第一章 崩れ落ちた勇者の心

 

『・・・・・・はぁ・・・』

森林公園区のベンチに一人座るカズヤ、数分前から溜め息ばかりついている。

[カズヤさんなんか大嫌いです!]

その言葉が深く心に刺さり…抜けない…この痛み。

『・・・・・・はぁ〜・・・』

さっきより深い溜め息をつく・・・もう元の関係には戻れないんだろうなと思い・・・

その時・・・



ピピピピッピピピピッピピピピッ・・・



クロノクリスタルが鳴った・・・

【カズヤか?敵機がこの惑星に接近している・・・出来れば来てほしい。】

タクトからの通信であったが、カズヤは出ただけで一言も言葉を発しなかった。

そのまま通信は切れ、またまわりは静寂と闇に飲まれた。

(僕って・・・人を傷つける事しか出来ないのかな・・・)

そう考えていると目の前を真っ白い猫が通り過ぎた。

少しずつカズヤに近付いていく、カズヤはその猫を見続けていた。

「にゃー・・・」

『どうしたんだい?お腹空いたのかい?』

運良くポケットにクッキーの残りが入っている袋が入っていた。

カズヤはそのクッキーを猫にあげる、猫は美味しそうに食べ始めた。

『ごめんね、残り物で・・・おいしい?』

『美味しそうですね・・・私にもくださ〜い。』

ベンチの影からヌッとにゃーが現れた事にカズヤは物凄く驚いた。

『う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!?に、にゃーさん!?』

『わちしがどうかした〜?』

クッキーの匂いで半分ぼーっとしているにゃ−、対してカズヤは半分魂が飛んでいた。

自力で何とか戻ったカズヤはやっと我に戻り、猫にクッキーをやり終えて・・・

『で・・・なんでここにいるんですか?』

さっきまで猫を見ていた優しい目ではなく黒く沈んだ瞳に変わったカズヤ。

にゃーは、クッキーの欠片を少し食べて・・・落ち着きながら話した。


『多分言っても無駄でしょうしね・・・それに僕はリコに会う頃すら出来ないよ・・・』

すっかり落ち込んでいるカズヤ、しかしにゃーはゆったりとした口調で言った。

『いい加減にしたら?いつまでもあーでもないこーでもないと・・・』

顔は至ってのほほんと落ち着いているが、声はとても低く、刺すような口調であった。

『いいですよもう・・・僕はリコの事を諦めますから』

大丈夫ですよと言いかけた瞬間、高く鳴り響いた叩かれた音。

カズヤの頬には赤い跡が残っていて、にゃーの目は冷たいものに変わっていた。

『いい加減にしろって言ってるんだよ。』

『待ってくれ!』

『そうよ、少しぐらい話してもいいじゃない。』

草の影で身を潜めていたリリィとテキーラが出てきた、無論カズヤは吃驚している。

とりあえずにゃーはユキの所へと報告に行った。





          φ





『ふにゅ〜・・・』

すっかりトロけたような顔をしているリコ、その傍らには姉・ミルフィーユの姿があった。

猫のように甘え、過去の事などさっぱり忘れているリコ…

