気……くなるほどに長い……の…てに、何時…か、摩れ…しまっ……神。

 

 だけど、常に…と同じ…りをして……。

 

 それは、ま……く道化だった

 

 それ…も、あの……は、恐らく……身朽ち果て……で、忘れないと……。

 

 

                            ――????

 

 

 

 

 

 

 第八話 世界の真実

 

 

 

 

 

 

「あの時…僕を殺した僕の仇、今この場で取らせてもらうよ」

 徐々にその声は冷たく、低くなり…聞くもの全てを威圧するかのように。

 しかし、少年の姿を偽る者はそれに決して屈することなく、堂々と返す。

「…そうだな。こっちの封印が解けたんだ。お前の封印も解けるよな、古き神?」

「一つだけ答えろ、新しき神。皆は…どうなった?」

 あまりにも…静か過ぎる。これほどの騒ぎが起きていながら、誰も騒ぎ立てない理由は?

 怪訝な顔をして尋ねる青年が、よほど面白いのか「くっくっく」と喉を震わせながら少年の姿を偽る者は得意げに答える。

「分からないのか? なら見せてやろう、お前の仲間の末路をなぁ!!」

 直接、脳裏に浮かぶ光景。それは、抗い続けた者達の無残な姿。

(表現グロイので平気な人のみ、反転でお願いします)

 

 そこは真っ赤に染まったBブロック。床も壁も、飛び散った血で赤く染まって…。

 その血の主は…アニスが、リリィが…、変わり果てた姿で、倒れていて…。

 そして…周りの影達は…その腹を食い破って、ハラワタを周囲に散らせて…。

 

 そこは真っ赤に染まったAブロック。幾多の影を相手に無数の傷を負いながら、戦い続けるクレア。

 その背後には…、誰かの腕が、身体の一部が…転がっていて。

 原型を留めていない死体が…誰なのか、もう分かりたくないのに、分かってしまって。

 

「あ…ああ、―――――――っ!!!」

 悲痛な…表現しがたいアプリコットの悲鳴が部屋に響く。

 仲間が…仲間達が、皆、皆…。

 アニスが…、リリィが…、テキーラが…、ナノナノが…殺され…殺されて…。

「…誰が、こんな光景を見せろと言った? それに…僕は皆だと言った」

 タクト、ココ、モルデン、ランティ、コロネ、クロワ…そういった人たちは、どうなった?と。

 誰も居ないのは…どうしてだ、と。

「はっはっは…、物分り悪いなぁ、古き神。いや、今は古き神じゃないよな、…どこにでいるような罪人だよな」

「…答えろ」

 煮えくり返りそうな感情を抑えて、搾り出すような声で問う。

 今は怒りに任せていい場合じゃない。今、怒りに呑まれれば全て終わる。せっかく掴んだやり直しの機会が無駄になる。

「簡単なことだろ? 消えたんだよ、死んだんだよ。もうどこ探したって居ないんだぜ? 至高神がかけた最後の呪いにして封印は既に解けたんだ!! 今だ二つ身のお前は完全な力を発揮できないだろうが…私はそれが可能なんだよ。今なら、簡単にこの世界ぐらい滅ぼせるぞ?」

「なら、そうすればいいじゃないか。わざわざ僕の…俺の前に姿を見せなくてもな」

 言いながら青年の雰囲気が一変する。声は低くなり、クレアによく似た雰囲気を纏って。

「それだとつまらないだろう、古き神。お前と私は前の世界も合わせて、気の遠くなるほどに長い時間を戦い続けてきた。そんな永劫に続くかのように錯覚する戦いをそんなあっけ無く終わらせるのはもったいないと思わないのか?」

