・終幕

 

ラグナロク

 

〜桜に惹かれ〜

 

今、EDENよりNEUEに向けて飛び立つ旗艦がいる

 

その名はルクシオール・・・

 

数々の激戦を戦い抜いてきた名艦である。

 

「カズヤからの報告は以上だ。」

 

ミーティングルームでは先の戦いの結果報告が行われていた。

 

「今頃、皇国のお偉方はてんてこ舞いだろうぜ」

 

愉快そうに言うアニス・・・

 

お偉方とは当然、ザレム派の事である。

 

「いや、逆に戦力を分散させた事を武器にシヴァ陛下を突き上げるとも限らないぞ・・・」

 

「俺もリリィと同じ事を思っていた。今まで裏舞台で動いていた筈のザレム派が表に出てシヴァ陛下を非難した・・・なら、後はひたすら突き上げるしかザレム派に生存する術はないさ・・・」

 

「全く、わが国ながら腐敗具合も相変わらずだなぁ・・・・・・ん?あ、煙草きらしちまった・・・おい、そこのチビ、煙草買ってこいや。」

 

「む!ナノナノはチビじゃないのだ!」

 

「伝説のうまい棒やっから・・・」

 

「で、伝説・・・本当なのだ?」

 

「ああ・・・いいから早く・・・」

 

「了解なのだ〜!」

 

「待って!ナノナノちゃん!」

 

「んにゃ?」

 

「ちょっと!お父さん!煙草は駄目だって約束したのに!」

 

「ち、硬い事言うなよ・・・・・・老けるぞ?」

 

「お父さんの馬鹿っ!」

 

「わ、わぁった!わぁったから!」

 

「二人共、その辺でいいかい?」

 

「す、すいません・・・」

 

「だったら、俺が煙草を吸いたくなくなるようにさっさと説明しろや、泣かすぞコラ?」

 

「帰れ」

 

「ゴメンなさい・・・」

 

先程までの強気の姿勢はどこへとやら・・・

 

ロキは急にシュンと大人しくなった。

 

「さて・・・俺達は明日の10:00にアスティオに到着する予定だ。」

 

(アスティオ・・・セルダールの書庫には名前しか伝わってない未知の星・・・)

 

「アスティオにドライブアウト次第、ブラウド財閥との戦いが始まると俺は確信している。」

 

全員の表情が戦いのものへと切り替わる。

 

「9:30には第一種戦闘配置につき、俺達は紋章機に搭乗しておく・・・紋章機のチェックは頼むぞ。」

 

「りょ〜うかい」

 

ロキは手を振りながら応えた。

 

「カズヤ達の報告ではブラウド財閥には驚異的な機動性を持つ新型戦闘機がいたらしい・・・」

 

「ブラウドは随分と金持ちなんだなぁ・・・」

 

「あちらはカズヤのフライヤーがあったからそれ程脅威にはならなかったが、俺達はそういう訳にはいかない・・・相手の規模を考えても今までに類を見ない厳しい戦闘になる・・・」

 

全員の目がタクトの方を向いている。

 

「だけど、あえて言わせてくれ・・・」

 

タクトはメンバーを見渡し終えて頭を下げる。

 

「皆、俺と一緒に戦ってくれ・・・頼む」

 

頭を下げるタクトにメンバー達が笑いながら了承した事は言うまでもない・・・

 

その日の夜・・・

 

「シリウス君!今度はこれを着てみてよ〜」

 

「もういい加減にしてく・・むぐっ!?」

 

アプリコットに押さえつけられてミルフィーユに服を脱がされるシリウス・・・

 

「きゃ〜可愛い!」

 

「うん!可愛い!」

 

かれこれもう十数回は着替えさせられているシリウスは心底うんざりした表情だった。

 

その頃、タクトは銀河公園を訪れていた。

 

公園は時刻に合わせ既に夜の景色へと変わっていた・・・

 

「へぇ・・・こんな所にカフカフの木が咲いているなんて・・・」

 

タクトが見たのは一本の大きなピンクの木・・・

 

「貴方達は“サクラ”をそう呼ぶのね・・・」

 

「サクラ・・・君はこの木をそう呼ぶのか?」

 

「ええ・・・でも、私以外にこの木の事をそう呼ぶ者はいるわ・・・」

 

オイ・・・

 

