季節は春・・・
俺と健太は小学校を卒業し、中学生となった。
正直、俺も健太も中身はほとんど変わらなかったが・・・
まぁ、俺達が中学に上がるまでの間にも色々な事があったりしたのだが・・・それについては今回は割愛させてくれ。
「見た事のねぇ奴がかなりいるな?」
「当たり前だ。只でさえ人数の少ない地域だ。中学ともなれば、統合ぐらいするだろう。」
俺達は新入生として体育館の前で待たされている。
そんな中でも俺達は注目されていた。
正確に言うと俺ではなく、健・・いや零士がだ。
阿部 零士・・・その整った顔立ちは中学生になって更に際立ち、上級生から噂になっていたその能力と共に全校生徒からの注目を浴びた。
入学式が終わり、色々な紹介が終わり・・・
俺達はいつも修行に入る。
「お前さぁ・・・何て言うか・・・」
「何だ?」
「露骨にあしらいすぎちゃぁいねぇか?」
俺が指摘したのは入学式後のコイツの態度だ。
当然のことながら、漫画のように零士の周囲に色んな人間が集まりだした。
まぁ、お約束の質問タイムに入った訳だが・・・
「さぁな・・・」
「多分な・・・」
とか繰り返したおかげで当然ながら、一部の奴等からはあきらかに嫌われてしまった。
当然、人相が悪い“相棒”であるこの俺も例外ではないみたいで似たような批難の視線を向けられた。
今、俺達は修行の場である山を目指してジョギング中だ。
あのクソジジイに師事してはや一年ばかり・・・
今でこそまだまともになったが、実は何回かは脱走を試みた事がある・・・
そりゃあ、腕立て200回なんて言われた日にはなぁ・・・?
まぁ、その度にアイツ(璃子)がお迎えに来て結局半ば強制的に戻らされ・・・
あのクソジジィに何回殴られた事か・・・
「あ〜あ・・・着いちまいやがった・・・」
「・・・始めるぞ。」
はじめはやれ文句を言うなとかやれやるまでは何も変わらんなどと珍しく熱く語っていた“相棒”も、もはや“始めるぞ”の一言で済ませるようになった。
「あ〜クッソォ!さっさと終わらせちまうぞ!」
キツかった腕立ても今では200回は当たり前だと思えるようになったのは一体、師事してから幾時が過ぎた時の話だろうな・・・
中学生の初日の授業では自己紹介から始まる。
「古牙亮、趣味は・・遊ぶ事か?よろしく頼むな。」
俺の自己紹介の時、クラスの何人かが嫌そうな目で俺を見たのが分かった。
直感的にこいつ等とは今日の内に殴り合いになると分かった。
そして、名前で出席の順番が決まっていた為、しばらくするとあいつの自己紹介が始まった。
「阿部零士・・・よろしくお願いします。」
この無愛想な自己紹介に最初に噛み付いたのは先公だった。
「阿部、趣味は?」
「言う必要が無いので言いません。」
「・・・お前、その態度は何だ?」
「・・・・・・」
突然の険悪のムードにクラスは騒然となった。
「零士、放課後に来い。」
「お断りします。」
「・・・なら、お前の両親を呼ぶ事になるぞ。」
「ご自由に・・・しかし、親はこちらに赴きません・・・」
「舐めてるのか!?」
遂に教師が化けのツラをはがす。
「先生が自分の事をどう思うのかまでは自分では分かりません。」
ある意味、零士がガキじみているのだが・・・この教師が気に食わないのは俺も同じだった。
これには理由があり零士はこの教師の本質を見抜いてたので嫌悪していたのだ。
「いい加減にしろ・・・」
生徒の見ている前で零士を掴もうとするが、零士を掴むなど素人には不可能だ。
零士は立ち上がり、教師の手を軽々とかわした。
「こ、この!」
焦る教師の手は何度も雲を掴むだけだ。
おそらくは羞恥心が刺激されたのだろう・・・
教師は遂にはムキになって拳を振り回し始めた。
「おいおい・・・」
俺は誰に言うでもなくそう呟き、教師の前に立ちはだかった。
「何だ!?」
「そんなにムキにならなくても・・・ただ単に趣味を言わなかっただけじゃないっすかぁ・・・」
「やかましい!こいつ(零士)の態度は生徒のものではない!」
その言葉に子供だった俺はカチンときた。
「あ?・・・生徒らしい態度ってなんだよ?あんたの思い描いた通りの生徒の事かよ。」
「その口の聞き方は何だ!?」
「ああ?ふざけんなよ・・・こちとらあんたの人形じゃねぇんだよ!」
「何だと!キサマァ!」
教師の拳が俺に命中する。
無論、教師の拳など恐るに足らずで俺は敢てかわさなかったのだ。
「・・・体罰。」
そんな零士の言葉など今の俺には関係ない。
ただ、俺は先公を睨みつけ、ただ一言・・・
「しょぼいパンチしてんじゃねぇぞ・・・コラァ・・・」
俺は教師を易々と持ち上げる。
こうしてしませば、相手にできる事など子供の駄々と同じだ。
教師は必死に抵抗しても俺に有効打が取れずに焦りだす。
教師の抵抗など俺には無意味なもので俺は片手を振り上げる。
「今度は俺の番だよなぁ・・・ああ!?」
「きょ、教師に手を上げる気か!」
