第七話「懐かしき輝き」

「スーパーベクトルパアァーーーンチ!!」

きんこんかんこんきんこんかんこんきーんこーんかーん!!

ソーラの怒りの必殺拳が連続でマーティンの脳天に直撃した。

「ごるりんっ!?」

「次また同じような事言ったらこんなもんじゃ済まさねーからな!」

「おー痛いし怖いし、銀河闘士もまっさーおだねコリャ」

「お前何処の芸風だ?」

状況がよく分からないと思うので説明しておくと、食堂で食事をしていたら毎度のごとくマーティンがソーラをからかって痛い目を見たと

ころである。相変わらず二人は(と言うか作者が)読者を置いてけぼりにしている。

「相変わらず騒がしいなこいつらは」

ガルダはすでに呆れかえっている。その横でおやっさんが言った。

「まあそう言うなって、マーティンもソーラもあれで仲はいいんだぜ」

「それは何となく分かりますけど、あのままじゃいずれマーティンが(脳に)異常を来すと思うんですけどね」

「俺も同感」

その時、艦内放送が流れてきた。

『チームフェザー、ブリッジに集合』

「あれ?何だろ」

「ひょっとして・・・あれか!?」

「そうか、そうだよ!」

ソーラとマーティンは急いでブリッジへと向かった。

「あれ・・・って?何ですか」

「ブリッジに行けば分かるさ。まあ俺もだいたい予想はできてるがな。お前も急いだ方がいいぜ」

「分かりました。ごちそうさまです」

ガルダも食事を片付けてブリッジへと向かった。

 

 

ガルダがブリッジに着くと、すでにチームフェザーのメンバーが揃っており、前方のモニターを見ていた。

「やあガルダ、見てごらん」

「あれは・・・・」

「あれが惑星ネスティア、俺達の故郷さ」

ウィルが指差したモニターには、蒼く輝く惑星が映し出されていた。

(あれがネスティア・・・皆の故郷)

ガルダはその映像に懐かしさを感じるとともに、奇妙な感覚を覚えた。

「蒼いん・・・・ですね」

「ん?ああ、そうだ。ほとんどが海だからね」

(ネスティアが蒼い事を知らないのか?いや、それとも覚えていないのか?)

二人の周りでは、乗組員達が喜びを分かち合っていた。

「やったぜ、ようやく家族と会える」

「長かったなあ」

その気持ちはチームフェザーも同じであった。

「はあ、私達には帰れるところがある・・・こんなに嬉しい事はないですぅ」

「サンディ、その台詞ボクが言いたかったのにずるいよ」

「こんなときぐらい譲ってやれよ、減るもんじゃねえし」

(兄さん、私達は帰って来ました。見てくれていますか?)

「・・・・・・ふふ」

仲間達の喜ぶ顔を見て、ガルダの顔も自然と笑みを浮かべていた。

(家族か、俺の家族も生きてたら喜んでくれただろうな・・・・え!)

ガルダは自分の思った事が信じられなかった。自分の家族が死んでいるというのだ。

「そんな、え!?」

混乱したガルダは怯えるようにブリッジを出て行った。

「ガルダ?」

喜びに沸くブリッジでその事に気がついたのはマーティンだけであった。

 

 

