「レイ・・・タクト達の言う通りよ。あなたがタクト達の心配をするのも分かるけど、ここはタクトの言う通りにしてあげて・・・」

 

「え・・・」

 

「何を馬鹿な事を・・・」

 

レイはバツが悪そうに目を閉じた。

 

「レイ・・・この中で一番攻撃力が高いのはあなたのアルフェシオンよ・・・だからこそ、あなたの協力が必要不可欠なの・・・おねがい・・・」

 

「・・・・・・了解した・・・アルフェシオンこれより、目標への攻撃を開始する。フライヤー・・・出番だ・・・」

 

「お、おい!?」

 

俺の制止の声を待たずにレイは攻撃を開始した。

 

「何をグズグズしている!次の攻撃まで残り時間は少ないぞ!」

 

「な、なんだよ・・・さっきまで、あんなに文句ばっか言ってたくせに・・・」

 

「聞いているのか!?」

 

「ああもう!分かったよ!」

 

(ありがとう・・・レイ。)

 

「みんな・・・総攻撃開始だ!」

 

タクト達は一斉にメタトロンとの距離を調整し、各々の最強クラスの攻撃を開始した・・・

 

「ファイナル・・・バースト!!」

 

ハッピートリガーの無数の弾幕が次々とメタトロンへと襲いかかる・・・

 

しかし、その弾幕は全てメタトロンのフィールドに弾かれてしまった。

 

「・・・ちっ!」

 

しかし、それは誰もが予想していた事だった。

 

「ふん、やはりな・・・」

 

高威力を誇るレイのフライヤーもメタトロンのフィールドの前では他の天使達の弾幕と何も変わりはしなかった・・・

 

「こいつのフィールド・・・半端じゃない・・・」

 

俺は、エクスカリバーを何度も叩きつけるが、メタトロンのフィールドはコアのアキトの半径30メートルを完全に密閉しているらしく、全く接近する事を許してはくれない。

 

そうしている間にもメタトロンの輝きはその神々しい輝度を増していく・・・

 

それは、デイス・フレアまでのカウントダウンを示している・・・

 

最強の攻撃力と防御力を備えた者・・・

 

それを最強と言わずして何と呼称するのか?

 

「ハイパー・・・ブラスタァァァーーーー!!」

 

クロス・キャリバーがギガ・レベル出力のハイパー・ブラスターを発射するもその結末は他の弾幕と同じだった。

 

「う、嘘・・・・・・」

 

アプリコットは現実となった悪夢を見ている。

 

「・・・・・・」

 

レイはヘル・バイス発動の為にメタトロンの構築を解析しようとするが、それもメタトロンのフィールドの遮断能力の前に意味を成さない・・・

 

「・・・・・・チッ」

 

しかし、レイはメタトロン自身ではなくメタトロン周囲の宙域をイメージする・・・

 

「威力は落ちるかもしれんが・・・タクト!邪魔だ!離れろ!」

 

「な、何だと!?」

 

「さっさとどけっ!」

 

「ちっ!」

 

タクトは渋々、メタトロンと距離をとる。

 

そして、レイは必殺技を発動させた。

 

ヘル・バイス

 

メタトロン周囲の宙域が圧縮され、メタトロン自身を押しつぶすかの如く圧縮を始める。

 

「あ、あいつ!?」

 

さしものメタトロンのフィールドも軋み始める・・・・・・

 

「・・・・・・チッ」

 

ただ、それだけでメタトロンのフィールドは健在だった・・・

 

「へ、ヘル・バイスも効かないなんて・・・」

 

カズヤはメタトロンの鉄壁ぶりに絶望した。

 

「まだだ!」

 

シャイニング・スターの白銀色のオーラが勢いを増していき、その翼もまた輝きを増していく・・・

 

「タクトさん!いけます!」

 

「ああ!・・・皆、目を閉じてくれ!シャイニング・サンを使う!」

 

全員は言う通りに目を閉じる。

 

「シャイニング・・・サアァァァーーーーン!!!!」

 

次の瞬間、その真っ黒な宙域は真っ白な宙域へと化した。

 

対象の時を進め自然消滅させる光を発生させる究極の浄化魔法・・・

 

シャイニング・サン

 

やがて、視界が回復した時、そこには臨界点まで輝いているらしきメタトロンが存在した・・・

 

「なっ!?」

 

「チッ!」

 

すかさず、レイはシャイニング・サンと対を成す魔法を発動させた!

