・終幕

 

ラグナロク

 

中学1年生の夏休み終盤の頃・・・

 

連続して台風が通過した後の事だった。

 

「今回の増水はすげぇな!」

 

俺は台風の時が楽しいタイプの人間だ。

 

「それこないだも言ってだでしょ」

 

と璃子の突っ込みが入る。

 

「うるせぇ・・・」

 

「もう・・・」

 

今日は俺と璃子の二人で地域唯一の店へ買い物へ来ている。

 

ちなみに現在でもここ一つしか店が無いのが驚きだ。

 

あ、それと相棒こと零士は

 

「寝る」

 

その一言で部屋に閉じこもってしまった。

 

まだ、昼の1時なのだが・・・

 

「あいつ絶対に寝るなんて嘘だよな。」

 

「そう?昔からあんな感じよ」

 

「・・・・・・いやいや」

 

俺は右手を振る。

 

「おそらくだな、あの本棚にエロ本がしこんであり・・ッデ!?」

 

俺は横腹に鋭い痛みを感じて犯人を睨みつける。

 

「本当に嫌われるわよ・・・」

 

「冗談の通じない奴よりかはマシだと思うが・・・」

 

と言いつつ俺は少し自重する事にした。

 

他の女なんかどうでも良かった。

 

俺にはこの天使がいた。

 

「・・・ふぅ、ん?」

 

増水し、荒れ狂う川の中を何かが流れている・・・ってオイ!?

 

「お、おい!」

 

俺は土手へと駆け出していた

 

「どうしたの?」

 

「猫が流されている!」

 

「ええ!?ちょ、ちょっと!危ない!」

 

俺は制止の声も聞かず川へと飛び込んだ。

 

ただ単に彼女に格好良いところを見せたかっただけだだろ?

 

うわっぷ!猫が見えねぇ!

 

濁った、ましてや荒れ狂う川の中で猫の姿を探す事など不可能に近い・・・

 

しかし、俺は昔から悪運が強かった。

 

あ、あれだ!

 

俺は日頃の修行で鍛えた四肢を活かして荒れ狂う川の中で猫まで近づく。

 

猫はパニックを起こして暴れまわっている。

 

「助けにきたぞこの馬鹿!」

 

俺は猫を右手で掴んで左脇に抱える

 

咄嗟だったのだが左利きの俺が左手を使えないようにしたのは痛手だった。

 

「イデ!」

 

そして何故か暴れるクソネコ。

 

このまま放流してやろうか・・・

 

しかし、ここでこのクソネコがくたばると彼女の事だきっと泣いてしまうだろう。

 

「ちくしょうがああああ!!」

 

俺は自分の生存もかけて壁へ壁へと行こうとするが中々近づけない。

 

というか鼻の中に泥水が入って何ともいえない地獄を味わった。

 

というか基本的に右手と両足で泳げる訳がない。

 

こうなったら・・・

 

俺は暴れる猫をシャツに突っ込んだ。

 

相変わらず引っかく猫・・・

 

「あがったらぶっ殺してやる!うわっぶ!?」

 

俺はそう叫びながら最寄の排水用の土管に捕まった。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ちくしょ〜死ぬかと思った・・・」

 

ここで自分がどの辺にいるかがわかった。

 

そうか、海にまで近づいたから勢いは減っていたのか・・・

 

このまま海までいってこのクソネコを葬るのも手だな・・・

 

とりあえず俺は上まで昇り、引っかき続けたクソネコを取り出して下ろした。

 

サッカーボールにしてやろうと思ってる内にクソネコは逃げていった・・・

 

本当・・・これで璃子がいなければ骨折り損のくたびれ儲けということわざを実演するところだったぜ・・・

 

それからシャツを絞りながら上流=俺や璃子の家がある方角へと帰った。

 

靴が脱げてた事をここで気付いた。

 

そして、お前は璃子の反応を楽しみにしてたんだろ?

 

「亮!」

 

息を切らせながら彼女は走っていた。

 

嬉しかったんだろ?