「レイとアバジェス・・・そして、ロキよ・・・」

 

「ん?何か“共通点”みたいな奴がありそうでないような気が・・・」

 

「ええ、“共通点”はあるわ・・・」

 

・・・それ以上、余計なことを喋るのなら今すぐこの場でこいつらを皆殺しにするぞ・・・

 

「それは、いつか必ず分かるから・・・それよりも、他に言う事はないの?」

 

エクレアが拗ねた表情で俺を見上げてくる。

 

正直、どきっとしてしまう・・・

 

「え・・・?」

 

実は最初から気になっていた・・・

 

でも、あまりにも綺麗過ぎて何だか照れくさかった・・・

 

彼女は白い着物を着ている・・・

 

白波の中に吹き荒れる桜吹雪・・・

 

それは、白波と桜を表す・・・

 

「に、似合っているな・・・」

 

「ふふ、ありがとう・・・でも、どうして?って顔をしてるね?」

 

桜色の少女は口元に手をあててクスリと笑う。

 

「一緒に座らない?」

 

「え、あ、ああ・・・」

 

俺はどうしていいか分からずに誘われるがまま彼女の隣に座る。

 

「ゴメン、いきなり呼び出しちゃったりして・・・」

 

「い、いや・・・」

 

香水か?それにしては香りが薄い・・・着物の匂いなんだろうか?

 

「タクト・・・少し恥ずかしい・・・」

 

「うわ!ゴメン!」

 

頬を赤らめるエクレア・・・

 

どうやら俺は知らず知らずの内に彼女を見つめてしまっていたらしい・・・危ない、危ない・・・

 

「謝らなくていいてば、だって今日はタクトに私を見てほしいから呼んだんだもん。」

 

「な、何か口調がいつもと違わないか?」

 

「えへへ、ゴメン・・・日頃は背伸びしちゃってしまって・・・」

 

そう微笑ましい笑みを浮かべる彼女は少女そのものだ。

 

「タクトの香りがする・・・何か安心しちゃうなぁ・・・」

 

「・・・っ!」

 

エクレアは何と俺の膝の上に頭をのっけてきたのだ。

 

「エ、エクレアさん・・・・・・?」

 

「ゴメン、嫌?」

 

「いや・・・嫌じゃないよ・・・」

 

その怯えたような表情に罪悪感を感じた俺は自然とエクレアの頭をさすっていた。

 

「ん・・・」

 

エクレアは心地よさそうに目を瞑る・・・

 

見れば見る程、美しい容姿だ。

 

まるで歴代の名工の手によりとても精巧に作られた人形のような顔・・・

 

しかし、彼女は人形じゃない・・・

 

彼女は少女なのだ。

 

「ねぇ、タクト・・・私と戦った時の事を覚えている?」

 

「・・・・・・ああ」

 

前大戦・・・

 

カズヤに憑依したカルマを撃退した後

 

俺は皇国内のカフカフの木が並ぶこの場所で彼女と出会った。

 

「あの時は驚いたよ・・・まさか最後の敵が君みたいな女の子だとは思わなかったからさ・・・」

 

「そう?あの時は女の子として見てくれてたようには見えなかったけど?」

 

「しょ、しょうがないじゃないか・・・今までのが今までなんだから・・・」

 

俺の頭の中に今までの戦ってきた相手の姿が蘇る。

 

メベト・ヴァルファスク

アバジェス

ロキ

ゼイバー・ブラウド

シリウス

神皇 ラスト・リヴェンジャー

アキト・桜葉

ガブリエル

メタトロン

 

レイ・桜葉

 

そして、死神のメシアを名乗っていた

 

カルマ・・・

 

「ゴメンね。でも、貴方のおかげで今の私がいる。」

 

「一つぶしつけな事を聞いてもいいか?」

 

「ん?」

 

「君は未来から来たカズヤとリコの子供なんだろ?それなのにどうして前大戦の記憶があるんだい?」

 

「・・・・・・それは」

 

それまで目を閉じていたエクレアが目を開ける。

 

その目は何かを迷っている・・・

 

いや、何かを隠している・・・

 

そうだ・・・彼女は真犯人を知ってるんだ。

 

でも、彼女は明らかに困っている・・・

 

彼女は俺とそんな話をしたかったのか?

