第四話「見えない思い出」
ピンポーン・・・
インターホンが鳴った。
「失礼します、お食事を持ってきました」
「ああ、分かった。入ってくれ」
スピーカーからガルダの声が聞こえた。リーズは中に入った。ガルダは机に向かって、
何かを紙に書いていた。ヴァルミネスは衛星基地で補給と修理を済ませ、惑星ネスティ
アに向けて旅立った。ウィルはガルダの事をネスティア軍本部に問い合わせてみたが、
彼の正体を知る要素は見つからなかった。しかし、彼をこのまま放っておくわけにもい
かず、彼は昨日から来客用のゲストルームで暮らすこととなった。もっとも、彼は艦内
を歩き回る事を許可されていないので、ずっと部屋に篭りきりではあったが。
「ここに置いておきますね。何を書かれてるんですか?」
「ああ、今朝方ある文章が頭に浮かんだんだ。それを書き写している」
「どんな文章ですか?」
「見てみるか?」
ガルダから紙を手渡されたリーズはそれを読んでみた。
『空間の壁には薄い部分が必ず存在する。その部分を意図的に引き寄せ小さな穴を開け
る。そこから進入する。』
「???・・・これ・・は・・・?」
「何かの理論だったような気がするんだが、思い出せん」
「はあ・・・(全然分からないや)」
「おっと、そういえば食事があったな」
ガルダはそばに置かれていた食事を食べ始めた。パンとスープと野菜サラダ、それにオ
ムレツだ。
「お、このオムレツうまいな」
「ガルダさん・・・でいいですか?何か要望とかがあったら遠慮なく言って下さいね」
「要望か、それじゃあ・・・外で盗み聞きしている犯人を捕まえてくれ」
ぎくっ!
部屋の外で妙な音がした。と、ドアが開いて数人の女性達が入ってきた。それはチーム
フェザーのメンバーだった。
「あらあら、ばれちゃったです〜」
「姉ちゃんがクシャミでもしたんじゃない?」
「してねえよ」
「すまないな、本当はすぐに入ろうとしたのだが・・・」
「まあ、得体の知れない俺に命令でもなけりゃ会いに行くのは気が進まんのは分かるさ
。それで、何か用か?」
「先日は君に世話になったからな、その礼もかねて自己紹介をと思ってな」
まず、サンディが自己紹介した。
「ではまず私からです〜。サンディ・シーガルと言いますです。サンディと読んで下さ
いです」
「よろしく、サンディ」
「質問ですけど、ガルダさんってとっても背が高いと思うんです。何センチなんです?

(なぜ身長?)
その場にいた全員がそう思った。ガルダは落ち着いて返した。
「検査の時に測ったんだが、183センチだったな」
「大きいです〜。じゃあ、お歳はいくつです?」
「19だ」
ソーラが疑問を感じた。
「おいおい、名前は忘れてるのに年齢は覚えてるのかよ」
「覚えている、というよりは思い出したんだ。それに本当に合っているのかは分からん