 

「大丈夫!?」

 

「あのクソネコは無事に野へと帰っていったぜ」

 

「違う!亮のことよ!」

 

「あ、ああ〜・・・」

 

俺はクソネコに引っかかれたところを見せた。

 

「酷い傷じゃない!」

 

「な〜に、こんな傷舐めれば治るさ。」

 

内出血や切り傷、擦り傷などは修行で慣れてしまったしな・・・

 

「という訳で舐めて舐めて〜」

 

俺は猫撫で声でおねだりをする。

 

璃子が近づいてくる。

 

おそらく、本気で怒ってビンタしてくるんだろうな〜

 

「・・・ん」

 

左腕に未経験の刺激がはしった。

 

「ちょ、冗談だって!」

 

本当に舐めてる・・・こ、これは・・・

 

「動かないで・・・家まで距離もあるんだから化膿したら大変よ・・・」

 

「い、いや・・いい・・から・・・」

 

流石に道路の真ん中でこういう事をされるとこの俺でも恥ずかしいぞ・・・

 

この後、様子が気になり、家の前から出ようとしていた零士と合流し、ことの事情を説明したら

 

「ご苦労」

 

の一言で片付けられた。

 

その後喧嘩をふっかけたのは言うまでもない。

 

〜最終決戦前夜の月〜

 

惑星アスティオでの死闘を繰り広げた天使達は白き月へと帰還していた。

 

結果は皇国軍、ブラウド共に引き分けといったところだろうか・・・

 

皇国軍は全紋章機を大破させてしまい、ブラウドはガブリエルをはじめとした四大天使と12隻の旗艦を失った・・・

 

そういう訳で皇国軍は来るであろうブラウドの最終決戦に向けて紋章機の修理に全力を尽くしていた

 

しかし、そんな中でおかしな事が一つあった。

 

「何でだよ!?」

 

ロキは格納庫の前でとうせんぼされて憤慨していた。

 

「すまねぇな、何でもルフト様からの勅命でな・・・大人しく自宅謹慎してくだせぇな。」

 

とうせんぼしてるクロワは申し訳なさそうに言うが、ロキの怒りは収まらない。

 

「ふざけんな!」

 

「堪忍な〜きっと何かの理由があると思うから・・・」

 

とうせんぼしてるもう一人のコロネも申し訳なさそうに諭した。

 

「しかし、シャイニング・スターやブレイブハートはお前達にあたれる代物でもねぇだろ!?」

 

決して、ロキの自惚れなどではない。インフィニ搭載機はそれこそ危険なものなのだ。

 

「ほんまに堪忍してや〜」

 

「チ!」

 

ロキは舌打ちをしながらその場を後にした。

 

一方、タクト達は前の戦いで瀕死の重傷を負ったエクレアの看病にあたっている。

 

「エクレア・・・大丈夫?」

 

アプリコットは未来の娘である少女の額を優しくさすりながら今にも泣きそうな表情でエクレアの顔を覗き込んでいる。

 

「外傷は既に治癒しているが、いかせん魔力の消耗が激しい・・・正直これ以上成す術はない」

 

「そんな・・・それじゃあ・・・」

 

治療を担当したアバジェスは冷静に過酷な現実を教えた。

 

「アバジェス、何とかならないのか?お前は元々神王で色々な物を創造してきたんだろ!?」

 

「悪いが、エクレアの魔力の根源は独立していて、私やレイでもどうする事もできない・・・魔力を回復させる薬も副作用が激しいので適量しか施せない。」

 

「・・・・・・くそ、俺があの時・・・」

 

タクトは拳を痛い程に握り締めた。

 

「タクト、自分を責めないで・・・タクトには笑ってほしいな・・・」

 

等と彼女は笑顔で言う・・・

 

「わ、笑える訳がないだろ・・・大人しく寝てろよ。子供なんだから無理して起きる必要なんかないだろ。」

 

「もう意地悪・・・フフ、でもそうね・・・」

 

エクレアは静かに目を閉じた。

 

「言われた通り子供らしく寝てるわね・・・おやすみなさい。」

 

「おやすみ・・・」

 

アプリコットはエクレアの頭を彼女が寝付くまで何度も優しく撫で続けた。

 

そして、そんな様子をカズヤは複雑な表情で見守り続けた。

 

一方、シヴァ女皇はブラウド財閥への対策議会を召集していた。

 

召集したと言えどザレム派が強行に召集をかけたのだが・・・

 

ここにはトランスバール皇国の主要人物が勢揃いしている。

 

「そ、それは本気で申しているのか!?」

 

「この場は冗談を言う場所ではないというぐらい十分に理解しているつもりです。」

 

「この期に及んでブラウドと和平交渉などが通用すると思っているのか!?」

 

「お言葉ですが“現実”を見てください。」

 

「現実を見ていないのはお主の方だろう!」

 

ザレム派の議員達より失笑が飛び交う。

 

「ふぅ、既にこちらの紋章機は全機大破の状態・・・これでブラウドの大艦隊に挑むのは自殺行為としか言い様がありません。」

 

シヴァ達には急ピッチで修理に取り掛かっている整備班の様子が写されている。

 

「しかし、敵も四大天使という大きな駒を失いました・・・向こうとてこの和平交渉を邪険にするとは思えませんが?」

 