 

メタトロンの周囲に闇が現れ、それがメタトロンを飲み込んでいく・・・

 

その闇は対象の時間を遡らせ、消滅させるもう一つの究極の浄化魔法・・・

 

オメガ・ブレイク

 

しかし、対象を必ず殲滅してきた筈のその闇はメタトロンを飲み込むことなく消滅していった・・・

 

「う、嘘・・・・・・こんなの・・・」

 

テキーラは己が想像しうる最強の魔法であった二つの魔法が打ち破られた現実を認識できないでいた。

 

「第三射が来るわ!」

 

「頼む!シャイニング・スター!!」

 

シャイニング・スターのフィールドが完成したわずか10秒後・・・この宙域は三度目の終末を向かえた。

 

宙域全体を地獄の閃光が焼き尽くしていく・・・

 

その威力は第二射の時よりも増大している。

 

「うぅぅ・・・!!」

 

フィールドを展開していてもその絶対的な破壊力は天使達を容赦なく揺さぶる!

 

「きゃあぁぁぁーーーーー!」

 

やがて、地獄の閃光が止んでいった・・・

 

CAUTION CAUTION CAUTION

 

INFINITY FIELD EXPAND・・・・・・8%

 

DANGER DANGER DANGER

 

「シャ、シャイニング・スター・・・も、もう・・・無理なのか・・・」

 

「・・・・・・タクト、俺のオメガ・ブレイクに合わせてシャイニング・スターを球体状で放て・・・」

 

「それは・・・・・・」

 

あの不死身と言われたラスト・リヴェンジャーを消滅させた・・・“矛盾の攻撃”

 

「これが、通用しなければこの後、何をしても無駄だ・・・終焉は避けられぬ・・・」

 

「無駄な訳あるか・・・絶対に無駄なんかにしてたまるかよ!」

 

タクトはシャイニング・サンの発動準備にかかった。

 

「シリウス・・・万が一の場合には“アレ”を使うわ・・・」

 

「お、おい!アレは・・」

 

「分かってる!でも、このままじゃ・・・全滅は時間の問題よ!」

 

「・・・・・・分かったよ。」

 

「ゴメン・・・」

 

「いくぞ!」

 

「シャイニング・・・サアアアーーーーン!!いっけえええぇぇぇーーーーー!!!」

 

タクトとレイはタイミングをきっちりと合わせて各々の必殺技を放った!

 

球体状と化したシャイニング・サンとオメガ・ブレイクがメタトロンを挟み撃ちにする!

 

極光と漆黒が反作用を引き起こし、その間にある余分なモノを排除しようと問答無用に解体にかかる!

 

あのラスト・リヴェンジャーを消滅させた本当の切り札・・・・・・・・・・・・

 

END OF CAOS

 

「あ、あ・・・・・・」

 

今度こそカズヤは絶句した。

 

メタトロンは、その切り札すら軽々と耐えきったのだ・・・それは、正真正銘の悪夢・・・・・・

 

「まずいな・・・メタトロンの奴、成長が早すぎる・・・攻撃までのサイクルが明らかに短くなっている。」

 

「くそ・・・・・・」

 

レイの指摘通り、メタトロンの輝きの速度は増している・・・それは素人目に見ても明らかな程だった。

 

「シリウス・・・」

 

「・・・・・・・・・ああ。」

 

エクレアとシリウスは決意を決めた。

 

「みんな・・・ありがとう・・・本当に今まで・・・」

 

「エ、エクレア?」

 

「こんな時にいきなり不吉なことを言うなよ・・・」

 

「ううん・・・こんな時だからこそよ・・・」

 

「・・・エクレア、何をする気だ?」

 

