それは、とても暑い夏の日のこと・・・

 

俺は、天を仰いでいる・・・

 

クルシイ・・・

 

青き筈の空は真っ赤・・・

 

メガイタイ・・・

 

いや、真っ赤ですらなく、それは永遠の暗闇・・・

 

イキガデキナイ・・・

 

視界は既に自分の血で失われている・・・

 

クルシイ・・・

 

喉に何かが詰まっているような感じだ・・・

 

コノママシネタララクニナレルノニ・・・

 

しかし、普段動く筈の俺の口はまるで動こうとしなかった・・・口の中に広がるのはとても濃い鉄の味・・・

 

イタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイイタイイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイイタイタイタイタイタイタイタイタイタイイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイイタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイッ!!!!!

 

あの時の痛みと苦しみを俺は今でも忘れる事はない・・・

 

あの日を境に俺の人生は終わってしまったのだ。

 

人生?お前が人だと?・・・笑わせるな。

 

逆襲の堕天使

 

レイ・桜葉からの宣戦布告を受け取った俺達はEDENに帰還後この事実をシヴァ陛下へと伝えた。

 

案の定、シヴァ陛下は怒りを露にしてレイの挑戦を受ける事にしたが・・・

 

あのレイ・桜葉の圧倒的な強さに天使達は半ば絶望していた。

 

今回ばかりは本当に勝ち目が無い・・・

 

その勝率は

 

ゼロ

 

人はそれを不可能という・・・

 

 

 

〜決戦前夜の告白〜

 

「もはや今回ばかりは許す事はできない・・・」

 

シヴァは再び裏切ったレイへの怒りを隠せずにいる・・・

 

「しかし、罰しようにも相手が相手だ・・・」

 

相手はパイロットと機体共に最強クラスの実力を備えた完全者である。

 

あの後、天使達を率いるタクトはシヴァを含む関係者達にレイとの一件を打ち明けた。

 

「・・・まさか、危惧していた事が現実になるとは・・・まったくもって返す言葉が見つからぬ・・・」

 

レイの師であるアバジェスは手で顔を押さえっぱなしだ。

 

「そして、決戦までは後一週間と六日間というわけか・・・」

 

「タクト・・・勝算はあるのか?」

 

シヴァ様が心配そうに聞いてくる・・・

 

相手が相手だからんだろう・・・

 

「・・・・・・正直に言うと、かなり厳しいです。」

 

かなりでは無い・・・限りなく不可能に近いのだ。

 

「やはりそうか・・・」

 

「正直に申し上げて、こちらの機体であのアルフェシオンに太刀打ちできる紋章機は無いと言っても過言ではありません・・・」

 

「万事休すとはこの事か・・・」

 

シヴァは深いため息をついた・・・

 

そのため息はこれから始まる鬱な日々の幕開けの合図となった・・・

 

トランスバール皇国の象徴たる白き月・・・その中にルクシオールとその護衛たる紋章気達が滞在していた。来る時の為の改良工事がロキの指導の元で・・・

 

「ロキ・・・すまない。」

 

「あん?」

 

俺は、格納庫の喫煙スペースで休憩しているロキに会いに来た。

 

HEAVENとの戦いではロキを疑い、追い出してしまった・・・どうしても、その事が気になっていた。

 

「何だ?ミルフィーに何かしたのか?」

 

「ち、違う・・・そうじゃなくて・・・」

 

「はっはっはっ!そうしょんぼりするな。夫婦喧嘩なんてものは誰もが通る永遠のいばら道さ。」

 

「お、おい・・・」

 

「てな訳で、年寄りはお仕事に精を出すとするか。」

 

ロキは咥え煙草を灰皿に磨り潰して紋章機の整備に戻った。

 

「ロキ・・・」

 

もしかして、HEAVENの事について触れられたくなかったのか?・・・それとも、俺に気を使ってくれたのだろうか・・・

 

〜思い出す〜

 

僕は紋章機の調整もせずに自室のベットに寝そべっている・・・

 

はは、一体僕は何をしているんだろう?

 

思い上がりもはなはだしい・・・器を知れ・・・

 

その言葉が記憶に焼きついて離れない・・・

 

僕はフライヤーの操作に関してはあの人に限りなく近づけたと思っていた・・・

 

しかし・・・結果はあの様だった・・・

 

あの時、タクトさんが助けてくれなければ僕は直撃を受けて撃墜されていただろう・・・

 

逃れられない死の運命・・・

 

今の僕はリコを守れなかった事への自己嫌悪と本気で殺そうとしてきたあの人に対する恐怖心で押しつぶされそうだった・・・

 

それはまるで悪夢のようだった・・・

 

いや、夢幻であるのなら、僕は悪夢ですら受け入れる・・・

 

