〜最強の敵〜
「くっ・・・」
俺は、敵との距離を詰めようとするが、敵は難なく俺との一定の距離をキープし・・・
「うっ!?」
「きゃあ!?」
カウンターのフライヤーがまるで連動制御のように的確にヒットする。
この世で最強と言われるレイ・桜葉との戦いはカズヤとアプリコットの欠員という重いハンデを背負ったまま、開始された。
「くそ・・・」
しかし、ひとつ不可解な事がある・・・
あいつは今だに自分から攻撃に転じた事がない・・・
そして、カウンターを当ててくるのは俺のシャインニング・スターとエクレアとシリウスのオリジンのみで他の紋章機に対しては一切、攻撃をしていないのだ。
「・・・・・・」
今回、こいつは俺達を間違いなく殺しに来た筈だ・・・俺の直感がそう告げているんだ・・・
にも関わらず、レイは以前、冷静に守りに徹している・・・
「チィッ!」
フォルテはその持ち味である重火器でアルフェシオンを狙い撃ちするが、一向に当たらない・・・
「当たって!」
ちとせもアルフェシオンをしきりにアルテミスで狙い撃ちする・・・しかし・・・
「す、凄い・・・」
限りなく回避不能に近い一撃必殺の矢をレイはまぐれなどではなく、明らかに見切って回避しているのだ・・・
「・・・・・・・・・」
それでも、レイは以前として、攻撃に転じようとはしない・・・
それは、やがてエンジェル隊に言いようのないプレッシャーを与えていく・・・
勝てるのか・・・
それとも・・・いつ攻撃してくるのか・・・
エンジェル達は理解している・・・
目の前の敵はこの世のどんなものよりも攻撃性に特化した化け物だと・・・
GRA-000 アルフェシオン
本来の役目は開発者に造反した紋章機達を監視・・・もしくは処刑すること・・・
紋章機の制裁者・・・
その紋章機が、自分達を殲滅する手段を持ち合わせてない訳がない・・・
怖い・・・
あの紋章機が“その攻撃”を仕掛けてくるのがとてつもなく怖い・・・
しかし、その恐怖感は天使達をただひたすら攻撃へと誘う・・・
「あきらめない・・・か・・・」
レイ・桜葉は諦めの悪い者を嘲笑う・・・
諦めが悪い・・・それは、状況を認識できずに駄々を捏ねている子供と何も変わらないと・・・
「・・・まだ、続ける気か?」
レイが久々に口を開くと天使達の焦燥感を直に刺激する・・・
「当たり前だ!」
その先頭に立つのが、エンジェル達の指導者であるタクトがレイとの距離を必死に詰めようとする・・・
「・・・・・・まるで、子供そのものだな。」
レイは下げずむようにタクトに言い放った。
「何!」
タクトはスレイヤー・オブ・デステニーを伸縮させてまでレイを狙うが、当のレイは斬り合う気が全く無いのか、ただひたすら回避にばかり専念する・・・
レイの技量がタクトより上なのは明らかだ。
「このぉっ!」
それでも、タクトは諦めない・・・
それは、タクトが諦めたらそこで終わりだと知っているからだ。
投降する気などありはしないし、万が一投降したとしても、幽閉か処刑かのどちらかだろう・・・
最も、レイは後者だろうが・・・
「お前達は子供だと言ったのだ・・・」
「言いたい放題言いやがって!」
タクトがアフタバーナーをふかして急接近するもレイはあっさりと、姿を消失させて離れた場所へ移動する
ブラック・アウト
「ぐっ!?」
「きゃ!」
そして、姿が見えたと同時にカウンターのフライヤーの高出力ビームが直撃する。
「結果が分かっていながらも諦めようせずにただひたすら適わぬ相手に抗う・・・それを子供と言わずして何と言うのだ?」
