第一章 始まりは叫びから

 

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

いつもの様にルクシオール艦内からアプリコット・桜葉少尉(リコ)の叫び声が聞こえてきた。

彼女は極度の男性恐怖症で、男性(男)が触れるといつもひ弱な体に瞬間的に怪力が出る。

それと同時に、ルーンエンジェル隊のメンバーだ。

そしていつも男が吹き飛ばされる。

『うわぁぁぁぁぁぁ!!!!』

ドシャっと地面に叩き付けられたこの男はタクト・マイヤーズ准将(タクト)である。

艦長であるにも関わらず…性格はいたって気楽…

『ぐは!!』

叩き付けられた拍子に背中を打ち…酷く苦しそうにしていた。

『あ、タクトさん!大丈夫ですか!?』

傍らに一人の女性、この女性がタクトのお嫁さんミルフィーユ・桜葉(ミルフィー)だ。

ミルフィーの手を借りながら何とか立ち上がろうとするタクト。

『タクト−ー−!』

と言う声と共に猫(?)が飛掛かってきた。

そして…

『え?う、うわ、うわぁぁぁぁぁぁ!!!』

さっきよりも勢い良く…それでいて同じ所を打ちながら…倒れた。

二度も同じ所を打ったタクトはさすがに苦しそうにもがいた。

飛びついてきた猫、猫耳を付けているだけだが…彼女はナノナノ・プディング少尉(ナノ)。

ナノマシン集合体の彼女もルーンエンジェル隊のメンバーだ。

『マ、マイヤーズ司令!大丈夫ですか!?』

駆け寄ってきた少年、この少年こそがルーンエンジェル隊隊長代理のカズヤ・シラナミ少尉である。




『そして時は静かに…悲劇への始まりを刻み始めていた…』




『何を暗い事を言っている、アジート少尉。』

『うわ!リリィ!?』


驚いているのは猪突猛進のアニス・アジート少尉(アニス)、後ろに立ってツッコミを入れたのはリリィ・C・シャーベット中尉(リリィ)。

『みなさ〜ん、そろそろおやつにしませんか〜?』

おっとりとした口調でひらひらと手を振っている女性、カルーア・マジョラム少尉(カルーア)。



この物語はナツメ・イザヨイがルクシオールに来る少し前のお話。

そしてこの時…アニスが言った事が本当になるとは…誰が予想しただろうか…

それはたった一つの出来事から始まった。



リゾート惑星・ピロットに向かうルクシオ−ル。

この膨大な宇宙で偶然、ミルフィーの運もあるのだが…

この宇宙のリゾート惑星一週間滞在タダ券を拾ったのである。

小瓶のような容器に入れられていたのをクロスキャリバーのパイロット…

つまり、リコが見つけたのである。

その券が偶然…必然…分らないが団体招待券だった。

リコは、自身の良心からルクシオール全艦員と一緒にある惑星へと向かった。

それがこの宇宙で最も有名なリゾート惑星なのだ。

この星は色々な施設にアトラクション、観光地や宇宙ウサギなどの動物を放し飼いにしている野原公園。

色々な物を取り揃えたショッピングモールなどもある、EDEN、NEUEに次ぐ宇宙なのだ。




『で、これはお姉ちゃんが、こっちがカズヤさんが作ったケーキだそうです。』

『うぉーー!うまそうじゃねぇか!』

『あぅぅぅぅぅ…………』

各々歓喜の声をあげ、ナノは涎を垂らしていた。

そんな中、カズヤは一際でかい桜のような木下に陣取っていた。

ルクシオール内に植えられたこの樹はある人物からの贈り物だった。

さらさらと風に靡いている月下母樹…今はそう呼ばれる桜である。

勝手に噂された事なのだが、この月下母樹の下で好きな人に告白すると願いが叶うと言う。