「そうか、それじゃ今度は俺だな。ソーラ・クレーン、チームフェザーの副隊長やって
んだ」
「・・・・・俺?・・・そうか、オカマなのか」
「ふざけんな!!」
バコーン!
「ふおぐっ!」×2
ソーラは怒りのあまり、そばに立っていたマーティンの両足を掴んでハンマー代わりに
ガルダを思いきり殴った。恐るべき腕力である。
「痛いぞ、ただの冗談だ」
「冗談でも言っていい事と悪い事があるんだよ!覚えとけ!」
「覚えとくよ。それよりも、お前の妹分が床で痙攣起こしてるんだが」
「え?あ、マーティン大丈夫か?」
マーティンはひくひくと痙攣しながらゆっくりと起き上がった。
「姉ちゃんの・・・魔界生物ぅぅぅ・・・ううっ!」
「おい、本当に大丈夫か?」
「なんとかね、でも酷いよいきなり」
「いやぁ、ついつい・・・わりぃな」
気を取り直して。
「じゃあボクも自己紹介するね。ボクはマーティン・レイニー。電子機器の扱いが得意
なんだ」
「私は隊長のイーグレット・クラウドだ。この度は仲間達を救ってもらい、大変感謝し
ている」
「いや、自分もあの時は無我夢中だったから、ちゃんと守れたかどうか不安ではあった
んだ」
「結果的に守ってくれたのだから気にする必要はない。ありがとう」
イーグレットが手を差し出した。ガルダは黙ってイーグレットと握手を交わした。
(この感じ・・・兄と似ている気がする)
イーグレットはガルダの手の感触に不思議な懐かしさを感じていた。
「申し遅れましたけど、私もチームフェザーのメンバーで、リーズ・ピジョンといいま
す。しばらくの間、ガルダさんの身の回りのお世話をさせていただく事になりました。
よろしくお願いします」
「こちらもよろしくお願いするよ、リーズ」
「それで・・・ちょっと聞きたい事があるんだけど、聞いてもいい?」
マーティンが話を切り出した。
「何だ?答えられる範囲であれば答えるぞ」
「それじゃあ」
マーティンのめが輝く。
「変身のポーズとか、掛け声とかある?」
反対にガルダは不思議そうに首を捻った。
「へ?」
「ほら、こうやってポーズをとって『へーんしん』とかさ!それとも蒸着・赤射・焼結
とか、スタートアップとか?」
「いや、そんなのはない」
「そうなの?じゃあ、必殺技は?ナントカダイナミックとか、ナントカクラッシュとか
ナントカブルーフラッシュとか、ナントカカンゲンウォーターとか?」
「最後のは違うくね!?」
ソーラがすかさずツッコミを入れる。
「い、いや・・・そんなのは今のところないんだ」
「そーなんだ、ちょっと残念」
「いい加減にしろレイニー少尉、彼が困っているだろう」
「は~い」
マーティンは後ろに下がった。
「では君が変身する際には、何かしら必要な行動があるわけではないのだな」
「そうだ、変身と言っても感覚的には普段行っている動きとそう変わりはない。呼吸や
歩行をするのとほぼ同じ感覚で行えるんだ」
「ふむ、ではそれはもともと君の体に備わっている機能と考えていいのだな」
「おそらくはな。もしかしたら・・・自分は本当に宇宙人なのかも知れないな」
「でもそうだったら、私たちと同じ言葉を使えるのはおかしいですよ?」
リーズが言った。確かにその通りである。
「う~ん、分かんねぇなあ。お前一体全体何なんだ?」
「俺が聞きたいよ」
ブーブーブーブーブーブー!
『チームフェザー、直ちにブリーフィングルームへ。チームフェザー、直ちに・・・』
艦内放送が入った。
「敵襲か?行くぞ」
「了解」
チームフェザーは部屋を出ていった。
「また奴らが来たのか、5人だけで戦えるのか?確かこのモニターに外の様子が映ると
か聞いたが・・・こうかな?」
ガルダがモニターを操作すると、艦の外の様子が映し出された。予想通り、数体のビル
ギオンがこちらに向かってきている。
「数体だけか、偵察部隊と考えていいかな」


ブリーフィングルームではウィルが5人にミッションの説明していた。
「現在、こちらに向かってきているビルギオンは6体。おそらく偵察部隊だろう。しか
し、このまま着いてこさせるわけにはいかない。チームフェザーにはこの6体の迎撃を
してもらいたい。すでにイカルスの修理は完了している」
「了解しました」
イーグレットが答えた。
「よし、出撃するぞ!」
「了解」
5人は一斉に格納庫へと向かった。全員がイカルスへと乗り込んだのを確認し、イーグ
レットが叫ぶ。
「チームフェザー出撃!」


