第三話「荒ぶる光」
「きゃああぁ!」
リーズの眼前に虫が迫った。
「嫌あぁ!」
リーズが目を閉じ、恐怖の叫び声を上げた。その時・・・虫の体は無数の光と共に吹き
飛んだ。
「え・・・?」
銀色の怪人、リーズの目の前にそれは現れた。両手の指先からビームを放ち、虫を攻撃
したのだ。
「な、何だあ?」
「か・・・怪物ですぅ」
「いや、ロボットか?」
「宇宙人!?」
混乱を深めるチームフェザーを気にもせず、怪人は攻撃を続ける。
ズシャッ!ズシャッ!
その鋭い爪で、次々と虫達は外骨格ごと引き裂かれていく。
「あのミサイルをも受け付けない虫の体を引き裂くとは、なんというパワーだ・・・」
怪人は右手を前に翳す、すると腕から光の粒子のような物が溢れ出て、何かの形になっ
たかと思うと、その光は剣へと変わっていた。
スパァッ!
怪人は今度は剣を振るって虫を斬り伏せていく。チームフェザーのイカルスも、攻撃を
続けている。
「イーグレット、熱源が接近!さっきのビーム砲積んだやつだよ!」
マーティンから通信が入る。ビーム砲を装備した虫の群れがチームフェザー・・・いや
、あの怪人を目指して向かい始めたのだ。
「全機、あのビーム砲を破壊しろ!」
イーグレットの指示を合図に、イカルスのミサイルやビームが放たれる。虫のビーム砲
を幾つか破壊したものの、その攻撃を回避した数匹がイカルスに向かってビームを放っ
た。
「・・・・・・・・・・・」
イカルスには何も起きなかった。チームフェザーが見たのは、イカルスを守るようにし
て前方に立つ怪人。そしてその怪人が両手を前に翳し、それによって出現した巨大な光
の壁がビームを防いでいるところであった。
「・・・・・・・・・・・!!」
怪人はバリアを展開したまま虫の群れへと飛び込む。そのまま逃げようとする虫の群れ
をまとめて、近くにあった大型小惑星に叩き付けた。虫達は跡形もなく潰された。


艦内の混乱も収まってはいなかった。
「司令、残った虫の群れが衛星基地の方角に逃げていきます!」
「急いで基地に知らせるんだ!」
「そ、それが、先程の攻撃の影響で通信装置に異常が・・・チームフェザー以外との通
信が出来ません」
「何だって!?」
「・・・・あ、先程のロボットが、同じ方向に向かって移動を開始しました!」
「どうするつもりだ?とにかく追いかけろ。衛星基地を破壊させてはならない、急ぐん
だ!」
「了解!」
「チームフェザーは被害の大きい物は帰艦、まだ動ける物は虫とロボットを追跡してく
れ」
イーグレットとソーラ、そしてサンディの乗ったイカルスは虫とロボットを追跡した。
ヴァルミネスは残りのイカルスを回収すると、三機の後に続いた。


ピリリッ・・・ピリリッ・・・
医務室に置かれている通信装置が音を立てる。それに気がついたトマス医師は、ふらつ
きながらも通信機能をONにした。
「はい・・・こちら医務室」
「トマス先生、無事でしたか?」
「司令・・・私とチャック君は無事です・・・。しかし、彼の姿が見えません」
「あの青年か、こちらには来ていませんよ」
「司令、私は寝ぼけているわけでも、幻覚を見たわけでもありません。今から言うこと
を聞いてくれますか?」
「どうしたんですか?」
「あの青年は・・・虫が襲撃してきた直後に目を覚ましたんです。ですが、何かを呟い
た後、眩しい光を放って消えてしまったんです」
「消えた・・・ですって?」
「そちらで何か異常は見られませんでしたか?」
「・・・戦闘中に、医務室で謎のエネルギー反応が確認されました。それはすぐに消え
てしまったんですが、直後に艦の前方に謎の怪人が現れたんです。その怪人は虫達と戦
い、逃げた虫を追いかけて衛星基地へと向かいました」
「そんな、それじゃあの青年が・・・もしかして」
「分かりません、艦内を捜索させてみます。それとチームフェザーの数名を先行させま
した。そろそろ何か分かる頃です」
ピリリッ・・・
「司令、聞こえますか?」
イーグレットから通信が入った。
「ああ、聞こえているよ。そちらはどうなってる?」
「先程、衛星基地との連絡が取れました。それが・・・」
「どうしたんだ?まさか!」
「いえ、衛星基地は無事です。虫達はここを襲撃していましたが、あのロボットらしき
物が虫達を追い払ったらしいです」
「そうなのか・・・それで、そのロボットは?」
「逃げた虫を追いかけて再び消えたそうです。我々はもうすぐ基地に辿り着きます」
「分かった、衛星基地に事情を伝えておいてくれ」
「了解」
通信は切れた。
「トマス先生、お聞きになったとおりです」
「分かりました、彼の捜索お願いします。私は怪我人の手当てをする必要がありますね