あの人と本気で殺し合う現実が目の前にあるのなら・・・

 

今度、戦えば僕達の全滅は免れないだろう・・・

 

あの人は僕達に身をもってそれを知らしめた。

 

そう言えば、死神のメシアはいつもそういうやり方だった気がする・・・

 

最初に恐怖心を植え込む・・・そして・・・

 

ピー

 

不意に鳴った呼び出し音が僕を現実へと引き戻した。

 

「はい。」

 

僕の声は自分でも驚くぐらいに張りがなかった。

 

「私です」

 

「リコ・・・」

 

僕は・・・今、リコに合わせる顔が無い・・・

 

「カズヤさん?」

 

リコの不安そうな声が聞こえる。

 

その声が今の僕にはたまらなく苦痛だ・・・

 

「カズヤさん・・・開けてくれませんか?私、私・・・カズヤさんに話したい事があるんです。」

 

「何かな?」

 

「あの、できれば直接会って話したいんですけど・・・」

 

「・・・・・・」

 

よく考えろカズヤ・シラナミ・・・ここで、リコを追い返す権利が僕にあるのか?

 

詭弁を・・・フェイトに慰めてもらいたいのなら、素直に言えば良いだろうに・・・

 

黙れ!

 

はいはい・・・

 

「ゴメン・・・今、開けるよ。」

 

ドアを開けると、そこには何かが入ったバスケットを持ったリコがいた。

 

「ん・・・どうしたの?そのバスケットは?」

 

「あ、これですか?これは、今からカズヤさんとピクニックに行こうかと思って。」

 

「・・・・・・へ?」

 

その後、僕は半ば強引に銀河展望公園へと連れて行かれた。ってのは少し言いすぎかな?

 

「う〜ん♪やはり、ここはいいです〜」

 

リコは銀河展望公園に来るなり、背伸びをする。

 

その姿が何か、今のこの状況と違和感があり過ぎて・・・

 

リコ・・・分かっているのかい?君のお兄さんが 僕達を本気で殺そうとしてるんだよ?

 

最強と恐れられている死神が・・・

 

「カズヤさん、あそこにいきません?」

 

そう言って、リコが指差したのは大きな木で、その大きさのおかげで大きな日陰ができている・・・

 

「うん・・・」

 

特に反対する理由などある訳がないので、僕はリコに言われるがままに大木の方まで歩いていく・・・

 

「本当・・・こんなにのんびりできる日は何日ぶりでしょうか・・・」

 

そう言うリコの顔はとても穏やかだ。

 

本当に・・・天使のような娘だな。

 

分かってる・・・リコは僕を励まそうとする為にこんな非常事態の中でピクニックへ誘ったんだ・・・

 

それは、分かってるんだ・・・

 

「カズヤさん・・・・・・」

 

リコの声のトーンが下がったので、ついリコの方を振り返ると・・・

 

「?」

 

ふと、リコが僕の目を見つめてきた。

 

「前大戦の最後の事を覚えてますか?」

 

「・・・・・・」

 

前大戦の最後・・・それはカルマによって、洗脳されたルーンエンジェル隊とムーンエンジェル隊が戦う事になった俗にANGEL WARと呼ばれている・・・

 

*真・最終章を参照

 

そして、 僕とリコはその中枢を担ってい

たオリジンのパイロットとしてカルマに徴用されタクトさんとミルフィーさんのシャイニング・スターと戦わされた。

 

最後はロキさんに救出されたんだけど・・・

 

やはり、忘れられない・・・

 

何故なら、僕とリコにはオリジンに搭乗していた時の記憶がはっきりと残っているのだから・・・

 

だから、忘れられない一度とはいえ、仲間を消去してしまった事だけは・・・

 

「うん・・・忘れはしないさ・・・」

 

「・・・私もです。あの時の私はカズヤさんとの接触を求めすぎて、あのような事態を引き起こしてしまったんです・・・」

 

「リコのせいじゃない・・・」

 

リコが何を言いたいのかが僕には未だに分からなかったけど、リコが自分のせいだと言ったので条件反射的に言い返してしまった。

 

「ごめんなさい、話がそれちゃいました。」

 

「いや、気にしないで続けて。」

 

「はい。その・・・・・・こんな事を言うのは恥ずかしいんですけど・・・」

 

リコが下を向いてモジモジし始めた。

 

「う、うん・・・」

 

「そ、その・・・あの・・・」

 

リコは顔を真っ赤にして、いかにも勇気を出そうとしてるんです!と言いたげな様子だ。

 

「・・・・・・リコ?」

 

「カ、カズヤさんはいつも私を守ってくれました!」

 

僕が名前を呼んだのが引き金になったのか、リコは衝動に駆られるように喋り続けた。

 

「宇宙船から脱出した時も、私が無限回廊の中で苦しんでいた時も・・・」

 

「リコ・・・」

 

無限回廊の中で・・・だと?