 

そうだ・・・

 

もしかしたら彼女はそんな話をしにきた訳じゃないかもしれない・・・

 

俺のバカバカ!

 

「ご、ごめん!嫌ならいいんだ!」

 

「ううん・・・タクトって優しいね。」

 

「・・・っ!」

 

エクレアの細い指が俺の頬を撫でる。

 

それだけで表現しづらい刺激が走った。

 

「タクトの聞きたい事は分かるよ・・・皆を守らなきゃいけないんだしね・・・」

 

「でも、言えない理由があるんだろ?」

 

「・・・うん、今ここで真犯人を教えてしまったらその瞬間に真犯人はこの世界を終わらせてしまう・・・」

 

よ〜く、分かってんじゃねぇか・・・

 

「真犯人は貴方にいくつかヒントを出して貴方に自分をつきとめてほしいと思ってるのよ。」

 

「意外というか予想通りというか子供っぽい奴なんだな・・・」

 

「ええ・・・でも、ヒントだけなら教えられるわ・・・真犯人は“皇国に所属している者”よ・・・」

 

「・・・そいつがスパイ・・ってあれ?確かカルマが外宇宙とのパイプ役だったんじゃあ・・・」

 

「確かにね・・・でも、“あいつ”は意外にも慎重派なの・・・カルマはあくまで彼の端末にしか過ぎないわ・・・」

 

「端末・・・・・・」

 

「そう、いくつもの操り人形を使って、自分への意識をそらさせているの・・・でも、時にきまぐれも起こしたりするけど・・・」

 

余計な事を喋るな。

 

「きまぐれ・・・?」

 

「時々、聞こえるでしょう?俺を感じるか?って・・・」

 

「・・・っ!?」

 

はっはっはっ!何だその間抜け面は!

 

「やっぱり・・・」

 

「あ、あれが・・・真犯人からの呼びかけだったのか・・・」

 

「ヒントはここまで・・・これ以上、喋れば真犯人は本気で貴方達を潰しにくるでしょうね・・・」

 

「その時は返り討ちにするだけだ。」

 

エクレアはタクトが握り拳を作るのを視界にいれながら首を横に振った・・・

 

「悪いけど今の私達じゃ万が一にも勝ち目はないわ・・・忘れないで、相手が創造主だって事を・・・」

 

「う・・・」

 

「そんな顔をしないで・・・何も手段がないとは言ってないわ・・・・・・」

 

「・・・・・・んっ!?」

 

エクレアはそう言うと俺に口付けをしてきた。

 

「ちょ、ちょっと・・・!?」

 

エクレアとのキスは2回目だが、流石にこれは・・・

 

「もう、私だって恥ずかしいんだから、じっとして・・・」

 

「ちょっと待ってくれ!俺にはミルフィーが!」

 

この先、エクレアの動き次第では俺は彼女を強引にでも突き放さなければならない・・・

 

「・・・・・・これは、私からの最後のお願い・・・それでも、駄目?」

 

「そのお願いってのは・・・・・・?」

 

「私ととってもきもちいい事しよう」

 

「ぶっ!?」

 

な、なななななななななーんて事をおっしゃりやがりますのやらこの娘は!

 

それこそ、立派な浮気罪で裁かれます!

 

「だ、駄目に決まってるだろう!最後の願いって言うのならもっと他にもあるだろう?」

 

「・・・・・・そんなに私と交わるのが嫌なんだ。」

 

涙目になっても駄目です!

 

どういう教育をしたらこんなオマセな子が誕生するんだ!

 

全く、親の顔が見てみたいものだ!

 

・・・って、いつも見てたよ・・・

 

「もう!何の意味もなくこんな事する訳がないじゃない!」

 

「な、何の意味があるのさ!」

 

「魔力を明け渡す事ができるのよ!」

 

「・・・・・・・・・はい?」

 

「もう忘れてるかもしれないけど、私達運命の三女神と初めに交わった者にはその力の恩恵を得る事ができるの・・・」

 

「は、初めて交わるって・・・意味を知ってるのか?」

 

「知ってるわ。」

 

「どこまでませてるんだよ・・・・・・」

 

「タクト・・・でも、これは今後の貴方達の生死を左右させる大事な事なのよ・・・」

 

「それだったら、他の奴がいるだろ・・・シ、シリウスとか!」

 

「タクトじゃなきゃ嫌」

 

「そんな滅茶苦茶な・・・」

 

「・・・・・・タクト、私とシリウスは永遠に存在できる訳じゃないわ・・・」

 

「え・・・」

 

エクレアの声のトーンが下がったので俺は思わずエクレアの目を見つめてしまった。

 

「真犯人が倒れれば未来が変わる・・・」

 

「ま、まさか・・・」

 

「そうなれば私とシリウスは消えるだけよ・・・」

 

「ど、どうして、そんな簡単に言い切れるんだよ!」

 

消えるって死ぬ事と一緒じゃないか!