十数秒もすると、イカルスの前にビルギオンが現れた。奴らは慌てる事なく、少しずつ
ではあるがヴァルミネスに近づきつつある。
「全機、敵を迎撃せよ。攻撃開始!」
ビーム砲が光を放ち、ミサイルが闇を舞った。全ての攻撃がビルギオンに命中し、6体
のビルギオンは息絶えた。
「楽勝だな、もう少し骨のある奴連れてこいってんだ!」
「ソーラさん、虫に骨はないです~」
「真面目に答えるなよ」
『みんなご苦労』
ウィルから通信が入った。
「司令、虫は全て撃墜しました」
『ああ、こちらでも確認できた。念のためその付近を調べてくれないか?もしかしたら
伏兵がいるかも知れない』
「了解しました。レイニー少尉」
「はーい、レドーム起動っと」
マーティン機のレドームが動き出す。索敵の結果、周りには微小な小惑星以外何もなか
った。
「大丈夫です。何もありませんよ」
『よし、それじゃあみんな、帰艦してくれ』
「了解、全機帰艦だ」
5機が反転し、ヴァルミネスへと帰艦し始めた。だが、
「あ、あれ!?ちょっと待って!?」
「どうしたレイニー少尉、何かあったのか?」
「こんな巨大な質量反応、今まで無かったよ!」
マーティン機の広域レーダーに謎の影が映った。カメラを最大望遠にして目視する。そ
こに現れたのは、二倍、三倍、いや数十倍もの大きさのビルギオンであった。
「そんな、どこから来たの!?」
「まさかワープして来たってのか?」
「とにかく、全機攻撃だ!」


ゲストルームのモニターには外の様子が映し出されている。巨大ビルギオンのかぎ爪攻
撃をイカルスはかわし、ミサイル攻撃を仕掛けた。しかし背面はおろか、唯一の弱点で
ある腹部に攻撃が当たってもビルギオンはびくともしない。1機が眼球部分に攻撃をす
るも、まるで効果がなかった。
「くそっ!奴らめ、単体でワープを使えるのか!?」
それを見ていたガルダはモニターの横にある通信機を操作し始めた。
ピリリッ・・・・


ヴァルミネスも必死で攻撃を繰り返していた。
「司令、ガルダさんから連絡です!」
「こんなときにどうしたんだ?こちらに回してくれ」
通信が回された途端、モニターから大声が放たれた。
『司令!自分も出撃させてください!』
「ガ、ガルダくん・・」
『お願いします!このままではやられるだけです!』
驚くウィルの横でダイアナが言った。
「しかし君は民間人、戦闘に参加させるわけには・・・」
「分かった、許可しよう」
「お、おいおいウィル、何言ってんだい!」
「責任は俺が取る。このままやられるよりはマシさ」
『ありがとうございます。司令』
ガルダは深々と頭を下げた。
「彼女達を頼む」
『了解!』
そしてモニター全体が光に包まれた。