「…まあ、な。古き神が…神竜がどう思うかは分からないが、アレク個人としては…それじゃあつまらないって思うな」

「なら、舞台を整えるまでしばらく待ってもらおうか。最高の舞台を用意しよう。神々の戦いの決着を付けるにふさわしい舞台を」

「けど、この少年の姿をした写し身は、今この場で破壊させてもらうがな」

 少年…新しき神の写し身が言葉を言い終えるより早く、金色の瞳の青年…アレクの手刀がその胸を貫いた。

 貫かれた胸から、どす黒い液体…液状化した闇が溢れ出し、それと共に写し身が崩れてゆく…。

 しかし、その表情は完全に崩れ去るその瞬間まで…不敵な笑みを浮かべたままだった。

 最後に、「飛び入り参加の五人…いや、六人も必ず連れて来いよ」と言って、完全に消滅した。

 それを見届けると、アレクは呆然としているアプリコットに対して、目線を合わせて言った。

「君の仲間が全滅したってことは無い。クレアが居るのなら、それは絶対にありえない」

「どうしてそんなことが言えるんですか…、それに、あなたはどうやってここに…?」

 それは至極全うな問い。例え、この場に誰が居ても同じ質問をしただろう。

 だけど、アレクはその問いに答えなかった。

「ここに居ない人が揃ってから、説明はするよ。それよりも先に…悪いけど、コイツを受け入れてやってくれないか?」

 そう言うと、自分の胸に手を入れて…懐にいれたわけではない。手がずぶずぶと胸の中へと沈んでいったのだ。

埋もれていたその手が現れた時…、その手には光球を掴んでいた。眩しいほどに、白く輝く。

 何もアレクは言わないけれど…それが何なのか、分かった。

「俺の中より、君の中のほうがコイツも落ち着くだろうしな。それに、俺はこれ以上誰を住ませる気が無い」

 何も考えずに…そして、何も恐れずに、それに手を伸ばす。

 指先が微かに触れたそれは…ドクドクと脈打つ心臓のように、熱く。

 ゆっくりと…本当に、ゆっくりと。それを両手で包み込むように受け取る。

 そして、一際強く…目が焼けてしまいそうなほどに眩しく輝き、思わず目を閉じる。

 その輝きが収まって、恐る恐る目を開けると手にはもう何も無かった。

 しかし…左胸、ちょうど心臓の辺りに少し違和感があった。そっと触れた手に伝わる鼓動は…二つ。

 鼓動と共に伝わってくるのは、言葉という狭い枠に囚われない純粋な想い。

「…これって、まさか…」

「最初は戸惑うかもしれないけど、いずれ…互いの境界線が無くなれば、鼓動は一つになる。それが良いことか悪いことか、俺には分からない」

 それでも。俯き加減に、負い目を感じているかのように言った。

「それでも、今の俺には…これが君達にとって一番良い選択なんじゃないか、そう思えるから」

「…私…」

 詰まりながらも、アプリコットが何か言おうとした時だった。

「リコ、大丈夫か!?」

「桜葉少尉!!」

 慌しくドアが開かれ、満身創痍のアニスとリリィが飛び込んできた。

 それにより、会話が途切れるのは至極当然のことで。ましてこの二人が、こんな状況で見知らぬ青年を見ようものなら…。

「お前が親玉かよっ!?」

「貴様…、何者だ!?」

 臨戦態勢を整えるのも、無理は無いことだった。

「違うよ、俺は…どう説明したらいいものか」

「この人は敵じゃないです。クレアさんの弟で、私を助けてくれたんです」

 殺気立つ二人の前に立ち、腕を伸ばしてその背にアレクを庇う。

「…聞かれる前に言っとく。どこから現れただの、あの影は何だの、そういった質問はクレアが戻ってからにしてくれ。まとめて説明しないと面倒だしな」

 困ったような表情で、髪をかきながら言うアレク。

 しかし、二人が決して警戒を解くことなく、緊迫した空気のまま幾らか時間が流れて…。

「あ、やっぱり皆無事だったねー。そして…何百年ぶりかな、アレク?」

 クレアが姿を現し、この状況を全く気にしていないかのごとくアレクに声をかける。

 その後ろにはテキーラ、ナノナノも居たのだが、彼に対して「誰この人?」みたいな反応をしたのはナノナノだけだった。

「何百年ぶりだっけ…。まあ、いいか。久しぶり、クレア」

 クレアと同じように、何も気にしていない様子で答えるアレク。

「とりあえず…無事な奴は全員揃ったようだけど…先に手当てしたほうがいいだろうね」

 アレクとアプリコットを除いて、無傷の者は一人としていない。

 怪我の酷い者から順にナノナノに治療してもらい、それが終わってから双子は全てを話し出した。

それが、逃れられない運命に絡み取られた、哀れな天使達に対する償いであるかのように…。

 

 

 

 

(大事な語句などは文字色を変えてあります。読みにくいでしょうけれど、その辺は勘弁してください…)

