第一章 壊れた天使の鏡

 

薄暗闇の中…天使は泣いていた…

泣いて泣いて泣きじゃくって…心を閉ざしていた…

前に進めず…後ろにも進めず…立ち止まった…

まるで割れた天使の鏡のように…天使は心を閉ざしていた…

宇宙は広い…その広過ぎる宇宙の中から…天使は一人の勇者を選びだした…

天使のとっての幸福は…今では絶望と後悔であった…

『うぅ…ヒック…うぅぅぅ…』

彼女はひとり部屋に閉じこもり泣き続けていた…

その時、ドアをノックする音が聞こえた。

だが彼女…リコは返事をしようとはしなかった。

『リコー?リーコ−?』

何度も何度もノックするミルフィーユ、だがリコはドアを開けようとはしなかった。

『話があるの、ドア開けてもらえないかな?』

一向に開く気配はなく、それどころか人がいるかも分らないくらい静まり返っていた。

『こりゃぁ…まず仲直りどころか…紋章機に乗る事する不可能だな…』

後ろで控えていたタクトが溜め息まじりの一言を言った。

その横にはアニスとナノナノもいた…が二人とも酷く落ち込んだ顔をしていた。

『そろそろ…リリィ達がカズヤに追い付くと思うが…』

アニスがボソリと言った。





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『確か…こっちの方向に…走っていったと…思ったが…』

途切れ途切れ…息を切らしてリリィが彼を探していた。

『ミモレットちゃ〜ん、上から探してもらえますか〜?』

『了解ですに!』

そう言うとミモレットは上空に飛び、カズヤの姿を探し始めた。

とにかくこの状況をどうにかしないと…エンジェル隊のコンディションどころか…

今後の戦闘に多大なる影響を及ぼす可能性があった。

それだけは絶対避けなければならなかった。

『この公園内には居ないみたいですに…多分他の場所に行ったですに…』

落ち込んで戻ってきたミモレットがそう報告した…少し考えるリリィ…

『桜葉少尉はすでに部屋の中…そしてカズヤは行方不明…よし、捜索範囲を広げよう…』

そう言うとリリィは三手に別れて捜索する事を提案した、カルーアもそれを承諾した。

リリィは公園の北側の第二ブロック繁華街エリア、カルーアはテキーラになり公園西側居住区へ。

ミモレットは上空から捜索する事となった。





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『・・・・・・・はぁ・・・』

部屋に閉じこもったリコは深い溜め息をついた…

なぜなら今頃になって深く…とても深く後悔しているのであった。

今さら出たって…カズヤさんには会えないし…会わす顔がない…

それにきっと…嫌われちゃったし…もう今までみたいにはいかないよね…

閉じこもってから数時間ずっとそう考えていた、後悔先に立たずとはこの事である。

(通信…でも出てくれないだろうし…出たとしてもすぐ切られるだろうし…)

考えは浮かぶものの、すぐに無理と判断し却下してしまう…

(手紙…は、カズヤさんが読んでくれないかもしれないな…)

考えるに考えた…しかし自分が納得のいく考えは浮かばなかった…

しかも今でも少しカズヤの事を嫌いと思う気持ちがあった…それのせいで考えがまとまらないのだ。

と、そんな事を考えていたその時…ぐ〜とお腹がなった。

(そう言えば…御夕食食べずに部屋に隠っちゃったっけ…)

お姉ちゃんもタクトさんも皆心配してくれているだろうし…少しぐらいなら…

そう考えたリコは部屋のドアを少し開けた、するとドアの横に食器が置いてあった。

食器と一緒にメモも置いてあった、そのメモはミルフィーユが書いたものであった。

[これを食べて元気になってね(ハート)byリコの大好きなミルフィーユ]

(お姉ちゃん…ありがと…)

心の中で自分の大好きな姉にお礼を言い…その置いてある食器をそーっと部屋の中に入れた。





その様子を遠くからミルフィーユ、タクト、ユキ、アニス、ナノナノが見ていた。

『何とか飯は食ってくれるか…』

『ふー…これで少しは持つでしょう…』

『だが…急がなくちゃいけないな…』

『リコたん…』『リコ…』

心配そうにリコの部屋を見つめるナノナノとミルフィーユ…

『こちらタクト、千明…聞こえるか?』

【はいこちら千明…何ですか?】

不機嫌そうに答える千明、それに対してタクトは少し気楽そうな声で…

『カズヤ見つかったか?』

と聞いた…がそれは千明の堪忍袋の緒を切る事になった…

通信でも緒がプッチン…と切れる音が良く聞こえたような気がした五人…

そして強制的に通信を切られた…

ユキとアニスは青筋が垂れ…タクトは困った顔をし…ナノナノはリコの部屋をずっと見ている。





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『こちらの方向には来ていないのか…』

未だにカズヤの姿を確認出来ていないリリィ…

少し前にミモレットとテキーラにも通信して聞いたがどちらもまだ見つけていない様だった。

『あら…』

『マジョラム少尉…と言う事はこちらにはいないのか…』

ばったりテキーラと出会ったリリィ、それはつまりこちらの方には稲生と言う事の証明だった。

『居住区にはいなかったわ…近くのエリアも探したけど…』

『そうか…よしもう少し探してみよう、あっちだ。』

そう言って捜索を続行しようとした瞬間、通信が入った。

ミモレットからだった。





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『御馳走様でした…うん、やっぱりお姉ちゃんのお料理は最高…』