「・・・イジワルな事を聞くのね・・・おそらく、考えている事はあなたと同じ筈よ・・・」

 

「・・・・・・・・・アキトを諦める気か?」

 

「・・・っ!それはどういう事だ!?」

 

「タクト・・・ゴメン・・・これ以上は無理よ・・・だから、私は、“禁断の神魔法”でメタトロンを再度、封印するわ・・・」

 

「ちょ、ちょっと、待って!」

 

「ママ・・・ゴメン・・・でも、これ以上は無理よ・・・」

 

「そんな・・・そんなのって!」

 

「・・・・・・お前はそれでいいのか?」

 

「・・・・・・仕方ないでしょ・・・これ以上は本当に死人を出す事になる・・・」

 

「確かにアキトが消えたところで、世界に支障はきたさない・・・」

 

「お前!」

 

「だが・・・お前が望むのなら、俺は最後までこの馬鹿げた作戦に付き合ってやる・・・」

 

「え・・・?」

 

「レイ・・・ありがとう・・・でも、もういいわ・・・」

 

オ、オイ・・・テメェ・・・台本無視か!?

 

「アキト・・・聞こえないかもしれないけど・・・」

 

エクレアは光り輝くメタトロンに視線をやる・・・

 

「アキト・・・ゴメンね・・・お姉ちゃん、あなたをこうする事でしか助けてやれない・・・」

 

「エクレア・・・・・・もういい。」

 

「レイ?」

 

「もう、それ以上喋るな・・・」

 

「・・・・・・あれ?」

 

ポツリ・・・ポツリ・・・

 

エクレアは知らず知らずの内に泣いていた・・・

 

「エクレア・・・」

 

「酷い・・・こんなの酷すぎる・・・」

 

ふざけてる・・・子供が・・・こんな子供が、こんな局面に立たされているなんて・・・絶対に間違っている!

 

しょうがねぇだろ・・・それが、この物語・・・

 

Fate of Cherry Leaf

 

なんだからよ・・・

 

桜葉の名を持つ奴はいずれも壮大な運命を背負い、中には散っていく者もいる・・・

 

「私・・・泣いているの・・・おかしいな・・・」

 

「おかしくなんかないだろ・・・」

 

「え・・・?」

 

エクレアは驚いた。タクトの声が怒気をはらんでいる事に・・・

 

「諦めるなよ・・・例え、それしか手段がなかったからといって、諦めたら必ず後で後悔する・・・」

 

タクトの脳裏に神界での二人の神との戦い・・・そして、シリウスとの戦いがよぎる・・・

 

「でも・・・」

 

「要は俺が、メタトロンの攻撃を防げばいいんだろ・・・」

 

タクトの運命への理不尽に対する怒りが頂点に達した時、シャイニング・スターに隠されていた“真の力が発揮される・・・

 

SECRET MODE

 

RAGE

 

「え、ええ!?う、嘘・・・何?何なの!?」

 

ミルフィーユは脅威した・・・シャイニング・スターのインフィニの出力が限界値を超え、計測不能の領域まで上昇したのだ。

 

「シャイニング・スター・・・お前の守りはメタトロンよりも上だって事を証明しよう・・・」

 

タクトは愛機に語りかける・・・

 

OK

 

「サンキュ・・・じゃあ・・・やろうぜ!」

 

次の瞬間、天使達を力強いオーラが包み込んだ・・・

 

「・・・っ!?」

 

珍しくレイは心の底から絶句した。

 

それは、肉眼でも確認できるぐらいに強力なINフィールド・・・

 

(馬鹿な・・・フィールドの出力がメタトロンのものより上回っている・・・もはや、これは奇跡なんかではない・・・これは・・・“矛盾”だ・・・)

 

レイは果たしてどのような思いでタクトを見ていたのであろうか・・・

 

やがて、メタトロンの第四射が天使達を焼き尽くそうとするが・・・

 

「あ、あれ?・・・まったく揺れない・・・」

 

さすがに目は開けられなかったけど、さっきとは明らかに衝撃の度合いが違う・・・

 

「す、凄い・・・メタトロンの攻撃力は間違いなく最強クラスなのに・・・」

 

やがて、威力を増していた筈の地獄の閃光は諦めたかのように消滅していった・・・

 

(大した奴だよ、お前は・・・・・・本当に・・・)

 

相棒・・・・・・それは“合格”という意味でいいのか?