 

「このままでは皆、真犯人の餌食になるだけ・・・それに比べたら大した事じゃないわ。」

 

「大した事じゃないなんて言うな・・・」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

俺はエクレアの頬を両手で挟みこみ彼女の目を見詰めた。

 

何だ・・・この感情は・・・

 

「タクト・・・・・・?」

 

「大した事じゃないなんて言うな・・・絶対に言うな・・・そんな悲しい事言うな・・・“お前にとってどうでもいい事でも俺には大した事なんだよ!”」

 

「・・・・・・っ!?」

 

(やっぱり、似てるわ・・・彼とタクトが似るのは必然なのかしら・・・)

 

「今までだってどんな奇跡でも起こしてきたんだ!今回だって起こして見せるよ!」

 

「その奇跡が真犯人が用意したものだとしても・・・そう言うの?」

 

「余計な事を聞くな・・・馬鹿・・・」

 

「タクト・・・・・・あなた・・・」

 

(泣いてるの?)

 

「・・・・・・タクト、私に思い出をくれる?」

 

俺に彼女の願いを無下に断る事など出来なかった・・・

 

一方、ガンチ・デイチルは・・・

 

「・・・なるほど、“アレ”の連動チェックは順調のようですねぇ・・・時にミカエル・・・」

 

「はい?」

 

「次の戦いでガブリエルにとても辛い試練が待っています・・・だから、助けておやりなさい・・・」

 

「は・・・」

 

「それと、今回の戦いの目的はあくまでデーター収集が目的です。いきなり全力全開で倒してしまうと意味がありません・・・ちゃんと手加減するんですよ?」

 

「はい」

 

「とはいえ、こちらに向かっているメンバーの中にはタクトとエクレアがいます・・・正直、手加減できる相手ではないでしょう・・・」

 

「確かに・・・」

 

「そこで、今回は私がメインアタッカーとなってタクトとエクレアの相手をする事にします。」

 

「危険すぎます!相手が相手です!」

 

「ふふ、私を侮らないで下さい・・・あの二人こそ私に歯向かった事を恐怖し、後悔する事でしょう・・・」

 

そう・・・

 

ラスト・エンジェル・・・

 

それが貴方達を葬る最後の戦闘機の名前・・・

 

くっくっくっ・・・

 

そうだ・・・

 

お前達を倒す為に作り上げた最強の戦闘機・・・

 

神界戦争の時よりラスト・リヴェンジャーというプロトタイプを用いてデーターを収集し、作り上げた・・・

 

そして、今でも・・・

 

お前達が気付かない内にお前達はこの戦闘機を増々強化していってるのだ。

 

「ミカエル・・・エンジェル隊が到着します。準備に入りましょうか・・・?」

 

「御意」

 

ローカル側の旗艦に指示を出す必要など無い・・・

 

何故ならあれ等はデータ収集の為に配置してあるだけだからなぁ・・・

 

くくく・・・楽しみだ。

 

一方、舞台はタクト達の方に戻る・・・

 

「えへへ、何だか照れちゃうね。」

 

エクレアは着物を纏いながら照れくさそうに笑う・・・

 

「ば、馬鹿・・・」

 

照れているのはこっちも一緒だ・・・

 

はぁ・・・ミルフィー・・・ゴメン・・・

 

「ありがとう、タクト・・・」

 

「え?」

 

「これで、気兼ねなく戦えるわ・・・」

 

エクレアの目が戦士のものに戻る。

 

その目は全大戦時の時と同じ鋭い眼だ。

 

「戦う・・・君は誰と戦うんだ?」

 

「私は・・・・・・ガブリエルを討つわ。」

 

「ガブリエル・・・前から気になっていたんだが、君とガブリエルは何というかその・・・」

 

