第四話 静かに動く影

 

「ん・・・ん〜、はぁ・・・良い朝〜・・・」

ベッドから伸びをしながら、リコが起きた。

あれ以来、リコはあまりぐっすりは寝ていなかった為・・・

「え!もうお昼!!?」

・・・と、正午を過ぎた時間に起きてしまった。

その時、部屋のドアが開いた。

「あら、おはよう。ぐっすり寝てたわよ〜♪」

やけにニッコリしながらユキが入ってきた。

「お、おはよう・・・ございます。」

普段寝巻きを見られない為、恥ずかしさのあまり少し顔が赤く染まっているリコ。

対して、眩し過ぎるくらい爽やか(少し怖い)な笑顔のユキ。

その理由は・・・

「んふふふふふふ♪」

「あ、あの・・・なんでそんなに御機嫌なんですか?」

少し押され気味のリコ、ユキはそのまま部屋のカーテンの傍まで来ると一気に開けた。

「ん?あなた、夢の中でカズヤ君と会ってたでしょ?」

ボンっとリコの顔が更に赤くなる。

「最初起こしに来た時も、その次の時にも、寝言でカズヤさんカズヤさんって♪
もー、羨ましくて起こしちゃおうかなって思ったくらいよ。」


相当、重症だなと自分の心の中で思った。

クスクスと笑うユキ、少し顔を赤らめているリコ、窓から差し込む陽射し。

いつも以上に、リコは普通の生活のような気がした。

カズヤが寝ている事を除いて・・・





          φ





「・・・と言う訳だ、ヴァニラからこういう報告が来てた。」

レスターが、ミルフィーユの部屋で開かれていたお茶会に参加するついでに、ヴァニラからの報告書をタクトへ渡した。

タクトは、それに目を通すと深く溜め息をついた。

「驚いたね、あの樹と同じ成分か・・・」




病名:リミル・ド・ラスク症(亜科学毒素症)

主成分:亜科学毒素・通称「リミル・ド・ラスク」

症状:食中毒を起こし、量が多い場合には死に至る。
   傷口についた場合、血流に乗り、細胞、または内臓を隅々まで破壊する。
   進行は遅いものの、早期発見が難しく、食中毒でない限り症状が出難い。

発生場所:不明、特別な鉱石にのみ付着している。


追伸:ルクシオール内にある月下母樹の樹皮に同じ成分が含まれている事が判明
   樹皮が異常なまでに硬く、傷をつける事は不可能、斬る事も不可。




ヴァニラとフォルテ、蘭花、ちとせで調べあげた調査結果である。

ルクシオール内で・・・しかも展望公園で銃を撃ったり剣を振り回したのかと突っ込みたくはなるが・・・

今は突っ込む気はしない。

「けどよ、これがもし本当なら・・・」

「あぁ・・・あの樹は誰があそこまで運び・・・誰が植えたか・・・」

誰もが考えただけでゾッとする・・・なぜなら








誰も知らないのだから




植えた人物も




いつ植えられたのかも





誰も知らないのだから・・・





          φ





ピッピッピッピッピ・・・・

今日も一定のリズムを鳴らし続ける心電図、風に靡くカーテン。

オレンジ色の髪・・・少女の寝息。

今日もリコはカズヤの病室に来て、寝てしまっている。

手を握り、ぐっすりと・・・寝入ってしまっている。

「あらあら、また寝ちゃったの?よく寝る子ね。」

ドア付近にユキが、手にはあの報告書が・・・

ふぅっと溜め息をつくと、リコに毛布をかけた。

いつまでこの時が続くのだろう・・・ユキはそう考えていた。

この星の技術でも、未だに目覚めていない。

今までにそんな人は居なかった、なのに何故カズヤは数週間経っても目覚めないのだ?

