宿命だとか……だとか、決し…信じ…かった。

 

 常にそれ……確定なもので、それを……るのは自分の…だと信じていた。

 

 だけど、そ……適わない時………と、知って…まった。

 

 それでも、…はそれを認め……と、自分に…く言…聞……た。

 

 

                           ――????

 

 

 

 

 

 

 第七話 打ち砕く絶望

 

 

 

 

 

 

「あなたは…カズヤさんじゃない!!」

 その瞳に怒りを宿して、その言葉に敵意を込めて、少女は少年に言う。

 一方、少年はどうしてそんなことを言うの?と言わんばかりに、悲しそうな顔をする。

 その表情に僅かに心が揺れそうになるけれど、爪が食い込むほどに手を強く握り、自分を律する。

「どれだけ姿を似せても、どれほど声を似せても…あなたは違う!!」

 何がどう違うのか、上手く説明できない。

少年を汚すその存在が許せなくて、感情に任せた言葉を叩きつけるように。

 それと同時に…自分の中で、何かにヒビが入っていくような不思議な感覚もあった。

 だから、激情任せに言葉を放つ。ヒビが入っていくのが心地いいから。まるで、自分を縛る鎖が壊れていくようで。

「…うるさいな」

 けれどその叫びも、少年が冷たくそう呟くと同時に途切れる。

 喉を掴まれて、呼吸が困難になる。叫ぶどころか、このままでは死ぬ。

 ぼやけだす視界と、力の入らない手で、必死にそれに抗う。

 ゆっくりと、徐々に薄れだす意識とは裏腹に…激情は決して揺るぐことなく、更に激しく燃え上がっていた。

 その激情と共にヒビが入っていく何かも…鎖と例えたそれも、今にも砕け散ろうとしている。

「…さっさとお前を殺すことにするよ。少し遊んでもよかったんだけどな…。じゃあな」

 その言葉と同時に、喉を掴む手に更に強く力が込められて…意識が砕け散ろうとした時だった。

 

 

 

 

「…まさか!?」

 肘で影をまた一匹沈めた時、クレアは一瞬だけそちらに目を向けた。

 が、それは本当に一瞬だけで…自分を囲む影達へと向き直る。

「まあ、そーだよね。これだけ多くの欠片送り込めるってことは…封印が弱まってることだし」

 誰にも分からない、彼女にしか分からないことを言い、再び影達と戦い始める。

 鋼鉄さえもぶち抜きそうな威力を秘めた拳を、休む間もなく左右の影へ叩き込む!!

 しかし、全力で殴っているわけではない。

 真に全力で殴ればその一撃の破壊力は恐ろしいものと化す。気功の補助無くとも、目の前のもの全てを打ち抜くほどに!!

 それゆえに後のことなど一切考えない。だから、こんな乱戦では全力の一撃など放てない。

 一撃で沈めつつ、別方向からの影に対応できるように。

 しかし、影は数が多い。倒したすぐ側から新たな影が生まれ、襲い掛かってくる。

 一気に全部吹っ飛ばさない限り、目指す場所へと行くことが出来ない。

「あーもう!! やられ役は引っ込んでろっての!!」

 悪態は吐けども、その拳の威力は決して衰えない!!

 視界に入る影、入らない影を容赦なく打ち倒していく!!

 

 

 

 

 ―動け、動け動け動け動け…!!

 ただそれだけを、念じ続ける。死を目前に控え、ピクリとも動かない身体を恨めしく思いながら。

 目に映る世界が、スローモーションに見える。本当は数秒に過ぎない時間が、とても遅い。

 だけど、止まっているわけではない。動くことだって本当は出来るはずなのに。

 血はいまだに凍ったままで、その身を動かすことは敵わない。

 唯一、自由になる意識だけが、どうしようもない…避けようの無い死を、悟らせる。

 ―こんなところで死にたくない、まだ何もしていない、成していない。

 生への執着は、次第に怒りへと変わってゆく。グツグツと熱く煮えたぎるマグマへと。

 ―ふざけるな、こんなところで死んでたまるか、お前みたいな訳のわからない奴にやれるほど、安い命じゃねえんだ!!