 

どういう事だ?俺は、そんな事は知らないぞ・・・

 

そういう事があったんだよ・・・相棒・・・

 

・・・・・・そうか。

 

悪く思うなよ・・・“お前の更新”が間に合わないんだよ。

 

なるほど・・・そういう事か・・・

 

「だから・・・今度は私がカズヤさんを助ける番です!」

 

「え・・・」

 

「私がカズヤさんをお兄ちゃんから守って見せます!」

 

そう言うリコの目は今までになく力強く真剣だった。

 

「だから・・・だから、一人で全部背負い込まないで下さい!」

 

「・・・・・・」

 

彼女は本当に天使そのものだ・・・

 

天使ねぇ・・・お前は天使というものをただ、美しく気高き者としか認識してないんだろうなぁ・・・

 

「リコ・・・・・・」

 

しかし、それが僕にはとてつもなく情け無い事だと思っていた。

 

「私達は二人で一つなんです!だから、もう少し私を頼って下さい!」

 

そうだ・・・僕は自立したいと思う一心で、リコというパートナーを忘れかけていた・・・

 

あの人に近づけたと思い・・・

 

僕はリコを守れる男になろうと・・・

 

最強のパイロットであるあの人に近づければ僕はリコを一人で守れる騎士になれると思っていた。

 

それは何と傲慢な思い上がりだったのだろうか・・・

 

“思い上がりも甚だしい器を知れ”

 

その通りだ・・・

 

いや、待て・・・

 

前にも似たような事が会った筈だ・・・

 

そうだ・・・僕はロゼルにリコをとられるかも知れないと焦って・・・

 

どうして、そんな事を忘れていたんだろう?

 

チッ・・・本当にお前は余計な事ばかり・・・

 

そうだ・・・ロゼル、ロゼルは何処に行ったんだろう・・・

 

リセット

 

「リコ、ゴメン・・・」

 

「え・・・」

 

「僕は・・・僕は、自意識過剰な奴だった・・・リコの事を全然頼ろうとせずに自分一人で何でも出来ると思い上がっていた・・・」

 

「そ、そんな事ないです!」

 

「ううん・・・言わせてくれ・・・」

 

「あ・・・」

 

僕はリコを抱きしめ、その瞳に敢て吸い込まれる・・・

 

「リコ・・・僕には君が必要だ・・・」

 

「カズヤさん・・・・・・」

 

「僕に力を貸してくれ・・・」

 

そして、二人で生き延びよう・・・

 

レイ・桜葉という死神から・・・

 

「カズヤさん・・・」

 

「リコ・・・・・・」

 

僕達はお互いに自然と唇を重ね合った・・・

 

それが、僕達の誓いだった。

 

 

〜?〜

 

俺と健太が仲直り?した翌日・・・

 

俺と健太はぎこちなくではあるが、それなりに行動を共にする事が多くなってきた。

 

元々、クラスのガキ大将だった俺と人気うなぎ登りの転校生健太のコンビはさほど違和感がある訳でもなかったらしく、健太は普通に俺達のグループに入ってきた。

 

本当・・・身近にコイツが来てからはコイツの凄さを嫌と言う程に見せ付けられた・・・

 

冗談ではなく、こいつは全教科で100点代をとり続けていた・・・

 

そして、運動神経に関しては問答無用でずば抜けていた・・・

 

こんな片田舎にどうしてこんな化け物が転校してきたのかと教師は思っただろう・・・

 

「さぁて・・・いくか!」

 

昼休みは恒例のサッカーだった。

 

当然、俺と健太をリーダーにしてチームが分かれる。

 

もっとも、健太の実力が俺よりも上だったのは周知の事実だった訳で、いつも俺のチームは負けていた。

 

そして、俺のチームに入った奴のほとんどが落胆したのは苦い思い出でだ。

 

そして、ここで新しいメンバーというか後輩について語っておこう・・・

 

「うっす。」

 

と言って、俺達5年生の教室に入ってきたのは四年生の西野彰(にしの あきら)である。つまりは璃子の同級生である。

 

ちなみに言っておくと俺とこいつは仲が悪い。

 

「また来やがって・・・」

 

俺がうんざりしながらそう言うと・・・

 

「別にお前に用がある訳じゃねぇ。」

 

この野郎・・・喧嘩売ってんのか?

