〜Abschied〜別れ
「遂に目覚めちゃったかー・・・」
ピロティのブリーフィングルームに集まるタクトとルーンエンジェル隊とルーンヴァイス隊。
モニターに大きく映し出されているのは一部が崩壊したEDEN最新鋭艦ルクシオール。
その崩壊した部分から蠢く無数の樹の根。
「おいおい、あんなのどうやって倒すんだよ!?」
「ルクシオールには…コロネさんやステリーネさん…」
「ナッツミルク中尉やメルバ少尉も乗ったままだ。」
展望公園とブリッジは幸い離れているが、機関部はどうだろう・・・
あの蠢く樹のみを攻撃するのはまず不可能。
そしてあの蠢く根こそ、月下母樹本来の姿。
「本当なら、全紋章機出撃させて…撃墜したいところなんだけど。」
「人が…乗ったままです。」
無傷では月下母樹の破壊は不可能、無論引きずり出す事も。
月下母樹の所為か、電波障害も発生している為ルクシオールとの通信も不可能。
「よし、ブリーフィングを始める・・・が、今回は超がつく程に困難な任務だ。
解決策が見つかってない以上、専門科に頼むしかないからね。」
「専門科?」
「一応、この中では月下母樹に対しての知識は私が一番あるしね。
とりあえず出来る限りの知識をここに表示するわ。」
中央のモニターが映り変わり、崩壊部が拡大された。
「こうなった月下母樹は、まずは自型形成…つまり、自分の姿を保つ為にある物を
体内に取り込もうとするわ、それは多分…リコちゃん、あなたよ。」
「えぇ!?」
驚いたのは誰もが同じ、RV隊は平静を保ってはいるが、驚かない訳がない。
リコが狙われる唯一の理由、ドグラナイト鉱石である。
「で、でもリコの血は逆に治しちゃうんじゃ・・・」
ミルフィーユの言った事は確かだ。
カズヤの意識不明の病気を治し、その成分が邪魔だから母樹は排出した。
それが今になって何故母樹はそれを欲するのか。
「確かに、母樹はその成分は必要無いから排出するわ。
その時だけはね…でもそれはその時だけ必要の無いもの、今となっては必要不可欠な物なのよ。」
説明する間に作戦は立てられた。
全紋章機は、エクスレイシアにて待機、港から宇宙空間へ。
そして、合体状態のクロスキャリバーがルクシオールに単体で接近。
母樹がそれを感知し、ルクシオールから出てきたら第一作戦終了。
エルシオールはルクシオールの修理を優先し、ムーンエンジェル隊はそれの護衛。
そこから作戦第二段階へ。
クロスキャリバーは全力で母樹から離れ、RA隊とRV隊は全火力を持って母樹へ総攻撃。
鍵はクロスキャリバーのスピード。
逃げ切れなければアウト、逃げ切っても味方の攻撃を喰らってもアウト。
その上、味方の紋章機に母樹が攻撃しないとも限らない。
着かず離れずの距離が重要なのだ、しかし母樹の攻撃範囲がどのくらいかが不明。
これに関しては、ニャーも知らないようだ。
そうこう言ってる間に、全員エクスレイシアとエルシオールに移動。
港を出港し、宇宙空間へ。
φ
「目標、距離30000に接近。」
ちとせがシャープシューターで母樹までの距離を通信で伝える。
エルシオールは迂回し、崩壊とは反対側からルクシオ−ルに近付く。
エクスレイシアは正面から微速前進、全紋章機配置につく。
「これより作戦を開始する、リコ、カズヤ…頼んだぞ。」
「はい、行ってきます。」
「リコ、大丈夫?」
「カズヤさんが一緒ですから、大丈夫です!」
ロックが外れ、クロスキャリバーとブレイブハートが出撃した。
合体し、ルクシオールに接近して行く。
「こちらタクト…千明、言われた座標で待機中だ、指事頼む。」
通信しているタクトの後ろでレスターが不安そうな顔をしている。
「了解、しばらくはその場で待機していて下さい。」
通信を切って、ふぅっと溜め息をつく。
「ねぇ、さっきから気になってるけど…ニャーの姿が見えないのは気のせい?」
「そういやぁ、さっきから見ねぇな。」
「ニャー殿なら、さっき忘れ物があるから先に行っててと言っていたぞ?」
この作戦や、座標位置まで細かく指定したニャ−が忘れ物?と全員が疑問に思っている中…
「目標座標に到達。」
「母樹に反応有りです…来ます!」
そうこう言っている間にクロスキャリバーはルクシオールに接近していた。
母樹もそれを感知したらしく、少しずつルクシオールから抜け出してきた。
それと同時にクロスキャリバーは反転、全速力でエクスレイシアに戻り始めた。
「タクトさん、そっちは任せた。
ルーンエンジェル隊、ルーンヴァイス隊…灼熱の業火で忌わしき樹を焼き払え!」
命令と同時に、エルシオールはルクシオールに接近し、応急修理を開始。
艦が動かせるまで修復。
一方、RA隊RV隊の合同チームは己の全力の火力をたった1つの標的に集中砲火。
クロスキャリバーはそれを全て回避している、しかも紙一重で。
「そろそろだな…エクスレイシア、主砲で母樹を打ち抜け!味方に当てるなよ。」
エクスレイシアも参戦、攻撃は一層激しさを増した。
クロスキャリバーは猛攻域を抜けエクスレイシアの後方に抜ける。
「全機攻撃中止だ、さすがに燃え尽きただろ…」
煙が母樹のあった周囲を覆い、見えない状態にあった。
母樹には金属反応なのはない上に妨害電波によりレーダーには映らない。
光化学機器で捉えるしかないのだ。
作戦上紋章機もエネルギー消費量が多い故に、エクスレイシアの近くでしか移動出来ない。
全機が補給を受けようとした、まさにその時だった。
「一点貫通!フェイタルアロー!」
ちとせが何故か煙の中へフェイタルアローを撃ち放った。
が…
バシンッ!