 あの時…仲間を犠牲にしてまで、背負いきれない程の後悔を背負ってまで、自分は生き延びてしまったのだから。

 こんなところで…くたばるわけにはいかないから。

 ―俺は償わないといけないんだ、仲間を見捨てた罪を。それは無駄に命を散らすことじゃない、生き恥晒して生き延びて…。

 熱く、どこまでも熱く煮えたぎる激情のマグマが…急速に、凍った血液を溶かしてゆく。

 全身に力が戻ってゆく。試しに握った拳は、普段通りの強さ。このスローモーションの世界で、通常速度で動いている!!

 いや、無理矢理動かしている!! 物理法則を無視して、悲鳴を上げる筋肉を黙らせて…。

 ―これ以上、仲間の誰も死なせない!! もちろん、俺も死なない!!

 触れるもの全てを燃やし尽くす、いや、消滅させるほどに熱く激情をたぎらせながら。

「どけえぇぇぇぇぇえぇぇぇぇっ!!」

 腕が壊れそうなほどの勢いで、目前へと迫った具現化した死…、影へと拳を叩きつける!!

 

 

 ―ここで終わりなのか…。

 どうせ終わるなら、はやく終わってしまえばいいのに、どうしようもなく遅く感じる瞬間。

 あの日、あの時、あの瞬間に…誰かを守る資格なんて失くしていたのに。

 理由が欲しかった。罪を背負った自分が、生きてもいいと…自分を騙す理由が欲しかった。

 だから…あの状態のアプリコットを放っておけないって勝手な理由を作って。

 そんな自分に…罰が下ったんだ。そう思うと、何もかもどうでもよくなって。

 だけど、まだ…自分の右手に剣はある。生きようと思えば、生きられる。

 そんな自分の情けなさが嫌で、右手にだけ力を入れて…それを放そうとするけれど。

 血だけでなく、手そのものが凍ってしまったかのように…指は動かない。

 ―…この期に及んで、私は生きたいと願っているのか…。

 認めたくないけれども…それが、本心なのだろう。誰が…死など望むものか。

 ―…あの時…我が身を夥しい返り血に赤く染めて、心朽ち果てるまで生きたように…え?

 脳裏を過ぎるのは、ありえないはずの記憶。だけど、覚えている。それは実際に起きたことだと。

 その記憶の中で、自分は自分の信じたもののために、多くの人を殺した。

 罪を背負うのは自分一人でいいから、と。誰かが手をくだそうとすると、必ず自分が代わりにやった。

 それなのに…我が身に降りかかった罰は、あまりにも残酷なものだった。

 死ぬよりなお辛いことを知っているから…、心が朽ち果てていく痛みを知っていたから!!

 それを繰り返したくないと、そのことを忘れていていても…心のどこかでそう思っていた!!

 ―…生きたい。

 その意思は…凍りついた血を、溶かしてゆく。それと同時に…右腕を大きく振るう。正確には握られた剣を!!

 ―…もう、この世界に…カズヤはいないけれど。

 この世界で彼が選んだのは、自分ではなく彼女だから。だから、自分の心は朽ち果てていない!! まだ戦える!!

「――――っ!!」

 

 

 残像さえ見えそうな速度で、拳が、刃が、それぞれの前に立ちふさがる影を…貫き、斬り裂いた。

 

 

「何とか間に合ったな…。お互い、よく生き延びれた…!?」

 ふぅ、と軽く息を吐いて何気なく隣のリリィに目をやって…アニスは一瞬、自分の目を疑った。

 その姿が…赤く、血で染まったかのように赤く見えたから。

 慌しく何度か目を瞬きをして、再び向き直った時にはそんな風には見えず、いつもの彼女だった。

「どうした、アジート少尉?」

「いや、なんでも無い…。けど、ここでお互いくすぶってるわけにはいかねえだろ?」

 ルクシオールに何が起きているのか、それを確かめねば。

「ああ。…もう二度と、間違えないためにも」

「そうだな。これ以上、誰かが死ぬなんて御免だからな」

 同時にトレーニングルームを飛び出してゆく二人。目指すべき場所がどこなのか…教えられているわけでもないのに、分かっていた。

 渡り鳥が親鳥に教えられることなく、旅の終着点を知るように。

 しかし、現実とはどこまでも残酷で。

「…強行突破できると思うか?」

 目前に広がるのは、視界全てを埋め尽くす影、影、影、影影影影!!