「お前達はガンチが宣言した事を忘れたのか?奴は善悪に構わず我々人類を抹殺すると宣言したんだぞ!?」

 

「それは百も承知です・・・しかし、連中とてすぐには動けない筈です。」

 

「ほほう・・・何故そこまで断言できる?」

 

それまで沈黙を守っていたルフトがザレム派の議員に対して疑問を投げつけた。

 

「階級が上がった途端に態度が変わるとはお前も中々したたかだな。」

 

「陛下の御前である私語は控えて質疑に答えよ。」

 

「ふん、四大天使を失ったのです。理由はそれだけですよ。」

 

「ブラウド艦隊の規模がほぼ無限大に等しいという情報はこの場にいる者全員に知れ渡っている筈じゃ・・・」

 

「ルフト元帥殿・・・何が言いたい?」

 

「な〜に、ただ単にあらかじめ敵の動きを察知しているように感じれたのでな・・・」

 

「・・・これはこれは」

 

「な、何と無礼な!」

 

「元帥ともあろう方がこのような軽率な発言をするとは!」

 

「ここは贖罪の場では無い筈ですぞ!」

 

ザレム派の議員からは非難が殺到する。

 

「皆の者、陛下の御前である静まれ。」

 

そしてアバジェスこと安部大元帥の一言で議会は静まり返った・・・

 

この場にいる者達はアバジェスの正体を知っている・・・

 

神々が住まう天上界を収めていた神王・・・

 

人知を越えた知識を持つ者・・・

 

「ブラウドがどう動いてくるか分からない現状では最悪の事態に備えておくしかない・・・紋章機の修理を継続して行い、万が一和平交渉を申し出てきた時にシヴァ陛下にご決断してもらう・・・それでどうだ?」

 

「む・・・」

 

ザレム派の議員はどこか納得がいかない様子ではあったがこの案を受理した。

 

「全くもって、度し難い連中ですな・・・」

 

「すまんな、ルフト・・・お前の芝居のおかげで現状が把握できた。」

 

「いえ、お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。」

 

「皇国軍にブラウドの者が紛れ込んでいるのなら、NEUEを頼るしかないな・・・ルフト。」

 

「御意、向こうへ伝達しておきます。」

 

一方、格納庫では・・・

 

「にしても、また随分と派手に破壊されたものだな・・・」

 

ロキと入れ替わりで整備班の指揮をとっていたレイはアルフェシオンを見上げたまま呟いた。

 

無論、先までは天敵であったレイと打ち解ける者はいないが、その無駄の無い指揮に誰もが逆らおうとはしない。

 

「このペースならギリギリで間に合う・・・しかし、アイツが果たしてその時まで待っているかどうか・・・」

 

レイは修理にいそしんでいるコロネ達を見て眉を顰めながら呟いた。

 

安心しな、相棒・・・そんなKYな真似をする程俺も白状じゃないぜ・・・

 

それにどうせ殺すのなら完成したラスト・リヴェンジャーをお披露目したいしよ・・・

 

一方、シリウスはミルフィーユの部屋を訪れていた。厳密にはタクトの部屋でもあるのだが、タクトは最終決戦への作戦会議で出計らっている・・・

 

部屋は臨時で当てられたものなのだがタクトがあらかじめ手配をしていた為かキッチンが備わっている

 

タクトなりの気遣いなのだろう・・・

 

二人はベッドの上に腰掛けながら雑談をしていた。

 

「シリウス君、辛くない?」

 

「どうして?」

 

「だって、まだ子供なのに・・・」

 

「大丈夫だよ。もうこういうのには慣れたから・・・」

 

「そっか・・・今まで大変だったんだね。」

 

「う、うん・・・・・・?」

 

ミルフィーユはシリウスの頭をやさしく撫でる・・・

 

「ぅ・・・・・・」

 

本来ならその手を跳ね除けるだろうシリウスもミルフィーユには逆らわない・・・

 

「ねぇ、シリウス君」

 

「な、何?」

 

「君のお父さんとお母さんって今はどうしてるの?」

 

「そ、それは・・・」

 

シリウスは言いづらそうに俯いた。

 

「そっか・・・そうだよね・・・」

 

ミルフィーユの脳裏にメタトロンとの戦いが蘇る・・・

 

未来のEDENはガブリエル達に淘汰され、HEAVENとなり・・・そして、メタトロンの光によって跡形もなく消滅したのだ。

 

「でも、シリウス君のお父さんとお母さんってあたしとタクトさんなんでしょ?」

 

「・・・・・・うん」

 