ほ〜っと深い息をついて落ち着き始めたリコは、食器を片付ける事にした。

綺麗に重ね、部屋を出ようとした瞬間…急に体が震え始めた…

(な…何?…)

今まで体験した事がない…この異様なまでの恐怖…

リコは…声も出せず…その場でただ震えていた…それしか出来なかった。

進もうにも足が動かず、助けを呼ぼうにも声も出ず…手が硬直し、何も出来ない状態だった。

カーテンは閉め切っていて外からは誰も気付かない、ドアは鍵をしてしまって誰も入れない。

クロノクリスタルで助けを呼ぼうにも手が硬直し食器を手放せず…無理である。

次第にリコは怖くなってきた…誰も近くにいない恐怖…絶望。

今まで自分の心を埋めていたもの…失って漸く気付いた。

自分を支えていてくれたものが…何だったのか…リコはまだ気付いていていない。

少しずつ震えが治まってきたのは、震えだしてから1時間後の事だった。

深呼吸を何回か繰り返し、食器を片付けに部屋を出た。





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『えっと…気配はこっちから…だにゃ〜。』

一人捜索をするにゃー、ここは人町外れた第五エリア森林公園区。

夜だと電灯はつくものの…薄暗い森のようなこの公園にはほとんど意味を成していない。

昼夜行性のにゃーには、まったく関係ないが…

『こっちからあの人の気配がするなぁ…』

すると、近くのベンチに一人の人陰があった。

ふぅ…と安堵の息をつき、その人陰に近付いていった。





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食器を片付け終わったリコは、また部屋に入った…が今度はミルフィーユも一緒だった。

嫌いと言う思いと後悔と言う思い…二つの思いがぶつかり合い…リコは困惑していた。

ベッドの上で靴を脱ぎ、普段着のリコは体育座りの状態でミルフィーユと話していた。

最初は声も小さく、暗かったリコも段々と元に戻ってきた。

そして時々冗談が言えるまでに回復したが…少しまだ落ち着きがない。

カズヤの名前を出そうとすると強制的に話題を摺り替えて言わせないようにする。

その姿を見ているミルフィーユはリコが痛々しく見えた…

すると、ドアをノックする音が聞こえてきた…多分タクトだろうと。

そうリコとミルフィーユは考えていた。

『お〜い、ミルフィー、リコー、ちょっとブリーフィングルームに来てくれ。』

『は〜い、アプリコット・桜葉少尉、すぐに行きま〜す。』

『同じく、ミルフィーユ・桜葉大尉、行きまーす。』

二人同時に手を大きくあげてそう叫んだ、そしてリコは軍服に着替えルクシオールのブリーフィングルームへ…





ブリーフィングルームにはすでにアニス、ナノナノ、千明、ユキ、タクトが来ていた。

タクトがリコにリリィとカルーア(テキーラ)とにゃーがいない理由を説明しておいた。

『え〜、まず呼んだ理由を話しておこう…
休暇中ですまないんだが…敵機がこの惑星に向かっている…
しかも前回戦った事のある連中だが…数がやけに多い。
この惑星だけの防衛機能だけじゃ防ぎ切れない事も判明した…
よって、戦力はかなり少ないが…迎撃するしかない。
一応いないメンバーにも呼び掛けてはみたけど応答がない。
カズヤとリリィ、そしてテキーラがいない以上…その分の戦力をどう埋めるか…』


カズヤのブレイブハート、リリィのイーグルゲイザ−、テキーラのスペルキャスター…

合体出来ず、更にコンディションがガタガタの状態…これではただの的である。

『我々も出ましょう、この星の紋章機で。』

ユキがそう提案した、その意見には千明も賛成だった。

そうするしかないか…そう言ってルクシオールは一時出港した。

ユキと千明も紋章機で出撃した、他にも何機か紋章機が出撃しているのがブリッジから見えた。





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戦闘はすぐに終わり、ルクシオールの損傷はかなり軽微なものしかなかった。

入港すると、隣の艦からユキと千明が降りてきたのが見えた。

大きな戦闘を終え、リコ達は安堵の溜め息をついていた。












しかし、悲劇はこれで終わりはしなかった…

 

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