強い光とともに煙が晴れ、無傷の月下母樹の姿がそこにあった。
「マジかよ!あんだけの攻撃で無傷だと!?」
「くっ…エクストリームランサー!」
「ヘキサクロスブレイク!」
「ハイパー…キャノン!」
攻撃にMA隊も加わり、再び猛攻が始まった。
だが結果は同じ…無傷の状態で母樹はクロスキャリバーを追い始めた。
「千明、ルクシオールは修理完了だ…けどそっちはそうでもないらしいな。」
ルクシオールが再起動しシールドが回復したため、港までは移動可能となった。
「くそ…何なんだあの樹は!」
「エネルギー限界値まで残り少しです!もうスピードが出ません!」
母艦三隻と離れている為に補給が出来ず、尚且つ追われ続けている。
「ちくしょう…止りやがれぇ!」
「スピードならこっちの方が上よ!アンカークロー!」
蘭花とアニスが母樹に急速接近、とにかく動きを止めないとリコとカズヤが危ない。
だが母樹は止まらない、尚も真直ぐとクロスキャリバーとブレイブハートに接近する。
「ちくしょおぉぉ!!」「止まってぇ!」
もう間に合わない、激突する。
誰もが無理だと思った……………
その時
「グングニル・フェンサー」
一筋の大きい光の鑓が、母樹に直撃…軌道から大きく離れた。
後少し、この攻撃が遅れていたら…クロスキャリバーは…リコやカズヤはどうなっていただろう…
それを撃ち放った全体の黒い塗装、長く靡く漆黒尖鋭の尾…
「ごめーん、これ取りに行ってたら遅くなっちゃった。」
とても気楽な声が聞こえてきた。
「ニャ−…さん?」
「それって…紋章機?」
「そうよ、黒龍の紋章機・シティア−よ。」
光に照らされて、やっとその姿が見える漆黒の装甲。
EDEN、NEUEの紋章機とは明らかに作り、つまり構造が違う。
「シティア−、モード変更・・・バトルエンジェルモード。」
音声入力なのかニャーの独り言なのか分からないが、それに紋章機は反応し、漆黒の装甲に色が付き始めた。
ホワイトをベースにシュガーブラウンの線が幾重にも交わり合う。
双対の砲門と翼のような物・・・全体的にクロスキャリバーに似ている気もする。
「イクシフォスラー・ニャーセル、黒龍紋章機・シティア−・・・
これよりクロスキャリバーの援護を行う、その間に補給を。」
そう言うとシティアーは目にも止まらぬ速さで母樹へと突っ込んで行った。
母樹は、一時的にその機能を停止していたがすぐに復活し、またクロスキャリバーへと接近。
その軌道に回り込むようにシティアーは進行、またあの光の鑓を撃ち放った。
クロスキャリバーは燃料が少ない為ある程度のスピードしか出ない。
シティアーは出来る限りクロスキャリバーから引き離すつもりだ、だが…
母樹もそれを察知するようになったのか、微妙に軌道からずれ急所から外れた所に当たるようになった。
そのせいで、少しずつ・・・飛距離が短くなってきた。
しかし、リコ達はもう相当の距離があった。
「クロスキャリバー、エクスレイシアにて補給完了です。
ニャーさん、私はどうすれば良いですか?」
エクスレイシアもクロスキャリバーに近付いていた為に、飛行距離も縮まった。
その分時間も短縮された、無論他の紋章機も補給済みである。
「ねぇリコちゃん、私の父が何故鉱石に触れた者を見つけられなかったと思う?」
唐突な質問である、無論リコは困惑し、カズヤはその意味を理解するのに時間がかかった。
φ
僕は生と死の挟間でとある所に辿り着いた。
まるで街1つはあるかもしれない図書館のようなところ。
僕は何かに呼ばれるようにしてある本棚の前まで歩いて行った。
その本棚には、勉強をあまりしていない僕には読めない文字が書かれていた。
Icciyfossre・nyiarsel・・・
(い・・・いくしぃ?)