 決して先に行かせぬと言わんばかりに、それは立ちふさがる。

「大丈夫だ」

 しかし、それに臆すること無くハッキリと力強く言い切るリリィ。

 根拠の無い、無責任な言葉なのに…込められた意味は、想いは、常人には理解しがたいほどに重く、強い。

 その言葉に込められた、真の意味を汲み取れたのかは分からないけれど。

「そうだな…。それじゃ、とっとと片付けるか!!」

 

 

 

 

「逃げなさい!! じゃないと、本気で死ぬわよ!!」

 どうしてナノナノは逃げないのだろうか…。目前の影達を雷撃でまとめて葬りながら、僅かに考える。

 戦う力が無いのに…どうして、下がろうとしないのか。

「だって…」

 その声は、響き渡る雷鳴や爆音に消されそうなほどに、か細いけれど。

 ハッキリと、力強さが込められて…。

「もしテキーラが怪我したり…死んじゃったら、誰が治すのだ!?」

 それは、ナノナノにしか出来ないこと。

 人の死がどうしよもないものだと、知っている。

 どんなに頑張っても、カズヤを助けることは出来なかったけれど…。

 それでも…今、こうして手が届く距離に居る人は…何が何でも、助けたい。

 いや、それが償いだから。あの日、あの時…助けることの出来なかったことへの。

 何も出来なかった弱さ…動こうとさえしなかった臆病さ。

 だから…どれだけ苦しい状況に置かれようと、絶対に退かない。

今ここで、自分が成さねばならないことが起きた時のために。

「…それが、アンタの戦いで、償いってわけね…」

 僅かに肩の力を抜いて、ふっと息を吐く。

 背負ってるものがあるのは、皆同じ。誰もがあの時に対して、負い目を持っている。

 だから…自暴自棄になったり、悔やみ続けている。

 そして…今、この瞬間は…その罪を償える唯一の時間なのかもしれない。

「だとしたら…こんな状況にしてくれたこと、少しだけ感謝してもいいかもね」

 感謝したとしても、それは本当に少しだけ。一割にも満たない。残りは全て恨みとかで。

強気…、否、不敵な笑みを浮かべて影達を睨みつけるテキーラ。

 その気迫に押されて…影達が一様に、後ずさる。

 そして、宙に、床に、壁に…幾つもの魔方陣が浮かび上がり…。

「プディング、一つ注意しておくわ」

「?」

「耳、塞いでおいたほうがいいかもね。ついでに目も」

 耳を塞いだけれど、目を閉じるのは一瞬遅れてしまう。

 しかし、その一瞬の間に幾多もの閃光が、紫電が、業火が、目を焼き尽くさんばかりに視界を埋め尽くす!!

 閃光が消え去った時には、舞い上がった粉塵に視界を遮られていたけれど、恐らく全滅したはず。

「っ…さ、流石に…強力な攻撃魔法を、同時発動するのは…応えるわね」

 ガクリと、膝を床につく。息も荒く、かなりの疲労が見て取れる。

 それでも、その顔に浮かぶのは勝利を確信した勝者の笑み。しかし、それはあっけなく崩れ去る。

「冗談じゃないわよ…」

「………!」

 先ほどまで存在していた幾多の影達は、皆消滅した。

 その代わりに…その倍近くの新たな影達が二人を取り囲んでいた。

「だからって…諦めると思ったわけ?」

 あの時、あの場に留まっていればこうしてこのような危機に遭わなかっただろう。

 だけれども、既に過ぎ去った時は巻き戻せない。

 今ここで自分が諦めれば、背に庇うナノナノも死ぬ。

 例え命運が尽き果てようと、疲労で立ち上がることさえままならない状況であったとしても。

 最後まで意地を貫く。どれほどカッコ悪くても…それ以外に、選ぶことなど出来ない!!