「そ、それはお前が世界を滅ぼそうとしているからだろう・・・!それを諦めるなんてできる訳ないだろう!」
俺は、ふらつく頭を抑えつつ、あいつの位置を捉える・・・
「本当の馬鹿だな・・・俺がいつこの世界を滅ぼす等と言った?」
「だが、俺達を殺すつもりなんだろう!?」
「ああ、そのつもりだ。」
「その言葉だけで十分だ!絶対にお前なんかに降参するか!」
「ああ!タクトの言う通りだよ!あんたに降参するなんて真っ平御免だね!」
「視野が狭いな・・・話し合いで解決しようとする選択肢はないのか?」
「ふざけた事を言いでないよ!」
ハッピートリガーのツインレールガンがアルフェシオンを的確に捉え、発射されたが・・・
「話にならんとはまさにこの事か・・・」
レイはハッピートリガーのレールガンの射線とほんの数センチの距離を離し回避した。
「あんたみたいに他人が気に食わないと理由だけで戦いを仕掛けてくるような馬鹿に何を話せと言うんだい!?」
フォルテは諦めずに一斉射撃を開始した。
「ふ・・・僚機との連携を全く考えてないとしか言いようがないな。」
今度はレイは避けようとはしない・・・
否、避ける必要などない・・・
ハッピートリガーの砲撃はターゲットに被弾することなくアルフェシオンをすり抜けていった・・・
「いい加減に鬱陶しくなってきたな・・・」
腕組みされていたアルフェシオンの手が解かれその右手がハッピートリガーの方を向いた。
「まずい!フォルテ!」
俺は直感的にフォルテがやられると思った!
あのアルフェシオンの行動はヘル・バイスの前兆だ!
ヘル・バイス・・・相手の構成を読み取った後で空間による圧縮をかける回避不能の攻撃だ。
ハッピートリガーが食らえばひとたまりもない!
「・・・・・・まずはお前から死ね。」
レイから放たれた殺気にフォルテの体は金縛りにあったかのように動かなかった。
「く・・・」
これにはトリックがある・・・
昔、刀が主流の時代・・・
とある剣匠が三人の剣士に囲まれた時、その剣匠は真ん中の剣士には視線を向けず、左右の剣士に視線を配った後で真ん中の剣士に斬りかかり、三人を打ち倒し、その機器より脱したというものだ・・・
つまり、人は集団で戦いをしていて尚、相手が一人の場合、その相手をもの凄く注意深く見る・・・
そして、その相手が視線を向けてきた時に受けるプレッシャーはやり直しのきかない殺し合いならばその重さは計り知れない・・・
その人間の本能を知り尽くしていたレイはそこまで計算していたのだ・・・
戦場馴したフォルテが慎重派な事をレイは知っていて、それを逆手にとったのだ。
「・・・・・・ふ」
まさに、ハッピートリガーがプレスされるその時・・・
「待ちなさい!」
アルフェシオンの周囲の空間が歪み始めた。
それは、アルフェシオンがヘル・バイスを食らった事を意味した。
「エクレアか・・・」
それでも、レイはつまらなげにエクレアが仕掛けたヘル・バイスをかき消した。
「お前にヘル・バイスを教えたのは俺だ・・・その俺にヘル・バイスを二度も放つのは呆れるのを通り越して明らかな愚だぞ?」
「ちぃっ!」
しかし、そこはオリジン・・・
シリウスはあっという間にアルフェシオンとの距離を詰めた・・・というより、レイが動かなかったからだろう・・・
「・・・っ!」
当然、タクトをこれを機ととり、アルフェシオンとの距離を詰める・・・
「オラァ!」
オリジンの右手にデスクローが召還され、アルフェシオンに襲い掛かる。
「いかに機体が高性能といえども、パイロットがこの程度ではな・・・」
なんとレイはオリジンの右腕・・・いや、いたるところを粒子状ワイヤーで絡めとり、オリジンの動きを完全に封じ込めた。