 

事実、こいつは何度か叩きのめしているのだが・・・

 

「健太さん。一つ聞いてもいいですか?」

 

「・・・?」

 

健太は返事の代わりに視線を彰に向けた。

 

そう、この彰はこの阿部兄妹にぞっこんで、そして、二人と仲がいい俺をいきなり、敵視し始めた鬱陶しいかぎりのクソ野郎である。

 

「この前、理科で電気の事を習ったんですけど・・・」

 

後、ムナクソの悪い事にこの彰・・・何気に成績は優秀な部類に入る。

 

「コンセントって、繋いだら電気が流れるじゃないですか・・・でも、アレって電池じゃないですよね?」

 

「・・・直流と交流を知っているか?」

 

「ちょ、ちょくりゅう・・・?」

 

今の俺なら分かるが、普通の小学生4年生はそこまで知らないだろう・・・

 

「電池は直流・・・長距離の送電には向かない、逆に家庭用電源は交流で、長距離の送電には向いている・・・」

 

「は、はぁ・・・」

 

「しかし、交流の電源を電化製品やゲーム機に使おうとするのであれば、ACアダプターなどの変換機が必要となる・・・そもそも、交流には正弦波状の周期が存在し・・・」

 

「???」

 

さて、ここで健太の伝説 其の一・・・

 

電気について語らせると半端ではない・・・というか、長い・・・

 

さてさて、放課後になると必ず璃子が俺達の教室に現われる・・・彰というお荷物を連れて・・・

 

もうオチが見えてるかもしれないが、彰は璃子にぞっこんである。

 

登校路は基本的には一本道である・・・

 

ちなみに彰は三区に住んでいるので、厳密に言うとコイツは途中退場するのだ。

 

「亮君って、いつも宿題してるの?」

 

「あ?・・・・・・どうだろうな・・・っていうか、何でそんな事を聞いてくるんだよ。」

 

「え、お兄ちゃんがあいつは宿題というもの自体を知らないって言ってから・・・」

 

ほう・・・ほうほう・・・

 

「オイコラ・・・」

 

俺はそのお兄ちゃんとやらへ視線を移す・・・

 

「何だ?」

 

と口には出さずに目で態度を表すこの野郎。

 

「テメェ・・・ある事ない事言ってないだろうな。」

 

「・・・・・・」

 

「確か、給食の時に余り物を漁ってるとか・・・」

 

「健太・・・ちょっと、二人で話しねぇか・・・」

 

「・・・・・・」

 

言うまでもなく宣戦布告である。

 

「二人共・・・喧嘩したら怒るからね・・・」

 

そして、璃子が威圧していつも未遂に終わる・・・

 

それが、いつもの事だった。

 

そんなある日・・・

 

俺が健太にこんな事を聞いてしまった・・・

 

どうして、お前はそんなに強いのか?

 

俺は、自分の腕力に絶対の自信を持っていた・・・

 

しかし、そんな俺の自信を木っ端微塵にされた。

 

俺は、どうしても知りたかったんだ。

 

どうすればそんなに強くなれるのかを・・・

 

健太はすんなりとその理由を教えてくれた。

 

俺は武術を習っているからだ。

 

五区の山奥にその家はあった・・・

 

地元の俺ですらその存在は知らなかった・・・

 

そして、その姿も見た事はない・・・

 

阿部 仁(あべ じん )

 

健太達のお袋さん方の父・・・

 

つまりは、祖父である。

 

この男が俺の世界観を大きく変えた人だと言っておこう・・・

 

「・・・くれぐれも、態度には気をつけておけ・・・」

 

「あ、あぁ・・・」

 

まぁ、他所様の親御さんに喧嘩腰な真似はしねぇがよぉ・・・

 

しかし、その認識が甘っちょろいものだった事を俺は身を持って知る事になる。

 

そのクソジジィの家は木造の一階建てで、風呂も離れにあるというお墨付きである。

 

「“師匠”!おられますか!?」

 

健太にしては珍しく大きな声で家の玄関から呼びかけた・・・

 

ガラ・・・

 

静かに玄関のスライド式でサッシ状の扉が開かれた・・・その家の主であるクソジジィによって・・・

 

「・・・今日は何用か?」

 

第一印象・・・とても、ジジィとは思えない外見・・・そして、明らかに鍛えている身体・・・

 

そして、ジジィは俺の方には目もくれなかった。

 

「強くなりたいと言う者を連れて来ました・・・」

 

厳密に言うと経緯は違うのだが、まぁ・・・結果は同じなので、何も言わない事にした。

 

「ほぉ・・・」

 

その師匠とやらが俺を値踏みするかのように覗き込んでくる・・・

 

「ど、どうも・・・」

 

相手が友人の祖父であったというのもあるが、正直、怖かった・・・

 

このジジィの目は今まで見たどんな奴よりも怖かった・・・まさに、蛇に睨まれた蛙とはこの事だろう。

 

「何とも醜悪な子供だな・・・」

 

「は・・・は?」

 

俺は、ジジィが言った突如の暴言に戸惑う・・・

 