まだ意識不明の時に見たあの夢、僕は逃げ続けている間も考えていた。
リコに指事を出しながら、フと手に取ったあの本の内容・・・
時空をかける樹の種。
幾重にも存在する宇宙(そら)に生きし、芽吹き、散る華の如し。
かの樹、摩訶不思議たる石落とせし時。
無限の彼方より使者来たり。
親子にして哀れなる運命(さだめ)にて裂かれし時。
漆黒の龍、子に宿りし力解放せん。
対となりし樹と石。
樹、災いを齎し混沌を呼ぶ者なり。
対となりし樹と石。
石、これらの災いを退き平穏を呼ぶ者なり。
二つはあって一つはなし。
火の上騒がし、水面の上静かし、森の中清々し、空の上遠き懐かし。
黒き龍、この者に付き従う者。
混沌と静寂の挟間に生きし者、この龍をひれ伏せし扱う者。
少女、この龍を繰る者。
その石に触れし時、永久(とわ)の運命(さだめ)を背負うであろう
そこでページは途切れ、白紙になっていた・・・最後までずっと。
(対となる・・・樹と石?)
最後まで何も書かれていない事を確認し、本棚へ戻す。
するとその本は吸い込まれるように元の場所に戻った。
僕は別の本も手に取ろうとした、けど取れなかった。
まるで接着剤か何かでとめられているようだった。
そして僕はその果てしない図書館の出口へと吸い込まれていった・・・
そして目が覚めて・・・リコが居た、皆が居た。
そして・・・樹も目覚めた、いや・・・目覚めさせてしまった。
φ
「あの・・・質問の意味が良く分からないのですが・・・」
「つまり、リコみたいに鉱石に触れた人を何故ニャーさんのお父さんは
見つけられなかったかってことだよ。」
停止しながら、シティアーと母樹の戦闘を見ながらカズヤは分かりやすいように説明した。
ルクシオール、エルシオール、エクスレイシアの補給を受ける事無く、十分は動き続けている。
いくら紋章機と言えども、そろそろエネルギーが尽きていておかしくない。
だがシティアーはずっと同じスピード、同じ質量の攻撃、多大なエネルギーを消費するグングニルフェンサー・・・
適格に急所を狙いながら母樹の触手を回避しながらのこの戦闘、ニャ−の精神も限界のはず。
なのに・・・
「私の父は本当に真面目だった、母に対しても、私に対しても優しかった。」
などと話しながら戦闘していた。
この闘いのどこにどんな余裕があるのだろうか。
「その優しい父は・・・理由も告げずに私達を手放した。
私はそんなことするはずがないと信じていた・・・私の父はそんな人じゃないって・・・
そして私は見つけた、父を苦しめ、私達家族を手放した根源を。」
最後ら辺で口調が強くなったかと思うと、シティアーの動きは更に速くなった。
もう母樹も追えないスピードに達している、人の目でも追えない速さだ。
「父が私達を手放した理由・・・手紙でさようならって書く訳がない。
私は調べ、そして分かった・・・父は同じ母樹の研究をしている研究員達に殺されたのよ。
そして研究員達は父の死を隠す為に手紙を私達家族の元に送った・・・
その研究員達は、事もあろう事か父の成果も自分達の成果に書き換えた。
そしてその研究員達は・・・母樹の中に父を・・・!」
またグングニルが放たれた、今まで以上に中心部にヒットした。
そして母樹の動きはまた停止した、触手は蠢いたままだが・・・
すると、シティアーも止まった・・・見ると機体は傷だらけであった。
止まると同時に魔法陣が浮かび上がった、そこはシティアーが飛んだ軌道だった。
複雑な物なので、テキーラも打ち消しや理解は出来ないと言った。
そしてシティアーも淡く光り始めた。
「にゃーさん、一体何を!?」
「んー?父を天界へ誘う(いざなう)の。」
それは唐突に突き付けられたものだった。
誘う・・・それは自分自信がそれを持っていく事であった。
少しずつ・・・ゆっくりとシティアーは母樹へと近付いていった。
「行っては駄目!にゃーさん!」
「ニャーさん・・・その母樹がニャーさんのお父さんなんですか?」
「えぇ、そうよ・・・そしてこれが、全世界に存在する最後の母樹。」
母樹との距離が、一万弱になった時・・・シティアーの光はより一層強さを増した。
その時・・・母樹が再活動を開始しようとしていた。
「カズヤ君、一つだけだけど・・・約束してくれない?」
「こんな時に何を・・・」
「もし・・・また会えたら・・・その時は・・・皆で食べる為の美味しい御菓子・・・」
作ってね・・・