「古くからの知り合いみたい?」

 

「ああ・・・」

 

前に戦った時もエクレアとガブリエルの間には俺達の知らない何かがあったように見える・・・

 

これは全く、俺の勘にすぎないんだけど・・・

 

生きてきた時代が明らかに違う筈であるこの二人だが・・・明らかに二人は昔からお互いを知っている雰囲気がある・・・

 

「悪いけど心を読ませてもらったわ・・・・・・ガブリエルと私は未来から来た者よ・・・でも、後者の方は正解よ・・・」

 

「どういう関係なんだ?」

 

「ガブリエルは・・・喧嘩友達かな・・・?」

 

そう言うエクレアの目はどこか寂しげだった。

 

「喧嘩友達・・・?」

 

「そう・・・“元々彼女が私を虐めた事が私とあの人を出会いのきっかけだったわね・・・”」

 

・・・・・・そうだな

 

「あの人?きっかけって?」

 

「ううん、ごめん・・・ガブリエルと私は同じ時代を過ごしてきた幼馴染なのよ・・・」

 

「そ、そうだったのか・・・・・・」

 

正直、はぐらかされた気もするけど・・・

 

それにもう一人、気になる奴がいる・・・

 

アキト・桜葉・・・

 

前大戦終盤時ではカズヤ達に憑依していた男・・・

 

実はエクレアの弟でカルマによってメタトロンのコアに使われていた・・・

 

そこに大きな矛盾点がある・・・

 

前大戦終盤時、カルマは言っていた。

 

未来の世界で

 

愚かな人間が編み出したクローン技術が巻き起こした悲劇の犠牲になった怨霊がエクレアに憑依し生まれたもう一人のカズヤとリコの子供・・・

 

確かに弟という表現はできるかもしれないが・・・

 

少し違和感がある・・・

 

何故かは分からないが・・・

 

カルマ、エクレアとアキトの間には何かの関係があるとしか思えない。

 

似たような立場にいたシリウスは利用されるだけ利用され、その最後は無惨なものだったが、自我と感情は持たされていた。

 

それに対して、アキトは大事に扱われてはいたが、自我と感情を全く持たない・・・

 

いや、魂が感じられないんだ・・・

 

現にアキトがエクレアと接している姿を俺は見た事がない・・・

 

いつも、誰かからの口でしか聞いた試しがない・・・

 

自分の意思で見ようと思った事がない・・・

 

それがどうしてか分からない・・・

 

「タクト・・・・・・やはり、貴方は恐ろしく勘がいいわね・・・」

 

エクレアがどこか観念したようなため息をつく。

 

「え・・・」

 

「貴方の着眼点はいいところをついている・・・この際だから明かすけど、アキトは私の弟じゃない・・・」

 

エクレアの目は今までにないほどに真面目だ。

 

「アキトは私の命より大事な子・・・これが、今の私に許されたギリギリの答え・・・」

 

自分の命より大事な子・・・

 

「まさか・・・」

 

「それ以上、考えては駄目よ。それはいずれ真犯人が貴方に正体を明かす際に教える筈だから・・・これで最後にしておくけど・・・」

 

エクレアは立ち上がり、出口へと向かう。

 

「お、おい・・・?」

 

「“真犯人がああなってしまったのは私とアキトのせいなの・・・”」

 

「ちょ!?それはどういう・・」

 

「真犯人も元々はほんの少しおかしいだけの人間だったのよ・・・それをああまで変えてしまったのは私やアキト・・・そしてレイのせいよ・・・」

 

「レイも・・・?」

 

「だから、私やレイは自ら望んで呪縛という名の鎖を繋がせたの・・・最初はせめてもの償いだと思っていたから・・・でも、その時・・・彼は既に彼ではなくなっていた・・・」

 

「・・・・・・」

 

そう言って、エクレアは出て行った・・・

 

俺は何も言えなかった・・・

 

そうだ・・・

 

どうして、レイやエクレアのような奴が真犯人に従っていたんだ?

 

あの二人は潔くて率直だ・・・

 

そんな二人が何の理由もなしに真犯人に従う筈がない・・・

 

本気で嫌なら最初から従う筈がない・・・

 

一体、レイとエクレア・・・そして、アキト・・・

 

この三人が真犯人を生み出した・・・

 

結局、俺が聞き出せた最大のヒントはそれだった・・・

 

そういえば俺にはどういった恩恵が受けれたんだろうか・・・?