「はあ、はあ、そんな、そんな事が」

ガルダは落ち着こうと誰もいない書庫にいた。書庫と言っても書物はデータ化されている為、ここにあるのはデータが保存されている数百

種類のメモリーだけである。

「俺の家族は誰がいた?両親はどうした?じいちゃんは・・・じいちゃん?」

何かが分かりそうな気がした。自分の事、家族の事、そして全てが。

「ガレリアント・・・」

「ガルダいる?」

「え、ああマーティンか?」

マーティンが書庫へと入ってきた。何故か悲しそうな顔をしている。

「どうしたんだ?もうすぐ帰れるのに、そんな顔して」

「ごめん!」

マーティンが頭を下げた。ガルダはその理由が分からない。

「何で謝るんだ?」

「だって、ボク達ガルダの気持ちも考えずに騒いじゃって。ガルダは家族の事覚えてなくて寂しいはずなのに、傷つけちゃったから。だか

らガルダここにいるんでしょ?」

「・・・はは、そりゃ考え過ぎだ」

「え?」

「お前達が嬉しくて騒ぐのは当たり前だ。みんなが笑っていられるんなら、むしろその方が俺も嬉しいさ。お前が謝る必要はどこにもない

「じゃあ、どうしてここにいるの?」

「・・・・・・・」

ガルダは迷った。こんな事を話して良い物だろうか。だが自分を心配してくれているマーティンにこれ以上迷惑はかけたくはなかった。

「俺の家族の事なんだ」

「思い出したの!?」

「真実なのかは分からない。いや、真実でなければいいんだが・・・俺の家族が、もう全員死んでいる。そんな気がしたんだ」

「嘘・・・」

「分からない、分からないんだ」

ガルダは棚を背にして床に座った。マーティンもその横に座った。二人は何も話さぬまま時間が流れた。やがてマーティンが口を開いた。

「ガルダ、家族に会えないのって寂しいよね」

「寂しくないと言えば嘘になるな。生きてるのかも分からないし。隊長に偉そうな事言っておきながら、情けないな」

「じゃ、じゃあさ」

何故かマーティンは緊張している。そして思い切って言った。

「ボクが家族になるよ、兄さん!」

「・・・へ!?」

「いや、だってボクが姉さんじゃおかしいし、ガルダが父さんじゃもっとおかしいし、やっぱり兄さんが一番ぴったりだと思ったんだ!」

「ぷっ・・・はははは!」

ガルダは笑った。今まで悩んでいたのが嘘のように笑った。

「わ、笑わないでよ。一生懸命考えたんだから」

「悪い悪い、しかしそう来るとは思わなかったんでな」

マーティンはマーティンなりに自分の事を考えてくれている。ガルダはそう実感した。

「それじゃ、マーティン。俺からも聞くけど」

「いいよ兄さん、なーに?」

「お前の家族の話、聞かせてくれないか?」

「そーだね、じゃあまずはパパとママの話からね」

マーティンの両親は軍とはまるで関係ない仕事についており、父親は作家、母親はファッションデザイナーとのことであった。

「じゃあ、どうしてマーティンは軍に入ったんだ?」

「それはね、姉ちゃんと会ったことと関係あるんだけど・・・・」

 

 

かつて月に存在した都市ローカ、今から五年前までそこにマーティンは暮らしていたのだ。その頃、惑星ネスティアで最大の軍事力を持つ

テーバ帝国、つまりマーティン達の故郷では、ある民族同士の紛争が起こっていた。住民の何人かは紛争がこちらに飛び火しないかと不安

を感じていた。やがてそれは的中する事になる。

「うぇ〜ん・・・うぇ〜ん」

人のいなくなった町で泣いているこの少女こそ、当時10歳のマーティンである。

一体何が起こったのか。

「ママ、パパ・・・何処にいるの?」

民族紛争はやはりローカにも影響を及ぼしたのである。突然武装した集団が都市を襲撃し始め、都市にいた住民の多くは宇宙船に乗り脱出

した。だが、マーティンは運悪く両親とはぐれてしまい、そして置き去りにされたのだ。武装集団も目的を達したのかすでに引き上げてい

た。

「うあーー!!」

マーティンの鳴き声は大きくなり続ける。だがその声は一瞬で止まった。

「どうした!」

「ひっ!?」

マーティンが座り込んでいた崩れかけの壁から声がした。

「大丈夫か?」

その向こう側から現れたのは赤い髪の少女。そう、11歳のソーラだ。ソーラもこのときローカに来ていたのだ。

「うぁうぁ・・・・」

「おい、しっかりしろよ。何もしねえって」

「ほ、ホント?」

「本当だよ。とにかくここは危ねえ。別な場所に行こうぜ」

「う、うん」

マーティンは恐る恐るソーラが差し出した手をつかんだ。

「俺ソーラ、お前は?」

「わたしマーティン」

 

 