ユキの中に不安が過る、カズヤに打ち込まれた弾・・・アレがなんなのか。

スッと・・・ユキは病室から消えた。

「う・・・うぅん・・・」

ゆっくりと、リコが起きた・・・寝癖が少し酷い状態なのに気付き手櫛で直す。

ぷるぷると首を振り、リボンを結び直す。

もう一回首を振る。





チャラ・・・・





何かが首に引っ掛かっている。

それを引っ張ってみると、あの日・・・そう、花見をした時にカズヤから貰った首飾り、ネックレスだった。

その時、リコも気付いた。

「あの樹って、いつからあそこに?前は・・・何もなかった。」

背筋が一気に冷え、寒気が全身を包んだ。

怖い・・・違う、もっと確かな言葉がある。

不気味

その言葉が頭の中で木霊し、リコは震えた。

「桜葉?いるかしら・・・桜葉!?」

テキーラがカズヤの病室に来た、偶然とは言え、話せる相手が来たのだ。

「テキーラさん!!」

リコはテキーラに飛びつくように近付いた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

泣叫ぶリコ、テキーラはただリコを抱き締めた。

リコの声を聞き付け、タクトとミルフィーユが来た。

後から他のメンバーも来た。

全員が集まる前に、リコは気を失っていた。





          φ





「もう一刻の猶予もないわ、私と千明が考える最終手段にでます。」

バンッと、会議室のテーブルを叩いたユキ。

その横で千明はにゃーと何か相談をしていた。

全員が、真剣な眼差しでユキの方を向いている。

「問題となる、あの樹が何なのかは不明だけど・・・
これ以上野放しにしておくと、カズヤ君みたいな子や人が増える可能性があるわ。
もっと良い手段があるかも知れないけど・・・やむを得ないわ。」


「で?その方法とやらはどんなのだい?」

タクトが、腕組をしユキにその方法を問いかける。

ユキは立ったまま、握りこぶしを強くし、数秒黙った後口を開いた。

「ルクシオールの一郭を・・・破壊します。」

「なんですって!?」「なんだと!?」「えぇ!!?」「そんな!」

顔を伏せていたリコまでもが、いや・・・リコでなくても、絶対驚かない訳がない。

自分の耳を疑っても仕方がない事だが・・・ユキと千明の考えに賛同するものは居なかった。

そんな中、タクトは驚きもせず・・・ただ座っていた。

「おいタクト!お前も何か言えよ!」

しかし、アニスが近くで怒鳴っても無反応・・・只管何かを考えているようにも見える。

そして・・・ゆっくりと口を開いた。

「・・・許可しかねるが、他に方法は?
ヴァニラの調査票を見る限りでは、傷1つつかないと書いてあるよ?」


そう、剣で斬っても銃で撃っても・・・傷も痕も何も残らなかった。

爆発1つで吹っ飛ぶくらいなら、傷も痕も残るはずだ。

ギャアギャアと誰もが叫ぶ中、千明もにゃーも、そしてユキも・・・

眼を瞑っていた。

その時、ミルフィーユが勢いよく立った。

「ねぇユキさん!他に方法はないんですか!?
あの艦を壊さずにあの樹だけ消す事は出来ないんですか?」


ミルフィーユのその一言で、その場は急に静まり返った。

「あの樹は・・・こっちの世界の樹じゃないんだよ。
あの樹は・・・私の世界【ウェイム】の樹よ。
そしてあれは・・樹じゃなくて、生物よ・・・相当たちの悪いね。」

「そして、カズヤに打ち込まれて貫通した弾は・・・蟲だ。
貫通時に寄生した訳じゃないが、毒を流し込まれたんだろうな。」


「そして・・・あの樹は人に催眠術をかけ、操る事さえ可能。
形は弾となり、動くものともなる・・・けど、唯一違うのが・・・リコちゃんが今かけている
そのペンダントよ、そしてこれがそれの詳細書類。」





【ドグラナイト鉱石】
寄生樹【アドレビア】から排出される中和クリスタル。
人体が直接触れれば毒となるが、打ち込まれた毒の解毒剤となる。
しかし、その効果が発揮出来るのは数日だけである。
数日後には只のクリスタルとなる、今の所別の方法で毒を中和する方法はない。
しかし研究員の一人が、・・・・が・・・・・の・・・・を持って・・・と思われる。
と言う証言を残して消えた。