 

(ああ・・・・・・)

 

りょ〜うかい・・・

 

「イチかバチだが・・・・・・」

 

シャイニング・スターの右手にあのスレイヤー・オブ・デステニーが現れる・・・

 

「お前は運命を殺す剣なんだ・・・絶対を斬れる唯一の剣なんだ・・・」

 

俺はスレイヤー・オブ・デステニーを励ます・・・

 

「ミルフィー・・・行くよ。」

 

「はい!あたし、タクトさんを信じます!」

 

「エクレア・・・アキトは俺が助けてみせる!」

 

「タクト・・・」

 

シャイニング・スターがメタトロンへ接近しようとしたその時だった・・・

 

「馬鹿が・・・やめておけ、そんなもので斬りつければアキトは間違いなく死ぬ・・・」

 

「な、何だと・・・」

 

「・・・・・・アキトは俺が必ず、救出する・・・だから、お前達はクロノ・スペースでルクシオールと合流し、EDENに帰還しろ・・・」

 

「え・・・」

 

「何を呆けた顔をしている・・・邪魔だ、早々に失せろ。」

 

「お、お前なぁ・・・」

 

「お前達がいると仕える切り札も使えなくなると言ってるのが分からないのか・・・」

 

「レイ、あなた・・・まさか・・・」

 

「そうだ・・・お前達もこの世界に思い残す事は何もあるまい・・・」

 

「お、おい・・・エクレア・・・こいつは何をしようとしているんだ?」

 

「さぁ・・・でも、ここに私達が留まればレイがその切り札とやらを使えないのも事実よ・・・」

 

「・・・・・・レイ、アキトを必ず救出してくれよ。」

 

「ふん、キサマ如きが懇願せずとも、アキトは救出する・・・だから、柄にも無い事を言うな・・・」

 

「お、お前は・・・」

 

「お前、何か勘違いしてないか?」

 

「何だと・・・」

 

そして、レイの次の一言が俺のこいつへの認識を決定づける事になった・・・

 

「俺は・・・お前と仲間になったつもりはない・・・そして、“これからも俺と貴様は永遠に敵同士だ”・・・

 

「お、お兄ちゃん!」

 

「・・・・・・そうかい。」

 

「分かればいい・・・」

 

「ちょ、タクトさん!?」

 

「早急に失せろ・・・このままでは救える小さな命まで救えない事になるぞ?」

 

「みんな・・・帰艦するぞ・・・」

 

やがて、天使達はクロノ・スペースへと消えていった・・・

 

「さて・・・・・・」

 

俺は目の前に立ち塞がる敵に視線を移す・・・

 

その時、この宙域の時間は凍結された・・・

 

最強の天使・・・メタトロンか・・・

 

確かにその攻撃力と防御力・・・そしてその魔力は最強クラスと言ってもいいだろう・・・

 

アルフェシオンの周囲を古の神聖文字が周回する・・・

 

しかし、それでも・・・・・・

 

それは、運命の三女神を意味している・・・

 

俺から見れば他の雑魚と何ら変わりはない・・・

 

それは、全てへの起源へ通じるキーワード・・・

 

しかし、エクレアの頼みを無下にする事も出来ない・・・

 

ならば、俺に残された手段はただ一つ・・・

 

アルフェシオンの周囲に黒い紫電が走る・・・

 

目の前の有を無に変えることだ・・・

 

「今回は本気で消滅してもらう・・・悪く思うなとは言わんが・・・安らかに眠れ・・・」

 

レイは禁断の制裁を発動させた。

 

偉大なる神々の暗闇

ラグナロク

 

神聖文字が消滅したかと思いきや、黒い霧・・・暗黒物質ダークマターがアルフェシオンを爆心地にして爆発的な勢いで散布されていく・・・

 