「まとめてかかってきなさい!! アタシもろとも、あなた達全員葬って」

「自己犠牲なんて残される奴は迷惑だから、止めといてよ」

 誰もが気迫負けしそうなその叫びをものともせずに、漆黒の影が割り込む。

 こんな状況だというのに…あまりにも余裕そうな、いや、完全に余裕を持っている。

「クレアっ!?」

「遅れてごめんねー、ナノ。ついでにテキーラも。ホントは元凶叩こうかと思ったんだけどさ」

 そこで一回区切り…どこか悲しげに、しかし、覚悟を決めた様子で。

「アイツが戻ってきたから…大丈夫だから。だから、こっちを手伝うわ。あの子が望んだのはそんな未来だしね」

 Bブロックでかなり大量の影と戦って、疲れてはいる。けれども、それを微塵も感じさせずに…ゆらりと構えを取った。

 

 

 

 

 それは…薄れ、消え行く意識が見せた幻だったのかもしれない。

 

 金色の髪と瞳を持つ青年がこちらを見ながら、右手を差し出した。

 

 どうしてかは分からないけれど…それが、が手を差し伸べているようにも見えて。

 

 だから、私は…迷うことなくその手を取った。

 

 

 漆黒の影が閃き、ヒュっという風を切る音と共に、ガァンっと何かがぶつかる音。

 力任せに喉を掴んでいた手がいきなり離されて、床に投げ出される。

「げほっ、げほっ…」

 咳き込みながらも、視線を上へとずらす。アプリコットとカズヤの間に立つ長身の青年らしく人影が目に入る。

 着衣の上からでも鍛え上げられた肉体だということがよく分かる。そして、幾多もの死線を掻い潜ってきた猛者だとも。

「ははっ…。そうだよな…、こっちの封印が解けたんだ。お前の封印だって…解けるよな」

 左手で右手首を押さえながら、カズヤ(?)が男を見ながら忌々しげに呟く。恐らく、青年に蹴るか殴られたか。

 だが、青年はカズヤ(?)を無視して、顔をアプリコットへ向ける。

 金色の髪と瞳、黒いジャケットを纏うその青年の顔は、見覚えのあるものだった。

「あなたは…アレク、さん?」

 ほんの何時間か前、クレアが見せてくれた写真に写っていた青年と同じ顔。写真で見る以上に、クレアと似た顔立ちをしている。

 いったいどうしてここにいるのか、疑問が次々と浮かんでいくけれど、多すぎてどれから聞けばいいのか分からない。

「…ごめんね」

「…………え?」

 青年の口から零れたのは、彼には似つかわしくない…少年のような声。

 彼には合っていない、穏やかな…柔和そうな表情。

 覚えている、この雰囲気を持った少年のことを。

 だけど…何故?

「また間違えた。自分勝手な自己犠牲の代償を…前の世界で学んだはずなのに、それを忘れてた」

 覚えてる、いや、思い出した。死んでからやっと思い出した。

 かつて…深い闇に誘われて、彼女と共にどこまでも堕ちそうになったことを。

 最期の瞬間に、完全に堕ちるのは自分だけでいいと身勝手な想いが、どれほど傷つけたのかを。

 それなのに、この世界ではまた…同じことを繰り返した。

 自分が犠牲になればいい、と。安易な考えの果てに死んで…傷つけた。

「前の世界…?」

「後で、謝らないと…。だけど、今は君に謝るのが先だよね。そして…勝手に僕の姿借りる奴を…倒すのが」

 そう言うと、青年は再びアプリコットに背を向けて…少年の姿を偽る宿敵を睨みつける。

「来いよ…バケモノ」

 双子の片割れの青年に宿るその意思は、紛れも無く…彼の意思。

 

 

 これを奇跡と呼ばないで…何を、奇跡と呼ぶんだろう?