我ココニ記ス・・・・年・・月2日、アドリビドム・イクシフォスラー・ウェーセル



「我ココニ記ス・・・・年・・月2日、アドリビドム・イクシフォスラー・ウェーセル・・・
肝心な所が擦れているな・・・」


「それは、私の父が残したものです・・・この世界の、病気・・・
リミル・ド・ラスク症があるけど、ドグラナイトのは最初のが酷いだけで絶対死にはしないの。」

変でしょ?という感じの顔でユキとにゃーは少し笑った。

その時・・・スッと、千明もある書類をテーブルの上に出した。




【寄生樹・アドレビア】
種子は0.000000000000001 1フェムト)の大きさで、ウェイムの世界に数少なく存在している。
だが適応能力が高く、人が住めない大地でも、鉄の上でも育ってしまう。
種子が芽吹いたが最後、数秒で一気に成長し普通の樹と何の変わりもない見た目に育つ。
だがその樹から蟲が多数出てくる所を見たと言う目撃情報が多く、ウェイムの言葉で
密かなる者と名付けた。
蟲は一時的に人に寄生し、操り、人を殺めようとする。
その時に、武器として使う物にも寄生し毒を付着させる。
毒は一生目覚めない毒で、解毒薬は作られていない。

しかし唯一解毒出来る物が、アドレビアが排出するクリスタルに存在する。
このクリスタルにはある特有の成分が付着しているが数日で消滅してしまう。
しかし、それに一番最初に触れた者の・・・・が1年間変質し、解毒薬となる。
少量で多くの者が救える・・・が、クリスタルは年に一度あるかないかなのだ。
期待はしない方が良いだろう。
かと言って希望を捨てればそこで終わってしまう。<中略>
現在の問題は解毒にではなく、寄生樹の方だ。
どうするかは彼等の研究に任せよう・・・以上だ。

ココに記す 【シオン・エミリア】



「これが俺の情報網で掻き集めた情報だ。
解毒方法は書いてあるが、寄生樹事態を抹消する記述がない。」


ふぅと溜め息をつく全員・・・特に辛いのはリコやタクトなのかも知れない。

ちょっと待ってと言う言葉が聞こえた。

「一番最初にって、一番最初に触れたのはカズヤ君なんじゃないの?」

確かにと全員思う、しかし症状が出たのは後に触れたリコの方だ。

また1つ疑問点が増えた。

何故最初に触れたカズヤではなく、二番目に触れたリコの方に症状が出たのか。

そして、その症状が何故すぐに治まったのか。

導き出される答えは1つ・・・

リコの何かに、カズヤを目覚めさせる力がある。

リコの中にはカズヤを目覚めさせたいと言う言葉があった。

「目覚めさせる方法・・・症状・・・病気・・・
もしかして・・・血?」


「私の父もそう言っていました、けどその症状の出た人の血はいなくて・・・
結局、分らないままです・・・」

「では、傷口に桜葉さんの血を付けてみては如何でしょうか?
元来、解毒薬は飲むか塗るかに別れます・・・」


「そうね・・・よし・・・」





           φ





ピッピッピッピッピッピッ・・・・・・

今も一定のリズムを刻みながら音を出している心電図。

眠り続けている・・・カズヤ。

カズヤのベッドの横にいる、ユキ、ミルフィーユ、モルデン、ナノナノ、タクト、そしてリコ。

リコの腕から、極微量の血が注射器に取られ、そして・・・

「では・・・参ります。」

そう言うと、ユキは、タクトは、頷いた。

リコは腕をおさえながら、それを見ていた。











僕を目覚めさせちゃ駄目だ!!











リコの頭の中に突然、聞き覚えのある声が聞こえた。

カズヤの、叫びだ。

「僕を目覚めさせたらあの艦が壊れる!」「僕を目覚めさせたらあの艦が壊れる!」

「え?」






この事件の


最後の


幕が今・・・


開かれた







ピピッピピピピピピピ

突然タクトのクロノクリスタルが鳴った。

「マイヤーズ司令、大変です!展望公園からこうエネルギー反応が!
あの樹が動き・・・・・・・・・・・」

ココからの通信が切れた・・・





もう止められないよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

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