「だったら大丈夫だよ。今度はきっと上手くいくよ!だって、先の事が分かってるんだから、何としてでも勝ち残らなきゃ!」

 

「・・・・・・」

 

シリウスはそんな底抜けな程に自信満々なミルフィーユに口をあけてポカーンとしてしまう。

 

「あたしもタクトさんもみんなも頑張るから!」

 

ね?とミルフィーユはシリウスの目を覗き込む。

 

「う、うん・・・お、俺も頑張るから。」

 

「うん!じゃあ、何か作ろうお夕飯まだだったもんね。じゃあ、早速買い出しに行ってくるね。」

 

そう言ってミルフィーユはベッドから立ち上がる。

 

「あ、俺も一緒に行くよ・・・というか、俺にも手伝わせてくれ。」

 

「シリウス君、料理が出来るの?」

 

「ああ、エクレアの奴がそういうのは苦手だったものでな・・・」

 

「え〜エクレアちゃんってお料理できないんだ・・・」

 

「ああ・・・ただし、それを言うとアイツ本気で怒るから気をつけろよ。」

 

「ぷ、アハハ!」

 

ミルフィーユは笑いながらシリウスと共に買い出しに出かけた。

 

一方、当の本人は・・・

 

「ハクチュン!」

 

「エクレア、寒いの?」

 

突如のクシャミにアプリコットは心配そうにベッドの上のエクレアを覗き込んだ。

 

「う、ううん・・・大丈夫」

 

後でお仕置きね・・・シリウス

 

それとデザイアもね・・・

 

「エクレア、何か食べたいものはないかい?」

 

カズヤが気を遣う。

 

「・・・・・・本当にいいの?」

 

「うん、いいよ。」

 

「じゃあねぇ・・・」

 

エクレアは少し照れた表情で

 

「エクレアがいい・・・いつも“パパ”が作ってくれたエクレアがいいな・・・」

 

「エ、エクレア!?」

 

二人はハっとしてエクレアの方を振り返る。

 

「パパとママ・・・違うの?」

 

続いて二人はお互いを見つめて真っ赤な表情でうなだれた。

 

「ふふ、本当に可愛いんだから」

 

「エ、エクレア!」

 

「じゃあお願い、“パパ”」

 

「あ、あのねぇ・・・」

 

「カ、カズヤさんここはエクレアの言う通りにしてあげて下さい」

 

「わ、分かったよ・・・」

 

「あ、その前にエクレア・・・一つ聞いてもいい?」

 

「何?」

 

「エクレアはこの戦いが終わったらどうするの?」

 

アプリコットにしてみればそれは前々から気になっている事ではあった。

 

「そうね・・・パパとママとでどこかに行きたいな」

 

この子は何て純粋なんだろう。

 

何のオブラートにも包まずに自分の要望を出してくる・・・正直、リコとは違った意味で引き込まれそうになる・・・

 

は!ばっかじゃねぇの?

 

突如、入口の扉が開き来訪者が現れた。

 

「よぉ」

 

「・・・・・・っ」

 

「お父さん!」

 

「よう“未来の孫娘”よ具合の方はどうだ?」

 

何故かロキさんは入口から一歩も進まずにエクレアへ問いかける。

 

「・・・・・・」

 

エクレアは何も答えない。

 

「エクレア・・・?」

 

何も答えないエクレアをリコが何気に見つめると・・・

 

「ど、どうしたの・・・そんな怖い顔をして・・・お父さんと何かあったの?」

 

「・・・気付かない?」

 

「え・・・」

 

「あなた達なら気付く筈よ・・・」

 

「あ?さっきから何を訳の分からねぇこと言ってやがるんだよ?」

 

そう言ってロキさんが一歩だけ踏み出した瞬間

 

「来ないで!」

 

エクレアが珍しく叫んだ。

 

「エ、エクレア!?」

 

リコは素っ頓狂な声をあげて驚いた。

 

「おいおい・・・どうしたって言うんだよ・・・」

 

ロキは構わず歩よっていく・・・

 

「お父さん待って!」

 

何でエクレアがお父さんをこんなに拒んでいるのかは分からないけど近づけたらいけないって直感的に思った・・・え?

 

「な、何・・・」

 

何だろう?リコの様子が変だ・・・

 

「う、嘘・・・どうして?」

 

この感じ・・・どこかで・・・ってリコがしゃがみこんじゃった!

 

「リ、リコ!?」

 

僕は即座に彼女に詰め寄った。

 

「ど、どうしたの?」

 

「嘘・・・こんなの嘘だよ・・・」

 

「・・・・・・おいおいお前までどうしたんだよ?」

 

ロキさんはそれでも近づいてくる。

 

「・・・・・いで」

 

リコが何かを喋ったようだが小さくてよく聞き取れなかった。

 

「どうした・・・リコ、“何をそんなにビビってるんだよ”?」

 

・・・っ!?