まったく、支離滅裂な奴だ・・・
「先に殴ったのはテメェだろうがぁ!」
俺が決心しかけた時、アイツが俺の手を掴んだ。
それと同時に教師が俺から逃れた・・・
いや、正確には俺が離しただけなのだ。捕まえようと思えばいつでも捕まえられるのだから・・・
「よせ、殴れば馬鹿を見るぞ。」
「あ?邪魔すんじゃねぇ!」
俺は振りほどこうとするがこいつはしっかりと俺の手を掴んだまま離さなかった。
今までのこいつとの付き合いで分かったのだが、こいつは間違いなく馬鹿ではないのだ。
「ち、わぁったよ・・・」
俺が手を下ろすと同時に俺達の人生観を再度揺さぶった人物が登場した。
「お前達、ちょっと来い。」
いつの間にか隣のクラスの担任であり、生徒指導をしている教師 須藤 晃が立っていた。
年は35歳・・・担当科目は保健体育で完全な体育系で体つきもそこそこのものだ。
少なくとも弱くはない・・・
「二人共そこに座れ・・・」
俺達は空き教室に呼び出された。
ここは、3階建て校舎てっぺん最果てにある空き教室だ。
「入学早々、問題を起こすか・・・」
「好きで起こした訳じゃないんですがねぇ〜」
俺は不満丸出しで軽口を叩く。
いざとなればこいつとも戦うつもりで言った。
しかし、次の教師の一言に俺は唖然とした。
「経緯はしっている・・・何というか、もう少し賢く立ち回れんもんか?世の中には言っても分からん奴もいるんだ。」
「・・・へ?」
要訳する必要があるのかは微妙だが、この進路指導の立場にある教師は俺達に“ズルするならするで上手くやれ”と言っているのだ。
「俺なら建前だけでも合わせるな。そもそも、“これからの人生の中で分かり合えない奴などいくらでも出てくる・・・”その度に争ってもキリがないだろう?」
この後、俺達がこの男の事を先生と呼んだのは言うまでもないだろう・・・
個人的な意見かもしれないが・・・
俺にとって教師とは奇麗事を並べる者ではなく、実際の世の中を渡れる手段を教えきれる者だと思っている・・・
「ただいま・・・」
「お邪魔っすぜ〜」
俺は毎日通ってるのでお邪魔するというのは建前で我が家のように靴を脱ぎ、リビングへ歩いていく。
俺達が中学校より自転車で阿部家に着いたのは夕方の四時の事だ。
「おかえり。」
そんな俺達を向かえるのはいつものように璃子だ・・・
小学六年生である璃子は大抵、俺達の帰りを待っていた。
「おう。」
「いらっしゃい。」
笑顔で俺を向かえる璃子・・・
まぁ・・・俺が璃子に一目惚れしてるのは丸分かりだろう・・・
しかし、それは仕方無い事だ・・・
兄の零士が女子から絶大な支持を受けているのと同じように妹の璃子も近隣の男子達より絶大の支持を得ているのだ。
どいつもこいつもが璃子の注意を引こうとアプローチをしているのをよく見かけた。
かく言う俺もその一人だったのだが・・・
また、出会ってからたった一年だというのに璃子は愛くるしい可愛さから美少女へと変わりつつあった。
「亮、今日も“アレ”やってくの?」
「あたぼうよ!」
「・・・やれやれ。」
隣ではあいつがいつものように溜息をつく。
「あ?何か文句であんのか?」
「いや、別に・・・」
そう言うとあいつは自分の部屋へと戻っていく・・・
いつもはトレーニングの後でやる事だからな・・・
さぁ、これからが俺と璃子の時間になる。
「亮、これ御願い。」
「おう」
そう言って璃子が渡したのはじゃがいもと包丁・・・
そして、今俺達がやっているのはリアルままごと・・・というか、料理そのものだったりする・・・
「今日、もしかして喧嘩したの?」
「あ?そんなのしてねぇよ。」
「それならいいけど・・・」
この後、風呂場にて俺はばれたと確信させられた。
俺はいつも阿部家の風呂を借りていた。
その理由については後で説明する。
「ふぃ〜・・・」
「たまには自分の風呂を使え」
等とは言われない・・・
ここは“俺の家庭状況”をよく知っているから俺がこんな時間までいても何も言わない・・・
おっと、そうだった・・・
阿部家の家族構成を教えてなかったが・・・
基本的にこの家に住んでいるのはまずおばさんと零士、璃子の三人だ。
おっさんはどうやら、璃子が生まれて間もない頃に病没したらしい・・・
この家は風呂上りに夕食が始まる。
「亮君、また喧嘩したでしょう?」
「ち、違うよ!俺は手を出してないよ!」
「似たようなものだが・・・」
と誤解され易い事をぬかりやがる相棒・・・
「はぁ!?元を言えばテメェが変な意地を張ったからだろうがっ!!」
「亮、うるさい。」
と璃子・・・
「うるせぇ!この野郎、訂正しろ!」
「亮君、何があったの?」
「う・・・」
おばさん、真面目に聞いてる・・・
この家にお邪魔して分かった事だが、叔母さん怒るとマジで怖い。
いや、本当に怖いからさ・・・
という訳で、俺達というか俺が96%ぐらいの概要を説明した。
てか、第一人者のテメェが何で喋らねぇんだコラ?