実際信じている者は少ないが…ルーンエンジェル隊の中でも一番信じている者が約1名…

『月下母樹の下で…ロマンチックですね〜?』

一人浮かれてクルクルと回っているその横ではケーキの取り合い…争奪戦が始まっていた。

『む!?貴様、人が取ろうとした物を取るとは剣の道に反するぞ!!』

『ケッ!何が剣の道だ!俺が知るかっつーの!』

『ナノナノは食べられれば何でも良いのだ−!』

カルーアは黙々と食べており、カズヤは『ごめん、忘れ物したから取ってくるよ』と言ったまま戻ってきていない。

それでも場の雰囲気は盛り上がる一方だった。




          φ




一方、忘れ物をしたカズヤは…

『リコ…喜んでくれるかな…』

手元には四角い小さな箱が掌の中に収まっている…

中には特殊な鉱石と鉄でリボンとハートを象ったネックレスが入っている。

それと同時にシュークリームの乗ったお皿を展望公園へと運んだ。




          φ




『カズヤのやつ…遅いなぁ。』

タクトがぽつりとそう言った。

ミルフィーはタクトの腕にしがみついたまます〜…と寝ていた。

ただ花見をするだけだったのにいつのまにか宴会になっていた。

リコもケーキを口に入れ咀嚼しながら考えた。

(カズヤさん…何してるんだろ…)

そう思っていた時だった、ドアが開いた。

ドアが開くと同時にクリームやバターの香りが漂ってきた。

『みんな、おまたせ。』

『シラナミ〜、遅いわよぉん…待ちくたびれたじゃな〜い…』

すっかり泥酔状態のテキーラがカズヤに近寄ってきた。

『はいはい、テキーラは大人しく座ってて。リリィさん、これそっちに置いて下さい。』

『うむ、了解した。』

テキパキと作業こなすカズヤに対し、アニスはいびきのような声をあげながら寝ていた。

その傍らにナノナノが丸まって尻尾を振りながら寝ていた。

実に幸せそうに『リコた〜ん…大好きなのだぁ〜…』

と寝言を言っていた。

『リコ…ちょっといいかな?』

といつのまにかリコの隣に近寄っていたカズヤが耳元で囁くような声で言った。

リコは不思議そうな顔をして首を傾げた。

すっと立ち上がったその瞬間。

グラッとリコの視界が歪んだ…そして…

『リコ?・・・リコ!?』

『げほ!げほ…』

苦しそうに胸を抑えて…その場に倒れこんでしまった…




          φ




『食中毒ですね…それも非常に稀な重度の…』

そう宣告された。

リコのかかった食中毒はリミル・ド・ラスク症(亜科学毒素症)と言うもので…

主に【特殊な鉱石】や【鉄】などに付着している事が多い。

そう…【特殊な鉱石や鉄】などに…

『命に別状はないんだね?』

『はい、元々苦しむだけの症状しか出ないものなので…』

今、医務室のベッドでリコは寝ている。

解毒剤を飲んだものの、その症状は一週間は続くと言う。

リゾート惑星を目の前にしての悲劇。

『特殊な鉱石と鉄…』

ぼそっと自分で呟いた瞬間、カズヤは自分で自分を地獄に陥れた…

僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?
僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?
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僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?僕がリコを苦しめた?

リコを好きなこの僕が!!!!!???