「直線状に突っ込んでくるとは迂闊だぞ、シリウス・・・」
「く、くそ・・・」
オリジンが足掻いてるところにタクトがスレイヤー・オブ・デステニーで斬りかかる。
それに対して、レイはオリジンの相手をしてる上に丸腰だ。
スレイヤー・オブ・デステニーは真剣白刃取りできるような代物ではない・・・
絶対消滅という因果を持った思念体ともいえる反則的な武器である・・・
「ふん、馬鹿め・・・」
「・・・っ!?」
どうするもこうもなかった・・・
レイは捕獲したオリジンを楯にしたのだ。
確かに、褒められた策ではない・・・
しかし、戦場では当たり前のこと・・・
戦士ならば当たり前のことなのだ・・・
そして、レイはれっきとした戦士だ。
「こ、こいつ・・・」
タクトはやむを得ず、距離を離す。
「シリウスくん!エクレアちゃん!」
「か、母さん・・・」
「何とも無様な・・・」
「お兄ちゃん・・・あなたという人は・・・」
アプリコットは拳を握り締めて兄を睨むが、その事をレイは知る由も無かった。
これが、レイ・桜葉の戦い方である・・・
複数で単体の敵に攻撃を仕掛けるのは間違いなく理想だ・・・
しかし、レイ・桜葉はそれを逆手にとる。
「お前達・・・マスターが単体の敵に複数で攻撃を仕掛けるのは必ずしも正解ではないという言葉を忘れたのか?」
死神のメシアとレイ・桜葉の違いはここにある・・・
死神のメシアは派手な攻撃を仕掛けたり、基本的には自分より攻撃を仕掛け、強引の相手の陣形を外部より破壊する・・・
それは、先手の攻撃・・・
それに対し、レイ・桜葉は相手の力、相手の切り札を逆手にとり、自身の攻撃はあまり見せずに相手の陣形を内部から破壊する。
それは、後手の攻撃・・・
最大の特徴はレイには無駄がないのだ。
その名前の零(ゼロ)のように・・・
「さぁ・・・どうする?」
レイはあくまで無表情にタクトに問いかけた。
「二人をどうする気だ・・・」
自分でも馬鹿な返答だと思う、あいつは俺達を殺す為に戦いを仕掛けてきたのだ。
ならば、あいつがどうする気なんて分かりきった事じゃないか・・・
しかし、あいつから帰ってきた言葉は意外なものだった・・・
「そう言うお前はどうしたい?」
「何だと・・・」
「この二人を助けたいのか?それとも、見殺しにして俺と戦うか?」
「前者の方だ!」
「なら、俺の要求を受け入れるか?」
「要求・・・」
それは意外だった・・・
こいつが要求だなんて・・・
「・・・要求とは何だ?」
「ふ、人質が出来た途端に素直な事だな・・・」
「レイ・・・あなた・・・」
エクレアはレイを睨みつけるが、レイがその視線を視界に入れる事は無かった。
「早く言え!」
「おい、馬鹿女・・・」
レイはそう言って、自分と瓜二つな妹に視線を向けた。
「え・・・」
兄がいつも呼んでいた自分の名前だ。
だからこそ、ミルフィーユは期待した・・・
兄が本当は自分達を殺すつもりはないのではないかと・・・
現に今までがそうだったからだ・・・
「お前・・・」
しかし、次の言葉はそんな兄妹関係を度外視した痛烈なものだった。
「ここで、自害しろ。」
「・・・っ!」
妹は兄の言葉が信じられないといった感じで眼を見開いている・・・
「レイ!あなた・・・!!」
エクレアとシリウスは激しく抗う・・・
「大人しくしろ・・・」
「く!」
「うぅ!」
高圧の電流が二人を強引に黙らせた。
しかし、そんな抵抗はこのレイの前では無意味だった。
「な、な!?」
俺は頭がおかしくなりそうだった・・・
こいつは今、何て言った?
自害しろ・・・?