この黒い霧は、宇宙という暗き闇をも飲み込み、無へと変えてしまう・・・

 

闇と無は似て非なるもの・・・

 

闇には隠されているものはあるが、無には隠されているもの等ない・・・

 

やがて、その黒き霧はメタトロンをあっという間に飲み込んでいき、その鉄壁をものともせずに分解していった・・・

 

それは、コアであるアキト・桜葉をも容赦なく分解していった・・・

 

アキトを救う方法はただ一つ・・・

 

アキトを束縛しているメタトロン自身を完全に消滅させ、その後でアキトを再構築するしかない・・・

 

さて、それではあいつ等に挨拶にいくとするか・・・

 

最強の天使をいとも簡単に滅ぼした死神はクロノ・スペースへと旅立った・・・

 

〜悪夢への序章〜

 

「・・・皆、ルクシオールが見えた・・・ごくろうさま・・・全機帰還してくれ・・・」

 

天使達から返答は無い・・・

 

無理も無い、あれ程の力の差を決定的に見せ付けられた上にアキトを救出できなかったのだ・・・

 

天使達の表情にも疲労感が浮かんでいる・・・

 

「こちらルクシオール・・・タクト、その様子だと・・・」

 

「レスター・・・その先は言わないでくれ。」

 

「分かった・・・・・・」

 

その時だった・・・

 

「・・・っ!タクト!ドライブ反応だ!」

 

「あいつか・・・・・・」

 

俺の予想通り、ドライブ・インしてきたのは予想通り、レイ・桜葉のアルフェシオンだった・・・

 

「レイ・・・・・・アキトは?」

 

「心配するな・・・約束は守る。」

 

「じゃ、じゃあ、アキトは・・・」

 

「アキトは生存している・・・」

 

エクレアの表情は曇りから晴れへと変化する。

 

         ・・・・・まさか、これから起こる事にも気付かずにな・・・く、くくく・・・ははは!ははははははは!

 

「ありがとう・・・レイ・・・」

 

「ちっ・・・」

 

俺は思わず舌打ちをしてしまう・・・しかい、次のあいつの一言が、舌打ち程度では済まないようにしてしまった・・・

 

「エクレアよ・・・何故、礼を言う?」

 

「え・・・そ、それは・・・」

 

「・・・・・・何故、アキトを救出していない内に俺に対して礼を言う必要があるのだ?」

 

「お前・・・それは、どういう意味だ?」

 

「どういう意味もない・・・アキトを引き渡すとはまだ言っていない・・・ただ、それだけだ。」

 

「レイ・・・・・・どうして・・・?」

 

さすがのエクレアもレイの意味不明な言語に戸惑いを隠せないでいる・・・

 

“作者との取引”の故の結論だ・・・この意味、分からぬ訳ではあるまい・・・」

 

「作者って何?」

 

皆が、疑問に思うがエクレアはそれに答えずに沈黙を守っている・・・

 

「アキトをメタトロンより解放するには作者の力が必要不可欠だった・・・そこで、作者が出した条件がお前達がこの俺を倒す事だという訳だ・・・」

 

その言葉が宣戦布告となった。

 

「ふざけるなよ・・・」

 

「ほぉ・・・」

 

「何が、アキトは必ず救出するだ!お前は・・・最初からこのつもりだったんだな!」

 

「タクトさん!いくらなんでもそんな・・」

 

ミルフィーユは兄の弁護をしようとしたが・・・

 

「ああ、最初からそのつもりだった・・・」

 

「え・・・」

 

「何を呆けた顔をしている・・・俺は最初からお前達を殺すつもりでいたのだ・・・」

 

戦うではなく・・・殺す・・・その言葉には現実味がありすぎる・・・

 

「タクト・・・白き月でつけられなかった決着・・・今度こそ付けてやる・・・お前の死をもってな・・・」

 

「・・・頭が悪いんじゃないのか?決着はあのヘパイストスでついた筈だろう・・・」

 

「何を寝ぼけた事を言っている・・・・・・」

 

「何・・・」

 

「俺は白き月での戦い以来・・・お前と、戦った事はない・・・」

 