「やべえ!ミサイルがもう一発しかねえ!」
ソーラ機はミサイルをほとんど撃ち尽くし、ビームエネルギーはすでに無くなっていた
。ほかの4機も同様の状態であった。ビルギオンは勝ち誇ったかのように6本の足をワ
シャワシャと震わせる。
「こうなりゃ・・・イカルスを奴にぶつけるしか」
『そんな事をしても意味はないぞ!』
「ガルダ!?」
銀色の光がビルギオンの前に出現した。変身したガルダがテレポートしたのだ。ビルギ
オンはそれを気にせず、飛び回るイカルスを執拗に攻撃する。
『さて、あの巨大な体の何処が弱点か・・・』
「おい!落ち着いてないで何とかしろよ!」
ビルギオンはかぎ爪を振り回し、イカルスは唯々逃げ回るしか出来なかった。
『これしかないか・・・みんな、聞いてくれ!』
5人の耳にガルダの声が届いた。
「何だ、何か策があるのか?」
『俺があいつの腹を剣で切る。その傷口にミサイルを撃ち込んでくれ』
「そんな、ミサイルも効かないのに切るなんて」
『とにかくやってみるしかない。行ってくる』
ガルダは剣を出現させ、ビルギオンの懐へ飛び込んだ。
『力を一点集中させろ・・・・やるんだ』
ガルダの闘志を表すかの如く、剣が淡い光を放つ。ガルダは距離をとり、剣を構えてビ
ルギオンの腹に目掛け高速で突っ込んだ。
『うおおーーーー!!』
グサッ! ズサーーーーーーーーーー!
そしてそのまま縦一直線にビルギオンの腹を切り開いた。切り開かれた腹部からは、真
っ黒な液体がにじみ出る。
「・・・!!!」
ビルギオンは身を切られた痛みで苦しみ出す。足を目茶苦茶に振り回し、自分の下にい
るガルダを攻撃しようとする。
『もらった!』
かぎ爪がガルダに迫る。しかしガルダはそのかぎ爪を受け止めた。
『ぬおりゃあぁ!!』
さらに怪力で足の関節を砕きかぎ爪を引きちぎり、それを切り開かれた腹部に突き立て
傷口を大きく広げた。
「!!!!」
ビルギオンは口からも黒い液体を吐き出した。
『みんな、今だ!撃ち込め!』
「ミサイル発射!」
残りのミサイル全てがビルギオンの腹部に撃ち込まれた。傷口に飲み込まれるようにし
て消えたミサイルは、次々に体内で爆発を起こす。
「!!!・・・・!!!!」
爆発と同時に大量のどす黒い液体が噴出する。
「やったあ!」
「やりましたです!」
「やったぜ!」
ビルギオンはしだいに動かなくなった。
「・・・・兄さん、やりましたよ」
「やりましたねイーグレットさん。ガルダさんも、ありがとうございます」
『・・・・・・』
「ガルダさん?」
ガルダは黙ったままだった。
(何を求めて奴は来たんだろう・・・・この船に何があるんだ・・・思い出せそうな)
しかし沈黙は突然破られた。
「うわっ!」
「しまった、ヴァルミネスに向かっている!」
ビルギオンが息を吹き返し、高速でヴァルミネスに向かって突進し始めたのだ。
「まだ動けたです!?」
「ヤバイよこれじゃ」
「急げ!早くあいつを止めるんだ!」
『・・・光が』
ガルダが呟く。その刹那、ガルダはビルギオンを上回る速度で前方に回り込む。
「ガルダさん!まさか盾に?」
「止めろ!それじゃお前が潰されちまう!」
『・・翼が、光が・・・』
フオオオオ・・・・・


「あ、あれは・・・・」
「翼・・・?」
ブリッジのモニターにガルダが映し出されていた。その背中からは翼が、いや違う。光
が蒸気のように溢れ出、あたかも翼のように見えていた。ガルダは右手を開いて前に突
き出し、左手を右手の甲に重ねた。背中の光はさらに輝きを増す。
『仲間を守る・・・絶対に』
眩いばかりの光はやがてガルダの手にも集まり、光の翼と同調して輝く。
『貫け』
カッ!
そして光は手から放たれた。その光はビルギオンの頭部を潰し、装甲を砕き、内蔵を引
き裂き、全身を貫いた。
「はあぁっ・・・・!」
ウィルは思わず息を飲んだ。ビルギオンは光と化し、破片一つ残さず消え去った。ブリ
ッジを沈黙が支配する。
『・・・思い出した』
通信機を通してガルダの声がブリッジに聞こえた。
『自分たちを高みに導く知恵と強さを・・・奴らは求めている。だから戦って強くなろ
うとし、そして知恵を得ようとしているんだ。勉強会なんだよ。この戦いはあいつらに
とって』
「・・・・チームフェザー、及びガルダは帰艦してくれ」
『了解』
ガルダはヴァルミネス後部に回った。イカルスと共にそこから中に戻るのである。
「ウィル」
「何だい?ダイアナ」
「私たちは、とんでもない物を拾ってしまったのかも知れないね」
「でも、彼は敵ではない。それは信じられる」
「アンタがそう言うならそうなんだろうね」
「もちろんだとも」
ガルダは敵ではない。彼の行動でその言葉を信じる者は多くなった。しかし、彼を驚異
の象徴と見なす者もまた増えたのである。


この世界は謎で満ちている。
それは人間もまた然り。
一つの謎が解けたとき、
新たなる謎が産声を上げる。
第五話「安らぎとの出会い」
「みんな、よろしく頼む」

 

 

 

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