どうして・・・
「何を呆けている・・・元より、俺はお前を殺す為に戦いを仕掛けたのだ・・・なら、この要求は想定の範囲だろう?」
自害しろだなんて・・・そんな事を・・・よくも・・・平然と・・・
「お、お兄ちゃん・・・どうして・・・」
そんなに私を目の敵にするの?
ミルフィーユの目からは既に涙が零れていた。
「どうしてか?」
レイは軽く嘲笑い吐き捨てるように答えた・・・
「気味が悪いんだよ・・・お前を見てると自分をみているようでな・・・」
レイの眼は嫌悪感に溢れていた。
「その上、この上なく馬鹿で世間知らずでこの世全てを善だと勘違いしてる程の能天気ぶり・・・」
ミルフィーユは下を俯いたまま顔を上げない。
ただひたすら耳を押さえた。
「そもそも、お前の面倒もマスターの命令だから嫌々していたようなものだ・・・」
「シャイニング・スター・・・」
今から、俺は何もかもも犠牲にしてでもあのクソ野郎に一太刀報いる・・・
「元より俺のターゲットは馬鹿女、お前だった・・・」
これ以上、あいつに喋らせたくない・・・
「お前がこの世から消えてなくなれば・・・俺は・・・」
「貴様――――っ!!」
怒り狂ったタクトは彗星の如くレイに向けて突進した。
それはシャイニング・スターも同じ意思だった。
(やはりな・・・馬鹿女を泣かせればお前が馬鹿正直に斬りかかてくると確信していた・・・)
「俺達の前から消えろーーーっ!!」
「断る・・・お前達こそ、俺の前から消え失せろ・・・」
アルフェシオンはオリジンを解放し、シャイニング・スターを迎え撃つ。
背中に漆黒の翼が現れ・・・その右手にスレイヤー・オブ・デステニーが握られた。
その瞬間・・・
レイ・桜葉という最強の存在が本気になった・・・
「こ、この感じは!?」
その如何なる者も圧倒する威圧感にタクトは怯んみ、その動きを止めた。
その威圧感は命の勘定が出来ぬほど憤怒した者ですら強引に冷静に引き戻す。
「あ、あの時と同じだ・・・」
白き月でのあいつとの死闘が蘇る・・・
あの威圧感に圧されて何もできずに惨敗したんだ。
タクトは反射的に身構えた。
それをレイは見逃さず、次のトリックにかかった。
(ふ・・・)
レイはスレイヤー・オブ・デステニーを前に突き出してタクトを牽制する。
反射的にタクトは自分と同じ剣へ意識を集中させる。
スレイヤー・オブ・デステニーは相手の再生能力すら無効化してしまう殺傷能力がある・・・
それは限りなく真剣の刀に似ている・・・
(駄目だ・・・この威圧感に負けたらあの時と同じだ!動かないと・・・動かないとやられる!)
そして、タクトはレイの剣の刃先に意識を集中する・・・
それは、間違いではなく正解だ・・・
しかし、それを逆手にとるのがこのレイ・桜葉である。
(問題はいつ動くかだ・・・)
レイは人の心をいとも簡単に読む事ができる・・・
例え、紋章機に搭乗してレイを顔を合わせてなくてもレイが読むと決めた時点で心の回線がレイへ情報を流していく・・・
(もらったな・・・)
レイは剣を横へ寝かせるように持ち替えた。
薙ぎ払いの構えといえば分かるだろうか・・・
「・・・っ!」
その瞬間、タクトが斬りかかる!