 

な、何だ・・・このプレッシャー・・・

 

「こないでぇぇぇーーーーー!!」

 

「う、うお!?」

 

その大声にロキさんは驚いて後ずさりした。

 

それと同時に底知れぬプレッシャーも消えた。

 

「リコ!どうした!?」

 

何と偶然にもその場にタクトさんが入ってきた。

 

「タクトさん!」

 

「あ?何しに来たんだよ?」

 

あ、あれ?何かまた・・・妙なプレッシャーが・・・

 

「お前こそ何してるんだよ。」

 

「馬鹿野郎!俺はただ見舞いに来ただけだぞ!なのにそこの二人が俺を異様に怖がってよ。」

 

「はぁ〜・・・自業自得だろ・・・」

 

タクトさんはまたかと言わんばかりのため息をついた。

 

違う・・・タクトさん

 

違うんだよ、タクトさん・・・

 

リコはさっき本当の恐怖を感じてたんだ。

 

なのに、どうして僕はその事をタクトさんに言えなかったんだろうか・・・

 

この後、ロキさんは不機嫌なままタクトさんに連れられていった。

 

そして、僕は看病をリコに任せて買い出しに行くことにした。

 

すると宇宙コンビニでミルフィーさんとシリウスに遭遇した。

 

「あれ?カズヤ君もお買い物?」

 

「そういうミルフィーさんも親子で買い物ですか?」

 

「や、やだ・・・改めて言われると照れちゃうよ〜」

 

ミルフィーさんはジェスチャーで照れてる事をアピールしている・・・それに対して・・・

 

「うるさい、黙れ、とっととどっかに行け。」

 

全く、この毒舌は誰に似たのやら・・・

 

「コラ、シリウス君、そんな事言うもんじゃないよ?」

 

「ふん・・・」

 

「はは、良いですよ。子供の言う事ですから・・・」

 

「・・・・・・テメェ、表に出るか?」

 

「うん?あんまり大人をなめていると怪我をするよ?」

 

敵意丸出しなシリウスと笑顔で物騒な事を言うカズヤ・・・そして、そんな一瞬触発の事態に・・・

 

「あれ?ミルフィーにカズヤも・・・買い物か?」

 

「あ、タクトさん」

 

何とタクトが現れた。

 

無論、シリウスがいるのは知っていてわざと略している。

 

「そういうお前こそ、何しにきてんだよ?そんな暇ねぇだろ?」

 

「やだなぁ、俺だって息抜きぐらいするさ」

 

「日頃から息抜きしてんだからこんな時ぐらい給料分は働けよこの甲斐性なしめ・・・」

 

「・・・・・・あ?」

 

タクトもニコニコ顔だが、声は笑ってない。

 

「良いから俺の前から消えろって言ってるんだよ。この似たもの同士が・・・」

 

「・・・・・・・」

 

ニコニコ顔のまま顔を合わせるタクトとカズヤ・・・

 

どうやら考えてる事は二人共同じようだ。

 

「シリウス・・・少し男同士で語り合わないか?」

 

と言いながらタクトはシリウスの右腕をホールドし

 

「ああ?」

 

「うんうん・・・」

 

と頷きながらカズヤはシリウスの左腕をホールドした。

 

「何しやがる!」

 

「まぁまぁ」

 

「うんうん」

 

「離せ!この野郎!」

 

暴れる子供を二人はがっちりとホールドして連行しようとするが・・・

 

「待ってください!シリウス君、嫌がってるじゃないですか!」

 

この後、ミルフィーユの説得により事態は沈静化した。

 

「ふぅ〜ん・・・エクレアちゃんがエクレアをね〜やっぱり名前って好みに左右するのかな?」

 

「そう言えばミルフィーさんの名前もミルフィーユというケーキから来てるんでしたよね?」

 

「うん、お母さんが好きだったみたいだから・・・でも、今では私この名前気に入ってるんだ。」

 

「あはは・・・」

 

何ていい加減な名付け方だろうと思ったのは黙っておこう・・・

 

「材料は全部あるの?」

 

「いえ、流石に今回は持ってこれなかったので・・・」

 

「そうだよね〜私も同じだし・・・」

 

「あ〜材料も手配させたかったんだけどどんなのがいるのか正直俺じゃ分からなくてさ・・・」

 

「ケ!軍隊はお前のおもちゃじゃねぇんだよ。」

 

「何か言ったか?クソガキ?」

 