「何よりも目つきが悪いな・・・」

 

オイ・・・このクソジジィ・・・

 

「まるで“鬼”のようだ・・・」

 

鬼・・・

 

俺のあだ名は鬼・・・

 

女子はこの鬼に“さん”をつけて呼んでいた。

 

そう・・・俺は醜悪な男だ・・・

 

それは、身体だけの事ではなく、心のことも示している・・・そしてそれは今でも・・・

 

悪鬼羅刹・・・

 

俺が、殴りかかろうかと考えていたその時、目の前のクソジジィが俺を見て楽しそうに顔を歪めた。

 

「ふ・・・・・・お前の名は?」

 

「古牙 亮です・・・」

 

「では、小僧・・・一つだけ聞かせろ。」

 

こ、小僧?!何の為に名乗らせやがったんだ・・・

 

そんな、俺の怒りを知らないでかジジィは質問を続けた。

 

「何故、強くなりたいと思った?」

 

どうせ、ばれるだろうと踏んでいたので・・・

 

「あんたところの弟子に負けたからだ。」

 

俺は敬語も忘れて目の前のジジィに正直に応えた・・・

 

てっきり、健太が何らかしらの反応を示すかと思ったのが、全くこれっぽちも反応しなかった・・・

 

「なるほど・・・」

 

そして、このジジィは続いてとんでもない質問をしてきやがった。

 

「・・・お前を人を殺すことができるか?」

 

「・・・は、はぁ!?」

 

こ、このジジィ頭が可笑しいんじゃねぇのか!?

 

「小僧、答えろ。」

 

な、何で、そんな威圧的な目で俺を見るんだよ・・・

 

「できねぇよ。」

 

クソジジィは楽しそうに口を歪める。

 

「それは、どうしてだ?」

 

それをしたら犯罪だからだろうが・・・

 

「それは、悪い事だから・・・」

 

「悪い事・・・確かに良き事ではない・・・つまりは正義に反するという事か・・・」

 

「あ、あぁ・・・」

 

「なら、お前の言う正義とはどんなものだ?」

 

「そ、そりゃあ、憲法で定められた・・・」

 

ジジィは嘲笑うように言い返してきた。

 

「笑わせるな・・・所詮、この国の憲法など戦勝国がもたらしたレールに過ぎん・・・表柄は自由を尊重をしてるように見えるが、裏は犯罪者達の逃げ道を用意しているに過ぎんし・・・それが、自由と平等に配慮したものだというのであればそれこそ、笑止千万だ・・・」

 

「・・・・・・」

 

そこまで知るかよ・・・

 

「では、もっと身近なところからいこう・・・」

 

ジジィの顔から笑顔が消えた・・・

 

「憲法によると天皇は日本の象徴だという・・・そして、その象徴ゆえに様々な保護と制約を受けている・・・しかし、天皇の死により、拘留者達の刑が軽くなるという事を知っているか?」

 

「い、いや・・・」

 

「そして、天皇の仕事は主に総理大臣や裁判長の任命・・・そして、様々な認証だ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「しかし、それらは天皇の意思で決めるものではない・・・ただ、宮内庁から命じられた事を喋るだけ・・・言わば道具にしか過ぎない・・・」

 

「道具・・・」

 

「そうだ・・・俺が陸軍に所属していた時、俺達は天皇の為に死に行き、その死ぬまでの間に多くの敵を殺してこいと教えられた・・・決して、生きて帰ってこいなどとは言われなかった・・・」

 

「・・・・・・」

 

「俺達の上官の口癖は天皇の為に死に行くのが正義だと言ってきた・・・しかし、俺達に言わせれば国を守るのではない・・・家族を守る為だった・・・」

 

「国を守るのと家族を守るのは同じじゃないのか?」

 

俺が、思った事をそのまま言うとクソジジィは苦笑して話を続けた。

 

「国を守る・・・それは、戦争に打ち勝つこと・・・戦争に参戦にする事・・・なら、参戦しない者はどうなると思う?」

 

「そ、それは・・・」

 

「そうだ・・・参戦しない者は罰せられる・・・それは罪だからだと、そしてその家族達は周囲から糾弾を受ける・・・それを知ってるから俺達は嫌々、戦争に参加したのだ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「しかし、誤解するな・・・戦争は悪ではない、むしろこの世は戦争により、今日まで樹立してきたと言っても過言ではないのだ・・・」

 

ジジィは再び真面目な声に戻る・・・

 

「何故なら、人は自分の欲求が満たされぬと暴れる生き物・・・そんな野獣に襲いかけられた時、襲われた者は当然、抵抗をする・・・それが、戦争というものだ・・・」

 

「戦争・・・」

 