「零士、亮君に謝りなさい。」
「悪かった。」
もんの凄く棒読みではあったが、一応の謝罪はあった。
「でも、亮君もすぐに手を出す癖を直さないと駄目よ。」
「う・・・いや、でもさ・・・俺だって何の理由も無しに・・・」
「そういうの女の子に嫌われるよ?」
「ぐ・・・」
璃子め・・・意外に毒舌だったのな
「璃子・・・お茶のおかわりをくれ。」
「さり気なくおかわりしてんじゃねぇ!」
本当にこんな感じの食卓が存在していたんだ。
しかし・・・
真・終幕
ラグナロク
〜○○宣言〜
タクト・マイヤーズとレイ・桜葉の戦いは壮絶な死闘の末にタクトの勝利という形で決着がついた。
しかし、その爪痕は大きかった・・・
「正直、あいつ等全員をここに呼びつけてぶん殴ってやりてぇ・・・」
ロキはこめかみを押さえながら大破した紋章機達を眺め・・く、くく・・・いや、これは失礼をば・・・
そして、肝心のエンジェル隊のメンバー達なのだが・・・
「はぁ・・・い、イテテ!?」
「タ、タクトさん!動いちゃ駄目です!」
ミルフィーが立ち上がり心配そうに顔を覗きこんできた。というか心配してくれてるんだろうな。
ここは、白き月内部の病室・・・
「は、はは・・・ゴメンゴメン・・・」
「もう、こんなになるまで戦うなんて・・・」
確かに・・・でも、あいつとの戦いだったから・・・絶対に逃げたくはなかったんだ。
「そう言えばあいつは?」
俺が“あいつ”の容態を聞くとミルフィーの表情が曇る・・・どうやら、あまり喜ばしい状況ではないようだ。
「命に別状はないみたいですけど、かといって自由に動ける状態じゃありません・・・」
「そっか・・・そうだよな・・・」
あの戦いの後、突如現れた真犯人ことカルマが動けない俺にトドメを刺そうとした瞬間・・・
よりにもよってあいつが身代わりになった・・・いや、なってくれたんだ。
「今は、リコとカズヤ君がお見舞いに行ってる筈です。」
「そっか・・・あ、そう言えばエクレアはアキトと再会できたんだよな?」
「はい、エクレアちゃんたら子供みたいに泣ちゃって・・・ふふ、本当に良かったです。」
「ああ・・・本当に良かった・・・」
俺は段々と迫ってくる鎮痛剤の副作用に身を任せながら眠りについた・・・
「おやすみなさいタクトさん・・・」
ミルフィーユはタクトの前髪優しくかきあげた。
トランスバール宙域は今日も美しいスターダストに見舞われている・・・
エンジェル隊もレイ・桜葉を倒した事で一息ついている・・・
誰もが“俺の脅威”から逃げられたと思っている・・・
まぁ、俺が姿を現したからには奴等も戦いがまだ終わった訳じゃねぇて事ぐらいは分かってんだろうな・・・
しかし、俺がこの機を逃す甘ちゃんだと思ってるのならテメェ等に明日はねぇよ。
さぁて・・・始めるか・・・
この俺の戦争をなぁ・・・
史上最大規模の戦争の始まりはオペレータから通達だった・・・
「クロノゲート付近に未確認艦隊が多数出現しただと?」
「はい、それと未確認艦隊の映像を見てもらいたいのですが・・・」
アバジェスがタッチパネルを弾くと敵影の姿が映し出された。
「こ、これは・・・何かの間違いか・・・それとも何者かの余興なのか・・・」
シヴァは未確認艦隊の旗艦らしき物体を見てそう呟いた。
(遂にラグナロクの始まりか・・・)
果たしてアバジェスはそこに何を思ったか・・・
「総員に告ぐ、第一戦闘配置につけ!」
アバジェスの声が皇国全体へと響いたその時、オペレーターより通達があった。
「阿部司令!て、敵旗艦より再度15分後に入電するとこの事です!し、しかし・・・この周波数は・・・」
「分かっている!繋げ!そして、各エンジェル隊をブリーフィングルームに召集をかけろ!」
(エンジェル達はその目で見ねばなるまい・・・最後の敵の姿をな・・・)
格納庫は修羅場と化していた。
「くそ!こんなタイミングで現れやがって、どの紋章機が空いてるってんだよ!」
いや、まったく・・・
「ロキはん!あかん!どの子もとても出れたもんやあらへん!」
「わぁってるよ!ちくしょ〜!」
頭を抱え込むロキ・・・く、くくく・・・
そして、敵のコンタクトから15分後・・・
宣言通り、敵からの再コンタクトが始まった。
「すいませんタクトさん、起こしてしまって・・・」
「気にしないでミルフィーが悪い訳じゃないから。」
「ありがとうございます。でも本当なんでしょうか・・・あの艦隊が再編成されたなんて・・・」
「さぁね・・・もしかすれば模倣犯の疑いもある・・・形だけでも真似ればそれだけで敵への牽制になるからね・・・」
しかし、俺は確信していた・・・
このタイミングで、そんな模倣犯など現れる訳がないと・・・
「敵旗艦より入電です!」
「繋いでくれ・・・」
シヴァは緊張ぎみにオペレーターに指示をだす・・・
ようやく出番だぜ・・・ったくよぉ・・・
「木の下の女と書いて桜・・・ほんのひと時しか咲かない儚く美しい花・・・」
「な、何だ・・・こいつは・・・」
シヴァ達の見ているスクリーンは真っ黒一色・・・
「私は思う、人の一生も桜と同く儚く短いものだというのに、どうして人の一生とはこうも醜い・・・」
「無礼者、姿を現さずに世迷いごとを申すというのがそちらの・・・ブラウド財閥の礼儀か!」
「ブラウド・・・ゼイバー・ブラウド総帥・・・我等が主なれど今はもはやこの世におらず・・・」