「やんのか?」

 

笑顔のタクトと敵意丸出しのシリウス・・・

 

「二人共駄目ですってば〜!」

 

そして、その後事態は何とか終息し僕はミルフィーさんから一緒に調理しないかと誘われたが向こうはデザートでもないし、何より自分の中で特別なものをつくりたいというのもあったので悪い気はしたけど断った。

 

何だろう・・・これが親心という奴なんだろうか・・・

 

一方、タクトとミルフィーユ達は部屋の前で別れ、ミルフィーユはシリウスと二人で料理に取り掛かった。

 

「へぇ〜凄い!シリウス君て包丁の使い方が上手いんだね〜」

 

ミルフィーユはシリウスの見事な包丁捌きに感心していた。

 

「まぁ、包丁捌きについては隊長が直々に教えてくれたからな・・・」

 

「隊長ってお兄ちゃんの事?」

 

「ああ・・・メシア隊に所属してた俺達は常に隊長と呼んでいたからな・・・」

 

前世の記憶を持つシリウスにとってはレイ・桜葉は死神のメシア・・・ネオ・ヴァル・ファスクのメシア隊の隊長なのだ。

 

次の瞬間、シリウスの脳裏にエオニアの姿が蘇った。

 

前大戦時、エオニアはシリウスを正気に戻そうと無理をし、その結果無惨にも戦場で散っていった・・・

 

「・・・・・・」

 

シリウスの手がふと止まってしまう。

 

「シリウス君?」

 

実はあれはシリウスに憑依していた真犯人の仕業だったのだが、シリウスにしてみれば自分が殺したようなものだと思っているのだ。

 

「え、ああ・・・悪い・・・続けよう。」

 

今の俺には新しい居場所がある・・・

 

見てくれてるのか?エオニア・・・

 

一方、エクレアはカズヤが作ったエクレアをアプリコットとカズヤの三人で頬張っていた・・・

 

「うん・・・この味、久しぶり・・・」

 

甘い物を食べてる時のエクレアは本当にリコに似てるなと思った。

 

正直、年相応の反応で可愛いなと思った。

 

「・・・・・・パパのデザートって本当においしいね。」

 

「そう言ってくれるとありがたいよ。」

 

「あ、すいません、紅茶忘れてました。」

 

「ママも本当に紅茶が好きだね・・・」

 

「あはは・・・」

 

「アールグレイお願いしていい?」

 

「うん」

 

リコは席を立ち紅茶を入れにいく

 

そんなリコを見ながら、僕はこれが夕飯だということに気が付いた。

 

一方、ミルフィーユ達は夕飯を平らげていた。

 

「ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさま・・・」

 

両者は手を合わせる。

 

「母さん・・・一つ言わせてくれ・・・」

 

「何だか恥ずかしいな・・・」

 

「じゃあ、ミルフィー・・・一つ言わせてくれ。」

 

「ううん、無理に言い直さなくてもいいよ。」

 

「じゃあ、母さん、今まで黙っていたんだけど実はリウスで母さんと会った記憶が正直あまり俺にはないんだ・・・」

 

「え・・・」

 

「正直、俺が何者なのかは分からない・・・おそらく記憶をアイツに操作されたからなんだろうけど・・・」

 

「う、うん・・・」

 

シリウスの目がミルフィーユの目を見詰めた。

 

「今度の戦いではきっと大きな変化が起こるだろう・・・でも、これだけは覚えておいてほしい・・・俺は母さんの事が大好きだったって・・・」

 

「シリウス君・・・」

 

ミルフィーユはシリウスの頭を撫でた。

 

「私もだよ・・・」

 

一方、エクレアはカズヤとアプリコットの三人で床についていた。

 

無論、エクレアが提案したのだ

 

「な、何だか恥ずかしいですね。」

 

「ぼ、僕も・・・」

 

エクレアを真ん中に挟んで川の字にベットに寝そべるその様はまさに親子そのものである。

 

「パパ、ママ・・・おやすみなさい」

 

最初は照れていた二人だが、エクレアのその一言で緊張が解けたのか眠りに入るのにそこまでの時間は要さなかった。

 

えみ、憲二ありがとう・・・

 

貴方達のおかげで私はこうしていられる・・・

 

そしてごめんね・・・

 

もう少しだけこうさせて・・・

 

必ず貴方達の仇はとるから・・・

 

 

一方、アバジェスの部屋にはレイが呼び出されていた。

 

「紋章機の修繕は残すは外装のものがほとんどで後はクロワ達でも事足りるでしょう。」

 

「ご苦労だったな・・・レイ」

 

「いえ、それに切り札も用意しておきました。」

 