 

 

 少女は、そう思った。

 

 

 

 

 同時刻、Cブロック通路にて。

「ったく…、どんだけいるんだよ、コイツら…。いい加減、しんどいな…」

 ナイフをまとめて三本投げる。数秒遅れて正面から接近してくる三つの影に突き刺さり、それは一瞬で消滅する。

 これで打ち止め…あとは素手で戦うしかない。

 トレーニングルームでの窮地脱出から、どれだけ時間が経ったのだろうか。一昼夜ぶっ通しで休む暇無く戦い続けている気さえする。

 倒しても倒しても、次から次へと溢れ出す影。終わりの見えない戦いは、更に疲労を強くする。

「諦めるな…諦めた時点で終わりだ!! 最後まで生き延びることを考えろ!!」

 それまで、背後で黙って影を斬り続けていたリリィが叫んだ。

 死角が出来ることを嫌って、背中合わせで戦い続けていたのだけれど、互いに無傷では無い。

 怪我の無い部分を探すほうが大変なほどに負傷している。しかし、それでもひたすらに影と戦い続けていた。

「…分かってるさ。まだボスにご対面さえしてないんだ」

 あの窮地を抜け出したのだから…、これくらいのことで倒れたりなどしない。

 それは過剰とさえ言えるほどの自信。自分達は決して死なない、と。

 その瞬間、影達が動きを止めた。まるで何かのタイミングを合わせるかのように。

「面倒だし、一度にまとめて来いよ?」

「同感だな。一体一体斬るのはいささか面倒だ」

 互いにニヤリと笑って、自分達を囲む影達を挑発する。それに合わせて、影達が一斉に二人に襲い掛かる!!

 

 

 

 

 Aブロック、通路端にて。

「いやー、流石にちょっとキツイかな」

 努めて軽い調子で、できる限り深刻に聞こえないようにクレアが言った。

 Bブロックで数えるのが面倒なほどに影を倒して、そしてAブロックでまた二人を庇って戦っているのだから。

 幾等日ごろから鍛錬を欠かしていないとはいえ、休む間もなく沸いて出る影を倒し続けるのは流石に辛いようだ。

「体力には自信ありますって顔の割りに、意外とバテるの早いわね」

「無茶言うねー。ここに来る前にBブロックでコイツらをどれだけ倒したと思ってるのさ。もうお替わりいらないわよって」

 決して真剣な表情にはならず、あくまで冗談のように、余裕を持っているように言う。

 クレアが影を押さえている間に、テキーラはナノナノに怪我を治してもらいながら息を整えていた。

 通路の端にまで撤退し、後ろから襲われない状況を作る。その代わり、こちらも逃げられないが…。

 そして、どちらかが影を押さえて、その間にもう一人は治療を受ける。

そうやってバレーのローテーションのようにぐるぐると回りながらひたすらに戦い続ける。

「交代する?」

「まだいい。ギリギリまでアタシは粘るほうだからさ」

 先ほど交代したのが何時なのか、分からない。時間感覚が麻痺しただけなのかもしれないけれど、かなり長い時間、一人で頑張っているはずだ。

「ならツートップでいきましょう。アンタ一人に任せてばっかりって凄い癪に触るし」

「はいはい。じゃあ休めばいいんでしょう、まったく…」

 それはほんの一瞬のことだった。クレアが一瞬、後ろを振り向いたその時だった。

 強がることなく、はやくテキーラと交代していればよかったのかもしれない。

 蓄積した疲労のせいだろう、その時、注意が逸れてしまったのだ。

「あ、ヤバっ!?」

 その隙を見逃さずに、それまでの鈍重な動きが嘘のように機敏に、影がクレアの脇をすり抜けて二人へと飛び掛る!!

 

 

 

 

 

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