「ええ、こちらからもお願いします」
医務室との通信も切れた。
「あのロボット・・・何なのかね?」
「分からないさ、ただ、常識の範疇を大きく越えているのは確かだね」
ウィル、ダイアナ、クルー全員の疑問は解決されるどころか、ますます大きな物となっ
ていった。


衛星基地に辿り着いたヴァルミネスは入港後、すぐさま修理と補給が行われた。ウィル
は基地の責任者に話を聞くことにした。
「ウィル大佐、お待ちしていました。よくぞご無事で」
「ええ、そちらも無事で何よりです。それよりも、基地の状況を教えていただけますか

「はい、まずあなた方が来られる10分ほど前です。突然虫のような怪物が襲ってきたの
です」
「すみません、事前に情報をお伝えしておくべきでしたが、通信機に異常が発生してい
た物でして・・・」
「いえいえ、何も気にする事はございません。とにかく、我々は基地に備え付けられた
武装を駆使して応戦していました。その時です、銀色の・・・怪人と言うべきでしょう
か?人間大の何かが現れて虫を攻撃し始めました。虫のほとんどは倒されましたが、何
匹かが逃げ出し、怪人はそれを追いかけて消えたのです」
「なるほど・・・」
「それと、あの怪人は消える直後に、我々に通信を送ってきたのです」
「通信・・・どのような?」
「音声ではなく何故か文章でした。『もうすぐ一隻の船がここにやって来るので、その
船の修理と補給をお願いする』という内容でした。我々も半信半疑でしたが、すぐにチ
ームフェザーの方々がやって来られたので間違いないと思い、すぐに補給と修理の準備
に取り掛かったわけです」
「ううむ、聞けば聞くほど不思議な話ですね。一体あの怪人は何者なのか」
「私的な意見ではありますが、敵ではないと思います」
「そうかもしれませんね・・・」
ピリリッ・・・
通信機が鳴った。
「はい、こちらウィル」
「ウィルかい?あのロボットが戻ってきたよ」
「何だって?それでロボットは何をしている?」
「さっきから通信を送ってきているんだ。『入港を許可されたし』って言ってきてるよ

「・・・どうしましょうか?」
「責任者の私から言わせてもらうと・・・大丈夫だと思います。あの虫を倒すほどの相
手が敵なら、こんな衛星基地なんて中に入らなくとも破壊できそうですからね」
「同意見です。よしダイアナ、ロボットを入港させてやってくれ」
「本気かい?まあ、アンタがそう言うなら信じるけどさ」
「俺もすぐにそっちに向かう」
「了解」
通信が切れると、ウィルは急いで発着所に向かった。


ウィルが発着所に着くのと、怪人が中に入ってくるのとはほぼ同時だった。すでに、大
勢のクルー達が怪人に視線を送っている。怪人は身動き一つせずにその場に立ち尽くし
ている。
「ちょっと通して・・・やあ、俺はヴァルミネスの司令官をやっているウィリアム・ス
トークという者だ。君は・・・我々が救助した男性かな?できれば話をさせてくれない
か?」
クルー達の間を縫って、ウィルが怪人の前に立った。
「・・・・・・・・」
怪人は少し黙っていたが、やがて変化が起こった。銀色の装甲が少しずつ消え始めたの
だ。やがて全ての装甲が消え去り、そこに立っていたのは紛れもなくあの青年であった