頭の中で何度も何度も木霊する言葉…

『僕のせいで…リコが…』

『カズヤ?どうかした』

どうかしたのか?と言いかけた瞬間。

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

カズヤは何も分らなくなり…叫び…嘆き…その場に倒れこんだ。




          φ




リコに続いてカズヤも倒れこんだ、そしてリコは熟睡状態まで回復したが…

カズヤは意識不明になっていた…

『む、これは…』

カズヤのポケットから四角いあの箱が飛び出ていた。

『ちょっと失敬しますよ…』

中身を見たモルデン医師は絶句した。

『こ…これは『ドグラナイト鉱石ね』

いつのまにか医務室内に入っていたテキーラが言った。

『ドグラナイト鉱石は列記とした魔鉱石よ…それを何でシラナミが?』

『テキーラ様!これの表面を調べてみるですに!そうすれば本当にリミル・ド・ラスクかわかるですに!』

ふよふよと浮遊している使い魔のミモレットが言った。

『シラナミ、悪いけど…少し借りていくわよ、いいわよね?モルデンも。』

無言で頷くモルデン医師、傍らには今も眠っている二人がいた。




何日かして、ルクシオールはリゾート惑星へと到着した。

『一番乗りです!ん〜…風が気持ち良い…』

んーっと背伸びをしながら満面の笑みでルクシオールから下りたリコ。

あの後直ぐにテキーラが調べ、解毒薬と回復薬の薬を作り、飲ませた。

すると忽ち、リコの病状は嘘のように消えた。

飛び跳ねながらリコはテキーラに抱き着いた。

一人をおいては…

『リコちゃん元気そうですわね〜。』

『そうですに〜。』

『だが…』

『あれがあれじゃぁなぁ…』

そう言って一同がちらりと後ろに目線をやる。

そこにはいなければならない人物がいなかった…

カズヤである、カズヤは自室に隠り…出て来ようとはしなかった。

それと同時に…リコは、今回の食中毒事件の事の…事実を知らなかった。




          φ



一方カズヤはケーキを作る訳でもなく、生地を作っている訳でもなく…ただベッドに座っていた。

リコに会うのが怖いのだ、また同じ事の繰り返しをするのではないかと。

一応ネックレスには解毒回復薬をかけてあるから大丈夫とテキーラからと言われ…今は手元にある。

カズヤはそれをぼんやりと見つめているだけで、まるで人形のように動かなかった。

と、その時クロノクリスタルが静寂の部屋の中に鳴り響いた。

『はい…』

虫のような声で答えるカズヤ。

『おいカズヤ、ちょっと出てきてくれよ。』

アニスからだった、クロノクリスタルからは噴水のような音が聞こえてくる。

『この惑星の第四ブロックの公園の噴水広場だ、拒否権は無い…急いで来いよ。』

と強制的に向こうが通信を切ってしまった。

(リコだけには会いたくないなぁ…)

そんな事を考えながら、カズヤは言われた通りに第四ブロックの噴水広場へと向かった。





          φ




まわりでは宇宙うさぎと戯れている子供や鳥達と一緒に歌っている人が目に入ってくる。

カズヤは少し気が落ち着いたみたいで、小走りで噴水まで走っていた。

噴水の近くではアニスとミモレットが待っていた。

『む、カズヤですに。』

『来たか…』

『はぁ…はぁ…で、何の用?』

息を整えながらカズヤは言った。

『いいから来い!』

強引に腕を引っ張られてどこかへと連れていかれるカズヤ。

カズヤは至って抵抗する訳でも無く、それに従った。

『お前がリコに会う会わない謝る謝らないなんてのは俺にとっちゃどうでも言い。』

アニスは文句を言うようにして話し始めた、貶す訳でも無くそれでいて傷つける訳でも無く。

『けどそれはお前だけの気持ちだ、お前はリコの気持ちを考えて行動しているか?』

その言葉にカズヤはすっと手を退いた…と言うより掴まれていた手を振払った。

その行動にアニスは吃驚していた。

『それで…アニスは僕に何が言いたいの?リコに会えとでも言うつもり?』

顔を伏せたまま…そして握り拳を作り震えているカズヤ。

『そう言う事だ、カズヤ。』

喉元に剣を突き付けられ、硬直するカズヤ…その横にはカルーアとリリィがいた。

いつの間にか囲まれていた。

しかし、この場にリコが居ない事にもすぐに気付く。

まわりを見渡しても見当たらない。

『リコちゃんならお姉様と〜、御買い物中ですわ〜。』

すっと剣が離れ、カチンと言う音と共に剣が鞘に収められた。

その瞬間、カズヤは振り返り元来た道を戻ろうとした。

『僕はリコを傷つけたんだ、なら会う資格も無いし…ココで楽しむ資格も無い…』

沈んだ状態でルクシオールへと戻っていった。

『こりゃ相当重症だね…』

『ユキ皇女!!?』

とリリィが叫んだ瞬間、口を塞がれてシー!と言うような仕草をして手を離した。

『大体の事情はタクトさんから聞いてるよ…とりあえず皆は…』

『カズヤを強制連行、ちとお灸を据えてやるから…』

と後ろから男性が一人出てきた。

『ちーたん、お久し振りなのだ〜♪』

と言ってナノナノが飛びついた。

千明・アスリエル・絶華…皇女の幼馴染みである…そしてルーンヴァイス隊の隊長、エクスレイシアの艦長である。

『おや?そちらの方は?』

とリリィが千明の後ろの人物を指した。

『ん?あぁ、紹介するよ…この惑星の新しいメンバーの…』

『にゃーと申します、以後宜しくです♪』

と言って深々と頭を下げる。

『まぁ、各々の自己紹介は後にして…カズヤを捕獲後、第三ブロックの屋敷まで連行。』

『『了解(なのだ!)!!』』

 

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