 アタシとアレクが生まれたのは『今の世界』じゃなくって、『前の世界』のEDENだった。

『今の世界』とか『前の世界』ってのは後で言うから、今は頭の片隅にでも追いやっといて。

 今の有史以前…クロノ・クェイクなんてものが起きるずっとずっと前…やっと星間文明が出来たくらいだった。

 その頃は、まだ各地で内紛とかが当たり前のように起きてる時代だった。

アタシとアレクの生まれ故郷は、そんな内乱地域でさ…てっとりばやくお金稼ぐには傭兵とかになるのが早かった。

 二人で各地を転戦してたんだけどね。いつも二人一緒だったんだけどね…その時は、別々の戦場に行った。

 そしたらさ…行った先の戦場じゃあ…敵も味方も壊滅して…アタシも右半身失って、今にも死にそうな時だった。

空から同じように…右半身を無くした、黄金の光に包まれた…、かな?…それが目の前に現れた。

 あぁ、とうとう幻覚見るようになった。これはアタシももうヤバイね…。そんな風に思ってたらさ、ソイツが話しかけてきたのよ。

「死にたくないか?」って。そりゃ死にたくはないって言ったら。

「なら自分と融合しろ。都合のいいことに互いに欠けた半身は反対だろう。自分も死にたくないからな」って言ってきたのよ。

そりゃバケモノと融合してでも生きながらえたい。でも大抵身体を乗っ取ろうとするはずだって言ったら、ソイツは笑い出した。

「強い自我を持つ者を取り込もうとするのは、不定なる者至高神を滅ぼすより難しいだろう。無駄な力を使うのならお前と共生したほうが楽だ」って。

 アタシは「じゃあ自我の弱い奴と融合すりゃいいじゃん」って返した。今思うと、今にも死にそうだって時に何言ってるんだかって感じだけどね…。

「いや、お前のように神の魂に耐えるほど強い自我…すなわち魂の持ち主でないと融合したらところで直ぐに死んでしまう。…もう時間が無い。どうする?」

 そう言われて…アタシは何も考えずに…生きたいって単純な理由で融合を選んだ。

 その時…同じようにアレクも同じ決断を迫られていて、同じように生きたいって理由だけでそれを選んだとも知らずに、ね。

 

 

 そこまで言って、クレアは弟へと目を向ける。アレクは僅かに頷き…初めにこう言った。

「出来る限り、分かりやすく言うけど…分かりにくかったらすまん」

 

 

・俺とクレアが取り込んだ魂…それは古き神であり、竜の姿をした神だった。

 

 ・だから、俺達は古き神を神竜って呼んでいる。他にいい呼び名思いつかなかったしな。

  …ギルガメッシュでいいじゃんって俺は言ったんだけどな…クレアが反対してな…。

 

・それで…俺達はお互いに新しき神=不定なる者との戦いを宿命付けられた。

 

新しき神ってのは、古き神=神竜より後に現れたから、そう呼ばれてるだけだ。これも意味は無い。

 

・俺とクレアに融合した神竜は、新しき神との戦いで魂ごと二つに分けられたらしい。

 

・俺は左半身、クレアは右半身と融合して…お互いを探し出した。そして再び新しき神と、人の目に見えない場所で戦い続けた。

 

 ・何故、新しき神と古き神が争うのか…それは、一番偉い神様…至高神がそう仕組んだからだ。

 

 ・退屈だった。理由はそれだけ。それを知ったのは「前の世界」が滅びる少し前のことだった。

 

 ・ともかく…世界を作った神ってのは、退屈がよほど嫌いらしい。そのせいで世界は滅びかけるし…ってこれは今はどうでもいいな。

 

 ・因縁も何も無い…一番偉い神の退屈しのぎ。それを知った俺とクレア…そして敵対する不定なる者とで共同戦線を張って奴を滅ぼした。

  けど、…その代わりに…至高神は世界を滅ぼした。そして…長い時間をかけて、全く同じ世界が再現された

 

『前の世界』とは俺とクレアが生まれたEDENを含む全ての宇宙であり、神々の争いのとばっちりで滅びた世界だ。

 

『今の世界』はその後、再現された世界…つまり、今俺達のいる…『前の世界』とほぼそっくりに作られた世界だ。

 

 ・しかし…世界が作り直されると同時に、至高神が最後に残した呪いが俺達を襲ったんだ

 

神竜と融合した俺達双子にかけられた呪いは…というか、俺が封印されたんだ。いつも身に付けていた銀のブレスレットにな。その封印が破れない限り、二つに分けられた古き神は一つに戻れない。つまり完全な力を振るうことが出来ないってわけさ。

 

 不定なる者にかけられた呪いは、俺の封印が解けるまで完全な力を振るうことが出来ない呪いさ。まあ、俺の封印が弱まったのを機に無理矢理呪いをぶち破ったみたいだけど…。

 

そして…仕組まれた争いとはいえ…互いに世界の管理権を巡って、いまなお争ってるのは変わらない…。

 

 

 

 