「それで、助けが来るまでボクと姉ちゃんは一緒に暮らしてたんだ。一ヶ月くらいして救助が来て、やっとパパとママに会えたんだ。二人

ともすっごく泣いてたよ。置いてけぼりにしてごめんって」

「そんな事があったのか」

マーティンの話は終わった。

「ボク、そのとき思ったんだ。世界は無理でもせめて自分の住んでる町の人たちでも助けられるようになりたいって」

「だから軍に入ったというわけだな」

「そ、姉ちゃんも入ってるとは思わなかったけどね。きっと運命なのだわさ」

「・・・・・(だわさ?)」

ガルダは何とも形容しがたい物を見るような目になった。

「ちょっと兄さん、変な目で見ないでよ。確かに最後のセリフはフザケ過ぎかなと思うけどさ」

「はははは・・・よし、そろそろ戻るか」

「あれ、兄さん大丈夫なの?」

「ああ、お前のおかげで随分楽になったよ。ありがとう」

「そんなぁ、それほどでもない、かな?」

マーティンは照れながら頭をかいた。

 

 

「あれ?お二人とも何処に行ってたですかぁ?」

サンディがいつのまにかガルダとマーティンが戻ってきたのに気がついた。

「何でもないよ。ね、兄さん」

「あ、ああ」

「「「「兄さん!?」」」」

驚いたのはサンディだけではない。チームフェザー全員の表情が一瞬にして変わった。

「どーゆーことですぅ?」

「マーティンさん、ガルダさんと何してたんですか!?」

「ガルダ、お前そんな趣味あったんだな」

「・・・・・・・ふぅむ(ジト目)」

(完全に勘違いされている。やっぱり許可しないほうが良かったか)