『ふふふ♪・・・』

その姿を見て、ミルフィーユは微笑んでいた。

幸せそうなその顔が、また絶望のどん底のような顔に変わらない事を祈りたい。

ミルフィーユの心の中にも・・・タクトの心の中にも、その気持ちはあった。

『おいタクト、話があんだけどよ・・・良いか?』

ドアを少し開けて、覗き込むような形でアニスがタクトを呼んだ。

少し席を外すタクト、ミルフィーユとリコは部屋の中で戯れあっていた。

『ねぇ・・・リコ?』

『なぁにお姉ちゃん?』

急に話を持ちかけたミルフィーユ、リコはとろけた顔のまま返事を返した。

『あのさ・・・あんまり今は話したくないんだけど・・・』

『お姉ちゃんの言う事なら何でも聞くよ〜?』

『それじゃぁさ・・・カズヤ君と仲直りする気は・・・ない?
いや、別に無理にとは言わないよ?でもいまのままじゃいけ
『ごめん・・・それは無理。』

早口で話を進めていたミルフィーユの言葉を遮るようにリコが言った。

先ほど甘えていた顔とは違い…暗い表情になっていた。

すっとミルフィーユから離れ、立ち上がり、窓の所に歩み寄った。

『確かに、私はエンジェル隊で…カズヤさんと私は・・・
ブレイブハートとクロスキャリバーは合体してこそ力が発揮できる・・・
でも…今の状態じゃ紋章機に乗るどころかカズヤさんとも会えないよ・・・
仲直りしたいとも思った・・・でも自分のどこかでそれを拒んだ。』


カーテンをきつく握りしめ・・・ひとすじの涙が流れ落ちた。

そしてその場に崩れ落ちた・・・その瞬間、リコの瞳から大粒の涙が流れ始めた。





          φ





一方、カズヤ・リリィ・テキーラは森林公園区を離れ、屋敷に向かっていた。

自分の足で、一歩一歩歩いているカズヤだが…途中何度も止まりそうになった。

しかしその度にテキーラが後ろから押し、前に進み続ける事が出来た。

数分後、やっとの思いで屋敷に戻る事が出来た・・・少し重い空気のままだが。

カズヤは迷わず自分の部屋に歩いていった・・・が、その途中でアニスとタクトの会話が聞こえてきた。

『・・・じゃ、紋章機に乗れって言う方が無理なんだよ。』

『確かにそうだが・・・リコとカズヤには明日のパーティには絶対出る事になってるんだよ…』

パーティ?何の事だ?そうカズヤは疑問に思いながらも自室に帰った。

自室に戻ると、そこは静寂と闇が支配する空間となっていた・・・誰もいないこの部屋にたった一人・・・

それはある意味孤独であった、だが今のカズヤにとってはそれがよかった。

布団に入ると、自分でも気付かない程疲れていたらしく・・・そのまま深い眠りへと落ちていった。


・・・・・・・夢?


微かに信じ難い事が起きた、明日やるはずのパーティに・・・今自分がいる。

世界は白黒っぽく見えるが、そこは神殿の大広間に間違いなかった。


何で僕がここに?僕は確か自室で寝ているはず・・・


そう考えているといきなり一人の男性が拳銃を取り出した。


あ、危ない!リコ!!!!!!