「やはり・・・お前達はブラウド財閥残党の者か!」
エクレアが言っていた外宇宙を作り上げた未来の皇国を滅ぼした寄生虫・・・
「残党・・・はて?残党とは?我等は既に新しき主を見つけておる故、残党などという呼称にはいささか抵抗を覚えます・・・そちらこそ無礼でありましょう?」
「姿を見せれぬ輩が言えた事か!」
「・・・これは失礼をば・・・それではこれで良いでしょうか?美しい女皇様・・・」
次の瞬間、画面に現れたのはうら若き好青年だった・・・しかし、その目は閉じられている・・・
「お前は一体誰だ?」
同じ質問を同じタイミングでしたのはシヴァとタクトだった。
無論、タクトの声はガンチには届いていない。
「またまたこれは失礼をば・・・私は・・・」
一方、レイの病室で見舞いきていたカズヤとアプリコットもモニター越しにその男の姿を見ている。
「レイさん・・・僕、直感的に分かりました・・・」
こいつは・・・こいつが・・・
レイの静かな寝息だけが病室に響いていた・・・
「私は先のゼイバー・ブラウド様の側近を勤めておりましたガンチ・デイチルと申します。」
ガンチ・デイチル
それが、俺達の・・・
この長き戦いの・・・
最後の敵の名前だった・・・
タクトは怪我のことも忘れガンチ・デイチルを恐ろしい戦慄の目で見ている。
「ガンチ殿・・・私の自己紹介は必要か?」
「いえ、必要ありません。」
「では単刀直入に聞こう・・・貴公の目的は何だ?」
「私からも質問をば・・・戦闘機とは何の為にあると思いますか?」
「・・・大切な者達を守る為だ。」
「残念ながら、私とは意見が違いますね?私にとって戦闘機とは・・・」
ガンチの目が開く・・・
その眼は真っ赤で人を殺す事に躊躇いを見せない殺人鬼のものだった。
「私にとって戦闘機は攻撃の為にあるものだと信じています・・・」
「貴公・・・まさか・・・」
「丁度いい・・・この際ですから私の目的をあなた方に教えましょう。」
ガンチ・デイチルは羽織っていたマントを大きく下げ、左手を強く握り締めて語りだした。
「我々は先代ゼイバー総帥に代わりこの宇宙の管理を担っております・・・先代は“あなた方人間”を宇宙の一部として扱っておられた・・・資金に苦しむ星々に援助を行っていたのもその一環でございます・・・」
今、EDENとNEUEの住民全てがこのガンチ・デイチルに注目している・・・
否、ガンチは既に手配をかけていた・・・
発展途上の星にも映像技術を伝え、この演説を見せ付けようと考えたのだ・・・全く馬鹿馬鹿しい限りだが、その行動力は侮れない。
「そして、その部分こそが我々新生ブラウド財閥の活動内容と大きく異なる部分であります・・・」
ガンチの口元が嬉しそうに吊り上る・・・
「我々は貴方達を平等の位置で見ない・・・貴方達はそこら辺にいる家畜以下の畜生共・・・」
「な、何だと!」
シヴァは薄々分かっていた・・・
ガンチ・デイチルが友好目的で訪れた訳ではないと・・・
「そんな畜生共にこれ以上、“私の大事なこの世界”に寄生させる訳には参りません・・・貴方達は寄生するだけでは飽きたらず、自然を食い荒らすだけの畜生共・・・」
「ふざけるな!」
「お静かに・・・畜生界の女皇様・・・よって、この私・・・ガンチ・デイチルが今日この場所で宣言致します・・・」
“この宇宙に巣くう寄生虫を全て駆除します。我がブラウドの全力を用いて”
それは宣戦布告ではなく抹殺宣言だった。
〜蘇る天使〜
「後、補足しておきますがこれは“排除ではなく駆除”だという事をお忘れなきよう・・・例え、貴方達が何処に逃げようとどんな命乞いをしようと私は貴方達を生かして帰る気など更々ありませんので・・・」
ガンチがにっこりと微笑むとラスト・ジャッジメントの周囲にラスト・ジャッジメントより一回り小さい旗艦が12機出現した。
「く!防衛隊に出撃命令を出せ!それと修理の終わっている紋章機も!」
「まぁまぁ女皇様・・・待ってさしあげますから紹介しましょう・・・貴方達を駆除する我が艦隊です・・・」
それらの旗艦にはそれぞれのエンブレムが与えられている・・・
「第1艦隊 ゼウス」
それは非常にオードソックスな旗艦だった。よくもあり、悪くも無いといった感じだ。
「ゼ、ゼウスだと・・・」
ゼウス・・・ジーダマイヤーになりすまし皇国を混乱に陥れようとするもちとせの放ったアルテミスにより撃墜され死亡した・・筈である。
「残念ですが、我が艦隊には“言葉”という余計なものは持たせておりませんので・・・さて・・・」
第2艦隊 アレス
第3艦隊 アルテミス
第4艦隊 アポロン
第5艦隊 アテナ
第6艦隊 ハデス
第7艦隊 ヴィーナス
第8艦隊 ヘラクレス
第9艦隊 ヘルセポネ
第10艦隊 デメテル
第11艦隊 ヘスティア
第12艦隊 ヘパイストス
「以上が私が率いる艦隊の指揮を担う駒にございます・・・おや?どうやら私の部下より話があるそうですね・・・」
ガンチが指を鳴らすと画面が切り替わり宇宙空間に浮遊する一人の美少女を映し出した・・・
少なくとも宙域に生身でいる以上、人間ではない。
その容姿は非の付け所がなく背中には見事としか言い様のない美しい翼があった。
しかし、その美しき筈の素顔の半分はサイボーグだった。
「・・・っ!?」
アキトの看病をしていたエクレアは慌てて飛び出した!
