『うぉりゃーーーー!ハリケーンキーーーーック!!!』
元トレジャーハンターだけあって、アニスは人並み越えた跳躍能力を発揮。
そのまま空中で狙いを定め、カズヤの背中にキックを喰らわせた。
無論…勢い良くカズヤの体は吹き飛び…噴水に激突した。
当の本人カズヤはと言うと…不意打ち+噴水に頭上から激突したのだ…
気絶しない方がおかしいかもしれない…怪我はナノナノが治療しておいた。
そしてリリィは…半ば呆れたような顔をして立ち尽くし、カルーアはぽや〜っとした顔で立っていた。
『親分、少しは手加減するのだ…でないとカズヤが可哀想なのだ…』
そうナノナノの潤んだ目で見つめられたアニスは少し怯んだ。
『・・・まぁともかく、カズヤをリコの目に触れないように運ぶとしよう…』
『目回してるですに…』
『ミモレットちゃ〜ん、リコちゃんの場所を報告しつつ〜、見張っててくれないかしら〜?』
『了解ですに!』
そう言うと直ぐさまミモレットは空中を猛スピードで移動し…リコを探し始めた。
φ
『・・・それで?僕をどうするつもりですか?』
四人に囲まれた状態のカズヤは怒っていた、が暴れようとはしなかった。
『とりあえず、桜葉少尉には会わず第三ブロックの屋敷に行く事になっている。』
冷静且つ沈着に答えるリリィに対して、カズヤを雁字搦めにして担ぎ上げているアニスは。
『リコに会わないだけでもありがたいと思いな…こんな惨めな姿見せられるか?』
そうブツクサ文句を言うようにアニスは言った。
しかしその横でピョンコピョンコ猫のように跳ね回っているナノナノは。
『親分カズヤを虐めてるのだ?親分ってまさか…』
と独り言のようにニマニマ笑いながら跳ね回っていた。
(大体…普通の格好でもリコに会ったって…平然で居られないよ…)
と心の中で嘆くカズヤの後ろではカルーアが、ミモレットと通信しながらリコの場所を把握していた。
『このまま行くと〜、接触してしまいますわ〜。』
『ならば、そこの横路に入ろう。』
そう言って、横路に入っていった。
しかし、運の悪い事にリコとミルフィーもその道に入ってしまった。
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リゾート惑星ピロット第三ブロック・居住区
ここはこの惑星に住む人々が住まう屋敷が立ち並ぶ場所である。
その内の一つの屋敷の前に…
『お〜い!ここですここ〜!』
新入居者、にゃーが立っていた。
すぐさま屋敷の中に入って行く一同…その後ろから迫る影が三つあった。
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『カズヤ、君はこれをどこで拾ったんだい?』
まるで尋問されているかのような雰囲気のこの部屋…
ドア付近にはアニスとリリィが立って、窓付近にはナノナノとテキーラが立っていた。
『ドグラナイト鉱石はね、そう簡単には見つからない鉱石なのよ?』
『僕が拾ったのはあの月下母樹の下ですよ。』
その時、ユキと千明の目は大きく見開かれた…驚きを隠せなかったのだ。
『月下…母樹…だって!?』
隣で座っていたユキはクラッと倒れこむように意識を失った。
『月下母樹がどうかしたんですか?』
開いているソファーにユキを寝かせ…もといたソファーに腰掛けると深く息をついた。
『月下母樹は…見た目は確かに桜そっくりだ…だがあれはこの惑星から盗み出された…
ドグラナイト鉱石を生み出す…魔術樹なんだ…』
月下母樹…それは愛しき人にプレゼントを…贈り物をしたいと思う者に対して強く反応し…
それが具現化され、ドグラナイト鉱石により形を成して…その者の前にあらわれる…
しかもドグラナイト鉱石には食中毒を引き起こす毒素が付着している事が多い…
『それじゃぁ…僕は…やっぱりリコを傷つけたんですね!?僕が食中毒に!』
そう叫んだ瞬間…
カタン……
窓の外から物が落ちる音がした。
ふとナノナノが外を覗いた。
『あれ?ねぇテキーラ、あれリコたんじゃないのだ?』
『『え!!??』』
一同が窓の外に目をやる…そこには震えながらカズヤを見るリコの姿が…
そして隣にはやっちゃった…と言うような顔でタクトとミルフィーユが立っていた。
『カ…ズヤさん…が…私…を?…食…中…毒…に?…』
途切れ途切れに聞こえたその声は…カズヤの胸にガラスのように深く突き刺さった…
『リ、リコ?』
『リコ、落ち着け…落ち着くんだ!』
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
カズヤは悟った…もう二度と口を聞いてもらえないし…触れる事も…近付く事さえも出来ないと…
走って去っていくリコの背中を…ただ呆然と見ているしかなかった。
『シラナミ…』