「ほぅ・・・切り札か・・・」

 

「プラン自体は初期の頃からあったのですがいかせん威力が大きすぎるので封印しておいたのですが次の戦いではそんな余裕をかましてる場合でもないでしょうしね・・・」

 

「“戦闘予想区域”の避難については既に完了している。遠慮なく使用するといい・・・」

 

「これは恐れ入ります」

 

何故、アバジェスが戦闘区域を特定できるのかをレイは問いたださない。

 

何故なら、レイはアバジェスの立場を一番理解してるからだ。

 

「それともう一つの切り札を用意したいと思いまして、強いてはマスターの許可を得たいのですが・・・」

 

「もう一つの切り札・・・まさか、“アレ”の事か?」

 

「はい・・・“アレ”を再び使用したいのです。」

 

「ふぅ・・・それは本気で言ってるのか?」

 

アバジェスの目が一際厳しくなる。

 

「はい・・・私はこれが禁忌だと理解していてお願い申し上げています。」

 

「・・・・・・ほぅ」

 

「しかし、アイツも次の戦いで全てを終わらすつもりでいる筈です。」

 

「前大戦(エクレア)の時はあくまで予行練習・・・次は本気という訳か・・・」

 

「単純なアイツの事です。おそらくは今まで手加減していた枷を全て解き放つでしょう。」

 

「・・・それは十分にあり得るな。」

 

「無人偵察機で洗ったところカオス・シー(ブラウド財閥の本拠地)にいくつもの月を確認しました。」

 

「なるほど・・・あり得ない物をあり得ない数を使ってくるつもりだな・・・」

 

「はい・・・このまま戦えばこちらの敗北は目に見えてます。だからこそ私は“アレ”を実行するのです」

 

「おいおい・・・お前がいれば雑魚がいくつ揃おうが相手ではないだろう?元々シャイニング・スターがデュアル戦(対ボス)用でアルフェシオンが集団戦用の紋章機だった筈だ。」

 

「確かに・・・しかし、私はおそらくは動けません。」

 

「どういうことだ?」

 

その言葉にレイは若干眉を顰める。

 

「・・・・・・妨害者が必ず現れるからです。」

 

「妨害者・・・この前の報告書にあった敵機の事か?」

 

「はい、アイツは前戦力を投入するつもりで、アイツは俺さえ封じてしまえば数にものをいわせれると考えている筈・・・違いますか?」

 

レイはアバジェスの目をじっと見つめた。

 

それに対し、アバジェスは笑みで返した。

 

「・・・・・・分かった、好きにしてみるといい。許可しよう・・・」

 

「は!」

 

レイは敬礼を返し、踵を返して出て行こうとした。

 

「・・・・・・レイよ」

 

「はい?」

 

レイはアバジェスが何を言いたいかが分かっている。

 

「お前は強い、文字通りに完全だ。」

 

「・・・・・・それは違います。貴方らしくもない・・・」

 

レイは苦笑する。

 

「ふ、私らしくないか?」

 

アバジェスも苦笑する。

 

「完全だと自惚れ日頃から100%を出し切らない者は必ず衰える・・・」

 

「・・・・・・」

 

「だから、常に100%で戦え・・・それはマスター・・・貴方が一番初めに教えてくれた事です。」

 

「・・・よく言った。そうだ、お前もアイツもまだまだ戦いの中に遊びが見えていた・・・それは弱点以外のなんでもない・・・」

 

「だから・・・もしまた例の敵機と会った時には・・・」

 

レイは入口を向いたまま言い放った。

 

「全力で叩き潰します。」

 

「うむ、よく言った。もはや何も言うまい・・・行ってくるがいい」

 

「はい・・・それではいってきますマスター・・・」

 

そして、レイは旅立った。

 

最終決戦の準備に向けて。

 

切り札・・・

 

くっくっくっ・・・無駄な事を・・・

 

こっちの切り札を使えば何もかもが無駄になるというのにご苦労なこった・・・

 

 

深夜の格納庫・・・24時間体制の整備班が慌ただしく動いてる・・・

 

そんな中でタクトはシャイニング・スターの調整をしながらクロワと話し込んでいた。

 

「レイが出撃したって?」

 

「ああ、何でも他に準備する事があるんだってよ。」

 

「紋章機の方はどこまで修繕できてるんだ?」

 

「ああ、後は俺達でも何とかなるから大丈夫だ。この調子なら後4日もあれば完璧に終わるだろうよ。元々、シャイニング・スターやあのキンピカ紋章機なんかは自己修復機能を持ってるし、レイの旦那が担当してくれたしな。」

 