何故なら、その構えは明らかに隙があったのだ。
しかし、剣の戦いは刹那で勝負が分かれる・・・
その刹那を見極めた者が勝つ・・・
それは、戦いにおける絶対なる掟・・・
「・・・っ!?」
アルフェシオンに斬り付ける瞬間にシャイニング・スターの右手が斬り飛ばされたのだ。
しかし、タクトはすぐさまに左手にスレイヤー・オブ・デステニーを召喚しようとしたが、召喚しようと考えた時には既に左手は宙を回っていた。
それは、当たり前の事だった。
レイは最初から右手の後に必ず左手を切断できると確信していた・・・
だから、右手の切断に成功した瞬間に連動制御の如く、左手の切断に移ったのだ。
この間、僅か三十秒足らず・・・
レイが最強といわれる所以はせの刹那の見極めが完全だからとも言える・・・
「俺の勝ちだな・・・」
レイは勝利宣言をした。
それは、自惚れなどではなく現実だ・・・
「く、くそ・・・」
「二週間前に言った筈だ・・・お前も他の雑魚と何ら変わらんと・・・」
オリジンに続き、シャイニング・スターが倒れた今残る戦力はGAシリーズとRAシリーズのみ・・・
数で考えれば不利なのは明らかにアルフェシオンの方だろう・・・
しかし、どう考えても不利なのはエンジェル隊の方だった・・・
このレイ・桜葉は単体で最強の座を保っている・・・
最強と連呼するのは何故かと思うかもしれないだろうが・・・それは、このレイこそがこの宇宙の絶対者だからに他ならない・・・
「さぁ・・・どうする?エンジェル達・・・」
レイはスレイヤー・オブ・デステニーを解除しながら天使達を挑発した。
「どうする・・・か・・・その答えなんか最初から決まってるよ・・・」
フォルテは臆すことなくレイの目を見据えた。
「どうせ、諦めないだろう?」
「勝手に決めつけんじゃないよ・・・諦めないっていうのは勝てない相手に向かって言う事だよ・・・」
「フォ、フォルテ・・・」
俺は、それがフォルテの強がりだと分かっていた・・・
勝ち目など天地がひっくり返ったとしてもある訳がない・・・
ミルフィーは俯いたままで、エクレアとシリウスも気を失っている・・・
どこにも勝機なんて見えない・・・
なのに・・・
「そうよ・・・カンフー・ファイターの扱いならあんたなんかに引けもとらないわよ。」
「私も同感ですわ・・・私のフライヤーは優雅に舞うのです・・・」
「あぁ!おれのレリック・レイダーだて数々の戦場を駆け抜けてきたんだ!お前なんかに負ける訳がねぇ!」
皆・・・自分の紋章機を励ましている・・・
天使達は自分達の紋章機があのアルフェシオンを怖がっているのに気がついていた。
だから、励ましているのだ。
怖気づくなと・・・
諦めてやられるより、戦いぬいた方がマシだと・・・
分かっている筈だ・・・
あいつが俺達を本気で殺そうとしている事に・・・
しかし、天使達は怯まない・・・
「みんな・・・」
「レイ・・・あんたに教えてやるよ・・・あたし達エンジェル隊の底力ってやつをね・・・」
「ふ、お前達に教わる事など何もありはしない・・・寝言は死んだ後でほざけ・・・」
しかし、この男はそんな純粋な天使達を容赦なく叩き潰した・・・
アルフェシオンの使い魔達が天使達の紋章機を容赦なく滅多撃ちにする・・・
それこそ、お前の存在を認めないと言わんばかりに・・・
そのアルフェシオンの攻撃はまさに制裁そのものだった・・・
「や、やめろぉぉぉーーー!!」
俺の叫びは空しく木霊するだけだった・・・
天使達の紋章機は爆散する事はなかったが、もはや修復は不可能と言わんばかりに大破していた。
「ち、ちくしょう・・・ちくしょう・・・!」
叫びたかった・・・
しかし、それは俺のプライドが許さなかった・・・
俺が叫んだ瞬間、あいつは待ってたと言わんばかりに笑い飛ばすだろう・・・
それに俺はまだ戦えると思ったからだ・・・
「レイ・・・まだだ・・・まだ終わりじゃない!」
「確かに・・・お前を殺さねば終わりではない・・・」
「お待ち・・・あたしはまだやられちゃいないよ・・・」
フォルテは額からながれる血を気にせずにレイを睨みつけた。
「わざと・・・生かせておいてやっただけだ・・・調子に乗ると痛い目にあうぞ?」
「・・・絶対に一撃当ててやるよ・・・絶対にね・・・」
フォルテはぼやけた視界の中でもレイから視線を逸らさなかった・・・
「当たって欲しいのなら当たってやるが?」
そんな、フォルテを敢て挑発するレイ・・・
「ふざけんじゃないよ!」
ハッピートリガーが放った起死回生のレールガンは確かにアルフェシオンに直撃した。
「確かに当たってやったぞ・・・」
しかし、所詮は直撃しただけでアルフェシオンに何のダメージもなかった・・・
「もういいだろ?」
レイはフォルテに向けてトドメの一撃を加えた。
ヘル・バイス
ハッピートリガーはその圧縮地獄にプレスされ完全に息の根を止められた・・・
「フォ、フォルテェェーーー!」
「さて・・・お前の番だな・・・」
ふざけるな!