カズヤの肩に手を置くテキーラ…アニスはいつも以上に暗い顔をして…
ナノナノとリリィはしょぼくれた顔で立ち尽くしていた。
『終わった…な…』
僕があんな物さえ拾わなければ…あんな物に触れなければ…
後悔は後悔を呼び…カズヤは自分で闇に沈んでいった…リコも…
φ
あれから数時間後、リコは姉であるミルフィーユにくっ付いたまま…
カズヤは自室から出て来ず…お互い離れた状態になっていた。
『ふ〜む…コレは重症だな…』
『重症で済むような問題ではないですよ…これは。』
千明の屋敷で泊まる事になっているルーンエンジェル隊と艦長、モルデン医師…そしてミルフィーユ。
リコは常にミルフィーユにくっ付き、カズヤは自室に隠り、他のメンバーは食事をしていた。
数十分前…リコはカズヤに対してこう言っていた。
【私はもうカズヤさんの事は大嫌いです!】
『伝えるべきじゃないよな……心を閉ざした天使…かぁ…』
タクトがそう呟くと、ミルフィーユは不安そうな表情を浮かべた。
『あの〜タクトさん…』
とミルフィーユがリコを引きずりながらタクトの近くに寄ってきた。
『カズヤ君にも何か食べさせないと…』
『確かにこのままじゃ…カズヤ自身が持たないだろうしな…』
そう相談しているのを傍らで聞いているエンジェル隊…
そしてもう一人…
『ふむぅ…これは少しまずいですね…』
少しどころじゃねぇ!滅茶苦茶やばいんだよ!と後ろでそう怒鳴ろうとしているアニスを全員で必死に止めている。
しんと静まり返る部屋…その中一人だけぽや〜っとしている人物がいた。
『でも、何か食べないとカズヤのお腹がグ〜グ〜なっちゃうのだ。』
誰もがその部分の思考が同じ考えを持った。
ぐ〜ぐ〜お腹がなる=お腹が減った=何か食べないと動けなくなる…と言う思考に…
φ
午後8時45分…1階6号室前…
そう…カズヤの部屋の前である。
『カズヤ君…食べてくれるでしょうか?』
『・・・まずは話を聞かないと意味ないなぁ…てか、開けてくれるかの問題だな。』
腕組しながら考えるタクトと食器をトレーに乗せて持っているミルフィーユ。
あの事件からすでに数時間が経過しているが、カズヤは時間が経つにつれて落ち込んでいくばかりである。
リコはリコでミルフィーユから離れようとはしなかった。
今はカズヤの部屋に行くと言う事なのでエンジェル隊の皆と一緒にいる。
タクトとミルフィーユはカズヤの部屋の前で考えた。
どうやったらドアを開けてくれるだろうか?とか、食べてくれるだろうか?と…
『考えても始まらない、とりあえずノックしてみよう。』
コンコン…
ドアをノックしたタクト、ミルフィーユは一歩ニ歩後ろに下がっていた。
『カズヤ、ドアを開けてくれないか?』
しかし返事は帰って来ない。
『寝ちゃってるんでしょうか?』
頭の上に疑問符が大量に浮かぶ二人、と…その時だった。
『カズヤさん、出てきて下さい。』
後ろからリコの声がした、振り返った二人は仰天した。
なぜならそこにはアプリコット・桜葉…に扮したユキが立っていた。
背丈は同じ、でも声と髪型髪の色は全く違うはず…
『千明の魔法で少しの間、変身してるんです…』
と小声でタクトとミルフィーユに事情を話すユキ。
しかし、その声にすら反応はしなかった。
『ん〜…じゃぁ仕方ないや、ドアぶち破りますか〜♪』
そう言うと握り拳を作るユキ、ミルフィーユとタクトは嫌な予感がした…
『ま、まさか本気じゃないですよね!?』
しかし時すでに遅し…
『カズヤ・シラナミ少尉ぃぃぃぃぃぃ!!出て来いやぁぁぁぁ!』
その握り拳はカズヤのいる部屋のドアに直撃した。
φ
『・・・じゃぁ、リコは後悔してないんだね?』
その頃座敷の間ではエンジェル隊と千明でリコにちょっとした質問をしていた。
その中で千明は催眠術をかけ、リコの本音を聞き出そうとしていた。
『・・・・分りま・・・せん・・・でも・・・時々・・・心が痛い・・』
完璧な催眠状態で、リコは聞かれた事に全て答えていた。
『仲直りしたいとかは、思ってねぇのか?』
『ナノナノは仲直りしてほしいのだ!』
その時叫んだナノナノを後ろからリリィが口を強引に塞いだ。
『・・・・怖い・・・』
『嫌われるかもしれないからかい?』
『・・・はい・・・カズヤさんは・・私に心を・・・閉ざしました・・私も・・・』
思った以上に深刻な問題であった。
もし仮にこの一週間以内に解決出来なければ・・・紋章機に多大なる影響が出る。
(ヤバいな…)『とりあえず一回催眠術を解こう…』
すーっと催眠術用の魔法陣が消えた、それと同時にリコが目を覚ました。
『あれ?・・皆さん・・・おはようございます〜・・・』
寝ぼけ眼のリコに思わず笑ってしまう一同…
早く元の関係に戻ったら良いなと・・・心から願うエンジェル隊と千明とにゃー。
運命の神は…幸か不幸か…どちらに微笑むのか…
まだ…誰も分らない…