「レイがシャニング・スターの調整を・・・」

 

よく五体満足で済んだなアイツも・・・

 

シャイニング・スターもレイを認めたのだろうか・・・

 

「お〜い、タクトいるか?」

 

「ロキ?」

 

「ロキの旦那?ここに来てはいけないと・・・」

 

「うるせぇ!何もあたらなきゃいいんだろうが!」

 

そう言いながらロキはタクトの傍まで来た。

 

「どうしたんだよ?」

 

「まぁまぁ、ちと付き合えや」

 

「お、おい!」

 

そう言ってロキはタクトを引っ掴んで連れて行った・・・

 

「何で公園なんかに・・・ん?」

 

「もちコレきゃねぇだろうが!」

 

そう言ってロキが取り出したのは酒だ。

 

「はぁ・・・ま、いっか・・・」

 

「そうだろうそうだろう」

 

嬉々爛々と酒を注ぐロキ・・・

 

きっとコイツも最終決戦だからだろう・・・

 

やがて俺の手にグラスが差し出される。

 

「月の代わりに見えるのは我がトランスバールってか・・・はは・・・」

 

しみじみと語る義理の父親・・・

 

そう言えば俺が今こうしてられるのもロキのおかげなんだろう。

 

今まで戦ってきた相手はいずれも生身の人間が太刀打ちできるようなレベルではなかったし・・・

 

「なぁ、ロキ・・・この戦いが終わったらどうするんだ?」

 

「そうだなぁ〜・・・ま、とりあえず旅だな」

 

「エレナさんはどうするんだよ?」

 

「あ、あ〜・・・そうだな〜・・・」

 

ん?やけに歯切れが悪いな

 

「まぁ、たまにはアイツも旅に誘ってみっか」

 

「おいおい・・・家はどうするんだよ?」

 

「あ〜まぁカズヤとリコがいるから大丈夫だろ」

 

「俺達は無視か?」

 

「あ?だって、お前達どこぞやの湖畔に家を構えようとしてるんだろ?」

 

「あ、あれ・・・?」

 

「何だよ?」

 

確かにそれはミルフィーの夢なんだけど、随分昔の話だし・・・ま、父親だから娘の夢の一つぐらい知っていても不思議ではないか・・・

 

「何でもねぇよ、それよりおかわりだ」

 

「おう」

 

こういったやり取りも随分と久しぶりな気がするな・・・

 

こうして夜空に浮かぶトランスバールを見ていると今までの戦いの事を思い出してしまう・・・

 

エオニア

ヴァル・ファスク

ヴァイン

死神のメシア

ネオ・ヴァル・ファスク

メベト・ヴァル・ファスク

神界

レイ・桜葉

ブラウド財閥

ゼイバー・ブラウド

シリウス

神皇

カルマ

エクレア

ラファエル

サマエル

ミカエル

メタトロン

ガブリエル

 

そして、最後の敵はブラウドの残党か・・・

 

「なぁロキ・・・一つ嫌な事聞いてもいいか?」

 

「何だよ?」

 

「そのブラウド財閥ってのはお前のその・・・兄貴が創立者なんだろ?」

 

「・・・・・・ああ、それがどうかしたか?」

 

「前大戦の終結時にブラウドは組織解体されるまでもなく既に解散してたと聞いていたんだよ。それらは全部ゼイバーがあらかじめ根回ししてたんだよな?」

 

「・・・・・・その情報は確かだぜ?」

 

「答えになってないだろ・・・ようするに今俺達が戦おうとしてるブラウドの残党は本当にゼイバーの遺志を継いだ奴らなんだろうかと思ってさ・・・」

 

「馬鹿だな、お前は〜・・・相手がどんな事情を持っていても、襲ってくる以上倒さなくちゃならねぇんだよ・・・」

 

ロキはグラスを全て平らげて月を見上げた。

 

「これ以上、無駄な犠牲を出さない為にもよぉ・・・」

 

「そうだよな・・・今、ここでどうのこうのって悩んでる場合じゃないよな・・・」

 

「ブラウドをぶっ潰して勝ち残る・・・それ以上に望むものなんてねぇよ。」

 

ロキは煙草を夜空に向けてふかした。

 

「そうだな・・・ああ、勝ち残ってみせるさ!」

 

俺は夜空に浮かぶトランスバールを見て決心した

 

何としてもこの最終決戦に生き残ってみせると・・・

 

そして、この晩より二週間後・・・

 

ブラウド大艦隊がトランスバール宙域・・・

 

いや、EDEN、NEUEの要所に姿を現した。

 

最終戦争 ラグナロクの開幕である

 

神々の黄昏が今始まる・・・

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