 それは…あまりにも壮大で現実感の無い…まるで滑稽な作り話のよう。

 自分達と関係ない。そう言いたくなるような…。

「人とは思えないくらい強い力を持ってるとは、前々から思ってたけど…まさか神だったとはね…」

「んー、疑わないのか? 俺達がとんでもない与太話をしてる可能性を?」

 とても真剣な表情でアレクは言うけれど、今、この状況で二人が嘘を吐く意味など無いのは、誰もが分かっている。

 だからこそ、決してそれが嘘であると疑わない。実際に、事実なのだし…。

「…一つ訊いていいか? その…神様同士の争いと俺達とどう関係があるんだよ?」

「確かに…これだけ聞いたら、自分達には関係ないじゃんって思うかもしれないるよね。けど…少年…カズヤを殺した敵のこと、覚えてる?」

 ぐるりとアプリコット達の顔を見回しながら、クレアが問う。

 誰も答えない。けれども、その沈黙こそ肯定の返事だった。

 忘れたくとも忘れることなど出来ない。奴さえ居なければ…何度そう思った分からない。

「あの怪物がね…アタシとアレクが追ってる、神竜の仕組まれた宿敵、不定なる者なのよねー」

「ってことは…俺達、神様に喧嘩売ってたのかよ!?」

 驚愕した表情でアニスが叫んだ。無理も無いだろう。まさか自分達の敵が、仲間の仇が神であったなどと言われては…。

「これで繋がったでしょ? アタシはアレクと奴を探してて、偶然君達と遭遇した。君達は、本当は何の関係も無いのに…巻き込まれただけなんだよ。あの日…奴と遭遇したせいで。それだけじゃない。アレクが封印されたブレスレットを所持したから…だから、奴は君達を消そうとした」

「…これですよね? アレクさんが封印されてたブレスレットって」

左手首に巻いた銀のブレスレットを外し、それを皆に見えるように手のひらに乗せた。

 それについていたブラックオニキスは砕けている。

「そうだよ。だから、あの場に現れることが出来たんだよ。封印されてたとはいえ、微弱に力は使える。気合で様々な場所を転々としてたんだけど…、ちょうどここにたどり着いた時、新しき神の気配を僅かに感じたからな。そのまま居ようと思った。…本当にすまない」

「それで…現状はどうなっている? 何故、我々以外に誰も居ない?」

 ただでさえ険しい表情を更に険しくしながら、リリィが問う。欲しいのは謝罪の言葉などではない。

 もしかしたら…いや、恐らく事実に等しい推論を持っているだろうけれど、全てを知る人物から答えを聞かない限りそれを認めたくない。

 だから、真っ直ぐに現実を見ざるをえない言葉を投げかけて欲しいのだ。

 それを汲み取ってか、残酷な事実を躊躇うことなくクレアは告げる。

「不定なる者が呪いを無理矢理破って、アタシ達に戦いの再開を告げにきた。それで、邪魔な人達は全て消した…。君達も消すつもりだったんだろうけどね」

「ところが、だ。アプリコットは俺が封印されてたブレスレット持ってたろ? 咄嗟だったけど、ある程度封印も綻びが生じてたからな…何とかお前ら三人を守ることが出来たんだ」