「うぅむ」

ガルダは頭を抱えた。

「兄さんどしたの?」

悩みの元凶はのほほんとしていた。そのとき、ケイトが言った。

「艦長、通信が入っています」

「通信?何処からだ」

「このコードは・・・あ!本星の軍本部からです」

「何、繋いでくれ」

モニターに映像が映し出される。そこに映っていたのは長髪の男性の姿だった。

「やあ、ウィリアム。無事なようだな。元気だったか?」

「ジョルディ皇帝陛下!?」

ウィルは慌てて姿勢を正して敬礼をした。

「ははは、止してくれウィリアム。別に知らぬ仲でもないのだからな」

「いえ、そんな」

「怪我もないようで、よく戻ってきてくれた」

「もったいないお言葉、痛み入ります」

どうやら二人は知り合いらしい。ガルダはイーグレットに聞いた。

「あの方が皇帝陛下なのか?」

「ああそうだ、まだ司令と変わらぬ年ではあるが、若くして亡くなられた前皇帝の跡を継ぎ、三年ほど前に即位なされたのだ」

確かに見た目からするとウィルと同じくらいの年齢であろう。しかしそれも気にならぬほど、皇帝としての威厳を漂わせている。

「君たちから送られてきた情報を見て驚いたよ。まさか未知の生命体に襲撃されるとは」

「我々も今こうして生きていますが、運が良かったとしか言いようがありません。それと陛下、クロストから脱出した住民達はそちらに戻

っていますでしょうか?」

「ああ、大多数はこちらに戻ってきている。残る住民達も本星の近くにある衛星基地に保護されたようだ。心配ない」

「ありがとうございます!」

ウィルが深々と頭を下げる。その顔に満面の笑みを浮かべている。他の乗組員達もそれを聞いて安心した様子であった。

「ところでウィル。その敵、ビルギオンに関する情報を提供してくれた民間人とは誰なのかね?」

「はい、ここに」

ウィルに招かれてガルダがモニターの前に立った。

「君たちの話では、彼が銀色のロボットに変身して戦ったと聞いている。本当かね」

「それは・・・」

「本当です。陛下」

パアァァァ・・・・・

ウィルが話す前にガルダが言い、そして突然光を放って変身する。流石に皇帝と言えどもこれには驚きを隠せなかった。

「おおっ!!」

「これで信じていただけましたか」

シュウシュウシュウ・・・・・

そしてすぐに銀色の装甲が消え去り、ガルダは元の姿に戻った。

「君、名前は?」

「ガルダ、ガルダ・ガレリアントです。もっとも本名ではなさそうですが」

「確か記憶喪失だそうだな、今でも何か思い出せないのかね?」

「いいえ、まだ詳しい事は何も」

「そうか、では本星に帰還次第、君を検査したいのだがよろしいか?」

「かまいません、俺もこの能力についてもっと詳しく知りたいと考えています」

「分かった。君の協力に感謝する。それとウィル」

ジョルディ皇帝がウィルの顔を見る。

「何でしょうか?」

「・・・本当に、よく帰ってきてくれた。流石だな」

「仲間達が頑張ってくれたおかげですよ」

「君らしい答えだな。ではまた会おう、待っているぞ!」

通信はそこで終わった。会話を聞いていたダイアナは不思議そうな顔をしている。

「ウィル、アンタって陛下と知り合いだったのかい?」

「ああ、子供のころに陛下の遊び相手をしていた事があってね。今でも時々手紙を頂くことがあるんだ」

「ふ〜ん、遊びって言っといて、本当は陛下の城を抜け出す手伝いでもしてたんじゃないのかい?」

「いや、俺がやったのは出入り禁止の区域にどうやって忍び込むかって事だったな。あと厨房から料理をこっそりつまみ食いとか」

「駄目だコリャ」

ダイアナは呆れ返った。どうしてこんな男が自分の上司になったのか不思議で仕様がないらしい。ソーラやイーグレットも同感のようだ。

「ウィルの奴、昔も今も変な奴だったんだな」

「やれやれ、恥ずかしい事だ」

「ちょっと、酷いな君たち!」

ウィルの抗議は当然の如く聞き入れられていない。

「うむむ、あっ!!」

と、今まで黙っていたマーティンが声を上げた。ガルダはマーティンを見る。

「どうしたマーティン?」

「ひょっとしたら、ひょっとして、ひょっとするかも」

句読点がなければ確実に読みにくいセリフを言いながらマーティンは嬉しそうな顔をしている。

「何がひょっとするんだ?」

「兄さん、もしかしたら兄さんは異世界から来たのかも知れない!!」

「「「「「な、なんだってーーーーーー!!!」」」」」

とりあえずチームフェザーの全員が驚き、そして一瞬で白けた。

「お前、話がいきなりSFからファンタジーになってるぞ。そういえばこの小説のジャンルはそもそも何だったけな?」

マーティンはそんなガルダの話を全然聞いてない。

「いや〜、ボク前々から兄さんが欲しいと思ってたんだよね〜。その思いがどういう作用をしたのか知らないけど、それで兄さんが来たん

だよ。間違いない!」

「ネタとしては使い古しっぽいな。じゃあ俺はガンダールブとでも言いたいのか?」

ガルダは白けながらも言った。マーティンは尚も想像を膨らませる。

「うむむ、兄さんはサイトでいいとして、ボクはルイズって感じじゃないからタバサってとこかな(髪と眼鏡以外全然似てないけど)。サン

ディだったらシエスタだし、リーズはモンモ・・・あ、モンモンは姉ちゃんか!」

「?」

ソーラが頭に疑問符を浮かべて首を傾げた。

「なあマーティン、モンモンってあの香水の奴か?俺は似てねえと思うけど」

「いやいや、そっちじゃなくて"モンモンモン"のモンモン(お猿さん)だから。あははは」

その瞬間、ソーラの中のサイヤ人が大猿に変化した。

「鉄拳オーラギャラクシィィィーーー!!」

ゴシカアァン!!

「ちゅぶ!?」

更に止めの一撃。

「ミラクルビッグブロォォォーーー!!!」

ばよえーん!!

「ずのーーーーー!!!?」

 

 

・・・・宇宙は真空なので音は響かない。しかし、その絶叫は全宇宙に響き渡るような大きさであったという。

 

 

大切な家族、大切な友人。

大切な仲間、大切な場所。

彼女を待っていたのは選択の時。

選べる道は一つ。

第八話「緑の願い」

「私には、守りたい物があるんですぅ!」

 

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