第一章 擦れ違う天使と勇者

 

『うにゅ〜…眠いですよ〜…』

千明の催眠術が終わった後の副作用は急激に眠くなる事であった。

しかし、それもまた良いのではないかと考えていた…エンジェル隊も千明、にゃ−も…

『そう言えば、タクトさんとミルフィーユさんは?』

ふと、思い出したようににゃ−が言ったが…

『知らん。』

と、軽く流されてしまった…余程ショックだったのか部屋の片隅で体育座りをして蹲ってしまった。

『いいもんいいもんいいもんいいもんいいもんいいもんいいもん…』


同じ言葉を何度も何度も繰り返していじけるにゃ−…ナノナノが近寄って肩に手をおいていた。

『も〜だめです〜…お部屋に帰って少し寝ます…』

フラフラの状態ではまともに歩けないのでアニスとリリィがまるで荷物を運ぶようにして部屋へと連れていった。





          φ





『カズヤ・シラナミィィィ!!!出て来いやぁぁぁぁ!!』

物凄い勢いでカズヤの部屋のドアは吹き飛んだ。

鈍い音と共にドアは吹き飛んだが…そのドアの前にはカズヤが立っていた。

『*`』?>L+$&$Y&’#%&$’%???』

訳の分らない声と共に殴られ、壁に叩き付けられるカズヤ。

『あ…』『あ…』

重なった声で反応する二人…それをやったユキは固まってしまった。

『・・・あは・・・あははははは♪やっちゃったぁ♪』

『やっちゃったぁ♪じゃねぇ!おいカズヤ、大丈夫か?』

『私はプディング少尉を連れてくる、あまり動かすなよ!?』

丁度リコを連れ(運び)終えたアニスとリリィが通りかかり、カズヤの意識を確認する。

微かに意識があるカズヤはまったく動けず、色んな意味で重症だった。

『あちゃ〜、色々と折れてるのだ…』

すぐに駆け付けたナノナノは直ぐさまナノマシン治療を開始した。

『イタタタタ…あれ?僕…何してたんだけ?確か寝てて、誰かに呼ばれたから…』

直ぐに回復したカズヤは頭を押えながら今までの事を思い出し始めた。

『で、開けようとしたら怒鳴り声と一緒にドアが吹き飛んできて…ん?吹き飛んで!?』

漸く今の現状に気付いたカズヤは辺りを見回し、惨状を目の当たりにした…

ドアが吹き飛んでいる、微妙にだが服に血がついている、頭がガンガン痛む。

『あら〜、今度はカズヤさんが固まってしまいましたわ〜?』

後からすーっと気配無く部屋に入ってきたカルーアに全員驚いた。

『本当にまったく動かなくなったな…』

『カズヤ君?カズヤく〜ん?』

ミルフィーユが目の前で大きく手を振っても反応しないのに、ミルフィーユは…

『無視されましたぁ…』

と言って半分泣いている状態になった、タクトは近くにあったテーブルの上に食器を置いた。

一方カズヤはナノナノにくすぐられてもアニスに叩かれても、リリィに剣を喉元に突き付けられても…

一向に反応がない、と言うより思考が完全にストップしているらしい。

『起きないな…動いてないし…』

ナノナノと一緒にきていた千明は腕組しながら悩んでいた。





          φ





『ん……ふ……ふぁぁぁぁぁ…』

一方リコはアニスとリリィに寝室に運ばれた後、曝睡していた…

廊下も外も静かなのに漸く気付き、起きたのである。

『そろそろ起きないといけませんね〜…』

まだ半分寝惚けているリコは所々壁にぶつかりながらも部屋を出た。

丁度その時、廊下の向こう側ではカズヤが固まっている状態の時である。

何も知らないリコは廊下をフラフラ歩いていた、途中眠りそうになるのを我慢しながら…

と、その時リコの視界に皆が集まっているのが見えた。

『あ、みなさ〜ん…』

しかし反応が返ってこない、寧ろ慌ただしく動いているのが分かった。

不安になったリコはその慌ただしくなっている方へと急いだ、もう寝惚けてすらいない。

近付くと同時に色々な言葉が耳に入って来る…

『あの子も可哀想に…』『あの子だよね?隊長って…』

そう言う事を耳に入れながら走っていた…が…

『殴られて血だらけになっちゃって…』

その言葉にリコは足を止めた。

そう…あの悪夢が蘇ったのだ…セルダ−ル近くのデブリ群に遭遇した事を…

リコの走るスピードは止まる前より更に早くなった。

カズヤさんが血だらけに?

何で?どうしてカズヤさんが?

頭の中にはそんな事ばかり、しかしさっき話されていたのは別の人の事であった。

そうとは知らず、走り続けるリコ…





          φ





『カズヤ君…もう大丈夫だよ?起きて〜?』

何とか起こそうとミルフィーユは色々試していた。

そして今は思いきりきつく抱き締めているが…タクトがそれを見て苦笑いしていた。

(こんなところ…リコに見られでもしたら…)『まずいよなぁ…』

『何がまずいんですか!?』

運悪く息を切らして駆けてきたリコがタクトの一言を聞いてしまった。

リコの声にやっと我を取り戻したカズヤ。

『リ…コ…?みんな?』

そこでやっと今の自分の置かれている状況に気付く…が時すでに遅し。

『あ、いつまでもこうしてちゃいけないね。』

『!!お姉ちゃん!?何してるの!!?』

ふとした誤解は…さらなる誤解を招いてしまった…

『ちょっとだけ後悔して…謝ろうと思ったのに…』

ふるふると震えているリコ、その横でナノナノは何かを感じ取って恐怖に震えていた。

アニスとリリィはやれやれ…と言ったような顔で誤解を解こうとした瞬間…

『カズヤさんなんか…カズヤさんなんか大嫌いです!!!』

その言葉が部屋中に響き、カズヤの心に止めを指した。

涙目になったリコは部屋を飛び出し、廊下の角を曲がって消えた…

カズヤはカズヤで顔を伏せ、リコとは反対方向の廊下を早歩きで去っていった。

『こりゃ…この溝は埋まるのは無理そうだな…』

『と、言うよりは…完全に割れた鏡だね…』

『あの二人が元の関係に戻る確率…およそ0.00000001%…』

『って絶対無理じゃねぇか!』

カズヤとリコの間に出来た溝と言う壁と崖…





          φ





一方、軽く流されていじけたにゃーは…

『いいもんいいもんいいもんいいもんいいもんいいもんいいもん………』


未だいじけていた。






今回偶然起こったこの事件は、偶然ではなく誰かが仕掛けた物なのだろうか。

それとも本当に偶然起きた事なのだろうか。

それは誰にも分らない。

ただ…

今この状態ではカズヤとリコが仲直りする可能性は極めて低く…

この関係が続くか…

前の関係に戻るか…

それも誰にも分らない…

誤解がさらなる誤解を招いたこの事件…

あなたは、どう言う結末を想像しますか?





『そりゃもちろん!ハッピーエン
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聞いてません。





『にょぉ…』

 

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