『がは!!はぁ・・・ゆ、夢?そうか・・・・・・そうだ、あんなのが現実な訳ない。』

最後に見たあれが…現実な訳がない・・・カズヤはもう一度布団に潜り、深い眠りについた。






だがその間にも悲劇の幕は上がる準備をしていた・・・







『・・・ャ・・・ズヤ・・・カズヤ!早く起きるのだ!』

『うぅ・・・ナノナノ?どうしたのさ・・・』

『パーティがそろそろ始まるから早く着替えろ・・・後1時間と50分だ!』

脛を思いっきり叩かれ悶絶しているカズヤ、しかしアニスとナノナノは容赦なく急かした。

痛みが少し退いてきた頃合を見計らって、カズヤはにゃーさんが用意したらしいパーティ用の服に着替えた。

パーティ会場は惑星の中央神殿の一部、ANGEL〜Nでやることになっている。

『あん・・・げ?』

『えんじぇる〜んよ、にゃーさんがここの支配人さんよ♪』

『何!?あのにゃーって・・・そんなにえらいやつだったのか!?』

そうアニスが叫んだ瞬間アニスの後頭部に激痛が、そして喉元に剣先が突き付けられた。

『失礼だぞ?』『口を謹めアジート少尉。』

冷や汗をだらだら流しながら小さく頷くアニス、近くにいたユキはクスクス笑っていた。

ナノナノは何かの遊びと勘違いしているのか混ざりたそうに瞳をキラキラ光らせている。

しかし、その後方ではただ一人・・・暗い人物、カズヤが立っていた。

リコに会いたくないのと、この明るい場にはあまり居たくないと言う気持ちが・・・カズヤの心にあった。

すると・・・

『いいから!早くいきなさいよ!』

『あ、あの・・・テキーラさん・・・』

『あまり引っ張らないで下さいよ、テキーラさん・・・』

近くの通路の奥からそんな喧嘩のような声が聞こえてきた。

その声の主はテキーラ・ミルフィーユ・リコだった、カズヤは慌てて柱の影に隠れた。

全身ピンクに染まったドレスを着ているミルフィーユ。

露出が多い派手なドレスを着ているテキーラ。

オレンジピンクで可愛いドレスを見に包んでいるリコ。

タクトはミルフィーユの久し振りのドレス姿を見つめ、エンジェル隊はリコを褒めちぎっていた。

しかし、そこに昔のカズヤの姿はなかった・・・その事に関しても誰も気付きはしなかった。

すると、会場が少し薄暗くなった・・・一部にライトが集中する。

『皆さん、お待たせしました〜・・・これより、ピロティ流星群前夜祭を始めます!』

わーっと歓声が上がり、会場が明るくなって音楽流れ始めた。

『ピロティ…流星群?なんなのだ?』

『ピロティ流星群って言うのはね?年に一度、丁度この時期に起こる流れ星。
でもただの流れ星じゃないの、一際大きな流れ星を見つけてそれに御願事をするとね・・・
必ず願いが叶うんだ〜・・・現に何人も御願いが叶ってる人がいるのよ?』


ほぇ〜とタクトも感心したようにポカ〜ンと口を開け、驚いていた。

ステージから下りてきたにゃ−、ナノナノが直ぐさま飛びついて戯れ始めた。

皆はやれやれっと言った感じの表情を浮かべ、各々笑っていた。

しかし、やはりそこにはカズヤの姿がなかった・・・会場を出た訳ではない。

ライトの光が当らない柱の影に未だに身を沈めていた。

『いつまでここで隠れているつもりだ。』

すっと音もなく気配もなくカズヤの隣に近付いた千明。

今度ばかりはカズヤも驚かず、冷静に・・・そして静かに答えた。

『僕は光のある場所にはいけません・・・行くとリコが視界に入ってきますから・・・』

『そんなにリコが羨ましいか?恨みたいのか?』

カズヤは・・・その言葉に少し反応を示した・・・が直ぐに冷静に答えた。

『羨ましくもないし、恨みたくもありません・・・恨みは恨みしか呼びませんし。』

こういう状態だからこそ、こういう時だからこそ冷静な判断が出来る・・・カズヤはそう思った。

千明は千明で、少し考えた後何も言わずカズヤの前から消えていた。

カズヤはポケットに手を入れた、するとポケットの中に紙が入っていた。

(何だ?手紙?)

その手紙にはこう記されていた。

【数分後にこの会場で何か起こる・・・予知師のカナリアが言っていた。あいつの予知は百発百中だ。気をつけろ。】

と・・・その手紙の内容をすぐに理解する事が出来たカズヤはすぐにリコが視界に入らないように・・・

そしてリコの視界に入らないように近付いていった。

『あ、あの・・・皆さん・・・あんまりジロジロ見ないで下さい・・・』

後ろでは恥ずかしがっているリコの声が聞こえてきた。

だがカズヤだけは神経を研ぎ澄まし、音に注意を払った。

あの夢がもし本当なら、相手は拳銃もしくは金属系で来るはず・・・

なら金属が何かに擦れる音がするはず・・・

しかし会場内では金属は大量に扱われている、聞き分ける事はほぼ不可能な状態だった。

だがカズヤは諦めなかった、只管神経と耳を研ぎ澄まし・・・集中した。


カチャ・・・


その音にカズヤは素早く反応した。

『エンジェル隊のエース、アプリコット・桜葉!覚悟!』

一人の男が拳銃を手にアプリコットの正面から狙いを付けてきた。





パン・・・・・・・・・

 

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