「・・・EDENの民よ私を覚えているか・・・」
その美少女は目を閉じ静かに呼びかけた。
そして、その美しい声はエンジェル隊に投げかけられている。
「私は一度死に・・・再び蘇り舞い戻ってきた。我が同胞達と・・・」
「同胞達だと・・・」
「理由あって、今回は私だけで相手をする・・・そちらに駒が無いのならこちらから攻撃を始めるだけだ・・・」
「く!紋章機はまだ出せないのか!」
シヴァが焦る中、シヴァと犬猿の仲にある者の声が司令室に響き渡る。
「私が行くわ」
「この声はエクレア?」
シヴァが呟くよりも速くトランスバール宙域に黄金に輝く紋章機が姿を現す。
「貴方の目的は私なんでしょう?“ガブリエル”」
「こ、こやつがガブリエルだと!」
「・・・嬉しい事を言うではないか、エクレア・桜葉」
美しく微笑む、今は無きHEAVENの天使長・・・
両者の表情は対照的だ。
「それはどうも・・・それにしても貴方がここまで愚かだとは思わなかったわ・・・貴方も黒幕は誰であるか知ってる筈なのに・・・」
「・・・私の目的は最初から最後までお前だ。」
「そんな事だと思ったわ・・・シリウス。」
「ああ、こちらはいつでも全開でいけるぜ。」
「それで、貴方はそのまま戦うつもり?」
「まさか・・・ラファエルや兄上と違い、これでも私はか弱き乙女なのだから・・・」
ガブリエルが目を閉じるとその体を覆い隠すようにしてかのオメガが姿を現した。
「それと、ひとつだけ言っておく・・・“お前との決闘と任務は別だ”・・・」
そういうとガブリエルの後方・・・つまりは、レナミス側に位置するラスト・ジャッジメントを中心に数え切れない程の艦隊が姿を現した。
「ガブリエルの言う通り、“駆除”は予定通り行います故、あしからず・・・とはいえ、EDENだけに戦力を集中させる訳には参りませんので、こちらには馴染み深いゼウスとアレスを置いていきましょう・・・」
「貴様!まさかNEUEに!」
「それは当然でしょう?NEUEこそ我が故郷・・・そこに巣くう寄生虫(人間)を駆除できずに何の為の艦隊でしょうか・・・」
「寄生虫は貴方よ。」
「・・・ほう?」
「そうやってとぼけてると良いわ・・・でも、覚えておきなさい・・・“この世界は貴方のものではない”という事を・・・」
「・・・・・・」
「どうしたの?何かおかしな事でもいったかしら?」
エクレアは挑発気味にガンチをあしらう。
こいつ・・・
「・・・・・・ガブリエル、後は任せましたよ?」
「はい、御身に頂いたこの命・・・ここでその借りをお返しいたします。」
「良き返事です・・・」
やがて、ガンチはゼウスとアレスを残しその大艦隊と共に姿を消した。
「まずい!セルダールの情勢は!?」
「はい!マジーク艦隊と共に一部始終を見ながら戦闘準備を整えてたとの事です。」
(・・・紋章機無しであの艦隊より母星を守れなど私は王失格だ・・・すまぬ、ソルダム陛下・・・)
一方、カズヤは・・・
「くそ!紋章機さえあれば!」
「・・・カズヤさん!落ち着いて!」
レイが眠る病室の中、カズヤはやり場の無い憤りに翻弄されていた。
「ごめん!でも・・・でも!このままじゃ!」
「・・・・・・騒々しい」
「え?」
そして、トランスバール宙域では・・・
「ふっ・・・」
「艦隊を下げた?」
「オリジン相手に物量戦を仕掛ける程愚劣な事はない・・・」
(NEUEへの時間差増援?相変わらず無粋ね・・・)
「無粋などと思うな・・・これは戦略だ。」
「わざとらしい事を・・・貴方達は始めからレイが倒れるのを待っていてこのタイミングを狙ったんでしょう?そして、修復能力の高いこの紋章機だけが出撃可能だと貴方達は知っていながらこうして宣戦布告に来た・・・後は私達だけを足止めすれば全戦力を用いてNEUEに攻撃できる・・・違う?」
「さぁね。そんな事より自分の心配をしたらどうだ!?」
先に仕掛けたのはガブリエル
オリジンへ斬りかかろうと接近する。
「せっかちね・・・」
次の瞬間、オメガの周囲が別次元と化した。
「結界・・・?」
「ええ、これでこちらも遠慮なくいけるというものよ。」
オリジンが黄金色に輝く・・・
それはオリジンがリミッターを解除したに他ならない・・・