「戦い争わなければ、生き残れない・・・だから、俺達は戦場に赴いた・・・そこには確かに自分達の意思で参戦した“戦士”達がそこにいた・・・」

 

「だからこそ、鬱陶しいのだ・・・戦争は悪だと・・・天皇を象徴と誤魔化し、道具にしたてあげて・・・正義の経典だといってる憲法が・・・」

 

「憲法など、命を懸けて戦い抜いた俺達を侮辱してるものにしか過ぎぬ・・・だからこそ、この国の憲法などクソ喰らえなのだ。」

 

最初は頭がイカレてるんじゃないかと思ったし、俺の仲でこのジジィの理屈と学校で教えられてきた非戦争論をぶつけたりもした・・・

 

しかし、どうやってもジジィの言ってる事は“間違い”では無いという結論にいきあたる・・・

 

「無論、憲法がなければ人は協調性を失くし、国は崩壊するだろう・・・しかし、人は自分の意思を持っている・・・時にそれは都合の良い逃げ道を導く時もあるだろう・・・しかし、その世界には束縛と弾圧はない・・・」

 

生き残る為には戦わなければならない・・・

 

「無論、犯罪も増えるだろう・・・しかし、それは自分の手で守り抜かなければならない・・・誰かに守ってもらおうとするのは完全なる甘えだ。」

 

無論、このジジィの言ってる事は極論であり、強者の理屈だ・・・

 

しかしそれは、この時の俺には実に自然の理に叶った事だったからだ。

 

それが、教科書やテレビで描かれた法治国家には無い魅力を秘めていたからだ・・・

 

開放的・・・自由な思想・・・悪く言えば、堕落しきった考え・・・まとまりのなくなる国となる・・・

 

しかし、それでもジジィの出した答えは、決して間違ったものではない・・・

 

この今の世の中を見ればこのジジィがいかに先を見据えていたのかがわかる・・・

 

アメリカの唱えている“正義”がいかに陳腐なものか・・・

 

それは、俺だけではなく、あんた達にも見えてる筈だ。

 

言葉と憲法で飾りたてられた世界・・・

 

それが俺達の国なんだ。

 

冤罪・・・これも、憲法より生み出されし大いなる過ち・・・

 

人類平等、権利・・・世界を知った気になったガキ共が唱える自分に対する逃げ道・・・

 

女性優先・・・

 

それは、女性が力弱き存在だから・・・

 

馬鹿げている・・・その女性優先の考えに乗り、痴漢の冤罪が増えてるのも事実・・・その容疑者の人生を破滅に導いているのも事実・・・

 

そんな背景を見て見ぬふりをして、女性優先とほざくこの法治国家・・・

 

元よりこの世は強者のみしか求めていない。

 

弱者を生かそうとしているのは人間ぐらいのものだろう・・・

 

だから、俺は強者であり続ける・・・

 

自分で自分の身を守り続ける。

 

誰かの保護を受けてまで生きようなどとは思わない・・・それこそ、自然の摂理に反したこと・・・

 

そう数年前まで思ってきた。

 

そして、世界を平等にする事など不可能だ。

 

なのに、狂ったように平等を唱える連中を俺は甘え者と下げずむ・・・

 

しかし、それらは子供の駄々と同じだ。

 

ほんの数年前まで自分の理屈を押し付けていた俺と同様に・・・

 

人は一人では生きていけないという摂理より逃れる事などできる訳がない・・・

 

「所詮、正義だからと振りかざすのは自分で善と悪を判断できぬ馬鹿のする事・・・人間ならば何が正しき事かを自分で考え行動せねばならぬ・・・そして、それは格闘技に対しても同じこと・・・自分で先を見抜き行動に移す・・・それに勝るものは無い。」

 

ジジィが俺の目を見据えた・・・

 

「言ってる意味は分かったか?」

 

そう、つまりクソジジィは自分の武術は、俺の考えてるような武術では無いと言っていたのだ。

 

「あ、あぁ・・・」

 

「俺にできるのは手助け程度・・・せいぜい、闘いに向いた体を作ることだけだ・・・それでも、俺に教えを乞うか?」

 

「お、俺・・・」

 

この後、俺はジジィに弟子入りする事にした。

 

この時の俺はジジィの言っていた事を100%理解出来た訳ではないが、少なくとも間違ってはいないと思ったからだ。

 

〜リスク〜

 

最強の敵、レイ・桜葉との決戦の時は近づいている・・・

 

そして、俺はその対策法に追われている・・・

 

寝る暇などありはしない・・・対策が無いでは済まないのだから・・・

 

まずは、相手のパイロットはレイ・桜葉・・・

 

人間を超えた神・・・

 

このEDENを創造主でもある・・・

 

その能力は言うまでもなく最強・・・

 

パイロットに付け入る隙はない・・・

 

続いて、レイの紋章機

 

