第二章      失う者失われる者 第一話 心ニ秘メタ想イト言葉

 

床に鏤められた鮮血

まわりのどよめき、叫び

何かを叫び続ける少年、少女達

横たわる一人の少年

それが・・・薄れゆく意識の中、僕が見た【最後】の光景だった。

『カズヤさん!』『カズヤ!』『おい!カズヤ!』
『カズヤ君!』
『カズヤ!』『カズヤさん!』
『カズヤ!!』『カズヤ君!!!』

色んな人が叫んでる・・・誰かの名前を・・・

それは・・・僕の名前?・・・

『緊急医務班!こっちです!』『早く来て下さい!』

あぁ・・・僕・・・撃たれたんだっけ・・・

この子・・・リコを護った・・・僕の・・・好き・・・な・・・人・・・



少年の意識は完全に途絶えた。


それは死を意味するのか、生を意味するのか・・・


それは誰も気付かない。


『・・・いや・・・いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!』





          φ





『一命は取り留めています・・・』

ルーンエンジェル隊、千明やユキ、にゃーが安堵の息をついた。

ある者は互いに抱き締め合い、ある者は少し涙を流した・・・しかし。

『・・・ですが、意識が戻っておりません・・・最悪の場合は、ずっと戻らないかもしれません。』

喜びの中、一瞬耳を疑った言葉。

それは、喜びを・・・一瞬にして葬り去った。

『とにかく様子を見ない事には話にならん、各自休憩をとっておけ。』

いつでも冷静な千明も、いつもより声が低かった。

皆が部屋に戻る中、一人だけ眠っている少年の傍らに座っている少女が居た。

リコだ。

彼女だけは、自室に帰らず・・・自分が振った少年の傍に居た。

(どうしてこんな事になったの?なんで庇ったの?)

彼女の思考は疑問と不安、絶望が入り交じっていた。





なぜ狙われたの?




なぜ私じゃなくてカズヤさんなの?




なんで目を覚ましてくれないの?






なんで私は泣いてるの?







何も分らなくなっていた。

大嫌いと言ったのに・・・それなのに何で涙が溢れるのだろうか・・・

唯一分る事・・・それはリコの・・・一番大切な人が・・・目覚めない事。

目覚めてくれない・・・

『カズヤさん?もう朝ですよ?早く起きて下さいよ。』

自然と考えていない言葉が出る・・・溢れ出す・・・

『今日はナノちゃんやアニスさんリリィさんやカルーアさんと展望公園にピクニックしに行くんですよね?』

溢れ出す言葉と・・・大粒の涙。

『カズヤさん・・・フルーツケーキ作ってくれるんでしたよね?・・・そう言う約束でしたよね?』

ポタポタと・・・更に溢れ出してくる。

『なら・・・こんな所で寝てないで、早く起きて下さいよ!!!!・・・起きて・・・下さいよ・・・』

泣叫びながら、カズヤが寝ている布団をきつく握りしめる。

彼女は気付いていない、彼女が・・・リコが一番言わなくてはならない言葉を言い忘れている。

部屋にはただ・・・心電図の音だけが木霊している。





          φ





事件のあった広間では事故処理が始まっていた。

リコは、ちょっとカズヤの傍を離れ・・・広間に来ていた。

すると、リリィが見なれない人とある建物に入っていくのが見えた。

      【聖刀武踏会館】

『せい・・・とう?』

見なれない文字に戸惑う、だが中からは声と何かがぶつかりあう音が聞こえる。


カン・・・キン・・・


剣のぶつかりあう音だ。

中に入ってみるとさっきの知らない人とリリィが戦っていた。

『はぁぁぁぁあ!!!!』

キン・・・

『まだ太刀筋に迷いがあるよ、もっと打ち込んできな。』

聖刀武踏会館師範・カナリアさんだった。

この惑星の皇女・ユキさんの近衛隊隊長らしい。

皆気を紛らわすのに必死のようだ。

その必死が少しでもこの悲しみを和らげてくれるのなら・・・

『私には・・・何が出来るの?・・・』





          φ





カルーアもアニスもナノナノも皆自分の趣味や発散方法をしているらしい。

そんな時、リコだけは何も思い付かなかった。

(私に趣味って・・・あったっけ?)