 時間凍結による影響を取り除く。その加護で死を免れたのだ。もっとも、その後再び死ぬことを覚悟しなければならない状況に陥ったのだが…。

 そして、クレアがあの状況を簡単に脱出できたのは、僅かに力を使ったからだ。

「あ、そういえばアニスとリリィはどうやって消えるの免れたのさ? というか…助けなくてごめんねー。うっかりと忘れてたわ…」

 忘れてた…で済む問題ではないだろう。下手すれば、二人は今この場に居なかったのだから。

「俺は…死にたくないって強く思ったら…動けた。こんなところで死にたくない、やらなきゃいけないことがあるんだって」

 首を捻りながら、あの時のことを思い出しながら言うアニス。対してリリィは俯いて…ポツリと言った。

「思い出した。それだけのことだ」

 その言葉に反応したのは、クレアとアレクだった。他のメンバー達は「???」と頭に疑問符を浮かべている。

 何を思い出したのか…それを察することが出来るのは『前の世界』から存在し続ける双子以外には無理なことだろう。

 だが…この時、双子以外にもその言葉の意味を理解できた者は、全くいなかったわけではない。

 しかし、それを無視して…クレアはこの場に居る全員に告げる。

「…一つ訊いていいか?」

「何? 言っとくけどEDEN、NEUE以外の、文明が滅びた宇宙だけどね…、アタシらは関係ないから」

「…………」

 沈黙。つまり、クレアの言ったことは、彼女が聞きたかったことの答えなのだろう。

「『今の世界』になって、滅びた宇宙にもやりなおしのチャンスは与えられた。が、人間同士の戦争とかで滅びたんだ」

 つまり、『前の世界』…EDEN、NEUE、滅びた名も無き宇宙…が全て消滅し、『今の世界』になった時、滅んだはずの宇宙も復活はしている。

 しかし、『今の世界』でも『前の世界』と同じ過ち…戦争を繰り返して滅んでしまったとのこと。

「戦いに勝ったら世界の管理権を得る。勝ったら管理できる世界を、管理人候補が壊しても仕方ないだろ」

 とアレクは言う。つまり、神々の争いに巻き込まれて滅んだ宇宙は無いとのこと。

「そうか…」

 そして、クレアは…告げる。

「どうする? もう君達は引き返せない場所にまで…望まないうちに、越えてたらいけない一線を越えた。それでも…目を閉ざして、耳を塞ぐ権利はある。この現実から目を逸らす権利は…あるんだよ?」

「…ただ単に…、巻き込まれただけなんだ。だから俺達は期待もしない。どうするのか、それはお前達が決めることだからな」

 それは…とても最悪な選択肢だろう。

 既に…彼女らにとって世界は壊れ、狂ってしまったもの。

 どちらを選んだところで…あの暖かな日々には…六人で笑いあった世界にはもう戻れないのだ。

 とうの昔に…あの日、あの怪物と出会ってしまったその時から。

「ほんの僅かな希望というか…それを打ち砕くようで悪いけど…アタシとアレク、不定なる者…つまり自分達の力だけで神を殺そうなんて思わないほうがいいよ? 普通の人間がアタシ達を傷つけることは出来ても、殺すことは出来ない。例え何らかの手段を使って神殺しとなっても…この世界は…決して変わらないから」

 誰かが舌打ちした。僅かなりともそれを考えていたようだ。

 不定なる者と出くわして、まともにダメージを与えられなかった理由は、これだ。

 神の器を傷つけることは誰にでも、出来ないことも無い。しかし、その命を奪おうと思えばその力を持つ者にしか出来ない。

 クロスキャリバーがダメージを与えることが出来たのは、アレクが僅かなりとも助けていたからで、クレアに関しては説明不要だろう。

「ちょっと待て。じゃあ、俺達が戦うのを選んだとしても、どうやって奴と戦うんだ? 人間に神様は殺せないんだろう?」

 アニスの疑問ももっともである。人間では神が殺せないのなら、戦うことを選んだところで何も出来ないだろう。

 ましてや、仇を取るなんて不可能じゃないか…。

 しかし、その問いに対してアレクは真面目な表情で答える。

「その辺は、ちゃんと考えてる。戦うことを選んだのなら、君らでも奴を殺せるようにする。じゃないと、意味無いだろ?」

 具体的な方法は何も言わないけれど、決して嘘は言っていない。

 そして…クレアが口を開く。

「まあ、どうするかは君達自身に任せる。けど、どれを選ぶにしても今のうちにやりたいこと、遣り残したことがあったら済ませたほうがいいよ?」

 一回そこで区切って…静かに続ける。

「心残りを残して死ななくていいように、ね…」

 どの選択をしたところで、すべからく死の可能性が付き纏うのだ。

 それなら、何時死んでもいいように…遣り残したことをしておくのは、大事だと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

※本文中の説明では分かりにくいでしょうから、アバウトながらも本編のタイムテーブル(?)を作ってみました。

 これだけ把握していれば本編は楽しめると思い…たいです。

 

『前の世界 至高神の退屈しのぎのために、古き神・神竜と新しき神・不定なる者との間で争いが生まれる。

      当時、それが仕組まれたものだと両者ともに知らない。

                ↓

神竜が不定なる者との戦いで二つに別けられる。

      右半身はクレア、左半身はアレクと融合することで生きながらえる。

                ↓

      その後、双子は古き神として不定なる者と戦い続ける。

      そしてそれが至高神に仕組まれたものと知る。

                ↓

      共同戦線を張り、至高神を滅ぼす。しかし世界が滅び、両者は世界を作り直す。

      それと同時に至高神が最後に残した呪いが発動、アレクはブレスレットに封印され、不定なる者は力の大半を封じられる。

 

 今の世界 ルーンエンジェル隊、任務中に不定なる者と遭遇。カズヤが戦死する。

                ↓

      アレクが封印されたブレスレットをアプリコットが見つける。

      不定なる者と再び遭遇。クレアと出会う。

                ↓

      不定なる者、呪いを無理矢理破る。ルクシオールが襲撃される。

      生存者…アプリコット、アニス、ナノナノ、カルーア、リリィ、クレア。

      アレクが封印を解いて復活する。

      クレア、アレクがルーンエンジェル隊のメンバーに全ての事実を話す』

 

 

 

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