背中には十二枚の翼・・・そして、手足を周回する運命の輪・・・
「前大戦の遺産が・・・」
そして、ガブリエルもオメガのリミッターを外す・・・
オメガの背中には様々なガラクタで作られたいびつな翼が現れる。
「ガンチ様の計らいにより蘇った私とこの紋章機を甘く見るなよ。」
ガブリエルが詠唱を始めるとオメガの周囲に様々なエレメンタルクリスタルが出現した。
「・・・バリアの一種?」
「言わなくてもわかるだろうが普通のバリアではない・・・対オリジン用に開発された“セカンド・ガードナー”だ。」
目には見えないがオメガの周囲を強化型INフィールドが形成されている。
「・・・確かに普通のバリアじゃないわね。」
「これはラスト・ジャッジメントに搭載されていたバリア発生器を小型化したものだ。そして試作型をこのオメガに搭載したのだ。」
「その代わり、そのバリアを維持させるには混沌を必要とするわ・・・」
「インフィニ搭載機でないと無理だと言いたいのだろう?しかしだ・・・このオメガにもインフィニが搭載されているのさ。」
「な、何!?」
「・・・別に驚く訳じゃないわ。インフィニなんて元々あの男にかかればいくらでも増産できるのだから・・・」
「ふ、そういうところは相変わらずだな?」
「貴方達も相変わらずワンパターンね?」
「ふん・・・」
ガブリエルは詠唱を始める。
マリア
それは今は亡きHEAVENの最高級秘宝の名前である
HEAVENの四大天使達は各々がそれぞれの象徴となる剣を所持する。
先の天使長でありガブリエルの兄にあたるミカエルが持つのは極光の剣と謳われるサン・レイ・・・
そして、ラファエルが所持していた剣はホッド・ブリアー・・・燃え盛る剣であり、振るえば陽炎がはしると言われる・・・
そして、人より天使となったウリエルと出会い、人の身でありながら、ミカエルをも凌ぐ最強の天使となったメタトロンが所持していた剣という外観とは程遠い破壊の剣 ディス・フレア
そして、ガブリエルが所持するは・・・
「見るがいい、我の剣を・・・いでよ・・・“マリア”」
やがて、オメガの右手に杖のようなものが現れた。
「・・・?それを剣を言い張るつもり?」
「剣は斬るものだというのは人間の理屈だ。」
やがてその杖が神々しく輝きだす。
「さぁ・・・この杖の恐ろしさを身をもって知れ。」
やがて、ガブリエルの周囲に複数の戦闘機とゼックイが現れた。
「オイオイ・・・マジかよ」
「召喚・・・まさか、その程度だとは言わないわよね?」
「さぁ、それはどうかな?」
「私も舐められたものね。」
そう言いながらエクレアは攻撃を開始した。
「目障りよ、消えなさい・・・」
DESTROYER
辺り一面の分子が次々と破壊されていき、驚異的なエネルギーを生み出していき・・・
やがてそれは大きな爆発と化し目標を破壊し尽していく。
〜蘇る運命の騎士〜
NEUEでは早くも戦闘が開始されていた。
しかし、攻め込むつもりで戦力を用意したブラウド残党軍とは違い、セルダールとマジークを中心としたNEUE統合防衛軍は間に合わせで無理矢理戦力を用意したのだ・・・
ただでさえ、圧倒的な数を誇るブラウド大艦隊の前にNEUE統合防衛軍は成す術もなく次々と撃破されていく・・・
「往生際の悪い方達ですね?元々NEUEは我々ブラウドが育て管理してきた世界・・・そこに巣くう貴方達は言わば寄生虫・・・なのに、どうして必死に抗うのですか?」
「く・・・」
非情なガンチの挑発にセルダールの国王であり総指揮者のソルダムは口を噛むだけだ。
「普通、寄生虫は逃げるか何も知らずに殺されるものでしょうに・・・はは・・・」
ガンチの口元はこの上なく冷徹に満ちている・・・
「ソルダムさん・・・聞いてますか?」
「話す事などない!」
「ははは・・・それもそうですね。降伏すると言われても困りますしね・・・しかし、貴方は人間を管理する白虎の転生体・・・」
「・・・何?」
「“機械仕掛けの神皇様”のおらぬ今、律儀にその役割を果たさなくてもよろしいのではないですか?」
「お主・・・一体何者だ?」
「私は私・・・ガンチ・デイチルですが何か?」