「あなたが司令官ですか・・・無事だったんですね」
「ああ、君が虫を追っ払ってくれたおかげさ、この基地の方々にも被害はないそうだ」
「そうですか、良かった」
「それじゃあ突然だけど、君の事を聞かせてもらえないかな?君の名前は?」
「・・・・・・・・・・・・・」
青年は黙ったままだった。
「おいお前!名前ぐらい教えたっていいだろうが!」
「クレーン少尉、黙っていろ」
怒り出すソーラをイーグレットが静めた。青年はようやく口を開いた。
「分かりません」
「え?分からないって・・・」
「思い出せないんです・・・・何も」
「じ、じゃあ、君は何故あの姿になれたかとか、自分が何処からきたのか分からないの
かい?」
「はい・・・そのようです。記憶喪失というやつでしょうか」
「他には何か覚えていないかな?」
「やつら、あの虫達はビルギオンといいます」
「ビルギオン?」
「奴らは間違いなく人間の敵です。放っておけば、確実に人類は滅ぼされます」
彼の表情は真に迫っていた。信じたくはないが、恐らく真実であろう。
「うむむ、じゃあ悪いけど色々と検査をさせてもらえないかな?もしかしたら君につい
て何か分かるかもしれないからさ」
「はい、分かりました」
「じゃあトマス先生、彼の検査を頼みます」
「了解です。では、こちらに来て下さい」
彼はトマス医師に連れられて医務室へと向かった。
「困ったなあ、彼が記憶喪失とは・・・でもやけに落ち着いていたな」
「私もそう思ったよ。でも、嘘を言っているようには感じなかったね」
「ダイアナはそう思うかい?」
「それで、どうする?」
「とにかく彼の正体を知る為にも本星に連絡を取る必要があるね。戸籍のデータか何か
で分かるかも知れないから。この基地の通信機を使わせてもらおう」


医務室では、彼の検査が行われていた。
「先生、どうですか?」
「はい、検査の結果あなたの体は我々と同じ、つまりあなたはごくごく普通の人間とい
う事ですね」
「あの体になれる理由とかは・・・」
「私には分かりません。やはり私の知らない何かがあなたの体に作用しているとしか思
えません」
「そう、ですか・・・」
「あなたは、何か思い出せましたか?」
「いえ、何も・・・頭の中に靄がかかっているみたいで、名前も思い出せません」
「ふむ、名無しでは不便ですからね・・・そうだ、ガルダ・ガレリアントというのはど
うでしょう?」
「ガルダ・ガレリアント?」
「あなたがここに運び込まれたとき、うわ言でそう仰っていたのです。何かあなたに関
わりのある言葉だと思いますが」
「ガルダ・ガレリアント・・・・ガルダか。何か、何か懐かしい感じがします」
「では、その名で呼んでもよろしいですか?」
「はい、ガルダと呼んでかまいません」
「ではガルダさん、次はレントゲン写真を撮ってみましょう。こちらに来て下さい」
「はい」


「なあイーグレット、アイツどう思う?」
ヴァルミネスの食堂、チームフェザーはここに集まり、しばしの休憩をとっていた。
「記憶喪失とか言ってるけど、本当にそうかなって思うぜ」
「私も、彼を完全に信用しているわけではない。しかし、敵ならばすでに我らを襲って
いるはずだ」
「ボクもそう思うね。どちらかというとあの人は正義のヒーローって感じだもの」
「見た目で判断するなよマーティン。そんなんじゃ危なっかし過ぎるぞ」
「でもでも、私はいい人だと思いますです」
「私も・・・悪い人とは思えません」
「何だよ、みんなアイツが敵じゃないって思ってるのかよ。まあ、思うのは勝手だけど
よ。アイツがまた変身して、ここを襲うって可能性もないわけじゃないだろ?」
「それもそうだけどさ、姉ちゃんはあの人が敵だって思ってるの?」
「はっきりとは言えねえけどさ、どうも気にくわないんだよな、アイツ。怪し過ぎるん
だよ」
「何にせよ、注意を怠らぬことだな。いずれ修理と補給が終了する。その後は急いで本
星に向かわなければならんな」
本星である惑星ネスティア、到着まで約三週間・・・。


彼の名はガルダ。
記憶を失い自分自身を知らない。
彼の思い出は何処へと消えたのか。
ヴァルミネスでの旅路の果てに待つ物は。
第四話「見えない思い出」
「変身のポーズとか、掛け声とかある?」
inserted by FC2 system