「シャイニング・サァァァーーーーーン!!」
俺は、起死回生のシャイニング・サンを放った!
「・・・やれやれ」
それに対し、レイはオメガ・ブレイクを発動した。
対を成す二つの浄化魔法はお互いを相殺し合い何事もなかったような静けさが戻る・・・
「夢を見たまま無へと帰すが良い・・・」
一瞬、視界が暗くなったかと思った瞬間、アルフェシオンの周りを黒い紫電が走り始めた。
まさか・・・あのメタトロンをも消滅させた・・・
神々の黄昏
あれを防ぐ手段を俺は知らない・・・
しかし、このまま何もしないで殺されるよりかはマシだ!
俺はシャイニング・スターのフィールドを全開にしてその最強の攻撃に備えた。
「面白い・・・こいつに耐え切れるのなら、堪えてみせろ・・・」
レイがラグナロクを発動させようとした次の瞬間!
「やらせない!」
アンチ・ラグナロク
「チ・・・」
レイのラグナロクをかき消したのは他の誰でもない・・・
気を取り戻したエクレアとシリウスだ。
「私を解放したのはあなたらしくないミスだったわね・・・」
「確かに・・・返す言葉も無いな・・・」
レイは軽く自嘲してターゲットをオリジンへ絞った。
「レイ、あなた・・・ここが何処だか分かっていながら、アレ(ラグナロク)を放ったの?」
ラグナロクは如何なる存在も許さない全域消滅魔法であり、EDENの中で発動させようものならEDENは完全な無と化していただろう・・・
エクレアはレイに軽蔑の眼差しを向けた。しかし、当のレイは全く気にした様子もない・・・
「だと言ったら?」
「・・・なら、あなたは間違いなく死神そのものよ・・・“彼”と何等変わりないわ・・・ただの下衆よ・・・」
ふん、下衆か・・・
「ふ、相変わらず甘い・・・これは戦争だぞ?」
「全宇宙を滅ぼす戦争なんて全く無意味だわ・・・」
「勿体ぶるな、エクレア・・・俺の行動が気に入らないのなら、正直に言ったらどうだ?」
エクレアが悔しげに唇を噛んだ。
「隊長・・・!」
その一言に耐えられなかったシリウスはオリジンの右手にエデスクローを発生させて、斬りかかった。
「タクトといい、お前といい・・・どうして、斬りかかり方がワンパターンなのやら・・・」
レイは機体を反転させてシリウスの攻撃をやり過ごした後、オリジンを蹴り飛ばした。
「ぐっ!野郎!」
シリウスはカウンターでフライヤーを射出する。
「そして、カズヤといい、お前といい・・・どうして、フライヤーを無駄に射出するのやら・・・」
レイは自機のフライヤーを一機だけ射出し、シリウスのフライヤーを次々と撃破していく・・・
「ちくしょう!」
「無駄な事が多すぎるんだよ・・・」
バチュン!