「ま、待ってください!あの時、僕とリコもあなたと戦った筈です!」

 

あれほど、激しい戦いだったんだ・・・それを否定するなんて許せる訳がない。

 

「お前達が戦った相手は死神のメシアだろう・・・」

 

「死神のメシア・・・それは、お前の事だろう!」

 

くっくっくっ・・・本当に馬鹿な奴等だぜ・・・

 

「・・・確かに俺も死神のメシアだ・・・しかし、俺はあくまで代行者・・・死神のメシア本人ではない・・・」

 

「ちょ、ちょっと待て!まさか・・・」

 

何かが・・・ズレていた何かが・・・

 

「お前達がヘパイストスで戦ったと主張する死神のメシアが本物の死神のメシアだ。」

 

「・・・っ!」

 

「レイ・・・・・・あなたは真犯人を知ってるのね?」

 

「ああ。」

 

「・・・先の戦闘中に言っていたわね・・・それを知りたければ貴方を倒せって・・・」

 

「ああ・・・無論、抵抗はするがな・・・」

 

「抵抗・・・・・・できるものならしてみなさい。」

 

「ふ・・・この結末は最初から全て見えていた・・・そして、お前は俺を見くびっているのか?」

 

「・・・いえ、これでもあなたの力量は知ってるつもりよ・・・」

 

「なるほど・・・そこまで言うのなら仕方あるまい・・・挨拶だけで済まそうと思っていたのだが・・・」

 

へ・・・最初からこうなる事は知ってただろうが・・・

 

「自分達の矮小さと無力さを再認識させる為にも少しだけ遊んでやるよ。」

 

死神より全てを凍りかす程の威圧感と殺気が放たれた。

 

「・・・っ!?」

 

全員がそのプレッシャーに怖気づく・・・

 

「く、くるしい・・・」

 

もはや、目の前の死神から放たれている重圧感は比喩表現の枠を超えて物理的要因と化して天使達を威圧する。

 

「これは・・・あの時とはまるで違う・・・」

 

カズヤの脳裏に蘇るのはヘパイストス内部でのアルフェシオンとの戦い・・・

 

「この感じ・・・あの時と同じだ。」

 

タクトの脳裏に蘇るのは白き月攻防戦終盤での戦い・・・

 

「今回はこちらからは仕掛けん・・・死にたい奴だけかかってこい・・・」

 

「アキトは返してもらうわよ・・・レイ!」

 

最初に仕掛けたのはオリジン・・・

 

「ま、待って!エクレアちゃん!」

 

ミルフィーユの制止も聞かず、エクレアはヘル・バイスを放つが・・・

 

「ふん・・・」

 

アンチ

 

「・・・っ!かき消された!?」

 

「猿真似とはな・・・・・・」

 

今度はレイがヘル・バイスを仕掛けた!

 

「エクレア!くるぞ!」

 

「分かってる!」

 

エクレアは防御魔法を展開するが・・・

 

レイの魔力はエクレアすらも凌駕する。

 

オリジンの魔力障壁は難なく突破されオリジンを圧縮地獄が襲う!

 

「くっ・・・!」

 

「エクレア!」

 

どうして・・・どうして・・・あなたは・・・!

 

僕の中であの人に対する怒りがこみ上げてくる。

 

「カズヤさん!」

 

「ああ!」

 

エクレアを苦しめているあの人目掛けて僕はフライヤーを全力で射出した!

 

その数は60機余り・・・

 

「カズヤ・・・・・・」

 

それに対してレイが射出した本家本元のフライヤーの数は僅か8機余り・・・

 

「一つ忠告しておこう・・・」

 

しかし、絶対的に不利な筈のレイのフライヤーは一機も減る事なくカズヤのフライヤーを撃墜していく・・・そして、レイの意識はまだエクレアから離れていない・・・

 

「お、お願い・・・もって・・・」

 

エクレアは自分達を襲ってくる圧倒的な力に耐えている・・・

 

レイのフライヤーはあっという間にカズヤのフライヤーを撃墜していく。

 

「くっ!?」

 

な、何だ・・・コレ・・・ラインが全く見えない!