そう考えている時、後ろから方を叩かれた。

振り返ってみると、視界一杯にユキの顔が映し出された。

『わっ!』

『元気ないじゃない、自分の発散方法がないんじゃないの?』

図星だったことは言う間でもない。

『は、はい・・・そうですけど・・・って、ユキさん、その格好・・・』

私服にエプロン、バンダナ・・・

『あなたのお姉さんと一緒に御菓子作るの、千明もいるけど・・・くる?』

そこで思い付いた、唯一の方法・・・

自分がされたことは自分で必ず返す。

『やります、やらせてください!』

大声で言った・・・

『元気が出たのは良いけど・・・まわりの視線・・・気にならない?』

そこで漸く自分が何をしていたかに気付く・・・が、時既に遅し。

首から赤く染まり始め、頭の天辺に到達した瞬間、ボンッと言う音がなった。

リコの頭から・・・





          φ





『ほぉ〜、リコが大声をねぇ〜・・・』

『嫌みたらしいね、あんたも一度氷漬にされたいのかい?』

『えぇっと・・・とりあえず何作ります?』

と、色々な話がごちゃ混ぜになっている状態だが、漸く本題に入った。

『種類?』

『そ、種類。ケーキにクッキー、パンにアイス、色々あるでしょ?』

ようは何を作るかなのだ、それによってレシピも違う。

相談をして、各々別々の物を作る事になった。

ミルフィーユはケーキ、ユキはクッキー。

リコはパン、千明はアイス。

それぞれのレシピ、EDEN、NEUE、そしてNECE(ネイス)、つまりこっちの世界のレシピを合成して作るのだ。

難易度が滅茶苦茶高い物からとてつもなく簡単な物まで揃い、それぞれ製作に入った。

ケーキ、クッキー、パンはほぼ作る過程が同じ故に、女子女性三人は集まって作業をしていた。

一方千明は気づかい、少し距離をおいたところで製作をしていた。

時々ユキやリコ、ミルフィーユが笑う声が厨房一杯に響く事もあった。

リコも大分元気が戻ってきたらしく、いつもの笑顔に戻った。

そこへ千明が来て一言。

『笑って会話をしているのは良いが・・・さっきから全然手が動いてないぞ?』

『あ・・・』『あ・・・』『あ・・・』

全員硬直。

『んでもってリコ、お前さんさっきカズヤのところで泣いてたよな?どうしてだ?』

確かにそうだった。

一度大嫌いと言っておきながら、何故カズヤの為に涙を流したのか。

『本当はまだ、カズヤのこと好きなんだろ?』

図星だった、図星だったから何も言えなかった。

そして段々と顔が赤くなっていった。

『ならさ、カズヤ君に言う事・・・まだ言ってないんじゃないの?』

『言う・・・事?』

『謝罪と、私想だよ。』

謝罪、謝らなきゃいけない事・・・私想・・・自分の想いを伝えなきゃいけない事・・・

リコは知らない言葉に焦った。

『とにかく、今は口より手を動かせ。そんな事じゃいつまで経っても作れんぞ。』

そう言うと千明は自分の持ち場に戻った。

リコはパン生地を作りながら考えた。

謝罪・・・謝らなきゃいけないこと・・・は分るけど、私想って?

う〜んと唸りながらもパン生地を作る。

『じゃ、リコ、一時醗酵させるよ〜』

『う〜ん・・・』

呼ばれた事にも気付かない程悩んだ。

『リコ?おーい、リーコー?リコー?』

と、ミルフィーユが呼んでも気付かない。

そこへ物凄い勢いで飛んでくる物体があった。



ヒュン・・・



リコのおでこ目掛けて一直線に。



スッコーン!・・・



と、おたまがクリティカルヒット。

『い・・・ったーーーーーーーーーい!』

と、叫んで。

『あ、れ?お姉ちゃん呼んだ?』

漸く我に戻る。

『(おでこ大丈夫なのかな?)と、とりあえず、一時醗酵しよ?』

はーいと元気な声を出したものの、すぐに先の事を思い出してしまい、また痛みが走った。





          φ





厨房から少し離れた所では・・・・

『さすがだな。一発命中とは。』

千明と

『毎日色々と鍛えてるからな。』

ある人物が話していた。

アビス・アルヴォニス・クロイス、一応千明の隊の所属。

履歴上、的当の凄腕。となっている。

『てかよ、厨房から離れていいのかよ?』

『それもそうか・・・また後でな。』

あぁ、と言ってこの二人は別々の目的で別れた。





          φ





『赤くなってる・・・』

鏡を覗き込んだリコは、少し潤んだ瞳になっていた。

『とりあえず冷やさないと、痛いでしょ?』

冷蔵庫から氷をだし、水の入った袋に入れてきつく袋を縛り、それをおでこに当てた。

御菓子作りは一時中断され、リコの今の気持ちや、どうしてこうなったのかを考えた。

そのために、食堂に・・・一名を除き、エンジェル隊が集められた。

『えぇっと、まず最初にあったのは食中毒だよね?』

『あぁ、カズヤが持ってたペンダント・・・ドグラナイト鉱石が原因のな。』

話はスムーズに進み、この問題のもう一つの方に辿り着いた。

『リコちゃんは〜、カズヤさんにどうしてもらいたいのですか〜?』

『え?』

(おい!単刀直入過ぎだろ!)

(黙っていろアジート少尉!)

そう、単刀直入に聞いたカルーアはいつも通りにぽや〜っとしていた。

『私は・・・』




運命の歯車はこのまま残酷な運命に導くのか。

それとも、幸福へと導くのか・・・それは誰も知らない。



『私は・・・カズヤさんに・・・』

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