「とぼけるな・・・何故、私の正体だけでなくあの忌々しい紋章機の正体も知っている・・・」
最凶の紋章機 ラスト・リヴェンジャー・・・
その正体は神々の頂点たる神皇・・・
「ブラウド財閥の情報収集力を甘く見てもらっては困りますね〜」
「ふざけるな!ブラウド財閥はあの忌々しい紋章機が倒される前に崩壊した筈・・・」
「やれやれ・・・本当に何と言うか・・・」
「応えるのだ!お主は何者だ!少なくとも人間ではあるまい!」
人間なら平和が訪れた今、このような愚業にでる訳がない。
「ははは・・・しつこいですね。いい加減に死んでもらえますか?」
ガンチの眼光が鋭く光る・・・
それは“真紅の魔眼”だった・・・
「がっ!?」
ソルダムは喉元を押さえてうずくまる。
「陛下!?」
「陛下―――っ!」
側近達がうずくまるソルダムの元に集まる。
「ふふ・・・もういいでしょう?それだけ長く生きてきたのです。いい加減、楽になりましょうよ・・・」
「ぐぅぅ・・・」
「はは・・・流石は白虎の転生体・・・普通の人間なら即死なのですがねぇ・・・ん?」
その時、ラスト・ジャッジメントに数発被弾した・・・と言っても、その周囲を覆われている強化型INフィールドこと“ファーストガードナー”に弾かれる。
「ソルダム陛下・・・残念ですが、あなたの処分は先送りです・・・“不愉快な者”が現れました故・・・」
それはセルダール宙域にあるクロノゲートより現れた。
「はぁ・・・はぁ・・・な、何だと!?」
ソルダムが目にしたのはブラウド大艦隊のど真ん中に現れた漆黒の紋章機だった。
「GRA−000アルフェシオン・・・」
「おやおや・・・最強の紋章機のご登場ですか?」
アルフェシオンの出現に“宿敵であるラスト・ジャッジメント”が反応を示す。
ラスト・ジャッジメントの主砲と思われる巨大な砲台に膨大な量の粒子が集まる。
「これこれよしなさい・・・主砲なんか使ったらこの美しい世界が台無しですよ?」
ブラウド大艦隊の照準が全てアルフェシオンへと向けられる。
ブラウド大艦隊と言えど、アルフェシオンの危険度はどんなものよりも高い。
「しかし、前大戦ではあなたのおかげで敗退したも同然ですからねぇ・・・ここで消えてもらいましょう。」
「消えるのはお前達の方だ!」
「これ以上、NEUEを好きにはさせません!」
「すいませんソルダム陛下、遅れました。」
「ま、まさか・・・お主がその紋章機に乗っておるのか?」
「何・・・」
ガンチの声が真面目なものに切り替わる。
最強の紋章機と謳われるアルフェシオン・・・
それは紋章機の性能だけではない・・・
最強のパイロットであるレイ・桜葉の存在があってこそのアルフェシオンである。
「貴様・・・誰だ?」
別人のように豹変するガンチ・・・
「僕はカズヤ・シラナミ!」
「カズヤ・シラナミ・・・何故、貴様がその紋章機に“乗れているのだ?”」
どういう事だ?こんな事は“俺の台本”には無い筈だ・・・どういう事だ!?
相棒・・・これは貴様の仕業か!?
いいぜ、こんな小僧捻りつぶしてやる!
「・・・ここから退け!もう戦争をする必要は無い筈だ!」
「く、くく・・・ははは・・・あははは!」
こ、この笑い方・・・
「これは失礼しました。でも君は勘違いしている・・・私は戦争等はしていない、これは駆除なんですよ?自分の庭を食い荒らし汚染する寄生虫は始末しなければならないでしょう?私は何も咎められるような事はしていないよ。」
「駆除だって・・・そうかい、だったら僕のやる事は決まっている!」
アルフェシオンが飛行形態をとる。
「ほぉ・・・その姿を見るのは久方ぶりだね。」
ガンチは片手を挙げ、アルフェシオンに対して攻撃司令を出した。
ブラウド財閥の大艦隊が一斉にカズヤに攻撃を仕掛ける。
「行くよ!リコ!」
「はい!」
一点集中する桁外れな火力・・・
しかし、漆黒の紋章機の性能はそれに対抗できる程のものを持っている。
漆黒の紋章機はそのポテンシャルをいかして不可能に見える弾幕を紙一重で回避していく。
「見える!それにイメージ通りのラインが作れる・・・ようし・・・行くぞ!」
アルフェシオンから600機を越えるフライヤーが射出され、各々が目標に目をつけ、襲い掛かる!