 

「お前は最近、俺に近づけたと思っているみたいだが・・・」

 

やがて、レイのフライヤー三機がクロス・キャリバーへ襲い掛かる!

 

「あ!」

 

「思い上がりもはなはだしい・・・器を知れ。」

 

「ちょ、直撃!?」

 

「カズヤさん!」

 

アプリコットは悲鳴のような声でカズヤの名前を呼んだ。

 

まさに、三つのフライヤーがクロス・キャリバーを直撃しようかとした次の瞬間!

 

「させるか!」

 

シャイニング・スターのエクスカリバーがレイのフライヤーを切り払った!

 

「タクトか・・・相変わらず噛み付いてくる奴だ・・・」

 

レイはやれやれとため息をつく。

 

「お前だけは許さない・・・!」

 

コイツ・・・性懲りもなく・・・

 

シャイニング・スターのインフィニのゲージが一気にMAXへと達する!

 

RAGE

 

シャイニング・スターを白銀のオーラが包み込み背中には白銀の翼が現れた。

 

「ほう・・・」

 

何故かアイツは楽しそうに俺を軽蔑した。

 

「こい・・・スレイヤー・オブ・デステニー・・・!」

 

シャイニング・スターの右手に虹色の剣が現れる・・・

 

実体を持たないあの化け物を倒すにはこれしかない!

 

「ふ、ふふ・・・」

 

レイが不敵に笑い出した・・・

 

次の瞬間、エクレアへの攻撃が中断された・・・

 

「・・・?」

 

「タクト・・・所詮、“お前も俺の猿真似にしか過ぎぬ”・・・」

 

「な、何・・・」

 

次の瞬間、アルフェシオンを漆黒のオーラが包み込み、背中には漆黒の翼が展開された。

 

シャイニング・スターのモニターに割り込み画面が現れた・・・

 

RAGE

 

しかし、それは自機のものではない・・・

 

それは、標的であるアルフェシオンの状態を示している!

 

「・・・っ!ま、まさか・・・」

 

「そうだ・・・シャイニング・スターの最終リミッター解除・・・通称“RAGE(レイジ)は元々このアルフェシオンから受け継がれたシステムだ。」

 

「く・・・!」

 

俺は、負けじにとレイに斬りかかるが、レイは難なく回避・・・いや、姿を消して13000km離れたところへと移動した。

 

BLACK OUT

 

それは、空間転移などではなく、その圧倒的な機動力によって、人間の視界ばかりか機械のレンズにすら見えない死神の舞である。

 

「お前はいつか言ったな・・・“俺とお前はライバルではなく、天敵同士だと・・・しかし、俺から言わせればお前は天敵ではない・・・他の雑魚と何ら変わらん”・・・自意識過剰ではないのか?

 

「あ、あれはっ!?」

 

タクトは絶句した・・・タクトだけではない・・・他の天使達も目の前の光景を信じられずにいた。

 

それは、アルフェシオンの左手には虹色の剣が握られていたからだ。

 

「ああ・・・察しの通り、これは正真正銘のスレイヤー・オブ・デステニー・・・正確に言うと名前など無いのだがな・・・」

 

「スレイヤー・オブ・デステニーがもう一つ・・・」

 

何だよ・・・それ・・・

 

「だから言ったろう?猿真似だってな・・・」

 

レイは軽く脚笑った・・・

 

「さて・・・挨拶は大方済んだ・・・今回はここまでにしておこう・・・二週間時間をやる・・・それまでに、覚悟を決めておけ・・・今度は本当に殺す・・・」

 

「待て!」

 

「場所は後日、通達する・・・」

 

そう言うとアルフェシオンは霧のように散っていった・・・

 

「レイ・・・・・・」

 

タクトはさっきまでレイがいた場所を眺めていた。

 

悪夢のような時間は終わり、天使達はルクシオールに帰還した。

 

しかし、最強の敵との戦いへのカウントダウンは着実に進んでいた。

 

次回 ・逆襲の堕天使へ続きます。

 

 

 

 

 

 

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