 

聞くのを忘れていた・・・

 

そして、それを聞く事もなく夜は明けた・・・

 

〜禁断の毒〜

 

「皆・・・ドライブアウトが完了次第、すぐに出撃するぞ・・・敵は間違いなく先手必勝で来る筈だ。相手はあのブラウドだ・・・最悪、敵はこちらの位置を掴んでいてドライブアウト直後に一斉攻撃を仕掛けてくる可能性もある・・・だから、ドライブアウトが完了次第、俺の指示を待たずに守りに入ってくれ・・・」

 

『了解』

 

モニターに移るエンジェル隊の顔はとても心強い・・・

 

エンジェル隊は既に紋章機の中にいる。

 

「エクレアとシリウスは俺と一緒にボスクラスの相手をしてもらう・・・いいか?」

 

「良いも何もこれは戦争なんだよ。馬鹿じゃねぇの?」

 

「お、お前なぁ・・・」

 

「まぁまぁ・・・無論、私もそのつもりよ・・・そして、向うもね・・・」

 

「ドライブアウトまで後10分です!」

 

全員の会話が止んだ・・・

 

無理もない・・・

 

今度の敵は

 

最強の艦隊と名高い

 

ブラウド財閥の主力艦隊と戦うのだ・・・

 

EDENとNEUEの戦力が合わさったとしても勝ち目は無いと言われる超ド級の大艦隊・・・

 

やがて、タクト達はアスティオへとドライブアウトした。

 

その瞬間、目の前には視界を埋め尽くす程の大艦隊が待っていた。

 

「す、凄い数なのだ・・・」

 

「流石に優勢だなんて言ったら詐欺よね・・・この数はいくらなんでも・・・」

 

「やはり主力艦隊をこちらにまわしたか・・・」

 

タクトの視界には超弩級の旗艦 ラスト・ジャッジメントが移っている・・・

 

タクトは視覚で捕らえたのではない・・・

 

タクトは直感的に感じたのだ。

 

そのとてつもない殺意と怨念を・・・

 

今まで分からなかったが・・・

 

エクレアの力の恩恵だろうか・・・

 

今の俺には分かるみたいだ・・・

 

あの澄ました顔の裏に隠されているガンチ・デイチルの本性が・・・

 

「くっくっくっ・・・どうやら、私の思いが伝わったようですねぇ・・・」

 

そんな懸念を抱くタクトに対して

 

敵の大将からの通信が入ってきた。

 

「ガンチ・・・・・・お前は一体何者だ?」

 

「はて?質問の意味が分かりかねますが?」

 

「お前は人間じゃない・・・かといっても神でも悪魔でもない・・・」

 

「はっはっはっ・・・これは傑作です・・・ふむ?では、私は一体何だと?」

 

「気が狂った化け物だ。」

 

「これはお褒めにあずかり光栄です。」

 

「何故なんだ・・・お前とは初めて会った気がしない・・・どこかで・・・どこかでお前と会った気がする。」

 

「・・・・・・ええ、確かに私と貴方は何度も出会っていますよ。」

 

「何処でだ?」

 

「流石にこれ以上、明かす訳にはいきませんし、それに・・・・・・」

 

閉じられていたガンチの眼が開く。

 

「ここからは口ではなく力といきましょう・・・」

 

穏やかの口調は一変し、恐ろしい程までの冷徹な声へと変わる・・・

 

そして次の瞬間・・・

 

彼に従う四大天使達が姿を現した。

 

ミカエル、ガブリエル・・・・・・そして

 

「ラ、ラファエル・・・!?」

 

「そんなに驚く事はあるまい、貴様とて何処かでこの事態を予想していたのではないか?」

 

前回、ラファエルは自ら首を切り飛ばして自滅した筈なのだが、今のラファエルはあの時とまるで同じだ。

 

そうだ・・・カズヤからミカエルの事を聞いた時にもしやとは思っていたが・・・・・・待て・・・

 

現れた天使は三人だが・・・

 

もし、“アレ”が復活したとすれば・・・

 

最強の天使 メタトロン

 

最強クラスの攻撃力と防御力をかね揃えた反則級の天使だ。

 