戦況は大きく一変し、ブラウドの艦隊が次々と撃墜されていった。
「さすがは、アルフェシオン・・・仕方ありませんねぇ・・・本当はこんな序盤で出すつもりはなかったのですかねぇ・・・」
「?艦隊が引き下がっていく・・・」
「カズヤさん!レーダーに敵の増援をキャッチしました!」
「な、何だアレ・・・」
カズヤが見たのは総計40機を超えるオメガに酷似した戦闘機達だった。
「ま、まさか・・・」
「その通り、オメガの量産機達です・・・量産とはいえ、コスト削減の為の量産ではないのでその性能はオリジナルにひけはとりませんよ?ふふ・・・」
(このまま戦うのは不利だ・・・)
アルフェシオンを変形させれば、事態は変わるかもしれない・・・でも僕は、タクトさんやレイさんのようなクロスコンバットはまったく知らない・・・
「飛行形態でコレを相手するのは辛いと思いますよ?早く変形された方がよろしいと思いますよ?」
(ガンチは気付いている・・・いや、最初から知っていたからこそ、こいつらをよこしたんだ。)
「もしかして、格闘戦をした事が無いなんて言わないで下さいね?そうしたら私も笑いを堪え切れませんから・・・」
その時だった・・・
アルフェシオンのモニターに“AUTO SUB PIROT”と・・・
「え・・・うわ!?」
次の瞬間、アルフェシオンが人型形態へと姿を変える。
「何・・・」
カズヤは変形しないだろうと読んでいたガンチは露骨に顔を歪めた。
「まさか・・・あいつが戻ってきたのか?」
「カ、カズヤさん!お兄ちゃんより通信です!」
「レイさんが?」
「カズヤ・・・余計な事とは思ったが、俺の行動プログラムを組み込んでおいた。」
「い、いえ!助かりました。」
「お前はただフライヤーの操作だけに集中すればいい・・・“ガンナー”になるんだ。カズヤ・・・」
「はい!」
「俺を負かしたそのフライヤー捌きをあいつに見せ付けてやるんだ。」
「・・・総攻撃開始せよ。」
ガンチは冷徹な声でカズヤに対し攻撃指令を下した。
しかし次の瞬間、アルフェシオンは今までとは違う俊敏な動きを始めた。
その動きはまさにレイ・桜葉そのものである・・・
量より質である・・・
その言葉を体現するようにレイが憑依したアルフェシオンは持ち前の四つのスレイヤー・オブ・デステニーを用いて鬼神の如く敵を殲滅していく。
「はぁ・・・仕方ないですね・・・」
ガンチは二人目の部下に出撃命令を出した。
「いい機会です。貴方にとっては忘れられない敵でしょう?」
「す、凄い・・・あっという間に全機撃墜しちゃった・・・」
「・・・っ!?」
アプリコットは“十数年ぶり”に感じる悪寒をキャッチした。
「どうしたのリコ?」
「な、何・・・この感触・・・」
次の瞬間、カズヤ達の視界に眩い光がさした。
そして、アルフェシオンのモニターに表示された敵の名前は・・・
MICHAEL
「ミ・・・カ・・・エ・・・ミカエル!?」
「ミカエルってガブリエルの前にHEAVENを治めていたっていう!?」
「左様・・・久しいな“フェイト”・・・」
聞こえてきたのは男でもなく女でもない声・・・
「え、え?」
姿を現したミカエルは光でできた人間という例えが最も妥当だろう・・・
「光の天使・・・」
「主より話は聞いていたが、ルシラフェルは本当にお前から過去の記憶の一部を消去してしまったようだ・・・」
「話には聞いてます・・・でも私は貴方の事なんて覚えてません!」
「それはそうだろう・・・お前が10才にも満たない頃の話だ・・・我は、お前を手に入れようとし、逆上したお前の兄ルシラフェルにより私の配下にあった天使達は全員殺されてしまった・・・この私も含めてな・・・その後はもう知っているだろう?」
「違う!レイさんは確かに貴方達を・・・・・・」
確かにレイさんはミカエル達を虐殺したんだ・・・
「殺した・・・でも!その後に起こった事は全てカルマがやった事なんだよ!」
「カルマだと・・・?誰だそれは?」
「この全ての元凶でキチガイだ。レイさんもそいつに操られていただけなんだ!」
「なるほど、その言葉に偽りはないようだ。」
ミカエル・・・その能力はあの神皇に匹敵すると言われている。故に人の心を読み取る事など赤子の手を捻る事より容易いのだ。
「分かったのなら・・」
カズヤはほっと溜息をつくが・・・
「しかし、そんな事は関係ない。」
「どうして!?」
「私はただ、あの男を許せぬ・・・それだけの事・・・そして、あの男が瀕死でいるのならこれ以上ないチャンスだ。」
「お、お前は・・・」
「そして、目の前にいるのが忌々しい紋章機ならこれから私のする事は決まっている。」
ミカエルの背中に翼らしきものがその体を構成するエーテル体で形成されていく・・・
「そうかい・・・!」
対するカズヤもフライヤーへ攻撃命令を出す・・・
ミカエルの背後には光のツララが幾つも現れ投擲体勢をとる。
このツララはかつてレイを串刺しにした“ミカエルの剣”である。
その名は・・・
サン・レイ
「また、串刺しにしてやる。」
ミカエルは一斉にサン・レイを発射する!
「やらせるかぁ!」
それに対し、カズヤもフライヤーに攻撃命令を出して迎撃に移った!
ミカエルのツララは全てカズヤのフライヤーにより迎撃され粉々に砕け散る。
「引っかかったな・・・」
何と、粉々になったサン・レイは粉々のままアルフェシオンへと襲いかかる。
「・・・っ!?」
オートパイロットのアルフェシオンは匠に回避するが、サン・レイは追跡してくる!
(こ、こいつ・・・強い!)
果たして、カズヤ達の命運はいかに・・・