GRA−000 通称 アルフェシオン

 

全紋章機のプロトタイプとも言える機体で、俺の紋章機もこの機体から受け継がれているものが多い。

 

その性能は全てにおいて、常識の範疇を超えている・・・

 

スペック的に戦いに持ち込めるのはせいぜい、シャイニング・スターかエクレア達のオリジンしかないだろう・・・

 

そして、特にその火力においては紋章機に限らず、この世で勝るものは存在しないだろう・・・

 

あのメタトロンも倒してきたのが、何よりもの証拠だ。

 

それは、エクレアが既に証明している・・・

 

その中でも、最も危惧すべき攻撃はオメガ・ブレイクとあのラグナロクだろう・・・

 

どちらの攻撃も一つの宇宙を簡単に滅ぼしてしまうほどの広範囲攻撃魔法なのだ。

 

いかに、シャイニング・スターといえどもあの攻撃からEDENとNEUEを守るのは不可能だ・・・

 

となれば、閉鎖空間での戦闘が絶対条件となる・・・

 

その点に関してはエクレアが何とかしてくれるとの事だが、相手が相手だ・・・そんな、悠著な事を見逃してくれるだろうか・・・

 

そして、いざ戦闘が始まったとして、俺達はどう戦えばいいのだろうか・・・

 

悪いが、他の紋章機ではアルフェシオンの良い的にしかならないだろう・・・

 

自惚れなどではなく、ネオ・ヴァル・ファスクとの戦いから俺達はそれを思い知らされている・・・

 

そもそも、人型の戦闘機に対して飛行タイプの戦闘機は分が悪すぎる・・・ましてや、相手があいつなら自殺行為に等しい・・・

 

魔法攻撃にはエクレアを・・・そして、あの雨のようなフライヤー攻撃はカズヤに何とかしてもらいたいのだが、その結果は先日、イヤと言うほどに見せ付けられている・・・

 

ならば、俺とシリウスによる近接戦闘がメインになるとは思うのだが・・・

 

アルフェシオンが召喚したスレイヤー・オブ・デステニーが脳裏に蘇る。

 

スレイヤー・オブ・デステニーの威力は俺が一番よく知っている・・・

 

もし、あの剣で斬りつけられようものなら、無事では済まないだろう・・・

 

だから、スレイヤー・オブ・デステニーを持たないオリジンでは分が悪い・・・

 

結局は、俺が何とかするしかないのだが、紋章機の生みの親であるレイは俺達の紋章機の長所と短所を知り尽くしている・・・

 

だから、馬鹿正直に近接戦に付き合うとは思えない・・・おそらくはその随一の機動性を活かしてのヒットアンドウェイを仕掛けてくるだろう・・・

 

        ・・・・・やはり、シャイニング・スターの機動性を上げるしかないのだが、シャイニング・スターの機動性はもうこれ以上の進展は望めそうにないとロキに言われている・・・

 

物理的に不可能なそうなのだ・・・

 

ブースターを増設したとしても、それは直線状だけお話だし、ブースターは攻撃をすれば誘爆を起こしかねないし、重量もある・・・

 

取り外しが自由だとしてもAI操作によるブースターなどレイが見逃す訳がない・・・

 

やはり・・・“アレ”しかないのか・・・

 

前大戦時、ラスト・リヴェンジャーを倒した後、俺は一つのプランを考案していた・・・

 

それは・・・対アルフェシオン用のプラン・・・

 

ここは、格納庫の休憩室・・・

 

今の時間帯はロキが休憩をとっている・・・

 

「・・・どうだ?」

 

流石のロキもこのプランには眉を潜める・・・

 

「・・・理論的に不可能ではないが、どう抗っても日日がかかる・・・それも、一ヶ月以上だ・・・」

 

「分かってる・・・」

 

レイとの戦いまで後、一週間をきっている・・・

 

どう考えても、無茶だ・・・

 

分かってる・・・

 

しかし、それでも・・・

 

「でも、これしか対策が思いつかないんだ・・・」

 

はっはっはっ!随分、無様なことだな!