「タクトさん・・・貴方の勘は正しいですよ。」

 

「え?」

 

「メタトロンは復活しますよ。今日この場所でね。」

 

「アキトなしでどうやって稼動させるつもりだ・・・」

 

「メタトロンは言わば無限大のエネルギー源・・・リンクさえ上手くいけば誰にも動かせるのですよ?」

 

「それがアスティオに封じているものか?」

 

「いえ・・・アスティオに封じ込めているのはとぉっても刺激の強いスパイスです・・・貴方達の知らない未知のスパイスがあそこに眠っているのです。」

 

「未知のスパイスだと・・・」

 

「ええ・・・既にアスティオの民にはそのスパイスをたぁ〜っぷりと召し上がっていただきました。」

 

「貴様!?」

 

「ふふ・・・今、アスティオの民はこの刺激に耐え切れずに狂喜乱舞しているでしょうね・・・そうだ、どうぞ貴方達もアスティオの民の喜ぶ様をどうぞご覧になって下さい。」

 

俺達が見たものは生き地獄・・・

 

アスティオの人達は見る面影もなく無惨にも死んでいく・・・

 

口から血を吐いて倒れてそのまま動かなくなる。

 

これは毒なのか?

 

「例の力が徐々に目覚めつつあります。それに伴ってその力の2次作用とも言える“放射能”が漏れ出しているのでしょう・・・」

 

「タクトさん!助けましょう!」

 

「・・・・・・ごめん、もう無理だ。」

 

直感的にアスティオから命の息吹が途絶えた事を理解した。

 

「デザイア・・・もう手遅れよ・・・あの放射能という猛毒はあらゆる粘膜や皮膚から侵食し始める・・・今、私達が降りれば彼等と同じ末路を辿るだけよ。」

 

「でも、このまま見捨てる事なんてできない!こんなの酷過ぎるよ!」

 

「今、俺達がする事は悲しむ事じゃない・・・」

 

「・・・・・・シリウス君」

 

「今、ここでブラウドを討たないとまた同じような悲しみが生まれる・・・だから・・・今は・・・」

 

「ええ、今は怒る時よ!」

 

オリジンが黄金色に輝きその背中に十二枚の翼を羽ばたかせた!

 

「本気で来ますか・・・くっくっく・・・」

 

「まさか、ここまで堕ちるなんてね・・・失望したわ。」

 

ふん、お前が昨日した事に比べればまだ、マシだろうがよ・・・

 

「・・・・・・そうですか、それは残念・・・ガブリエル。」

 

「はい・・・」

 

エメラルド色の戦闘機 オメガがエクレアへと照準を定める。

 

「ガブリエル・・・」

 

「エクレア・・・」

 

両者はお互いの敵を認識する。

 

「皆は雑魚の相手を頼む、エクレアはそのままガブリエルの相手を・・・ミカエルとラファエルは俺が引き受ける。」

 

「お前一人で裁ききれる相手ではない。」

 

「その声!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

シャイニング・スターの背後にはいつの間にかアルフェシオンがいた。

 

「お前!どうやってここまで!?」

 

「そんな説明は後でいい・・・」

 

「ほう!これはこれは死神のメシア殿ではありませんか!」

 

「よく喋る奴だ・・・御託はいい、さっさと片付けてやるから出てきたらどうだ?」

 

「はっはっはっ!残念ながら貴方の相手はミカエルがしたいと申しているようなので・・・」

 

「ルシラフェル・・・この時を待っていたぞ・・・お前相手ならば私も本気を出せるというもの・・・」

 

「ガンチ、一つだけ言っておく・・・俺はお前を殺しにきた・・・その障害となるものは早急に取り除くまでの事だ。」

 

「ほう?ミカエルも随分と安く見られたものですねぇ・・・」

 

「その自信を木っ端微塵にしてやる・・・」

 

(そんなものこの前の戦いでとうに砕かれたさ・・・)

 

レイの脳裏に浮かぶのはあの超越者だ。

 

「タクト、命令を下せ・・・仕掛けてくるぞ」

 

「あ、ああ・・・・・・全機攻撃開始だ!」

 

「全軍、敵機を殲滅せよ。」

 

放射能という毒に汚染されたアスティオの宙域にてタクトとガンチの戦いが始まった・・・

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