フライヤーの高出力ビームがオリジンに被弾する。
「く・・・強い。」
「世辞はいらん・・・早々に死ね。」
レイはハッピートリガーにトドメを刺したヘル・バイスをもう一度放とうと構える。
「やらせるかーーー!」
俺は、諦めずに足に発生させたクラウ・ソラスでの援護攻撃に入った。
「鬱陶しい・・・」
しかし、レイは素早くスレイヤー・オブ・デステニーを召喚し、シャイニング・スターの両足を切断した。
「く、くそ・・・」
「ふ、ふふふ・・・」
もう駄目かと思ったその時、レイが珍しく薄気味の悪い笑い声を出した。
「そうかそうか・・・存外に諦めが悪いと見える・・・」
な、何だ・・・息が苦しい・・・
そして、俺達は一瞬の間でどこかの閉鎖空間へ閉じ込られ、そこにはオリジンと俺のシャイニング・ススターしか、存在していなかった。
「な、何・・・これ・・・アレ(ラグナロク)じゃない・・・」
「か、身体がうごかねぇ?!くそ!」
「冥土の土産に教えてやる・・・俺のラグナロクは時を止める・・・それは、相手をせめて気付かぬ内に滅そうとする慈悲の表れ・・・」
アルフェシオンが様々な色に変化していく・・・
直感が告げている・・・
デカイのがくると・・・
「シャ、シャイニング・スター・・・」
俺は声を絞り出してシャイニング・スターにフィールドを展開するように命じた。
みんなを守りたい・・・
その一心で俺はフィールドの展開に魂を込める。
「しかし、こいつは違う・・・相手の自由は奪うが時は止めん・・・意識があるまま、動けぬまま滅びていく恐怖を味合わせる為にある・・・」
レイがタクトに嘲笑うかのような視線を投げかけて告げた。
「タクト・・・いつもの奇跡とやらでコレを防げるものなら、やってみろ・・・」
そして、レイ・桜葉が隠していた最強の攻撃が遂に発動された!
「インフィニティ・・・」
次の瞬間、一瞬にしてメタトロンのディス・フレアに匹敵する程の爆発が起こった。
万物は無限に発生する・・・
「うわぁぁーーーー!!」
な、なんて威力なんだ!メタトロンの攻撃を防ぎきったフィールドが早くも限界を訴えてる!
「タ、タクト・・・このままじゃ!」
「もってくれえええぇぇぇーーーー!!」
持続時間がさほど長くはなかったおかげでフィールド展開率はギリギリで保たれた・・・
「ぅ・・・」
「・・・っ」
エクレア達の意識は朦朧としている・・・
メタトロンとは違いレイは無駄な時間を嫌い、己の隙を必ず許さない・・・
それ故に、高出力な魔力を最大全開で一瞬にして解放したのだ。
ははは!メタトロン戦の時にレイが合格だって言っていた意味が理解できたか?
そして・・・全ては無へと帰す・・・
「ゼロ」
全てを飲み込む無が周囲から襲い掛かってくる・・・
全ては無限から零で成り立っている・・・
無限からゼロへ・・・
インフィニティ・ゼロ
いかなる存在をも許さないラグナロクの唯一、上位に立つ究極の神魔法・・・
あばよ、タクト・・・
「や、やめて・・・お兄ちゃん・・・」
その声はミルフィーユ・桜葉のものでは無い・・・
「・・・っ!?」
次の瞬間、レイはインフィニティ・ゼロを解除し、タクト達は固有結界より解放された・・・ってオイ!?
「・・・・・・コ?」
レイはボソリとその名前を呟いて、姿を消した。
ちょっ!?何考えてんだ!お前!?
「てて・・・あいつ・・・」
俺はさっきまで、アルフェシオンがいた所を見つめていた・・・
今は、悔しいというよりも突然のレイの奇行が頭から離れなかった・・・
何にせよ・・・この戦いは完膚なきまで俺達の負けだった・・・
やがて、救助部隊の姿が見える・・・
しかし、まだ終わりじゃない・・・
まだ、終わりじゃない・・・
俺達は生きているのだから・・・