 

「それに、一度その改造をするのなら、紋章機は完全に解体してからの作業になる・・・その間にレイに責められたらそこでジ・エンドだぜ?」

 

そう・・・これは、命を懸けた戦い・・・

 

俺の言ってる事がそれを無視していると言われても仕方ないのだが・・・

 

あいつと戦うにはそこまでのリスクを負わなければならない・・・

 

「わぁったよ・・・幸い“シャイニング・スターの方にはそんな大層な改造を施す必要はない”・・・後は、“あの二人”に許可を得れば、あの二人の紋章機の改造に移るぜ。」

 

「すまない・・・」

 

「いいってことよ・・・それにお前だけが今度の戦いでは頼りなんだからよ。」

 

そう言いながら、ロキは俺の肩をポンポンと叩いた。

 

その後、俺は“その二人”の元を訪れた。

 

「ええっ!?」

 

「そ、そんな・・・」

 

案の定、カズヤとリコは突如の改造案に戸惑いを隠せないようだ。

 

(そんな・・・せっかくリコと協力して戦おうとしていたのに・・・でも・・・それは僕の我侭でしかない・・・)

 

「君達が俺の我侭に憤りを感じるのは分かる・・・でも、それでも今回だけは協力してほしいんだ。」

 

俺は二人を交互に見渡してそう告げたのだが・・・

 

「酷いなぁ・・・僕達はいつもタクトさんの我侭に付き合ってきたじゃないですか・・・」

 

「・・・ぅ」

 

「カズヤさんの言う通り、今更しそんなみずくさいことを言わないでくさい、タクトさん。」

 

「カ、カズヤ・・・リコ・・・?」

 

二人の表情はしょうがないなぁといった苦笑気味の笑顔だった・・・

 

「いいのか・・・?」

 

「いいもなにも・・・これは、戦争なんです。そして、タクトさんが一生懸命に考えて出した手段なんですから・・・僕達はタクトさんの案を信じます・・・」

 

「それに、必ず間に合わないという訳でもないですから・・・そんなに気にしないでくださいね。」

 

「・・・・・・二人共、ありがとう。」

 

その後、ロキ達により、ブレイブハートとクロスキャリバーの改造が始まった・・・

 

しかし・・・

 

現実はそう甘いものではなく・・・

 

俺達は決戦の時を迎えた・・・

 

レイ・桜葉は約束通り、二週間後にトランスバール宙域に現れた。

 

〜最強〜

 

結局、ブレイブハートとクロスキャリバーの改造は間に合わず、俺達はカズヤとリコを覗いたメンバーでレイと対峙する事になった・・・

 

「まさか、カズヤとリコが欠員するとはな・・・」

 

レイの第一声がそれだった・・・

 

俺達、エンジェル隊は俺のシャイニング・スターを先頭にして配列しておいた。

 

俺のすぐ隣にはエクレアとシリウスのオリジンが・・・

 

そして、俺の正面 70000km先にはレイのアルフェシオンがいた。

 

敵はたったの一機・・・

 

しかし、その一機のおかげで今までのどんな戦闘よりも厳しいものとなるのは明らかだ・・・

 

はたして、生存の確率はあるのだろうか・・・

 

「カズヤとリコを欠くとは、この俺も随分と舐められたものだ・・・」

 

レイのアルフェシオンが戦闘態勢をとる・・・

 

「みんな、今回の作戦はあまりにも無謀だ・・・だから、危険になったらすぐに離脱してくれていい・・・」

 

俺は、卑怯だ・・・

 

あのレイがそんな事を許す訳がないのに・・・

 

無論、それはエンジェル隊も気付いている・・・

 

「お馬鹿なことはよしとくれ・・・みんな、この戦いから逃げれない事を知っていて参戦してるのさ・・・」

 

先に口火をきったのはフォルテだった。

 

「あんただけじゃないんだよ・・・あいつに頭がきてるのは・・・」

 

そう言って、フォルテはレイに照準を合わせる・・・

 

「フォルテ・シュトーレン・・・一番最初に死にたいと見受けて構わぬか?」

 

「ああ、構わないさ。」

 

「ほぉ・・・」

 

「ただし、あたしが死ぬのはあんたが死んだ後だけどね。」

 

「・・・・・・」

 

フォルテの目に宿る確固たる意思を見てレイはフォルテが本気である事を悟った。

 

「その心意気は確かに軍人のものだが、肝心のパイロットの技量が三流というのはな・・・哀れだな。」

 

「そうやって、見下してばかりのあんたには進展というものがない、あたしから見れば哀れなのはあんただよ。」

 

「御託はここまでだ・・・」

 

レイの照準がフォルテに切り替わる。

 

「待て、お前の相手はフォルテじゃない・・・俺達、エンジェル隊だ。」

 

シャイニング・スターがモードをRAGEに移行して、スレイヤー・オブ・デステニーを召喚した。

 

「ふ・・・いきなりか?」

 

それに対してレイは敢てアルフェシオンのモードをRAGEに移行しなかった・・・

 

「・・・どういうつもりだ?」

 

「ふ、予定では最初から全開でお前達を叩き潰すつもりでいたのだが・・・今のお前達を見ると哀れに思えてきてな・・・」

 

こ、この・・・

 

「その余裕を後悔に変えてやる!」

 

(お兄ちゃん・・・)

 

俺を先陣にしてエンジェル隊はレイに攻撃を仕掛けた。

 

そして、再び天使と悪魔の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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